暴走書家

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『白香桜乱-9-(完)』

 始めてきた家で、彼女と二人っきりになった僕。
 僕は、本当に何もわからなくて、行為を終えて、服はもう身につけていたけれど、暫らく、ボーっとしていた。
 そうしていた時に、彼女に『お紅茶、お飲みになります?』と声を掛けられた。
 とっさに、僕は『え、ああ。じゃあ、僕が』そう言ったけれど、彼女が、『貴方、こちら、初めてでしょう? (わたくし)が、入れてまいりますわ』そう言って、ソファから立ち上がった。

 一旦、全てのティーカップをキッチンへと下げて、彼女は、彼女と僕の二人分だけ、紅茶を入れて戻ってきた。
 それから、彼女が、家から持ってきていた、バッグから、クッキーを取り出し、僕に向かって、どうぞ、と勧めてきた。
 彼女が焼いたものだろう。
 彼女自身が、それを手に取り、口にしていたので、僕も、同じようにする。
 それは、いつも、僕が家で口にしているものと同じだった。

 けれど、僕の知らない場所。
 僕が知らなかった彼女の会話。

 今目の前にしている彼女は、僕が普段知っている彼女だ。
 『何度か、ここには、来た事があるのですか?』
 『ええ、そうね。貴方と一緒になる前には、一年に数度は。貴方と一緒になってからは……今日を除けば、一度だけね』
 『あの男性と、ですか?』
 『彼と? そういった時もありますけれど、成人してからは、彼と一緒に来る事は、殆どありませんわ』
 『もう随分昔から、ここへ?』
 『詳しくは覚えておりませんけれど、中学の頃、くらいかしら』

 中学の頃、僕が、全く知らない頃。
 十年以上は前の話だ。
 『あの男性とは、その頃から、お知り合いなのですか?』
 『そうね。彼は、(わたくし)より、確か、7つ上ですから、その頃は大学生だったんじゃないかしら』

 『知り合い』だと言っている、彼女。
 確か、男性も、知り合ってからは結構経つと言っていた。
 ただでさえ、希薄だと感じられる彼女の人間関係なのに、何故、どうやって知り合って、今尚、その関係を続けているのだろうか。

 彼女は、中学時代から、中高一貫の女子校に進み、その系列のやはり女子大に通っていたと聞いている。
 その時代の友人の話など聞いたことが無いし、親しい友人はいなかったとは聞いている。

 彼女と二人になって、どれくらい時間がたっただろうか、男性達が、戻ってきた。
 まだ残っていたクッキーを見つけて、初めて会った方の男性が口にしていた。
 『あ、これ、もしかして手作り? 美味しいじゃん。君が作ったの?』と僕に尋ねてきた。
 『え、いえ。僕ではなく、彼女が』
 『お前が? 珍しいな』
 その知り合いの男性も、その事は知らなかったのだろう。

 『そんな、お話をされに来たのではないでしょう? (わたくし)達に、というより、(わたくし)の前で、彼に話をされたかったんではなくって?』
 『まあ、そうだな。お前が、実際、結婚した、と言う話を聞いた時は、正直、少し驚いたよ。お前の家が、お前をどうにかしたかったのはわかるが、お前が、あの家を出たくない訳ではないけれど、お前とやっていける相手はいないだろうし、あの家が許したかどうかはわからないが、その内お前が、一人で出て行くんではないかと思っていたから』
 『そう……でしょうね。でも、一人で、と言うのは許されなかったでしょうね。一度、出てしまった以上は、もう戻る気はありませんけれども』

 『君は、君自身はどう感じたんだろう。彼女の家に対して。どこまで知っているんだろう』
 『僕……ですか? 初め彼女に会った時、彼女より、彼女の育ての親のほうが、必死そうなのは、気付いてましたが。それが何なのかは』
 『彼女が産まれて、彼女と、彼女の母親の存在を否定してきた家だからな。あっちとしては、体裁さえ整えば、こういっては何だが彼女のやっかいものをどうにかしてくれる存在であれば、誰良かったんだろう。まあ、勿論、彼女の性質上それは難しかったが』

 『詳しくわかりませんが、僕は、彼女と会えて、こうやって一緒にいられる事を、望んだから、そうしたんですよ? 僕は、僕の意志を無視されたとは思ってません』
 『今、現在ここにこうしていても、そう思っていられる? 君は、普通に、女性が好きなんだろう?』
 『普通に……それはどうかわかりませんけれど、以前も言いましたけれども、彼女が好きな事には変わりありません。彼女以外の女性の事も、考えたりしません』
 『君のそういう真っ直ぐなところはいい。君の言葉も、心強いと思った。けれど、君が、どこまでそういられるかは、やはりわからない』
 『貴方は、いずれは、と仰りましたよね? その為に、今日、この場と時間を設けたのではないのですか?』
 『ああ、そうだ。だが、君と彼女との事を考えると、やはり少し迷う。どこから、どう話せばいいのか』

 僕と男性との会話を聞いていた、彼女が、口を挟んできた。

 『(わたくし)、気が急く方ではありませんけれど、(わたくし)に対して、そうやってあまり気を使っていただきたくありませんわ。勿論、彼の事を考えない訳ではありませんが、(わたくし)から、申し上げましょうか。お兄様。(わたくし)は彼に知らせるつもりはありませんでしたわ。でも、お兄様はご存知でいらっしゃって、(わたくし)の誘いに乗ってこられた。そして、それを、彼に知らせようとしているのでしょう』

 お兄様……兄? 彼女の?
 彼女に、兄弟がいる事など知らなかった。
 以前、男性が言った言葉『それ以前に問題がある』と。

 『え? お前と、彼女って、兄妹だったの? 親しいのは知ってたけど』
 『お前は、口を挟むな』

 『あの、兄妹って……僕、彼女に、そういった関係の人がいるのは、全然知りませんでした』
 『でも、貴方は、(わたくし)が婚外子なのはしっていらっしゃるでしょう? 母は、正式に奥様がいらっしゃるのを知っていて、(わたくし)を産みましたわ。でも、そのままの立場でいる事に耐えられなかったのでしょうね。認知、の話もありましたわ。でも、母があんな状態でしたし、家のほうも、それを隠そうとしましたから、実際は、受けていませんわ。(わたくし)は知りませんでしたが、実の父の方は、(わたくし)の事知っていましたから、(わたくし)がある程度大きくなってから、お会いしましたわ。それから、何故、興味を持ったのか知りませんけれども、お兄様とも』

 『親父に、愛人がいるのは知ってたからね。俺も、母も。まあ、母は、快く思ってないけどね。彼女の母親だけじゃないよ。他にも。父の子もね、他にも2人いる。こっちは、認知してるけどね。初めに会ったのは、興味本位だね。話しかけても、名乗るつもりもなかったんだけど、話の流れ上何となくそうなってしまって、彼女の家に事情とかも、知って、それ以来、だね。他の2人とはあまり話さないけど、彼女とは割りと。父の方の祖父が、結構、彼女の事気に入っててね、彼女が、株を始めたのも、祖父の影響だし、たまに会ってるんだろ?』

 『ええ。そうですわね。ここの別荘もお祖父(じい)様のものですし』

 『彼女の亡くなったお母さんと、貴方の父親との間の子供、母親違いの兄妹、なんですか』
 『亡くなった? いつ亡くなったんだ? そこまでは知らなかった』
 『あれを生きていると言うのなら、まだ生きていますわよ。母は、(わたくし)の事など、わかりませんけれど、この間、病院へ行ってきましたもの』
 『あれ? じゃあ、何で、君、亡くなったって、思ってるの?』
 『え……? 彼女の母親の弟って言う男性が、そんな事を言っていたような……』
 『お前、そんな事まで、彼に黙ってたのか?』
 『黙ってたって……まさか(わたくし)彼が、そんな風に思っているなんて知りませんでしたし、病院に行くのも、平日の昼間の数時間ですし、その上、状況に変化もありませんから、取り立てて、報告するような事もありませんでしたもの』

 『勘違いの原因は、どちらにしろ、家の方だろうな。精神病院に入院させて、家に存在しないものとしようとしたんだろう』
 『まあ、母の存在も、(わたくし)も実感出来ませんけれど。(わたくし)が産まれて、本当に間もなくでしたものね。入院したのが。病院に会いに行くのも、(わたくし)だけですし』

 『あ……じゃあ、今度、病院に』
 『お気持ちは嬉しいんですけれど、基本的には症状は、落ち着いているんですけれど、男性と接する事が出来なくて。やはり、父の事を思い起こさせてしまうんでしょうかね』
 『そう……ですか』

 『で、君は、どう思う訳? 俺達が、半分とは言え血の繋がった兄妹と知って、その人間と、関係を持ってきた事について』
 『どう……ですか。あまりよくわかりませんけれど、特に違和感は』
 『それでも、彼女が好きな事には変わりない、と?』
 『ええ』
 『……これから先も、彼女が、同じ事を望んでも?』
 『彼女が望むのなら、それが、僕の望みですから。それに、より、彼女を身近に感じられるなら……』

 そうして、再び、日常の中に組み込まれていく。
 僕と、彼女と、彼女の兄と。
 時折、彼女の兄の相手を交えて。

 僕は、より深く、彼女に犯される快感を知ってしまったから。

 それから、彼女の兄に言われた事、『彼女が、実際、白い服を着ていると、怖いと感じることがある。彼女は、母親のようになるつもりはないというけれど、まるで、死に装束としての経帷子(きょうかたびら)のように感じる。まるで、生きていないかのように。でも、君がいて、実際は白いけれども、そこに僅かでも生きて血が通った桜色に染まって見える』と。
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コメントコメント


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やはり未知でしたね。
彼女は既知でしたが。

変わらない関係や想いに安心しました。僕の彼女に対する愛情な強く揺るぎ無いですね。

女は強いな。

まー | URL | 2009年01月08日(Thu)00:42 [EDIT]


彼女の纏う白いドレスが仄かに桜色を帯びる…そのイメージが、どんな際どいシーンより色っぽく感じます。
そしてこの話自体も。
描写されている状況とは別個に、とても純粋で清らかな話だったと…そう思いました。

uduki | URL | 2009年01月08日(Thu)21:21 [EDIT]


血の通った桜色に染まってみえるというラストの台詞が綺麗ですね。
ぼーっとしている僕に、紅茶をいれたり、いつものクッキーをあげたり、また、兄のことを告げる予定ではなかったことなどから、彼女がいかに僕を大切にしてるのかがわかります。
美しいお話ですね。

きっちょん | URL | 2009年01月09日(Fri)01:47 [EDIT]


 
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