暴走書家

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あるバーのシリーズ(終)

『別』とは対になってます。
********************************

 ごめんとしか言えない。
 それ以上の言葉が思い浮かばない。
 何度も何度も謝りたくってそれも出来なくって。
 お前は俺に沢山のものを与えてくれたと思う。
 俺が知らなかったもの。

 最初に声を掛けた時は本当に気軽に声を掛けたつもりだったけれど、抱いてもらって、その優しさに涙が出そうになった。
 俺の連絡先を教えたけれど、連絡がなかったらなかったでそれはそれで良かったと思ってたんだ。
 けれどお前は俺に連絡をくれた。
 それで一緒に住むようになった。
 付き合っていても、それに落ち着けなくって浮気を繰り返す俺。
 今までの奴は、そんな俺に怒って離れていった。

 だけどお前は違ったね。
 違ったのはわかったんだ。
 でも、俺は浮気を止める事が出来なかった。
 お前はそれを知っていて咎める事もなかった。
 俺とお前は親に捨てられた子供。
 親に愛される事がなかった子供。
 愛を知らずに育った子供。

 生きる事すら苦痛で、食事をするのもどうでもよくって、バイトをするのもどうでもよくって。
 ただ何となく、金がないと生きていけないから、バイトをして生活していた。
 腹が減っても食べ物がないんならないでしょうがないって思って、何も食べずにいた。
 だけど、お前と会って変わった。

 お前はきちんと料理を作ってくれたね。
 食事なんて興味なかった俺だけど、美味しいと思ったよ。
 口に出しては言えなかったけれど。
 何で、お前はそんなに料理出来るの?

 不思議だった。

 俺達は二人とも生きる事なんかに興味ないんだと思っていた。
 それはそれで間違いだったとは思わないよ。
 それでも、お前は生活しようとしていた。
 俺と一緒に。
 お前に抱かれていると、すっごい幸せな気分になれたよ。
 愛されてると初めて思えたし、俺もそんなお前を愛しているんだと思った。

 そんな風にお前を愛したけど、やっぱり怖くなっちゃうんだ。
 お前の愛を疑っていた訳ではない。
 それでも、確かめずにはいられない。
 俺は不安で不安で仕方なかったんだ。
 俺が生きている事が。

 だからお前以外オトコのカラダを求めた。
 誰かを抱いていても抱かれていても、その飢えが癒される事はなかった。
 すればするほど、余計に飢えを感じさせられて、ひたすら求める事しか出来なくなっていた。
 俺が、そんな風に他人とセックスをして、トラブルを起こしても、お前は冷静に対処していたよね。

 俺から離れても行かなかったし、俺の帰りを待っていてくれた。
 俺の帰れる場所がそこにはあったんだ。
 飢えて、飢えてそれでも満たされず、お前のところへ帰って抱かれて、癒される。
 俺を抱きしめてくれるカラダが温かかった。
 その分、その温もりを失うのが怖かった。

 俺には何も出来ないから。
 何をしたらいいのかわからないから。
 四六時中、一緒にいられる訳がない。
 それは俺もわかっていたし、俺もそれを望んでいなかった。
 それを望まれたら息が出来なくなって窒息してしまうそうで逃げていただろう。
 だから、そうやって、俺の事を縛らないお前が好きだった。
 俺だって、お前の事を縛る事なんか出来ないし、生活していく為にはしかたがなかったんだ。

 お前には大学があり、その友人があり、バイトがある。
 俺にも、バンドがあり、その仲間があり、バイトがあった。

 決定的に違ったのはお前は未来を見ていたという事。
 俺には刹那的な今しか見えなくってそれだけに足掻いていた事。
 俺は、いつもいつも先の事が見えなかった。

 『今を生きる事が大切なんだよ。』とお前は言うかもしれないけれど、その『今』でさえ、どんどん危うくなっていった。

 不安。
 不安。
 不安。

 そして、

 恐怖。
 恐怖。
 恐怖。

 どん底で生きて、這い上がる事なんか出来なくて。
 愛されれば愛される程、愛すれば愛する程、俺は崖っぷちに立たされているような気になった。
 何で?
 その時は確かに幸せなのに。
 お前がいてくれてこんなにも愛おしいと思うのに。

 それを壊そうとしているのは俺。
 いつか壊れてしまうものなら、いっそ自らの手で壊してしまおうと。
 そうする事で何とか恐怖から逃れようとして。

 お前が悪かった訳じゃない。
 悪かったのは俺。
 お前は、そんな俺を許してしまうだろうけど、俺自身が許せなくなった。

 そんな俺はついに歌を歌えなくなった。
 バンドのメンバーに別れを言った。
 随分、あっさりと別れてくれたものだ。

 俺はやっぱり必要じゃなかったの?
 俺じゃなくても別に良かったんだよね。
 そんな事を確認出来てすっきりした。

 お前にとって俺はどうなの?

 怖くて聞けるはずもない。
 俺にとって、お前は唯一の存在なのに。
 生きてきた中で唯一、愛し、家族だと思えた。
 一緒に生活して、これが、家族なんだって。

 お前が、どうでもいい奴と数年に渡って一緒に生活出来る奴だとは思わないよ。
 お前も俺を愛してくれたんだって思うよ。

 けれど、俺はもうそろそろ限界なんだ。
 卑怯な奴だよね、俺って。
 わかってるんだ、それは。

 お前なら、俺を看取ってくれるのではないかと思っているから。
 どうせなら、別れて一人で勝手に死ね、と思うだろ?
 死ぬ時は誰だって一人だ。
 俺も甘いよな、考え方が。
 でも、甘えたくなってしまうんだ。

 許してくれとは言えない。
 言えるはずもない。

 なあ、お前なら、こんな終わりをなんとなく想像してたんじゃないか?
 始まった時から既に終わりは見えていたんだ。
 そんな恋愛だってあるさ。
 俺が愛した唯一の人。
 最初の最後で愛を知れて良かったよ。
 お前と会わなければ愛さえ知らずに死んでいっただろう。

 けれどもう終わらせる。
 俺の全てを。
 さよならは言わないよ。
 遺書なんか書く気もない。
 何を書いたらいいかわからない。

 お前を残して、俺は死ぬんだ。
 残酷な奴だと罵ってくれ。

 ああ、でも、お前が、そんな事出来ない奴だとわかっているんだ。
 全ては俺の甘さ故だ。

 俺は、風呂桶に湯を張り、そこで思いっきり強く剃刀で手首を切った。
 お前が帰って来るまで、まだ時間はある。
 それまで誰も見つける事はないだろう。

 思い出が巡る。

 俺は間もなく完全な闇に包まれるだろう。


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