暴走書家

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

PageTop

『蛍-7-』

 約束通り、翌日、悟さんから連絡があった。
 夜になるから、次の日は休みが良いだろう、という事で、土曜の夜に決定した。

 両親には、受験の息抜きに、ちょっと友達と遊んでくる、という事で了解を得た。
 そういうところは、あんまり厳しい親でなくて助かる。
 そういえば、以前はよるバイトしてたけど、特に何も言われなかったからな。

 家の親は特に無関心っていう訳じゃないけど、口うるさく干渉して来ないからありがたい。
 普段は、真面目に学校に行って、予備校に行ってるけど、過去にしていた事や、今の悟さんとの事を知ったらどうするだろう。
 そして、僕にどうある事を望んでいるのだろう。
 もちろん、望まれたって無理なことは無理だし、でも、夢を壊さないでいられる部分は叶えてあげようと思う。
 それが、僕自身を偽る事になっても。

 そう、両親の為に良い息子を演じてみる事も、人間関係を潤滑にする為の一つの要因だと思う。
 父と母だって個別の人間なんだし、お互いが上手く生活をしていく為に、共有している部分があるのだろう。
 それが何なのか知らないし、別に知ろうとは思わない。
 知ったところで、それが参考になるかどうかなんてわからないから。

 それでも、両親を理解しようと思うのは、いつか、僕が選択する道を、両親に理解して欲しいと思うから。
 それが、完全に無理だったとしても。

 僕が、特殊な環境で育ったとは思わない。
 両親も、他人の親と比べてみた事はないけれど、別段変わったところのない人間だと思う。
 けれど、僕は、人間として、どこか、欠けた部分をもっている。
 人間らしい人間、という定義はわからないけれど、僕のココロはどこか欠けている。
 それが、いつか、埋まるものなのか、元々そういう人間なのかわからない。
 でも、それでも、僕はそうやって生きていかなければならない。

 欠けているどこか別の部分で埋める事が出来るなら、僕は、僕の足できちんと立って、歩いていけるオトナになりたいと思っていた。
 どんな職業に就いている人も否定したくはないけれど、どこかしら、僕の中にはエリート意識が多分にあった。

 僕が、悟さんに惹かれたのは、そういう部分でしっかりしたオトナだと思ったからだ。
 悟さんにとってみれば、まだ僕はほんのコドモに過ぎないんだと思う。
 けれど、焦る事はない、そう悟さんは言ってくれる。
 どんなオトナだって、最初は無力な赤ん坊なのだ。
 何となく不思議な感じがするのだけれど、それは当たり前の事なのだ。

 もちろん、誰もがオトナになる為に同じ道を歩いてくる訳ではない。
 そして、僕よりも年上の人を見たって、ああ、この人、コドモみたいだな、と感じる事はある。
 いつまでも、コドモの感性を大切にする事も大事な事かもしれないけれど、ちゃんとオトナにならなければならない部分もあるんだ。

 オトナは狡いとか、オトナは汚いとか、言う人もいるけれど、誰だって歳をとっていくんだよ?
 ピーターパン症候群とかあるけれど、ピーターパンを書いた人はどんな気持ちで書いたんだろう。

 社会にちゃんと適合するか、擬似的に適合するか、それとも適合出来ないで、自分なりの道を探すか。
 どうなるかわらないけど、ちゃんと、僕なりに成長していきたいんだ。
 もう僕は、将来の夢を語れるほどコドモじゃなくて、でも、発展途上なところはやっぱりコドモで。

 完全な自立がどこにあるのかわからない。
 パラサイト・シングルという言葉があるけれど、あれは、親と子の共依存だと言っても良い。
 子供は親から卒業出来ずに、親も、子供が巣立っていく事を望んでいない。
 そういう意味で、親も、子もコドモなんだと思う。
 精神的な自立と、経済的な自立。

 僕は、そうなってしまうのが怖いから、早く、親元から離れたいんだと思う。
 親にも、出来るだけ多くを僕くに望んで欲しくない。
 多ければ多いほど、叶えられる望みは減ってしまうから。

 土曜日になって、悟さんは近くまで車で迎えに来てくれた。
 都内、だけれど、まあ、それなりの距離を走ったと思う。
 バイキング形式のディナーでそこそこ美味しかった。
 やっぱり、お互いの日頃の行いが良かった所為か良く晴れていた。

 僕は、そんなに我侭を言う方ではないけれど、悟さんが僕を甘やかしてくれているのは良くわかる。
 そして、そのやり方が、決して心地悪いものではない。
 一応、きちんと一人の人間として対応してくれるから。

 悟さんは僕から見れば、すっごくちゃんと自立したオトナだけれど、本人自身は、自分で、それほど大したオトナではないと言う。
 それはそれでわかるような気がする。
 人間は、幾つになったって、成長する事が出来るから。

 完璧なオトナなんていない。
 だって、人間なんだから。
 だけど、人間だから、良いところだってあるんだ。
 もちろん、悪いところも。

 僕がラッキーだったのは、一人で悩んでて、出口が見えなくて、迷い込んでいる事さえわからなくて、そのまま何となく、本当に何となくオトナという年齢を迎えてしまうところを悟さんと出会えたから。

 これから先、どうなっていくかなんてわからないけど、悟さんと出会えたことは、僕にとって一つの財産なんだって言える。
 それに気づけた時、僕は、一つ成長出来たと思う。

「本物の蛍がどうして光るのか、今はもう科学で説明されてしまっているけど、それを知っていても尚、やっぱり不思議だよね。」
「オスがプロポーズの為に光るんだっけ?」
「そうそう。」
「僕は、オスなのに、オスに対して光ってるのかな?」
「そういう蛍も、どこかにいるかもね。」
「だってさ、昆虫同士のプロポーズって、『交尾しよう』ってことでしょ。」
「人間程、難しい感情を介さないからね。」

「なんで、人間はセックスに対してそんなに難しい事を考えるのかな?」
「靖史くんは、そんな事考えた事ないでしょ?」
「そうだね。考える人間が不思議。」
「なんでだろうね。人間が、文化を作る中で、発明されてきたんだろうね。」
「それなのに性風俗とかあるんだよね。」
「考えすぎてしまった分、楽に出来るところが必要なんでしょ。大概、動物には発情期がある。でも、人間って、季節を問わず、妊娠できるし、発情出来るからね。」

「オトコがオトコに発情するのも?」
「それを私に問われてもねぇ。まあ、でも、実際歴史は深いよ。特殊な状況下では、代用として、する場合もあるけど、そうでない場合は何でだろうね。」
「僕にとっては、オトコとオンナがセックスするのも、オトコとオトコがセックスするのも両方とも不思議なんだけど。」
「でも、性欲はあるんだろう?」
「そうだね。実際、ヤりたいって思うし。えっと、やっぱり、気持ち良いし。単に快楽に流されてるだけなのかな?」
「快楽を否定しなくってもいいと思うよ。セックスに快楽があるのが不思議なのと同様に、そういう感覚を持たない人間もいるしね。」
「いろんな人がいるんだね。」

「どれだけ科学が進歩しようとも人間の踏み込めない地はあるよ。人の心も、感情も、人の数だけある。誰もが特別のようであってそうではない。でも、やっぱり、それぞれが特別なものなんだよ。」
「自分が、おかしい人間だって思わなくっても良いって事?」
「思ってもいいけど、だからって、どうにかなるものでもないでしょ?」
「そうだね。でもさ、自分が、特別だ、って思いたがる人間はいるよね。」
「それを主張するのはどうかと思うけど、実際、自分っていうのは特別な存在だよ。他人に認められたい、って思うのは自然な現象だと思うし。ただ、時にそれが行き過ぎてしまう場合があるよね。」

「犯罪とか?」
「そうだね。まあ、反社会的行為、と言われてしまうと、私も、大きな態度は取れないけどね。」
「でも、バレない自信、あるんでしょ?」
「あはは。あんまり、ヤバい橋は渡らないようにしてるけどね。」
「一応、常識人?」
「世間体はね。」
「世間体気にする人ってさ、以前はどうかなぁ、って思ってたけど、悟さん見てるとなんだか違う気がする。」
「私は、君にどう見られてるんだか……。」
「まあ、いいじゃん。それにさ、折角、外来て会ったんだし、ホテル寄って帰ろうよ。」
「あんまり遅くなっちゃだめでしょ? そんなに時間かけられないよ。」
「うん、良いよ、それでも。」

 結局、今日は色々奢ってもらちゃったけど、それがいくらかかったかなんて聞かない。
 だって、奢ってくれるって言うし……。
 それなら素直に甘えておくのもまだいいんじゃないかな、と思うから。

 許される時間は限られている。
 その時間を精一杯満喫するのは悪い事ではないと思う。
 限られているからこそ、大切にしたいのだと。
スポンサーサイト

PageTop
 

コメントコメント


管理者にだけ表示を許可する
 

 
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。