暴走書家

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

PageTop

『偽装と真実の仮面-7-』

「俺は、隆弘の事好きだけど、あいつは特別だから。あいつとの過去を消す事なんて考えられないし、忘れる事もないと思う。隆弘は、こんな俺の事許せない?」
「いや……」

 許されるべきではないのは、俺の方なのだ。
 ここまで正直に話してくれる、晴彦を俺は受け入れられる。
 けれど、晴彦が、俺の事を受け入れてくれるかは別の事なのだ。
 でも、話さなければ。

「晴彦。」
「何?」
「晴彦に、ずっと言えなかった事がある。いつかは話さなければいけないと思ってた。出来るだけ早い内に。」
「何? そんなに神妙な面持ちをしちゃって。あ、俺が、変な事言ったから? 気にしてるの? 何か。」
「いや、そうじゃない。寧ろ、晴彦が話してくれたから、今、俺が話す契機きっかけが出来たんだと思う。晴彦……俺、結婚してるんだ。」
「え? どういうこと? 隆弘ってバイなの?」
「違う。バイじゃない。ゲイだよ。だけど結婚してるんだ。」
「ゲイだってことを隠すため? 偽装結婚したの?」
「そう思われても仕方がないと思ってる。」
「それで? 隆弘はどうしたいの? 俺の事は、浮気って事? 奥さんにバレないうちに、別れようって言うの?」
「晴彦は、ゲイだってこと、カミングアウトしたことある?」
「話を摩り替えるの?」
「いや、違う。」
「ないよ。だって、別に誰に言う事でもないもん。別に卑下する事でもないけど、自慢する事でもないから。」

 晴彦の言う通りだと思う。
 俺も実際そう思ってきた。
 わざわざ、オンナが好きだって告白するノンケがいないように、オトコが好きだって、告白する必要なんてないって。

「俺は、一度だけ、カミングアウトした事がある。妻は知ってる。俺がゲイだって事。そして、今、俺にオトコの恋人がいるってことも。」
「奥さんは納得してるの? そんなことって……。」
「俺が、妻に、静香にカミングアウトしたのは、結婚する前の話だ。」
「奥さんは、隆弘がゲイだって知ってて結婚したの? 何でそんな事。」
「すまん。詳しくは言えない。これは俺だけじゃなくて、静香の問題でもあるから。俺と、静香の付き合いは長いんだ。勿論、恋人としてじゃない。大学時代に知り合って、将来目指しているものも似てたから、気が合って、良い友人としてずっと付き合ってきた。誰よりも近い位置にいたと思う。今も、同じ職場で働いているし。だから、唯一、自分がゲイだって事を打ち明ける気になったのかもしれない。」
「隆弘が言ったの? 結婚しようって。」
「いや。静香だ。でも、それを受け入れた、俺も俺だから同罪だ。」

「ゲイでも、結婚してる人がいない訳じゃないよね。俺……ウリしてた時期があるから、そういう人が、客になることもあった。女性と、セックス出来ない訳じゃないけど、それで満足出来ないもんね。」
「俺は、静香もだけど、お互いをセックスの対象としてみた事はないし、実際した事もない。ゲイだって認識してても、パートナーに恵まれる訳でもない。そういう風に長く付き合える相手に出会える確率だって高くはないし。」
「それはわかるよ。長く続くゲイパートナーが大勢いるわけじゃないって。」
「俺と静香を結ぶ絆は恋愛なんかじゃない。でも、パートナーとしてはやっていけると思ったんだ。だから結婚した。」
「恋愛結婚だけが全てじゃないのはわかってるよ。でも、隆弘は、ゲイなんでしょ?」
「ああ。俺は、肯定も否定もしなかったけど、静香は、もし俺が、そういう相手と出会えたら、離婚しよう、って始めに言ってた。」
「始めって、結婚する時から?」
「そう。」
「俺がしている事は狡い事だってわかってる。静香は俺に選ばせるつもりだ。そして俺は、晴彦に選ばせようとしている。ゲイなのに結婚するような男と、晴彦は、付き合えるのかどうか。」

 相手に選択肢を与えて選ばせるのは、狡い行為なのだ。
 勿論、受け入れる覚悟はいる。
 しかし、相手に決断を迫った時点で、自ら決断する事を放棄してしまっているのだから。
 静香は自分が狡い人間だと言った。
 それと同じように俺も狡い人間なのだ。

「隆弘は、自分から、奥さん、静香さんだっけ? とは、別れる、とは言ってくれないんだね。」
「俺が、今、愛してるのは晴彦だ。だけど、静香の事も大切なんだ。晴彦には、残酷な事を言っているのはわかってる。」
「そんな、『愛してる』って言葉を、信じろって言うの?」
「信じてくれなくても仕方がない。そういう行動をとったのは俺なんだから。」
「俺は、信じたいよ。俺も、隆弘を愛してるから。でも、愛してるって、言葉だけじゃ……。」

 そう言いかけて、晴彦は一旦言葉を区切った。

 言葉は、大切だけれども、それだけじゃあ、伝わらない事は沢山あって、だからと言って、セックスをすればわかり合える訳じゃなくって、根本的に自分が納得しなければ、どうにもなるものではない。

「わかってる。俺が最初に隆弘を誘ったんだ。隆弘が誘いに乗ってくれたから、今こうして付き合ってるんだって。隆弘と会うのは楽しいし、俺の知らないいろんな事を教えてくれるのが嬉しかった。」
「晴彦、お願いだから、自分を責めないで欲しい。晴彦に誘われて嬉しかったし、その誘いの手を取ったのは俺なんだから。」

 自分を責めなければ、相手を責めてしまう。
 それはどちらも辛い行為で、相手の事を思うからこそ、自分自身のことを責める晴彦の事が痛々しかった。
 俺が悪いと、責めてくれた方が、どんなに楽だっただろうか。

「隆弘は、俺と別れるつもり? そしてどうするの? また別のオトコを探すの?」
「晴彦、ちょっと待ってくれ。別れたいのは、お前の方じゃないのか?」
「俺は……俺は……。」
「悪い。俺が、決定的にお前を傷つけてるんだよな。ゲイなら、結婚すべきじゃない。もししたとしても、それなら、特定の相手を作るべきじゃない。セックスフレンドだと割り切れるくらいの付き合いしかしちゃいけないって。」
「隆弘はそんなこと割り切って付き合えるような人間じゃないだろ? だから、俺は、隆弘の事が好きになったんだし。」

 誰かを傷つけずに生きることは不可能だけど、こうも容易く、晴彦を傷つける事しか出来ないのか。
 俺は晴彦の為に何かしてやれたか?
 晴彦の事を『愛している』と言いながら、実際は何も出来ないではないか。
 『愛』だけが全てじゃない。
 それもわかっている。
 でも、『愛している』から、出来る何かがあるんじゃないのか?
 そう自問自答してみても、俺の中で、何かが出来るとは思えなかった。
 そして、そんな無力で浅はかな俺はどうすればいい?

「ごめん。晴彦。」

 俺は、ただ、謝る事しかできなかった。

「止めてよ、隆弘。隆弘まで傷付かないで。そんなのって、残酷すぎる。」
「でも、結果、残酷な事をしたのは俺だ。晴彦じゃない。晴彦は知らなかっただけだ。俺が言わなかったから。」
「正直すぎるよ。隆弘。このまま、ずっと言わなければ、わからなかったことじゃないの?」

 騙す事は、偽る事は、残酷なことだ。
 けれど、時には、真実ほど残酷な事はない。
 だからこそ、人は、仮面をつけ、その場その場に応じて自分を演じている。
 けれど、真剣に人と向き合おうとした時、どれほど残酷な事でも、打ち明けなければいけない事もある。
 勿論、俺には、ずっと晴彦に隠し続ける事は出来ただろう。
 もし、その道を選んでいたとしても、絶対的な誤りではない。

「ごめん。疲れた。今日はもう遅いし、寝てもいい?」
「あ、ああ。おやすみ。」
「おやすみ。」

 晴彦は、布団に包まり、寝ようとしていた。
 中々寝付けないようだったけれど、何とか寝息が聞こえてきて安心した。
 いつもは、指を絡めて眠るのだけれど、今日は、俺に背を向けて眠っていた。
 俺も、晴彦に背を向けて眠った。
 結局、まだ答えは出ていない。
 それを急かす気も、権利も俺にはなかった。

 俺は、それでも、静香と結婚した事は後悔していない。
 静香の事も責める気はない。
 俺が、選んできた事なのだから。

 晴彦に、決断を迫っておきながら、晴彦と別れたくない俺は、やはり甘過ぎるのだろう。
 だから、別れないでくれ、とは晴彦には言えない。
 言いたくても言ってはいけない言葉だから。

 翌朝、目が醒めると、晴彦は、まだ眠っていた。
 睡眠は、一時の休息に必要なものだ。
 だから、きちんと眠れている晴彦少しほっとした。

 それから、晴彦も目覚めて、昨夜あれだけ話してしまったから、お互い無言で朝食を摂った。
 そして、別れ際に、晴彦が、言った。
「隆弘、少し考える時間が欲しい。」
「わかった。」

 その時間が、どれだけの事になるのかはわからない。
 もしかしたら、二度と連絡が来ないかもしれない。
 それでも。
 俺は、今は待つ事しか出来ないから。
 今の俺に、出来るだけのことをしよう。
スポンサーサイト

PageTop
 

コメントコメント


管理者にだけ表示を許可する
 

 
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。