暴走書家

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

PageTop

あるバーのシリーズ(狢)

 店で飲んでいると声を掛けられた。
 今までの男達とは違ったタイプのオトコだった。
 どこか似ている、俺と。
 多分、生きる事に対する執着が薄いんだ。

 外見はとにかく目立つ奴だった。
 長髪にブルーのメッシュを入れている。
 俺の好きなブルー。
 長髪に隠れて見えにくかったが右耳にブルーサファイヤのピアスもしていた。
 俺は、それまでかなり年上の人間と寝る事が多かったけれど、そいつは確かに年上だけど、それ程年が離れていないように見えた。
 実際聞いてみると、俺より4つ年上なだけだった。
 声を掛けられて、しばらく一緒に酒を飲んで、それからホテルに行った。

 そうしてそこで、俺は初めてそいつを抱いた。
 『抱く』と言うこと自体初めてだった。
 抱かれる事には慣れていても抱くのは初めてだ。

 けれどその行為がわからない訳ではない。
 俺が抱かれていて、どうすれば受け入れる側が気持ち良くなれるか、それはわかっていた。
 あいつは、こんなに優しく抱かれるのは久しぶりだと言った。

 セックスを終えてから色々話した。
 何故か、そいつとは話が出来そうだったから。
 俺が、実家から離れ、東京でこれから一人暮らししようと思っている事。
 俺には愛人がいるけど、いつまでもその人の家に世話になってはいられない事。

 それなら、一緒に暮らさないか、と言われた。
 一回寝ただけの相手にそれを言うか? と思ったけど、何となくそいつとなら上手くやっていけそうな気がした。

 そいつはバイトで生計を立てながらアマチュアバンドでヴォーカルをしている、という事だった。
 俺と同じように家族はいなかった。
 母親は水商売をしていて、誰ともわからないオトコの子を生んだらしい。
 小さい頃から邪魔者扱いされて育ったと。
 オトコにだらしのない母親、そいつはそう言ってのけた。

 オトコを連れ込むのにそいつは邪魔者だったらしい。
 その上、よくオトコに騙されて捨てられていた。
 その八つ当たりが息子であるそいつに全て向けられていたのだと。
 何とか、高校までは出してもらったが、それから家を追い出されたらしい。  

 音楽が好きだったから、そっちの勉強をして、今のバンドの仲間と出会ったのだと言う。
 それでも、いつもどこにいても感じる孤独感、それは癒せない。
 生きているのか生きていていいのか、それすらもわからない。
 基本的にタチもネコもするが、何となく今日は誰かに抱かれたかったのだと。

 俺を選んだのは、少し匂いが似ているからだろうか。
 俺は、そいつの連絡先を聞いてその晩はそれで別れた。

 しばらくは受験勉強に専念しよう。
 俺は何とか見事一校しか受けなかった大学に合格した。
 受験勉強から解放されて、またそいつに連絡してみた。
 一緒に住むという約束を覚えていなかったら、覚えていなかったでそれでもいい、何となくそいつに連絡を取ってみたくなったから。
 そいつは俺との約束を覚えていてくれた。
 今のアパートは狭いから、二人で住める場所を探そうという事になった。

 その人にもそいつと住む、という話をして特に反対もされなかった。
 そいつにそれ程金銭的余裕があった訳ではないから、そんなに広い部屋には住めなかった。
 そいつ名義で部屋を借りた。
 俺は、今まで寮にいたから、殆ど荷物はなくってそいつが持っている荷物が殆どだったが、これで生活していたのかと思う程少ない荷物の量だった。
 電化製品も必要最低限。
 増えたものは俺が普段着る為に買った服、パソコン、本棚くらいだ。

 そいつは殆ど料理らしい料理をしなかった。
 その人の為に俺はやっていた事があるから、家事は得意だった。
 そいつが御座なりにしがちな家事を俺が代わりにやった。
 味に無頓着な奴だったが、一人分作るよりは二人分作って食べる方が美味しい。
 俺は、食事作法にうるさい家で育った所為か、箸の持ち方も食べ方も綺麗だと思う。
 その人も、確か綺麗だった。

 そいつは、初めあんまり綺麗な食べ方をしなかった。
 だけれど、外で食べるにもやはり、美しい食べ方の方が良いと思ったから、箸の使い方、必要最低限のマナーをそいつに教えた。
 どうでもいい、という感じだったが、何とか、そいつは食事の食べ方を直そうとしてくれた。
 俺は、色々工夫して、そいつに美味しいと言ってもらおうと料理を工夫した。
 そいつは、好きなものがない代わりに嫌いなものがなかったので何でも食べてくれた。
 俺の料理のレパートリーは増えた。
 自分で色々メニューを試すという事もした。

 やはり、無表情で食べる事が多かったが、変にお世辞を言う奴でもなかったからそれで良かった。
 自己満足かもしれないが、俺が美味しいと思えればそれでよかった。
 その人にも食べさせたいな、なんて事も思ったけど、そいつの前で表立ってそういう素振りは見せなかった。

 何週か一緒に過ごす内にそいつの行動パターンもわかった。
 バンドもバイトもやっているが、何となく、という感じにしか思えなかった。
 俺はバンド仲間を紹介してもらった事もなかったし、そいつがバンドの話をする事もなかった。
 それで、プロを目指している風でもなかった。

 バイトも、食べていく為、仕方なく、といった感じだった。
 一緒に住み初めてやっぱりセックスをするのだけれど、どこか冷めていた。
 確かにその時はその時で俺を求めていた。
 けれど、一旦終わってしまうと、すっと引いてしまうのだ。
 俺は、その距離感が嫌じゃなかったし、俺自身べたべたする人間でもなかった。

 そいつにとっては、一緒に住む人間は、俺が初めてじゃなかったらしい。
 しかし、そいつの素の生活を見せると大概の人間が、数ヶ月を待たず、去って行くらしかった。
 俺には、その感覚がわからないでもなかったけれど、俺にはその感覚は当てはまらないな、と思った。

 あまりにも、そいつは、恋人と付き合う事に不器用だった。
 普通に恋愛がしたい人間なら、これだけ、冷めた人間なら、情がなくなったと思われても仕方がないと思う。
 それが、そいつという人間なのだ。
 俺は、それを受け入れられた。
 だから、そいつと一緒にやっていけそうな気がした。

 そろそろ大学が始まる。
 俺も、マネーゲームだけではなく、バイトを見つけなければ。
 大体目星はつけていた。
 俺がやってみたかったもの。
 生涯の職にする気はなかったが、面白そうだと思ったもの。

 ホスト。

 夜の街の人間関係に興味があった。
 自分という人間を作って人と話をする事、それが嫌いじゃなかった。
 それもまた、ゲームに似ている。

 そうそう、俺は、そいつと住むにあたって、その人以外の過去とは完全に決別していた。
 実家には当然知らせなかったし、実家と繋がりのある高校にも知らせなかった。
 だから、高校の方は俺が、どの大学を受験して進むかも知らせてはいない。
 調べればわかる事かもしれないが、そこまでする事も多分ないだろう。
 高校では、完全に父親の名を汚さぬ良い子を演じていたから、当然、実家に戻ったと思っているに違いない。

 それでいいのだ。

 俺は新しいスタートを切った。
 大学では俺を偽るつもりはない。
 俺の実家を知る人間もいない。
 そこで新しい人間関係を築こう。
 その生活の基盤として、その人とそいつがいる。

 俺が帰る場所は、その人の家から、そいつの住む家へと変わった。
 その人との関係が途切れた訳じゃなかったが、そいつと一緒に住むようになって少し変わった。
 一緒の住みながら適度に保つ、そいつとの距離感が嬉しい。
そういえば、そいつと住むにあたって、店では、酷い奴だから、付き合うのは止めろと言われたっけ。

 酷い奴だと言う意味はこれから知る事になる。

 けれど、それが、俺をそいつとと別れる根拠になるかというとそうではなかった。
 だから、俺も、そいつと同じ穴の狢なのだ。


目次へ
スポンサーサイト

PageTop
 

コメントコメント


管理者にだけ表示を許可する
 

 
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。