暴走書家

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

PageTop

『越える必要のない壁-2-』

 雫も俺も、それのなりに、それなりの人間と付き合ってきているから、何となく相手の微妙な違いがわかる。
 相手の事を観察しようとする癖を、俺も、雫も持っている。
 色々な経験から言って、俺が雫に敵う事はないだろう。

 人はそれぞれ、生まれて来る環境を選べない。
 その結果、今まで歩んできた雫の人生と俺の人生を比べるなんて事は無意味だ。
 ちょっとした強引さと、引き際の加減。
 それをわきまえるのは難しい。
 相手の立場や意思を尊重したいからこそ、難しくっても心得ておかなければならない。

 雫が、自分自身の過去をどれだけ受け入れ、どう克服して生きているのか。
 人が誰しも持ち合わせる、強さと弱さ。
 強さを強調するだけが、ベストではないのと同時に、弱味を見せることが、決して、己の立場を低くすることには繋がらない。

 勿論、それをする相手は限られてくるだろう。
 だが、少なくとも、俺達の間では、そういった事はない。
 セックスフレンドであるという壁は越える事はないだろう。
 しかし、それでいて、それ以上の何か、があるのは確かだと思う。
 俺は、それを確かめたかった。

 雫は、相手が、自分の事をどういう風に見ているのか大体把握している。
 そして、その通りに振舞う事もあるし、いい意味で裏切る事もある。
 どこかで、自分という人間を演じて見せる事、それをある種楽しみにしている節も感じられる。
 だから、嘘を付くのも上手い。
 下手な人間が付くと、不整合性でどうしてもばれてしまうけれど、現実の中に上手く嘘を塗りこめて、あたかも、それが真実であるように錯覚させる事も出来る。

 相手にとって、不愉快さを感じさせない嘘、そして、その嘘を突き通す覚悟、時には、それが、お互いの為になる事もある。
 俺に対して、それをしないのは、ある程度現実を知っていて、その現実が、過酷なものであっても、俺自身が受け入れる能力を持っていると認めてくれているからだろう。

 再び、雫に連絡を取り、バーで落ち合って、雫の家に向かう。
 嘗て、雫の愛人だったオトコ、高部が買い与えたマンション。
 愛人としての関係が切れた今でも尚、交友関係は続いていると言う。
 実の父親を知らない雫が、『父親のような存在』と評するオトコ。

 はっきり言えば、高部がしていた事は犯罪行為だ。
 社会的に法を守るべき立場にある高部が、その禁を犯してまで、雫の中に何を見ていたのだろうか。
 勿論、俺自身も、他人の事は言えない。
 俺が、靖史との関係を続けた事、それは、言い逃れの出来ない事実だ。
 それぞれ個性を持つだろう人間の中でも、一風変わったように、そしてどこか、同じような匂いを持つ靖史という人間の成長を見てみたいと思った。
 それなら単に、普通の関係を、持てばいいだろう、という話なのだが、世間的には認められない、と知りながら、手を出し、その関係を続けてしまった。
 靖史がそこに何かを見出そうとしていたので、余計に手放せなかった。

「そういえば、高部さん、今、どうしてるの?」
「んん? 特に変わった事ないんじゃない。恋人とは上手くいってるみたいだし、仕事の方も、まあ、忙しそうだけど、順調みたいだし。」
「確か、バーの方も、出資してもらってるんだろ?」
「ああ、それね。そっちの方は、全部返済したよ。あのまま、共同出資でもよかったんだけど、あんまり甘えるのもね。まあ、このマンション貰っておきながら言うのも何だけど。」
「そこら辺の線引きは、お前なりにしてるんだろうけどさ、よくそんな金作れたよな。お前、確か、実家にも、金使ったんだろ?」
「切り詰める所を切り詰めて、儲けようと思うところで、そうすればなんとかね。でも、実家の話なんて、もう随分前の話だろ? 向こうからは、とっくに見放されてたし、俺なりに、俺自身が、完全に縁を切る為にやった事だ。変に恩を着せられたくないしね。」

「完全に絶縁、か。完璧主義というか、その拘りは凄いよ。普通そこまで思い切れないから。」
「別に、完璧主義な訳じゃないよ。まあ、でも、心理的にも、金銭的にも、縁を切る事が出来て、吹っ切る事が出来たから。確かに厳しかったけど、礼儀作法は身に付ける事が出来たし、あそこにあった、日本の良いもの、を改めて認識する事が出来たよ。」
「それが、お茶とか、御香に対する拘り?」
「そうそう。本質的に好きなんだろうね、俺自身が。その事で、実家の事をどうこうもう、思い出したりしないよ。」
「でも、耳には入ってくるんだろ?」
「直接は来ないけどね。高部さんから聞いた。弟が、継ぐんだろうね。まあ、向こうにしたら、年も離れてるし、物心ついてからは、会った事ないから、俺の事なんて、知らないんじゃない? 戸籍上は、残ってしまってるけど、血縁も何も、関係ないし。それに、全く関係ない職に就いてしまってるだろ?」

 血縁や血統、それを重んじる家。
 古くからある京都では名だたる茶道の名家だと聞いている。
 血の繋がりはないにしろ、戸籍上では正式な長男だから、遺産相続なんかにも関係してくるんだろうが、おそらく、雫は、そこら辺も、きちんと法律的に勉強して放棄しているのだろう。

 多少金はあっても、跡目争いが起きるような家に生まれつかなかった、俺には想像出来ないだろう。
 だから、俺は、独身を通して、子供を作らなくってもやっていける。
 そして、俺は、家族にゲイである事を告げる気はない。
 多分、その方が、両親にも負担にならないだろうから。
 ただ単に、結婚相手に恵まれなかった不運なオトコ、それで、十分だ。

「そういえば、もう周りの友人を見渡せば、随分の人間が結婚して、子供がいたりするんだよな。」
「早い人は早いし、遅い人は遅いからなぁ。女性は、やっぱり、早く結婚して、早めに子供を作った方が、安全だけど、俺の大学時代の友人の一人は、早く結婚したくせに、全く子供作る気ないしな。『出来ない』んじゃなくて、『作らない』。まあ、出来なくって、欲しい夫婦からしたら、贅沢なのかもしれないけど、その選択を、否定する事なんて、誰にも出来ないだろ。」
「まあ、そうだよな。ゲイでも子供が欲しい人だっているしな。俺は、そういう風に思った事ないけど。」
「俺もないな。後二人、俺の友人で、親しい人間が、男と女、一人ずついるけど、この二人は、モテるくせに、全く結婚する気ないからな。」
「何か、雫の友人らしいよ。」

「どっちにしろ、俺達には関係ない話だろ? 何? それとも、悟、ゲイ婚したいの?」
「いや、ふと、何となく思いついてね。ほら、今でこそ少なくなったけど、一時期は、上官とか、親から、勧められたりしたからさ。」
「それは、それで大変だな。上手く断るの、気を使うだろ?」
「本当の理由言う訳にもいかないしな。」
「まあ、その点で言うと、俺は、職場の人間も知ってるから、全然そいうのなかったけど。」
「受け入れられている事実は羨ましいと思うけど、カミングアウトするにもリスクを伴うだろ? 俺には、そのリスクは踏む勇気はなかったな。」
「別に、俺の場合、勇気じゃないよ。既に、大学時代に、半分は自棄でカミングアウトして、そのまま大学に残ったから、ずるずると、って言う感じだから。」
「自棄ねぇ。それでも、ある程度は覚悟はしてたんだろ?」
「まあ、そりゃあ、一応はな。」

「そういえば、久し振りに雫の料理食べたよ。本当に、感心するよ。」
「悟だって、自分で作るだろ? それに、褒めても、何にも出てこないぞ。」
「雫には敵わないよ。あ、食後のお茶入れてくれるだけでいいから。」
「はいはい。」

 圧倒的に独りで食事をすることが多いけれど、他人に食べてもらうのは嫌いではない。
 雫も、俺も、それは同じ。
 そして、独りだからといって、決して手を抜かないところも。
 手を抜こうと思えば、ずるずると妥協出来る。
 一度妥協してしまえば、それを持ち直すのは難しい。
 勿論、妥協しないでい続ける事も難しいのだが。

「雫は……」
 更に話し掛けようとして、止めた。
 まだ時間はある。
 焦る事はないから。

「何?」
「いや、なんでもない。シャワー浴びてくる。」
 雫は、恐らく、俺が、今、何か誤魔化そうとしている事に気が付いている。
 けれど、雫から、その話を強いてくる事はない。
 そして、隠そうとした俺に気付かない振りをしてくれる。

 本当に気付いて欲しい事なら、ちゃんと、話しやすいようにしてくれる。
 それが、雫なりの優しさ。
 その優しさの根底にある、厳しさを、また俺は知っている。

 俺達が、カラダを重ねる事に意味などない。
 それでも、その心地よさに身を委ねてしまう。

 キスを交わし、俺の愛撫に身を任せる雫は確かに魅力的だと思う。
 それは、逆でも同じ事。
 でも、今は……。

 その肌に、指を、舌を這わせ、繰り返し刺激をする。
 それに、素直に反応してくるカラダ。
「んん……あ…あ……」

 本当に木目細かい、日本人の肌、と言うのは、こういうものを言うのだな、というのが、雫を抱いているとよくわかる。
 不健康ではなく、どちらかというと、しっかりと鍛えられた筋肉を持つ白い肌が、僅かに朱色に染まっていく。

 そして、欲望の兆しをみせている、お互いの勃ち上がったペニス。
 そこから、雫のアナルに指を伸ばす。

 十分解したアナルに、ペニスを挿入していく。
 その締め付けのキツさに、達してしまいそうになるのを我慢して、抽挿を開始する。

「ふ……ん……あ……」
 漏れ出る喘ぎが聴覚を刺激する。
 全ての感覚を持って、意味のなさないはずの快感が、脳髄に行き渡る。

 そうして、向かえる、射精という解放。
 確かに、それを求めているはずなのだけれど、本当に、解放される事を求めているのだろうか。

 一度、射精して、再び勃ち上がった雫のペニスを受け入れて、受け入れる事によって、また、別の快感を感じることが出来るのは、ただ、精を吐き出す、という事が全てではない、という事を感じる。

 虚しいとは思わない。
 この行為を。
 そして、俺達の関係を。

 無駄だと、諦めてしまえば、そこで終わり。
 本当に無駄な事でも、充実している時はあるから。
 大きく変化することはないだろうけど、僅かに変えようとしている、俺達の関係性が、どうか、壊れないようにと願っていた。

 家まで、車で向かいながら、そんな事を考える。
 このままでも良いのだけれど、ここままでいたくない。
 俺に対して、雫から働きかける事はないだろう。
 だから。

「また、連絡するよ。」
「わかった。」

 僅かに会話を交わし、去っていく雫。
 見送りはしない。
 ただ、前へと進むだけ。
スポンサーサイト

PageTop
 

コメントコメント


管理者にだけ表示を許可する
 

 
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。