暴走書家

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『ココロの距離-5-』

 約束の時刻は特に決めていない。
 それでも、相手が来るまでの時間を、一人で退屈せずにあの店では飲める。
 今回は、俺の方が早く着いたようだった。

 マスターにお勧めのものを聞くと、初めてここを訪れたとき頼んだ酒みたいなものが好みなのかと尋ねられ、『それでしたら、こちらなんか如何でしょうか』と、目の前にアルコールの入ったグラスが置かれる。

 勧められるがまま、そのグラスの中の液体を口に含む。
 これは……初めて頼んだ時のものと系統的には良く似ているが、少し違う。
 こちらの方が、より好みかもしれない。

「如何ですか?」
「ええ、とても俺に合っているようです。」
「そうですか。よかったです。」

 飲み干す、というよりも、一口、一口味わうように飲んでいく。
 そうすると、口の中に広がる味と、そこからあがる香りが十分堪能できる。
 ゆっくりと、グラスの中のアルコールを飲み干した時に、調度、蛍がやってきた。

「いらっしゃいませ。」
「こんばんは。」
「何になさいますか?」
「取り敢えず、ビール頂戴。マスター。」
「はい。かしこまりました。」

「ゴメン、智也、遅くなって。」
「いや、構わないよ。仕事?」
「うん。そう。」

「はいどうぞ、蛍さん。仕事上がりのビールは格別ですよね。」
「そうそう。取り敢えずすかーっとね。その後は、ゆっくり、マスターのお酒を味わいたいけどね。マスターって、基本的にお酒飲まないんだったよね? それでも、ビール飲みたくなる時ってあるの?」
「夏場は、風呂上りにグラス一杯くらいはね。」
「あ、その瞬間もわかる。」

 ビールは、確かに最初の一杯が一番美味しいかもしれない。
 こういう風に味わうのとは別で、その喉越しを求めて、ぐびぐびと飲んでしまう。

「お忙しかったんですか?」
「トラブルがあったわけじゃないんだけど、妙に雑用が多くって。僕はまだ、下っ端だし、コネ採用だからね。」
「コネ採用って、確かに、紹介はあったんでしょうけど、それだけで採用するほど、あの人達は、甘い人ではありませんよ。」
「一応はわかってるけどね。でも、やっぱり、覚えられる事は覚えたいから。」

 蛍は、ビールを飲み干して、今度は、お気に入りのものを、追加注文している。

「蛍って、仕事何してるの? って聞いてもいいかな?」
「あ、うん。一応、弁護士。知り合いの、知り合いの、知り合いに事務所持ってる人がいるから、その人のところで働かせてもらってるんだ。」
「へえ。そういう家系とか?」
「いや、全然。家の父は、一応、一流企業のサラリーマンだよ。」
「何で、弁護士になろうと思ったの?」
「んんー、何でかな? 法律に興味があったからかな。だから、法学部行って、折角だから、司法試験の勉強して、通ったから、今に至る、みたいな。」
「何となく、勉強して、で通れる試験じゃないだろ。」
「そりゃあ、受けるからには、受かるつもりで、勉強したよ。一応、真面目だからさ。」

 一応、ね。
 前置きが付くんだ。
 取り敢えず、遊びで付き合う、っていう感じでもないし。
 恋愛出来ない、っていうのも、きっと蛍なりに色々経験した結果なのだろう。

「智也は? 智也は、何やってるの?」
「俺? 俺は、大学で、心理学の研究。どうも、臨床には向かないからね。大学に残らせてもらって、助教としてやってる。」
「へえ、もしかして、相手を見るとき、そういう目で見たりする?」
「意識しては見ないけど、恋人と別れた後に、どうしてこうなったんだろう、とか考えることはあるね。」
「で、答えは出るの?」
「いいや。闇の中だね。相手のココロは、本当に、推測するだけだし、自分のココロも、完全にはわからないから。」

「そういうところも、研究するのは面白いのかな?」
「そうだね。実際、恋愛の悩み、っていうのは尽きないし、後は、今よく言われる、職場でのストレス、とかかな。」
「結局、どっちにしても、人間関係なんだよね。」
「うん。そう。お互いが、ココロを持っているからね。特に恋愛の場合。仕事の面になると、ノルマの重圧とか、個人が抱える、悩みの方が多くなったりするけどね。」

「智也も、智也自身、悩みを抱えてる?」
「悩み、って程じゃないけどね。自分の考え方とか、感じ方とか、人との付き合いの中で、色々発見する事はあるよ。」
「完璧そうに見えても、そういう人って、いないんだよね、きっと。」
「だろうね。それでも、そんな中で、自分のココロと折り合いを上手くつけて、やっていくしかないんだろうな。」

「智也の事を、優しい、って感じるのは、相手のココロの事も、考えてあげられるからなんだろうな。」
「俺は、別に、優しくなんてないよ。」
「ううん。僕にはそう感じられる。相手を尊重するけど、決して甘えさせるだけじゃない。だから、一緒にいても、話していても、心地良いって感じるんだと思う。」
「そう言ってもらえると、嬉しいな。」
「独りでいるも嫌いじゃないし、実際、独りでいても、寂しいとか思わないし、平気なんだけど、誰かと、時間を共有するのもいいな、って。もちろん、それが、友達でも全然良いんだけど。」
「でも、友達、ではないだろ? 俺達。」
「そうだね。智也が、僕に求めているものと、僕が、智也に求めているものは、きっと違うんだろうけど、そこに、すれ違いを感じてないのは、僕だけかな?」
「それは、俺も考えたよ。蛍は俺を、恋愛対象としては見ない、俺は、俺なりに、蛍をそういう風に見てる。求めるものが違うっていうより、求める過程が違うような気がする。」

「求める過程、か。その場合、同じところに行き着くのかな?」
「いや、どうかわからないけどね。この先、道は違っても、一緒に歩いていけたらいいな、と思う。」
「道は違うのに、一緒に並んで歩けるの?」
「蛍は、どう思う?」
「そうだねえ。そう出来たらいいね。」

 一通り、アルコールとそのバーの雰囲気を堪能して、再び、俺の家に向かう。
 途中、コンビニに寄り、蛍は何か買い込んでいるようだった。
 俺の家に着くと、冷蔵庫を借りていいか、と尋ねてきて、許可を与えると、コンビニで買い込んできたものを、冷凍庫と冷蔵庫に仕舞っていた。

 それから、ベッドへ向かい、今度は、蛍が求めるまま、俺は蛍を抱いた。

 蛍の腕が、俺の頭を引き寄せ、唇を重ね合わせる。
 そうして、求め合うように舌を絡ませあう。
 お互いの舌が、お互いの口腔内を刺激する。

「ん…ふ……」

 呼吸するのを忘れるように貪りながら、時折、思い出したかのように、鼻で息をする。
 一瞬の息苦しさに、喉を鳴らせる。

 それから、蛍は、俺のペニスに唇を寄せ、口腔内に取り込んでいく。
 喉の奥まで含んだかと思うと、今度は、先端を刺激し、幹を手で擦りあげる。
「ん…蛍……」
 その心地よさに、自分の手を、蛍の頭に添え、これ以上は、ヤバい、というところで、蛍の、顎に手をかけ、その行為を止めさせた。
「もう…いいよ…蛍……」

 顔を上げた蛍の唇に、一瞬、俺の唇を重ね合わせ、今度は、俺が、蛍のカラダをなぞっていく。
 首筋をたどり、乳首を摘み上げる。
「あ…は……」
 片方の乳首を、指で弄りながら、反対の乳首に唇を寄せていく。
 尖った乳首を吸い上げ、軽く歯を立てると、蛍の口から、と息が漏れる。

「ああ…イイよ……智也……」

 十分そこを愛撫してから、更に、下へ、手を伸ばし、勃ち上がったペニスに触れる。
 そのペニスに口淫を咥えながら、ローションを手に取り、指を、アナルに挿入していく。
 蛍が、感じられる場所を刺激しながら、アナルを解きほぐす。

「智也……そんなに、したら…も……イれて……」

 俺も、そんなには、我慢できそうになかったから、その求めに応じて、すぐにペニスにゴムを装着して、蛍のアナルに挿入していった。
 それから、ゆっくり、そして、徐々にスピードを上げて抽挿を繰り返す。

「んん……あ…ああ…はぁ……」

 俺の背中に回された、蛍の手が、俺の律動を促す。

「あ…イイ…!ん……も……イきそ……」
 限界を伝えてくる蛍のペニスに手を添え、その解放を促す。

「あ!ああ!…も…イ…く…!」
 射精を迎えた蛍の裡で、俺も間もなく達していた。

 解放された気だるさにしばらく、ベッドの上で、まどろんでいて、落ち着いてきた頃、蛍が、話しかけてきた。
「智也、グラス借りていい? 喉渇いた。」
「ああ、いいよ。多分、キッチンの棚にあるはずだから、出すよ。」
「ありがとう。」

 軽くシャツを羽織っただけの格好で、キッチンへ向かう。
「智也も、飲む?」
「ん? ああ」
「じゃあ、2つお願い。」

 普段、それ程使うものではないので、棚から、グラスを2つ取り出し、水で一洗いしてから手渡す。
すると、蛍は、冷凍庫から、氷を取り出して、グラスに入れ、そこへ、ミネラルウォーターを注いでいく。
 そして、その上から、レモンの形をした、プラスチック容器から、液滴を数滴垂らした。
 その1つを俺に手渡してくる。

「蛍が、コンビニで買ってたのって、これ?」
「うん。そう。ちょっと飲んでみて。」

 そういわれて、口に含む。
 その水は、ひんやりとしていて、僅かにレモンの酸味があって、さっぱりとしている。

「へえ、すっきりするな、これって。」
「そう? 気に入ってもらえてよかった。レモンが少し入るだけで大分違うでしょ?」
「ああ。」
「結構、お気に入りなんだよね。暑い夏とかにも最適。僕もこれ、人に教わったんだけど。レモンじゃなくて、レモンにも含まれている、クエン酸自体を入れる人もいるらしいけど。」
「どっちにしても、原理は同じだね。」
「まあね。」

 喉越しの爽やかなそれを、飲み干した。
「さてと、そろそろ寝るか。」
「お風呂は? どうするの?」
「俺は、もう、シャワーだけでいいけど、蛍はどうする?」
「僕も、シャワーだけで良いかな。」
「んじゃ、お先どうぞ。」
「ありがと。」

 二人とも、シャワーを浴び終えて、ベッドに横になる。
「何か、色々話したけど、まだ、2回目なんだよね。泊まるの。」
「ああ。」
「もうちょっと長く、一緒にいるような気がする。」
「そう?」
「うん。本当に、落ち着いていられるから。」
「そうか。良かった。」
「じゃあ、おやすみ。明日は、ちゃんと起こしてよ。直哉が、朝食作るところ、ちゃんと見てたいから。」
「わかった。おやすみ。」

 少しずつ、わかってきたような気がするけど、まだまだ、きっと、知らないことは沢山ある。
 それは、蛍も、俺も。
 そしてそれは、必ずしも全てを知らなければいけない訳ではない。
 例え、親子であっても、恋人であっても、友達であっても、境界線がある。
 その境界線を、それが隔てる二人の距離を、上手くとっていく為に必要な事。

 お互いが、それぞれ、手探りで進んでいかなければならないのだ。
 共に、歩んでいくのなら。
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