暴走書家

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『ココロの距離-6-』

 俺は、基本的に目覚まし時計をかけるが、これは、予防的なものだ。
 大概は、目覚まし時計が鳴る、5分から10分前に起きる事が多い。
 目を覚ますと、時計に手を伸ばし、時刻を確認する。
 大体いつもと同じ通りだ。
 それを確認して、スイッチを切る。
 だから、俺は、目覚ましの鳴る音を殆ど聴いた事がない。
 ごく稀に、目覚ましのベルを鳴らせてしまうと、目覚めが不愉快になってしまう。

 昨夜、約束した通りに、ベッドの隣で眠っている、蛍に声を掛ける。
「蛍、朝だぞ。」
「ん……」
 蛍の睡眠も目覚めのタイミングに入っていたのか、ゆっくりと瞼が開けられれ、俺の方に目を向けてくる。

「おはよう。蛍。」
「え、あ、ああ。おはよう。智也。」
「なんだよ、驚いたような顔して。蛍が、起こせっていったんだろ。」
「あ、うん。そうだけど。ああ、そうそう。僕も、朝食、作るの手伝うよ。っていっても、大した事出来ないけど。」
「俺だって、大したもの作ってる訳じゃないし、気を使わなくっても良いよ。」

 二人で、キッチンに向かって、俺が、味噌汁を作っている間、蛍に、サラダ用の野菜を切ってもらう事にした。
 冷蔵庫から、野菜を取り出して、まな板と包丁、そして、盛り付けるための、器を渡す。

 蛍も、蛍で、それなりには出来るのだろう、それ程見栄えの悪くないものが出来上がった。
 俺の方も、お椀によそってテーブルの上に置く。
 それから、タイマーを仕掛けてあった、炊飯器からご飯をよそう。

「ねぇねぇ、あれ作って、卵の半熟。自分でやってみてもさぁ、中々、上手くいかないんだよね。」
「あれ、好きなのか?」
「うん。」

 材料は、確かあったはずだ。
 ベーコンと卵を持ってきて、フライパンで調理しているところを、蛍は一生懸命に見ていた。
 そして、その出来上がりを見て、喜んでいた。

「おー、やっぱ、完璧。卵も、新鮮だよね。この黄身がやっぱり美味しいよ。」
「それはどうも。」

 食べ終えると、やはり、蛍に手伝ってもらって、食器を洗い終えた。

「部屋ってさ、人がいなくっても埃ってたまるものでしょ? この家、どれだけ使ってない部屋あるの? 掃除、大変じゃない?」
「一応、週に一度は、全部、掃除機を掛けてるよ。元々、3人家族だったから、それ程、広いって訳でもないし。見てみる?」
「え? うん。いいの?」
「別に隠すものも何もないからね。」

 殆ど使っていない応接室。
 以前は、色々なものを置いていたけれど、今はもう処分してしまっていて、がらんとしている。
 ガラス戸から射し込む陽の所為か、一部分だけ、絨毯がの色がすすけている。
 使う気もないから、そのまま放置して何年になるだろうか。
 それでも、絨毯の部屋だから、ダニがわかないように年に一度はきちんと駆虫はしているが。

 本当に、使っていないのは、その部屋と両親の寝室くらい。
 その寝室にあったベッドも、もう、とうの昔に処分してしまった。

「家、処分して、引っ越そうとか思わないの?」
「それもまた、手続きとか要るからね。別に、この家に思い入れがある訳じゃないよ。ただ単に、面倒くさくって。」
「本当に、これだけ広くて、独りで住んでて、寂しくないんだ。」
「もう慣れたしね。だいたい、蛍だって、独り暮らししてるんだろ?」
「僕のマンションなんかじゃ、比べものにならないよ。必要なだけの部屋しかないんだから。」
「それでも、独りで暮らしている事には変わりない。」
「まあね。僕にとっては、独り、って言うのは、結構快適だからね。それに、あんまり、他人に踏み入って欲しくないしね。」
「自分だけのテリトリー?」
「まあ、そうかな。自分が、自分の自由でいたいところ。踏み込まれて嫌な訳じゃないんだけど、出来るなら、そっとして置いて欲しいかな。」
「誰でも、そういうところって、あるんじゃない? ある程度距離を保ちながら、どこか肝腎な所は、踏み込んで欲しい、とか。そういうのって、難しいよ。本当に。他人との距離感覚って。」

「僕は、結構、離れた関係を保つね。僕にとって、それが楽だからね。そういう関係で、満足できる人が多いかな。」
「俺も、どっちかって言うと、遠くから見るタイプだね。蛍は、自分のココロに立ち入らせない、っていうより、うーん、なんだろうな、立ち入られても、別に構わないけど、放っておいて、って感じかな。それを、自分の中で線引きをしてる。だから、蛍は自分の事を『蛍』って名乗るんだろ?」

「ああ、うん。もう、それで通ちゃってるからね。智也は、気にする? 僕の本名。」
「気にならない、って言ったら嘘だけど、どんな、名前でも、蛍は蛍だろ。別に、俺の前で、何かを演じてるようには見えないけど。」
「偽っているつもりはないからね。ある意味、『蛍』の方が、僕の本性に近いかも。もちろん、本名で仕事してるし、その時が、仕事モードって感じで。」
「俺は、あんまり、他の名前、って考えたことないけど、独りでいるときって、自分をどういう風に認識してるんだろうね。」
「僕は……どうなんだろうね。考えた事ないや。」
「ほら、ラジオネームとかさ、ペンネームとか、ハンドルネームとかさ、色々つけるじゃん? 今みたいに、ネットが普及してくると余計ね。ただの『匿名希望』じゃなくて、何かつけてさ。その人たちは、その名前に、どんな思いを込めているんだろうかって。」
「心理学的な興味?」
「半分はね。」

 そんな風に会話しながら、俺の仕事場兼本棚に囲まれた部屋に案内する。
 立ち並べられた本棚と、隅にあるパソコンを置いた仕事用のデスク。

「本って、殆ど専門書? それ以外に何か読んだりするの?」
「そうだね。大概は、専門書か、心理学関係の本だね。後は、たまに短編集とか、小説とか。蛍は? 本、よく読むの?」
「んー、色々読むよ。お気に入りの作家とか、その作家のお気に入りの作品とか。精神分析の入門書みたいなのも読んだ事あるし、社会学とかも読むし、あ、もちろん、法律の本もね。サスペンスとか、ホラーとか、純文学とか。」
「結構幅広いんだね。」
「そうだね。本屋でふらふらしたりよくするよ。短編は殆ど読んだ事ないな。面白い?」
「気が向いたのしか買わないけどね。これも、作者のセンスと、読者のセンスの問題かな。」
「まあ、そうだよね。面白い、面白い、って言われてても、自分には合わないのってあるからね。で、智也は、どれがお気に入り?」

「んんー、最近たまたま手にとってみて知って、短いから、本当に軽く短時間で読めるんだけど、何となく、考えさせられるような内容なんだけどね。あ、この人。1冊しか出してないんだけど、『立川怜』って言う人。『海の底の底』。よかったら、貸すよ。それなら、懐が痛まないだろ? 短編だから、少し読んで、合わないと思ったら、すぐ止めたらいいし。」

「んじゃあ、ありがたく、お借りしていきます。他人の本棚を覗くのも楽しいね。」
「そう? やっぱり本が好きだから?」
「そうだね。本屋はさ、何でも置いてなきゃ駄目じゃん? でも、個人の本棚は、その人の趣味が表れてるからさ。あ、こういう小説読むんだ。智也って。」

「ん? どれ?」
「これこれ。神崎晴彦の本。全部揃ってるんじゃないの? お気に入り?」
「え? ああ。蛍こそ知ってるの?」
「うん。僕も好きだよ。この人の本。あんまり、賞とか興味ないけどさ、この間、ノミネートされたでしょ。残念ながら、賞は取れなかったけど。」
「ああ、そうだったんだ。そこまでチェックはしてないや。」
「やっぱり、あんまり賞とか気にしないんだ。」
「そうだね。俺が気に入れば、それで全てだし。まあ、ただ、気に入っている人には、ある程度売れてもらわないと、きっと次が出版されないから、困るけどね。」
「そうなんだよね。」
「……この作家は、俺にとって、思い出深い作家だから。」

 何となく、少し昔を思い出してしまった。
 懐かしい、あの日々を。

「この人、確か、これ、本名だよね。」
「うん。」
「本名、か。……僕は、もう少ししたら、多分、智也に、本名を告げられるかもしれない。智也なら、多分……僕の全部を見せられるような気がする。智也が、僕に置いてくれる距離は、僕にとって、心地いい。智也が、それを、どう感じているかわからないけど。」
「俺は、好きだよ、蛍のそういうところ。例え、本名を知ったところで、その距離が、とても縮まるとは思わない。近付きすぎても駄目、遠すぎても駄目。蛍は、そういう意味で、俺にとって、いい場所にいるよ。蛍が、どういう感情を、俺に持っているかわからないけど。」

「それでも、智也は、いいんでしょ?」
「ああ、そうだね。」
「ありがとう。」
「何も、お礼を言われる事なんてしてないよ。」
「じゃあ、これから、して。」
「え?」

 蛍の腕が、俺の首に絡み付いてきて、唇を重ねられた。
「ベッド、行こう?」
 そのまま、寝室のベッドに倒れこんで、カラダを重ねる。
 纏っていた服を、キスをしながら、脱がされていく。
 そうして、俺もまた、蛍の服を。

「ん……ふ……ぅん……」
 お互いのカラダを弄り合って、ペニスに手を伸ばす。
 勃ち上がりかけたペニスを握り締め、扱きたてていく。

「あ……智也……イれて……」

 乞われたように、ローションの滑りを借りて、指を挿入する。
 指で、裡を刺激しながら入り口を解していく。
 昨夜の今日で、そんなに急いている訳ではない。
 だから、時間をかけて、ゆっくりと。

 それから、ゴムを装着したペニスを蛍のアナルに挿入していく。
「あ……は……ん……智也……」

 ゆっくりと、腰を動かし、ペニスを抽挿する。
「イイよ……智也……ソコ……もっと……!」
 蛍が求める場所を、擦るように突き上げる。

 蛍が求めているのは何なのだろうか。
 そして、俺は、それを、与えられるのだろうか。
 逆に、俺は、蛍に何を求めている?
 蛍はそれを、満たしてくれるのだろうか。

 けれど、今は、ただ、お互いのカラダを感じるだけ。
 求めるだけ、求め合って、その先にあるものは、決してカラダだけではないと信じたい。

「ん……はぁ……あ、あ……もう……イ…く……!」
「ん…くぅ……」

 どちらが、先に達したのだろうか。
 そんなことは、関係ない。
 そこに残る、快感の余韻に浸っていた。

「晩飯、どうするの?」
「さあ、何にしようか。」
「まあ、とりあえず、買出しに行く?」
「そうだな。適当なものがあるといいけど。」

 近くのスーパーまで、並んで歩いて、買い物に行って、結局、安売りをしていた、野菜と、肉を買って、シチューになった。
 お手軽だけれど、それでも、二人で、キッチンに立って、味付けにあれこれ言いながら、納得いくものを作り上げて、食する。
 きちんと、後片付けまでしてから、次に会う約束をして、蛍は帰っていった。

 蛍は、独りでいる時間を大切にしている。
 俺もまた、独り過ごす時間が、決して嫌いではないんだろう。
 そんな中でも、共に過ごせる時間は、それなりに楽しめる。
 自然体でいられる事。
 それは、とても、贅沢な事だと思う。
 けれど、大切な事だと。
 それを、忘れないでいたい。
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