暴走書家

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『灰色』(短編)

 全てが灰色に見えた。
 しとしとと雨を降らせる空も、その雨に濡れるコンクリートも。
 昨晩からひっきりなしに雨は降り続いている。
 梅雨に入るのにはまだ早い。
 空気は湿っていてまるでそのオトコの心の中のようだった、
 
 外は雨が降っているとはいえ昼間だ。
 カーテンの引かれない部屋は決して明るくはなかったが何も見えないという程ではなかった。

 雑音らしき雑音がない。
 そんな静寂の中だからこそ、オトコの荒い息遣いと、ぬちゃぬちゃとした湿り気のある粘質の音が際立っていた。
 本当の静寂とは、全く音のしない事ではない。
 僅かな音を響かせる事が出来るからこそ静寂なのだ。

 ベッドの上で全裸で力なく横たえられた肢体。
 自らの意思で動くことのないその身体。
 そのオトコのアナルにもう一人のオトコのペニスが穿たれていた。

 挿入のために使われたローションと、ペニスを穿つオトコの放出した精液でアナルは濡れていた。
 オトコは何度精を放ったのかもう覚えていなかった。
 アナルに抽挿することにより物理的に刺激されているペニスは萎える事はなかった。
 オトコは酷く興奮していた。
 そして同時に酷く冷めていた。
 この二つの感情が同居するものだろうか。

 オトコが今行っている行為はセックスだといえるだろうか。
 ペニスは勃起し、射精するものの快感とは程遠いところにいた。
 それでもオトコは行為を止めようとはせず、ひたすらアナルを犯し続ける。
 なぜこんなことを続けているのか。
 それはそうしている男自身にもわからなかった。

 同じ行為でも数日前までは確かに欲望と快感があったのに。

 アナルを犯されているオトコに反応はない。
 ペニスが勃ちあがることもない。
 そのペニスは数日前までオトコを喜ばせていたというのに。

 悪いのは俺じゃない、俺じゃない、俺じゃない。
 オトコは犯しながら心の中で叫んでいた。

 そうだよ、こいつだって俺が悪いとは一言も言わなかったじゃないか。

 なのに、なのに、俺と離れようとするから。
 別れようなんていうから。

 俺にはこいつしかいなかった。
 それをこいつは……!!

 優しく俺に愛を囁いたその口で別れるだなんて。
 嘘だと言って欲しかった。
 冗談だと。
 けれどそうじゃなかった。

 俺一人をおいて部屋を出て行こうとするから。
 そんな事は許せない。
 この部屋から一歩たりとも出させてやらない。
 もう二度と。
 だから俺は、首を絞めて殺したんだ。

 首を絞められて苦しそうに俺の腕に血が流れるほど爪を食い込ませて抵抗したけど、俺はそんな事気にしなかった。
 次第に抵抗する力が弱まって息が止まった時、俺にもこんな力があるんだと不思議に思えた。
 
 それから俺はこいつの死体をベッドに寝転がせ、服を脱がせた。
 いつもこいつが俺にしてくれたようにきつく窄まったアナルにローションをたらし肉壁をほぐして自分のペニスを挿入したんだ。
 その時なんで俺のペニスが勃起していたのかわからない。

 俺は疲れ果てるまで犯し続け、もうこれ以上動けなくなってようやく萎えたペニスをアナルから引き抜いた。
 それと同時にそれまで俺がそそぎ続けた精液がどろりと零れ落ちた。
 カラダがだるかった。

 乱れた息が整ってくると、不意に笑いがこみ上げてきた。
 何がおかしいのだろう。
 それもわからなかった。
 オトコは笑いながら同時に涙も流していた。

 笑っていることにも、涙を流していることにもオトコは自覚がなかった。
 目の前に横たわっている恋人の無残な姿にも心が動かされる事はなかった。

 もう疲れた。

 麻痺した感覚の中で疲労感だけが泥のように覆っていた。

 今は、眠りたい。
 今度起きたら、どうなるだろうか。

 灰色に染まった心は、二度と色を持つ事はなかった。
 空腹感も襲ってこない。

 恋人の亡き骸を横に、ベッドに佇み天井を見上げている。
 俺も、もう死体みたいだな。

 男に生きる気力はもう残っていなかった。
 何も口にせず、時に眠るだけ。
 穏やかな死がオトコを迎えに来るまで。

 雨はとっくに上がり陽が射しているというのに、オトコのところまでは届かなかった。


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