暴走書家

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『幸せのカタチ-2-』

 俺は、いわば捨て子だった。
 産まれて間もなく捨てられていた。
 幸運にも発見されたのが早かったので、置き去りにされたまま死ぬ事はなかった。
 何も、身元を示すようなものが残っていなかったので、捜索しても、手懸りはなかったし、名乗り出てくる親もいなかった。

 戸籍もなかったので、俺が発見された市長の職権によって、戸籍及び、住民票が作成された。
 姓は首長の姓を拝借する事もあるようだが、俺の場合、俺の捨てられた場所、その木の根元から『橘』という姓がつけられた。
 そして、そんな状況でも、少しでも幸せに生きることが出来るように『幸生』と名付けられた。

 乳児院で3歳まで育った後、児童養護施設へと移管された。
 養子縁組などで、里親の元へ引き取られて行く場合もあるが、俺の場合は、そうはならなかった。
 そこには、色んな事情を抱えた子供たちがいた。
 やむをえない理由で、育てられなくなった子供や、虐待されている子供もいた。
 いずれにせよ、普通の家族と言う『カタチ』の元で育つ事の出来ない子供達だった。

 児童養護院にいても、場合によっては、そこで、虐待や児童間でのいじめが起こったりすることもあるようだが、俺の場合は、それはなかった。
 義務教育を終え、特別育成費の支給によって公立高校へと進学した。
 少しでも、俺の存在を認めて欲しい。
 だから、頑張って勉強したし、成績もかなり良かった。

 けれど、やはり金銭面から、大学進学は出来なかったし、特に、大学に進んでやりたい事とかそういうものもなかった。
 より、自分の存在を世間に認めてもらいたいというのもあったのだろう、全くその存在は知らないけれど、その面では感謝しよう。
 恵まれた体躯とルックスで、モデルへの道を歩み始めた。

 始めから、そんなに仕事が与えられるわけではない。
 けれども、少しずつだけれど着実にモデルとしての俺を認めて貰える様になっていった。
 『名声』という『カタチ』。
 それが、手に入るようになった。

 それから、『金』という『カタチ』。

 世間的に見たら、俺の生まれは『不幸』なのかもしれない。
 けれど、俺は、それを『不幸』だと感じてこなかった。
 ただ、『幸せ』というものもわからなかったが。

 だから、俺は、世間が描く『幸せ』に拘った。
 『幸せ』に『生きる』事。
 どうやったら、俺は、『幸せ』になれるのだろうか。

 もし、俺がゲイでなかったら、そうやって育ってこなかった『家族』という『カタチ』を求めていたかもしれない。
 ゲイである事、オトコしか愛せない事、それがわかっていた。
 それなのに、無理して、結婚して、子供を作ろうとは思わなかった。
 俺は、当然、オンナを愛せないし、恐らく、子供も愛する事が出来ないだろう。

 いや、本当は、『愛する』という事自体が微妙だったのかもしれない。
 だから、ずっと、望みながらも『恋人』という『カタチ』を持てなかったのだろう。
 望む、と言っても、俺自身、その感覚がよくわからないから、世間が羨むもの、その『カタチ』を追っていた。

 その『カタチ』を得る事が出来たら、俺は『幸せ』になれるかもしれないと思った。
 トップ・モデルとして、名を馳せる事が出来た俺。
 幸運にも『名声』と『金』を得る事が出来た。
 特に、拘りがなかったけれども、『金』を元手に、俺が住む場所、それを、俺の物として、マンションを購入した。
 そうやって、『住処』としての『カタチ』を手にする事が出来た。

 そして、『恋人』としての、雫。
 忙しい中での、お互いの逢瀬に、特に不満はなかった。
 そんな雫に抱かれる事、抱く事。
 『恋人』と『セックスをする』という『カタチ』。
 それは、今まで、他のオトコと『セックスをする』という事と、同じではないと思った。

 『セックスをする』という『カタチ』自体、変わった事ではない。
 『セックス』によって、同じように『快感』を得ても、どこか違っていた。
 『カラダ』の『相性』とか、そういう問題ではないと思う。
 いや、勿論、『相性』も良かったのかもしれないが。
 多分、相手が、雫だったから。
 他のオトコでは駄目だったと思う。
 例え、『恋人』にと望まれても。

 別に、雫との『セックス』に溺れていた訳ではない。
 それは、『金』にしても『名声』にしても同じ事。

 雫に求められて、俺も、雫を求める。

 雫の唇が、俺の唇と触れ合って、その感触を確かめるようにしっとりと重ねられ、雫の首に、腕を回し、より近くに引き寄せる。
 重ねられるだけだった、口付けが、深くなっていく。
 開いた唇から、舌を差し入れ、絡み合った舌が、その触覚を、味覚を味わっていく。

 雫の指先が綺麗だと思うのは、惚れた欲目なのだろうか。
 別にそれでも構わないのだが、業界で、いろいろな人と会ってきたけれど、それだけではないと思う。
 その指先が、優しく器用に、俺の肌に触れてくる。

「…ぁ……は……んん……あ……」

 刺激され、敏感になった乳首を摘み上げられる。
 そこに通っている神経の存在を、快感として受け止める。

「は……ぁ……イイよ……雫……」

 まだ、触れられていないペニスも、勃ち上がってきている。
 俺の欲望は、忠実に雫を求めている。
 そして、そのペニスを直に触れられて、その手で扱かれてくる。

 俺も、雫のペニスに手伸ばし、同じように雫も求めてくれているのだと言う事がわかる。
 お互いの手の中で、お互いの手によって、ペニスの硬度が増してくる。

 雫が空いた方の手で、俺のアナルに触れてくる。
 ローションを使って、指よりも確実な物を受け入れられるように解されていく。
 けれども、その指の存在も、やはり、気持ちがいい。

「んん……ぁ……雫……あ……」

 ペニスを受け入れて、アナルで快感を得られる事を俺のカラダは知っている。
 知っている。
 どこでだろう。
 頭で、それとも、カラダで?
 ああ、でも、それは、今はどうでもいい。
 どちらでも、変わりはしないのだから。

「雫……もう……イれて……」

 雫が、ペニスにゴムを装着して、俺のアナルと、雫のペニスにローションを垂らして、潤滑にペニスを挿入してくる。
 挿入される事で、その先にある快感に期待して、感じてアナルを締め付ける。

「幸生……」

 名前を呼ばれて、抽挿が開始される。
 アナルの内壁の感じる場所を目掛けて、的確にそこを突き上げてくる、雫のペニス。

「…ぁあ……イイ……あ……もっと……っ…!」

 望めば、雫が与えてくれると、そう知っているから。
 そして、きちんと、その求めに実際に応じてくれる雫。

「あ……んん……ぁ……雫……雫……」

「……幸生……」

 お互い、射精の時が近付いているのがわかる。
 その時を迎えようと、行為が激しくなっていく。
 それから、やがて、快感の中で吐精した。

 オトコ同士で、どうして性欲が芽生えるのかわからない。
 実際に、性欲があり、セックスをしても、そこに意味があるのだろうか。
 わからなくても、欲してしまうのは、何故だろう。

 雫に、求められて、雫を抱いていく。
 俺の愛撫で、快感を得ている雫。

 この快感は、一体どこからやってくるのだろう。

 けれど、やはり、欲望は芽生え、勃起したペニスを雫のアナルに挿入していく。
 抽挿して、締め付けられて、確かに快感を得ているのだけれども。
 雫も、同じように、俺のペニスを受け入れて、感じているのだけれども。

「ああ……イイよ……幸生……」

 雫は何を見ている?
 この行為の中に。

 ああ……でも。
 そういえば、オトコとオンナでも、生殖とは離れた所で、セックスをしている。
 人間は、他の動物とは違う。
 季節を問わず、セックスを行うのは、人間だけなのだ。
 その欲望が芽生えるのも。
 俺が、ゲイである事はわかっているし、認めている。


 そして、その行為が、生殖に結びついたとしても、俺のように捨てられる子供はいる。
 そんな、俺の存在の『カタチ』は、何なのだろう。

 もし、雫にそれを問うたら何と答えるだろう。
 それから、『幸せ』に『生きる』とは。
 そこに、どんな『カタチ』が存在するのだろう。



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『幸せのカタチ-1-』

 『幸せ』か。
 ふと、雫は、昔の事を思い出していた。
 あれは、まだ、バーを開く前の事だ。
 一体、幾つまで若いのかと問われても、疑問に思うのだが、やはり、あの時は、少なくとも今よりは若かった。
 そう、全てにおいて。
 今は、もう何も残っていない。
 彼から、そう、橘幸生から送られてきた手紙も、燃やしてしまったから。

***************************


 俺が、彼に初めて会ったのは、仕事がほぼ順調に進んできた頃だった。
 主に、国内の有名ブランドのファッションモデルとして、コレクションのショーやファッション雑誌に身を飾っていた。
 彼を見たとき、彼自身も、モデルなのだろうと思ったのだが、実際は違っていた。
 俺が所属していたモデル事務所の社長と知り合いなのだと言う。

 俺自身が、そういった業界に身を置いているから、外見として、それぞれ個性はあるものの、整っている人間には慣れていた。
 それでも、彼に惹かれた理由、それは、彼が、ゲイである事を、オープンにしていたからだろう。
 俺自身が、ゲイである事、それは、暗黙裡にあったが、彼程ではない。

 当時、というか、それまでに於いて、ほぼ特定の相手と付き合う事はなかった。
 恋人が欲しくない訳じゃない。
 寧ろ、逆だった。
 本当は欲しかった。
 ただでさえ、業界に身を置くと、その恋愛は、マスコミの格好の題材となる。
 しかも、ゲイである事は、それ以上に興味本位の対象にしかならないだろう。
 しかし、それでも、『恋人がいる』と言う、『幸せのカタチ』が欲しかった。

 調度、事務所に用事があった時に彼がいて、社長に紹介された。

「こんにちは。始めまして。私、宮下雫と言います。橘幸生さん、ですよね。お会い出来て光栄です。」
「こちらこそ、はじめまして。」

 社長は、ゲイである事をオープンにしている、雫の事も知っていたし、暗黙裡にだが、俺がゲイである事を知っていた。
 お互いが、ゲイである事を知った後、積極的だったのは、雫の方だった。

「お付き合いしてる人とかいるんですか?」
「いえ。残念ながら。」
「もし、良かったら、付き合ってもらえませんか?」

 俺に、断る理由もなかったし、実際、雫に惹かれていたのでその場で、OKした。

「宮下さんは……」
「雫、で構わないです。私も、幸生って呼んでもいいですか?」
「あ、ええ。」

 どうしてそこまで、ゲイだっていう事をオープンに出来るのか、不思議だった。
 でも、雫は、自分がゲイである事を公言しているので、そうではない相手に対して、その関係が露見しないように、気を付けてくれていた。
 ゲイである事を気にせずに付き合ってくれる友人もいるけれど、そうでない人間もいる。
 その事をきちんとわかっている。
 いつからなのか、と尋ねてみたら、大学に入学した時から、と言っていた。

 俺と、出会い、付き合い始めた時、雫は、28歳だった。
 俺自身は、雫より2歳年上の30歳。

 雫は、色々な面で、付き合いが広いようだし、その年齢層も、幅広いから、知識や教養といったものは、かなり豊富だった。
 そして、その考え方も、かなり柔軟だった。
 雫の方が、2歳とはいえ年下なのだが、内面としては、上なのだと思う。
 何故そこまで、広い付き合いがあるのかというと、雫の以前から親しくしている知り合いが、かなり年上で、社会的地位が高いから、その知り合いのつてで、という事だった。

 俺のマンションも広いが、雫の住んでいるマンションも劣らぬくらい広かった。
 本業よりも、サイドビジネスからの収入が大きいという。
 1つ言えるのは、雫は必要以上のものを置かない、趣味は趣味で、それにかなり拘りがあるようだが、俺の部屋は、本当に必要最低限のものしかない。

 俺は、仕事上、食事にはかなり気を使っていた。
 雫は、そこのところもよくわかっていたようだ。
 その上で、雫は、俺と共に食事をする。
 雫の作る料理は、バランス面においても、味付けにおいても、文句の付けようがなかった。
 元々、色々工夫して、料理をするのが好きなのだという。

 雫と付き合うようになって、雫の家で過ごす事が多くなった。
 そして、カラダを重ねる機会も。

 ベッドの上で、触れ合っていた唇が、濃密に絡み合っていく。
 急いている訳ではなく、丁寧に深く口付けられる。

「…ふ……ん……」

 舌を吸い上げられて、思わず喉が鳴った。
 口腔内を堪能した後、それでも尚、名残惜しげに、離れていく唇が、指と共に肌に降りてくる。
 首筋をなぞり、指が、舌が、肌の熱を高めていく。
 乳首を摘み上げられて、その刺激に敏感に反応する。

「……ん……ぁ……」

 その快感の反応を引き出すように、更に触れてくる、唇と指。
 摘まれて、吸い上げられて、軽く歯を立てられて。

「は……んん……ぁ……ん……」

 下肢に伸びた手が俺のペニスに触れてくる。
 そこはもう、勃ち上がりかけていて、手で扱かれる度に硬度を増していく。
 唇もペニスに達して、咥えられる。
 勃起したペニスをその口淫によって、更に昂ぶらされる。

 俺のアナルに触れた指が、ローションの滑りを借りて、挿入されてくる。
 そして、アナルの裡を探るように入り口を解される。
 裡を探っていた指が前立腺に触れ、快感が漏れそうになる。

「あ……は……ぁ……んん……」

「幸生……イれるよ。」

「ん……」

 雫のペニスが俺のアナルに挿入されてくる。
 一旦、奥まで挿入すると、少し、カラダが慣れるまで、そのまま下肢は繋がったまま口付けを交わした。
 それから、抽挿が開始される。

「…ぁ……んん……あ……は……雫……」

 徐々に突き上げるスピードを増しながら、俺の感じる場所を擦り上げてくる。

「雫……あ……ん……イイ……っ……!」

 ペニスの先端から、先走りが溢れ始め、限界が近付いている。
 雫は、それを促すように、ペニスに触れてくる。
 俺も、雫の射精を受け止めようと、アナルを締め付ける。

「…は……ぁ……雫……イく…っっっ!」

「ん……幸生…っ…!」

 絶頂を迎えて、一時の休息に入る。
 呼吸を整えながら、落ち着いてくると、再び唇が重ねられてくる。

「幸生も、抱いてくれるでしょ?」

 雫が求めてくれるなら、俺も、それに答えない訳がない。
 今は、それに答えられるから。

 そうして、雫のカラダを愛撫していく。
 昂ぶってくるお互いのペニスを扱き上げ、その快感に身を任せる。

 そして、雫のアナルに、俺のペニスを挿入して、感じられるその場所を、お互いに刺激する。

「…あ……は……あぁ……幸生……」

 雫に、俺のその名前を呼ばれる。
 そうやって求められて、精を放った。

 雫。
 雫はね、何となく、他の誰も見ない俺の事を見てくれていると思うんだ。
 多分ね、それは、気の所為じゃないと思う。
 何が雫をそうさせているのかはわからない。
 でも、問わない。
 俺からは決して。
 だから、きっと、雫も、それを話さない。


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『星降る言葉-7-(完)』

 映画の製作発表を終えて、もうすぐいよいよ始まるのだという実感が湧いて来た。
 主要な3人の役者の中で、俺が一番若い。
 年齢をとってもそうだし、役者経験としてもそうだ。
 一役、一役をこなしていく事は、役者を続ける上で、勉強になるのは当たり前の事だし、これが、最初だとも言わないし、最後だとも言わないけれど、俺にとって、1つの大きな山になることは間違いないだろう。
 少なくとも、俺は、そう思っている。

 相手の女優とも、その夫役の俳優とも少し、話を交わした。

 女優は、これだけ若くて、カッコイイ男に、気を狂わせるほど惚れ込ませられるなんて、女冥利に尽きるわね、と言っていた。

 夫役の俳優の方は、実際結婚していて、子供もいる。
 俳優として立派に仕事をこなしている人だとは思うけれど、家に帰ると、奥さんに頭が上がらないらしい。
「人間として、一皮向けた女性は強い。男なんて、太刀打ちできないよ。よく言われるのは、出産時の痛み。あれを乗り越えられる男はいないだろう。そんな機能自体ないけどな。お互い、捨てられる者同士だけれど、頑張ろう。実際に、私は、本当に妻に捨てられないように気を付けないとな。」
 そう語っていた。
 俺にも気をつけるように、と助言してくれた。

 これから、一緒に仕事をしていく仲間。
 第一印象として、悪くはなかったようだった。

 監督やプロデューサーとも再び挨拶を交わした。
 そして、成澤とも。

 その場がお開きになって、それぞれ、別れていったけれど、その後、もう何度目になるだろう、成澤の家に行った。

「いよいよですね。」
「ええ。現場に立ったらもっと違うでしょうけれど、あれだけの関係者と顔を合わせれば、やはり、そういう気分になりますね。」

「ねえ、成澤さん。もし、もしですよ。青年の願いが叶って、それ程恋焦がれた女性と結ばれたとしたら、その関係は、続くと思いますか?」
「さあ……どうなんでしょうね。その熱い想いが、続くかもしれませんし、穏やかな愛情に変わっていくかもしれませんね。もしかしたら、もっと、違う絆で結ばれるかもしれませんし。続いていくとしたら。」
「恋は一瞬の幻想に過ぎないのではないかと、感じてしまうんです。」

「一瞬の幻想。確かにそういう部分もありますね。生きている事自体が幻想のようなもの。その中での人の、想い。そう、例えば、恋。感情は、永遠ではあるとは言えないけれど、移り変わる中で、何か別の想いを抱いているのではないでしょうか。」
「恋じゃなくなっても、何かしらの感情が、ココロに残り続ける、と。」
「ある二人の関係性において、『恋』が『愛』に変わる瞬間。そして、その『愛』がまた何か違うカタチに変わる瞬間。その瞬間瞬間を捉えることができなくとも、自然と、二人の間で時が流れていくかもしれません。」

「『恋』でも、『愛』でもない別のもの……」
「そのそも、『愛情』と言うものも、とても、色んなカタチを持っていますよね。恋愛関係における『愛情』も、親子の間にある『愛情』も。そして、人間ではなく、何か、物に対する『愛情』も。」
「物に対する『愛情』。『愛情』を込めて花を育てる、とか言いますよね。ペットに『愛情』を注ぐ人もいますし。そんな花が、きれいに咲いてくれたら嬉れしいでしょうし、ペットが懐いてくれたら嬉しいでしょうし。」

「もちろん、見返りがあったら嬉しいでしょう。そういう場面を想像して、『愛情』を与える。まあ、見返り、と言っても、その人それぞれでしょうがね。ただ、単純に『愛情』を注ぎ続けること、それが出来ることも、また嬉しかったりします。」
「成澤さんは、そういうのがあるんですか?」
「そうですね。言葉に……でしょうか。小説を書かれる方は、特に、かもしれません。その人達が、紡ぎあげる、言葉の1つ、1つに、それぞれ、想いを込めます。何気ない単語でも、そこに書き込んだからには、作者にはそれなりの想いがこもっていると思います。読む側が、自然と受け流してしまう単語でも、作者にとっては、その作品にとって、欠けてはならないものなのです。深い意味なんて、ないかもしれないです。けれども、必要なのです。」

「脚本を書かれる時だってそうでしょう?」
「もちろんそうですよ。ある人物が話す言葉、1つ1つをとっても、それを大切にしたいです。長い台詞でも、たった一言でも。どれだけの単語が、この世にあるでしょう。日本語だけに限ったとしても。同じ1つのものを指す場合でも、複数の単語があります。少しずつ、それはそれで微妙にニュアンスが異なりますが。それを使い分ける時、どう表現したら、一番しっくりくるか。言葉の数を例えるなら、砂漠の砂のように、夜空に瞬く星のように。」
「数え切れないほど沢山ありますね。無限なわけではないけれども。」

「ええ。そして、私が選んだ言葉を、実際に川島さん達、役者さんが、もっと幅広いものに変えてくださる。」
「演じて、表現することによってですか?」
「その声のトーン、言葉と言葉、会話と会話の間合い、その時の表情、その全てが、観る人達に、降りそそいでいくのです。」

 その大切に書き出された台詞を、丁寧に読めばいいわけじゃない。
言葉に合わせて、その時の、演じている人物が、何を思っているか、何を感じているか、それを解釈し、口から発する。
 そしてまた、役者にとっては、台詞を話しているときだけが全てではない。
動くにしても、じっとしているにしても、カメラが回っている間は、演じ続ける。
そうする事とによって、より、その世界は広まっていく。

「成澤さんは、言葉を大切にされていらっしゃいますけれど、言葉を用いなくても、繋がっていける関係は、あると思いますか。」
「そういう場合もあるでしょうね。言葉なんて、必要ない時も。でも、やはり、言葉がなければ、伝わらないこともあると思います。もちろん、言葉にしたからって、完全に伝わるわけではありませんが。」

「成澤さん、俺は、ずっと怖かった。もし、言葉にして、拒否されたらどうしよう、と。でも、それでも、言葉にしなければ、始まらないんだろうなって思いました。……俺は、成澤さんが、好きです。」
「川島さん……」
「この映画の話を持ちかけられたとき、成澤さんが、俺を起用したいと望んでいると知って、貴方に興味を持ちました。本来なら、それだけで終わっていたかもしれません。でも、実際、お話をさせていただいて、貴方に惹かれていくのがわかりました。カラダも重ねて、その後も、色々、お話をさせていただいて、どんどん、惹かれていって、やはり、貴方の事が好きなんです。ドラマで、色んな愛の台詞を囁いてきたけれども、今の俺には、こう表現する事しか出来なくって、精一杯の、気持ちなんです。」

「私にとって、川島さんは、ずっと、別世界の人で、憧れの存在でした。実際映画を一緒にお仕事させていただくとしても、それは、大して変わらないだろう、と。川島さんが、ゲイだとわかって、私に興味を持ってくださって、色々お話をさせていただいても、それ以上の、関係を望むまいと思っていました。……私も、川島さんの事が、好きです。本当にシンプルな言葉だとは思いますけれど、それが……一番嬉しいです。」

『好きだよ』『愛してるよ』その使い古されたシンプルな台詞でも、こんなにも、ココロに響くものなのだ。
星の数ほどある言葉の中で、選ばれた言葉。
シンプルだからこそ、余計な装飾を持たずに、すっと、ココロに入り込んでくるのだと。

もちろん、それでも、人々は、様々な愛の台詞を考えるだろうが。
それもまた、言葉という文化を生み出した人間の(さが)なのだろう。

「成澤さん。この気持ちが、恋なのか、愛なのか、どんなカタチを今しているのかわかりません。それでも、受け入れてくださいますか?」
「私は、どれだけ短い時間でも、川島さんと、同じ時を過ごせるのなら、その時を、大切にしたいです。」
「恋人として、一人に人間として、貴方と共に生きていきたいです。」
「川島さんに、そう言って頂けるなんて、夢みたいです。」
「そんな、俺こそ、夢を観ているようで。」

 それでも、夢なんかじゃない。
 こうして二人、今目の前にいる。
 人生自体が、夢、幻だとしても、それを、共有できるなら。

「夢じゃない証拠を、確かめてみますか?」

 そうして、また、カラダを重ねる。
 お互いの気持ちを、その存在を、より深く刻む為に。

 求め合う口付けも、絡みあう舌も、今、その為にあるのだと。
 息継ぎをする間も惜しいほど、激しく口付けあって、それでも、足りないくらいで。
 けれど、それだけで、満足できるわけもなくて。

 更なる刺激を求めて、成澤の指が、俺の肌に触れてくる。
 愛撫を受けて、それに反応していく。
 感じる乳首を、弄られて、声が漏れる。

「…ん……ぁ……」

 それを、隠す必要もない。
 逆に、確かに感じている事を、伝えたくて。
 でも、今は、言葉にしなくても、感じている事は、確かに伝わっている。

 お互いの昂ぶったペニス。
 俺は、成澤のペニスを深く咥え込んで、より、快感を引き出していく。
 そして、また、今度は、成澤も同様に、俺のペニスを咥えてきて。
 指を挿入されたアナルも、その先にある行為を期待している。

 待ち望んだアナルに成澤のペニスが、挿入されて、その存在をより実感する。
 もちろん、それだけではなくて、抽挿され、刺激されて、与えられる快感を追う。

「あ……あぁ……は……ぁ……」

 感じているのは、成澤も同じで。
 お互いの目の前にいるのが、お互いである事が嬉しい。

「ん……ふ……ぁ……ぁあ……」

 突き上げられながら、ペニスを擦られて、射精していた。
 それから、成澤も、俺の裡で達した。

 俺も、また、成澤も望むように再び行為を始める。
 俺の手で、成澤の快感を煽って、そのアナルに俺のペニスを挿入する。
 俺のペニスでちゃんと快感を得ている、成澤。
 勃起し続けるペニスが、その先端から滲み出る先走りが、それを示していた。
 俺自身も、限界が近くて、より抽挿を激しくして、成澤のペニスを刺激して、欲望を放った。

「成澤さん、もう少しこうしていてもいい?」
「ええ。」

 射精して、ペニスは萎えたけれど、もう少しその裡の感覚を味わっていたかった。
 いつまでも、そうしている訳にはいかないから、抜いたけれども。

 映画の撮影が始まれば、二人きりでこうして会える機会も少なくなる。
 実際にクランクインして、忙しくなった。
 もし、映画が終わって、としても、仕事を続けていくのなら、頻繁に会えなくても仕方がない。

 そんな中で、時折重ねる逢瀬。
 カラダを重ね、言葉を交わすうちに、少しずつ変わっていくこともある。

 二人で会うときだけ、『尚司』『恭平』とお互いの事を呼ぶようになったし、話し方も、変わってきた。

 肝腎の映画も、成功して、世間から、それなりの評価も受けた。
 その後の俺の演じる役柄も、少し幅が広くなった。

 俺も、成澤も認められればそれだけ、忙しくなるのだけれど、それで、会う機会が減ることに不満はない。
 会っている間が、充実しているから。
 結婚する事はもちろん出来ない。

 ただ、『好き』だから。
 それだけだったら、この関係は成り立たないだろうし、続かないだろう。
 もちろん『好き』であることには変わりないけれど、そこに、何か別の感情が交じり合っているから。

 これだけある言葉の中で、その感情をなんと呼ぼう。
 色々な言葉が生み出されていくけれど、名付けなくてもいいのではないだろうか。
 俺たちが、人生の一部分を共有していけるのならば。



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『星降る言葉-6-』

 取り敢えず、今入っている連続ドラマの収録が佳境を向かえ、忙しい日々を過ごしている。
 その為、成澤と会う事は出来なかったが、仕事は充実していた。
 今回のドラマの中で、出会いと、すれ違い等の様々な波乱、そして、一時の決別を経て、最終的には、2人の男女は結ばれた。

 降りしきる雨の中で、傘を投げ出して、お互いのカラダを抱きしめあう。
 雨に濡れるのにもかまわず、お互い涙を流しながら口付けを交わし、ふっと微笑み、見つめあう。
 それで、エンド。

 このドラマは終了したけれど、この後、二人の未来には何が待ち受けているのだろうか。
 ドラマの内容自体にも、波乱はあるが、それは、この物語上、構成されたもの。
 逆に波乱も何にもないドラマは、ドラマとして面白くはない。

 人間が、生きていく上で、恋愛していく上で、多かれ少なかれ波乱はつきものだ。
 だから、ドラマで最終的に結ばれた2人だけれど、これから先が順風満帆、という訳もないだろう。
 それでも、2人はそれなりに過ごしていくかもしれない。
 もしかしたら、また些細な事からすれ違い、別れてしまうかもしれない。

 2人の努力次第で、どうにかなる事もあれば、どうにもならない事もある。
 それは、恋愛だけではなくて、他の事にもいえる事。
 ただ、恋愛は、2人の思いが通じ合わなければ叶わないけれども。

 そういえば、少し昔、母親に尋ねた事がある。
 もし、父親が、浮気をしたらどうするか、と。
 「そうねえ」と少し考え、「もしかしたら刺し殺しちゃうかも」と冗談めいて言っていた。
 その場合、父親をか、浮気相手をか尋ねたら、「浮気相手を」と答えた。
 何故か、と問うと、そっちの方が、父親のダメージが大きいだろうから、そう言った。
 その後、「やあね、全部冗談よ」と笑われたが。
 別れるとか、そういう考えはないのか、と尋ねると、「別に、別れるような理由でもないし」と、今度は真面目に答えてきた。
 では、別れるような理由っていうのは何か、と問うと、今のところ特に思いつく事はないし、別れようと思った事もない、と言われた。

 別の機会に、同じように父親に、母親が浮気をしたらどうするか、と尋ねた。
 父親は、母親が、そんな事をする筈がないだろう、と言ってきた。
 どうしてそんなことが言えるのか、と問うと、そんな事をする暇があるなら、もっと別の事をしているだろう、という答えが返ってきた。

 この母親にして、この父親。
 この2人は、それで、馬があっているのだろう。
 何となく、社会通念的な感覚から逸脱していると思う。
 そんな親だから、今はまだ話してはいないけれど、俺が、ゲイだと打ち明けても、受け入れてくれそうな気はしている。

 ドラマの打ち上げも終わり、次の映画の出演も控えているから、少しだけ、暇が出来た。
 その空いた時間を利用して、久々に成澤の家へ向かった。
 昼間から出向こうと思っていたが、昼間は、今は家を空けているから、と結局夕方過ぎになった。

 夕食をどうするのかと尋ねたら、出前をとる、と言ってきた。
 自炊をしないのかと聞いたが、一応はするけれど、他人に出せるようなものは、作れない、と言われた。
 別にそれでも構わないのだけれど、成澤がそう言うのだから仕方がない。

 俺は、両親の家に暮らしているけれど、一人で食事をする事の方が多い。
 朝も、起きる時間が、それぞれまちまちなので、トーストするように一応パンと、即席で出来るスープの準備は揃っているが、席を共にする機会は少なく、例え、一緒になったとしても、自分の分は、自分で用意をする。
 昼と夜は、大概外で摂ることが多い。

「成澤さんは、今は、もう、今回の映画の脚本は終わられているのでしょう? 何か、他に、書いていらっしゃる事でもあるんですか?」
「いえ、思いついたことをメモに取る事くらいはありますが、映画の脚本に集中していますよ。一応仕上がったとはいえ、読み返したりしています。」
「家にいらっしゃる事が多いんですか?」
「書く時は、家にこもりますが、気晴らしに喫茶店に行ってみたりします。それ以外は、本当にカラダを使わないので、今日みたいに、ジムに通ったりしてますね。」
「ジム、よく行かれるんですか?」
「そうですね。何とか時間を作って、週に4回くらいは。でないと、本当にカラダが鈍ってしまいますので。」

「ああ……それで。脚本家だっていうから、何となく、細そうな方をイメージしていたんですが、初めてお会いした時、結構、がっちりした方だったんで、少し驚きました。学生時代は、スポーツとかされていたんですか?」
「小学校の時、学校で、少年野球のチームがありましたからね。決して、上手くはないんですが、高校までずっと続けてましたね。」
「その合間に本とか読まれてたんですか?」
「ええ。中学も、高校も、それ程、部活が遅くなりませんでしたから、家に帰ってからは、部屋に篭って、本を読んだり、何か書いたりしていましたね。でも、川島さんも、ご自身でアクションシーンをされるくらいですから、スポーツ経験は、おありなのでしょう?」

「俺は、学校の運動系の部活には入ってませんでしたが、体育教室へ。部活は、演劇をしていました。」
「もう、その頃からずっと、演劇を?」
「そうですね。でも、中学の時は、遊び半分だった気がします。高校に進んでからは、本格的にスクールの方に通うようになってしまいましたし。成澤さんは、小説を読んでいらっしゃって、書くのも好きで、小説の方の道に進もうとは、思われなかったのですか?」
「取り敢えず、想像して書くのが好きで、あまり、意識はしてなかったのですよ。書く事で、飯を食べていこうとは。」

「小説だと、微妙な情景描写とか、登場人物の外観とか、どれだけ書いても、最終的には、読者のイメージに任せることになるんですよ。読む人全てが、それに拘る訳ではないと思いますが。そういう意味でフィールドは広いと思います。」
「読者が勝手に描く、イメージの世界、ですか。」
「この登場人物が、こういう人だったら良いのに、とか、こういう風に話してくれたら良いのに、とか、それを想像するのは、それで楽しいんです。でも、それを、実際に、表現する事が出来るのなら、そういうものを創ってみるのもまた面白いだろうと。」

「どっちが難しいのでしょう。小説を書くのと、脚本を書くのと。」
「一概には、言えませんね。その人それぞれでしょう。同じように物語を創り上げるのでも、違いますからね。受け取る側も、楽しみ方が、それぞれ違うのではないでしょうか。」

「売れている小説が、映像化されるものもありますよね。」
「あれもまあ、賛否両論ですね。純粋に小説が好きで、自分のイメージを創り上げる人は、それが、具現化されて、そのイメージを壊されてしまう場合もあります。でも、小説を読まない人の中では、売れている作品なら、面白いのではないかと、それを観て、実際に面白かったから、じゃあ、原作を読んでみようか、という人もいますからね。」
「イメージを壊すのは、演者が悪いんでしょうかね。」
「そうとも言えないでしょう。人にはそれぞれ好みというものがありますから。例え、どんなに演技が上手くって、有名な俳優を使ったところで、それが当てはまるとは限りません。」

「私自身なら、好きな小説だったら、観ないでしょうね。逆のパターンだったら、好きな映画やドラマが小説化されたなら、読んでみたいとは思いますが。」
「その場合だったら、もう、イメージは出来上がっている訳ですよね。」
「そう、もう実際、具現化されたものを、どう文章で表現しているか、そこには興味はありますね。」
「俺は、あんまり、本とか読んできた経験がないんで。映画やドラマなら観てきましたが。」
「でも、もし、川島さんが、本を読まれるのなら、私とは、全く違う視点で読まれるでしょうね。あなた自身だったら、こう演じるだろう、とか。」
「そういうものでしょうかね。」
「さあ。本当のところはわかりませんが。」

 俺が、どういう役を、どう演じるか。
 そして、俺は、どういう俳優になっていきたいのか。
 俳優として生き残る為に。
 例え両親の名前があったとしても、俺が、俺自身として、認められるようになるのには。
 そして同時に、両親の名を汚すような俳優で終わりたくない。

「俺は、覚悟を決めた筈なのに、やはり、まだ、迷っています。」
「迷う? 何にですか?」
「何にでしょう。どうやって、これから生きていくのか、とか。」
「それは、仕方がないのではありませんか? 迷い、悩みながらそうやって、少しでも成長しようとしているのでしょうから。苦しい事かもしれません。それでも、それを糧として、生きるしかないでしょう。生きる限り、それが尽きる事はありません。絶対的な自信なんて、ないと思います。それでも、私は、今回の映画に、賭けています。」
「賭ける……ですか。それは、監督も仰ってました。俺も、この話を頂いた時、俳優として、演じてみたいと思いました。俺に、それだけの力量があるかわかりませんけれど。」
「それでももし、失敗しても、諦める気はないでしょう? これからの人生を。勿論、成功する事を願っていますが。」

「成澤さんは、不安にはならないんですか?」
「勿論なりますよ。根が小心者ですから。不安で不安で仕方がない。常に最悪の結果を考えてしまいます。」
「そうは見えませんけれど。」
「それを見破られたくなくって、必死ですから。」
「そうですよね。弱音を簡単に吐く事なんて出来ませんから。」
「どこかで、吐き出す場所も、あったほうがいいんですけどね。それに押しつぶされないように。強がって生きている人間ほど。」

 弱音を吐き出せる場所。
 それを、曝け出せる場所。
 それでいて、必要なプライドを崩さずに済む場所。

 今ここで、成澤に色々話せるのは、成澤が、俺に何となくそれを許してくれているからのように思う。

「そういえば、俺、昨日で、ドラマの打ち上げが終わったんですよ。」
「ああ、あのドラマですか。お疲れ様です。」
「だから、久し振りに少し余裕を持って成澤さんの家に来られたんです。」
「ですから、昼間、と仰ってたんですね。すみません、そこまで気が回らなくって。」
「いえ。俺の勝手な都合で、成澤さんのご迷惑になりたくなかったですから。」
「そんな、迷惑だなんて。」
「でも、ジムに行かれるのは、日課みたいなものなのでしょう。ですから、成澤さんも、成澤さんのご都合を優先してくださった方が、嬉しいです。俺ばっかり、都合を押し付けてしまってるようでは嫌ですから。」
「私は、本当に何かを犠牲にしている訳でもありませんし、迷惑だなんて思った事はありませんよ。」
「成澤さんが優しいから、ついつい、甘えさせていただいちゃって。」
「川島さんにそんな風に仰っていただけるなんて。」

「では、ついでに、もう少し甘えさせていただいてもよろしいですか?」
「え、ええ。なんでしょう。」
「ドラマも終わったし、ゆっくり出来るんです。それに、久し振りですし……」
「川島さん……」
「先に、シャワーお借りしますね。」
「ええ。はい。」

 久し振りに味わう口付けは、以前とは変わりがなくて、成澤のその感触を覚えている。
 絡み合った舌も、唾液の味も。
 舌を甘噛みして、吸い上げた時に漏れる吐息も。

「ん……ふ……」

 それから、その肌の感触も。
 しっかりと鍛えられているその張り詰めた筋肉。
そ して、その敏感な場所。

 肌に舌を這わせ、時折、強く吸い上げる。
 乳首を摘み上げ、立ち上がった突起を指で、舌で、歯で味わう。

「……ぁ……ん……」

 お互いの勃ち上がり始めたペニスを擦り合わせ、手を伸ばすと、そこに成澤が手を重ねてきた。
 そして、一緒に、ペニスに刺激を与える。
 その手の中で、次第に、硬さを持ち始めているのがわかる。
 ペニスが十分勃起してから、成澤のアナルにローションの滑りを借り指を挿入させていく。
 十分に解してから、俺は、ゴムを装着し、ペニスを埋めていく。

「…ふ……く……はぁ……」

 奥まで挿入しきって、成澤のカラダのこわばりが取れるのを待ち、抽挿を開始する。
 始めはゆっくりと、次第に大胆に。
 最奥まで穿ちながら、お互いにその快感を享受している。

「あぁ……ん……ふ……ん……」

 前立腺を擦りあげながら、抽挿を繰り返し、ペニスにも刺激を与えて、射精へと導く。

 そして、二人とも、絶頂を向かえた。

 それからまた、ついばむように繰り返される口付け。
 夜はまだまだこれからだ。

 再び、表れる欲望の兆し。
 そして、今度は、成澤のペニスを、アナルに受け入れて。

 先程とは違った場所で、でも、やはり感じられる場所で、二度目の絶頂を求めて、与え合った。

 成澤が、もし、俺のくつろげる場所を作ってくれるなら、俺も、成澤に同じようにそういう存在でありたい。
 まだ、始まっていないけれど、俺達の映画が、成功しますように。
 そして、次の機会へと、繋がっていきますように。



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『星降る言葉-5-』

 映画『箱庭の外』の水面下の進行は何とか順調なようで、俺以外の役者も決まったという。
 主役となる、人妻を演じるのは、俺より、10歳位先輩に当たるだろう、女優で、そこそこ知名度のある女性だった。
 脚本もほぼ出来上がっているらしい。
 という事は、成澤の今回の映画に関する仕事は、ほぼ一段落付いたのだろう。

 成澤の頭の中には、どんな世界が広がっているのだろう。
 登場人物達は、それぞれ、その物語の中で、やはり一つの人生を生きる。
 その架空の人生のシナリオ。
 それを創造する。
 役者は、それを、自分なりに解釈し、架空の人生劇の一部を、演じる。

 確かに、一つの作品を作り上げる、それは同じでも、こなす役割は異なる。
 作品を提供する立場にあるけれど、その世界にも様々な人が生きている。
 役者ばかりでも映画は出来ないし、脚本家ばかりでも、監督ばかりでも、映画は出来上がらない。
 それぞれが、それぞれとして、重要なのだ。
 そのパーツとして、何が欠けても駄目。

 そしてやはり、作品を作り上げれば、それを観てくれる観客も必要なのだ。
 俺達は、作品を通して、どれだけの観客に、どんな印象を与える事が出来るのだろうか。
 映画館に足を運んでくれる人、DVDを買ってくれる人、借りてくれる人。

 舞台とは違って、直に観客を目の前にして演じるわけではない。
 その観客の、人生の一部に、何かしら影響を与える。
 物語を描く人は、何を思ってそれを創り上げているのだろう。
 勿論、人それぞれ違うだろう、けれど、成澤はどうなのだろうか。

 仕事上がりに、会おうと思って、連絡を入れておいたけれど、思っていたより、時間が押してしまって、再度、成澤に連絡を入れた。
 成澤は、今は脚本も仕上がったし、余裕があるらしく、自分の方は、心配ないと言ってくれた。
 だが、俺が、仕事で疲れているのではないか、休める時は休んだ方がいいのではないか、と、気を使わせる結果になってしまった。
 明日はオフだから、その間に、休むから大丈夫だ、そう言うと、成澤は、それ以上は、反対する言葉を発してこなかった。

 少々無理をしても、本当は会いたい。
 けれど、無理をした結果、自分の体調を崩してしまっては何にもならない。
 仕事をする上で、カラダは資本だ。
 その自己管理が出来ないようでは、駄目なのだ。
 勿論、それでも、風邪をひいて、熱が出て、カラダがだるくなる場合もある。
 その日やその後の仕事内容によるが、大きく影響が出ないように、取り計らう。
 無理を押して、体調が悪いのを隠して、仕事をする場合もあるし、休んだ方が、迷惑をかける程度が少ないのなら、そうする。

 成澤の家に着いたら着いたで、やはりまた、心配されてしまった。
「本当に大丈夫だったんですか? 疲れていらっしゃるんでしょう?」
「いえ、確かに、仕事時間としては長かったですけれど、拘束されている時間が長かっただけで、肉体的にそんなに疲れているわけでもありません。待ち時間の方がながくって。脚本を読み返したり、他の人の演技を観ている時間の方が長かった気がします。」
「待ち時間は、待ち時間で、それはそれで、疲れるでしょうに。」
「本当に大丈夫ですよ。自己管理も仕事の内ですから。」
「ご自身でわかっていらっしゃるのなら、こちらが、いくら心配しても仕方がないですね。」
「仕方がない、なんて、そんな。こちらこそ、気を使わせてしまったようで、申し訳ないです。元は、俺が言い出した事なのに。」
「ああ、いえ、そんなつもりで言ったのでは。すみません。」

 お互いに気を使った結果、余計に相手に気を使わせる事になってしまった。
 相手の立場や調子を尊重しようとするのは、悪い事ではない。
 しかし、やはり、その度合いというのは難しい。

「あ、あの、成澤さんは、物語がないところから、物語を創り出すのですよね? どうやったら、そういう世界が生まれてくるのですか?」
「脚本の土台となる構成を練る時、ですか。」
「ええ。」
「全く『無』の状態から創り上げるわけではないですよ。例えば、偶然耳にした会話から、何かヒントを得る場合もありますし、社会問題ですとか、何かを観てふと湧いた自分の感情から、それを、ワンシーンと捕らえて、そこから、どう世界を広げていくか、ですね。出来上がるのは架空の世界ですが、現実から、何かしら影響を受けていますね。」
「でも、それにはやっぱり、想像力が必要でしょう?」

「元々、そうですね、例えば、何かの物語を読んで、この先、この登場人物たちは、どうなっていくのだろう? とか考えるのが好きでしたからね。頭の中で、世界が広がっていくのが面白いんです。」
「世界を、広げる、ですか。」
「そうすると、何となく、自分の中で、現実に世界が広がったような感じがして。もちろん、錯覚に過ぎないんですけれど。」
「それでも、それを、文字にして表現するのは、また違いますよね。」

「ええ。それは勿論。でも、脚本の場合は、それは最終形態ではありません。演じてくださる役者さんがいてくださって、その役者さんの、個性や感覚もありますから、それで、更に世界が広がってくれるのは嬉しいですね。」
「貴方の描いた世界を、具現化して、それでまた、あなたの世界が広まるんですね。」
「そう、様々な感覚に触れることによって、私自身がより触発されます。私の脳内で遊んでいるだけでも良いのですけれど、実際に、カタチにしてみる事で、それを、また別の側面から見て取る事も出来ますし。」

「成澤さんは、何かを見ても、きっと、他の人と違う世界を捉えているんでしょうね。」
「それは、私だけに限ったことではありませんよ。反応をする対象も人それぞれでしょうし、それに対する、感じ方も人それぞれです。共有する部分があるのも確かでしょうが。」
「感覚は、人それぞれだから? 俺自身も、やっぱり、そうなんでしょうか。」
「ええ、実際に、脚本をもらって、貴方なりに、貴方にしか出来ない演技をされるのですから。」
「俺にしか出来ない……それは、考えた事がありませんでした。」
「貴方が演じてきた作品の中で、もしかしたら、別の役者が、その役を演じていたかもしれません。でも、そうしたら、その作品は、また、別のものになっていたでしょう。」
「役者が違えば、出来上がる作品もまた別の世界のものになっているんですね。」

「ある種、固定観念を植え付けますよね。容姿にしてもそうだし、その声、その仕草、台詞回し、間合いの取り方。その役者、役者によって、違いますから。」

 それが、俺の個性というものなのだろうか。
 俺じゃなければ、出来ない役ではなくても、俺が演じる事で、1つの世界を創造できる。
 勿論、俺だけの力ではないけれども、俺の力も必要なのだと。
 個性派俳優と呼ばれる人もいる。
 その強烈な個性を持った人間。
 俺は、それとは、違うと思う。
 俺の、両親を見ても、それとは違う気がする。

「個性、ってなんなんでしょうか。」
「そうですね……『個性』『個性』と言われながら、表に表れる部分は少ないのではないのでしょうか。まあ、こういう風に表現をする世界の人間は、個性的な人間が多いと思います。目立つのも『個性』でしょうし、目立たないのも『個性』でしょう。」
「目立つばかりが、『個性』ではないと?」
「それはそうでしょう。嘗て、『個性』を求め始めた時代。そして、『平等である事、他人と同じである事』を求め始めた時代。『出る杭は打たれる』と言われます。元々、日本人はそうでした。でも、世界との競争の中で、それでは、日本は生き残っていけないと。」

「『個性』と『没個性』は共存しうるのでしょうか。とても、矛盾した事のように思えます。」
「共存……はしているでしょうね。でも、その矛盾は取り払えません。そんな矛盾した世界の中で、人間は生きているんです。」
「不条理な生き物ですね。」
「矛盾、不条理、そして様々な問題を抱えて、それで尚、社会を形成して、生きています。それに目を背ける人もいますが、その事に悩む人もいます。そして、どちらもまた人間なのです。そして、そんな様々な人間像を描く事。それもまた、創造する事に繋がります。」

「人間が、人間の現実を元にして、架空の世界で、人間というものを描いていく。そして、その人間像に触れて、何かを感じ取る。」
「ええ、それを創造する人間も、そして観客も。観ている人に、世界を広げてもらえたら、創る側としては、嬉しいですね。」

「自分という人生のドラマの中で、違う世界に触れて、その中に何かを感じ取って、自分のドラマの中に取り込んでいく、と。」
「見知らぬ他人の人生の中に、架空の作品とはいえ、存在する事が出来たら。直接その人と、関わり合う事はないでしょうが。」

「でも、もしかしたら、何かの契機(きっかけ)で、関わり合う事もあるでしょう?」
契機(きっかけ)は、どうやって降って来るかわからないですからね。」
「振って来るばかりでもないでしょう。」
「俺にとっては、始めは降って来たようなものでした。貴方が、俺を観て、俺を起用しようとしてくださらなかったら、俺は、貴方の事を知る事はありませんでした。」
「私は、まさか、ここまでは、望んでいませんでした。初めてお会いした後、偶然また会って、そして、貴方が、声をかけてくださらなかったら……。」
「確かに、あそこでの再会は、降って来た契機(きっかけ)かもしれませんね。」

 だって、そうしなければ、こんな関係に発展するはずはなかった。
 俺は、成澤に望まれていると、思ってもいいのだろうか。
 俺が、成澤を望んでいるように。

「成澤さん……」
「仕事で、疲れていらっしゃったのではないのですか?」
「言ったでしょう? 肉体的には、今日は、そんなに疲れてはいないと。だから、もう少し、疲れた方が……」

 口付けを求めて、カラダを引き寄せる。
 そうして、縺れるようにベッドになだれ込んだ。

 もどかしいようにお互いの衣服を脱がせあって、再び、肌を重ねる。
 何度も口付けて、より深い口付けをねだって、そうして、それが、与えられて。
 絡ませ合った舌と舌が、求め合うことを止めない。

 それでも、名残惜しげに離れた唇が、今度は、俺の肌に触れてくる。
 その舌で、指で、俺の肌の熱を上げていく。
 乳首に触れられて、指で弄られて、舌で触れられて、尖り始めたところに歯が優しく立てられた。

「ん……あ……」

 そこで、感じている快感は、ペニスにも熱を持たせていく。
 その昂ぶってきたペニスを口に含まれた。
 始めは、手と舌で、刺激を与えられ、より深く、咥え込まれたと思ったら、指は、アナルの方を刺激してくる。

 ローションの滑りを借りている指は、すんなりと、アナルの裡に挿入されてくる。
 入り口を広げられながら、アナルの裡の感じる場所を刺激される。

「…ぁ……成澤さん……もう、大丈夫ですから。」
「はい。」

 抜かれた指の代わりに、ペニスをあてがわれて、ゆっくりと挿入される。
 そして、抽挿され、奥まで突き上げられて、その感覚を受け入れている。

「あ……は……ん……はぁ……」

 繰り返される抽挿による刺激に、俺は、確かに感じて、その熱をより昂ぶらせていく。
 動きが、より激しくなり、成澤の手が、俺のペニスに触れられ、扱かれることによって、射精感が高まってくる。
 成澤も、多分同じなのだろう。

「んん……あ……あぁ……」

 それから、まもなく、射精した。
 成澤もまた、俺の裡で。

「成澤さんは……」
「何でしょう?」
 言いかけて、問われたけれど、結局言葉が見当たらなかった。

「俺も、成澤さんが、欲しい。」
「私も、あなたが……」
 本当に、一番欲しているものは、何なんだろうか。
 ただわかるのは、今、互いのカラダを求め合っているという事。

 俺は、成澤のアナルにペニスを挿入していった。
 そうすることで、何かがわかるわけではないけれども、今は、それが、欲しかったから。

 そして、その行為の果てに達して。

「このまま、眠ってしまいたい。」
「川島さん、さすがにこのままというのは……せめて、シャワーだけでも浴びてください。」
「ああ、そうですね。すみません。お借りします。」

 かいた汗は、心地良かったけれど、やはり、洗い流した方がいいだろう。

「川島さん、明日オフなんですよね? 広くないですけれど、ゆっくりしていらっしゃって構いませんから。」
「ありがとうございます。」

 まだまだ、色々話したい事、知りたい事が沢山あって、それにはまだ、時間が足りないんだ。
 多分、時間の他にも、何かが。

 そういえば、映画の製作発表が、もうすぐだったな、そんなことを考えながら、眠りについた。


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