暴走書家

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あるバーのシリーズ(輪)

 その人に恋人が出来たと聞いた。
 その人より10歳年下で可愛らしい人だった。
 素直で真っ直ぐな瞳。
 俺もその人もどこか曲がっているところがあるから、そういう人に惹かれたのがわからないでもなかった。
 その人もその人だ。
 俺になんか紹介するんだから。

 その恋人は、紹介されて嬉しそうだった。
 昔からの友人だと紹介された俺。
 きっとその人は上手く隠し通すんだろうな、俺との関係を。
 俺も、上手く隠し通せる自信はある。
 その人も嬉しそうだったな。
 俺と過ごした時とはまた違う笑みを浮かべていた。
 幸せそうな二人を見ていると、こっちまで幸せになれる気がした。

 それはそれでおいておいて、俺には俺の本筋の話しがあった。
 資金面での援助。
 俺がバーを開こうと思っている事、その事を話した。
 その人は快く承諾してくれた。
 正直そのあてがあったから、その人に頼んだのだけれど。

 バーが出来たら寄らせてもらうよ、とも言ってくれた。
 勿論、その人からの資金が全額じゃない。
 俺が張本人だから、それまで稼いでいた金をかなりつぎ込む事になる。
 他に使う当てもないから別に良いのだが。

 俺が第一出資者にならないと意味がない。
 その人はかなり余裕があるから、補填の意味で心強かった。
 後は、人と土地。
 俺はバーを開きたいけれど、自分自身がその職に携わるつもりはなかった。
 あくまでも裏方。

 資金面でのバックアップをして、俺が通える店にするのが理想だった。
 その為に人を探した。
 その界隈の色々な店に行って、バーテンを物色した。
 やはりそれなりに信頼の置ける人物でないと駄目だ。
 バーテンといろいろ話をした。
 世辞に長けている人。
 やはり、社会経験をつんでいる方がいい。

 そんなときに以前からのセックス込みの友人がバイトでバーテンをしている店に出くわした。
 確か普通のサラリーマンだったはずなのに。
 俺が気軽に話しかけたが、バイトの身、そうフランクに客と話せるものではない。
 あくまでも客の一人として俺を扱った。
 元々、良い声をしているな、とは思ったけれど、結構様になっている。

「長いんですか? この店に来て。」
「いえそうでもないです。まだ3ヶ月です。」
「前の会社はどうしたんですか?」
「今、付き合っている彼がいるんですけど、その人と付き合い初めて、会社が嫌になった訳ではないんですけど、この世界の方に興味を持ったので。」
「へえ。彼氏出来たんだ。どれくらいになるのその人付き合って。」

 最後に寝たのはいつだろうか。
 まあ、元々そう頻繁に寝る方でもなかったしな。
 お互い忙しかったし。

「そうですね。大体1年弱になります。」
 1年弱、というと、俺が日本を離れて暫らくしてという事だろう。

「どう? この仕事始めて?」
「僕は元々お酒にあんまり興味なかったんですけど、今の彼が好きで、色々勉強しましたね。それが役に立って仕事を出来ているのが嬉しいです。」
「そういえば、あんまりお酒強くなかったっけ。でも、興味を持ったら楽しくなった?」
「楽しいですね。今は。彼だけじゃなく、客が楽しんでお酒を飲まれているのも嬉しいと思いますし。」

 酒に携わっても、酒に溺れることはない、か。
 客に楽しんでもらう為に酒を作るのは良い態度だ。

「結構勉強してるんだ?」
「そう……ですね。本を読んだり、実際に作って味見をしてみたり。味見程度なら僕にも出来ますし。実験台になってくれているのは、彼です。」
「彼氏、実験台にしちゃってるんだ。」
「あはは。そうですね。でも、彼も嫌じゃないみたいなので。」
「彼氏に褒めてもらうと、余計勉強し甲斐がある?」
「あ、彼だけでなく、客に褒めてもらっても遣り甲斐はありますよ。」
「客、はつけたし?」
「そんな事ないですよ。意地悪ですね。貴方。」
「そう。知らなかった?」
「いや、イイ性格しているのは知ってましたけど。」

「ねえ、自分で店持ちたいとかは思わない?」
「え……それは、理想ですけど、そんなお金もないですし。」
「僕は店を出そうと思っているんだけど、人材を探しているんだ。それで、貴方なら良いんじゃないかな、と思って。」
「僕が……ですか。」
「うん。貴方なら、信頼出来そうだし、お酒も、よく勉強しているみたいだしね。」
「僕なんかまだかけだしですよ。」
「今すぐじゃないよ。色々準備をしなくちゃならないし。物件も今から探さなくちゃいけないしね。考えておいてくれる? また一週間後来るよ。」

 絶対イエスと言わせる自信はある。
 彼だって、まんざらじゃあないだろう。
 人生、いつ機会(チャンス)があるかわからない。
 舞い降りてきた機会(チャンス)を逃す手はない。
 今回を逃したらどうなるか。

 それは俺も同じだ。
 彼を見つけたのだから。
 彼と知り合いで良かったと思いたい。

 俺は忙しい中休日一日を割いて不動産を当たった。
 この界隈で、そう広くはなく、そう目立つでもなく、店の開けるところ。
 実際足を運んでみて、ここなら良いな、という場所をピックアップした。
 それを片手に再び彼の働く店へと出向いた。
 そして、店のコンセプトを話した。
 静かに一人でも飲める店。
 純粋にお酒を楽しめる場所。

「どう? 貴方の腕を試される事になるけど、やってみる価値はあると思うけど。」
「期待されてます? 僕。」
「期待に答えようとは思えるでしょう? だから、勉強もしている。」
「イエスと言うしかなさそうですね。貴方には敵わない。」
「物件はもう見つけてあるんだ。後はどう改築するか。貴方の意見も取り入れるよ。」
「さすが、手が早いですね。」
「褒め言葉として受け取っておくよ。どう? 今度の日曜あたり時間取れない?」
「昼間は大抵空いてますよ。」
「じゃあ、決まり。具体的に話して改築工事に入ろう。デザインは知り合いに頼むつもりだから。」
「なんか、どんどん話が進みそうですね。」
「実際進めるんだよ。デザイナーも忙しい奴だけど、何とか時間作らせるから。だから、貴方も色々考えておいて。」

 話が進む時は一気に進むな。
 勢いに乗るのは悪くはないだろう。

「貴方には色々知り合いがいるんですね。」
「人徳と言ってくれ。」

 そのデザイナーはゲイではない。
 その人を通じて知り合った人だ。
 俺も、その人もゲイだという事は知っている。
 だから、ゲイに対しても寛容な態度だ。

 そうやって人の輪は広がっていく。
 知り合いを通じてまた知り合いに。
 俺は本当に他人と知り合えて良かったと思えている。

 生きているから知り合えるんだよね。
 でもね、死んでしまったそいつの事も思い出すよ。
 不器用で、生きる事すら出来なかった。
 他人を求めても、求める意味がわからなかった。
 それで必死に足掻いていたそいつ。
 右耳に手を当てる。

 ピアスが、揺れた。

 俺は、生きているよ。
 まだ、生きているよ。
 あの日々は確かにあった。
 そいつは、その日々を生きていたんだよ。
 人の輪を知らなかったそいつ。

 俺は、生きてする事が出来た。
 また、墓に報告に行こう。


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