暴走書家

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『偽装と真実の仮面-5-』

 二兎追うものは一兎も得ず、とはよく言ったものだ。
 俺にとって、やはり、静香は静香で特別な存在。
 そしてまた、晴彦は晴彦で特別なのだ。

 晴彦とは、ホテルで朝食を取った後、いつまでも一緒にいる訳にはいかなかったので、次に会う約束をして別れた。
 日曜日の昼食と夕食の担当は俺なので、それに間に合うように家には着いた。
 昨日話題に出ていた所為か、チーズリゾットが食べたくなってそれを作った。

「『sottotetto』に行くって言ってなかったっけ? イタリアン続きでいいの?」
「行ったから、何となく食べたくなっちゃって。昨日は、コースにしたから、リゾットは食べなかったんだ。」
『『sottotetto』のリゾットの次くらいに美味しいわ。」
「俺も、『sottotetto』に勝てるとは思ってないよ。でも、その次だなんて嬉しいな。」
「まあ、でも、私の舌をあてにされても困るんだけどね。」

 静香はあまり食べ物に頓着する方ではない。
 それなりの味で、食べられれば、それでいい、と言う人間だ。
 それでも、静香の料理は、一つのものに凝りだして、それを追求する、俺の料理とは違って、レパートリーが広く、栄養バランスもよく考えられている。
 『いい奥さんになるよ』なんて言ったら、多分、静香は嫌がるから言わないけど、毎日毎日、毎食毎食、凝ったものばかり食べるのも、やっぱり無理で、日常の料理は、やはり静香の作ったものの方が良い。

 俺が、週に一度だけど、いわゆる『家庭的』ではない料理を追及する性格は、静香に言わせれば『研究者向き』と言うことになる。
 俺自身も、本当はそれ程、日々の食べ物に固執するタイプではない。
 もし仮に、3日間カレーライスが続いたとしても、何とも思わずに食べるだろう。

 だから、毎日の食事で、『昨夜、何食べた?』と聞かれても、覚えてはいない。
 毎週やってくる日曜日に『次は何をつくろうかな』という事は考えたりしていても。
 日曜の夕食は、たまに外食をする。
 ネットで店を調べていて、ここに行ってみたいな、と思ったら、そこに出かけたりして。
 一度、中華料理のコースを食べたくなったことがあったけど、やはり、あの円卓を楽しむのには、2人では寂しい、と言う静香の指摘もあって、職場の仲間をなんらか理由をつけて集めて食べに行ったりもした。

 晴彦とは定期的に会うようになった。
 だからといって、特別、日常に変化が起きた訳ではない。
 楽しみが一つ増えた、と言う事くらいだろう。
 『恋人』と呼んでいいのだろうか。
 でも、事実を見れば、『不倫』に他ならないのだが。

 『不倫』
 決していい響きではない。
 けれど、そうなってしまう事は、静香と結婚した時に俺は覚悟していたはずではないのか?
 その形態が違ったとしても、静香と俺は夫婦なのだ。
 婚姻届に判を押した瞬間から、それは決まっていた。

 俺は、静香と結婚した事を後悔はしていない。
 実際、ゲイの中にも、結婚して、子供を作っている人間だっている。
 結婚はしていても、静香は俺に『夫』として、『男』として俺を見ている訳ではないし、俺も、静香の事を『妻』として『女』として見ることはない。
 それじゃあ、俺達という夫婦は何なのか? と問われても、答えに窮してしまう。

 静香は、『女』である自分を嫌悪している、と言うけれど、一方で、『女』である事を求めている。
「見栄っ張りなのよ」
 静香はそう言う。
 かつて、俺と結婚する前、多分誰とも結婚しないだろうと思っていた時でも、『出来ない』のではなくて、『しない』と人間だと思われたいのだと言った。
 そういう対象として見られる事を嫌いながら、必要最低限のお洒落をし、化粧をしていた。
 それは今も変わってはいない。
 お洒落をしたり、化粧をしたりするのは、同性から見た自分がちゃんと『女』として見られる為だという。

 今では、『男性用化粧品』などというものが存在しているが、それでも、ファンデーションや口紅などはしない。
「女性にとって化粧は社会に出るための武装の一つ。どうして、スッピンじゃいけないのかしら。男だって化粧をすればいいのに。」
 『女』だと見せる為にする『化粧』。
 『女』を捨てている、と見せない為に。

 そんな静香は、家の中ではスッピンでいる。
 それで、十分綺麗だと思うのだが、世間ではそうではないらしい。
 静香いわく『夫の前でも化粧を落とさない女』はいるらしい。
 それも仮面の一つなのだろうと思う。
 そういう夫婦は、お互いに何を見ているのだろうか。

 女性とは付き合わない、俺にはわかりかねる事だ。
 俺は、『男』であって、『男』である人間が好きだ。
 『男』でも、ニューハーフ(これも面白い言葉だと思う)や、女装する男性などは対象にならない。
 実は、そう言った種類の人間は、むしろ『女』を感じさせるから、本当の『女』同様に遠い存在だといえる。

「静香は、自分の大切な人間が二人溺れていたら、どうする?」
「どちらかを選択する、ってこと?」
「実際には、両方、って言うのは無理じゃない? 辛いかもしれないけど、選ばなくっちゃいけないんだ。」
「それ、以前、漫画で読んだことがあるわ。曖昧にしか覚えてないけど、男性に向かって尋ねるの。恋人と母親が崖から落ちそうになっていたら、どちらを助けるかって。その漫画の中で、それぞれキャラは、色々考えた挙句、答えを出すんだけど、出題者の正解の意図は『答えがない』ってことなの。でも、現実は残酷で、実際そういう場面はありうるんだって。そして、選ばなければならないんだって。残酷な決断だけど。」

「やっぱり、全てを得る、なんて事は出来ないんだよね。」
「確かに、そういう場合もあるかもしれないわ。『命を助ける』なんて究極よね。そうね、私は残酷だから、多分どちらも選べずに見捨てるわ。だって、もし、助けようとして、自分まで巻き込まれてしまったら嫌じゃない? 若しくは、私は、偽善者だから、両方に手を差し伸べて、力不足で、3人とも命を落としてしまうか。片方だけ助けて、もう片方を助けられなかった事を悔いながら生きるのは嫌なの。」
「命の選択まではいかなくっても、人生において、幾重にも別れている道の一つを選ばなければならない事ってあるんだよね。その選択が間違っていたか、正かなんて、選ぶ時点ではわからない。後になって、後悔して、あの時、別の道を選んでいたら、って思うかもしれないけれど、もしかしたら、別の道を選んでいた場合、もっと酷い目にあっていたかもしれないんだよね。」

「歴史に『if』なんて無いと言うわ。無意味だと。でも一方で、それを考えるのも有意義な事だと。未来へ繋ぐ為に。でも、本当に、それは生かされているのかしら? きっと誰にもわからないわよね。先になってみないと。」
「そうだね。それで現状に満足出来ずに言うんだ。『昔は良かった』と。より良い未来を作り上げようと生きてきた筈なのに、」
「過去を振り返る事は大切だわ。でも、それで懐古主義に浸っていても仕方がないのに。」
「人間の歴史、ってそんなものだよね。後悔はしても、その時くだした決断を否定したくはない。その時は、それが精一杯考えての事だったんだから。」
「隆弘は何でいきなりそんな事、私に尋ねたの?」

「……俺にとって、静香は特別だし、別れたい、とは思えない。でも、実際恋人が出来てしまったら……。」
「それって、今、付き合ってる人の事?」
「うん。静香と、その人とは全然違う。なのにやっぱり、どちらかを選ばなければいけないんだろうか、と思って。」
「離婚することになっても、隆弘と私の関係は変わらないと思うわ。そりゃあ、親戚には多少ばつは悪いかもしれないけど。」
「それは、俺も、そう思ってる。確かに、結婚は形式上のものかもしれない。でも、俺にとって、それ以上の意味を持ってしまってる。」
「ごめんなさい。私には何も言えないわ。私の方から、別れて、とは言えない。例え、受け入れる覚悟が出来ているとしても。」

 晴彦と静香では全然違う存在だ。
 言葉にしてしまえば『大切な人』そうなってしまうけれど。
 そんな、種類の異なる大切なものを同じ天秤の上で計る事が出来るだろうか。
 そうする事自体間違いだとわかっていても、それしか方法がない。

 晴彦に会うたびに静香の事を話そう、話そう、と思っているのだけれど、いざって言うきっかけがない。
 それをいい事に、ずるずると関係を続けてしまっている。
 晴彦の事を恋人として愛している。
 けれど、人間関係それだけではないから。
 全てが、恋愛で成り立っている訳ではないから。

 本当に、静香との結婚が、ただの偽装結婚だっら、もう少し割り切れていただろうか?
 どっちのほうが、狡い男でいられただろうか。
 人生は、計算通りには進まない。
 だからこそ、生きる価値がある。
 もっと計算高く、静香とも、晴彦とも付き合えたなら。
 不器用な人間だ。
 でも、器用に生きようとは思わないし、そうなれるとも思わない。

 ゲイとして、特定のパートナーと付き合いたいのなら、結婚すべきではない。
 結婚したゲイならば、特定の恋人を作るべきではない。
 ココロも、カラダも欲しいと願うのは、贅沢なのだ。
 結婚すると決めた時から。

 静香が普通の『女』なら、『浮気』する俺を責めるだろう。
 しかし、そうではないから、俺は静香と結婚したんだ。

 晴彦に対しても、これ以上、話さずにいる訳にはいられない。
 結果的に、今は、晴彦に隠している事になってしまっているけれど、『嘘』を付きたくないから。
 必要な『嘘』もあるとは思うけど、きちんと、晴彦とも向き合う為に。
 その結果、晴彦に振られる事になったとしても。

 そうして、俺は、また晴彦に連絡を取った。
 もし、次回が駄目でも、その次回にこそ。
 その、先延ばしにしようとする思考が駄目なのだろうけどな。

 真実は、1つのようで、決して1つではないと思う。
 その複雑さゆえに見失って、足掻いて、生きていく。
 例えそれが、釈迦の手のひらの上を這いずり回っているに過ぎなくとも、それは、格好悪い事ではない。

 俺の人生は、俺が決めるしかないのだ。
 どれだけ周りを巻き込もうとも。
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