暴走書家

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あるバーのシリーズ(母)

 大学の入学式に当たって、その人にスーツを見立ててもらった。
 その人が常連として通っているオーダーメイドのスーツの店だ。
 中々流行っているようで、簡単には作ってもらえないみたいだけど、その人の紹介、という事で特別にあしらえてもらった。
 俺は黒が好きだったからスーツの地は黒色。
 それと、俺の好みに合わせてブルーのネクタイをコーディネイトしてもらった。
 それとは他に、ホストとしてやっていくために上質なスーツを幾つか作ってもらった。
 これは、その人の奢りではなく、俺自身の金で。

 同じ学部の人間で友人も出来た。
 高校の時とは違う、俺が俺でいられる友人だ。
 俺が、ゲイだと知っても、特に引いた風はなかった。
 むしろ面白がられていた気がする。
 そういう存在は知ったけど、生で接するのは初めてだと。

 俺も、外見、女受けが悪くなかったけど、その友人も、女性にはモテる感覚があった。
 女性の友人も出来た。
 苗字で学籍番号がつけられるが、番号が近かったのでよく授業で一緒になった。
 その友人達のおかげで、俺も、周囲から、風当たりが強くなくって済んだのだと思う。
 俺と、オトコの友人一人と女性の友人二人。
 その四人で大学ではつるんでいる事が多かった。

 俺が、高校に引き続いて弓道部に入ると言ったら、それは面白そうだと着いて来た。
 友人は女性のあしらい方が上手かった。
 かなりのフェミニストで女性に優しい。
 女性の友人のほうはどうかというと、美人なのだと思うのだが、性格が男前だった。
 だから、あまり異性として意識する事がなかった。

 学校があければ、夜、バイトに出かけるまで家事を一通りこなした。
 そいつはかなり生活が不規則でどちらかというと、夜行性だった。
 昼間寝て、夜動き出す。
 朝は朝でまとめて朝食を作るので一緒に食べた。
 昼は俺は大学に行っているから学食で食べる。
 夜になると、完全にそいつは起きていて、夕食を一緒に食べる。
 確認してみたことは無いけれど、俺は三食食べる、そいつは二食しか食べていないんではないだろうか。

 ホストという職業も中々面白かった。
 人と話すのは嫌いではなかったし、客に楽しんでもらえるのが嬉しかった。
 女性に対して、変に欲を持たない分、優しく接する事が出来た。
 客の話題のニーズにこたえられるよう、知識を豊富にするのも嫌いではなかった。
 会話術も自然と身につけていった。

 俺は、そこそこ稼げればいいと思っていたので、ナンバーワン争いには興味がなかった。
 楽しいお酒と、会話を楽しんでもらえれば良い。
 また、それを求めてくる客も少なくなかった。
 だから俺は、結構良い成績を残せていたんではないかと思う。
 ホストになって初めて女性と寝た。
 興奮したり、そんなに快感があったりする訳ではなかったが、俺は、オンナとも寝れるんだという事がわかった。
 まあ、すすんで寝ようとは思わなかったが。

 何でかわからないけど、やっぱり俺はオトコの方が好きだと思った。

 大学の友人に半ば無理やり誘われて合コンにも出たことがあるけれど、まあ、その場で女の子と仲良くなるけれど、それ以上には絶対発展しなかった。
 友人は友人でその時その時によって恋人が色々代わっていたが、二股をかけることは絶対しないし、その女の子に精一杯優しくするし、じゃあ、長続きしそうなものなんだけど、それがそうでもないらしい。
 好きな時は好きだけど、別れる時はさっぱり別れる。
 感傷を後まで引きずったりせず、次の関係へと前向きだった。

 オンナの子の方はどうかと言うと、一人は、同じ大学の違う学部の一つ上に恋人がいると言う。
 恋人が、この大学に進んだから、自分もこの大学に進んだのだと。
 学部が違うから、一緒になったりはしないけど、上手くいっているらしい。

 しかし、恋人が入ったからと言って、簡単に入学できるような大学ではない。
 その子なりにかなり勉強をして、自分の道をしっかり持って医学部に進学してきたのだろう。

 もう一人の子は、ちょっと、感覚が、オトコの友人と似ている。
 ただ、オンナだから、優しくされて、甘えて、奢ってもらって、と言うのは嫌いらしく、オトコと付き合っても、対等に見てくれない、と言うの理由で中々相手を見つけるのが難しそうだった。
 俺は、そういう対等な関係が好きだったから、その子は俺とだったら、上手く付き合えるのに、と冗談めかして言った。
 そんな感じで、恋人にはなれないけれど、上手く友人関係をやっていけてる。

 俺に社交性が出来たのはそれだけが契機(きっかけ)じゃない。
 愛人の紹介で、一緒にいろんなパーティーにも出た。
 高校時代に名門の子息たちと、繋がりがあったけど、それは切れてしまったので、新たに愛人と交流のある各界の有名人と知り合うようになった。
 その場で、ますます政治、経済、そしてその裏の事情にも興味を持ち、詳しくなっていった。
 恋人は俺に愛人がいる事は知っていたし、その事で揉めた事はなかった。
 俺が帰る家は、今は、恋人がいる家になっていたし、一日の内で一緒にいられる時間は短かったけれど、それでも俺は良かった。

 俺にだって俺の生活があるように、恋人にだって恋人の生活がある。
 その領域は二人で一緒に住んでいたって、尊重すべきだ。
 それは、無関心とは違った感覚で。

 俺自身、匂いに敏感だったので、ホストとしてバイトをしてきても相手の匂いをつけないよう、自分自身で家で香水を付けるようになっていた。
 その香水はくしくも俺の愛人の使っているのと同じものだったが、それ恋人には伝えていない。
 その二人が会うこともないだろうし、あえて伝える必要もない事だ。

 気を付けなければいけないのは、ホストのバイトをしてきた時だ。
 恋人は、女性物の香水が嫌いだと言った。
 母親を思い出させるから。
 だから、バイトから帰ると、必ずシャワーを浴びて自分の香水をつけた。

 俺は、母親というものを知らない。
 俺にもいるんだ、母親というものが。
 ぴんと来なかった。
 母親は俺の事をどう思っているのだろうか。

 俺は、興信所を使って母親のことを調べた。
 俺の戸籍上の父親と別れて一年余りして再婚したらしい。
 相手は入り婿で、母親の実家の呉服屋をついでいるらしかった。
 俺とは5つはなれた女の子もいてその子も順調に成長しているようだ。
 実の父親は、多分、母親の胸の内にしかいないだろう。

 俺から母親に会ってみる気にはなれなかった。
 この年まで放置してきた息子だ。
 母親にとっても多分今更会わせる顔なんてないだろう。

 俺は、あの家が嫌いだった。
 嫌いで飛び出した。
 二度と近付くたくないと思う。

 それでも、感謝している面はある。
 あの家にいて培った作法や習い事は今でも役立っている。
 それらは、多分、愛人が大切にしてくれたから。
 身を護るための合気道や剣道だって、その人に警察学校を紹介してもらって、そこで鍛錬を続けている。

 俺がこの世で生きていくために身につけた技術。
 あんな身の上だから、いつ死んでもいいと思っていたけれど、今がある。
 俺が大切だと思う人に囲まれて。

 恋人はその部分が危うかった。
 俺は、お前に会って良かったと思っているよ。
 それを伝えたかった。


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