暴走書家

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『幹分かつ枝-6-』

 明け方になって、まだちょっと外が薄暗い内に目が覚めた。
 寝るのはぐっすり眠れたから、睡眠不足という感じはしない。
 実際に睡眠時間も、そんなに短くはないだろう。
 それでも、完全に起き出して、行動をするのにはまだ少し早いかも知れない。
 隣では、直哉がまだ眠っている。
 起こさないように、布団から抜け出て、カーテンを少し開けて外を眺めた。
 本当に良い景色だと思う。

 少しの間、眺めてから、洗面所へ行って、顔を洗う。
 そして、また部屋に戻ったら、直哉が目を覚ましていた。

「おはよう。早いね。法規。」
「うん、何となく目覚めちゃって。おはよう。直哉さん。」
 直哉も、電気をつけないまま、窓辺に行って、外を眺める。

「何か、良い具合に薄暗いね。折角早く起きたんだし、より静かな自然の中を散歩しに行ってみようか。」
「旅館の庭? それとも、少し外を歩いてみる?」
「そうだね。庭も結構、手入れが行き届いてるから、見応えがあると思うし、外は外でまた、それ以外のものが楽しめるだろうね。」
「外に出るんなら、着替えなきゃいけないね。」
「うん。そうだね。俺も、顔を洗ってきて、それから着替えるよ。法規、先に着替えてて。」
「わかった。」

 それから、直哉は洗面所へ向かい、俺は、着替え始めた。
 直哉も、戻ってきて、着替え終わったので、旅館の庭を探索した。
 空を見上げると、ほんのうっすらと、月が残っており、これから、徐々に白んでいくんだろう。
 こういう微妙な色合いを、写真ではなく、直哉の絵で見てみたいと思う。
 それを直哉に伝えたら、「そうだね、こう言った空って、あんまり見ることがないからね。面白そうだね」そう言ってくれた。

 一通り、それなりにゆっくりと、庭を見渡して、外に出ると、自然の木々に囲まれている。
 地面には、雑草と、誰が植えたのか、それとも鳥が運んで来たのか、小さなうす紫色の花が咲いていた。
 直哉が屈んで、その花を見ている。
「直哉さん、それ、知ってる花?」
「あんまり詳しいわけじゃないから、今、名前を思いつかないな。もし、この花を描いても、名前とかは全然別のもの付けると思うし。」
「調べようとは思わないの? 花の図鑑とか確か持ってたでしょ。」
「必要な時は調べるけど、それ以外は、あんまり名前とか気にしないな。」
「ふーん、そうなんだ。」

 暫らく、木々の間、そこに咲く花、そして、そこの澄んだ空気を味わって、明るさが増してきた頃、旅館の部屋へと戻った。
 朝食まで、少し時間があったので、折角だから、温泉に入ろうか、と入りに行った。
 まだ朝が早い所為か、貸切の方ではないのに、他の客はいなくて、2人で、ゆったりと湯船に浸っていた。
 朝食は、夕食ほど、豪華でないものの、やはり、しっかりしていて美味しかった。

「法規は、何か、俺に少し話す気になった?」
「え?」
「ほら、昨夜、言っただろ?」
「ああ、うん……。」

「法規がさ、もし、自分の事を一方的に話すのが嫌なら、もし良ければ、俺も、俺の事話すし。勿論、どっちも、強制しないけど。」

 話したいのは、話したい。
 それは、ただ、楽になりたいからなのだろうか。
 そして、やっぱり、直哉の事も知りたい。
 もしかしたら、俺が話す内容の中にも、直哉が話す内容の中にも、マイナスの面は含んでいるかもしれない。
 少なくとも、俺の話す内容は、多分にマイナスの面を含んでいるだろう。
 直哉もそうなのだろうか。

 俺が、直哉と付き合ってきて、マイナスの面って感じた事がなかった。
 でも、直哉が、俺のマイナスの面を知ろうとしてくれていれるのなら、俺も、直哉のそういうところも知りたいと思う。

「直哉さん、あのさ、俺、昨日、妹がいて、直哉さんの絵が好きだって話したでしょ?」
「ああ、うん。」
「その妹とはさ、血が繋がってないんだけどさ、俺、もう一人、兄弟がいるんだ。双子の弟が。それで、その弟、政司っていうんだけど、俺、政司に対して、兄弟以上の感情を持ってるんだ。」
「血の繋がった、しかも双子、か。家も、一緒に住んでるんだろ? 近くにいるはずなのに、それが返って辛いのかな。」
「うん。兄弟としては、申し分ない位に、仲がいいし、この想いが叶う事はない、ってわかっていても、忘れられなくて。」

「告げる事は出来ない、兄弟としての絆も失ってしまうかもしれないから。元々、ノンケを好きになって、叶う事はほぼない、その上、血の繋がった相手……普通はまあ、打ち明けられないよな。だから、ずっと、法規は苦しかったんだろうな。」
「ごめんなさい。直哉さん。こんな話して。」
「いや、構わないよ。聞き出そうとしたのは、俺なんだし。」

「後、政司は、政司は俺が知ってる事を知らないと思うけど、完全なノンケじゃない。恋人がいるのかどうか知らないけど。」
「完全なノンケじゃない?」
「うん。ゲイなのか、バイなのかわからないし、いつだったか詳細には思い出せないけど、政司が、自分の部屋にオトコ連れ込んで、セックスしてたのたまたま知ったから。今は……多分、仕事以外で、かなり夜遅くに帰って来る事があるから、相手が、オトコかオンナかわからないけど、一応、そういう相手がいるんじゃないかと思ってる。」

「そっか。手に入らないから、余計に忘れる事は出来ない、っていうのは、何となくわかるよ。近くにいれば尚更ね。法規は、ゲイだって事もカミングアウトしてないの?」
「うん……。」
「ノンケ相手のカミングアウトって、色々難しいと思うけど、法規がそいつを好きだって事を伝えるのは別として、少なくともゲイだって事は、話せるんじゃない? 完全なノンケじゃないんだから、そういう、セクシュアリティって受け入れられると思うけど。相手にとっても、法規がカミングアウトする事で、法規に対して、そういったセクシュアリティって打ち明けやすいだろうし。法規は、ゲイに対しても、バイに対しても、偏見とか持たないだろ? 相手が、法規の事知らなくて、法規が知っているんなら、尚更、そういう契機(きっかけ)って、法規の方から打ち明けた方がいいと思うけど。」

「そう……だね。ゲイだって事だけなら、打ち明けられるかもしれない。」
「まあ、それで、法規の想いが完全に晴れるかどうかはわからないけど、少しは軽くなるんじゃないか? 多分、相手にとっても、そうだと思う。」
「俺……だけじゃない? 政司にとっても?」
「ゲイでも、バイでも、法規の他の家族がどうかは知らないが、法規は認めてやれるだろ? そういう相手って、欲しいんじゃないかな。」

「そうしたら、また少し兄弟として、近づけるのかな。」
「多分。そうする事で、法規の想いがどう変化していくかはわからないけど。」
「いい加減、本当に、吹っ切らなきゃね。ずっと思ってるんだけど。直哉さんにも失礼なのはわかってるし。」
「まあ、完全に吹っ切るには、どうしたらいいかは、わからないけどね。」

「直哉さんは、こういう話聞いても、まだ、俺と付き合っていけると思ってるの?」
「そういう話どうこうを別にして、ずっと法規と付き合い続けられるかどうかはわからない。俺の中にも、法規の中にも、どこにも保証なんてないからね。でも、今、付き合っていけてるのは、法規が複雑な想いを抱いているにせよ、きちんと、俺と向き合って、付き合おうとしてくれているのがわかるから。……ここからは、俺の話になるけど、構わないか?」

「え、あ、うん。」
「俺は、かなり長い間、誰かとまともに向き合って付き合おうと思った事はなかった。元々、俺は、ゲイじゃないし、バイっていうのとも違う。ただ単に、相手が、オトコでもオンナでも、ちゃんと真剣に相手の事を見て、付き合って来なかった。」
「え、そうなの? 直哉さんは、ちゃんと、俺の事考えて、付き合ってくれてると思ってたけど。」
「今は、そうだ。でも、昔は違う。」

「昔……。」
「誰かしらと、適当に付き合ってて、まあ、始めはオンナばっかりだったけど。オトコの先輩に誘われて、別にいいか、そんな程度で、付き合ってた。始めの内は。でも、その先輩の事が、本当に好きだ、って気付いた時はもう遅かった。それまで、適当にしか、付き合って来なかった俺への報いだな。」

「遅かったって、なんで?」
「……先輩の相手は、俺だけじゃなかった。他にも、色々、オトコがいた。そんな状況で、今更、本気で好きなんて言えなかったし、多分、言っても、駄目だったと思う。それでも、好きだと気付いてしまったら、もうどうする事も出来なかった。先輩と、どれだけセックスをしても、想いが叶う事はないんだって。それから、半ば自棄で、半ば先輩への当て付けのように、色んなオトコとセックスするようになった。そんな俺に、先輩は何も言わなかったし、先輩とのセックスがなくなる訳でもなかった。そういうまあ、『遊び人』な先輩に本気で好きな人が出来て、その人と付き合い始めて、絶対的に、俺の入り込む隙間なんてなくて。本当に、あの頃は酷かったと思うよ。酒に、タバコに、オトコ、色んな物に手を出して溺れてた。そんな事をしても、先輩の想いが手に入る訳けないのにな。」

「今の直哉さんからは、そういうのって想像できない。でも、それだけ好きだった、先輩の事、整理できたんですか。」
「現実のところどうかわからないけど、俺1人では無理だったと思う。そうやって、男漁りしてる時に、ある男性に声を掛けられて、別に、始めは付き合うつもりなんてなかったけど、関係を続けるようになった。これも、本当に失礼な話だけど、その人との関係を始めても、最初の内は、他のオトコともセックスしてたし。それでも、その人とセックスをして、話も色々するようになって、その人が、俺のそういう感情を受け入れてくれたから、それで、俺が、整理しやすいように手を貸してくれたから、少しずつ、現実を見れるようになった。まあ、ちょっと、色んな事があったけど。先輩とも、普通に仲のいい友人になる事が出来たし、先輩の恋人とも、友人になれた。そして、まあ、その人の禁煙だったのもあるし、別に吸う必要もなくなったから、タバコは何となく辞めた。お酒も、今は、ちゃんと味わって飲んでる。」

「恋愛感情が、やっと吹っ切れた、って事ですか。その人がいてくれたから。」
「そうだな。軽い感じで、始め誘われたんだけど、きちんと俺の事見続けてくれて、暫らく、今度は、本当にその人と向き合って付き合えるようになった。見守ってくれていた事、そして、何だろう、恋愛感情とは違うんだけど、愛し続けてくれた事。だから、俺も、その人の事が、好きだった。初めて、誰かと、きちんと向き合って付き合う事を知ったから。」

「恩人みたいなもの? どうして、その人と別れたの?」
「どうして……かな。よくわからない。確かに、俺から、別れを切り出した筈なのに。別れに繋がる様な原因も、特には思い付かない。そういう風に付き合う事がなくなっても、全く縁が途切れたわけでもないし。俺に、今、法規がいる事も知ってる。今回の旅館の券も、その人からなんだ。本当は、その人は、別の人に、贈ろうとしてたらしかったんだけど、その相手が急に、連休に行く事が出来なくなってしまったから、他の人にも、声を掛けてたんだと思うけど、俺にも、声を掛けてくれて、『折角だから、たまには、家から離れて、恋人と旅行にでも行っておいで』って。で、ありがたく頂戴した訳。」

「そうだったんだ。その人が、直哉さんが言ってた、前の彼氏なの?」
「ああ。やっぱり不快? そういうのって。前のオトコの話とかされるの。」
「ううーん。わからない。でも、直哉さんが、その人に出会って、付き合って、それで別れてなかったら、今の俺と、こういう風には、付き合えなかった、って事だよね。」
「まあ、そうだけど。昨夜、俺のオリジナル一点物『月の涙』の事、ちょっと話しただろ? あれが、俺の、始めてのオリジナル一点物で、あの人と付き合ってた時に描いたもの。あの人に、『涙』とかあんまり似合わないんだけど、何だろう、『悲しい涙』じゃなくて、優しくて何かを潤してくれるような涙、みたいな感じかな。思い出として、持っておこうと思ったけど、その人に、『嬉しいけど、恋人に失礼だよ』って言われて、公にしてもいいかなって。」

「そうなんだ。そこまで気を配ってくれるなんて。でも、俺、直哉さんが、それだけ大切にしてる思い出なら、公にする前に、見せてもらいたいな。俺の為に。駄目かな?」
「法規が見たいんなら、別に構わないけど。それで、もし、その人と、俺の事が心配だったら、あの人に、法規の事紹介してもいいよ。一応、知ってるけど、ちゃんと『俺の恋人です』って。」
「嬉しいけど、ちょっと恥ずかしいかも。それに、その人は、嫌じゃないのかな?」
「あの人は、寧ろ、喜んで祝福してくれると思うよ。」

 直哉に、そう言う過去があったって知らなかった。
 実らない想いを抱えているのは俺だけじゃない。
 それはわかっているつもりだったけど、直哉もそうだったんだ。
 それで、それを乗り越えて、今の直哉がいるんだし、直哉は実らなかった想いを別のカタチに変える事が出来た。
 俺にも出来るだろうか。
 そして、俺は、政司に俺の想いは告げなくても、ゲイだという事は告げようと思う。
 直哉が言ってくれた、俺と、政司の為に。



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