暴走書家

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『ココロの距離-8-(完)』

 バーの10周年記念が近付いてきて、どうにか、その日に都合がつけられるように仕事に没頭していた。
 まだ俺は、あのバーに通うようになって、それ程経っている訳でもなく、人見知りをする、というほどではないけれど、社交的ではない俺は、おそらく初めて会うだろう人達に、不安と、期待を織り交ぜていた。

 記念といっても、そんなに形式ばったものじゃないから、服装とかも、気にしなくて良い、と、靖史から聞いている。
 元々、普段バーに行くとき、スーツの時や、私服の時、色々あるけど、どっちかというと、スーツじゃない方が良い、とも言われた。
 ラフな格好で良いんだと。

 思い起こしてみると、靖史と会う時は、靖史は仕事帰りでも、必ず、私服でやってきていた。
 一社会人として、仕事着としてのスーツ。
 また、フォーマルとしてのスーツ。
 俺自身は、そんなに拘る方じゃないけれど、拘りのある人間は、その専門の職業があるくらい、拘るようだ。
 そしてそこに、男の魅力を見る事もある。

 もちろん、私服も私服なりに拘りはあるだろう。
 カジュアルなブランドも幾つも存在する。

 結局、俺は、スーツでもなく、カジュアルでもなく、無難な格好を選んで、赴く事にした。
 珍しく靖史とバー以外の場所で待ち合わせをして。
 靖史の方は、本当にいつもと変わりない服装をしている。

 店の性質上、ゲイの人間が多いけれど、経営的な面でサポートしてくれている人間は、ゲイバーであること、ゲイという性質を持つ人間の存在を理解していても、ゲイではない人間も、おそらく今日は来るらしい。

 闇に飲まれ始め、薄明かりがついたバーの扉をくぐり、店内に入る。
 いつもの店内の配置とは、若干異なって、バイキング形式の料理が並べられている。

「こんばんは。いらっしゃいませ。蛍さん、智也さん。」
「こんばんは。マスター。ちょっと早かった? 来るの。」
「いえ、もうすぐ、皆さん、いらっしゃると思います。お食事、始めていただいても構いませんよ。」
「ありがとう。じゃあ、いただきます。」

 適当に、見繕って、皿に料理を取り、脇に授けられたテーブルについて、食べ始める。
 出来たてではなくても、これだけの味がしっかり味わえるのは、かなり、質のいい料理人なんだろう。
 靖史に尋ねても、知らない、と言うので、マスターに尋ねてみると、某レストランのシェフだそうだ。
 ゲイ仲間、というのではないけれど、オーナーの知り合いで、今日、頼んで、準備してもらったらしい。
 もし、興味があるなら、と、その店の案内を貰った。
 フレンチ・レストラン『La fenêtre』、その店の名前が、フランス語で『窓際』と言う意味なのだと教えてもらった。

 そして、料理に合わせて、そのシェフからの贈り物だという、フランス・ワインをワイングラスに注いでもらった。

「ああ、それから、これは、オーナーから。フレンチとは趣向が違いますけれど。デザートにどうぞ。オーナー自身は、もうすぐいらっしゃると思いますが。」
 小さな皿に乗せられた、一口サイズの、抹茶ようかん。
「これ、もしかして、手作りですか?」
「ええ。」

 『手作り』と言うものは、時に重くなってしまうものだが、あの招待状にしろ、このようかんにしろ、さりげなく、心地よい、気配りを見せてくれる。

 次第に増え始めた客と、適度に挨拶を交わし、靖史が親しくしている人間とは、俺も含めて、少し会話を交わす。
 さして、共通点もないけれど、このバーという場所を基点にして、出会った人間。
 それぞれの人間が、それぞれのテリトリーを持ち、この店に馴染んでいる。

「蛍くん、久し振り。」
 靖史に、一人のオトコが、声を掛けてきた。
「あ、悟さん。久し振りです。」
「1年振りくらいじゃない? どう? 仕事、上手くいってる? 相変わらず、ここの店、よく来てるの?」
「特に、問題はないですよ。そうですね。結構、よく来ますよ。悟さんは、久し振り?」
「いや、そうでもないけど、中々、会わないもんだね。」

「そうですね。あ、智也、こちら、桂木悟さん。僕にこの店を紹介してくれた人。」
「はじめまして。藤崎智也と言います。」
「こちらこそ、はじめまして。蛍くんの知り合いなんだ。」
「知り合いっていうより、この店で知り合ったの。で、一応、今の僕の『トクベツ』な人。」
「へえ、そうなんだ。上手くいくと良いね。」
「うん。悟さんは? 独りなの?」
「ん? うーん。完璧に独り、っていう訳じゃないけどね。それなりに、上手くやってるよ。」
「ふーん。そうなんだ。悟さんのお相手にも、会ってみたいけど。」
「相手、って言っても、微妙だからねぇ。」
「でも、上手くいってるんでしょ?」
「付き合い自体は長いしね。あ、おい、雫、こっち。」

そうして呼ばれて来た男は、決して、派手、という訳ではないけれど、人目を惹かずにはいられないオトコだった。
黒い服を身にまとい、それでいて、人を寄せ付けないのではなく、穏やかな表情をしている。

「悟に蛍くん。ええっと、こちらは?」
「蛍くんの『トクベツ』なんだってさ。智也くん。」
 紹介されて、ぺこりと頭を下げる。
「蛍くんは、もう仕事、慣れた?」
「ええ。」
「そう。それは良かった。紹介した手前、一応責任があるからね。」
「そんな、責任だなんて。最終的に決めたのは僕自身なんですから。紹介していただいて、ありがたかったです。」
「ふふふ。私で、力になれる事があったら、いつでも歓迎するよ。」

 靖史が、改めて俺のほうへ向き直って、紹介する。
「こちら、悟さんの知り合いで、宮下雫さん。僕が、今の事務所に入る時に紹介してもらったんだ。んでもって、この店のオーナー。」
「実質は、殆ど、マスターや他人に任せきりなんですけどね、一応、オーナーなんです。」
「ああ、では、あの招待状や、ようかんも。」
「お気に召してくだされば幸いです。」

「雫、今日も車なのか?」
「ええ。」
「全く、バー開いておきながら、自分は、酒飲まないんだもんな。」
「最初の内は、飲んでたよ。でも、飲まなくなっても、それなりに楽しめるから。まあ、そうなると、行く店限られてくるけどね。」
「そりゃそうだろう。」
「蛍くん、智也くん、これからも、この店をよろしくお願いします。では、私は、他の人にも挨拶に行きますから。また後で、悟。」

 そう言って、雫というオトコは、他の客や、多分、店に関係するだろう人間のところへ、出向いて行った。

「ご自身では、お酒をたしなまれないのに、バーを開いていらっしゃるんですね。」
「ええ。まあ、このバーの雰囲気を楽しみに来るんでしょう? 他の店も、経営者繋がりで、親しい店もありますし。」
「色々、顔が広いんですね。」
「人脈は結構あります。ゲイ、ノンケ問わずね。雫は、昔から、結構、自分がゲイだってこと、おおっぴらにしいますからね。それでも、普通に友人続けていられる人間は残りますし。時代の流れでもあるのでしょうか、割と、受け入れてくれる人も多いです。それでいて、別に雫自身は、他の人にカミングアウトすることを強制しません。やっぱり受け入れられない人間はいますから。そんな中でも、知り合いのゲイが、生きやすいように取り計らってくれます。例えば、ここのマスターは恋人と同棲してますけど、その時、その為に、力を貸してあげたみたいです。」
「そういう知り合いがいると心強いですね。」
「そうですね。では、蛍くん、智也くん、私もこの辺で。また、お会い出来たら、その時はよろしく。」
「こちらこそ。よろしくお願いします。」

 食事も終え、靖史と二人、引き続き、その席で、今度は、マスターが出してくれた酒を飲んでいる。
 このバーに、集う人間の気持ちが、また少しわかったような気がした。
 そして、俺は、より一層、このバーに惹かれた。

「このバーに出会えてよかったよ。」
「智也に、そう言って貰えて良かった。」

 そして、靖史に『トクベツ』だと言ってもらえた事。
 俺と、靖史は、これからも、こうした距離感で付き合っていく事だろう。
 それが俺たちのココロの距離と上手く適合していくだろうから。

 それが、靖史が俺を『トクベツ』な相手として、認めてくれている。
 俺も、靖史を、『トクベツ』な相手として、認識している。

 二人が二人、それぞれ、一人の人間として、互いに認め合い、生きていく。
 恋愛感情を持たないと言った靖史と、愛する事が、苦手な俺。
 それでも、それなりに、上手くやっていける。
 そういう相手と、巡り合えた事、本当に感謝しなければ。

 晴彦は、今、どうしているだろうか。
 俺は、やっと、自分の道を、自分の相手を見つけられた。

 それから、本当に何年振りかに、晴彦と連絡を取った。
 晴彦は、晴彦で、上手くやっているらしい。

 靖史は、晴彦の事をどう思うだろうか?
 多分、実際知ったら吃驚びっくりするだろうな。

 晴彦の相手が、俺達を、招待してくれて、実際会った。
 そうして、色々、俺も吃驚びっくりしたのには言うまでもない。

 それぞれの人間が生きる『カタチ』。
 その多様さに。
 だから、俺達も、俺達なりの関係で良いんだ。
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