暴走書家

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あるバーのシリーズ(歯車)

 時はどんな事をしていても過ぎていく。
 そいつがいなくなっても、やっぱり俺は生きていこうという現状があって、死の淵に引きずられながらも俺は生活していった。

 大学の勉強も忙しいし、家事もしなくてはいけないし、バイトもしなくてはいけない。
 そうやってしなくてはいけない事を詰め込んで空虚感を埋めていった。
 店にも顔を出すようになっていた。
 やっぱりどうしてだろう、俺はどこか死を覗き込んでいる人を求めてしまう。
 お前もそうだったな。
 だから気になったんだ。

 俺はお前を誘った。
 お前は簡単い着いて来たよな。
 お前は誰でも良かったんじゃないか?
 誰かに求めて欲しいと思っていたんじゃないか?
 俺は求められるままにお前を抱いた。
 そのまま離す事なんて出来なかった。

 お前は何を求めているんだ? そう尋ねた。
 自分でもわからないと言ったよな。
 一人でいるのは嫌いじゃない、寧ろ好きな方だ。
 けれど、時に他人を求めてしまうと。

 それは俺もわかるような気がした。
 だから、店に来て酒を飲んで相手を探す。
 俺は、またお前と会って話がしたかった。
 また会いたいと言ったら迷惑か? と尋ねたら、別に、と答えたよな。

 誰でも良いって事は、俺でも良いって事なんだろうな。
 でも、その時の俺にはそれくらいのお前の方がちょうど良かったんだ。
 相手が欲しくなったら、連絡をくれ、と言って携帯の番号を交わした。
 連絡があっても、無くってもそれで良かった。
 だけどお前は俺に電話をして来たよな。
 その時は嬉しかったよ。

 何とか俺自身の予定を調節して、お前に会う時間を作った。
 出会った店で落ち合って、また一緒にホテルに行った。
 セックスをして、一息ついた後、色々話したな。

 私生児で生まれたときから、両親の顔を知らず、施設で育ったと。
 やっぱり愛情にどこか欠けているんだな。
 施設にいながら、高校に通って、一旦は企業に就職したけど、小さいながらもベンチャー企業を起こして今は成功していると。
 成功したもののやはり、幸せがどこにあるかわからないと。
 幸せかどうかなんて無理して考える必要なんか無いんだよ。

 例え金を持っていたとしても、幸福になれるとは限らない。
 そりゃあ、金があれば満たせるものもあるさ。
 でも、満たせないものも、この世にはいっぱいあるんだ。
 全てが満たされたらつまらないじゃないか。

 お前は生きてるんだ、その事実を見つめてくれ。
 どうか、生きている事から逃げないで。
 それが出来なかった人間を俺は知っているから。
 俺達は、死の淵に立ちながらも、ぎりぎりのところで生きていけるんだ。
 人は死から逃れる事は出来ない。
 それは残酷な事だ。

 しかしありえないけれど、永遠に生きる事もまた残酷ではないのか。
 どうやってかは知らないけれど、いつかは死ぬ。
 生き急ぐ必要なんてどこにも無いんだ。
 『生き急いでるように見えるか?』そう聞いてきたな。
 俺にはそう見えたよ。
 一人で何かを抱え込んでいるように見えた。

 親も知らず、友も知らず、恋人も知らず。
「抱え込んでいるのか、それすらもわからない。俺は今生きていることが不思議で、じゃあ、なら死ぬのか、と言われるとそうではない。感情がある種欠落しているんだろう。」
 感情の欠落。
 お前は何もわからないまま、ただオトコのカラダを求め一時期の快楽に身を任せて生きている。
 生きているから、快楽を感じられるんだよ。
 じゃあ、無くなったらどうかっていうと、それはそれで、俺もお前もどうでも良いんだろうな。
 おかしいよな、そんな俺とお前がセックスをしてるんだから。

 けど、こうやって話してる時はそれはそれで良いんじゃないか?
 お前が誰にも話せなかった部分、何でも良いから話してみろよ。
 今すぐじゃなくて良いからさ。
 そうしながら、何度か会って、セックスをして、ポツリポツリと話をしてくれた。
 その話は何の脈絡も無いものだったけど、それでよかった。
 こんな風にセックスをしても、今まで話しをした事は無いと言った。

 俺は不思議な人間だとお前は言ったけど、そんな事は無いよ。
 俺は無力なただ一人の人間だ。
 こうやって過ごしても、恋人にはなれなかったな。
 それはそれで良いと思ってる。
 お前が生きる道を見つけてくれたから。

 一年にどれだけの人間が死んでいっていると思う?
 しかも自殺で。
 決して少ない数じゃない。
 あいつはその中のたった一人なんだ。

 それより多くの人間が今生きている事は事実だ。
 俺もお前もそんな中の一人。
 ちっぽけな一人の存在なんだ。
 それでいいじゃないか。

 そんなお前が、一人のオトコを連れ、俺に紹介してきたとき、俺は正直に嬉しかったよ。
 その人と付き合ってみる事にしたと。
 その人に、俺のことは友人だと紹介してくれたよな。
 それで良かったんだ。
 俺がお前ともう寝ることは無いだろうけど、友人としてやっていけるよな。
 お前も、恋人の事を大切にしろよ。
 そしてお前自身の事も。

 お前の中でその人に出会って新しい歯車が回り始めたんだろうな。
 その時のお前の顔は幸せそうに見えたよ。
 ああ、これで、お前は生きていける、と思った。

 俺の中でも確実に時は刻んでいく。
 俺は、まだ大学で勉強を続けたかったから、院に進んだ。
 卒業までは続けようと思っているホストのバイトもしている。
 恋人を見つけるきっかけは出来なくって、お前と寝なくなった後また同じようにセックス込みの友人が出来た。
 何でか、俺はその場限りのセックスが出来なかった。

 友人に収まれるのは俺の人徳だ、と言われたけど、俺自身自覚が無い。
 そして、そういった友人関係が俺も嫌いじゃなかった。
 無事、博士号を取り、勧められるまま、俺は大学の教室に居座ることになった。
 まあ、俺自身が懸命に勉強してきた事もあるんだろうけどね。
 大学で研究を続け、法医学者として、実地で検死も行った。

 忙しい生活だったけれど、それなりに充実していた。
 色んな意味での友人と話せる時間は作る事が出来たし、大学の教室では、上官の教授が趣味でやっている将棋の相手もしたりしていた。
 俺は、大学に入った頃から、自分がゲイだという事を隠そうとはしなかったし、上官もそれを承知でいるから、かなり気楽なものだ。

 普通の世界での友人はそんな俺を気にしない人に限られていた。
 それぞれ専攻する道は別れてしまったけれど、お互い医者として忙しくしながらも、年に数度は時間を作って飲んだりしていた。
 就職してしばらくして、俺は1年アメリカの大学の教室に留学する事になる。
 その時、近くに以前、俺が写真を取ってもらった写真家がいるから、という事で、愛人に紹介してもらった。
 久しぶりに会うその写真家は、相変わらずだった。
 昔撮った俺の写真集を見せてもらったけど、自分が自分で無いような感じがした。
 その写真家の案内で俺はその写真家のよく行く店に顔を出した。
 どこの国にいても、飲み場っていうのは良いものだ。

 アメリカでも数人の友人が出来た。
 あの写真集は結構評判が良かったらしくて、モデルだと言うと、興味を持ってくる人間が結構いたのだ。
 その写真家が、自分で写真集を持ってきて宣伝するものだから、その写真集を知らなかった若い子も話しに食いついてきた。
 再版でもするつもりだろうか、この人は、と思うと笑えて来た。

 この空間で、俺を知らない人間たちにも、俺は受け入れられているんだ。
 受け入れてくれる場所があるのは嬉しいと思う。
 俺は、密かにバーでも開こうかと思っていた。

 その為の資金繰りなら何とかなるだろう。
 寂しい人たちが迷わなくって済むバーを。
 俺自身が行って安らげるバーを。


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