暴走書家

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『共犯者-11-(完)』

 人が成長する為に、一人で考えなければいけないこともあるし、他人から与えられるちょっとした契機(きっかけ)で動く事もある。

 先輩に会った事を悔やんではいない。
 先輩との関係をもう恨んではいない。
 そして、先輩が選んだそのコの事も。

 どちらも俺の中では大切な存在だから。
 俺と先輩、先輩とそのコ、そして、そのコと俺。
 それぞれの中にそれぞれの関係がある。

 恋人として、付き合っていこうとする二人を、俺は見守っていくつもりだ。
 それがどんなカタチになるのかはわからない。
 先輩の浮気癖が直るかどうかなんてわからないし、その事にやきもきしてそのコが落ち着ける事はないかもしれない。
 俺は2人の味方だから。
 もしかしたら、何かの契機(きっかけ)で別れる事になるかもしれないけれど、その時までしっかり見守るつもりだ。

 そのコがまた不安になって、俺を訪ねてきたら、力になってあげるよ。

 そのコと俺の間で交わした密約は、生きているから。

 何となく遠のいていた、オトコの元へ久々に俺は訪ねていった。
 仕事が開けられなかったのもあるし、そのコに関わっていたのもあるし、自分のベッドで眠る事が出来るようになったからでもある。
 思えば、最初の時を除いて、オトコのところに行くのは常に俺の方だった。
 オトコから俺に連絡がくる事はなかった。

 俺とそのオトコを繋ぐものは何なのだろうか。
 最初に付き合おう、といってきたのはオトコの方だったのに。
 それなのに、あんな話までしてきて。
 結局乗ってしまった俺も俺だけど、それに対して何も言わないなんて。

 電話の声は、久し振りに聞いてもいつもと変わりなくて、実際会っても、会わないでいた間を全然感じさせなかった。
 オトコは俺の変化に気付いていたようだけど。
 やっぱり、気持ちに一区切りついたのがわかるんだろうか。

「雫さんは、俺とどうしたいんですか? 俺は、先輩を好きだった。それを認める事が出来た。そして、その束縛から逃れることが出来た。でも俺は、雫さんを恋愛の相手としては見ていないと思う。」

「……うん。そうだろうね。それで? 直哉くんはどうしたいの?」

「え……? どうしたいって?」

「今まで会って、セックスしてきたのだって、恋愛してた訳じゃないでしょ? 多分、これから先の事はわからないけどね。確かに、僕は直哉くんの事が気に入っているし、大切だけど、別に僕のほうも、恋愛していた訳じゃないからね。」

「それがわかっていても、俺と付き合っていたんですか。」

「そして、そう、直哉くんの中で、僕との関係を見直したいと思ったとき、直哉くんがどう考えるか。それは、直哉くん次第だよ。狡い人間なんだろうけど、僕は、大概、相手に選択させるから。」

「もし、俺が、もう付き合わない、と言ったら、そうするつもりなんですか。」

「そうだよ。言ったでしょ、相手次第だって。誰かとの関係において、その感情はとても複雑だよね。だから、それが、お互いの中で上手くいかなくなったと思ったとき、それは終わってしまうんじゃないかな。」

「雫さんから、別れる、とは言わないって事?」

「本当に、僕は狡い人間だからね。だから過剰に他人に求めようとはしない。多分それが誰であっても変わらないと思う。どんな関係にある人間であっても。相手の方がね、気付いてしまうんだ。僕では物足りないってね。だから、いつも振られるのは僕。そういう覚悟って、いつの間にか出来ちゃうんだ。求めてばかりじゃ駄目だけど、求められない事はきついからね。その加減ってとても難しいんだ。だから僕はどうしても相手に任せてしまう。楽だからね。それが。結局別れる事になったとしても。」

「俺が雫さんをトクベツ好きじゃないって言っても、でも別れないって言ったら、別れないの?」

「そのさ、『トクベツ』とか『好き』にも色々種類があるからさ。直哉くんが、僕の事をどう見ているかはわからないけど、僕はそんなにいいオトナじゃないよ?」

「雫さんはどうして、ちゃんと恋人とか作らないんですか? いた事ないんですか?」

「恋人……ねえ。いた事もあるけど、中々、無理だと思う。結構、滅茶苦茶だったけど、同棲してた事もあるけど。もう随分昔の話だけどね。」

「同棲までしてたのに?」

「そうだね、それでも、お互いを恋人だって思った事はなかったよ。お互い求めていたものは違ったけど、それなりに『トクベツ』だったからね。」

「恋人、じゃないのに『トクベツ』でいられるものなんですか。」

「あれはね、僕がまだ高校卒業間際の事だったよ。僕は、まあ、色々あって、家を出たの。そのときふらふら通っていたゲイクラブでその人にナンパされてね、向こうも金銭的に余裕がないみたいで、何となく一緒に住む事になったんだ。」

「そんなにいきなり……不安じゃないですか?」

「まあね。でも、狭い部屋だったけど、ちゃんとした寝床が確保できたからね。本当に不思議だったね、その人が僕と一緒に住もうなんて思った事自体が。有名だったからね、気が多くって、いろんなオトコと寝る人間だって。最初、僕がナンパされた時も、周りの人間に注意されたし。僕に実害が全くなかった訳でもないけど、その人との共同生活は何となくやっていけたよ。今はあんまり思わないんだけど、その頃は、僕を捨てた両親を見返してやりたくて、必死で大学に行ったし。勿論、見捨てられてるから、金は自分で稼がなきゃならない。やっぱり、実入りのいい収入が欲しかったしね。ホストとか、他のバイトも掛け持ちでね。向こうはフリーターで稼いだ金を趣味と共同生活費にあてていて、僕は、大学と共同生活費に当てていた。一緒に住んでいてもさ、時間は殆どすれ違いだったよ。ただ、一つの部屋を共有しているだけ。でも、一緒に住んでいれば周りから、特にゲイ仲間からは『恋人』だってみられてたよ。その人の場合は、一応、まあ、色々、手当たり次第だけど、気に入った相手とセックスするからね。だから、『好き』になっちゃう事もある訳けだ。だけどさ、自分の方が、その人の事好きなんだから、僕は相手に相応(ふさわ)しくないから、別れろ、とか言ってくる人間もいてさ。確かにそういう時は参ったよ。」

「それで、別れたんですか?」

「僕に言う前に、その人に言うように伝えたよ。直接話せってさ。でも、実際そうして、駄目だったみたい。まあ、駄目だったから、相手の僕に言ってきたんだろうけどさ。何度かあったよ、そういう事が。でも、繰り返している内にさ、誰と浮気をしても、結局帰ってくる場所は僕のところなんだって思ってた。」

「よくそんな自信なんて持てましたね。」

「始めから自信があった訳じゃないよ。でもなんでだろうね。そんな風に感じてたのは。本当に不器用な人だったけどね。その人だって、その人なりに僕の事愛してくれていたと思ってたし、僕も、その人を愛してたと思う。勿論、セックスで愛を知ろうなんてことは信じていなかったしね。それでもまあ、なんだろうな。僕達の間が気不味くなる事はなかったよ。その時も薄々気付いていて、今は結構はっきりしてるけど、元々僕は誰かと普通に恋愛できる人間じゃないんだ。でも、その人と抱きあっている時は、確かに恋愛じゃないけど、別のものを感じたよ。その人も僕に愛してもらう事を求めなかったからね。だから、上手くいってたと思ってた。実際にそうだったし。」

「それなのに、何で別れたんですか?」

「……その人はね、死んだんだ。自殺したの。その人が、おかしかったのは何となく気付いてたんだ。本当は病院に行く事を勧めれば良かったと思ってる。そうしたら、死ななくても済んだんじゃないかって。でも、その一方で、死にたがっているその人をそのまま死なせてあげるのも良かったんじゃないかって。だから、その人が死んでる姿を見つけ時、どこかで、ああ、やっぱりな、と思ったんだ。でも、一番近くにいたはずの僕にはやっぱりその人を死なす事しか出来なくて、その人が求めていたのは死ねる場所だったんだって。そして、僕は気付いたんだ。その人に求めていたものを。だけどそうなれなかった事を。死に別れ、って結構きついんだよね。本人にとってもだけどさ、その後付き合う人にとっても。嫌いになって別れた訳じゃないんだから。」

「今でも、好きなんですか? その人の事?」

「好き?……好きか嫌いかって問われれば『好き』だって答えるよ。だけど言ったでしょ、元々、恋愛感情じゃなかったって。もちろん『トクベツ』ではあるよ。それは一生変わらないと思う。だから、恋愛も出来ない上、そういう存在をもっている僕と上手く付き合っていける人間はあまりいないよ。友人としてなら、何人もいるけどね。僕自身が、その人の事を忘れないようにしているから余計にかな。僕が、黒い服を好んできるのを知ってるでしょ? まあ、好きなのもあるんだけど、その人を見殺しにしてしまった僕への戒めでもあるんだよね。それに、このピアスも、その人のものだったんだ。その人への想いは、もう断ち切ってるつもりだよ。でもね、大概の相手はそうは見てくれない。それがわかってるから、付き合っても、いいお友達、で終ってしまうんだ。まあ、それはそれで良いんだけどね。その後も友達として付き合っていけるから。」

「辛くないですか? 付き合っていたのに、友達になるのって。」

「死なれるよりはよっぽど良いよ。それに、恋愛感情から付き合っていたわけじゃないから、その方が自然なのかもしれない。」

「雫さんが相手に求めるものって何なんですか?」

「上手く言葉には出来ないけどね。強いて言うなら『共犯者』かな。」

「『共犯者』ですか……。」

 俺には、何となくその感覚がわかる気がした。

 先輩を好きになるまで、誰かを好きになったことがなくって。
 先輩の恋人でいられなくて、好きな気持ちを封じ込めて。
 でもやっと、そこから解放されて。
 そのために、そのコと秘密を共有した時の喜び。

「もし、俺が、それでも、雫さんの傍にいたいと願ったのなら、雫さんは叶えてくれますか?」

「僕は、言ったでしょ? 相手が拒まない限り、その手を離さないと。もし、直哉くんがそれを望むなら、僕は、できる限りの努力をするよ。」

「僕には、雫さんが確信犯だったように思える。初めてあの日、声をかけられた時から。」
 そう、ずっと試されていたような気がする。
 そして、それを俺も望んでいた。

 もしかしたら、いつか、俺にまた好きな人が出来るかもしれない。
 でも、その時は、雫さんは優しく見送ってくれるに違いない。
 ただ、恋愛だけが全ての関係じゃない、と告げてくれた。

 先輩とそのコの間で秘密を持って、甘美な罪を犯した俺。
 俺もまた罪人となることを望んでいた。

 恋をすることに臆病になったわけではない。

 昔こんなフレーズがあったな『もう恋なんてしないなんて、言わないよ絶対』

 確かに、恋する事は良い事なのかもしれない。

 でも、俺の中では、恋よりももっと魅力的なものを見つけたから。
 俺は、今は雫さんの共犯者でいたい。

 それが、このオトコと俺が望んだ二人のカタチ。

 そうして俺達は、新たなる関係の始まりに口付けを交わした。
 それが、いつまで続くかわからないけれど。


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