暴走書家

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『幹分かつ枝-8-』

 俺は何をやってるんだ?
 政司が……政司も、ずっと俺と同じだったのか?
 想いを吹っ切る為に、政司の部屋を訪れ、話を持ちかけた筈なのに、思わぬ事態になってしまっていた。
 政司に望まれて、拒める筈もなかった。
 ずっと、想いを押し込めてきて、叶う筈がないから、と。

 長年、胸に秘めてきた欲望が、一旦、溢れ出したら、止める事が出来なかった。
 政司に欲されて、抱かれ、政司を欲して、そのカラダを抱いた。
 その時は、ただ、それだけだった。
 それ以外、何も考えられなかった。

 兄弟である事すら忘れていた。
 呼びなれたその名前も、聞きなれたその声も、いつもとは違っていて。
 セックスの間中、多分、お互いの世界には、相手の姿しか映っておらず、二人で、その行為に溺れていた。
 その世界には、俺と政司、二人しかいなかった。

 けれど、行為を終えて、一息ついてみれば、俺は、自分の愚かしさに愕然とした。
 何故、俺は、俺には直哉が、恋人がいると、言えなかった?
 直哉と、きちんと向かい合う為に、そして、政司とは、兄弟として向かい合う為に、打ち明けたつもりだったのに。

 直哉が持たせてくれた勇気。
 直哉が優しく押してくれた俺の背中。
 それを、俺は……。

 直哉が、俺の事を受け止めてくれて、愛してくれて、だから、俺も、直哉の事を愛していた筈なのに。
 何故、こうも、俺は簡単に、崩れてしまったのだろう。
 その欲望に。

 あの日、あの温泉旅館で、直哉と話した事。
 俺の想いと、直哉の過去。
 それを、こんなカタチで裏切る事になろうとは。

 結局俺は、直哉の好意に甘え、その優しさに包まれる事しか出来なかった。
 そして、そんな直哉を、無残にも傷つけるような事をしてしまった。

 政司を責める事は出来ない。
 俺自身、政司とのセックスを望んでしまったのだから。
 俺と政司、世界でたった二人だけ、同じDNAの塩基配列を持った、一卵性の双生児。
 他の、誰にも代わりはない、それはわかっている。
 双子として、いや、それ以上に。
 けれど、本当にそれでいいのだろうか。

「政司……ごめん……」
「法規? 何で? 何を謝るの?」
「俺は、政司の事が好きだ。そう言う意味で。でも、俺は……このまま、政司と、関係を続ける事は出来ない。」
「どうして? 血の繋がった兄弟だから? 俺も、法規の事がずっと、ずっと好きだ。それなのに、何故?」
「兄弟……。確かに、だから、ずっと、その関係を壊すのが怖くて、打ち明けられなかった。」

「でも、今は、もう違うだろ? お互いの想いが、通じてるってわかってる。それで、十分だろ? 別に、誰に言う必要もない。俺達が、わかっていれば。」
「思いを打ち明けられなかったのは辛かった。でも、通じてもやっぱり、今でも辛い。俺達の中で、世界が閉じてしまうようで。」
「そんな事はないだろ? 実際に閉じてしまう事なんてない。そりゃあ、確かに、誰にも言えないさ。けど、ただ、手に入らない物を欲しがっているだけのもう子供じゃない。親元にはいるけど、お互い、きちんとした社会人じゃないか。」

「それはわかってる。でも、それでも、やっぱり、政司とこの関係を続ける事は出来ない。俺の我侭かもしれない。けど、知った上で、もう一度、今度は、本当に、きちんと双子の兄弟として、関係を作っていきたい。」
「わかった上で、また、ただの兄弟へ戻れと? 一度、受け入れたのに、どうして拒むんだ?」
「受け入れた事実を、否定は出来ない。だから、勝手な事も承知で言っている。今までの……元のただ兄弟に戻る事は出来ない。けれど、やっぱり、兄弟でいたい。」

「……元々、叶う筈がないって思ってた。それが、叶うってわかったって思ったのに……。法規は、拒否するんだな。俺は、法規の事が本当に好きだから、無理強いする事は出来ない。」
「俺から持ち掛けた話題なのに……ごめん。でも、政司を拒否するのとは違う。政司は……やっぱり、大切な掛替えのない双子の兄弟だ。」

「……一つ聞いていいか?」
「何?」
「法規がそう考えるのは、法規に恋人がいるからか? そいつの所へ、戻るのか?」
「そんな事……出来る訳ない。政司とセックスしておきながら、戻るなんて、そんな都合のいい事……」

 そう、そこまで身勝手な事、直哉に望む事なんて出来ない。
 一時とは言え、直哉の存在を忘れ、政司とのセックスに及んでしまったのだから。
 政司との事を、隠して、そのまま付き合い続けるなんて、そんな虫のいい話が通る筈がない。

 あの時、直哉は、『報いだ』と言った。
 俺が、政司の事を想い続けながら、それでも、誰かと付き合い続けてきた俺への『報い』なのだろうか。
 そして、それに、直哉まで巻き込んでしまった。

 それでも、ただ、一方的に電話だけで、直哉に別れを告げる事も出来なくて、いつものように、週末に、直哉の家へ出向いて行った。
 インターホンを鳴らすと、いつもと変わらぬように、直哉が「いらっしゃい」と笑顔で出迎えてくれた。
 それが、心苦しかった。

 直哉の方も、俺の様子が、いつもと異なる事に気付いたのだろう。

「法規? どうしたの? 何かあったの?」
「……直哉さん、ごめんなさい。俺、俺……」

「法規、取り合えず、落ち着いて。焦らないで、ゆっくり話してくれたら良いから。」

 こんなにも、俺の事、心配して、優しく接してくれるのに。
 やっぱり、直哉に、辛い過去があったから?
 そして、俺は、それを更に抉ろうとしているのだろうか。

 手渡された、暖かい湯飲みを受け取って、口にする。
 熱過ぎもなく、ぬる過ぎもなく、調度良い温度だ。
 不意に、涙が出そうになる。
 けれど、俺が、泣いていい筈がない。
 だって、一番悪いのは、俺なんだから。

「弟くん、政司くんだっけ? 話したの?」

「うん……。」

「ゲイだって言って、受け入れてもらえなかった?」

「ううん。違う。そうじゃない。政司もゲイなんだって。それで……。」

「それで、どうしたの?」

「……政司も、ずっと、俺の事が好きだったって言われて、政司と寝た。政司に押し倒されて、俺は拒めなかった。それで、俺も、政司の事、抱いた。」

「……お互い知らなかったけど、両想いだった、って事か。それで、政司くんと、付き合っていくの?」

「それは……出来ない。しちゃいけないと思ったし、元のままとはいかないけど、兄弟でいたいと思った。これは、政司にも言った。」

「そう……それで、法規はどうしたいの? これから、どうするつもりなの?」

「わからない。でも、直哉さんには、酷い事したのわかってるし、直哉さんとこのまま、付き合っていくことも出来ない。直哉さんの事裏切って、政司とセックスして、こうやって、告げている事も、酷い事だと思ってる。直哉さんに許してもらえる訳ないって。許してもらっちゃいけないんだって。」

「結局、俺が、法規に、政司くんに、打ち明けた方がいい、と言った事が、逆に、法規を追い詰める結果になってしまったんだな。」

「追い詰めるだなんて、そんな。直哉さんが、悪い訳じゃない。俺が、もっと早く、ちゃんとしていれば、こんな事には……。」

「それが出来なかったのは仕方がないだろ? 法規だって、全部知ってた訳じゃないんだから。」

「それでも、一番知ってたのは、俺だから。直哉さんに、別れを切り出されても仕方がないと思ってた。それでも、直哉さんが優しくしてくれたのをいい事に、俺は、直哉さんに甘えて……こんなカタチで、別れる事になるなんて、本当にごめんなさい。謝って済む問題じゃないけど、俺には、謝る事しか出来ない……。」

「法規……」

 何て、自分勝手で、無力な俺。
 政司にも、直哉にも、何も出来ない。
 償いさえ、何も。
 だって、どうやったって、償える事じゃないから。
 兄弟でいてくれる、政司には、まだ少しはいい。
 けれど、本当に直哉には何も。
 そう、本当に、何も、出来ない。



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