暴走書家

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『雨上がりの背中-3-(完)』

 二人のカラダの熱が冷めたころ、俺は、そのオトコに語りだしていた。
 あの日、始めてこのオトコに出会って、少し話した事。
 そして、また、このオトコと会っているという事。

 出会いは、偶然のようで、いつも必然なのだ。
 それが、どんな関係に発展するのか、それとも、そこで終わってしまうのかはわからないけど。
 そんな中で、俺は、再びこの男に会う事を決めた。
 それは、確かにこのオトコが誘導してくれたものかもしれないけれど、俺自身が望んだ事。

「俺は、いつか、その友人を、本当に普通の友人として見ることが出来るだろうか?」
「さあ、どうだろうね。でも、想いは大切だよ。例え叶わなくとも、人が、想うことを止めてしまったら、とても悲しいと思う。君が、これからも、その想いを隠して、その友人と、友人として付き合っていく、それが辛くても、そんなに簡単に想うことは止められないから。」

「貴方は、そういう経験ないんですか?」

「俺? 俺は……そうだね。まあ、確かに、ノンケに淡い思いを抱いた事はあるよ。そして、それは夢でしかいられないんだな、って、どこかで割り切ってた。思い出にすれば、それは美化されて、日常とは違うところに置いておける。自分が、ゲイだってことは、どうしようもない。例え、狭い世界でも、その中で、誰かと出会えたなら、その方が、良いから。勿論、相性って言うのはあるよ。同じゲイでも、やっぱり、合わない人は沢山いるし、でも、そんな中でも、ちゃんと、向き合っていける人と出会えたとしたら、それ程幸福な事はないって思ってる。君みたいな人も、羨ましいと思うよ。純粋に……そう、純粋に誰かを好きだって想えるんだから。その想いを否定する必要なんてないし、それを、大切にすれば良いと思う。本当にね、誰にも否定できないから。その人の想いは。」

「あいつを、好きだと思いながら、それでも、誰も、代わりになんてしないし、ならないってわかっている。あいつを好きだと想いながらも、別の面で、他の誰かに惹かれる事もある。それは、どちらに対しても、失礼な気がして、結局は、誰ともまともに向き合えない。」

「否定すれば、いや、否定したからこそ、そこで、見えなくなってしまうものもある。君が、その友人の事を、そういう対象として好きになってしまったのは、別に、君の所為でも、その友人の所為でもない。そして、人に対する想いというものは、それぞれ違って良いものだから、例え、同じように『肉欲』を感じたとしても、それは、それぞれに対して同義ではない。好きになる対象が、たった一人でなければならない、なんて、そんな決まりはない。勿論、誰かと、パートナーシップを結んでしまえば、そこで、何かしらの制約が生まれるかもしれない。その制約を、邪魔なものだと感じてしまうなら、きっと、その人とは上手くやっていけないだろう。でも、そうでないのなら、制約は、誰かと、対等に向き合っていくために必要なものだと思う。」

 そのオトコとの会話はとても緩やかで、俺が、認めて欲しいと思った事、否定しないで欲しいと思った事、それを、心得ているかのようだった。
 誰かに、嫌われたくないと思った時、そこで一歩引いてしまう事。
 その場その場で、場の空気というものがあって、臆病にも思えるその行為が、結果、争いを避ける事に繋がる事もある。
 勿論、時には、本気でぶつかり合う事も必要かもしれないけれど、それは、そういう事が出来る相手だから。
 それも、やはり、時と場合を選ぶ。

 俺は、友人を傷つけたくない。
 俺の気持ちを押し殺したとしても、友人としても失いたくない。
 贅沢な事かもしれないけど、それが、今の、俺の本心だから。

「俺は、好きだからこそ失いたくない。勿論、奪って、自分のものに出来たらどんなに良いだろうかと思う。けど、それが、今までのあいつを奪ってしまう事になってしまうのだとしたら、やっぱり出来ない。幸せにしたいと思う。一緒に幸せになれたらと思う。でも、あいつと俺との間には、やっぱり決定的な差があるんだ。」

「人は決してものにはなれないから。もし、なってしまったとしたら、それはもう人ではない。自分の想いを尊重することも、相手の想いを尊重することも、人間関係を保っていく中で、必要な事なんだ。それは、恋愛関係だけじゃない。全てにおいて言えることだと思う。もちろん、俺だって、これを全て理解してるかって言うとそうじゃない。頭ではわかっていても、どうにもならないこともある。言うのは簡単だよ。今の俺みたいにね。そう、わかっていても、どうにもならない事がある。そこで諦めてしまうのは簡単だけど、そうはしたくない。そうやって、足掻いて、もがいて生きていくしかない。」

「何も出来ない自分に苛立つけど、でも、そうして守らなければならないものが自分にはあって、そんな、俺自身を卑怯だと、どうしても感じてしまう。卑屈になってみても、何も変わりはしないのに。」

「誰かを、何かを、卑怯だといって罵るのは簡単なことだよ。現に、そうやって、他人を批判することで、自分自身を守ろうとする人もいる。その刃の矛先が、君みたいに己に向いてしまうのか、他人に向いてしまうのか、その違いだ。誰もを傷付けずに生きる事なんて出来ない。傷付かずに生きていけるほど強い人間もいない。でも、本当に無自覚に他人を傷つけて、そんな中で、やっぱり自分も傷ついて、自分だけ被害者面しようとする人もいる。そのくせ、自尊心だけ人一倍強くて、自分が認められないとわかると、より暴力的になる。こういう人間は怖いよ。実際、付き合っていくのは困難だ。でも、そうだね、最終的に結局自分を一番大切に出来るのは自分なんだと思う。『もっと、自分を大切にしなさい』とか、簡単にいう事は出来るよ。でも果たして、どうする事が、本人にとって、一番良い事なのか、それは、わからない。」

「俺が、俺にとって、一番良い事。それは、何なんだろうか。嫌な自分の面を見てしまうと、変わりたいと思う。変わる事が出来る、そう信じるのは、間違いなんだろうか。」

「変われる可能性は勿論あると思うよ。劇的にじゃなくても。嫌な面を見て、変わりたい、成長したい、そう思うのはごく自然な事だ。でも、根本的な面で、『自分』というものは捨てる事は出来ない。そして、その必要はないと思う。」

 俺が、ずっと引きずってきたものは、簡単に捨て去ることは出来ないと。
 そして、その必要もないのだと。
 もし、俺が、俺自身を見失わずにいられるのなら。

「目を逸らすよりも、一度、ちゃんと向き合った方が、素直に認められるのかな。そして、認める事で初めて、また一歩、踏み出す事が出来るんだろうか。」

「その結果、君の中で、どういう変化があるかはわからない。後悔しない人間はいない。でも、例え、後悔したとしても、それが、納得出来るものにする事は出来ると思う。」

「一人で悩んでいたら、どうしようもなかったのかもしれない。こうして、貴方と話しているから、少し、出口に近付いたような気がする。」

「それが、本物の出口かどうか、わからなけどね。俺が言ってるのは、あくまでも俺の意見であって、決して、正しいわけじゃない。でも、誰かと話す事によって、新しい視点を見つけることは可能だと思う。」

「うん。やっぱり、後は、自分の頭で考えなきゃね。」

「そう、考え方は、人の数だけあって、どうしても自分に認められない考え方だとしても、そういう人はいるって事。」

「貴方は、どうして、俺に声を掛けたの?」

「さあ、どうしてだろうね。そう……何となくね、君の背中が、寂しそうだったから。それでいて、それを必死で押し殺そうとしてたから。まあ、後は、それに対する、色々な好奇心。」

「それで、好奇心は満たされました?」

「そうだね。ある意味。でも、それよりももっと、君の事が知りたいと思ってる。」

「貴方と話をするのは好きですよ。こんなに話したのは生まれて初めてってくらい。」

「それは、光栄だね。お互い興味を持って、それで、その絆を深めていく事が出来ると思ってるから。」

「でも、俺は……。」

「君が、その友人の事を好きなのはわかってる。でも、俺は言ったよね、『好きになるカタチは一つじゃない。』って。だから、もし君が、俺に興味を持ってくれているのなら、それで良いと思う。」

「貴方は、俺の背中を押してくれた。だから、感謝してる。でも、だからこそ、中途半端な気持ちで付き合いたくはない。」

「俺も、君の安全牌(あんぜんぱい)になる気は決してないよ。君は、今の自分の気持ちを、中途半端だと思うの? ただ、揺らいでいるだけなら、それは、それで良いんじゃない? いつか、君のココロが、何かを選んだとして、その先に、俺がいなかったとしても、こうやって、出会えた事は大切なことだと思う。未来なんて、誰にもわからないから。でも、今を選ぶ事は出来る。こうやって、出来た契機(きっかけ)を、無駄にはしたくない。」

 出会いと、別れの必然性。
 それを知っている。
 俺のココロが少しでも晴れたのは、やはり、このオトコと話したから。
 何十億もいるこの地上で、出会えた必然的な奇跡を、もう少し、見守ってみよう。
 人の想いもココロも、簡単には定まらないもの。

 それでも、雨が上がって、俺の地面は、少し固まっていた。

 俺にも、そのオトコにもわからない未来を、これから生きていく。
 そうして、改めて、お互いの名前も何も知らないことに気付いて、自己紹介した。
 少しずつ、知り合っていけば良いと。
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コメントコメント


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私が普段思ってる事にかなり近いです。
何度も読み返してみたくなりました。

まー | URL | 2009年01月09日(Fri)22:10 [EDIT]


 
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