暴走書家

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『誓い』(短編)

 虫の知らせ、と言うものがあるのでしょうか。
 私は何となくとても嫌な予感がしてまいりました。
 その不安感は日々つのりはじめ、これでもかというくらい大きく膨れ上がっていました。
 雅貴まさたか様と出会って5年。
 なぜもこれほどまでに不安になる事があったでしょうか。

 5年も経つのに、雅貴様は私を抱くことはありませんでした。
 元来、そういう趣向がない方なのかも知れません。
 けれど、私を傍においているからにはそういった趣向の人間が嫌いであると言うわけではないと思うのです。
 もし、駄目なら駄目でそれでも構わない。
 私は、覚悟を決めて雅貴様のお部屋を訪ねました。
 お部屋を訪ねること自体が珍しいことではありません。

 けれど、私の雰囲気が、いつもと違っていることを雅貴様は察せられたのでしょう。
「どうしたんだい。恭平きょうへい。何かあったのかい?」
 その御様子はいつもとお変わりないように見えました。
「お願いです。雅貴様。私を抱いてください。」
「また何をいいん出すんだい? 私はお前をそういう風に扱う気はないよ。」
『そういう風』それは、私の過去のことを指して言っておられるのでしょう。
「雅貴様に大切なお方がいらっしゃるのは存じ上げております。その方の代わりでも構いません。お願いですから抱いてください。」
 大切な人間。
 雅貴様が誰よりも大切にしていらっしゃる方がいる。
「……彼のことをそういう風に考えたことはないよ。それに、彼とお前を比べてみたりなんてしないよ。」
「どうしてもだめですか? 雅貴様は私がお嫌ですか?」
「お前を嫌だとなんて思ったことはないよ。けれどまた、何で急にそんなことを言い出すんだい。」
「理由は御必要でしょうか? ただ、私が雅貴様にそうしていただきたいから、と言うのでは駄目でしょうか?」
「お前は、案外強情だからね。そういうところは気に入っているよ。」
「私はもう昔の私ではありません。私自身が望んで雅貴様に抱かれたいと望んでいるのです。」
「お前は何も望まないと思っていた。でも違うんだね。」
「私と雅貴様では身分が違います。ですから、不遜なお願いなのは十も承知です。」
「身分などという、そんな古い考えは持ち合わせていないよ。だから、そんなに自分自身を低く見るのはやめておくれ。」
「申し訳ありません。でも、ただ、私は雅貴様に抱いて欲しいのです。」
「……お前は、本当にそれを望んでいるの?」
「はい。」

 なんと言っても引こうとしない私に根負けしたのだろうか。
 いえ、そんな弱いお方ではない。
 本当に拒否しようと思えば出来る方だ。
 強く、厳しく、そしてお優しい方だから。

「では、おいで。」
 手を差し伸べられて、その手を取った。
 少し初めて出会った時の事を思い出す。
 でも、その時とは違う、今は私自身のしっかりとした意思で、その手を取ったのだから。

 雅貴様の唇が私の唇に触れた。
 しっとりと優しく。
 そして深く。
 性的な意味を込めて、欲情を煽るように探ってくる舌を自ら唇を開いて受け入れた。

 舌に首筋をなぞられると背筋がゾクゾクとして感じた。
 雅貴様が私をもっと欲してくれるようにそのペニスに手を運び、なで上げる。
 そうして、雅貴様の指もまた私のペニスに触れた。

 お互い、高ぶっていくのがわかる。
 その手のひらの上で。

「お願い……雅貴様、もう、イれてください。」
「まだ、駄目だろう。」
そういって、雅貴様は私のアナルに指で触れてきた。
「んん……」
 入り口から徐々にゆっくり入り込み、慣らされていく。
 まだ硬いけれど、そこに雅貴様のペニスがイれてもらえるのかと思うと期待をしてしまう。
「ん…あぁ…雅貴…さ…ま…」
「恭平、そんなに急ぐことはない。」
「は…い…。で……も……んん……はぁ……」

「大分、柔らかくなってきたね。」
「はい。お願いです。もう……。」
「キツかったら言うんだよ。」

 そうして、やっと雅貴様のペニスが私の待ちわびたアナルに挿入されてくる。
 決して早急にではなく、私に負担にならないようにと。
「は……あ……あ…。」
「大丈夫かい?」
「あ、はい。あの、動いてください。」
「ああ。」
 そうして、ゆっくりと探るように突き上げられた。
 もう知り合って何年も経つのに、カラダを重ねるのはこれが初めてだった。
 けれど、傍にいて、直接的には行わなくっても、感じるところを知っているかのようだった。

「んん…はぁん……あ、雅貴様……」
「…恭平……」
「ああ…!あ!…お願い…もっと…もっと…シて…!」
「イイよ……恭平も……スゴく…感じる……」
 そのことが、とても嬉しくって。
 私だけじゃなく、雅貴様も感じてくださっている。

 お互いのカラダを、貪れるだけ貪って。
 快感に浸って、その時が終わってしまうのが惜しくて。
 いつまでも味わっていたいけれどそういうわけにもいかなくて。

 やがて、欲望が果てた。

 そうして、告げられた、雅貴様の言葉………。

  
****************************************


 私の母親は女郎だったという。
 覚えてなどいない。
 覚える前に捨てられた。
 オンナだったら、同じようになっていただろう。

 いや、オトコに生まれても、そことはそれほど変わらない場所、男娼窟で育った。
 物心つく頃から、その世界しか知らず、やがて、自分がカラダを売るようになることに何にも疑問も持っていなかった。
 ある程度の年齢に達すると、私も、店に入り、カラダを売るようになった。
 それしか生きていく術がなかった。
 それでも、生きている事が不思議だった。
 望まれずに生まれ、それなのに生きている。
 そういった趣向を持つ欲望の処理の道具として存在していた。
 私にココロなど必要なかった。
 ただあるのは、性欲処理機としてのカラダのみ。
 そこに、痛みも、屈辱も感じていなかった。
 そうやって育ったから。
 酷いことを強いる客もいたけど、それに逆らってどうなるものでもなかった。
 ただ、客が望む事を与えるだけ。

 生きているかどうかさえ感じられないのに、やはり、男娼として過ごせる期限は限られてくる。
 そうなれば、もはや、本当に生を奪われ、臓器として商品になる。
 それが普通の事だった。
 それが、当たり前の世界で生きてきたから。

 だがある日、男娼窟で諍いに巻き込まれ、怪我を負った。
 その諍いの最中、その男・雅貴様が通りかかり、助けられた。
 怪我を負った私に、雅貴様は手を差し伸べてくださった。
 『私と一緒に来るか?』と。

 その手を何故取ったのか覚えていない。
 そうして、そのまま雅貴様のお屋敷に連れて来られた。
 そこで手当てを受け、暮らすようになった。
 何の教育も受けてこなかった私に、様々な知識を教えてくれた。
 雅貴様が直接教えてくださることもあれば、その屋敷に奉公している人間が教えてくれる事もあった。
 雅貴様は私に手を出そうとはしなかった。
 何も役に立つことの出来ない私が、申し出ても、それは、私の為にならない、と断られた。

 雅貴様の風評は決して良いものではなかった。
 冷酷で、残虐非道な男。
 そう評されているのに、雅貴様は一向に意に介されることはなかったし、確かに、厳しい人間だと思ったけれど、真剣なだけで、とても優しい人だと感じていた。

 ただ、一つのものを守るため、雅貴様は、血も涙もないような人間に徹している。
 私は、その彼がとても羨ましかった。
 彼の望みがかなえられるならば、雅貴様は鬼にも悪魔にもなった。
 雅貴様の望みもその彼と同じところにあったはずだ。
 けれど、綺麗ごとだけでは世は回っていかない。
 綺麗なものを作り上げるには、その裏側で、幾重にも重なった悪行がなされているのだ。

 雅貴様は自らその役目を買って出た。
 その彼にさとられないように。
 彼と、雅貴様の望みが叶うようにと。
 例え手段は異なったとしても、別々の道を歩んで同じ場所にたどり着けるように。
 けれど、その望みが叶った時、彼が表舞台に立つことはあっても、決して雅貴様はたつ事は出来ない。
 血塗られた過去として葬り去られるのだ。
 雅貴様はその事も覚悟されていた。

 だから……。

  
****************************************


「もし、私がいなくなっても、今のお前なら普通に生活していける。例え、私がいなくなっても、生き続けると約束してくれ。」

 私に、雅貴様の言葉を拒めるはずもなかった。
 だから受け入れた。
 『……誓います。』と。

 雅貴様も、その時が近付いていることを察知していたのだろう。
 そして私も。

 私たちが、初めてカラダを重ねて数日たったある日、雅貴様は御自害された。
 雅貴様の大切に思っていらっしゃる方と、雅貴様自身の望みが叶う日が近付いたんだろう。
 その為に、手を血で汚してきた雅貴様はもう不要な、いや、存在しない方がいい存在になっていたのだろう。

 男娼窟でしか、生きる事の出来なかった頃の私とは違う。
 カラダを売らなくとも、全うな商売をしても生きていける場所があるのだと。

 雅貴様が御自害されて、屋敷も慌てふためいた。
 前々から、雅貴様も覚悟されていたので、屋敷で働いている人間は、すぐに他の場所へと移れるように手配されていた。
 そうして、その指示通り、皆動いていった。
 
 私、以外。

 雅貴様の亡き骸を抱き、私は、他のものに、雅貴様がくだした判断を、他のものへと伝えた。
 この一緒に過ごした数年で、私は、雅貴様の元に働く者たちの中で最も力を持つようになっていた。
 その居場所を与えてくれたのは雅貴様だったし、その期待にこたえるべく、努力し知識を得ていく私に雅貴様も褒めてくださった。
 それが、私の何よりの生きがいだった。

 雅貴様の元に来て初めて、私は生きている事を知った。

 そんな私が、雅貴様を失って、どうやって生きていける?
 例え、生活していけたとしても、もうその時は『生きて』はいないのではないかと思う。

 だから、私は……。

「すみません。雅貴様。お誓い申し上げましたけれど、それを実行することが私には出来ません。」

 雅貴様はもういない。
 亡くなる最期の時までは見守ったから、それから先はもういいでしょう?

 私は、雅貴様の亡き骸に口付けをし、雅貴様の手に握られていた銃を手に取った。
 そうして、そこに銃弾が込められていることを確認し、引き金を引いた。

 ほんの数年でも、雅貴様のお傍で、生きている事が出来て幸せでした。
 あの世で会ったら怒られるかもしれませんね。
 でも、やっぱり、私はもう、『生きられ』ないから……。
 いや、雅貴様に出会うまでは元々『生きて』いなかったのだから。

 どうか、誓いを破ったことをお許しください。
 これが、私にとって、最善のそして、最初で最後の自らの判断なのです。
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