暴走書家

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あるバーのシリーズ(異質)

 何か他の人間とは違うオーラを持った奴。
 それがあいつだった。

 俺は人見知りしない人間だったから、大学に入って色んな人と友達になった。
 自分の性癖もずっと知っていて、高校の時の奴は知らないけど、大学に入ってオープンにした。
 やっぱり素での自分を隠したくないから。
 それを面白がってくる奴もいたし、離れていく奴もいた。
 離れていくのはそれなりに傷付いたけど、それはそれで仕方がないと思っていた。

 あいつはそれにあんまり興味を示さなかった。
 元々、あいつは俺といなかったら一人でいる事が多くて、それに気に留めている風でもなかった。
 異質な何かを持った奴。

 それが俺の心のどこかに挟まっていた。
 俺が誘えば付いてくるし、話をすれば聞いてくれる。
 けれど、自分の事を話したりはしなかった。
 専ら俺が話すだけ。
 俺からあいつを誘ってつるむのが日課になっていた。
 今までの友人の誰とも違っていた。

 何でなんだろ。
 俺はあいつに構いたくってしょうがなかった。
 俺がいなくってもあいつは、きっと一人でやっていけるんだろう。
 だけど、俺はあいつがいないのは寂しかった。
 本当に失いたくなかったからこそ全てを見せる気になった。

 これで、離れていったらそれでしょうがない。
 話さないでいる方が辛かった。

 だから、俺がよく通う店に行くのに誘った。
 あいつは逃げる事なく付いてきた。
 その店の中を見て動じる事もなかった。
 そんなあいつに声を掛けてくる奴がいたけど、やっぱり動じる事はなかった。
 逆に、それに動じたのは俺のほう。

「駄目だよ、彼、ノンケだから」
 俺がそいつに断りを入れたくらいだ。
 何で、こんなに肝が据わっているんだ?
 初めてここにつれられてきたらやっぱりびびらないか?

 嫌な顔何一つせず周りを見渡して酒を飲んでいる。
 この店に来ても何か異質であることには違いない。

 そんなあいつが、俺を伴わなくってもあの店に通っている事を知った。
 何でって、一人で飲みに行ったらあいつと、あの店で鉢合わせたからだ。

「何で、お前がここにいるの?」
「何でって、なんとなくここが気に入ったから。」
「わかってるのか? ここがどういう所か?」
「わかってるよ。よく来てるもの。」
「よく来てるって……。お前はゲイじゃないだろう?」
「違うよ。だけど、お前は俺のこと『ノンケ』だって言った。あれも違うと思う。俺は、別にオトコを好きになる訳じゃないけど、オンナの事も好きにならない。」

 あいつは何を言っているんだ?
 俺にはよくわからない。
 じゃあ、誰を好きになるの?

「俺はこの店に来て良かったと思っている。自分の中でよくわからなかったものが見えた気がする。」
「自分の中でわからなかったもの?」
「自分自身の感情かな。いつも、どこかで誰とも違うと思っていて、俺自身それが認められなかった事。何人かに誘われて、寝てみて、俺はそれが嫌じゃなかったし、寧ろ気持ち良かった。」

「寝たの? お前、信じられない。」
「俺って、いっつも結局受身なんだ。誰かに誘われて、それは嫌じゃなくって、でも、俺から何かを求める事がないんだ。」
「でも、一人でこの店に来たのは自発的な行動なんだろ?」
「そうだね。何かここには俺が安らげるものがあるような気がしたんだ。普通に大学に行ってるだけだったら見つからなかったもの。お前には感謝してる。この店を紹介してくれた事。」
「別に感謝されたくって紹介した訳じゃないよ。俺の事を知ってもらいたかっただけ。」

「お前にとってはそうかもしれない。だけど、俺にとってはそうじゃなかった。ここに来ても、お前の事がわかったわけじゃない。わかったのは俺の事だけだ。」
「俺がお前に知ってもらいたかったのは……オトコをセックスの対象としてみてるってことだけだよ。それが、こんな事になるなんて。」
「俺は、ここである人に出会って言われた。俺は、俺自身を含めて誰の事も好きにならないんだって。」
「誰も好きにならないの? それって寂しくないのか?」
「寂しくない。『好き』っていう感情もわからない。でも、誰かに求められると嬉しいと思う。」
「だから、求められたらセックスしちゃうの?」

「俺は好きだと思われても思い返せない。返さなくっても良い関係を求めてる。その人は言ってた。そうする事は俺自身に忠実だからそれで良いんだって。男同士だって、オトコとオトコだって気持ちがいつも通じる訳じゃないし、変わらないんだって。」
「それで、オトコとセックスする、に結びついちゃう訳?」
「たまたまそれが結びついただけ、かな。」

 たまたま、だけで、そこに結び付けられちゃうのもある意味凄いと思う。
 だって、世間一般的には考えられないよ。
 だけど、そんな奴だから、ここまで受け入れられてしまうんだろうな。
 俺の事も。

「何か、そんな風にお前に思わせた奴が悔しいけど羨ましい。俺やっぱりお前の事が好きなんだと思う。」

 うん。多分好きなんだ。
 だからこんなに気になるんだ。
 オトコを好きだと思う俺を知って欲しかったんだ。

「俺の話聞いてた? 俺は誰も好きにならないって。」
「聞いてたよ。だけどそんなお前を好きだと思うんだ。」
「俺は、お前の事嫌いじゃない。だけど、お前が思うように想い返せない。」
「恋愛したって、同様に想い合うのって難しいんじゃないか? お前が拒否しないでいてくれるんなら、俺に好きでいさせてくれないか。」
「拒否は……しないよ。けど、それで良いのか? お前は。」
「良い悪い、っていう問題じゃない。それが、俺の気持ちなんだ。」

 大切なのは、俺が思う気持ち。
 そして、それを相手に押し付けない事。

「なあ、俺が、俺以外の奴とセックスするな、って言ったらどうする?」
「俺はセックスを求めている訳じゃないよ。別にするのが嫌な訳じゃないけど。そんな事をしなくっても良いって、もうわかったから。」
「それは、それを言ってくれた人がいるから?」
「うん。それもあるけど、お前にそう言ってもらえたから。お前にそう言ってもらわなかったら、やっぱり、俺、ふらふらしちゃうと思うんだ。」

「俺が、好きだって言ったから?」
「俺は、好きにはなれないけど、裏切りたくはないと思う。最低限それはしなくちゃいけないと思うんだ。」
「それは、それで十分じゃない? 友達だって恋人だって同じなんだと思う。」
「俺は、こんなんだから、人間関係希薄だから、そういうのにも気付けなかったんだ。」

 大学にいても異質だったけど、ここにいてもやっぱり異質なんだ。
 誰ともつるまないで変わった奴、と思われがちだけど、そうじゃない。
 やっぱり人間なんだ。

 色々こいつなりにも悩んでたんだ。
 俺だって人と向き合うのに勇気がいる。
 一対一で、きちんと話をすればよかったんだ。
 こいつにきちんと向き合うにはそれくらいしないと。

「お前に会って、この店紹介してもらえなかったら、その人とも出会うこともなかった。それで、俺自身に向き合う事もなかった。」
「俺は、その人にも感謝しないといけないのかな。」
 何となく不本意だ。
「そんな、嫌そうな顔をしなくっても。別に感謝しなくっても良いと思うよ? その人もそんな事別に望んでいる訳じゃないと思うし。」
「けど、お前は感謝してるんだろ?」
「それは、俺が勝手にね。良いバーも紹介してもらっちゃったし。」
「ええ? それってここら辺の店?」
「うん。そうだけど、ゆっくり飲める場所だよ。」
「紹介して、紹介して、紹介してー。俺も知りたい。」

「いいけど、騒ぐのはなしだよ。」
「そんなに改まった場所なの?」
「違うけど、静かに飲みたいバーだから。」
「ふーん。まあいいや。静かにしてるから。」

 そう言ってつれてきてもらったのは小ぢんまりとしたシックな雰囲気のバーだった。
 入り口に表立って広告してないから、わからない人はわからないんじゃないかな。
 俺もこんなところに店があるなんて知らなかったし。

 ああ、でもなんでだろ。
 あんなにどこにいても異質に見えたこいつが溶け込んで見えるのは。
 それぞれの人が、それぞれの世界で飲んでいる。

「この店はね、『一人で、でも、独りっきりでなくて飲める』場所なんだって。その人がそう言ってたし、俺もそう思う。俺は一人でいる事が多いからね。」
「恋人と来てもいいの?」
「それは良いみたいだけど、声を掛けるのを目的で来る人はいない。」

 物色したりする視線がないわけだ。
 騒がしくないし二人でゆったり飲むにはいいかもしれない。

「マスター、この間のお酒、またもらえます?」
「はい、かしこまりました。」
 そういって運ばれてくるお酒。

「俺、このお酒気にいちゃった。」
「気に入っていただけて何よりです。」
「何? それ、美味しい?」
「さあ、好みじゃない? 飲んでみる?」
 渡されて飲んでみる。

「うーん、俺は、もうちょっと甘めの方が好みかな。」
 渋い味だ。
「もう少し甘め……ですか。アルコールはこれくらい強くって大丈夫ですか?」
「あ、はい。」
「じゃあ、こちらなんか如何でしょう。」

 俺の前におかれた、琥珀色の液体。
 一口飲んでみる。
 うん、これならいける。

「美味しいです。これ。」
「良かったです。気に入っていただけて。」
 さっきの店でもアルコールが入ったし、飲むスピードは速くない。
 このお酒自体、アルコールが強い。
 あんまり急いで飲んでもカラダに毒だしな。
 それに夜はまだ長い。

「なあ、今夜、俺ん家来ない?」
 俺は一人暮らししてるけど、そういえば友達は何人かいるけど家に呼んだ事はなかった。
「うん? いいよ。」

 こいつになら全てをみせられる気がした。
 部屋は綺麗にしてるけど、例え散らかっていても、こいつなら気にしないんだろうな。

「それで今度お前ん家行ってみたいな。」
「え、いいけど、何にもないよ。あ、本が散らかってるから、前もって言って。」
 そう言えばこいつよく本を読んでたな。
「どんな本読んでるの?」
「主に、ミステリーかな。」

 まあ、こいつにエロ本とか合わないし。
 と言うか、見せてみたい、エロ本を。
 あんま、反応なさそうだな、とは思う。

「なあ、お前、オトコと寝てどう思ったの?」
「どうって、別に……。他人と分かち合える快感があるんだな、くらいかな?」
「ココロとか、どうでもいいんだ。」
「俺自身にそういう気がないからね。」
「じゃあ、今夜俺が人の温もりと言うものを教えてやる。そんでもって、俺じゃなきゃ、物足りないくらいに愛してやるから覚悟しとけよ。」
「何か良いなぁ。その自信。」

 ふん、自信なんてあるものか。
 だけど、簡単に手放してやらない。
 俺が一回捕まえたんだから。

 それでも普段はきっと変わらないんだろうな。
 こいつが少し冷めている、くらいでちょうどいいのかも。
 俺達は。

 ただ一つ言えるのは、今までより少し距離が縮められたんじゃないか、という事。
 俺がこいつを好きだといっていて、こいつがそれを受け入れてくれている。
 だから、セックスフレンドとも違うんだな。
 恋人と呼べるのかは怪しいけど。

 でも、そんな関係でも、長く付き合っていければいいな、と思ってる。
 こいつだけを異空間に放っておけない。
 俺がそこに飛び込むくらいの覚悟でいなくちゃ。


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