暴走書家

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『ココロの距離-3-』

 週末、仕事があけると、一旦家に帰り、軽く食事を摂って、再びあのバーへと向かった。
 再び訪れてみると、先日は気付かなかったが、それ程表立った広告は出していない。
 あの中の雰囲気から考えて、外見は、確かに、バーではあるが、建物の色合いも極シンプルだった。
 人を拒む、という感じはしないが、たむろするような店構えではない。
 この店の存在に、どれだけの人が気付くか、あの夜、俺が、気付く事が出来たのが不思議な感じだった。

 流石に週末だけあって、先日来た時より、客の入りは良かった。
 それぞれが、この空間に溶け込んでいるように落ち着いている。
 俺が、入ってきたのにマスターは気付くと『こんばんは。いらっしゃいませ』と低く質の良い声で話しかけられた。
 その挨拶に、俺も、『こんばんは』と答え返した。

「蛍さん、もういらっしゃってますよ。今、呼んできますね。」
 そう言ってマスターはカウンターから出て、4つだけ置いてある、テーブルに向かい、そこで、2人のオトコと会話をしている蛍に声をかけた。

「蛍さん、智也さん、いらっしゃってますよ。」

「え? あ、ありがとうマスター。じゃあ、ゴメンね、今日はここら辺で。」
 蛍は、その2人に手を振りながら別れを告げ、俺のいるカウンターの方へ向かってきた。

「こんばんは、智也。ごめん、気付かなくって。」
「いや、良かったのか? さっきの2人のオトコは。」
「え? ああ。いいの。だって、元々、智也と約束してたんだし、大した話してた訳じゃないから。」
「知り合い?」
「うん。この店の常連さんで。ねえ? マスター。」
「ええ。そうです。ところで、何になさいます? この間と同じでよろしいでしょうか? ああ、そういえば、先日、良いものが入りましてね。まだ、メニューには載せてないんですが、よろしかったら、お試しで飲まれてみますか?」

「前回と……まだ一度しか来た事がないのに、覚えていらっしゃるんですか?」
「ええ、一応、お顔と、お酒の事は大概。とはいっても、それ程客の入れ替わりが激しくないんで可能なんですが。お名前も……失礼、蛍さんと話されているのを聞いてしまって。」

「いえ、構いません。とても記憶力がいいんですね。」
「仕事に関しましては。その他では、それ程でもないんですが。」

「え、何々、マスター、お勧めあるの? 僕、それにする。」
「あ、じゃあ、俺もそれで。」
「かしこまりました。」

「今日は、仕事だったの?」
「うん。でも、早く片付いたから、早めに来たの。智也も?」
「ああ。」

「じゃあ、お仕事お疲れ様。」
 そう蛍が言って、運ばれてきたグラスを、音を立てない程度に重ね合わせた。

「蛍は、日曜日は休みなの?」
「うん。大概ね。買い込んだ本読んだり、図書館行ったり、たまに、日帰り温泉とか行ったり。智也は?」
「俺も、日曜は休みかな。本も読むけど、結構仕事持ち帰ったりしてるかな。日帰り温泉って、独りで?」
「うん。思い立った時に行くから、殆ど誰かと約束する事なんてないし。結構気楽で良いよ。」
「東京でも、そんな場所があるんだ。」
「車を飛ばせばね。でも、車だから、湯上りに一杯、っていう訳にもいかないんだけどね。」
「飲酒運転は厳しいからね。」
「そうそう。」

 こうして、会話していて、不快になる事はない。
 遠慮をあまりしない口振りだけど、深入りはして来ない。
 それは、蛍自身がそうなのか、わからないが。

 俺自身、そういうところがある。
 他人が聞いて、決して面白い話ではないから、それは程、自分の事を話さない。
 その話しを聞いて、相手がどう思うか、どうしても気にしてしまうから。
 結局、俺自身が相手から距離を置いてしまうから、どうしても、上手くいかなくなってしまうのか。
 
「蛍は言ったよね。恋愛には向かないって。どうしてそう思うの?」

「僕は、誰かに恋愛感情を持つことは決してない。誰かが、もし、僕を愛してくれたとしても、僕はそれを返すことは出来ない。勝手な話だけどね、一方的でもいいと、押し付けられたら、きっと、重荷に感じてしまうんだ。きっと。」

「過去に、辛い恋愛でもした?」

「そうじゃないよ。元々ないんだ。そういうのが。それなりの感情はあるよ。きっと、他人よりも薄いけど。それを、人として、欠陥だ、と言われても、気にはしていない。昔は、そういう自分が、おかしいんじゃないか、って思った事もあったけど、それを、認めてくれた人がいるから、今は、それでも、ちゃんと、一人の人間として生きていける。」

「まあ、確かに、人の感情とは不思議なものだけどね。恋愛感情も含めて。でも、仮に、恋愛感情があるからって、その二人の間が上手くいくとは限らないけどね。」

「智也は、上手くいかないの?」

「俺なりには、真剣に愛してるつもりなんだけどね。でも、駄目みたい。感情の行き違いっていうのかな。」

「ふーん。あ、でも、僕、それなりに気の合う人とセックスするのは好きだよ。あ、でも、セックスフレンドが欲しいのとはちょっと違うかな?」

「恋愛はしない、でもセックスはする。恋愛感情がなくったって、セックスが出来るのは否定しないよ。」

「僕は、基本的に僕なりに気に入った人間としか、セックスしないよ。だから、誰でもいい訳じゃないんだけどね。」

「君なりの『気に入る』の基準がよくわからないんだけど。」

「残念ながら、僕自身もわからないね。何かしらの感情が動いてはいると思うんだけど。」

「名前の付けられない感情、か。人間って、そういうものでも、何かしら名前をつけたがるんだけどね。」

「説明の出来ない存在は、許せない、って?」
「許せない、って言うか、探究心って言うか。まあ、理論理屈上説明出来ない事は沢山あるけどね。」
「説明出来るように納得したい、っていうのもわかるけど、そのまま放っておいた方が面白いような気もするんだけどね。」
「謎に満ちてる方が良い?」
「うん。まあさ、もし仮に、1つの謎が解明されても、新に謎は沸いてくるものなんだろうけどね。」

「俺は、謎の存在は認めるけど、どっちかっていうと、それを追求したい方かな。人間の存在自体謎だけどね。」

「ふむふむ。それで、僕に興味持った?」
「話してみて、余計にそう思ったよ。好奇心をくすぐられるね。」
「面白いな、智也って。僕も、そういうところ、気に入ったよ。」

 俺は、蛍の何を見ているのだろう。
 そして、蛍の何に惹かれているのだろう。
 俺自身、俺を突き動かす衝動を理解出来ずにいる。

「で、この後どうする? ホテル行く?」
「もしよければ、俺の家来る?」
「え? いいの? 普通、あんまり得体の知れない人間って、自分のテリトリーに入れたくないんじゃない?」
「そうだね。普段は、そんなことしないね。」
「じゃあ、お言葉に甘えて。」

 それから、電車で数駅揺られて、俺の家に着いた。

「え? 戸建て? 家族とかいるんじゃないの?」
「いや。独り暮らしだから。」
「あ、そうなんだ。」

 そうして、俺を抱きたい、と言った蛍を、俺は拒む気はなかった。

 しっとりと重なってくる唇が軽く、数回角度を変えて、触れてくる。
 歯列を割って入ってきた舌が、口腔内を舐って、舌を絡ませあう。
 少し、強く吸われた舌に妙な痺れた感覚が残った。

 離れた唇が、耳朶を甘噛みし、吐息を浴びせられる。
 首筋を這う舌先も、鎖骨に立てられた歯にも甘い疼きが走る。

 そして、乳首を弄られて、吸い上げられて、甘噛みされて。

「ん……あ……」

 ローションを手に滴らせ、指が挿入されてくる。
 解すように動く指は、俺が、感じられる場所を、きちんと刺激していく。
 その刺激に俺は、ペニスを更に硬く勃起させた。

 指が引き抜かれ、代わりに蛍のペニスがローションの滑りを借りて入り込んでくる。
「あ、はぁ…ぁ…」
 俺のカラダが慣れるのを待って、蛍は動き始めた。

「んん…あ…ああ…はぁ…」
 
 擦り上げられる内壁への刺激に感じて、ペニスの先端から先走りの液が流れていく。

 そして同時に、ペニスを扱かれたら、もうたまらなくて。

「あ…ああ!……も…イ……く…!」

 蛍も、裡で精を放ったようだった。

「明日、休みなんだろ? ゆっくりしていけばいいよ。」
「そう? 僕、そういえば、自宅以外で、寝る事って殆どないなぁ。」
「今までのお相手とはどうしてたの?」
「んんー? 何となくそういう感じになった人いないけど。どこで、セックスしても。」
「安眠できない?」
「そういう訳じゃないけど。」
「けど?」
「だって、僕にそういうの求める人いないから。」
「馴れ合いみたいで嫌?」
「さあ、どうだろうね。そういうのもわからないや。」

「まあ、何でもいいけどね。お風呂、まだ落としてないから入ってきて良いよ。後これ、これ位ラフな格好だったら、眠れるだろ?」
「ありがと。んじゃ、お先お風呂借りるね。」

 俺が蛍に求めているもの。
 蛍が俺に求めているもの。
 その間に、どれくらいの差があるのだろうか。
 そして、それが、俺達の関係に何をもたらすのか。
 闇に包まれた謎ばかりが、まだ目を覚まさずにいる。
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