暴走書家

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『雨上がりの背中-1-』

 元々叶うなんて思ってなかったけど、それでも、やはり胸につまっていた想いは、自覚していたよりずっと重くって、ショックだった。
 高校時代から仲が良くて、大学が離れても、遊んでたりした。
 向こうにとっては、俺は友人でしかない。
 俺が、そんな想いを寄せていたなんて気付きもしないだろう。
 そして、それを知られるのも怖かった。
 もし知られて、友人でさえいられなくなってしまったら。
 拒絶され、奇異な目で見られるのはたまらなかった。

 可愛い彼女がいて、そうしている彼の方が普通なんだって。

 俺が、彼をいくら、そういう対象として好きだったとしても、どうしようもない事。

 そんな、彼の結婚式に参列した。
 祝いの席で、悲しい表情をする事なんて出来なくって、でも、それでも辛かった。

 俺だって、ゲイだってわかってたから、それなりに、そういう人間との付き合いはあった。
 例え、彼が結婚しなくても、失恋、っていうのは当たり前で、でもやっぱり、その現場を見てしまうと決定的なような気がした。

 二次会が引けて、お開きになって、俺は、結局、いきつけのバーに向かっていた。
 そこでは、俺の性癖を隠す必要なんてない。
 そういう場所では、やはり、少し開放的になれた。

 独りでグラスを傾けていると、あるオトコに声をかけられた。
 こういう時でも、オトコだからって、誰でも良い訳じゃない。
 それなりにタイプだったから、隣の席を譲った。

「とても、悲しそうな、顔をしてるよ。」
「そう見えます? 実は今日、大切な友人の結婚式に行ってきたところなんですよ。」
「もしかして、その人の事、好きだったとか?」
「そうですね。自分で思っていたよりずっと。」
「ノンケの男を好きになっても仕方ないってわかっていてもね、ココロの方は追いついていかないからね。で、自棄酒(やけざけ)?」
「自暴自棄になれるほど、子供でもないですし、自棄酒にするなら、俺はザルだから、やりたくてもできませんよ。もし挑戦したとしても、きっと破産してしまう。」
「アルコールは、適度に酔えれば、それが一番良いんだろうけどね。」
「適当なところで止めておきますよ。」

「付き合ってくれるのは、お酒だけ?」
 そうやって、誘われるのも悪くない。
 けれど、なんて答えようか、逡巡していた。
「俺って、その彼に似てたりする?」
「全然似てませんよ。誰かを、友人に重ねてみた事なんてありません。」
「まあ、俺だって、その彼の代わりをしてあげる事なんて出来ないけどね。それでも、一時、夢見たいことはあるじゃない?」
「夢見ても、実現する事はないし、もし貴方が友人の代わりをしてくれる、と言っても、そういう風に扱うのは、失礼な事だと思いますから。」

 誰も、誰かの代わりになんてなれない。
 仮に、代用品として抱いたとしても、その後に残るのは虚しさだけだって知っている。
 何が、どうすれば、慰めになるのか。
 一時の慰めが必要な時もある。
 そうする事によって、立ち直る事が出来る事も。

「背中が寂しいって、語っている割に、しっかりしてるね。でも、嫌いじゃないな、そういう人は。本当は、君の弱みに付け込んでみようかと思ったんだけどね。」
「良いですよ、付け込んでみても。実際、それを望んでいるのかもしれない。」
「駄目だよ、そこで、そんな事言っちゃあ。ふふふ……でもそうだな、純粋に、人を好きになれるって、少し憧れるな。」
所詮(しょせん)は、実らぬ、片想いなんですけどね。」
「報われる事がないとわかっていても、好きになってしまう。そういう、ココロの原理に決まりなんてないからね。」
「ココロに原理なんてあるんですか?」
「さあね。人のココロは時として、単純明快で、でも、その実は、複雑に絡み合って、その奥は覗けないから。だから、自分のココロを否定してしまうのは悲しい事だと思うよ。」
「それが、どんな、想いでも?」
「時には、辛い事もあるだろうけどね。」

 辛くても、それから目を背けても、その現実からは逃れられなくて。
 そして、目を背けようとすればする程、その想いに縛られていく。
 呪縛から逃れようと、行動した結果、余計にその深みに嵌る事もある。

「辛くても、自分が、世界一不幸な人間だとか、そんな風には思いませんよ。そんな思いに浸ったって、仕方がないってわかっているから。」
「不幸自慢、ってあるよね。他人の話しを聞いて、より自分のほうが不幸だと思って、それで変な優越感を抱いてる。まあ、でも、それも、人のココロの不思議なところかな。」

 人が、他人と比べることしか出来ない生物だとしても、他人が基準になる訳ではなく、やはり、基準になってくるのは自分なのだ。
 結局は、自分を基準でしか、世界を見る事が出来ない。
 それが、どんなに歪んだ世界だとしても。
 勿論、正常な世界、なんて物も存在しないんだろうけど。
 例え、自分が『基準』となったとしても、それが『正常』である訳でもない。
 正しいとか、間違っているとか、それも、その人その人の価値観なのだ。
 自分と異なった価値観を受け入れろとは言わない。
 けれど、否定して欲しくない。
 それは、自分を否定されることと同じだから。

 一つは、ゲイとして、セクシャル・マイノリティとして、それを特化して欲しいわけじゃないけど、そういう人間も存在するのだと、知っていて欲しい。
 理解する事が不可能でも。

 世間一般的に、数多くの人が、異性愛者として存在しているのは知っている。
 当たり前の事なのかもしれない。
 でも、そうじゃない人もいるんだよと、知って欲しい。
 それは、ゲイだけじゃない、多くのマイノリティにも言える事なんだと思う。

 そのオトコに誘われて、バーを出ると、雨が降っていた。
 生憎(あいにく)俺は傘を持っていなかったが、そのオトコは折りたたみの傘を持っていた。
 オトコ、二人で、その傘に収まるのは、狭すぎたけど、ないよりはましだった。
 肩の部分が、少し濡れたけど、きっと、ホテルを出る頃には乾いているだろう。

「あの……俺、ソッチのほうは、あんまり慣れてないんですけど。」
「そう。でも、大丈夫だよ。自信がある訳じゃないけど、ちゃんとヨくしてあげるから。たまには、いいものだよ。他人に身を預けてみるのも。」

 シャワーを浴びた後、そのオトコに、ベッドに押し倒されて、そのオトコの愛撫に身を委ねた。
 それは、涙が出そうなほど優しくて、もしかしたら、実際、少し泣いていたのかもしれない。
 そんな、目尻を拭われて。
「駄目? 無理そう?」
「いや、そうじゃなくて。」
「そう、ならいいけど。」

 その指先に、反応していると思う。
 肌に落とされた唇に感じて。
「あ……は……ああ……」
 勃ち上がりかけたペニスを直接的に刺激される。

 そして、俺の、受け入れる事に慣れていないアナルをそのオトコは、十分に時間をかけて、ゆっくりと慣らしていった。
 実際に受け入れる事は慣れていなくても、そこに、感じる場所がある事は知っている。

 そのオトコのペニスを受け入れて、その感じられる場所を刺激されて、俺は、その快感に酔う。
 こんな時は、従順に快感に従っていればいい。
 確かに、その男が言ったように、こんな気分の時は、他人に身を任せてみるのもいいかもしれない。

「んん……あ…ああ!あっ」
「どう? イけそう?」
「ん……もう…少し……」

 そうして、その男の手が、俺のペニスに触れられて、扱かれていく。
 そうされたら、もう、本当にもたなくて。
「う……く…イ…く…!」
 オトコのペニスを受け入れながら、射精していた。

 そのオトコも、少し遅れて射精していたようだった。

「シャワーを浴びて、顔を水で洗っておいで。そんなには泣いてなかったけど、そのまま放っておいたら、明日、目が腫れてるよ。」
「俺、そんなに、涙、流してました?」
「少しだけだよ。でも、泣きたい時に泣けるのは良い事だよ。だから、まだ、泣き足りないと思ったら、シャワーを浴びながら、泣いてごらん。シャワーは、涙を流してくれるから。」
「俺は……泣きたかったのかな?」
「さあね。どうだろう。」

 シャワーに当たってみたけれど、涙は流れてこなかった。
 洗面所の鏡を見て、確かに少し泣いた跡があるようだったけど、冷水で、顔を洗って、顔もココロもさっぱりした。
 『顔で笑って、ココロで泣いて』なんてこともあるけど、実際、本当に泣いてしまったほうが、楽なんだろう。
 友人の前では、まさに、その通りだったんだろうな、と思う。
 それでも、俺は、泣く事が出来たから。

 今日、このオトコに会えて良かったと思う。
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やっぱり何度読んでもこの出会いは好きです。
重過ぎず、軽すぎず、適度に優しさと、何よりはじめての出会いならではの緊張感があって。

きっちょん | URL | 2009年01月14日(Wed)01:06 [EDIT]


 
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