暴走書家

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『越える必要のない壁-3-』

 相手に対して、気を使うのと、気を配るのとでは似ているようで大きく違う。
 対象としても、どちらかというと、気を使う、というのは、離れた位置にいる人間に対して使うことが多い。
 気を使い過ぎると、より遠く相手を感じてしまう事もあるし、疲れてしまう。
 また、その事に対して、相手が敏感だと、こちらが気を使い過ぎている事に対して、気後れさせてしまうことになる。

 相手は、どんなに親しい人間だとしても、自分とは異なる人間なのだから、全く同じものだ、と考えてしまう事は出来ない。
 それは、言葉遣い、選んだ言葉、態度や仕草、生活に趣味、趣向、様々なものに対する好み、感性、そして、ココロ、全てにおいてそうだ。

 俺と雫にしても、どこかの恋人にしても、夫婦にしても、友人にしても、ある程度の気配りというものは必要となってくる。
 また、それがなければ、不快な思いをしたり、させたり、また、傷付けたり、付けられたりする事になるだろう。

 それぞれを、それぞれの個性を持った一人の人間として付き合っていく事。
 人間関係において、始めから、それを知っている訳ではないし、成長する中で、その事を身に付けていく。
 相手の事を配慮する時、その結果、どういう行動に出るべきなのか、それは、その時その時によって異なる。

 異なるからこそ、それが、正解だったのかわからない。
 歳をとり、経験を重ねてみても、失敗してしまう時は失敗してしまう。
 積み重ねるべき経験に、終着点はないだろう。

 もし仮に、他人に対して、気遣いや配慮と言うものが全て面倒になって、放棄してしまったら、そこで終わりだ。
 独りで生き抜いてみせると。
 それなりに、表面上では、事務的に繕って、相手と付き合っても、誰にもココロを許さない。
 勿論、それも、その人なりの生き方だし、否定するつもりはない。
 他人にココロを許さず、理解される事を拒否し、己の意思を持って生きる事は、決して平坦で楽な道ではないから。

 雫に限らず、人の中には、絶対的に入り込めない領域、というものが存在するだろう。
 恐らく、俺の中にもあると思う。
 何もかもを許せる存在、それは、理想的かもしれないけれど、巡り合うのは難しいだろうし、そういいながら、どこかで、妥協している点が存在しているような気がする。
 そして、そんな関係においても、やはり、相手に対する配慮というものは必要だろう。
 
 雫との長い付き合いの中で、俺なりに、雫に対して、気を配っているつもりだ。
 けれど、こうして振り返ってみると、雫のそういう態度、というのは、あまり思い起こせないのだが、それでいて、気を許せる相手、として認識できているのは、雫が、配慮の上に配慮を重ね、それを、相手に気付かせないようにしているからなのだろう。
 時折見せる態度も、そのさり気なさに、こちらが気負う事はない。

 今の、俺の雫への態度は、幾分か、雫にも気を使わせている事だろう。
 俺が、雫に対して、気を使っている、という事を感じ取っているだろうから。
 これは、俺の雫に対する『甘え』なのかもしれない。
 それを許す、雫は今の俺に何を感じ取っているのだろうか。
 何にせよ、もう少し、もう少しで良いから時間が欲しい。

 ここのところ、恒例化してしまったように会う約束を取り付け、バーで落ち合って、雫の家へ向かう。

 まだ時間が早い事もあって、雫の料理を、堪能させてもらう。
 今回食べさせてもらったのは、いわゆる、『京料理』というものだろう。
 料亭で出てくるほど豪華ではないにしろ、それなりの素材を揃え、綺麗に盛り付けらている。
 その話題に触れると、『一人でここまで作っても、何となく寂しいからね。ちゃんと味がわかって、綺麗に食べてくれる相手がいると嬉しいよ』と逆に感謝された。

 日本人だからといっても、綺麗に箸を持てない人間も今は多い。
 料理への手のつけ方、箸の使い方一つにしても、本当は、かなり細かな作法というものがあるのだろう。
 俺は、一応、基本的な事は知ってはいるが、あまり細かい部分までは知らない。
 雫の方は、きっと、きちんと身に付けているだろう。
「確かに、事細かく決まりはあるけれど、そこまでして守る必要はない。相手を不愉快にさせない程度に知っていて、美味しく食べてくれる方が、堅苦しく守り通すよりもいいよ。」
 そう雫は言う。
 雫にとって、それが、どの程度なのか、と尋ねてみると、『箸をきちんと使えて、後は、口に食べ物を入れながらしゃべらない、っていう程度かな』という答えが返ってきた。

「誰がどうして決めたのか知らないけどさ、不必要なほど、細かい決まりってあるよね。和食にしても、洋食にしても。まあ、多分、今は、昔ほど厳しくないだろうけど。」

 勿論、決まり事は、食事に関するマナーだけではない。
 社会で生きていくためのルール。
 道徳の規範。
 そして、様々な法律。

 法律と言うものは、本当に、事細かに定められている。
 知らなかったでは済まされない法律。
 弁護士という立場の雫なら尚更だろう。
 立場上、その知りえた知識によって、法律を守る。
 それでいて、雫の感じるところ、不要だと思える程のものをたまに皮肉ってみせる。
 だからもし、多少違法な事でも、見逃してみせるケースもある。
 例えば、俺と靖史の件においても。
 その事で自体、雫の立場が悪くなろうとも。

 表面上は、道徳や法律は、作動しているように見えても、それが届かない場所もある。
 雫自身が、そういった状況下において、育ってきたから、そういう事もわかっているのだろう。

「そう言えば、雫は、父親はわからないけど、母親の事はわかるんだろ? 会って、話しとかした事あるのか?」
「ないよ。物心つく前に、別れて出て行ってしまったからぜんぜん覚えてないし、宮下の祖母が決して会わそうとはしなかったからね。」
「実家から離れた今なら、会えるんじゃないのか? 会おうとは思わないのか?」
「物理的には可能だよ。誰が、母親か、知っているし。でも、会おうとは思わないな。恨んだ事もあるけど、今はもうそんな気はないし、昔、何があったのかを知ろうとも思わない。知ったところで、何も現状は変わらない。」
「もし……もしだよ? 向こうから、会いたいって言ってきたらどうするの?」
「……そうだね。俺は、母性本能、なんてものは信じないよ。でも、彼女が、彼女の気持ちが、それで治まるのなら、一度だけでいいのなら、会うだろうね。」
「交流する気はない、ってことか。」
「そこまで、彼女の懺悔に付き合う気はないし、それに、知らないでいた方が良い事の方が多過ぎる。まあ、この年齢になっても、連絡がないって言うのは、向こうも、別に、そんな気はないんだろ。」

「まあ、お前には、涙の再会、っていうのは似合わないけどな。」
「だろ?」
「でも、今は連絡がなくても、もしかしたら、死ぬ間際に、『一度で良いから、会って、謝りたかった』とか言ってくるかもしれないぜ?」
「はは。そうしたら、そうしたで、手を握って涙を流しながら笑顔で『大丈夫、心配しないで、僕は、幸せにやってるから、お母さん』とでも言って見せるよ。彼女の気がそれで少しでも晴れるなら、それで良いじゃない。」

 雫の母親は、何を思いながら、雫を生み、そして捨てたのだろうか。
 いや、雫の実家に捨てさせられたのか。
 結ばれる事のなかった、母と子、父と子、という絆。

「雫は、それなのに、遺伝子鑑定や、親子鑑定をするんだろ? なぜだ?」
「犯罪上の遺伝子鑑定は別として、親子鑑定って不思議だよね。どうして、この人たちは、そんな事に拘るんだろうって。何を確かめたくて、鑑定するのか。もちろん真実を伝えるけれど、望んだ結果を得られたんだろか、ってね。」
「雫は、血の繋がっている事が、身近な存在だと思わないもんな。」
「いくら遺伝子配列に共通点があったとしても、やっぱり他人は他人だもの。俺には『生みの親より、育ての親』っていう方が、しっくりくるな。」

「遺産相続とかで、鑑定依頼されることもあるんだろ?」
「そうだね。母親はさ、そのお腹を痛めて生むんだから、自分の子供だって確実にわかるだろ? でも、父親の場合は違う。信じるしかない。そして、実際疑う人間もいる。でも、実際思うよ。一言にDNAって言っても、その核の中にある、DNAを調べるんだけどさ。細胞にはミトコンドリアDNAがあって、それは、母親のものを受け継ぐんだ。女性の卵子と男性の精子が絶対に必要だけど、その情報量として受け継ぐのは、女性側のほうが圧倒的に多い。精子も確かにDNAに影響を与えるけど、媒介に過ぎないんじゃないかって。確実に血縁を残したいなら、婿養子、っていうカタチの方が確実だろうな。そうなると、本当に、オトコの立場ってどうなるんだろうね。」
「仕事さえしてればいい。そして、優秀な遺伝子さえ分けてくれたらいいってか? でも、実際人工授精が可能になって、それを望む女性だって出てきてるんだろ?」
「見た目はね、何となくわかるんだよ。でも、優秀な男性の精子の遺伝子配列が、果たして、優秀なのか? と問われると、そこまでは答えられないね。」

「以前さ、『女は子を産む機械』って言って非難された人がいるけど、『男は種として存在する』って言う方があってるような気がするよ。」
「種はいっぱい余ってるよ。女性は、一度に何人もの男性の精子を受け入れることは出来ない。そして、女性より男性の方が数が多い。その上、子供を生まない事を選択する女性も出てきた。」
「男尊女卑の時代が続いてきたけど、そうしなきゃ、オトコはやってられなかったのかな。今は、行き過ぎて、女尊男卑って言うのも出てきてるけど。『原始、女性は太陽だった』ってやつか。」

「ああ。まあ、何もかも、オトコとオンナが平等っていうのは難しいだろうね。そもそも、オトコとオンナに限らず、平等、っていう原理が難しい。ただ、何となく、生命の鍵は女性が握っている感じがするけどね。」
「お前、そんな事考えながら、仕事してる訳?」
「まさか。でも、他人事だから面白いよね。本当の遺伝子の繋がりと、ココロの繋がりって。」

 確かに他人事だろう。
 けれど、そんな、親子劇の中で、雫自身は何を考えているのだろう。
 血の繋がりとは関係のない世界で生きてきた雫が、この職を選んでいる。
 もちろん、『血縁』が、雫をこの仕事に就かせた原因ではない。

「何にしても、興味が尽きないのは良い事で。」
「それは、悟だって同じだろ? じゃなきゃ、何かを研究し続けるなんて出来ない。」
「まあな。それ以外でも、生きていく内は、勉強ばかりだ。」
「勉強も、楽しみも、尽きない方が良いだろ?」

 楽しみ、ね。
 これも、楽しみの一つ、か。
 それならば、と。

 ベッドの波に溺れて。
 雫に貫かれて、その身を委ねる。

「ん……あ……ああ…はぁ…ん…」
 快感を享受する楽しみを。

 愛撫を施された肌は熱を持ち、その感覚は研ぎ澄まされている。
 僅かな刺激が、更なる快感を呼び起こす。

「ふ……ぅん……んん……」

 アナルの裡も、ペニスも擦りあげられて、堪らずに、放っていた。
 締め付けた、アナルの裡で雫も同様に。

 それが、一度きりで終わらないのは、お互いに享受し合うことを、望んでいるから。

 雫の裡に入り込んで、そのカラダを堪能する。
 突き上げるたび、従順に反応する、官能の兆しを。

 そして、果てた欲望は、気だるい満足感をもたらす。

 いつの間にかキッチンから戻ってきた、雫に手渡された、グラスのレモン水で喉を潤わせる。
 渇いた喉にも、満たされたカラダにも、安らぎの一時。

 僅かに知っている過去から、それを引きずり出して、どうしようと言うのだろう。
 出来れば、それを、現在に、未来に繋げたい。
 そう、何が待つかわからない、これから先へと。
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成る程~思いやり、気配り、勉強になります。間違えのおかげで印象深いものになりました。ありがとうございます。

まー | URL | 2009年01月12日(Mon)14:24 [EDIT]


 
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