暴走書家

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『越える必要のない壁-4-』

 メッキと本物の違い、それはどこからやって来るのだろうか。
 少なくとも人間において。
 勿論、あからさまにぼろが出るようなメッキを被っている人間もいる。
 しかし、人間というものは、どこまでが本当で、どこからが飾りなのだろうか。
 人間には、後天的に備え付けられる能力を持っている。

 何かを職業とするプロは、始めから、プロとして生まれてくる訳ではない。
 日々の研鑽と努力、そして、経験の積み重ね。
 それがなければ、プロとしてやっていけない。

 確かに、世の中には、何年に一度の逸材、とか、天才、とかいうものが存在する。
 けれど、その人間だって、その道に進まなかったとしたら、どうなっていたかわからない。
 向き不向き、というのは確かに存在して、どんなに頑張ってみても、無理な事は無理なのだ。

 その人間が、何に向いているか、その道に進む事が出来るか、それには、様々な要因が絡み合ってくる。
 生まれや育ち、周囲の環境、社会情勢など。

 俺自身、職業として、興味を持った道に進み、それで、生きていけているのだから、運もよかったのだろう。
 その運は、どこからやって来るのだろうか。
 そして、どうすれば手に入れられるのだろうか。

 雫の場合もそうだ。
 確かに、生まれ(血縁としてではなく)も、育ちもある程度までは良い。
 そう、ある程度までは、だ。
 しかし、あそこまで、『本物』として、身についているのは、高部の存在も大きいだろう。

 限りあるチャンスを、ものにする。
 一期一会、それは、人と人、そして、人と何か別のものに対しても当てはまる。
 折角、出会えても、上手くいかない場合もある。
 気付かずに通り過ぎて行ってしまう事も。
 その中で、何かしらの縁を結び、それが、どういうカタチでかはわからないが、実る事もある。

 振り返ってみると、運命付けられているように見える事でも、決してそうではない。
 偶然と必然、そして、その境界。

 数多といる人間の中で、出会い、そして別れ、何らかの関係を持つ人々。
 そんな中での、俺と雫と言う二人の人間。
 興味を持って、始めに近づいてきたのは、雫の方だった。
 雫は、一体、俺のどこに興味を持ったのだろうか。

 俺も、雫も、自分からは、相手を切り離さない。
 相手の方から、何かしらの決別を渡される。
 去るものは追おうとはしないが、決して『来るもの拒まず』といった訳ではない。
 それなりに、相手を選んで付き合っている。
 お互いを切り離そうとしないから、俺達の関係が終わりを迎える事はない 。

 では、セックス感は、といわれると、微妙な線がある。
 俺も、雫も、状況は違えど、『ウリ』をしていた。
 それに対する、捕らえ方も違うだろうが。
 ある程度安全性を保障され、管理された状態で、自ら進んで足を踏み入れ、行っていた俺と違って、雫の場合は、かなりの危険性を伴っていたはずだ。
 後から振り返って、雫は『運が良かった』とそう言うけれど。

 靖史にしてみても、その観念は違えど、自らの意思によって、管理された状態で、行っていた事だ。

 その商売から足を洗った後は、気に入った相手としかセックスをしない。
 『気に入る』というのも微妙なところだが、『好きだから』『愛しているから』そういう感情を、セックスという行為に投射させたことはない。
 いや、雫の場合は、もしかしたら違うかもしれない。
 今は確かにそうかもしれないが、かつて、雫が唯一、恋人と呼んだ人間、彼に対してはどうだったのだろうか。

 恋人として付き合っても、その関係は永遠ではない。
 感情のすれ違いがあって別れる場合もあるが、その絶対的な終焉を雫は経験している。
 雫は、その別れを何となく予感していた、というけれど、それにしても、何故……という感は否めない。
 風の便りに聞いた、その人間の事も、耳にはしているけれど、どうせ、尾ひれはひれついている事だから、どこまで信頼して良いのかわからない。

 ただ、どんな人間だったにしろ、それからの雫に影響を与えている事は間違いないだろう。
 死して尚、というか、死んだからこそというべきか。
 そんな彼を羨ましいとは思うまい。
 それは、何に対しても失礼な事だから。

 俺にも、恋人と呼べる人間が、いたこともあるが、残念ながら、性格の不一致で別れてしまった。
 勿論、その中から学んだ事はあるが、それが、今の自分にどれだけ生かされているかどうか不明だ。


 一日の仕事を終えて、今日は、雫とは約束していなかったので、一人でバーへと向かう。
 元々、一人で行く事が多かった場所だ。
 そして、独りでいることを気兼ねさせないバーだ。

「いらっしゃいませ」
 マスターのいつもの声が、俺を迎え入れる。
「何か、良いものある?」
「そうですね。新しいものではないのですが、悟さんなら、こう言ったものは如何でしょうか。」
 こういう場合、当てが外れる、といった事はまずない。
 勧められたグラスを手に取り、口に含む。
「良いですね。これも。やっぱり、マスターの腕は確かだよ。」
「ありがとうございます。」

「そう言えば、蛍、来てる?」
「ええ。たまにいらっしゃって下さいます。あまり、好み、と言うのもないんですが、好き嫌いされないので、色んなものを召し上がっていらっしゃいますよ。それに、結構、お強いですね、彼。」
「あ、そうなんだ。そこまでは知らなくって。」
「お若いのに、年配の方とも馴染んでいらっしゃるようで、御贔屓にしていただいてます。紹介していただいてありがとうございます。」
「何度も足を運んでくるのは、マスターの腕がやはりいいからでしょう。」
「恐縮です。」

「確か、マスターは、雫にスカウトされたんですよね?」
「ええ。」
 このマスターの腕も本物なら、マスターの能力を見抜いた雫の目も本物だろう。

「どうやって、口説かれたんですか?」
「口説かれたって……。元々知り合いで、私が、あるバーでバイトをしていたところに偶然いらっしゃって、雫さんに、いえ、オーナーに声を掛けられたんです。自分の店を持ちたいと思わないか、って。」
「へえ、それで?」
「まだバイトの身でしたし、独り立ちしてやっていくのには正直不安でしたが、『勉強して、この道で食べていく覚悟があるのなら』と言われまして、折角のチャンスですし、1週間考える猶予をいただいた結果、やってみる事に決めたんです。」
「でも、雫の事だから、色々言われたでしょ?」
「ええ。まあ。でも、あれくらいでなければ、ご自身で店を開こうなんて考えなんでしょう。」
「確かに。」

「それから後も、驚かされましたよ。資金面ではもちろん、人脈や、内装、外装、コンセプトにまでの細々としたこだわりようには。」
「マスターも参加されたんでしょ? マスターご自身が、一番いる時間が長いんですから。参加はいたしましたが、文句のつけようもありませんでしたよ。」
「でも、お酒の面に関しては、マスターが決められたんでしょ?」
「ええ。そちらは。それでも、そちらにも、かなり資金を割いてくださいましたし、ある程度のコネはいただきました。」

 コネクション、ねえ。
 確かに、色んな方面の人間が、色んなカタチで関わっているのだろう。
 そして、その元には、恐らく、雫と高部が絡んでいるのだろう。
 それだけのものが揃って、これだけのバーを存続させる事が出来ている。

 だからこそ、俺も靖史にこのバーを紹介したし、靖史も気に入って通ってくるのだろう。
 靖史のようにある意味特殊な人間でも、ここなら受け入れてくれる。
 そして、あの、靖史の特殊性は、もし、靖史が未成年でなかったら、雫に紹介した時点で、雫が手を出さないでいると言う確証はなかった。

 でも待てよ、もしかしたら……。
 下世話な話だが、興味はある。

「ねえ、マスター。貴方、雫と知り合いだった、って言ったけど、本当に単なる『知り合い』それとも『オトモダチ』?」
「ええと……あの、それは……」
「あ、やっぱり、『オナカマ』かな? 大丈夫、誰も、この会話を聴いている人なんていませんよ。勿論、貴方の恋人にも言ったりしませんし。」
「関係は……否定しませんよ。でも、私には、オーナーは、確かに、しっかりしていて、優しいですけれど、刺激的過ぎます。」
「刺激的、ねえ。」

「こういわせてもらうのはなんですが、悟さんも、結構イイ性格していらっしゃいますよ。そのくらいでなければ、オーナーとまともに渡り合っていけません。」

 イイ性格、ねえ。
 賛辞なんかじゃないけど、確かに、雫は、イイ性格をしている面がある。
 あまり不特定多数の相手に見せる事はないから、オーナーもそれなりに、雫の事をわかっているんだろう。
 そして、『イイ性格』と言われて、それを、賛辞として受け取ってしまう、雫の顔も浮かんでくるようだ。

 オーナーはああ言ったけれど、俺に、本当に雫とまともに渡り合っていく事が出来るだろうか。
 だが、近しい人間にそう言われて、悪い気はしなかった。

 雫が雫の為に、そして、そんな雫が作り上げた、このバーを愛する人の集う場所で。
 そして、その中の一員である俺が、やはりこの場所を求めるように。
 出会い系ではないこの場所でも、やはり、出会いはあるのだと。
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