暴走書家

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『越える必要のない壁-5-』

 本来なら、これはしてはいけないような気がする。
 それでも、足を踏み入れてしまったのは何故だろう。
 雫は、この行為を非難したりしない。
 それがわかっているからだろうか。

 仕事を早めに終えて、どうしても、直接相手と会わなければならなかった。
 相手の都合、話の流れ上、俺が、そちらに出向く事になった。
 それが、学部は違えど、雫が勤める大学。
 俺が勤める大学も、一応、受験の難関レベルとしては高い国立大学だが、こちらは、日本最高峰と呼ばれる大学だ。
 そんなものは、名前だけだ、と雫は言うけれど、その中で生き残っていくには、やはりそれだけの実力が要るだろう。

 名の通る大学、一般的にいえることだが、そこには、本当に学校のお勉強しかしてこなかった人間も居るし、それだけで、変にプライドが高い人間もいる。
 俺も雫も、全くそういう面を持ち合わせていないか、といわれたら、そうでもないのだが、いわゆる研究馬鹿、といった類の人間も。
 大学の研究室という独特の雰囲気と慣習。
 いや、企業に行っても、研究室に入ってしまえば、そうなってしまう場合もある。

 色々な社会経験を積んで初めて気付く事も多い。
 確かに今現在、俺も雫もかなり仕事面を重視しているが、完全にそれだけに染まらないのは、やはり、それなりに若い頃に勉強以外に社会を経験してきているからだろう。
 それが、決して、役に立つ事だとは言わない。
 何が役に立つか、立たないか、は一概には言えないから。

 約束をしていた、相手と会って、目的としてきた事と研究分野に関する話題を少し交わしてから、雫が在籍する教室へと向かう。
 これだけの色々な学科をもつ総合大学だ。
 同じキャンパス内にあったからこそ、そういう気になった。
 もちろん、同じキャンパス内とは言えども、建物は違うし、広いから、探すのに苦労したが。

 やっと研究室に辿り着き、一応ノックして、その部屋の扉を開けたが、一見しただけでは、雫の姿は見当たらなかった。
 もしかしたら、今日は、観察医務院の方へ、出向いていたりするのだろうか?
 ちょうど、通りかかった研究員らしい白衣の男性に声を掛けた。
「すみません。宮下准教授いらっしゃいますか?」
「あ、はい。おりますが、失礼ですが、どちら様ですか?」
「私、こういう者ですが、こちらを、准教授に見せていただければ、わかると思います。」
 そう言って、名刺を一枚、その男性に手渡した。

 名刺を一瞥し、男性は、「少々お待ちください。」と言って、去っていった。
 確かな肩書きはあるものの、それ自体、仕事上、何の関連性があるか結びつきはしないだろう。
 暫らくして、さっきの男性と共に雫が姿を現した。
 やはり同じように白衣を身に纏っている。
 そうして、仕事上の挨拶を交わす。
「確か、教授、もう帰ったよね。教授室の方借りるから、何かあったら声掛けて。」
 その男に向かって、雫が話しかける。
「では、お茶、お入れします。」
「いいよ。私が自分でやるから。気にしないで自分の事続けて。」
「わかりました。」

「お待たせして申し訳ありません。桂木先生。こちらへどうぞ。」
雫に促されて、研究室の向かいにある教授室へと入っていく。
「何? どうしたの? 何かあったの?」
「いや、別にそういう訳じゃないけど、こっちの大学に用事があったから、ついでに覗いてみたくなって。」
「それなら別にいいけど。」
「もしかしたら、仕事の邪魔した? いきなり、来たから。」
「区切りはついているから大丈夫だよ。ああ、お茶入れてくるから、待ってて。」

 気を使わなくてもいい、そう言おうと思ったが止めた。
 雫が、一旦、お茶を入れるために、部屋から出て行く。
 それから少し経って、お盆に客人用の湯飲みを二つ乗せて戻ってきた。
 テーブルを挟んで、置かれたソファーの片方に腰を掛けた俺の前と、反対側に湯飲みを置いて、雫 がそちらへ腰を掛ける。
「一応、教授や教授の客人に出す用のお茶だから、高級品だよ。」
「どうせ、雫が選んできたんじゃないの?」
「あ、わかる? まあ、そこら辺も頼りにされてるよ。」

 確かに、高級品だというのは、その味からも、香りからもわかる。
 だが、ここまで、俺が違いがわかるのは、やはり雫の影響だろう。
 ちらりと見渡すと、テーブルの端に置かれているもの。
「これって……。」
 俺の視線の先を見て、雫の方から切り出してくる。
「ああ、将棋盤ね。教授の趣味なんだよ。たまに、暇が出来ると、よく相手をさせられるよ。」
 苦笑しながら、そう言った。

「昔、親父にルールを教えてもらった気はするけど、今ではすっかり覚えてないよ。」
「若い人はあんまりね。今は、漫画の影響らしくって、囲碁や将棋をやる子もいるみたいだけど。」
「イメージ的にあんまり、子供の遊びじゃないだろ。何ていうか、老人達が、楽しんでいるイメージがある。まあ、その道でのプロがいるのも知ってるけど。」
「うちの教授は趣味だけど、結構強いと思うよ。俺もたまたま、ある程度は知ってたから、この教室に入って、教授の餌食にされたって感じ。この教室にいる人間は、大概、教授の餌食になってるね。」

「はは、それは、また大変そうだね。」
「最初はまあ、そうだったけど、頭の切り替えにもなっていいよ。」
「でも、どっちにしたって、頭使うだろ?」
「思考経路が全く違うからね。その辺は大丈夫だよ。面白いと思うから上達する。教授にも良い刺激になってるみたいで、だから、相手にされる事が多いよ。実際続けてみると、やっぱり、ある程度、腕のある人間と対戦した方が面白いからね。」
「そういうもんなんだ。」

「次は、どういう手を打つか、その次は……って、相手の事を探りながらね。あんまり知らない人間だと、考えないで打ってくるからね。得てして、そういう手は、上手い手ではないし、手ごたえがなくてつまらないよ。」
「でも、センスってものもあるだろ?」
「まあね。」
「んでもって、雫は、教授のお気に入りな訳だ。」
「確かに、気に入られてるけど、別に、それで、昇進した訳じゃないぞ?」
「当たり前だろ。そんなに甘い世界じゃない。まあ、でも、教授にしてはラッキーだったんじゃない? すぐ傍に、趣味も満たしてくれる相手がいるんだから。」
「それならそれでいいんだけどね。ところで、悟、別に用事ないんだろ? 俺、もう帰るけど、どうする?」

 これは、誘われているんだろうか?
 『どうする?』と聞かれた時点で、拒絶されている訳ではない事はわかる。
 特に、その気があった訳じゃないけど、折角、会ったんだし、この機会は機会として逃す手はない。

「雫の家、行ってもいいか?」
「ああ、わかった。着替えてくるから、待ってて。」

 そのまま連れ立って、車に乗り込む。
「そう言えば、雫のスーツ姿って久し振りだよな。大概、私服着てるから。もったいないよな。折角のオーダーメイドで、値が張ってるんだろ?」
「それを言うなら、悟だって同じだろ?」
「あー、はいはい。そうだね。お前に紹介されたんだっけ。」
「今では、重宝してるんだろ? 大した服道楽でもないのに。」
「それは、お互い様。まあ、でも、良い腕してるから、スーツで恥をかいたことはないよ。本物の服道楽が、あの店の、あの腕を気に入るのも良くわかる。」

 実際、芸能人から、政財界まで、様々な職種の、スーツにこだわりを持った人間が固定客としてついている。
 個人でやっているとはいえ、その道では腕利きのテーラーとして有名だ。
 所謂、有名なブランド嗜好の人間もいるが、こういった手の、個人個人にあわせた、一点物であるオーダーメイドは、各人の拘りと、センスが光る。

 そしてまた、雫は、私服は私服でかなりの拘りを持っている。
 どちらかというと、こちらの傾向の方が強いだろう。
 黒へのこだわり。
 一色にこだわると、どうしても、ワンパターンに見えがちだが、そうはならない。
 雫じゃなくとも、黒い服を好んで着る人間は結構いるらしい。
 だが、それが、本当に様になるか、と言ったら、また別問題だ。

 勿論、雫位の容姿の持ち主だったら、かなりのレベルの服でも、それなりに様になるだろう。
 あまり、カジュアルなものは似合わないだろうが。
 持ち合わせた落ち着いた雰囲気。
 そして、和を漂わせる、漆黒のサラサラとした髪の毛にその瞳。
 それが、身に纏う黒い服と融合している。

 外観は、会ったこともないくせに、母親似だと言う。
 勿論、父親はわからないから、その要素をどれだけ引き継いでいるのかわからないが。
 和服を着せても、かなり似合うだろうな、とも思う。
 母親は、京都では、やはり老舗の呉服屋だと言うから、母親のその様も、かなり、着物とあっているだろう。
 実際、雫自身も、男物なら、着付けも、自分で着る事も出来るらしい。
 一度も見た事はないが。

 いや、違うか。
 着物を着た写真は見た事がある。
 といっても、女物だが。
 今でも、それ程、男臭さを感じさせないが、成長過程の未成熟な男が持つ、中性的な美貌。
 それに、あえて、女性物の着物を着せてフィルムに納められた姿。
 それでいて、所謂いわゆる、女装、とは違った趣向のもの。
 何故、俺が、その写真集をもっているかというと、たまたま、その写真家が、来日して個展を開いた時に、雫と行ったからだ。
 本当に、何故一緒に行ったのかわからない程、たまたま。

 そして、雫が黒い服を選んできる理由。
 元々、好きだった、とは言ってたが、ここまで徹底していなかっただろう。
 それに、雫が決して外す事のない、右耳に飾られている、ブルーのイミテーションのサファイアのピアス。
 雫の様々なものに対する拘りには、何かしらの根底がある。
 その根底に、囚われているかどうかは別として。

 だから、どうしても、その拘りが、気になってしまうのだ。
 もしかしたら、間違っているかもしれないが、何となく、当たりをつけているから。
 それが、どういう類のものなのか、恐らく、根底となっているものは間違っていないと思う。
 それを、尋ねる機会を伺っている。
 そして、まだ、それには早いような気がする。

 雫は、料理が好きだと言うし、誰かに食べてもらうのも、楽しいと言うし、決して手を抜かない。
 手が込んでいるものではない時でも。
 そして、その相手は、誰でも良い、という訳じゃないらしいが。
 俺が、その相手として不足ではないだろう。
 そうでなければ、こう何度も、一緒に食事を摂らない。
 俺が特別、という訳でもないだろう。
 それが、それで、不満である訳ではないし。

 それから、ベッドへ移行し、肌を重ねる。

 重ねた唇に、絡ませ合う舌。
「ん…ふ……ん………」
 僅かに漏れる吐息が、その先の行為を促す。

 ゆっくりと、舌を、肌に這わせていく。
 首筋をなぞって。
 そして、所々、強く吸い上げる。

「あ……」

 その場所が感じると知っているから。
 指で、弄って立ち上がった乳首を舌先で転がし、甘噛みする。
「ふ…ん……あ……」

 胸から下へ、再び、舌を這わせていく。
 臍の窪みに、そして、ペニスに。
 先端から包み込むように口に含んで、刺激をしていくと、勃ち上がったペニスが、更に、硬度を増していく。

 達してしまわない程度に快感を煽っておいて、ローションで濡らして解しておいた雫のアナルをゴムを被せてから、穿っていく。

 緩く抽挿を開始しながら、雫の求めにしたがって、次第に激しく、貫く。
「ん……あ…はぁ……ぁ……」
 俺自身も、限界に近付いていて、雫をイかせながら、俺も、精を放っていた。

 雫とのセックスに甘さを求めた事はない。
 それは、雫とて同じ事。
 けれど、別の次元で、何か、共感出来るものがあるのではないかと思う。
 それは、一体何なのか?

 雫の細くて長い、器用な指先に再び煽られて、快感に身を任せていく。
 そうして、雫のペニスを受け入れて、先程とは違う場所で感じて。

「は……あ……ぁ……んん…」
 感じている事を、隠す必要なんてどこにもない。
 つのる射精感も、口から発せられる声も、全て。

 そして、やってくる絶頂も。

 俺が、雫の家に泊まった事はない。
 拒まないだろうけれど、留める事もない。
 明日、また仕事がある事もわかっているから。

「なあ、雫、来週の水曜、休み、取るのか?」
 別れ際に、そう尋ねた。
「え? ああ。……悟は、知ってるんだったね。」
「俺も、一緒に行っても構わないか?」
「どうして?」
「いや、ただ……すまん。今は言えない。」
「……ああ。構わないよ。」
「じゃあ、細かいことは、連絡くれ。」
「わかった。」

 近付いてきた、『その日』。
 俺は、一歩、前に踏み出す。
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