暴走書家

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『偽装と真実の仮面-1-』

 人間と人間の関係なんてどう転ぶかわからない。
 その時はその時なりに、色々考えて、例え後悔したとしても、何も考えずに行動するよりはずっとましだった。

 世の中のカタチに外れることはやはり怖くて、でも、そのカタチにだっていろんなものがあるんだ。
 自分の事を優先して考えてみても、相手の事を優先して考えてみても、どうやったって考えるのは俺自身でしかない。
 それは相手にも言える事。

 それが我侭だとわかっても、もしかしたら、受け止めてくれるかもしれない、そんな人がいるのはありがたい事だ。

 俺はオトコなのにオトコ好きで、でももしかしたら、オンナとだって付き合えるんじゃないか、と悩んでいた時だった。
 それはでも、無理な事だとわかっていても、オトコしか好きになれないと認めるのが怖かった。
 だから、何とか彼女を作って頑張ってみようと思っていた。
 同じ大学の同級生で、会話をしても嫌な感じがしないので、俺達は付き合い始めた。
 デートらしいデートもした。
 映画に行ったり、食事をしたり、それなりに気は合ったと思う。

 けれど、やはり、俺が本質的に好きなのはオトコで、例え仲良くなったとしても、恋人としての対象にはならなかった。
 だから、何となく無理して付き合っている感が否めなかった。
 もし、これが、恋人ではなかったのなら、こんなに息苦しい思いをする必要はなかったはずだ。

 そんな関係が上手くいくはずがなかった。
 お互いの居心地の悪さを感じ、そして別れた。
 利用してしまった感のある俺は、彼女に対して、申し訳ない気持ちもあったが、彼女とは、特に揉めることもなく恋人としての関係を終えた。
 そして、その中でほっとしている自分がいた。

 別れたら気不味くなるかとも思ったが、その彼女、静香しずか、との関係は、それからも続いた。
 もちろん、恋人になる事はなかったけど、元来、気が合ったので、親しい友人として付き合って行く事が出来た。
 恋人であることを望まれなければ、一人の人間としての静香は傍にいて決して気不味い存在ではなかった。

 自分が、ゲイとして、生きる事を決めても、大学生活に大きな変化はなかった。

 同性を恋愛の対象としてみる人間達と知り合って、実際何人かと付き合ってみて、もちろん、静香との時みたいにおおっぴらにデートなんて出来なかったが、一緒の時を過ごして、セックスもした。
 実際、オトコとセックスをしたい、という感情は、俺の中で自然に起こっていた。
 静香との時は無理だった。
 だから、一度も静香とはセックスをしていない。

 確かにオトコと付き合って、セックスをして、欲望が満たされて、幸せな時はあるものの、中々、恋人として、長く付き合える相手とは出会えなかった。
 付き合ってる時は、それなりに真剣に付き合っているつもりだ。
 だが、何かがきっかけで別れる破目になってしまう。

 付き合いが長い、という点では恋人ではないものの静香との付き合いは長かった。
 同じ研究室に入って、共に院に進んで、そのまま大学に残った。
 お互いの研究の刺激にもなるし、興味を持つ分野が似ていて話がよく合った。

 俺が、静香と付き合っている、と勘違いする人間もいたが、勿論、俺の性癖を露にすることも出来ず、肯定も否定もしなかった。
 その事を静香がどう思っていたかわからないが、静香の方も、肯定も否定もしなかった。
 実際、俺との事で、静香が何を考えているかはわからなかった。

 俺は、本当は、両親にも、誰にも自分がゲイだということを打ち明ける気はなかったが、なぜか、静香には告白した。
 多分、かつて、自分を誤魔化す為に利用しようとして、付き合っていた事を負い目に感じていたからだろう。
 仕事上では静香はいいパートナーだったと思う。
 仕事明けに、呑みにいったりした事もある。
 そこで俺は、卑怯にも酒の手を借りて、まあ、酔っ払うほど飲んではいなかったが、打ち明け勇気が欲しくて、静香にカミングアウトした。

 静香は、驚いてはいたが、嫌悪した表情は見られなかった。
 それが、俺にとって救いでもあった。
「それって、ずっと前から?」
「ああ。多分ずっと。静香と付き合ったのも、俺自身がゲイだって認めるのが怖かったから。だから、利用したのは悪かったと思ってる。」
「あの時の事はもう忘れたわ。でも、その後も友達でいられたことは嬉しかった。私の他にも、隆弘たかひろがゲイだって、知ってる人はいるの? ご両親は?」
「静香以外には打ち明けてない。」
「なんで、私には言ったの?」
「……何となく、静香には知っておいて欲しかったから。静香を利用したカタチになってしまって、申し訳ないと思ってたから。この懺悔が、自己満足でしかないのはわかってる。」

「誰にも言えないのって辛いわよね。安心して。私は、誰にも話す気はないから。で、聞いてもいい? 興味本位だけど。」
「何?」
「今恋人っているの?」
「いや。」
「そうなんだ。好きな人とかは?」
「それも今のところは。」
「私はね、隆弘。隆弘が、別れても友達でいてくれた事が嬉しかった。隆弘と付き合っていた事は後悔してないけど、私も、隆弘に恋愛感情を持っていたわけじゃないから。だから、隆弘に負い目を持って欲しくない。」
「そう言ってくれると助かるよ。ほんとゴメン。」
「いいの。多分お互い様だから。隆弘と友達でいられる事の方がより自然だと思ってる。世の中のね、恋愛ってものに、興味がないといったら嘘になるわ。でも、私は、誰にも恋愛感情を持つことが出来ないの。他人が他人同士どういう関係を持とうが、その人の自由だと思うわ。だけどね、私は、セックスが駄目なの。だから、正直、隆弘が、付き合っていても、私のカラダを求めなかった事はほっとしていた。」

「静香は、静香で、何か悩んでいるの?」
「こういう言い方したら失礼かもしれないけど、隆弘がゲイで、そういう対象としてオトコしか相手に見られないとしたら、私はそれにほっとした。勿論、オトコが好きだって言っても、隆弘にも好みがあるんだろうけど。」
「そりゃあ、オトコだったら誰でもいい、って訳じゃないよ。普通の男友達の感覚でいられる人間だっているし。女性に関したら、絶対、友達以上になる人は居ないけど。」

「私達、もう30なのよね。」
「いい加減落ち着かないといけないんだろうけどね。」

 俺は、俺で悩んできたけど、静香も、静香で悩んできたようで、その告白は、独白のようで、誰かに、多分俺に、聞いて欲しかった事なんだろう。
 仕事も立派にこなせて、しっかりとした大人の女性を思わせる静香だったけれど、その根底にはやはり人間なのだ、と思わせる部分がある。何もかも完璧に出来上がっている人間などどこにもいないのだと。

「私はね、これからの時代、女性もきちんと仕事を身につけなければいけないって、そう言われて育ってきた。でも、社会に出てみれば、やっぱり、女性の立場は男性ほど高くはなくて、それでも、何とか、自立してやっていこうと思っていたわ。私はオトコになりたかった訳じゃない。でも、オンナでいることも嫌だったの。仕事をこなさなければいけない一方で、子供を生む機能を持った自分が嫌だった。オトコの隆弘にこんなことをいうのはなんだけど、毎月、子供を産む機能があると証明しようとして、生理が来ることを嫌悪したわ。女性とセックスが出来ない隆弘に聞くのはなんだと思うけど、隆弘は、子供を欲しいと思った事はある?」

「俺は……それは無理な事だから。欲しいとか、それ以前の問題で。」

「私はね、絶対欲しくないの。その為にある、オンナのカラダある私も嫌いなの。それを知るためのセックスが嫌なの。歳をとってきて、周りの友達が結婚して、子供を生んで家庭を持って、私にとって、それは嫌悪の対象でしかなかったの。結婚はまだ許せたわ。でも、子供は駄目。毎年のように送られてくる年賀状に我が子の写真を載せてくる友人に吐き気すら覚えたわ。隆弘は、自分がオトコだって認めてるのよね? その上で、対象としてオトコを見てるのよね?」

「ああ、うん。」

「ちょっと前から認められてきたでしょ? 性同一性障害って。私は、オンナでいたくなかったから、その事も少し勉強してみた事があるの。でもね、私は、結局、オトコになりたいわけじゃないの。オンナなのよ。それは認めてる。だから、それとも違うんだって思った。男性をセックスの対象に見られない事はわかった。じゃあ、相手がオンナなら? そう考えたこともあったわ。でも違った。どっちにしても同じなの。セックスが介在してくるような関係は私には無理なんだって。」

「俺は、ゲイである自分が認められなかった事もある。そんな自分自身が嫌だったことも。でも、ゲイだって事を、何とか受け入れて、俺は少し前に進めた気がする。」

「この定義は、はっきりしたのもじゃないんだけど、Aセクシャルって知ってる?」

「いや……。」

「本当に確定した定義じゃないけど、男性にも、女性にも性愛の対象としない、若しくは性欲の対象としない人。その中にも色々な人がいるわ。どれをもって、正確なAセクシャルと言うのかはわからないけど、私は、恋愛感情自体、オトコにもオンナにも持てないの。もちろん、そんな曖昧な定義だし、誰にも打ち明ける事が出来ない。こんな話、実際に人に向かって話してるのは、隆弘が初めて。」

 多分、誰よりも仲の良い友達として付き合ってきて、この相手なら受け止めてもらえるんじゃないかと、思い切って告白した。

 オトコとオンナの間に友情があるかと問われたら、貴方はなんと答えるだろうか?

 ゲイ同士の男性間に友情があるかと問われたら、貴方はなんと答えるだろうか?

 色眼鏡で見た世界は、その人の色を通してでしか、ものを見る事が出来ない。
 その人をどうして否定することが出来よう。

 その関係を知ったら、人は歪んでいると見るかもしれない。
 けれど、俺は静香と結婚した。
 ゲイであることを隠すためではなく、パートナーとして。
 一番近い言葉を選ぶのなら『友達婚』と言うのが当てはまるかもしれない。

 恋愛は出来ないけど信頼できるパートナーは欲しい。
 それは、静香の贅沢なのだといった。
 けれど、それを俺は贅沢だとは思わない。
 どういう理由にせよ、パートナーを持つ権利はあるはずだから。
 本当は、一人で生きていくつもりだと言った静香に同情した訳ではないと思う。

 元々、仲の良かった俺達が、職場結婚したことで、不思議がる人間はいなかった。
 寧ろ、『ああ、やっぱり』といった感じで受け入れられた。

「でもね、やっぱり、これって、契約結婚なのよね。」
 そう静香は言った。
「私は、誰にも恋愛感情を持たないけど、隆弘は恋愛できる人だから。だから、隆弘に恋人が出来て、その人と一緒にいたいと思うようになったら、別れよう。その時は正直に言ってね。私は隆弘を祝福してあげられる。そうしたら、私も、もっと私の事を認める事が出来ると思う。」

 これから先の事は分からない。
 静香は、ゲイである俺を受け入れて、あえて結婚しようと望んだ。
 もし、俺が、この状態で、誰か男とセックスをしたら、不倫をしていると言うことになるのだろうか?
 そうだとしても、静香は止めないだろう。
 この結婚が、この先どう転んでいくのか、まだ、今の俺たちにはわからない。
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