暴走書家

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『ココロの距離-4-』

 翌朝、目覚めると、まだ蛍は眠っていた。
 それでも普段は起きる時間なので、顔を洗って、服を着替えて、朝食を作る。
 出来上がった所で、蛍に声を掛けにいく。

「蛍、朝食作ったけど食べる?」
 その声に反応して、ぱちりと目を開ける。
 そして、一つ欠伸あくびをして、上半身を起こし、伸びをする。

「あ、おはよう。智也。え? 朝食、作ってくれたの? ありがたくいただきます。」
「お口に合うかどうかわからないけどね。」

 ベッド脇に畳んであった蛍の服を手渡すと、それに着替え始めた。
 蛍が着替え終わるのを待ってキッチンに一緒に向かう。

「わー、凄い。こんなしっかり朝食出てくるの久し振り。」
「自分では、いつも、どうしてるの?」
「ええ? まあ、一応、作るけどさ。いや、作るっていう程のものじゃないな。あれは。」
「よかったら、ベーコンエッグ、作るけど、食べる?」
「うん。ありがとう。」
「卵は、固め? 軟らかめ?」
「そんなところまで気を使ってくれるの? じゃあ、半熟で。」
「了解。」

 フライパンにベーコンを引き、生卵を割りいれる。
 そうして、調度良い具合で火を止めて、皿に盛り付けて出す。

「うーん。このベーコンの塩加減と、半熟の黄身のまろやかさがなんとも言えず良いなぁ。」
「そう言ってくれて嬉しいよ。」
「難しいでしょ、この火加減って。僕もやってみた事あるけど、見事に失敗したよ。」
「まあ、コツを掴めば大丈夫だよ。」
「一応自炊はするけど、本当に僕がやるとワンパターンだからなぁ。料理本見ればさ、大体は上手くいくけど、中々身につかないし。レパートリー増やしたいんだけどなぁ。」
「興味があるのとないのとでは全然違うよ。後はやっぱり慣れ。俺は、あんまり凝ったものとかは作らないけどね。」

 食事を終えて、後片付けに取り掛かる。
 蛍が手伝う、というので、俺が洗った食器を吹き上げていってもらった。
 それから、リビングへ移動する。

「智也はさあ、これだけの家に独りで暮らしてて寂しくないの?」
「もう長いからね。それに……寂しい、って感じられた時は、もう既に過去形になってたよ。」
「それでも、独りで、これだけ広い家に住む必要ってないんじゃない?っていうか、高いんじゃないの? これだけあると。」
「親が、残した家だからね。遺産も結構あったから、金銭的に不自由はしなかったよ。」
「ご両親、もう、亡くなってるの?」
「俺が、高校の時にね、事故で。」
「え? じゃあ、それからずっと独り暮らし?」
「ずっと……でもないけど、殆ど、独り暮らしだよ。」

「僕の家はまだ両親健在だからなぁ。あんまり想像出来ないや。」
「普通は、そうだよね。まだこの歳だったら。」
「普通……まあ、そうかな。うん、なんて言うか、本当に僕の家って普通なんだよなぁ。」
「それが何か不満なの?」
「いやさ、智也みたいな境遇の人にそう言ったら罰が当たるかもしれないけどさ、普通に育ったはずなのに、他人と価値観があんまり合わないんだよな。」
「合わない?」
「んー? ほら、普通に恋愛して、普通に結婚して、普通に子供を作って、みたいに言われるじゃん?」
「男同士なんだから、結婚も、子供も無理だろ。」
「僕、オンナの人とセックスしようと思ったら、別に違和感なく出来ると思うよ?」
「蛍ってバイなのか?」

「どっちとも、しようと思えば出来るっていう意味ではそうかもしれないけど、始めに言わなかったっけ? 誰にも恋愛感情持たないって。オトコとか、オンナとか、関係なく。オトコとオンナにとって恋愛と結婚が一緒じゃないのはわかってるよ。僕は、ある程度の距離感で付き合っていけるなら、オトコでもオンナでも良い。それこそ、普通の夫、普通の父親、そんなものを求められなければね。我侭なのかもしれない。でも、僕の価値観っていうのは変えられないし、変えるつもりもない。」

「恋愛感情を持てないって、でもそれで、違和感なく、オトコと寝れるの?」

「不思議となかったね。あー、こういう世界もあるんだなぁ、って。高校時代からかな。もうどっぷりコッチの世界に足突っ込んじゃってるの。僕にとって、割と居心地がいいから、抜け出す気もないしね。オトコを、抱くのも抱かれるのも好きだし、別にそうしなくって、普通に友達でいるのも。」

「恋愛が、全てだとは俺も思わないよ。そういった感情のメカニズムだって発見されてないし。俺も、愛し合う、って事の複雑さは何となくわかるし。蛍は、愛情を求められるのも負担だって言うけど、それを、上手く、表現できない人間だっているしね。愛情の重さなんて計れないけど、俺なりに、愛してると思っても、相手には足りなかったりするんだから。」

「智也が、恋人と上手くいかないのってそれが原因?」

「そうだね。相手の気持ちを思いやっているつもりなんだけど、それが、相手にとっては、俺が、距離を置いているように感じるらしい。」

「智也は、きっと優しいんだろうね。多分、痛みを知ってるから。距離感って、難しいよね。近すぎて駄目になる時もあるし、遠くて駄目になる時もあるし。」

「俺は、別に優しくなんかないよ。」

「ううん。優しいよ。やっぱり。少なくとも僕にはそう感じる。優しさは、時には残酷になることもあるけど、僕は、結構恵まれているね。その優しさに。」

「蛍の、周りにいる人達?」

「そう。優しさと、厳しさと、両方を兼ね備えてる人。そういう人に出会って、成長して、自分なりの生き方を、見つけてみようと思えるようになったし。」

「自分なりの、生き方、か。」

「世間の波に飲み込まれて、僕自身を見失いたくない。所謂いわゆる一般世間との感覚とは、僕はずれてるから。それでも、社会人として生きていくには、そんな世間を知っていないといけないんだよね。」

「多様化している世間を一元化するのは無理なんだけどね。」

「まあ、そうだけどさ。道徳でも法律でも、その他のものでも、出来るだけ、人間という生物が生きる為に必要な社会常識、みたいのがあるじゃん? 『普通』ってやつ? 本当は何が普通で、それは、どれだけ世間に認められていて、一般的なのか、全然わからないけど。」

「『普通』か。まあ、考えてみれば不思議な言葉だよね。」

「そういう風にさ、智也みたいに、そうやって認めてくれる人は良いけどさ、『これが普通だろ?』みたいに押し付けられると、やっぱりきついよ。」

「俺自身がゲイなのは、自分としてごく当たり前なんだけど、世間では、そうは認めてもらえるもんじゃないだろ?」

「そういうのに理解ある人って限られてるからね。でも、そういう目で見れば、僕も立派にゲイなんだろうけどね。」

「それを知っていて、オトコと付き合う。蛍は、それでいいのか?」

「うん。いいんだ。僕には、他の道を選ぶ事も出来たけど、そうしなかった。もちろん、一つの選択肢をとったら、別の選択肢を選ぶことは出来ない。それは、ちゃんとわかっててそうしたから。」

「蛍が、それを望むなら、俺にそれに対して口を挟む権利はない。蛍の人生だからな。」

「智也は、やっぱり、ちょっと、優しすぎるかな。それでいて、きっと、智也自身に対しては、とても厳しいんだろうな。僕は、智也のそういうところ、結構好きだけど。智也は、僕の、こういう話を聞いてどう思う? それでも、まだ、僕と付き合いたいって思う?」

「俺は、蛍の感覚を全て理解できている訳じゃないけど、それでも、ちゃんと、自分を見てる蛍には、惹かれてるよ。もしかしたら、駄目になるときが来るかもしれない。それでも、今は、蛍と付き合っていきたい。」

 世間の向かうベクトルにもしかしたら、俺たちは逆行しているのかもしれない。
 それでも、今、俺自身が望んでいる事、それに逆らうつもりはない。
 だから、もう少しこのままでいてもいいんじゃないだろうか。

 決して若いとも言えない。
 けれど、それ程年老いているとも言えない。
 いや、例え、年老いても、可能性があるのなら。
 それを試す価値はあるんじゃないだろうか。

「なんか、ゴメンね。真面目な話になっちゃって。」

「いや、俺は構わないよ。普段、人とこんな話しないからな。」

「まあ、そうだね。」

 それから、しばらくたわいもない会話をして、その時間もそれなりに有効だった。
 そして、また、週末にバーで会う約束をして、その日は別れた。
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