暴走書家

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『寂しい魚-3-』

 ふと寂しいと感じる時、それは、それまで感じていたはずの温もりが手の内から去っていった時。
 もしかしたら俺はずっと寂しかったのかもしれないけれど、晴彦と会って、晴彦と一緒にいる時間が多くなって、その時間が当たり前のようになった時、本当に実感として寂しいと感じるようになった。
 晴彦は俺よりもずっと素直に寂しいと感じていた。
 明るく笑うその顔の中にも、その影を常に宿していた。

 どこかで同類だと感じていたからこそ、多分俺は晴彦の寂しさに気付いたのだろう。
 そして晴彦も、そんな俺の寂しさを見抜いていたのだろう。

 魚達は、生まれながらにして泳ぐ事を知っている。
 けれど、時には上手く泳げない魚もいるだろう。
 そんな魚はどうやって過ごしているのだろうか。
 誰にも教えてもらえず、ただ足掻いて、でも泳がないと生きていけないから、その事に必死なのだ。

 晴彦は、何を考えて見ず知らずの人とセックスをするのだろうか。
 俺が、家庭教師のバイトをして金を稼ぐのと一緒だよ、と言ったけれど、本当にそれだけなのだろうか。
 ただ俺は、晴彦がそれを望む限り止めようとは思わなかった。
 俺と、晴彦がセックスをするのも、多分、愛や恋なんかじゃない。
 晴彦は、止めて欲しかったのだろうか?
 ふとそう思ったこともあるが、どうして俺にそんな権利がある?
 俺は、晴彦に『好きだ』とも『愛してる』とも言った事はない。
 晴彦も、俺に『好きだ』とか『愛してる』とか言った事はない。

 もし仮に、そう告げたとしても、俺たち二人の間では、何の意味も持たない言葉だと分かっているから。

 晴彦も、俺も、いつまでも同じ場所には留まれない。
 やはり、俺が家庭教師をしているのも、晴彦がウリをしているのも、ほんの一時のバイトでしかないのだ。
 ただ一時の情を一緒にしていても、それで全てが計れる訳ではない。
 俺が見ている晴彦も、晴彦の中の一部でしかなく、晴彦が俺に見ているのも俺の中の一部でしかないだろう。
 けれど、それだけでもいいから、誰かに見ていて欲しい、それは、誰でもいいわけじゃなくて、今の俺達にとって、俺には晴彦で、晴彦には俺なのだ。

 だから、俺は晴彦に手を差し伸べたし、晴彦も、俺の手を取ったのだ。

「智也、朝飯まだ?」
 例の如く、俺の家に泊まった晴彦は、朝食をねだってくる。
 俺だってたいした物が作れるわけではない。
 食パンをトーストして、サラダ用にスーパーで売っている野菜にドレッシングをかけて、目玉焼きを焼いて、インスタントのコーヒーを入れる。
 大概いつもそんなものだ。
 だから、ものの数分もあれば準備は出来る。
「ほら。」
 と、食卓の上に皿を並べていく。
「サンキュー、智也。俺、智也のところに来てから、まともに朝飯喰うようになったよ。」
「俺だって、一人きりだと、こんなには用意しない。大概トーストと、コーヒーくらいだ。」
「でも、智也、目玉焼き上手だよ。俺も試したことあるけど、こんなに上手くいった試しないもん。」

 晴彦は自分では作れないくせに、目玉焼きに関してはかなり思い入れがあるようだ。
 醤油やソースは一切かけない。
 黄身がとろとろで、白身は完全に固まっていて、黄身の表面を破ると、溢れてくる、中身にその白身をソース代わりにつけて食べるのだ。
 俺自身は固まった黄身に醤油をかけて食べるのが好きなので、焼き方にも違いが出てくる。
 固まりきっていない黄身は、時間がたつと、次第に硬くなってしまうので、晴彦用の目玉焼きは後に作る。

「晴彦は一人の時何食べてたわけ?」
「俺~? 朝飯は基本的に食べない。面倒だから。その分、寝てたいし。大学行って、学食食べて、夕方に食べて、夜遅いから、その時軽く食べる。」
「別に俺の家にいるからって俺に合わせる必要ないんだぞ。」
「いや、でもさ、朝食くらいじゃん? 智也と一緒に飯食べるの。作ってくれるなら、食べてもいいかな~なんて。」
「晴彦、お前、今日大学は?」
「朝、一時間目から。だからこんなに早く起きてるのよ。」
「あ、そ。俺、今日午後だけだから。早くしたくしたら?」
「もうちょい時間あるでしょ。コーヒーもう一杯頂戴。濃くしてね。」
「はいはい。」
 普通に入れるよりも、気持ち多めに粉を入れる。

 別に一緒に住む約束をしたわけではないのだが、晴彦が、自分の部屋に帰るのが面倒だと言って、 晴彦の私物が、俺の家に増えていった。
 といっても、大学の教材と私服位なのだが。

 晴彦が大学へ行ってしまうと、俺は、溜まった洗濯と、掃除を始めた。

 授業は午後からだったが、家で昼食を一人で作って食べる気にもなれず、少し早めに出かけて、学食で昼食をとった。
 学食と言うのはありがたい。
 リーズナブルでそれなりの量が期待できるから。
 授業が終わり、バイトを終えて携帯を覗いてみると、一件のメールが届いていた。
 晴彦からだ。
 『明日、大学休みだし、オール引き受けたから、今日は帰らない。でも、明日の朝食もお願い。』
 まあ、夜来ない時はこんな感じだ。
 どうして、『帰る』と言う表現になるのか。
 ここは、俺の家であって、晴彦の家ではないのに。

 俺は、バイトで稼いでるし、親の残した遺産もあるし、学費に困る訳ではないので、何とか成績上位を保ち、院への進学を目指していた。
 その為には、やっぱり勉強は必要で、まあ、好きでもあるので、一人の時間は有効に使って勉学に励んだ。
 起きている時は、結構平気だ。
 だが、たまに一人で寝るのが寂しくなることもある。
 だからといって、子供じゃあるまいし、寂しくて眠れない、という訳でもない。
 晴彦が握ってくれた手が、恋しくなる事もある。
 俺は、どうして、こんなにも弱くなってしまったのだろう。

 いや、弱くなった訳ではない。
 俺は、元々そんなに強い人間ではないと気付かされただけなのだ。
 己の弱さを知った時、それは弱点となる訳ではない。
 それは、ずっと一人でいたら気付かなかった事。

 翌朝目覚めると、晴彦がベッドの端に座っていた。
「寂しかった?」
「まさか。」
 俺がそう答える事を晴彦は知っている。
 そして、その言葉が真実でない事も。
 それでいても、こういったやり取りは、嫌いではない。

「今日俺、一日中フリーだから、ずっとここにいるわ。」
「お前、ちょっとは、自分の部屋も、見てきたら?」
「うーん。でもこれといってないしなぁ。あ、でも、もしかしたら、図書館あたりには出かけてるかもしれないけど。」
「俺は、お前がいいなら、それで構わないけどな。俺は、今日は一日中授業だし、その後すぐバイト入ってるから。晩飯も外で食べてくる。」
「わかった。俺も適当に食べておくよ。」

 大学が終わって、家へ帰ると、晴彦はひたすらパソコンに向かっていた。
「大学の課題か何か?」
「んー。ちょっと違うんだけどね。まだ秘密。」
 おいおい、人のパソコンを占領しておいて、それはないだろう。
 まあ、『まだ』ということは、いつか話してくれるのかもしれない。
 期待はしないでおこう。
 作業を終えると、晴彦はパソコンからフロッピーディスクを引き抜いた。

「今日は、バイトは行かなくてよかったのか?」
「肉体労働よ? そんな、毎日やってられないって。」
「あ、そ。」

「ねえ、智也。」
「何?」
「今日は俺が挿れてもいい?」
「お前、肉体労働はしないんじゃなかったのか?」
「だから、智也は別だっていつも言ってるじゃん。」
「はいはい。じゃ、先シャワー浴びてるね。」
「うん。」

 二人分の重みを乗せて、ベッドがぎしりと鳴る。
 晴彦が、俺に覆いかぶさるようにして、唇を重ねてくる。
 舌を絡めながら、俺は晴彦の首に腕を回し、更に晴彦を力強く引きつけた。
 お互い、息苦しくなって、一旦唇を離し、もう一度、引き寄せる。
「ん…ふ……」
「ん……ん……」
「晴彦……」
 求め合って、何度も口付けを交わして、それでも足りなくて、できるだけ必死に唇を求める。
 そこに、お互いの熱を感じているから。

 それから晴彦は、口付けを、俺の肌に移し、その舌で、首筋をなぞっていく。
 微妙な箇所をなぞられると、背筋がゾクゾクして感じてしまう。
 そこを、ほんの一瞬触れられるか触れられないかなのに。

 そして、晴彦に触れられることを期待している俺のカラダ。
 それを知っている晴彦の指先は、俺のカラダにやさしく触れてくる。
 感じる箇所をすーっとなぞられて、その感覚がなくならないまま、今度は舌先でなぞられて。
「あ……は……晴彦……」
「智也……イイ……?」
「んん……。」
 そう問われても、答え返すことなんて出来なくって、それがわかっているのに、あえて確かめるように問いただしてくる。
 答えなんて、とっくに出ているのに。

 晴彦に触れられることを待ちわびた俺のペニスは、欲望を孕んで勃起している。
 その勃起したペニスを晴彦は咥えていく。
 幹の部分を舐めるようにしたり、かと思うと、深く咥えて、吸い上げてくる。
「んん……く……晴彦……」
「智也、ローションとって。」
 俺は、ベッドの脇においてある、ローションを手に取り、晴彦に手渡した。
 そのローションを晴彦は、手に取り、俺のアナルに指を挿入していく。
「く……あ…は……」
 アナルの裡を刺激しながら、口での奉仕もやめようとしない。
「ちょ……晴彦……それ以上されたら…も……」

「うん……俺も…もう……。」
晴彦は、ゴムを装着し、ペニスを挿入してきた。
「ああ!……は…あ……ん」
「智也、もうちょっと力抜いて。」
「ん……ん……」
 何とか、俺は、力んでしまいがちになるカラダの力を抜こうとする。
 俺のカラダのこわばりが解けたのを見計らって、晴彦は一気に奥まで挿入してくる。
「晴彦…もうちょっと、このままいて……。」
「うん。」

 そうしていると、シーツを握っていた俺の指を取って、口に含んでいった。
「やっぱり、俺、この指好き。指も、吸われると、気持ちいいでしょ?」
「晴彦、指フェチ?」
「えー、そうなのかな?」
「それっぽい。」

「どうんなんだろ。それより、もう、動いてもいい?」
「あ、うん。」
 晴彦がゆっくりと抽挿を開始する。
 最初は焦れるように、けれど、次第に激しく。
「あ…ああ…はぁ…ん…」
「智也、イイ……?」
「ん……うん、……あ…ソコ……もっと……!」
 俺が望むように、俺が感じられるように、晴彦は、抱いてくれる。
 それは、俺が、晴彦を抱く時も同じ事。
 ただ、お互いが、お互いを望むように。
「智也……智也……」
「ん……晴彦…も……っ……」

「うん、俺も、もう…イきそう……」
「ああ!はぁ……あ…イ…く……!」
「ん…く…んぅ……」

 求め合うような性急な動きが止まって、ベッドの上に転がりあった。
 それからまた、温もりを確かめ合うように抱き合って。
 トクン、トクンとお互いの鼓動が、次第に緩やかになって規則正しいリズムを刻んでいく。

 それは、まるで、時の流れのようで、その時が、二人、重なり合っているようで、欲望が収まっても、もう少し、抱き合っていたくて。
 抜け出しがたい、その心地よさを、感じていたいから。

 今を永遠に生きる事は出来なくて、それでも、大切な時は確かにあるから。
 それを大切だと思えた時、人は少し成長するのかもしれない。
 まだ、もう少し、俺達にはお互いが必要だから。

 寂しくなったら泣いても良いんだよ。
 嬉しくっても泣いても良いんだよ。
 それは、とても自然な事だから。
 当たり前すぎる事が、当たり前じゃなくなって、見失ったとしても、また見つけられる時が来るから。

 失って始めて、その大切さを知ったとしても、それは、それで大切な事だから。
 お願い、もう少し、この手を握っていて。
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