暴走書家

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『偽装と真実の仮面-9-(完)』

 前日の土曜日、静香からお達しがあった。
「明日は、9時頃から忙しくなるから。それと、昼食はいいわ。作ってる余裕なんてないと思うし。ピザでも取りましょう。」

 何故、忙しいのか、全然わからずに了承させられる。

 この間、晴彦が言った言葉。
 あれは、別れの挨拶ではなかったはずだ。
 それなのに、一向に連絡がない。
 静香の口からも、晴彦の名前が出る事はなかった。
 まるで、何もなかったかのように。

 俺は、それが気が気でなかったのに。
 俺の口から聞く事も出来なかった。
 晴彦にメールを送ってみても、返って来ない。

 そして、日曜の朝、インターホンが鳴った。
「私が出るわ。」
 そう言って、静香が玄関に向かう。
 そうして、やって来たのは……。

「晴彦!?」

「久し振り。隆弘。」
「何で、お前が……。」
「何でって、今日はお引越しだから。」
「引越し?」
「うん。俺、今日から、ここの家に住むから。」
「は? なんで? いきなりそうなるの?」
「いきなりじゃないよ。ちゃんと、静香さんと話して、そう決めたんだから。ね、静香さん。」
「そうよ。いいじゃない。どうせ、部屋余ってるんだし。晴彦くんは、別に離婚しなくっても良いって言うし、隆弘だって、一緒にいられた方が嬉しいでしょ?」
「いや、だからって、俺に、一言も言わずに……。」
「言わない方が、面白いんじゃない。」

 何だ? 何で、こんな展開になってるんだ?
 俺にはさっぱりわからない。

 わからなくても、晴彦の荷物は運び込まれてくるし、その為に買ったという家具は運び込まれてくるしで、否応なく作業を手伝わされる。

「資料の本とか沢山あるんでしょ? 一応、本の為の部屋はあるけど、今の本棚じゃ、足りなさそうね。取り敢えず、床に積んでおいて。その内買い足すから。」
「あ、はい。でも、結構、本あるんですね。静香さん、俺の本読んでくれてるって聞いたけど。」
「残念ながらデヴュー作の『いつか晴天を信じて』は初版、買いそびれちゃったけど、後は、全部、初版で持ってるわよ。」
「何か、そういうのって恥ずかしいけど、俺、持ってるから、良かったら差し上げますよ。」
「本当!? ありがとう。」

「そう言えば、静香さんも何か書いてるんでしょ?」
「一応ね。始めは趣味で書いて、投稿してたんだけど、定期的に載せてくれるところがあって、今は、月刊誌に、少しだけど、短編、書かせてもらってるの。晴彦くんみたいに、それだけじゃ食べていけないし、本業は本業で好きだから、辞めるつもりもないし。」
「俺、静香が、短編書いてるなんて、初耳なんだけど。」
「だって、言った事なかったし。結婚前からよ、書いてるの。」
「どれ? 静香さんが書いてるの。」
「これ。『立川怜』ってPNの。」
「へー。何ていうか、ちょっと、男性っぽいですね。」
「褒め言葉として受け取っておくわ。私に、『女性らしさ』を求められても困るんだけど。」
「なんか、カッコイイ。静香さん。」
「私に惚れても無駄よ。」
 静香が笑って答える。
 何で、俺の知らないところで、この二人が仲良くなってるんだ?

「あ、隆弘、ちょっと不機嫌そう。大丈夫だよ。俺が愛してるのは、隆弘だけだから。」

「私たちは、子供を産めないけど、こうやって、擬似的になにかを作り出すことは出来るのよね。」
 それは、多分、静香の本音。
 子供をがいらない、好きでない、そう言っているけれど、その代わりに、産生できるもの。

「もうお昼だ。ちょっと休憩しようよ。お昼、どうするの?」
「今日は、取り敢えず、宅配ピザでいい?」
「うん。俺は構わないよ。」
「そういえば、晴彦くんは、いつもご飯どうしてるの? 自分で作ってるの?」
「俺、自炊苦手なんで……。」
「あら、じゃあ、普段は、私が作るわ。3人分に増えたって同じだもの。お昼も、私たちのお弁当と一緒でいいなら、作るけど?」
「助かります。」

 どんどん、俺の知らないところで話は進んでいく訳で。
 こういう展開ってありなの?
 俺にはさっぱり理解出来ない。
 この二人を前にしていると、俺が、凄い常識家のような気がしてくる。
 それで、あんなに悩んでた、俺って一体何なんだ?
 勿論、悩む、という行為自体が無駄になるとは思ってない。
 人間だから、悩んで当たり前なんだ。

 そうだよな。
 多分、静香も、静香なりに悩んで、晴彦も晴彦なりに悩んだはずだ。
 って言うか、そうでなきゃ、おかしいだろ?

「そうそう、晴彦くん。今度ね、隆弘、講師に昇進できそうなの。」
「なんか、おめでたいこと尽くしだね。」
「でしょでしょ? だから、いっぱいお祝いしなくちゃね。で、晴彦くん、何か欲しいものとかある?」
「ちょっと待て、俺のお祝いじゃないのか? 何で俺に聞かない。」
「ちゃんと、意見は聞くわよ。でも、隆弘の大切な晴彦くんの意見だって尊重したいじゃない?」
「それは、そうだが……。」

「俺さ、ずっとマンションだったし、実家にいたときも、親が、駄目って言ってたから叶わなかったんだけど、猫、飼ってみたい。」
「私は大丈夫よ。隆弘は?アレルギーとかある?」
「いや、ないけど。」
「朝とか夜は、私たち居るけど、昼間は、家空けるから、晴彦くんが、昼間、面倒を見てくれるんなら良いわよ。」
「本当? 嬉しい。作家でもさ、結構、いるんだよね、ペット飼ってる人って。」
「そういえばそうね。今度、ペットショップ見に行きましょう。」
「はい。」
「隆弘も行くでしょ?」
「え、ああ。」

 何か、すごく、この二人に振り回されている。
 駄目だ駄目だ、俺ももっと主体性を持たないと。

「……ありがとう。晴彦くん、隆弘。私の居場所を作ってくれて。本当に感謝してる。私が、家族を持てるなんて思っていなかったけど、隆弘が結婚してくれて、家族になってくれて嬉しかった。そして、私と隆弘の歪な結婚を晴彦くんが認めてくれて。」
 やっぱり、静香にも、不安がなかった訳じゃない。

 『人』と言う字は、二人が、凭れ掛かってできているんだというけれど、それが、二人きりである必要なんてないじゃない。
 それが、三人になったって。
 天秤に掛けたって仕方がない、どうしようもなく大切なもの達を、出来るだけ、失わずにいたいから。
 少しぐらい贅沢言ったって良いじゃない?

 これからだって、幸せな日々が、延々と続く訳じゃないと思うけど、努力して、それを引き伸ばす事だって出来るんだと思う。
 贅沢は敵なんかじゃない。
 もちろん味方でもないけど。
 でも、贅沢だってわかってて、それでも欲して、手に入れる事が出来たなら、それを大切に守っていきたい。

 世間は、どんな目で、俺達を見るんだろう。
 お互い、偽装だったはずの結婚の中にも、俺達なりの真実があって、それが、その本当のカタチを誰にも認められなくても、俺達の中では、真実であった。
 そして、作り上げた虚構を、世の中の真実に近づけるために仮面を被って生活をして、その虚構も真実も、全て受け入れて。

 始めはそんな二人だった俺と静香の間の中に、晴彦が入り込んできた。
 そして、また、別のカタチの真実を作り上げるだろう。
 この偽装の関係の中に。

 そして、世間が望むなら、その為の仮面をつけて振舞おう。
 例えどんな仮面を着けたって、俺達の城の中では、素顔が待っているから。

 仮面を着ける事を、窮屈な事だと思わず、人生のゲームの中の楽しみの一環だと思えば、少しは気が楽になるんじゃないだろうか。
 そしてその分、自然なカタチで、仮面を着けられるんじゃないだろうか。
 自ら望んで着ける仮面だから。

 俺達、3人の関係に歪が生まれるとしたらどんな時だろう。
 人の気持ちは移りゆくものだから。
 もしかしたら、今のカタチが変わってしまうかもしれない。
 でも、その時、新たなるカタチが生まれないとも限らない。
 人間という関係の中において、そのカタチは、一つきりではないから。

 そして、それに対応出来る位の人間でいたいと思う。
 柔軟なココロで、柔軟なカタチを。
 カタチとは呼べない代物かもしれないけれど、それだっていいじゃないか。

 俺が俺の人生を生きる限り。
 静香が静香の人生を生きる限り。
 晴彦が晴彦の人生を生きる限り。

 そして、それぞれの人生の中に、お互いが関わっていく限り。

「私の事は、同居人位に思ってくれてていいわよ。」

 そう言って、俺と晴彦を残して自分の部屋に入っていく静香。

「ねえ、隆弘、これも同棲って言うのかな?」
「さあ、どうなんだろう。」
「取り敢えずさ、俺の部屋、まだ片付いてないんだけど。」
「ん?」
「だからさ、隆弘の部屋に行ってもいいでしょ?」
「ああ、そうだな。」
「ふふ、これからずっと、一緒にいられるといいね。」
「こんなカタチになるとは思ってもみなかったよ。」
「でも、もう、始まっちゃったんだからさ、覚悟しないとね。」
「わかってる。」
「これから、もっと、いっぱいシようね。」
 苦笑せずにはいられない。
 ただ、わかっているのは、今は、幸せだという事と。
 そして、俺達は、俺達なりのカタチを探していけばいいという事。
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