暴走書家

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『この瞬間を永遠に-4-(完)』

 それからも、何とか二人の時間が作れてたまに会ったりしてたけど、特に変わった事はなかった。
 もちろん、琢磨は忙しいし、時間が取れても、疲れている時もあっただろうけど、少しもそんな素振りは見せない。
 それは、医者として、仕事をしている時でも、患者に不安を与えないように平然としているのが努めなんだって。

 例え暫らく連絡がなくとも、もう何年も付き合っていれば、いつもの事になってしまっていて、仕方がない、と諦めるしかなかった。
 会えないからといってくよくよするのはゴメンだ。
 空いた時間は、一人でもそれなりに楽しめる方法もある。

 そういえばまた暫らく会ってなかったな、と思ったある日、琢磨から連絡があった。

 病院に暫らく入院している、という事だった。
 暫らくって、どれくらい? と聞いても、答えは返って来なかった。
 琢磨が勤めている病院。
 それまで一度も足を運んだ事はなかった。

 病室は個室で、とてもクリーンな感じだった。
 久し振りに顔を見たけど、別段変わった様子はなかった。
 入院しているのが不思議なくらいだった。

 自宅へ帰る途中に倒れたらしい。
 それを、琢磨は、倒れたのが仕事中じゃなくって良かったと笑って言っていた。
 まして、手術中なら大事だからね、と。
 確かに、手術中に倒れれば、患者の危機に繋がるだろう。
 やはり、琢磨にとってはこんな時まで、患者優先なんだな、と思った。

「入院してたら、仕事出来ないね。どう、久し振りにゆっくりしてる気分って。そういえば、ご両親は? お見舞いに来たの?」
「ああ。昨日ね。でも、入院してるのって退屈だね。でも、急に休んじゃったから、同僚に迷惑をかけてしまって、あっちは、忙しいだろうな。」
「それで? いつまで?」
「もう、大体の事は分かったから、もうすぐ退院するよ。それで……今の仕事、引継ぎをして、仕事、辞める事になる。」
「え? 辞めるって……どうして?」

そこで、琢磨は一旦、言葉を区切った。
微妙な沈黙が俺たちの間を流れる。

「俺は……もう、仕事場に立つ事が出来ないから。立っても、患者にも迷惑が掛かるだけだから、もう立たない。」
「辞めて? 辞めて、どうするの?」
「章吾……俺はもう長くはない。暫らくずっと、体調が悪くて、でも疲れの所為だと思って、何とか、その症状を抑えようと薬を飲んでた。そうすれば、何とか耐えて仕事が出来たし。実際、自分が、重い症状だなんて思ってもみなかった。でも、だんだん、薬も効かなくなってきて、気がついたら、意識を失って、病院に運ばれてた。それで、色々検査をして……。脳腫瘍だった。今から考えてみれば、思い当たる前兆はあったんだな。俺の専門範囲じゃないけど、実際検査結果を見せてもらって、もう、手のつけられる状態じゃない事は明らかにわかった。手術は出来ない。化学療法もあるけど、気休めに過ぎない。それなりに命は長らぐけど、俺はその選択を選ぼうとは思わない。治療をしても1年。しなくても、半年。そんなに変わるものじゃない。まあ、人によって選択はそれぞれだけどな。例え、命が短いほうを選んでも、それが充実しているなら、それで良いと思ってる。」
「琢磨が、それで納得してるんなら、俺には何も言えない。医者として、患者として、両方の立場からそう判断したんだから。」
「自覚症状としては、落ち着いてるんだ。薬が効いてるしな。例え、病原を取り除けなくとも、モルヒネって言えばわかるだろ? 嘗ては、良いい使い方がされて来なかったし、今現在だって悪用する人間はいる。でも、医療の中では、本当に、最後の砦として役立つんだ。」

「こんな事聞いて良いのかわからないけど……琢磨は、怖くないの? 死ぬの。」
「どうだろうね。死んだ事がないから。でも、俺は、色んな命を見て来て、死んで、辛い思いをするのは、残された者達なんだと思う。確かに、遺体を前にするのは辛いけど、その遺体を前にした遺族を前にする方が、もっと辛い。だから、俺は……両親や、章吾にすまないと思ってる。」
「やめてよ、琢磨、そんな事言うの。俺は……俺なら怖いよ。自分が死ぬの。勿論いつか死ぬってわかってる。でも何でだろ、まだそんなに年じゃないからかな? そういう風に思わないの。本当はさ、いつ死ぬかわからないんだよね。もしかしたら、明日事故で死ぬかもしれない。だけど、生きている事が当たり前のような気がして。」
「結局俺は、章吾に迷惑を掛けて、辛い思いをさせる事しか出来なかった。」
「そんな、過去形で言わないで。まだ、生きてるんだよ? 琢磨は。」
「ああ。わかってるよ。悪い。余計な心配させて。」

 琢磨は多分わかってる。
 病気になって弱気になるのは、病人も、看守る人も同じだって事。
 それぞれに、辛い思いをしてるって事。
 そして、お互いが、気遣ってしまう事も。

「退院したら、今のマンションに戻るの?」
「ああ。そのつもりだ。実家に……っていう話もあったけど、断った。今まで、仕事が忙しかったから、殆ど何も出来なかったけど、きっと出来る事って、何かあるだろうな。一足早く、老後が来たとでも思えばいい。」
「老後だなんて、それには、まだ若すぎるよ。うん。でも、そうだな、何か、しようと思えば出来るだろうな。今まで、働いて、貯金するばかりで、結構貯まってるんだろ?」
「まあな。でも、きっと章吾が思ってる程じゃないと思うぞ。」

「俺も、有給沢山あるんだ。ねえ、琢磨、せっかく時間が出来たんだし、のんびり温泉にでも行かない? 一度、琢磨とそうやって過ごしてみたかったんだ。こんなカタチで叶うことになるとは思わなかったけど……。」
「温泉か、いいな。でも、俺に、あんまり気を使うなよ。そうすれば……きっと、章吾が辛くなる。」
「例え辛くっても良い。思い残す事があるよりも、今、限られた時があるなら、その時を一緒に過ごしていたい。」
「本当は、何も言わずに、章吾と別れようと思ってた。特に理由なんて無くっても、俺と別れて、そのまま、忘れてくれれば良いと。」
「俺は、本当の事、言ってくれて良かったと思ってるよ。どうすれば、その時、相手にとってベストな選択になるかなんて、わからないからね。」
「ああ。そうだ。だから、迷ったけど、結局、打ち明けようと思ったんだ。」

 そうして、数日間もない内に琢磨は退院して、自宅に帰った。
 本当は、末期の癌患者が単身で生活するのは困難だ。
 だから、本当の末期の末期になれば、病院に戻って行くだろう。
 でもそれまでの間、少しでも、一緒にいたいと思った。

 そうして、念願の山奥にある、温泉旅館を訪ねた。
 自然がいっぱいで、露天風呂も中々のものだ。
 木々の中、散歩をするのも。

 琢磨と付き合うようになって、こんな風に時間を過ごせるなんて夢みたいだ。
 でも現実。
 どんなに儚くても。

 そのカラダに刻み付けるなんて無理な事だとわかっていても、それでも、俺は琢磨のカラダを求めた。
 本当は、いつ終わってもおかしくないこの瞬間を、大事にしたかった。

 唇を貪れるだけ貪って、その欲情を煽っていく。
 俺の指が愛撫する、その感覚に琢磨が反応するのは、今生きて、感じている証拠だから。

「ああ……あ……ぁ…は……」

 この温かい体温も、勃起するペニスも、締め付けてくるアナルも。
 琢磨の体内をペニスで感じて、そうして、琢磨も、また、俺の存在を感じている。
 果てしなく続くように思える快感も、いつかは終わりを迎えるのを知っている。
 けれど今、快感を追っている時は、それを忘れよう。

「んん……あ…ソコ……イイ……」

 突き上げるスピードが速まっていく。
 俺も、琢磨も、限界が近かった。
 終わりがあるからこそ、その過程が楽しいのだ。

 射精し、果てた欲望の先に、何も見えなくても良い。
 充実した時は、充実した時で、それで、十分だから。
 永遠が、もしあるのなら、先に旅立っていく、琢磨の中で、俺は永遠の存在になれるだろう。

 俺も、生きている限り、琢磨を忘れない。
 琢磨と過ごした、僅かな時を。
 そういう相手を、運命だというのなら、そうなのだろう。
 それが、どんな残酷な結果を迎えようとも。

 やがて、刻々と病状は悪化し、やはり、一人では生活出来なくなった。
 意識障害、食欲の低下。
 再度入院し、ベッドの上で過ごす琢磨。
 見舞った時、意識がはっきりしていて、色々話せた時は嬉しかった。
 本当にたわいもない事。
 それもやっぱり現実で。

 頻繁に訪れる俺を、『親友なんです』と紹介していた。
 それを不満だとは思わない。
 ゲイなんだって、恋人なんだって、公にできなくっても。
 そこで、琢磨の両親にも会った。
「こんな風に、お見舞いに来てくださる友達がいて幸せね。」
 そういって、少し涙ぐんでいたようだった。
「そうだね、俺が診てきたた患者にも、誰にも看取られることもなく死んでいった人はいるから。」
 こんな時でも、琢磨は、自分が幸せだと言えるんだね。
 俺が、いるから?
 そう思っても良いのかな。

 そうして、俺が買ったのは、今更かもしれないけど、おそろいのクロスチャーム。
「章吾……嬉しいけど……、こんなもの買ったら、お前のほうが辛くなるだろ?」
「良いんだ。俺が欲しいと思ったから。本当に繋げるものなんてないけど、それでも証が欲しくなる時もある。俺たちを繋ぐ絆が。誰かに認めてもらいたいわけじゃない。琢磨のご両親にも言うつもりはないし。」
「ありがとう……でも、辛くなったら、捨てろよ?」
「ああ。」

 本当に食事を受け付けなくなって、点滴だけの生活になって、意識がある時間も少なくなって、やがて、琢磨は亡くなった。
 身内だけで行われた葬儀にも、『親友』として、参加させてもらった。
 棺に入れられた琢磨の遺体。
 それが、焼かれて、骨だけになって。

 それまで、葬式を経験した事がない訳じゃなかったけど、改めて、人は、物体として、こんなちっぽけになるんだと思った。
 それは……俺も例外じゃないんだ。
 生きている人間誰でも。

 1周忌にはどうしても明けられない仕事が出来てしまって、後日、実家にある仏壇を拝みに行った。
 そして、その遺影に、最初で最後に贈ったクロスチャームが掛けられていたのが嬉しかった。
 俺の胸元にも、今、それがあるから。

 琢磨と過ごした、あの瞬間、瞬間が、まだ、俺の中で生き続けている。
 それは、俺のココロの中に永遠に。
 俺が、死ぬ時まで。
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