暴走書家

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『幹分かつ枝-3-』

 世間一般的な家庭というのはどういうものだろうか。
 勿論、それぞれ、家庭によって事情は異なるだろうし、同性間の兄弟でも、異性間の兄妹でも、話をしたり、しなかったりは様々だろう。
 俺と政司は、同性で、しかも双子で、かなり近い間柄になるだろう。
 それでも俺が、政司に対して話さずにいる事があるのも確かだから、他の家族でもそうなのだろう。

 血縁による関係が何よりも強いとは思わない。
 同じDNA配列を持った俺と政司でも、やはり、ある程度の距離はある。
 そして、妹である千香とは、血の繋がりはない。
 俺達の母親は、俺達が中学に上がる前、つまり小学校の時に病気で亡くなった。
 その後、父と、俺達3人とで、今の家に移り住んだ。

 中学2年の時、俺達の父親と、千香の母親が再婚した。
 千香の父親は、まだ、千香が幼い頃、小学校に上がった直後に、交通事故に巻き込まれて亡くなったらしい。
 だから、千香には、実の父親の記憶は殆どないと言う。
 千香の母親は、女性調香師、いわゆる『parfumeuse』(ちなみに、男性の調香師は『parfumeur』と言う)で、『働く女性』を取材していた時に、父親と知り合ったそうだ。
 千香の名前もそれ自体それ程珍しいものではないが、中国の漢詩などで用いられる『千』とは、『数えられないくらい多く』と言う意味で、それに『香』の文字を付けたのだという。

 そんな千香は、アロマオイルを用いたリラクゼーションマッサージのサロンにエステティシャンとして働いている。
 マッサージとして使うアロマオイルも、香りとして楽しむアロマオイルもどちらも好きらしく、我が家の風呂にアロマオイルが垂らされている事もしばしばだ。

 今の両親が、再婚した年頃は、俺達にしても、千香にしても、多感になっている時だから、初めて全員で会って食事をした時、千香が「普通なら、年下の兄弟が出来る事はあっても、年上の兄弟が出来る事はないから、嬉しい」と、喜んでいたのを見て、俺も気分が、少し和らいだ気がする。

 それぞれが就職して、両親もまだ現役で働いていて、全員が全員で食卓を囲む事は少なくなったが、それでも、それぞれが都合がつく時は、全員でなくても、誰かしらと食事をする事が多い。
 千香の誕生日まで、後、3週間に迫った時、久々に、全員で食卓を囲んだ。

 我が家の誕生日では、その人間の意見を取り入れて、プレゼントをするなり、祝うなりする。
 本人の意向に沿うのが一番だ、という千香の言い分だ。
 だから、当人に何が欲しいのか、尋ねる事になる。
 ちなみに、千香は俺の事を『のり兄』、政司の事を『まさ兄』と呼ぶ。

「千香、もうすぐ誕生日だろ? 今年は何が欲しい?」
 そう尋ねた俺に、政司がすかさず口を挟む。
「どうせ、現金がいい、とか言うんだろ?」
「まさ兄、率直的過ぎる。まあ、率直に尋ねられた方がいいけど。でも、これも、毎年言うようだけど、本当は、現金がいいけど、プレゼントとして、あんまりだから、図書カードにして。」

 そう言う千香は、結構な読書家だ。

「去年は、デパートの商品券だっただろ? どっちにしろ、換金性のいいものじゃないか。」
「いいのよ、それで私が好きなものを買うから。好きな時に、好きな物が選べて最高じゃない。」
「それでもって、自分で稼いだ金を節約できるから、だろ?」
「当たり前よ。生きてたら、いつ何時、お金が必要になるかわからないんだから。貯められる時は、しっかり貯めておかないと。」

「もうちょっと、夢とか見られない訳?」
「夢、って言うか、叶えたい事とかはあるわよ。でも、結局、お金が無いと、叶わない事って多いんだから。」
「千香って、恋人選ぶ時も、そういう感覚なのか?」
「お金に変に意地汚いオトコも嫌だけど、ルーズなオトコはもっと嫌よね。現実を見ないで夢ばっかり追ってるオトコも。ちゃんと現実を見て、向上心を持った人じゃないとね。それと、適度なお金。『愛してるから他に何も要らない』なんて言われたら、速攻冷めるわ。人間、そんな『愛』なんて、霞食べて生きていける訳ないんだから。まあ、そこら辺で言うと、ちゃんと仕事意識も持ってて、ある程度お金持ってて、対等に向き合えるまさ兄とか、のり兄とか、いいんだけどなぁ。」

「対等に、ねぇ。」
「女だからって、下に見られるのも嫌だし、逆に、変に持ち上げられるのも嫌。レディーファースト、とかも、あんまりなぁ。まあ、映画館なんかの、レディースデーとかは、安くなるから喜んで行くけど。」
「結局金が絡むのね。でも、プレゼントって、普段、自分が買わないようなものとか、欲しくないのか?」
「まさ兄に、それ期待してないから。それと、多少は、実用的な方がねぇ。」

「実用的、って、千香、お前、確か、去年は、法規に人体模型とか買わせてただろ。」
「実用的じゃない。大体、人体の構造とか知らなくっちゃ、マッサージなんて出来ないんだから。」
「でも、模型は模型だろ? 実物には敵わないじゃないか。」
「まあ、そうなんだけど、何となく欲しかったから……。のり兄の生理学の本もいいけど、模型は模型でまた楽しい。本当に高いから、自分じゃ買えないのよね。『人体の不思議展』って、本当に楽しかったわ。のり兄が一緒に行ってくれたから、色々話も聞けて。」

「はいはい。俺は、どうせ、千香の役には立てませんよ。」
「やだなぁ。まさ兄。拗ねないでよ。まさ兄はまさ兄で、頼りにしてるから。」

 政司と千香の話が一段落したようなので、そこへ、俺が、プレゼントの話に戻す為、千香に話し掛ける。

「盛り上がってるところ悪いんだけど、千香は、今年は何が欲しいの? また何か別の人体模型でも欲しい訳?」
「あ、えっと、そうね。欲しいと言えば欲しいんだけど、ソッチの趣味とは、ちょっと離れたものにしようかな、と思って。あのさ、のり兄って、仕事で仕事の本読むようになってから、疲れるからって、それ以外の本って、読まなくなったでしょ? でも、いつだったかな、珍しく、普通の本読んでたじゃない?」
「普通の本?」
「覚えてない? 『海の底の底』って本。」
「ああ、あれか。それがどうしたんだ?」
「私もね、持ってるのよ、あの本。まあ、いつもの如く、本屋の中をうろついてて、あの表紙が目に付いて、手に取ってみて、面白そうだから、買ったの。実際、面白かったし。それで、色々調べてて、あの表紙のイラストレーターさん、去年辺りからかな、カレンダー出してるのよ。ネット通販してるし、それにしてもらおうかなぁ、って。」

「カレンダー?」
「うん。私、あんまりカレンダー見ないんだけど、カレンダーとしても使えるし、それが終わっても、絵として楽しめるから。」
「へえ、千香って、ああいう絵が好きなんだ。」
「元々、絵自体は、それ程知ってるわけじゃないし、有名な画家でも、シュルレアルズムの『サルバドール・ダリ』とか『ルネ・マグリッド』とか、それ以外では、『マウリッツ・コルネリス・エッシャー』みたいのが好きなんだけどね、それとは全然違うんだけど、なんか好きなんだなぁ。」

「で、ネット通販ってHPとかあるの?」
「HPはないわ。ブログがあって、そこで、お仕事情報とか載ってるから。通販も、委託してるしその情報も、載ってるはず。あ、でも、そんなに部数刷る訳じゃないみたいだし、私が去年知った時は、もう売り切れてたから、早めに気付いて頼まないと駄目だと思う。」
「それを、俺にしろと?」
「いや、私も、一応チェックしとくけど、のり兄もお願い。」
「わかったよ。」

 ああいう職業って、こういう風にファンがいてくれるからやっていけるんだろうな。
 千香が言ったように、夢を見ているだけじゃ駄目だけど、自分の作品が売れるか売れないか、ある種賭けのような人生もあるからな。
 絶対的に安定した職業がないのも、わかっているだろうし。

 まあ、それは、人間関係でも同じか。
 『安定』する事を求めても、それは、『安定』する事が、あるんだろうか。
 一見、安定しているように見える我が家でも、崩れるかもしれないし、変わって行くかもしれない。

「誕生日当日は、千香、どうするんだ?」
「仕事は抜けられないからなぁ。彼氏もそこら辺、仕事忙しいって言ってたから、まあ、一応、会って、夕食食べて、プレゼント貰って、終わり、かな。」
「……因みに聞くけど、彼氏に、何貰う訳?」
「んー。今、興味があるアロマオイルを何点かピックアップして、買う店も指定して、リストで渡してある。」
「わかってたけど、本当に、千香の実用的なものだな。」
 政司が、半ば厭きれたように言い放つが、千香は一向に気にしていない。

 千香のこう言う強い部分は見習いたいところもあるが。
 決して、負けているつもりはないが、俺も、政司も、千香に勝てるとは思わないし、まあ、勝負しようとも思わないが。

 双子の政司とも、血は繋がっていない千香とも、家族だと思う。
 それに付加された、政司への想いは、どうなっていくのだろう。



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