暴走書家

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

PageTop

あるバーのシリーズ(受身)

 元々、誰かをカッコイイとか、可愛いとか思ったことはあるけれど、好きだとは思った事がなかった。
 俺が誰かと恋愛をしている姿なんて思いもよらなかった。
 友達が誰かを好きだとか、付き合いたいだとか言っている姿が不思議だった。
 けれど(ちまた)にはそんな話が溢れている。

 芸能人だって、誰と誰が熱愛発覚だとか、結婚しただとか別れただとかで騒いでいる。
 俺は本をよく読むけれど、その本の中でも恋愛だとか、痴情のもつれとか書かれている。
 ミステリーをよく読む。
 気付いたときに手を取っていたのがミステリーだった。
 だからそこから、だんだん手を広げていろんなミステリー作家を読むようになっていた。
 俺にとって、恋愛沙汰は本の中の出来事でそれに一生懸命になっている登場人物をみてそれで満足だった。

 現実社会の人間関係で、それを行うのは難しいのではないかと思い、そんな面倒ごとに巻き込まれるのは厄介だとも思っていた。
 それでも、告白されれば、何となくその子と付き合っていた。
 高校時代なんて、大して金もない。
 昼食を一緒に食べたり、一緒に下校したり、休みの日にたまに彼女にねだられて映画を見に行ったり。

 何で、この子は俺と付き合っているんだろう。
 それが不思議だった。
 嫌いだとは思えなかったけれど、特に好きにもなれなかった。
 俺から決断を下さないのを彼女は優柔不断だと言って責めた。
 自分の事、好きなの? と聞かれても、答える事は出来なかった。

 付き合っていけば、好きと思えるかもしれない、けれどそれが出来なかった。
 当然彼女とは別れる事になった。
 それが寂しいとは思わなかった。

 俺から求めるという事をしなかったからセックスもなかった。
 興味がなかった訳じゃない。
 そういう場に自分をもっていく事が出来なかった。

 自慰行為を知らなかったわけじゃない。
 それはそれで快感があった。
 その性欲の対象として彼女を見る事はなかった。

 大学に入って出来た友人で自分をゲイだと言ってのける人がいた。
 そんな彼を避ける人もいた。
 俺はオトコもオンナも好きにはならない。
 けれど、その逆でオトコがオンナを好きになろうと、オトコがオトコを好きになろうと、それはどっちでも良いと思っていた。
 だから、その彼との友人関係も続いた。

 根暗な俺と違って、彼は明るかったし、話をよく俺にも振ってくれた。
 俺は独りでいるのが好きだったけれど、その彼といるのも何となく楽しかった。
 彼の話の聞き役にっ徹する事が多かった。
 好きなオトコの話、面白い映画の話、学校の話。

 彼は確かにゲイなのかもしれないけれど、取り立てて変わっている人間だとは思わなかった。
 そんな風に色眼鏡をかけて見ない俺を、彼も気に入ってくれているらしかった。

 自分のテリトリーを見ておいて欲しい、と言うので彼に誘われて彼がよく行くバーに行った。
所謂(いわゆる)、オトコがオトコを誘う店だ。

 不思議な感覚がした。
 そこでは、学校にいる時よりも彼は生き生きとしているように見えた。
 そんな彼が眩しかった。
 一般社会にいて抑圧される分、そういう店では開放的になれるんだろう。
 彼はその晩、この界隈についての話、今好きなオトコの話などを聞いた。

 二人で飲んでいて、周りの人たちに『恋人なの?』と聞かれたけど、彼は俺を『大学の友人だよ』と言って話していた。
 俺は、何故か、オトコの人に誘われたけど、彼が『駄目だよ、彼、ノンケだから』と言って制していた。
 果たして、俺はノンケなんだろうか。
 ゲイである、とは思わない。
 だけど、ノンケかと問われて、それもイエスであると答えられなかった。
 だって俺は、オンナの人も好きにはならないから。

 その晩は、それで終わってしまったけれど、俺はまだその店のこと、その界隈のことになぜか惹かれていた。
 自分の性癖について疑問に思っていたから、そこに何か答えがあるんじゃないかと思ったのだ。

 彼を伴わず、一人でその店に飲みに行った。
 周りを見渡すと、オトコだけの空間。
 ちびり、ちびり、と酒を飲みながら、色々考えていた。
 やっぱりなんだかこの空間に俺は癒されている。
 そう思った。
 男達が織り成すやり取りを俺は酒の(さかな)に眺めていた。

 一人で飲んでいると、声を掛けられた。
 俺にはそれを制御する気はなかった。
 そうしてその晩そのオトコに抱かれた。

 初めて俺が経験したセックスだった。

 一人でするのとは違った快感がそこにはあった。
 ただ単にカラダを求められている、その事にも俺は気を楽にしていた。
 俺に気持ちを求めないで、ただ単にカラダの快感を追う。
 そんなセックス俺は気に入った。

 自分から相手に声をかける勇気もなかったし、気力もなかった。
 いつも、常に受身だな。
 そんな中でも、俺なりの生き方を探していた。

 そんなある晩、ある男性に声をかけられた。
 綺麗な人だった。
 その気がない俺でもそう思った。
 その男性なら、俺なんかに声をかけなくても、その気になれば、どんな恋人だって手に入りそうな人だった。

 その男性に抱かれた後、不思議に思って尋ねてみた。
「なんで、俺なんか誘ったんですか? 貴方なら、声を掛けなくったって、選り取り見取りでしょ。」
「何?、その『俺なんか』っていうの。まあね、多分そういうところに惹かれたんだ。君、一人でいる事好きでしょ。ああいう店にいる割には飢えてないし。」
「貴方だって、飢えているようには見えない。」
「そうだね。でも嫌いじゃないからね。こういうセックスが。君も、嫌じゃないから付いて来たんでしょ。君、ゲイっていう感じはしないね。多分、誰の事も好きにはならないんだ。君自身を含めてね。」

「俺は、俺を好きじゃないんですか。」
「そう、否定出来ないでしょ? そういう感覚を元々持っていないんだ。」
「『好き』ってよくわかりません。他人を好きになるとか。でも、貴方が言ったように、俺は一人でいる事が嫌いじゃないです。」
「誰かを好きにならない代わりに、『寂しい』って言うのもあんまり思わないんでしょ。こうやって、カラダを求められて解放しても、ココロを許さないし、だから、カラダだけの関係で満足していられる。」
「カラダは、そこに快感があるから。それは求められて嬉しいっていうのはある。けれど、気持ちを求められても、俺は返せないから。」
「返す必要がない関係を求める、か。それはそれで君自身に忠実でいいと思うよ。私自身、君にそういう意味での気持ちを求めてないしね。だから、君みたいな子とは、気楽に付き合えるんだ。好きだ、と思われてもそれを自分に求められると、重荷になってしまうからね。それは、『好き』っていう感情を持っている人間でも同じ事だよ。好きになった相手が自分の事を好いてくれる訳じゃないし。」
「そうですね。想いが共通する事、現実では中々難しいですね。」

「君はまだ若くって、自分の事がわからなくって、探っている。こうやって、関係を持っても他人にぶつけることなく、自分自身の中で考えてる。まあ、ある種、人は誰でもそういうところはあると思うよ。自分自身で考えなくなったら終わりだと思うしね。」
「考える事は、重要、ですか。」
「人が成長していく上で、やっぱりね。その為に何をするか、それは人それぞれだよ。」

 こうやって、ゲイでもないのにオトコのカラダを、カラダだけを求めることも間違いではないというのだろうか。
 俺にカラダを求めてくる人間は何を考えているのだろうか。

 わからない。

 ただ、俺は、求められるがままにしただけだ。

「君みたいな子にね、あっていると思うバーがあるんだ。案内してあげるから行こう。」
 そうして、その界隈の一角にあるこじんまりとしたバーに案内された。
 まばらに客がいる。
 二人で落ち着いて話している人たちもいれば、一人でただ黙々と酒を飲んでいる人もいる。

「やあ、マスター久し振り。」
 彼が、店の主に話しかける。
「お久しぶりです。今日はお一人ではないんですね。」
 俺が横にいるのを見てそう言う。
「ええ。私が引っ掛けたんだ。この店に合いそうな子だと思ってね。紹介に来たの。」
「それは、ありがとうございます。」
 そうして、俺をマスターに紹介する。

「何か飲みたいものある? マスターは優秀だから大概のものは好みに合わせて作ってくれるよ。」
「いや、俺は特にこれといって好みは。何かお勧めはあるんですか?」
「うーん。お勧めといわれてもな。好き嫌いはないの?」
「はい。」
 大概のお酒なら、どんな味をしてようと飲める。
「じゃあ、とりあえずマスターいつものを2つ。」
「かしこまりました。」

「常連なんですか?」
「常連という程でもないね。でも、マスターとは友人なんだ。」
 なるほど、それで顔が利くわけか。
「この店はね、いわゆる、声掛けは禁止してるんだ。まあ、恋人二人でゆったり飲みに来てもいいけどね。独りで、でも独りっきりでなくて飲むにはいい場所だよ。」
「独りだけど、独りっきりじゃない、ですか。」
「本当に一人っきりだと煮詰まっちゃうこともあるからね。そういう時、他人を見渡せるし、マスターも、色々話を聞いてくれるし。」

 そういう場所があるなんて知らなかった。
 どこにいても疎外感を感じて、だからどうしても独りっきりでいる事が多くて慣れてしまっていた。
 他人と寝るのもそれだけでいるのに煮詰まっていたからかもしれない。

 カラダを通さなくっても純粋に悩める場所。
 疎外感を癒せる場所。
 そんな気持ちを助けてくれるお酒。

 自分から踏み出さなくては。
 ただ単に受身でだけで生きていける訳ではない。
 俺は、この店が好きになれるような気がした。

 たまに、オトコを漁りに他の店に行く事があるかもしれない。
 でも、帰ってくるのは、この店だと思う。

 誰に認められなくったっていいんだ。
 俺は俺なんだから。
 それに変わりはない。
 俺自身、そんな自分を認めよう。

 俺の明日の為に。


目次へ

スポンサーサイト

PageTop
 

コメントコメント


管理者にだけ表示を許可する
 

 
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。