暴走書家

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

PageTop

『偽装と真実の仮面-2-』

 人は結婚をする時、それに何を望むのだろうか。
 結婚生活を持続させる為に必要なものは何だろうか。
 ひとえに夫婦といっても、世の中に存在する夫婦の数だけ、その関係性は異なっているのではないだろうか。

 静香は、自分を古い価値観を持った人間だと言った。
 オンナはオトコと結婚して始めて幸せになれるものではないという事はわかっている。
 結婚したからといって、上手くいっていない夫婦はこの世にごまんといる。

 独身で過ごしたとして、世間的に低く見られるのはどちらなのだろうか。
 今、この日本には男性の方が圧倒的に多い。
 だから、オトコが溢れても仕方がない。
 統計上はそうなる。

 俺から見て、静香なら、仮に結婚しなくても、事実上困ることなく生きていけるのではないかと思う。
 キャリアウーマン、その言葉が当てはまらないでもない。
 この就職難の時代に、しっかり生き残り、実際仕事もこなせるのだから。

 結婚は当人同士だけの問題ではない。
 もちろん事前に両方の親に挨拶に行かなければならないし、それ以外にも親戚付き合いはある。
 まあ、それは、その時で何とか上手く乗り切っていければいい。

 確かに、この結婚の話を持ち出したのは静香だったけれど、受け入れたのは俺だ。
 その事で、静香に後ろめたく思って欲しくなかった。
 結婚式は開かなかった。
 形式には囚われたくない、それは、静香が自分自身、古い観念に囚われている故、どうしても、反抗したいところだったらしい。
 結婚式というものは、女性が着飾るためにあるようなものだ。
 俺が、自分の両親に話した時も、『静香さんはそれでいいの?』と聞いていたくらいだ。
 『静香が望んだ事だから、そうしてやりたい。』と俺は答えた。
 静香の両親には、静香から話した。
「身内だけでいいから開いた方がいいのではないの?」
 といった両親に、『私は、非建設的なことが嫌いなの。結婚式にまわすお金があったら、将来の為に蓄えるわ』と言っていた。

 その時、静香は、自分の将来をどう見据えていたのだろう。
 俺が結婚を承諾しても、恋人が出来てその人と生きていこうと思うなら、別れる、と言ったのだ。
 その時静香はどうするのだろうか。

 俺達は、他人が知れば、偽装結婚だと言うだろう。
 静香は俺を利用し、俺は静香を利用する。
 形式上だけの夫婦だと。
 だが、互いに契約を結ぶ時、その間に信頼がなければそれはとても脆いものだ。
 果たして俺たちの関係は、どれくらいの絆で結ばれているのだろう。

 結婚すれば、仕事場からも、新婚旅行のために休暇をくれる。
 それさえも、拒否しようとした静香だったが、同僚のよしみでお土産くらい買わなければ、という事で、城崎温泉に行った。
 何故そこになったかと言うと、小説家・志賀直哉の代表作『城の崎にて』の地を訪れてみたかったからだ。
 それ以上の理由は思い当たらない。
 ふと思いついた小説がそれだったからだ。

 形式に囚われることを嫌った静香だったが、俺は、俺なりの記念として、指輪を送った。
 もちろん、サイズなんてわからなかったから、一緒に買いに行ったのだが。
 極シンプルで、何の刻印もないリングをペアで買った。
 元々、アクセサリ類を身につけないが、これくらいなら、邪魔にはならないだろう。
 それぞれ、自分の左の薬指にそのリングをはめた。

「誰がこんな事考えたのかしらね。そして、私達のこのリングに意味なんてあるのかしら。」
「さあ、どうだろうね。」
 そうして俺たちは新居での生活を始めた。

 新居は、職場から遠すぎずないところに小さな一戸建てを買った。
 買う必要はないんじゃないか、と思われるかもしれないが、静香の両親が出資してもいいから、という話が出て、でもそれは嫌で、仕方なく、お互い折半して、その家をローンなしで買った。
 ローンがあると引き返すとき大変だから。

 もちろん、プライベートルームは別々だ。
 ベッドも別の部屋に入れたし、お互い、家でも仕事ができるように、ベッドルームを兼用してパソコンや必要最低限のものを置いた。

 仕事は同じなので、一つで足りる専門書は、別途、そのための部屋を作り本を置いた。
 それぞれ、好みは違うけれど、専門書以外の本もあったので、その本もその部屋へ置く事になった。
 自分では決して買って読むような本ではないけれど、そこにあれば手にとってしまう、そんな本も静香が買ってくる本の中にはあったし、静香は静香で、俺が買ってくる本にも興味を示しているようだった。
 そうして、共通の趣味が広がるのは楽しかった。

 仕事の時間帯が同じなので、基本的に生活時間帯も同じになってくる。
 だから食事をするのも、同じテーブルでする。
 基本的に平日は静香がご飯を作った。
 家事は嫌いではない。
 俺も作れる事は作れるのだが、何というか、凝ったもが作ってみたくなる。
 そうなるとやはり所要時間も取ってしまって、日常的にそれをする訳にはいかないから、休みの日に十便時間を取らせてもらって、作ったりする。
 俺にとって料理は趣味の範囲だった。

 だが、一緒の過ごすのは、殆どが仕事の時間。
 家に帰れば、個別の部屋に入ることが殆どだ。
 静香は静香で何かしているようだし、俺は俺で、好き勝手やっていた。

 そして、たまには、仕事が上がると、家には帰らず、独身時代から通い続けていた店に通ったりした。
 勿論、その時は、左手の薬指のリングは外していたが。
 静香と結婚してから、相手を探す事にも余裕が出てきたように思える。
 そして、若干ではあるがセックスに対する考え方も変わっていた。
 静香とは出来ない同趣向をもった人間と語らう。
 あからさまに性欲の対象として見られる自分は、それはそれで嫌いだとは思えなかったし、一時の快感の対象として、いる自分は、それもそれなりに良かった。
 だが、昔よりも強く、ゲイ同士が、パートナーとして、お互いを望む人たちはどれくらいいるのだろうか、と思うようになった。

 確かに『好きだ』と思えている事も大事だし、セックスの相性も大事。
 でも、それ以上に一対一の人間として、相性が良くなければ、上手くはいかないだろう。

 俺が、静香とやっていけるのではないか、と感じたのは、静香を一人の人間として、きちんと相対せる人間だと認めていたから。
 唯一、俺が、自分がゲイである事を告白出来たように。
 そして、静香にとっても、俺という人間は、静香自身の事を告白できる、唯一の人間だったのだろう。

 長く生きていたら、この先もまた、そういう人間に出会えるかもしれない。
 だが、その人に会う前に、俺と静香は会ってしまった。
 俺と静香は、友達と呼ぶには深すぎて、親友と呼ぶのも少し違う。
 それをパートナーと呼ぶのならそうなのだろう。

 静香と俺は、夫婦だけれど、セックスはしない。
 静香はそれを望まないし、俺も、静香をそういう目では見ない。
 それは多分、ずっと変わる事はないだろう。
 あの静香の告白は多分、静香自身が悩んできた事で、そういう自分を変える事が出来ないと知っている。
 俺も、俺がゲイだという事は変わらない。

 俺は、結婚しなければ、ゲイとして、同じゲイのパートナーを得られたかもしれない。
 しかし、結婚してしまった現在となっては、それはもう叶わぬ事なのだろう。
 静香は、そうなったら、別れるから、と言ったが、俺は、軽い気持ちで、静香と結婚した訳ではない。
 もし、俺が、誰か特定のオトコを作ったとき、確かに、結婚している自分、というのは障害になってくるだろう。
 そして、ゲイのくせに結婚した俺を卑劣だと罵るかもしれない。
 それはそれで仕方がないと思う。

 それぞれが、それぞれの相手に完璧に全てを与えられる訳ではない。
 それは、その部分で、それぞれが自分で補っていかなければならないのだろう。
 静香と俺の間では、夫婦でありながら、二人でいても、『夫』であることも『妻』であることも演じようとはしない。

 俺は、静香に全てを話している訳ではないが(その必要もないし)、夜、遊びに行く時は、そういうところに言っていると知っている。
 そして、相手とセックスをしたとしても、それは静香に対する裏切りではない。
 静香が、夫の浮気を許す寛容な妻、という訳ではない。
 静香のセックス認識そのものが、その観念に当てはまらないから。

 俺は、ゲイとして恋人を作る事。
 そして今の俺の現状。
 そして俺が望む人生をともに歩む為の関係。
 それを考えなければいけない。

 仕事とは、確かに契約だし、人生の大半をつぎ込むと言っても良い。
 俺は、それが出来る仕事に就いたつもりだ。
 仕事に関しては静香も同じだろう。
 単なる、生活の糧としての仕事。
 俺達にとってはそうではない。
 どれだけの人間が興味を示すかわからないが、俺と静香は、その追及のために大学で職を得て研究にいそしんでいる。

 物事は謎に満ちていて、それを解明するのは楽しい。
 子供を生み出す事が出来ない俺達にとって、その一つ一つの達成感から何かを得てるのかもしれない。

「もし、自分の為に生きられないと感じるようになったら、別れようね。」
「自分の為?」
「隆弘、私は、仕事に充実は感じているけど、仕事だけに生きる人間にはなりたくないの。どんなに仕事を優先したって。その為に道を探してる。今は、趣味でしかないけど、それはそれでも良いと思ってる。考えてみれば、恋愛が楽しみで生きたって良いのよね。ただ、私は、恋愛してない人間は不幸だってレッテルが貼られるのが嫌だっただけなのね。」
「静香は、静香が俺のことを利用している、って言ってるけど、そうじゃないよ。俺だって、自分の事はちゃんと考えてる。お互いの関係が負担にならないように。」

 どんな関係においたって、一緒にいて、お互いの存在が負担になって、潰し合うようにしか生きられなくなったら悲しい。
 もし、俺に恋人ができた時、何かが変わっていくのだろうか。

 親戚たちの手前、社会の手前、俺たちが、仲の良い夫婦の仮面を被らなくてはいけないとしても、俺たちの間では、素顔でいたと願っていた。
スポンサーサイト

PageTop
 

コメントコメント


管理者にだけ表示を許可する
 

 
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。