暴走書家

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『舞う粉雪-1-』

 もうかなり寒くなってきたな、と思う。
 そろそろ、冬のコートに変える時期だろうか。
 俺は、ダウンよりも、コートの方を愛用している。
 ダウンはダウンで温かいのだろう事はわかっているけれども、何故だろう、それを着る気になってみた事はない。

 日本の四季を通して、それぞれの季節に従って、衣替えをしていく。
 大きく分ければ、『春』『夏』『秋』『冬』、この四つに分けられて、だからこそ、四季というのだが、その気候は、それぞれ変化はあるものの、その境界線がはっきりしている訳ではない。
 学生時代の制服は、だいたい、日付は決められていたが、社会人になってしまうと、いつ衣替えを行おうか、というのは、まちまちになってくる。

 カレンダー上では、その季節、季節を表示する日がない訳ではない。
 けれども、『立冬』といわれても、その日を境に急にに寒くなるか、と言うとそういう訳でもない。
 四つなんて大きく分けられないから、七十二候という分類もあるし、二十四節気に分ける事もある。
 まあ、俺は、この詳細まで知っている訳ではない。

 それにそもそも、衣替えをする時にそこまで細かく服の種類を持っている訳でもないし、その年、その年の寒暖によって、何となく、決めている。
 それでもまあ、周囲を見渡して、まだこんな時期なのに、などと思われそうな程、季節はずれな格好はしたくはない。
 ある程度は、個々人の寒さ、暑さの感じ方が異なるから、皆が皆、揃って、『はい、今日この日から、冬用のコートを着ましょう』という事にはならない。
 俺自身の感覚、か。
 無視する訳ではないけれど、全てがそれに任せられるか、というとそうでもない。

 衣替え、か。
 俺のココロの中も、そうやって思い切って切り替える事が出来ればいいのに、そう思う事もある。
 感情というものも複雑で、中々上手く、生理整頓出来ないでいる。
 区切りをつけないといけない事はいけない。
 そうそう単純明快な人間もいないだろう。
 もしいたとして、では、その人が羨ましいか、と言われたら、羨ましい一面もあるが、そうではない部分もある。

 名目上は『友人』として、長く付き合ってきた彼。
 報われるはずもない、告げる事も出来ない、想いを抱えてきて、彼の、結婚-勿論女性との-を目の前にしたあの日。
 そして、ゲイバーで、ある一人のオトコに声を掛けられたあの日。
 そういえば、あの日は、雨が降っていたな、と思い出す。

 その日、傘を持ち合わせていなかった俺に、『口実になる』と言われて、傘を貸してもらった。
 返すか返さないか、それも、俺次第だと。
 俺は、結局、傘を返しに行き、我ながら、あの時は情けなかったと思うが、色々話をした。
 そのオトコに誘われて、迷ったけれど、付き合ってみる事にした。

 お互い、始めは、名前も知らずにセックスをした。
 それから、恋人として、付き合ってみようと思い、名前を告げた。
 そのオトコは、『浜名裕和(はまなひろかず)』と名乗った。
 そうして俺も、自分の名を『有多憲次(ありたけんじ)』と。
 そうやって、付き合い始めて、それなりに上手くいっていると思う。
 裕和が、あの時、優しく接してくれたおかげでもあるし、それならば、俺も、出会えた機会を逃したくはなかった。

 元々、行きずりで関係を持って、だからこそ、あの時、あれだけ話が出来たのだし、それでも、裕和が、『出会いを無駄にはにはしたくはない』そう言ってくれたから、裕和と真剣に付き合ってみようと思った。
 そう思って付き合いだしてみても、駄目になる時は駄目になるし、それはそれで仕方がない。
 けれど、その駄目になる時を恐れていては、誰とも付き合えないだろう。

 仮にココロに『原理』があるとしも、それは、やはり数式のようには答えは出て来ない。
 ある意味での答えは必要なのかもしれないけれど、『付き合う』といっても、すぐそこにココロが付いて来る訳でもないし、逆に、ココロに想いを秘めていても、『付き合う』事には至らない。

 駄目元、と言ってしまえば、少し失礼かもしれないが、やはり、自分のココロを見据えて、相手と向き合う事が出来るなら、その為に、出来るだけの努力を、していきたい。
 努力だけで、実が結ぶかといったら、それはそうではないのはわかっているけれど。
 広くて狭いこの世界の中で。

 裕和とは、それぞれ時間を作って、会う機会を作れている。
 お互い、ありがたい事に、日曜日に仕事が入る事はないので、その週によって、一緒にどこかへ出かけてみたり、どちらかの家で寛いでみたりしている。
 平日も、仕事上がりだから、多くの時間を過ごせる訳ではないのだけれど、二人ともアルコールが好きなので、アルコールを味わったりしている。

 そうして、恋人として、時間を共有出来る事は、嬉しい。
 片想いを続けてきた『友人』を、まだ完全には『友人』として見る事は出来ないけれど、今確かにいる、『恋人』としての裕和の事を、好きだと想っていられるから。
 だから、一緒にいられる時間が、嬉しいのだ。

 そして、今日も、バーで落ち合う約束をしている。
 初めに、裕和と会ったバーではない。
 裕和に紹介してもらったバーだ。
 今は、バーに行く時は、ほぼそこにしている。

 出会ったバーは、裕和は『よく行く』と言っていたが、それは、恋人がいない時らしい。
 誰かしら相手を求めて、それが、どんな出会いになって、それこそまあ、行きずりみたいな関係になってしまうかもしれないけれど、それなりの相手が欲しい時なのだと。
 初めて裕和に紹介されてそのバーに向かう時、『独りで飲むにも、良いところなんだけどね。そういう人も居るし。それでも、俺は、あまり独りでは行かないかな。恋人とゆっくりのみたい時は、落ち着くし、結構よく行くんだよね』そう言っていた。

 そうして、紹介されたのが、バー『Labyrinth 』。
 確かにゲイバーで、さり気なく客を見渡せば、ゲイカップルがいるのだけれども、それを凌駕(りょうが)するような雰囲気がそこにはあった。
 そこで、数時間共に過ごしてみて、裕和が『恋人とゆっくり落ち着いて語らいたい』そう言ったのもわ かる気がする。
 裕和自身が、そういったタイプのものを好む人間だという事も。

 仕事がそれなりに忙しく、急いた日常の中で、勿論、休日に、本当に時間としてゆっくり過ごすのも良いのだけれど、そのバーで、時間としてはそれ程長くなくとも、穏やかに流れる空間が、そこにあった。
 それはそれで、別々に、過ごしていて心地の良い時間なのだと。

 すっかり常連となった、そのバーの扉をくぐると、いつもと変わらない様に、マスターが出迎えてくれる。

「こんばんは。いらっしゃいませ。」
「こんばんは。」

 言葉を交わし、まだ、裕和が来ていないので、取り敢えず、カウンターに座って、アルコールを注文した。
 そのグラスを傾けながら、裕和がやってくるのを待つ。
 そうやって、待ている時間が苦にならない。
 これから、会う事が出来るのも勿論そうだし、アルコール自体もそう、そして、このバーの雰囲気も。

 程なくして、裕和がやって来た。
 同じようにマスターと挨拶を交わし、俺の隣に腰掛けて、お気に入りのカクテルを注文している。

「やあ、おまたせ。憲次。」
「こんばんは。裕和。お仕事、お疲れ様。」
「憲次も、お疲れ様。もうかなり冷えてきたね。」
「そうだね。そろそろ、本格的に、冬、って感じだね。」
「バーで、こうやって飲むのもいいけど、熱燗、とかも欲しくなってくるね。」
「鍋とかも恋しいな。」
「鍋かぁ。鍋もいいよね。友人や会社の同僚と、忘年会とかで鍋にするのもいいけどさ、憲次と二人で、っていうのもまた良さそうだな。」
「一人用の鍋セットも売ってるけど、鍋だと相手がいてくれる方が、嬉しいからね。」

「じゃあ、今度、鍋にする? あ、でも、やっぱり土鍋が欲しいな。そうなると。二人用の土鍋も売ってるし、他の料理にでも使えるから、買っておいても損はないかな。」
「やっぱり、土鍋が一番雰囲気出るよね。それに熱燗と来れば、本当に日本の冬、って感じだね。」
「今年は、温かい年が越せそうだな。憲次は、年末年始はどうしてるの? 仕事は休みなんでしょ? 実家、帰ったりするの?」
「うーん、今、ちょっと迷ってる。まあ、休みの内のどこかでは、実家に顔を出すけど。裕和はどうするの?」
「どうしようかな。毎年、一応、顔を出すことは出すんだけど、長居するのもちょっと気不味くってね。」

「気不味い?」
「ああ、俺さ、両親にゲイだって事、カミングアウトしてるから、それでね。微妙に受け入れてくれてるところがあるから、その微妙さ加減がね。親としても、何となく気不味いんだろうね。きっと。だから、まあ、『今、元気でやってます』って、それ位の顔見せの方が、楽なんだよね。」
「ああ……そうなんだ。俺は、何か、その話、完璧にスルーされちゃって、そこのところは、最早、お互い口に出さないし、無かった事、みたいな感じなんだよね。知ってしまった事は、無かった事には出来ないんだけど、もう、その話題には、一切触れない、みたいな。」

「そっか。で、迷ってるって言うのは?」
「今までは、あんまり無かったんだけど、今は、裕和がいるだろ? 裕和も、仕事休みだし、どうするのかな、と思ってて。」
「お互い休み、か。そうだよな。俺は、今まで、全くそういった事がないかって事はないけど、そうやって、一緒に過ごしてくれる相手、っているのは嬉しいし、憲次もそうやって想ってくれているんなら、やっぱり一緒にすごしたいな。ふふふ……でも、そういうところ、きちんと考えてくれるのが、やっぱり、憲次らしいな。」

「俺らしいって……?」
「ほら、始めに言ってたでしょ、憲次が。『中途半端な気持ちで付き合いたくない』って。それを、実行しようとしてくれているところとか、そういう真剣さってさ。今現在さ、どの位の比率かにしろ、俺が憲次のココロの中にいるんだなって。」
「……正直、まだ、友人の事は、完璧に、友人としてみられるか、っていうと、その自信はないけどね。ああ、この正月明けに、高校の同窓会があるから、顔を合わせるんだった。確か、成人の日、だったかな。」

「同窓会、か。調度、今年が、30になった年だから、区切りがいいんだな。」
「そうなんだよね。皆、どれ位、変わってるんだろうか、とか、俺はどれ位変わったんだろうか、とかね。」
「中身はどうか別として、見かけだけでも、変わる人は本当に変わるし、変わらない人はあんまり変わらないし、面影が残っている人とかもいるからね。」
「裕和の経験上?」
「そうそう。俺が、今、35だろ? 次は、40になった時、って事になるってから、今は俺は、中間地点、だな。」

「ふっ……何か、昔の事思い出しちゃったよ。調度、裕和と出会った時の事とか、思い返してたし。でも、考えてみれば、あの時、俺は、俺の事話したけど、裕和の昔の話とかは、する機会無かったよね。」
「俺の……? でも、元彼の話とか聞いても、嬉しいもんじゃないだろ?」
「でも、経験上、学ぶって事もあるんじゃない?」
「まあ、それはそうだけど、それでも、今と、昔とでは、相手に対する考え方とかも、求めるものとかも、変わってきてる部分もあるからな。」
「それも含めて、知っておきたい部分はあるな。」
「……そうだな。憲次のそうやって、想いを大切に出来るところは、やっぱり、好きだと思うし。でも、また別の機会にしようか。今日はそんなに時間ないし。」
「そうだね。そろそろ帰ろうか。」

 会計を終えて、外に出ると、やはり冷えを感じさせる。
 風が吹いていないのが幸いだ。
 そして、雨が降っていないのも。

 この週末は、裕和の家で、鍋になるんだろうな。
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