暴走書家

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『まやかしの共有-4-』

 独りでいると考えてしまうから、何とか無理矢理、他人の輪に入って、その話題に耳を傾けていた事もあった。
 俺から話しをする事は殆どなかったけれど、それでもたまに、意見を向けられる事もある。
 当たり障りのない範囲内で答えて、適当に笑って誤魔化して、そして、そんな中で、独りでいるよりもずっと孤独を感じた。

 社会に溶け込もうと努力した結果、どうしても追い付けなくて、疎外感を感じて、自分からも、距離を置くようになった。
 ある程度は仕方がないと思っていた、価値観の違いも、決定的なもので、俺自身の存在価値観すら否定されているようで。
 じゃあ、そもそも、存在価値とは何か、自分に問うてみても、答えなんて出なかった。

 想一には、独りで考えて過ぎるとよくない、と言われたが、それはどこかで気付いていた事で、それでも、自分の頭で考えなければならないと、思っていた。
 考えて、考えて、考えた結果、俺が欲しいものは何なんだろうか。
 もし仮に、何か欲しいものがあったとしても、待っているだけではどうしようもないから、やはりその事についても考えてしまう。

 他人を愛せない、そして、それ以上に自分の事を好きになれない。
 そんな俺を、俺の都合の良いように愛してもらおうなんて、そんな事が叶うはずもないし願っている自分もまた嫌だった。
 俺は、それでも自分が大切なんだろうか。

 想一からの『近い内に』という『近い』という、想一の感覚もわからなくて、わからなけど、何となく、やはり想一のいう『近い』という意味は、多分、俺の感覚とも、世間の感覚ともどこかずれているような感じがして、本当に、期待せずに、ただ日々を過ごしていた。
 会ってから、どれくらい経ったのか忘れてしまったけれど、期待していなかった分、その連絡は早かったように思う。

 今度の連絡は、1週間後の夜に、時間が取れるかどうか、尋ねて来た。
 世間の感覚とはずれていると感じる俺だけど、この間のような、いきなり『明日空いているから』なんていう連絡の取り方より、今回の方が、普通だと思う。
 『普通』という言葉が嫌いな俺でも、そう思う。

 そして、それくらい余裕を持ってくれれば、俺としても、殆ど埋まる事はないが、予定の立てようもあるし、仕事の都合だってつけられる。
 了解の旨をメールで伝えると、具体的に待ち合わせ場所と時間が送られてきた。

 時間としては、中途半端なのだが、バーがドリンクオンリーだというので、仕事場の近くで、夕食を摂って、待ち合わせ場所に向かう。
 しかし、まあ、あれだな。
 予測は何となくしてたのだが、想一は、自分で時刻を指定しておきながら、15分程遅れてやって来た。
「ごめん、ごめん。ちょっと遅れちゃった。」
 そこで、俺が『そんな事ないよ、俺も今来たばっかりだから』なんていう関係でも俺の柄でもなくて。

 店を知っている、想一が、道順を案内するように俺の横を歩いている。
 そんなに、遠くは無いから、という割には、結構歩いた気がするのだが、やっぱり、これは想一のいう、『そんなに』と俺の感じる『そんなに』の違いなのだろうか。
 が、そうではなかった。

「あ、ちょっと、迷っちゃったみたい。ごめん、一度、駅に戻ってもいい?」
「はあ。」
 あれだけ、自信満々に道案内をしていたように見えたのに、道を間違えたのか。
 来た道を何とか、戻り、駅に辿り着くと、想一は、地図を取り出した。
 始めから地図を見れば良いのに。

 地図を見ながら、再び、歩き始める。
 分かれ道と地図を確認しながら何とか店に辿り着く。
 少し大きな通りから、横道に入ってすぐのところだった。
 が、入り口はバーという感じの、店ではない。

 確かに、一応標識に『Bar-Labyrinth-』銘うってはあるのだが。
 店内に入ると、その独特の雰囲気に飲み込まれそうになる。
 あまり、こういった形式のバーには来た事が無い。
 だから、こういう傾向の店として、これが、どの程度なのかわからないが、日常とはかけ離れた、亜空間という感じだ。

「いらっしゃいませ。」
 低く、落ち着いたトーンの声が出迎える。
「お久し振りです。マスター。雫、もう来てます?」
「ええ。はい。あの、失礼ですが、お連れ様? お仕事の方で?」
「いや、仕事ではないんです。プライベートの方で。」
「そうでしたか。今、少し奥におりますので、声を掛けて来ます。」
「お願いします。」

 マスターが場を離れ、その人物を呼ぶ為に姿を消した。
 少し奥で、マスターとその人物らしき人が、会話を交わしているのが聞こえる。

「オーナー、桐生きりゅうさんがお見えになりました。でも、お仕事では無いそうで。」
「想一が? 用があると言うから、てっきり、仕事の事かと思ったのだけれど。」
「お連れ様もいらっしゃるようで。」

 それから、程なくして、マスターと、そのオトコがやって来た。
 オーナー、と呼ばれていたが、まだ若そうに見える、が、その落ち着いた雰囲気が、年齢不詳にしている。
 決して、目立つのではないけれど、恐らく、会ったら忘れないだろう、その整った容姿。

 優しく微笑んで、声を掛けられた。
「始めまして。いらっしゃいませ。」
「あ、こちらこそ始めまして。」
「珍しいじゃない? 想一が、仕事以外で、この店に来るなんて。」
「たまには、来てるよ。本当に、ごくたまにだけど。まあ、今日は、俺が来たかった、っていうより、こいつを連れて来たかっただけだから。」

「それは、ご紹介、どうもありがとう。申し遅れました、私、宮下雫、と言います。雫、で構いません。あまりかしこまられても、困るので。」
「籐也と言います。根岸籐也ねぎしとうや。」
「籐也さん。よろしくお願いします。で、想一、私に、何か用でも? でなければ、私を一々呼び出したりしないでも良いでしょうに。」

「俺が、用、っていうよりも、籐也を一回、雫と会わせたくって。雫なら、色々話が出来るだろうから。」
「話なら、マスターの方が、聞き慣れてますよ。」
「将来的には、マスターが聞いてくれても良いんだけど、今は、雫の方が、相手になると思うから。」
「私は別に構いませんけれど、どういうお話なのですか?」

「俺が、言うよりも、直接、籐也の口から話した方が。」
「あの、でも、俺自身も、あまり上手く話せるかどうか。」
「それで構いませんよ。仰りたくない事があれば、それはそれでいいですし。私自身が、想一や籐也さんのご期待に沿えるかどうかもわかりませんし。ああ、でも、その前に、折角、店に来ているのだから、何か飲みませんか?」

 想一は想一で自分の好きな物を頼んでいたし、雫さんは、特に頼まなくても、という感じで、マスターが、俺のアルコールの強さとか、好みとか聞いてくれて、数種類提示されたお勧めのメニューの中から、選択した。

 頭の中で、ぐるぐる回っている言葉が、どこから、何を、どう話せばいいのかわからなくて、逡巡していた俺に、雫さんが、俺が話しやすいように、言葉を提示してくれて、それに助けられて、俺は、今まで、本当に誰にも打ち明けた事のなかった、かなりの話を、初めて会った、雫さんにしていた。

 その原因が、アルコールにあるのか、この店の雰囲気にあるのか、それとも雫さんが促してくれるからか、多分、全部なのだと思う。

「籐也さんは、『わかるよ』とか、そういう言葉、嫌いでしょうけど、何となく、感覚的に理解出来る気がしますよ。人は、生きている限り、幻想の中の迷宮で彷徨い続けます。それが、自覚的でも、自覚的でなくても。籐也さんは、それに気付いてしまった時、その中で、多くの人との共有できない感覚が沢山ある分、独りで、深い場所まで行ってしまったんでしょうね。答えなんてないとわかりながら、それでも、答えを求めて、問い続ける。そういう人の中でも、何とか、自分を誤魔化して、社会と適合させて、自分自身を納得させる人もいます。それで、楽になるのなら、それがその人の生き方だけれど、でも、籐也さんは、それが出来ないし、そして、そこに『癒し』も求めていない。想一が籐也さんに言ったように、こういう問題は、独りで考えても、堂々巡りになるし、頑なな思考を生み出してしまいます。多分、籐也さんは、ずっと続けていらっしゃったから、結構、もう、そういう部分もあるんじゃないでしょうか。」

「ええ、きっと。今話をしているのが不思議なくらいです。偏りすぎた思考が、もう誰の意見も耳に入れたくなくなってしまっていて。」

「それでも、想一とは、何回か会われているのでしょう? そして、ある程度話しをしたから、恐らく、想一は、こちらの店に籐也さんを連れて来られたんでしょうから。」

「会ったのは、本当に数回くらいですよ。」
「それでも、籐也さんとは違った意味で、世間からずれているのは、わかるでしょう? きちんと仕事は出来るし、仕事に対する熱意とセンスは、かなりのものだから、私も仕事をご一緒させてもらったんですが。」

「雫さんは、想一と会って、もう長いんですか?」
「私が、この店を立ち上げる時からですからね。もう結構経ちますね。当初は、結構顔を会わせましたが、店の方も、ある程度落ち着いてきているので、今は、滅多に会いませんが。手がける仕事も多くて、この店構っている暇もないでしょうに。」
「それでも、この店の事、雫さんの事は、印象に残っているみたいですよ。」

「どんな印象なんでしょうね。まあ、いいですが。私も、想一程ではないですが、仕事は一応忙しいですし、籐也さんも、お仕事があるでしょうから、大変でしょうが、私は、籐也さんがされた類の話は嫌いではありませんし、籐也さんさえよろしければ、またここで、話をさせてもらってもいいですよ。勿論、私を介さなくとも、この店を少しでも、気に留めてくださったら、また来てくださったら嬉しいですし。」

「問題が、解決した訳ではないけれど、話せる場所が出来て、良かったです。でも、俺の問題を持ち込んで、雫さんに、甘えるような真似はできません。」
「甘え、ではありませんよ。誰かと対話をする事は、大切な事です。それは、決して、一方的なものではありません。それは、籐也さんが、私と話しても、想一と話しても同じです。」

「また、寄らせてもらってもいいですか?」
「ええ。ああ、でも、想一と一緒に来られたんですよね。どうせ迷ったんでしょう。地図も渡したのに。籐也さんにも、一応渡しておきましょう。後、こちら、私の連絡先になります。いつでも、という訳にもまいりませんが、こちらの店でなら、お話のお相手させてもらいますよ。籐也さんは、まだ沢山問題を抱えてそうですから。では、すみません。私は、ここら辺で失礼させていただきます。」

「あ、はい。今日はありがとうございました。」
「いえいえ、こちらこそ。」

「想一も、ありがとう。想一も、携わったの? この店に。」
「ああ、少しは。雫のこの店への徹底ぶりには、正直、苦労させられたよ。まあ、だからこそ、印象が深いんだろうけどな。ところで、マスター。雫って、今誰かいるの?」
「さあ、オーナーのそう言ったプライベート面は、全然感知しておりませんので。」

 対話をする事。
 それは、俺が諦めていた事。
 絶対にわかり会う事はないから。
 でも、想一とも、雫さんとも、いや、この人達が与えてくれた機会を、少なくとも今は、大切にしよう。
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