暴走書家

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あるバーのシリーズ(自然)

 客が一人、また一人と帰って行き、最後の客が勘定を終えて帰って行く。
 あの青年に尋ねられ自分の恋人の事を思い起こす。

 もう今頃は会社を終えて家へ帰って寝ている頃だろうな。
 そうか、もう6年になるのか。

 当時は俺もまだ会社勤めをしていた。
 会社があけると店に通い、相手を探していた。
 それまでに恋をした事がない訳じゃないけど、所詮叶う事のない恋だとわかっていた。
告白する事すらままならない恋。

 世間一般的にはオトコはオンナと付き合うものだ。
 女性に告白されて嬉しいと思う事はあるにせよ、オトコに告白されて嬉しいものか。

 物心ついた頃から俺はオトコにしか恋をしなくってそれがありふれているものではないという事がわかっていた。
 学生時代に女の子の話題をされて確かに可愛いと思うけれど、恋というものとは違うと思っていた。
 それでも、何とか付き合えないものかと大学時代に彼女がいた事はあるけれど、友達と言う以上の気持ちにも関係にもなれなかった。
 彼女もそんな俺の気持ちに気付いてか『他に好きな人が出来た。嫌いになった訳じゃないけど、  友達以上の関係になれない』と言って別れた。
 俺はそんな彼女を引き止める事はなかった。
 その彼女と別れてから意を決してこの界隈に通うようになった。

 オトコがオトコを好きでいて空間。
 そんな空間が俺には嬉しかった。

 初めは声を掛ける事が躊躇(ためら)われていた。
 ある日、年上の男性に声を掛けられて付き合うようになった。
 彼が会社の終わる頃店で待ち合わせて食事をしたり、ホテルに行ったりした。
 俺はまだ当時学生だったから時間に余裕があったし彼に合わせる生活が続いていた。
 彼と会う以外は普通の大学の友達と遊んだり、飲みに行ったりしていた。

 この界隈でも友達が出来た。
 友達は友達で、そんなに変わらないものだと思った。
 面白おかしい話も、くだらない話もノンケの人間だってゲイの人間だってするのだ。
 それがわかって、ノンケの友達の関係も窮屈ではなくなっていた。

 恋人との関係も上手くいっていたと思う。
 おおぴらにデートなんてものは出来なかったけれど。
 一緒にいられる時間があればそれでよかった。
 けれど、彼の転勤が決まってしまい、俺は付いて行く事も出来なかったし、彼もそれを望んでいなかった。
 そんなんで自然と別れてしまった。

 俺も就職活動に追われるようになり、特にやりたい事もなかった俺は、実家に帰る必要もなかったし、大学の為に出てきた東京の一般企業に目星をつけていた。
 何社か回っている内に何とか営業の職に就く事が出来た。

 その間も、この界隈に通うのを止めなかった。
 それなりに性欲のあった俺は、仮初の一夜限りの相手をするという事も覚えていた。
 そんな中でもやっぱりパートナーを持つという事にも憧れていた。
 何人かと付き合い、お互いの価値観の違いからか別れるという事をしていた。
 短くって3ヶ月、長くて1年といったところか。

 会社での生活も忙しかったもののそれなりに充実していた。
 会社でも学校に通っていた頃と同じようにやはり性癖を露にする事は出来なかったが、態々する必要もないと思っていた。
 両親にも姉にも話せずにいた。

 そんな中、今の彼と付き合い始めた。
 彼はお酒を飲むのが好きだったので自然と一緒に飲む事が多くなっていた。
 俺自身は酒は嫌いではないけれど、それ程強くもなかった。
 大抵、彼がアルコールを飲み続けるけれど、俺は2、3杯飲んで、ノンアルコールに移っていた。

 彼は俺の声がとても好きだと言ってくれた。
 それまで自分の声なんて意識した事がなかった。
 低く響く俺の声が良いのだと言った。

 それは、俺の営業と言う職にもよく合っていたようだった。
 俺の営業の成績は決して悪いものじゃなかった。
 人と接する事が好きなんだろうな、と思う。
 でも人と接する事が好き、だという事だけでは営業職はやっていけなかった。

 当然結果を求められる。
 ノルマはこなせていたと思うが、何となく職業に嫌気がさし始めていた。

 彼にも相談してみたし、この界隈にいる友達にも相談してみた。
 彼は、俺がやりたいと思っている事だったら、なんでも応援する、と言ってくれた。
 相談してみてよくわかった。
 相談に乗ってくれる人がいるというありがたい事を。
 そして、そんな場所を提供してくれる空間を。

 彼の好きなお酒の勉強をしてみようと思った。
 この界隈でバーテンのバイトを募集をしていると言うのを見て速攻応募した。
 俺の人当たりの良さを買ってくれてか、バイトの面接に合格した。

 初めは会社とバイトを両立させていたけれど、それはやっぱり肉体的にもきつかったし、彼と会う時間もなくなってしまっていた。
 悩んだ結果、やっぱり会社を辞める事にした。
 営業という職にも嫌気がさしてきていたし、やっぱり、自分の性癖を公に出来ないのは窮屈だった。
 彼は、会社があけると、よく俺がバイトをしているバーに通ってくれた。
 初めは恥ずかしかったけれど、彼が、俺の作った酒を飲んでくれるのが嬉しかった。
 だから、益々お酒の勉強をした。

 一年が経とうとしていた頃、友達がバーを開きたいんだけど、マスターをやらないかと誘ってきてくれた。
 その友達は不思議な人だった。
 何回か寝た事もある。
 だけど、友情以上には発展しない人。
 彼もそんな関係を何人かと楽しんでいるようだった。
 俺より2歳も若いくせにしっかりしていた。

 趣味で店を開きたいんだけど、自分自身で接客をする気がないという事だった。
 彼は大学時代から普通の友人にも自分の性癖を知らせていたし、職場でもゲイだということを公言していた。
 今は、法医学教室の大学准教授をしながら、監察医としても働いている。
 一般社会にゲイだと公言して大学と言う閉じた空間だけれど働いている。
 どこで、そんな大金が稼げるのか不思議だったけれど、不正な手は働いていない、全うに稼いだ金だと言っていた。

 元々、ホストクラブでホストとして学費を稼いで大学に行ってたらしい。
 ホストをしていたからには接客なら自分で出来そうになのに、と言ったが、自分には今の職があっていて安らいで飲める場が欲しいのだと言う。

 俺にとっては美味しい話だったから、基礎がきちんとしているなら、と言う条件でOKした。
 店の場所や内装は彼の意見も取り入れて二人で行った。
 華美な装飾はなく俺一人でまかなえるだけのスペース。
 所謂(いわゆる)、声賭けは禁止していた。

 オープンと共にどっと客が押し寄せたわけではないが、口コミで広まってはいるらしく、静かに飲みたい客、二人っきりで恋人達が飲みたい客が徐々に増えていった。
 恋人もオープンと同時に飲みに来てくれた。
 だから、俺がこの店を開いて一番先に酒を作ったのは恋人という事になる。
 出資者の友人もオープンの日に飲みに来てくれた。

 恋人は飲みたくなったら、週に2~3回は飲みに来てくれる。
 そんな恋人に酒を振舞うのは楽しかった。
 出資者の友人は仕事がかなり忙しいらしく、月に1回くらいだ。

 だが、たまに、友人はどこで引っ掛けたのか知らないが客を紹介してくれる。
 紹介してくれた客は店の雰囲気をよく知ってくれて、たまに飲みに来てくれる。
 まあ、元々その友人がこの店の雰囲気にあった客を紹介してくれるのだろうが。

 そんなこんなで、一応、俺一人の身が暮らしていけるだけの賃金は稼げている。
 店が終わったら、まず自分の部屋に帰り、家事をする。
 それから、彼の部屋に出向き彼がまだ眠っている中、朝食の用意をして一緒にご飯を食べる。
 一応彼の部屋の鍵は持っているがこの時しか利用した事がない。
 それから、彼が出社するのを見送り、自分はまた家へ帰って夜、店を開けるまで熟睡する。

 彼が休みの日はたまに外に映画を見に行ったりもしている。
 だが基本、昼間は寝ている事が多い。

 彼と接せられるのは、彼が店に来た時か、朝食を摂る時だけ。
 彼が店に来た時は、俺が仕事が終わるのを待って一緒に寝たりもする。
 そんな付き合いをして6年だ。
 俺は、今のこの関係に満足している。

 『一緒に暮らす』か。

 考えた事がない訳ではないけど、特に取り立てて、という事でもない。
 そうなると、引越しもしなければならないし、一大労働だ。
 彼の事は好きだし、一緒にいる時間は楽しいと思う。
 だが、それだけの若い情熱は失ってしまっているような気がした。

 彼も、同性と一緒に住むとなったら、社会的な目というものもあるだろう。
 俺は、こういう職業に就くという事になったから、一応親には報告している。
 理解はされていないと思うが、俺の好きなようにさせてもらっているからありがたい。
 そういう意味では俺は幸せなのかもしれない。

「おはよう。何かあったか? 考え事でもしてた?」
 あ、彼が起きてきたようだ。
「ちょっとね。店に来た客にね、恋人のことを聞かれてね、『一緒に住みたいと思わないのか』って」
「それでなんて? お前は俺と一緒に住みたいと思うのか?」
「イエス、ともノーとも言わなかったね。どうだろ? 住みたくないわけじゃないけど、取り立てて、とは思わないかな。俺だけが決める事じゃないし。」

「結構すれ違いだからな、俺達って。お前は家族にもカミングアウトしてるんだから、取り立てて問題はないだろ?」
「まあ、そうだけどね。」
「俺もな、もうこの年だし、お前との付き合いも長いし、そろそろ一緒に住んでもいいかな、って思ってる。」
「え、それ本気?」
「本気だよ。冗談で言う訳ないだろ。多分、俺から言い出さなきゃ前には進めないと思ってる。お前は知らないだろうけど、俺は前から両親にはカミングアウトしてるんだよ。勘当されたけど。会社も、まあ、問題ないだろ。引っ越す事自体。ばれたらばれたで居心地は悪くなるかもしれないけど、辞めさせられるとも思わないしな。今度一緒に不動産や行ってみるか?」
「え、何か嬉しいな。って言うか知らなかったよ、両親にカミングアウトして勘当されてたなんて。」
「自慢できる事じゃないしな。お前が親にカミングアウトして、それでも、家族の関係が変わらなかったって言ったとき、正直、羨ましかったよ。でも、仕方ないよな。理解しろっていう方が無理なんだし。勘当されても、やっぱり、カミングアウトして良かったと思ってるし。自由になれたから。何が悪かった訳でもない、親も、俺も。変えようがないもんな。」
「そうだね、変えられないものね。それぞれの感じ方は。」

「で、お前は? 俺と一緒に住むのOKなの?」
「俺から断るわけないじゃん。そうだ、多分、不動産屋なら、俺の友達が詳しいと思う。良いところ知っていると思うし。」  

 出資してくれた友人、多分彼なら、そういうことに偏見を持たない不動産屋を知っていると思う。
 ゲイとして、顔が広いからな、彼は。

「それって、俺たちと同類の友人なのか?」
「うん。そう。俺と、君との事も一応知ってるんだ。」
「いいな、そういう友人がいて。中々いないもんな、そういう人間って。」
「彼って、自分がゲイなことにすごくオープンなんだ。厳しい目にもあってると思うよ、実際。でもくじけないんだ。それでいて、ゲイの友達もノンケなオトコもオンナも友達もいるって言うから凄いよ。」

 そうなんだ。
 ゲイだってわかっていたら、やっぱりオトコの友人は偏見を持つだろうし、そんな彼と友人をしていて、自分まで偏見の眼差しで見られるとも限らない。
 彼も凄いし、彼の友達をやっているノンケの友人も凄いと思う。
 色んな偏見と戦って生きているんだとは思う。
 自分が、自分でありたいだけなのに。
 それって、とっても難しい事なんだな。

「じゃあ、その友達に頼ってみようか。」
「うん。連絡とっておくよ。それから、日程決めよう。」

 また一歩、彼との関係が進めた。
 きっかけを与えてくれた客にも感謝しないとな。

 色々見る人間風景。
 そんな店を任されて、本当によかったと思う。


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