暴走書家

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『蛍-4-』

 僕はいつまでこのバイトを続けるんだろう。
 そしていつまで続けられるんだろう。
 どちらもわからなかった。

 いろんな人間と出会ってセックスをして。

 このまま高校を卒業して大学に入って、就職する。
 将来僕はどんな人間になるんだろう。

 本当にやりたい事の見つけられる人間はどれだけいるんだろう。
 そして、見つけたとしてそれを行う事が出来る人間はどれだけいるんだろう。

 僕は何の為に勉強をしているんだろう。
 良い成績を取る為?
 それは最終目的ではない。
 良い大学に入る為?
 それも違う。

 いずれもそれらは手段でしかありえない。

 今日はバイトの日だ。

 事務所に顔を出した。

 生憎と言うか、僕には客が入っておらず、暇をもてあましていた。

 しばらくすると一人のオトコがやってきた。
 客だろうか?

 僕は自然とそのオトコを観察していた。
 年齢はよくわからなかった。
 若そうに見えて落ち着いていて、結構歳をとっているのではないかと思えたけど、そうは見えなかった。

 男くさくはない、けれど、女性的と言うわけでもない。
 決して派手ではないけれど、相手を惹き付けるオトコ。

 僕の視線に気付いたのか、見られているという事に気を悪くした風でもなく、にっこり笑って尋ねてきた。
「オーナーいる?」

「失礼ですけど、オーナーのお知り合いでいらっしゃいますか?」

「うん。そう。友人なんだ。来るって約束してた訳じゃないんだけどね、気が向いたから足を運んでみたの。あ、これ、私の名刺ね。これ見せたら、きっと会ってくれると思うから。私が気が向いた時にふらっと現れる人間だって知ってるから。」

 そう言って一枚の名刺を受け取った。
 おいおい、名刺なんて出していいのか。

 名刺を見ると、一流国立大学の准教授、と銘うってあった。
 そんな立場の人が、オーナーと知り合いだなんて。

「少々お待ちください」

 そう言って僕はオーナーのいる部屋に向かう。
 名刺を手渡すと、オーナーは部屋にそのオトコを連れてくるように僕に言った。

「久し振り」

 オトコはそう言った。

「ほんと、久し振り。一年ぶりくらい? それでいて連絡一つもなくやって来るんだから。」
「こっちも忙しい身なんだよ。でも、まあ、いきなり押しかけたお詫びに君の好きな抹茶のシフォンケーキ買ってきたからさ。」
 そう言ってケーキの入ったらしい紙箱をオトコはオーナーに手渡した。

「忙しいって、それはお互い様でしょ? こっちは夜が本番だって言うのに、やって来るんだから、まったく……。」
 仕方がない、と言う台詞を吐きながら、嬉しそうにその紙箱を受けとていた。

「君もどう? あ、お菓子ダメかな? オーナーお勧めだけあって、結構美味しいんだよここのケーキ。」

 オトコは僕にも声を掛けてくる。
「いや、駄目って事はないけど……。オーナーとお話があって来られたんじゃないんですか? そしたら僕は邪魔では?」

「いーよ、いーよ。全然。今、暇してたんでしょ? ほんと、美味しいからこれ。食べてみて。」

オーナの方が答えてくる。
オトコもそれを否定する言葉を吐かない。

「じゃあ、お言葉に甘えて……。」

「早速ケーキ取り分けてくるね。あ、あと、紅茶も入れてくるから。」

 オトコは既にソファーに座りくつろいでいる。

「君も座ったら?」
 僕はテーブルを挟んでそのオトコの向かい側に腰をかけた。

 オーナーがケーキと紅茶を運んでやってくる。

 甘いものがそれほど好きという訳ではない僕にも、そのケーキは美味しく感じられた。
 オトコの方が会いにやって来た、という割にはオーナーの方が饒舌に話をしている。

「折角、ここに来たんだし、久しい友人の為、と思って、僕の商売に貢献していかない?」
「別に、こういう商売否定する訳じゃないけど、私がそういうのしないって知ってるでしょ?」
「わかってるけどさー、お安くしておくし。」
「……お金の問題じゃないんだけど。」
「それもわかってるって。ほら、この子どう?ケイくんっていうんだけど。『蛍』って漢字で書いて、『ケイ』って読むの。中々頭の良い子なのよ。入って半年だけど、仕事の覚えは良いし。」

 矛先が僕に向かう。
「蛍くんはどう?」

「僕に拒否権あるんですか?」
 逆に尋ねる。

「今回はいいの。僕が決めたことなんだから。」

「僕は……別に拒否する気はないです。」

「じゃあ、決まり。」

「私はまだ、一言も良いとは言ってないんだが。」

「いいじゃない。たまには、ね。」

 強引にオーナーに追い出された。
「僕相手じゃ不満ですか? それとも、カラダを金で買うことに抵抗あります?」
「うーん。いや、そうじゃないんだけどね。」
 少し男は考える素振りをする。そして。
「ま、いっか。」
 そう言って僕を連れ出し、オトコの車でホテルに向かった。

 部屋に入ると、男はシャワーに向かい、出てくると代わりに僕がシャワーを浴びた。
 オトコの手が僕の顎に触れる。
「キスは嫌い?」
「……別に」
「そう」
 オトコの唇が重なってくる。
 初めは触れるだけだった口付けが深くなる。
 多分、この人上手い。
 そう感じる。

 バスローブをはだけさせ、探るように触れてくる指先。
 確かに僕が感じる場所を的確に愛撫してくる。
 ペニスに触れられ、包み込むようにしごかれると、次第に頭をもたげ始める。
 オトコの舌が僕のカラダを這い、ペニスを口に含んでいく。
 その気持ち良さの思わず吐息が漏れる。

「あぁ……」

「蛍くん。君は何かを諦めているようだね。でも、それにはまだ早いんじゃないかな。勿論、望んでも全てが手に入る訳じゃない。だけど、その頭で考え、物事を見つめて、感じ取っていけばいい。取り敢えず、今はそのカラダで感じて……。」

 アナルにローションを垂らされ指が挿入されてくる。
 解きほぐすように蠢く指。
 本来、性器ではないはずなのに、確かに感じる場所。

 指が引き抜かれ、男のペニスが入り込んでくる。
 挿入されるペニスが快感を与えることを僕は知っている。
 そして、挿入する事で快感が得られる事も。

 男の動きに合わせて僕も腰をゆする。
 男の指が再び僕のペニスに絡みつく。
 今は何も考えられない。
 快感を追うだけ。

 そして僕達は達していた。

「貴方、上手ですね。」

「そう? まあ、元、君の同業者だしね。」

「え???」
 同業者? 同業者って……。

「まあ、人には過去それぞれがあるって事で。」
「こういうのって、色々ばれたら不味いんじゃないですか? 僕、貴方の名刺見てしまいました。社会的立場があるのに。」
「それって、元ゲイホストだった事? ゲイだって事? 金でオトコを買ったって事?」
「全部です。」

「まあ、ばれたら不味いだろうね。でもばらすような事はしないから。」
「でもばれたら?」
「その時はその時。」
「それは諦めてるって言わないんですか?」
「痛いところをつくね。仕方がない、と思っている部分もある。でも、考えない訳じゃないし、迷わない訳じゃない。人は何かを悟れるほどの存在にはなれないと思うよ。実際私は悟れたらどんなに素晴らしい人間になれるだろう、と思った事もあるけど、そう努力をする事は出来ても達する事は出来ない。でも、その事は諦めた訳じゃない。その過程にも意味があると思う。」

 僕は、多分、この人に惹かれている。
 何故だかわからない。
 けれど、色々話したいと思う。
 この人は僕の持っている感覚を否定しないでくれると。

「あの……」
 口にしかけて止める。
 僕達のこの関係は、セックスを売り買いしただけの関係ではないのか?
 それ以上の日常に踏み込むのは、僕自身否定してきた事ではないか。

「何?」
 向けられる優しい笑み。

 いや、断られても良い何もしないでいるよりは。
「また会って、お話させてもらっても良いですか?」

「それは『蛍』として?」

「いえ、そうじゃなくて。一人の人間として。」

「私と話しても何も解決しないかもしれないよ。」
「それでも良いんです。ただ、一歩、踏み出せる気がして。」

「私にその手助けが出来るといいけど。私に出来る範囲で善処するよ。」

「ありがとうございます。」

「それで『蛍』は? どうするの?」

「まだ考えていません。」

「君が生み出した『蛍』も君の一部だ。それを否定しなくて良い。『蛍』としての自分に何かを見出そうとしているのなら、それも人生経験の一つだ。」

 僕が、この人に抱いているのは恋愛感情ではないと思う。
 この人も、僕の事をそうは見ていないだろう。
 そして、そうならない事に不満を抱いたりしないだろう。

 『蛍』としてこの人に出会った。
 そして、今度会うとき僕は……僕は新しい僕としてこの人と出会うだろう。
 その時僕が、この人になんと呼ばれようとも。

 そしてもう一つ決断したこと。
 先輩とは別れようと思う。
 先輩の傍では、望む僕にはなれないから。
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