暴走書家

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『幸せのカタチ-3-(完)』

「頭で考えるのもいいけど、考えても、どうしようもない事ってあるよ。……でも、幸生は考えてしまうんだね、どうしても。」
 雫は、少し悲しそうに微笑みながら、俺にそう話した。

「考えても仕方がないのかな、やはり。」
「仕方がないのとは、少し違う。でも……」

 その先を、雫は何も話さなかった。
 俺も、その続きの言葉を尋ねなかった。

 俺は、自分の生い立ちを雫に話していた。
 同情が欲しかった訳ではない。
 ただ、何となく知っておいて欲しかった。
 雫は、そんな俺の話を、静かに聞いていた。
 話を終えた後も、何も話さなかったし、俺も、雫がどう感じたのか尋ねなかった。
 尋ねても、やはり答えは返って来なかったと思う。

 代わりに別の事を尋ねた。
「雫、『幸せ』って、何だろう。」
「……それは、人それぞれが、感じる事だから、明確な定義なんて、ないと思う。」

 それは、俺も、何となくわかっていた事。
 それでも、どうしても発してしまう問い。
 俺が、逃れる事の出来ない、その『幸せ』を求める『カタチ』。
 『カタチ』なんて、きっとどこにもない。
 けれども、それを欲してしまう。

 求めても、求めても、手に入れることの出来ない『カタチ』。
 だから、より一層、それを求めてしまう。
 叶わないなら、叶うものを、叶う『カタチ』で。

 そうして、雫のカラダを求める。
 雫が、応じてくれるから。
 そこに感じる、快感だけではない、雫の優しさ。

 雫の口付けを、雫の愛撫を受けて、快感に喘ぐ。
 よりもっと、もっと、深く、抱いていて欲しい。
 今は、そう、今は。

 雫のペニスをアナルに受け入れて、よりリアルにその存在を感じる。
 抽挿されて、突き上げられて、抑えられない、抑える必要もない、溢れ出てくる様な快感を。
 それが、雫によって、もたらされているものなのだと。

「…あ……あぁ……ん……雫……イイよ……もっと……」

「幸生……」

 溢れ出てきても尚、満たす事の出来ない飢え。
 渇望して、求められるだけ求める。

 それでも、少し充足しているのは、雫がいるからだろう。
 『飢えを満たす事が出来ない』
 雫にもしそう言ったのなら、雫は、きっと、笑って、こう答えるだろう。
 「満たされてしまったら、それ以上、求める事が出来ない。」と。
 だから、本当は、少し飢えていた方がいいんだ。

「あ……はぁ……んん……ぁ……雫……イく……」
「イイよ……幸生……もう……私も……」

 突き上げられながら、ペニスを扱かれて、放った。
 そして、雫も、俺が締め付けたアナルの中で、射精を迎えた。

「雫……もう少し、このまま、抱いていて。」
「うん。」

 射精して、萎えても、ある程度の存在感は感じる事が出来る。
 重なった鼓動が、次第にゆっくりと規則的にリズムを刻んでいく。
 まるで、時計の針のように、時が流れていくように。
 実際に、時は経過していっているんだけれども。

 暫らくして。
「ありがとう。もう、これ以上していたら、また、欲しくなっちゃう。」

 雫は、ペニスを抜いていったけれど、こう言った。

「でも、まだ足りないのは、本当でしょ? 幸生、来て。」

 雫の求めに応じて、俺も雫を抱いていく。

「…あ……あぁ……ん……幸生……」

 俺は、どこへ行くのだろう。
 雫、俺は……。
 きっと、雫の元へたどり着く事は出来ない。
 こうして抱いていても。

 雫は、決して、俺の肌に跡を残さない。
 俺は、雫の肌に、キスマークを一つ残した。
 雫の白い肌なら、それは、よく映えるだろう。
 まあ、目に付くところには付けなかったが。
 やがて、消えるきえるだけど、1つの『カタチ』として、それが欲しかった。

 そして、『恋人』としての、『カタチ』をさらに『カタチ』としたかった。
 俺に指輪を、雫にはタイピンを。
 シンプルなシルバーなものに、刻印をのせて。
 その刻印を、選んだのは雫。

 『S&S&L』

 それが、何の意味なのか、俺にはわからなかった。
 雫に尋ねると、半分冗談めかして『Sweet Sex Life』と答えが返ってきた。
 多分、他に、何か意味があるのだろうが、雫は教えてくれなかった。

 その頃には、俺が、ゲイで恋人がいる事は、ほぼ、公になっていた。
 あからさまにではないが。
 それが、好奇な目だとしても、『恋人とはどうなのか』と問われれば、『上手くいっています』そう答えられるようになっていた。
 ただ、相手が、雫である事は、明かさなかったが。
 『恋人』としての『カタチ』が世間に公になった。

 モデルとしても、ほぼトップクラスとして活躍しており、その後の転身についても、暗い影はなかった。
 業界での『名声』と言う『カタチ』もしっかりと充実していた。

 活躍して、稼ぐ事が出来れば『金』と言う『カタチ』も、文句の付けようがなかった。

 世間からして、羨まわるだろうその『カタチ』。
 『幸せ』になる為に求めたその『カタチ』が十分過ぎる程満たされている。
 それなら、もう、いいのではないかと思った。
 これ以上もう。
 そして、今なら……いや、今しか。

 世間に認められても、その『カタチ』がしっかりしていても、俺は、それを『幸せ』だと感じる事が出来なかった。
 逆に、追い詰められた。
 もう、いいのではないかと。
 『幸せ』に『生きる』『カタチ』が見つからない。

 だから、俺は……。

 ああ、でも、雫と共に過ごした日々は、やはり『幸せ』だったと思う。
 俺が、『愛した』雫。
 その雫に『愛された』俺。

 その、『幸せ』にも『愛』にも『カタチ』はなかった。

 『カタチ』として、持った筈の指輪にも、タイピンにも、もう、何の意味もなかった。

 『生きる』『カタチ』をもう選べないから。
 『死ぬ』『カタチ』しか。
 いや、そこに、『カタチ』はあるのだろうか。

 『別れ』の『カタチ』も。

 付き合ってから、3ヶ月しか経っていないけど、それまでの30年間よりずっと、俺にとって、濃密に『生きて』来れた気がする。

 ごめんなんて、謝れないし、謝らないよ。
 それが、相応しくないと感じるから。
 雫は、きっと微笑んで見送ってくれる。
 俺は、雫に色々話したけれど、雫の事は、殆ど知らない。

 それでも、誰よりも、愛してた。

 俺が、マンションを買っても、殆ど何も置かなかったのは、『死ぬ』為の準備をしていたから。
 『死ぬ』時が欲しかった。

 俺は、雫へ、手紙を送った。
 最初で、最期の手紙。

 『雫へ

    ありがとう
   
          幸生』

 たったそれだけの言葉。


 そうして、俺は、首を吊った。


************************************************


 世間から見て、順風満帆だった筈の、彼、橘幸生の自殺を、誰もが、不思議がった。
 『自殺』する『理由』がどこにも見当たらないから。
 騒ぎ立てても、いずれは、忘れ去られていくだろう。
 彼が求めた『存在』も『カタチ』も、もう今はない。
 雫が手紙を見て、彼の元へ向かった時は、既に、絶命した後だった。
 今回は、たったの3ヶ月だけれど、雫が目の前にした2度目の『恋人』の『自殺』だった。
 この事実は、雫以外、誰も知らない。
 誰にも話す気はない。

 そして、あの指輪もタイピンも、彼の死と共に、始末した。

 『S&S&L』

 それは『Secret Sweet Lie-秘密の甘い嘘-』
     『Soon Spell Liberate-早い呪縛の解放-』

 そして並び替えて『Selective Last Sleep-選択した永眠』



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