暴走書家

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『越える必要のない壁-6-』

 何故今になってなのか。
 長年に渡って、セックスフレンドという関係を続けてきたのは、ただ単に、惰性だ、という訳ではない。
 雫とて、決して遊びで俺に手を出してきた訳ではない。

 相手との関係性を楽しむ感はあるが、その場限りの遊びで、誰かと寝たり、誰かと付き合ったりはしない。
 嘗てのセックスフレンドや、それ以外で肉体関係があった人間、そういう人間とでも、どういう理由でか、肉体関係を断っても、『友人』として残る人間が、何人かいる。
 マスターのように。

 雫は、付き合っても、あまり、相手に対して『恋人』である事を求めない。
 そして、相手も何故か同じようにそれを雫に求めない。
 求めても無駄、という訳ではなく、それが自然なスタンスのようだ。

 俺自身も、雫の恋人になりたいと思った事はないし、今現在でも、そうは思っていない。
 だが現に、雫という人間を知りたい、と考えているのは、ただ単なる好奇心からではない。
 お互いが、お互いに、異例ともいうべき長さで、付き合いがあるので、結構、色々知っている面もある。

 そして、それを越えて、また一歩、踏み込んで知ってみたいと思うようになったのは、何故なのだろうか。
 歳をとってきたから、少々の安定性を求めるようになったから、そうは思わない。

 全く何の心当たりもなく、ただの気まぐれでか、という訳ではない。
 靖史との出会いと、その関係性の中で、俺の中で、何か少し変わったような感じがする。
 靖史自身が、何かしらの答えを求めて、俺との関係を続けてきた。

 靖史と雫は全く違うし、俺との関係性においてもそうだ。
 年齢の割には、考え方がしっかりしている。
 そう感じたのは、靖史が周囲の人間との感覚の違いに、疑問を持って、自ら頭を悩ませ、行動に出たからだ。

 俺は、そんな中で、僅かに手を差し伸べたに過ぎない。
 だが、僅かなヒントでも手懸りに、靖史が、靖史としてこれから生きていこうとする姿は、頼もしく思える。

 真のしっかりした人間。
 その真の強さはどこから来るのだろうか。
 色々考え、悩み、経験した結果、得る事が出来るものだろう。
 俺とて、何も考えず、悩まず生きてきたつもりはない。
 けれど、俺は、雫ほどの強さを持つ事は出来ない。

 『その日』が近付いてきて、雫から連絡があった。
 俺自身も、その日、何とか仕事をオフにして、空けておいた。
 その旨を伝えると、15時に迎え行くから、という事だった。

 実際、当日になって、15時ジャストに、インターホンが鳴って、雫が姿を現した。
 特に、普段と変わった様子もない。
 表情も、服装も。
 そのまま車を走らせ、とある墓地に辿り着く。

 元々、そんなに混雑する時期ではないだろうし、平日の昼間だ。
 他に、人は見当たらない。
 割と広くて墓の数も多いが、管理が行き届いているらしく、しっかり清掃もされている。

 こに来る途中、『手ぶらでいいのか?』、と尋ねたが、『何も持って行く必要はない』そう答えが返ってきた。
 幾種類もの墓が立ち並ぶ中を歩いて、一つの小さな墓の前で立ち止まる。
 よく見かける、標準的な和型の墓石だ。

「ここが……? 毎年来てるんだろ?」
「ああ。俺の、自己満足の為だけどな。」
「それでも、墓があるのに、誰も来てくれないのは、寂しい気がするけどな。」
「まあ、先祖代々、とか、生前に自分で建てたりとかすれば、そう考えるかもしれない。でも、それも、生きている人間が考える事だ。死んでしまった人間は、生きている時に何を望もうが、死んだ後の事まで、知る事はない。」
「だが、お前は、彼の墓を建てた。」
「今いるお前は例外として、俺以外に、ここに来る人間はいない。これも、俺の憶測でしかないけれど、あいつは、どこか、落ち着ける場所が欲しかったんじゃないのかって。帰る場所を持たない人間が、安住出来る場所。死んで骨になった人間にそんな事わからないだろうけどな。」

「お前は良くわかっているだろうが、生きている人間は、皆、いずれは死ぬ。お前自身、帰る場所がない。俺も、両親の墓に入る気もない。自然葬も、今は、認められてきれるだろ?」
「自然葬、か。変に墓を増やさないだけ、狭い日本では良いかもな。確かに死んでしまえば、自分には何もわからない。だからといって、死後の事を、全く考えないでいい訳じゃない。法律上もいろいろ規制があるし、あの世に金を持って行けないのは確かだが、死体を始末するには、金が掛かる。」

「生きても、死んでも、金は掛かる、か。でも、引き取り手のない遺体もでてくるんだろ?」
「ああ。それはそれで、規則にのっとって、きちんと処理するよ。さて、そろそろ帰るか。」
「もういいのか?」
「別に、長居するものじゃないだろ?」

 墓に背を向けて、雫は歩き出す。
 俺は、その後ろを追うように歩いて行く。

 あれは、雫の、雫が嘗て『恋人』と呼んだ人間の墓。
 そして、今日は、彼の命日。
 そう、彼が、自殺した日。

 雫は、自分の目の前で自殺した恋人に対して、何を感じていたのだろう。
 俺と知り合う前の雫。
 当時、大学生にすぎなかった雫が、引き取り手のない恋人の遺体の処理の手続きを全てとり行ったと言う。

 身近な人間の死というものは、やはり辛いものだろう。
 俺の両親はまだ健在だが、祖父母は亡くなっている。
 当然、俺も葬儀に参加したが、自らがとり行ったわけではない。
 それでも、それなりに懐いていた祖父母の死は悲しかった。
 それが、老衰であったにしても。

 しかし、雫の恋人の場合は、どういう心境を抱えいたのかは知らないが、自ら命を絶ったのだ。
 雫に見つけられる事を承知で。
 今、この日本で、自殺する人間は、決して少なくない。
 先進国の中では、誇れる事ではないがトップクラスだ。
 安易に、自殺する人間を否定する気はない。
 肯定する気もないが。

「雫は、仕事上、いわゆる、特殊な死体を扱うだろ? 自殺とかも、みるのか?」
「いや。自殺は、特別な場合を除いて、みる事はないよ。」
「でも、雫が法医学の道に進んだのは、彼の影響もあるんじゃないのか?」
「全くないとは言わないけど……。当時、生きている人間に、あんまり興味なかったからね。俺自身が、生きている事にも興味がなかったし。今は、大分違うけどね。司法解剖に対する考え方も、対面する死体に対する考え方も、目指した当初とはかなり違うよ。……でも、心構えについては、あいつの影響を受けてるかもね。」

「心構え?」
「生きる事、死ぬ事、他人と付き合う事。人間というそのもの。」
「ココロを持った限りある命を持つ人間という存在、か。人間は人間を観察するからね。そういう面は、社会学的立場から言っても興味はあるよ。」
「人間の行動は、矛盾しているようで、矛盾してない。合理的であるようで、非合理的。理屈だけでは、決して説明が出来ない。」

 それは、雫自身の事も言っているんだろうか。
 確かに雫も生きている人間だという事、それはわかってる。
 人間である以上、完璧である事はない。
 どんなに、他人の目にそう見えたとしても。

 そして、自分自身にしても、他人にしても、完璧である事を求める事、それは、不可能な話だ。
 人は他人に対して幻想を抱く事が多々ある。
 そうしておいて、勝手に幻想をやぶられて、勝手に失望する。

 得てして、その他人とは、有名人、地位のある人間、名誉のある人間。
 そうした人間は、餌食になりやすい。
 そういった人間は、善良な人徳者だとでも言いたいのか?

 また、個々人の関係においてもそいう。
 信頼関係において、裏切られた時、信じた人間が馬鹿なのだとは言わない。
 けれど、どちらにしても、お互いに責任を持って、信頼関係を結ぶべきではないのか?
 それぞれが、人間という不完全な存在なのだと。

 こういう言葉自体使うのは好きではないのだが、誰が聞いても、酷い人間だ、と思える話もある。
 だが、またそれも人間なのだ。
 どんなに、血も涙もないような人間においても。

 垣間見た一面が、その人間の全てではない。
 ただ、残念な事に、その一面しかみれない場合は多い。
 そして、そこで判断をくだす。
 ある意味仕方のない事なのかもしれないが。

 けれど、もし、その人間と、きちんと向き合っていきたい思ったとき、その全てを知った上で、自分なりに覚悟を決め、挑まなければならないと思う。
 勿論、大多数の人間に対して、それを行う事は無理だろう。
 しかし、一対一ならば。

「雫、今日は、このまま、俺の家に向かって。今日は、完全にオフなんだろ?」
 車での帰り道、そう話しかけた。
「悟の家? 構わないが。珍しいな。」
「いつも、雫の家ばかりじゃ、悪いからな。」
「気にしなくてもいいのに。」

 その言葉が、お互い、いっている事と、思っている事が、異なっているのを感づいている。
 それで尚、その言葉通りに従う。
 建て前もまた、必要な事だから
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