暴走書家

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『白香桜乱-7-』

 仕事で何度か男性と顔を合わせたが、初日の声を掛けられ、少し話をしたけれど、それ以降は、全くそういった事は無かった。
 男性は、『いずれは』と言った。
 今はまだその時ではないのだろう。
 それを態々、僕から話を持ち出すような事もしなかった。

 仕事での企画の方も、順調に進んでいる。
 これが成功すれば、僕の会社にとってもそうだし、男性の会社にとってもかなりの利益に繋がるだろう。
 上手く両社が折り合いをつける必要もあったが、お互い、妥協せず、かなり厳しい意見交換もあった。

 僕と彼女の生活面において、これは特に変わった事はない。
 男性と会った事は話した。
 それを特に、気に留めていなかった彼女。
 何を話したか、それを話してはいないけれど、少し話をした事、それは知っている。
 それに対しても、彼女は、興味を示してくる事はなかった。

 男性は、彼女に対して、僕が彼女に持っているような感情ももっていないにせよ、彼女の事を大切に思っている。
 彼女にしても、僕に『知り合い』として、その行為の相手にと紹介し、その上、彼女が運用している株から得た資金を、男性が興したという会社に対して、資金面でバックアップしているという。
 彼女は、株で大きな儲けを得ていても、彼女自身、その金に対して執着はしないし、これと言った、株以外の買い物をしないし、僕は僕で、それなりに収入があって、彼女との生活において、困る事はないのだが、儲けの内のどれだけの割合かわからないが、その男性の会社に対して当てている。

 今回の仕事においての成功は、彼女にとっても、利益に繋がるのだろう。
 まあ、そこら辺は、あまり興味がなさそうだが。
 では、何に対して、彼女が興味を寄せるのか、これも不可思議な存在だ。
 食べる事に対しても、ほぼ興味が無い。
 食事は、僕と生活するようになって、僕が作らなければ食べる事はない。
 僕には、彼女がキッチンに立つ姿、というのも想像出来ないのだが。

 だが、全く立たないか、というとそうでもない。
 結婚前の事はわからないが(僕が思うには、それまではやってこなかったと感じる)、スコーンやクッキーは作る。
 始め、その事実を知った時驚いた。
 その彼女の手作りの、焼きたてのスコーンやクッキーをいつも通りの紅茶セットと共に、僕も味あわせてもらっている。

 紅茶自体は、僕も彼女も入れることが出来るが、二人でいる時は、ほぼ確実に僕が入れる。
 彼女の入れる紅茶が不味いからではなく、僕がそうしたいからだ。
 平日は、昼間、彼女は、圧倒的に一人で家にいるから、その時は、彼女は自分で入れている。

 彼女はそんな風に自分でお菓子なら作るのだ、と思っていたから、まさか、ケーキが苦手だとは思わなかった。

 あの特別な部屋で彼女が一人、過ごすとき、小さなテーブルの上には、彼女の焼いたクッキーが置かれている事は、よくあることだし、実際彼女は、それを口にしているのだろう。
 その事は、僕にとっても特別な部屋になる以前、ただ、掃除の為にその部屋に足を踏み入れていた時から知っていた事だ。

 僕と男性が仕事で出会ってから、それからも、特に変わった事はない。
 男性も、彼女に対して何も言わないし、彼女も、男性に対して、何も言わない。
 僕は僕で、彼女にも、男性にも、何も言わない。
 そこでは、ただ、その行為があるだけだ。
 行為による悦楽を得る為に、余計な言葉など必要ない。

 そして、僕と彼女、二人きりの時でも。
 休日の昼間から、僕は、その部屋で、彼女の視線に曝されて、ペニスを勃起させている。
 下半身の衣服を脱ぎ去り、僕は、床の上に、両足を広げて、座った。
 彼女から『どうぞ、お始めになって』という言葉を貰い、僕は、ペニスに触れる。
 少し、扱いただけで、僕の欲望は高まり、先走りの液が流れ始める。
 それでも、すぐに達してしまわないように、彼女との、この時間を少しでも長く共有出来るように、ペニスを扱きたてていく。
 けれど、扱く手を緩めたりはしない。
 ただ、射精へ導く為ではないけれど、少し痛いほど強く、扱きあげる。

 想像ではなく、実際に、白いワンピースを着た彼女が、ゆったりとロッキングチェアーに腰掛けているのが僕の目に入る。
 そうして、今の僕の姿を、微笑みながら見つめていてくれるのを、感じている。
 その視線に犯されて、僕は、もう限界が近付いていて、『もう……達きそうです……』と伝える。
 本当に射精感がそこまで来ているのだけれど、彼女の許可を得るまで、何とか堪えて、『ええ、どうぞ』とその言葉を聞いた瞬間、僕は射精していた。

 僕は、床に放った自らの精液を舌で舐めとり、脱いでいた、下着と服を身につけた。
 彼女は立ち上がって、僕の方に近付いてくる。
 手にしたクッキーを、僕の口元に運んできたので、僕は、そのクッキーを口に含んでいった。
 最後の一瞬、彼女の指先が、僕の唇に触れた。
 ただ、それだけで、僕のペニスは再び、熱を持ち始めていて。
 しかし、もう、その事に対して、興味を失った彼女を目の前にして、自慰を行ったとしても、僕には、それ程の快感を得られない。
 射精する為だけの、行為は、僕にとって意味がない。

 そんな僕が、どうして、彼女を手放せるというのだろう。
 日常も、行為も、僕自身が彼女の感覚に支配される事を望んでいるのに。

 彼女は、詩集を手に取り、再びロッキングチェアーに腰を掛け、独り言を呟くように、その詩を声に出して読んでいる。
 今は、僕の存在を気にしてはいないだろう。
 けれど、僕は、その彼女の澄んだ囁くような声に耳を傾けていた。
 感情を介さない彼女の淡々とした声で、奏でられる詩。
 僕にはそれが、だからこそ、儚く、より澄んで美しいと感じている。
 消えてしまいそうな程、澄明(ちょうめい)な声。

 時計が鳴って、彼女の声が止んだ。
 詩集を閉じて、彼女が、僕の方へ視線を向けた。
 『どうなさいましたの?』彼女にそう声を掛けられた。
 何故、彼女がそんな事、僕に問うたのか、始めわからなかったが、僕は、涙を流していたようだ。
 『いえ、べつに』どうして、涙が流れているのかわからず、そう答えた僕に対して、彼女は『本当に、おかしな人ね』そう言って、微笑んだ。

 夕食を作る前に、夕刊を取りにいったついでに、郵便ポストを覗くと、一通の手紙が入っていた。
 名前は、僕と彼女宛。
 そして、差出人は、その男性だった。
 僕は、取り敢えず、封は開けず、そのままにしておき、夕食が終わった後、彼女に手渡した。

 彼女を、封の上から一瞥し、その封を解いて、便箋に目をやっている。
 彼女の表情からは、何も読み取れなかった。
 それから、僕に、その便箋を手渡してきた。

 少し先だが、日付と住所が書かれている。
 ただそれだけ。
 知らない場所だった。
 ただ、わかるのは、少し離れた場所だという事だけ。

 彼女に、その場所を尋ねると、彼女は、知っていると答えた。

 『(わたくし)と貴方に、来て欲しいという事でしょう』
 彼女はそう言った。

 僕が、彼女に行くのかと尋ねると、僕が行くと言うのなら、と。
 僕は、彼女に、彼女が行っても良いのなら、と答えると、僅かだが、殆ど見た事のない、複雑な表情をして、『貴方がそれで良いと言うのなら、行きますわ』と言った。

 男性が、『いずれは』と言ってから、結構経っている。
 男性自ら、その時を作ろうとしているのだろうか。
 そして、その時が来たら、何か変化を迎えるのだろうか。
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コメントコメント


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彼女は僕が思っている以上に、僕のことを心の中に置いているような気がします。
さて、この後どう収束するのか、楽しみですね!

uduki | URL | 2009年01月05日(Mon)23:34 [EDIT]


時間軸については不思議なものであると思います。
いつやるか、いつ行くか、それは後から決まるもの。
その時しかダメ、は無いと思います。

いずれか・・・自ら時は決めてゆくのでしょうか。
それがどうなるか楽しみです

まー | URL | 2009年01月06日(Tue)01:29 [EDIT]


彼女が知っているというその場所、気になりますね。
そういえば彼女が普段外出するのかも気になるので続きが楽しみです。

きっちょん | URL | 2009年01月06日(Tue)01:59 [EDIT]


この後、出かけていって、三人の関係に変化はあるのか、それとも、何かが確かめられるだけなのか。
興味はつきません。

コンテ | URL | 2009年01月06日(Tue)02:17 [EDIT]


 
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