暴走書家

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『星降る言葉-2-』

 会ったのが、他の場所だったら、何の迷いもなく挨拶を交わしているだろう。
 業界人として、顔見知りとして、当然の礼儀だ。
 その場合は、俺から挨拶に行くべきなのだろうか? それとも向こうから?
 年齢はともかくとして、業界人としては、俺の方が先輩になる。
 局内等の廊下ですれ違うなら、向こうから挨拶をしてくるものだろう。
 ただ単に、見つけてしまったら、見つけた方から、挨拶するべきなのだろうが。

 けれど、このゲイバーと言う特殊な場所で、果たして挨拶を交わすべきなのだろうか。
 気付いてしまったとしても、お互い、見知らぬ振りをしても失礼には当たらないだろう。
 お互いが、ゲイだと言うことを、暗黙のルールの上において、見知らぬ振りをすればいい。

 立場を理解しているからこそ、向こうは俺に話しかけてきたりしないだろう。
 しかし、俺は、成澤と言う男と話をしてみたかった。
 ここに来たのは、遊ぶ為だったけれど、それは、どうでもよくなっていた。
 もちろん、話をするのに、この場である必要性などない。
 仕事に関するの話をする上でなら。

 それでも、もしかしたら、話を続けていく上で、この場ではないと出来ない話になってしまったら?
 何をどう話すか、話の展開上どうなるのか、そんな先の事、まるで考えていなかった。
 成澤は、俺の作品を観てると言った。
 そして、その上で、俺にあの役を推してきた。
 まだ名の売れていない成澤に配役権など与えられていないだろう。

 成澤自身もその事は、わかっているはずだ。
 それなのに、わざわざ、俺を、と指名してきた。
 そして、その意見が通った。
 そこには、様々な関門があったはずだ。
 もちろん、俺自身が断る可能性も含めて。

 メリットとデメリット。
 ある程度、人は、それを考えて行動しているだろう。
 そして、それは、ある一つの物事に対して、どちらか一方のみ備わっているという訳ではない。
 メリットとデメリットの配分を見分けるのが難しいのだ。
 よく考えた結果行動したとしても、デメリットの方が大きくなってしまう場合もある。
 メリットのみの上手い話など転がっているはずもない。
 しかし、それならば、デメリットしか見えない事でも、その中に、メリットを見出せることが出来るのではないだろうか。
 それが上手くいく保障もないが。

 そう、全てが保障されている訳ではない。
 人生において何も。
 それならば、思った時に、行動してみるのも一つの手ではないだろうか。
 頭の中で考えているだけでは、何も解決しないこともある。
 もちろん、自分自身の中で解決しなければならない問題もあるだろう。
 しかし、その場合においても、外部から、何らかの影響を全く受けない事もないだろう。

 俺は、成澤に歩み寄り、話しかけた。
「こんばんは。よろしいですか? 隣、座らせてもらっても。」
「え、ああ。私は構わないけれど。」
「じゃあ、お言葉に甘えて失礼いたします。」
「まさか、話し掛けて来られるとは、思わなかったですよ。」
「迷惑でしたか?」
「いや、そうではなくて、その、川島さんの方こそ、迷惑ではないかと。」

「俺が、嫌なら、話し掛けたりしません。」
「まあ、そうですが、私の方は、大して名前も知られていませんし、どちらにしろ、公に顔を晒す立場の職業ではないですが、川島さんは、有名でいらっしゃいますし、顔も知られているでしょうから。」
「一応、そこら辺は、気を付けているつもりです。それほど色んな店に顔を出すわけでもありませんし、相手も、選んでいるつもりですから。」

「それでも、世間に知れ渡ってしまう可能性だってあるでしょう。マスコミがどこに潜んでいるかなんてわかったものじゃありませんよ。」
「確かにそうですけど、だからといって、家に閉じ篭ってばかりいるわけにもいかないでしょう。」
「まあ、それはそうですが。その……ご両親や事務所の方は知っていらっしゃるんですか? 貴方が、ゲイだって事を。」
「いえ、知らないはずだと思います。言った事もありませんし。もし、マスコミにばれたらどうなるでしょうね。」
「さあ、どうなんでしょうね。実のところは。」

 ニューハーフが取り扱われる番組もある。
 だが、あくまでも、ニューハーフはニューハーフで、娯楽の対象でしかない。
 テレビに出演するニューハーフ達は、それを、覚悟の上で、出演しているのだろう。
 彼らは(彼女らは、と言った方が正しいのか)、それでも、それなりに真剣なのだ。
 けれど、その真剣さを、受け取ってもらえる事はない。

「あの、こういう場所で悪いんですが、仕事の話をさせてもらっても良いですか?」
「ええ、はい。」
「成澤さんは、俺の作品を観てくださったと仰いましたが、俺は、申し訳ないですが、成澤さんの作品の事を知らないのです。」
「私は、そんなに沢山書いている訳ではないですし、それ程有名なものではありませんから。」

 そういって、挙げられた数品の作品の中には、知っているものもあれば、知らないものもあった。
 知っているものでも、今回の映画の作風とは異なったもののように思える。

「失礼ですけど、今、お幾つでいらっしゃいますか?」
「つい最近、27になったばかりです。始めは会社勤めをしながら、劇団の脚本を書かせてもらってたんですが、その中で、ちまちまと、シナリオコンクールに応募していまして、賞をいただいて、実際この業界に入りました。」

 俺が、今、25だから、2歳年上、という事になるのか。

「元々、目指していらっしゃったんですか?」
「脚本ではなくても、何か想像したり、書くのは好きでした。実際、本格的に始めたのは、大学生の頃ですね。影響を受けたものは、色々ありますが、殆ど独学です。一応、プロを目指してはいましたが、実際になれるか、そして、通用するかわかりませんでしたけれど。もし、今プロになれてなかったとしても、書き続けていたとは思いますけど。」

 独学で、果たしてどこまでやれるものなのだろうか。
 もちろん、認められたからこそ、今現にこの業界にいる。
 詳しくはないが、シナリオスクールに通った方が、現場へのパイプ、関係者のコネは得やすいはずだ。
 まあ、実際通ったからといって、必ずしも、認められ、コネが得られる訳ではないが。

「映画は初めてで?」
「ええ。制作会社に売り込みをかけて、プロデューサーに認めていただいたので、今回の企画が通ったのです。」
「でも、それが認められたとしても、配役権が与えられるわけじゃないでしょう。」
「それは、駄目で元々、でしたが、何もしないでいるよりましでしょう。多少強引に迫ったとしても。」

 確かにそうだ。
 何もしないままでは、意見も何もない。
 自ら売り込むだけの実行力と強引さがなければ、例え実力があったって、埋もれたまま開花する事はない。
 そしてまた、芽が出たとしても、それを評価してくれる人間がいなければ、どうにもならない。

「でも、それだったら、何で、俺だったんですか? 俺の作品を観られたならわかると思いますが、今まで、俺が演じてきた役柄とは、まるで違うはずです。」
「単に、好みだったから……とは言いません。それ程、演技に詳しい訳ではありませんが、演技力は、あるとは思います。違ってたらすみませんけれど、どこかで、葛藤しているような……川島さん自身が、違和感を感じているような……ああ、言葉を扱ってるくせに、上手く表現できませんが、今回、私が、描いた青年を演じてみて欲しい、と思ったのです。」

 成澤が指摘したことは、当たっている。
 他の誰もが、俺に重ねなかったイメージを、このオトコは持っている。
 それを、見抜いてくれたのは嬉しい。
 しかし、同時に、怖くもある。
 俺が……俺自身が見透かされている。

「成澤さんが、仰っられた事は、当たっていると思います。俺は……俺は……。」
「すみません、ご気分を害されましたか?」
「いえ、そうではないです。」

 成澤は、俺にどんなイメージを抱き、あの青年像を、俺に求めてきているのだろうか。
 そして、俺は、俳優として、その青年を演じきる事が出来るだろうか。
 ただ、何にせよ、世間が押し付けてきている、俺へのイメージを、壊そうとしていることは確かだ。
 それを、何となく俺は願っている。
 その契機(きっかけ)を、与えようとしてくれている、成澤というオトコ。

「貴方が、俺の事、好みだって、言ってくれたのは、本当ですか?」
「え?」

 俺は、全く経験がないわけじゃないし、実際、不可能ではないだろう。
 それでも、基本的にタチしかしない俺だけど、この成澤に抱かれてみたいと思う。

「抱いて欲しい……って言ったら、迷惑ですか?」
「いや、あの、それは、えっと……。」
「それとも、俺相手じゃ、その気になりませんか?」
「川島さんこそ、私で良いんですか?」
「良くなければ、誘ったりしません。」

 両親も、業界での立場も、そして、俳優としての俺も、全て脱ぎ去って、俺の事を見て欲しい。
 その結果、俺に幻滅するような事になったとしても。

「川島さんは、確か、ご両親とご一緒でしたよね。」
「ええ。この年で恥ずかしいんですが。」
「では、もしよろしければ、私の家へ。あんまり片付いてはいませんが。」
「はい。それで構いません。」

 駅前まで歩いて出て、タクシーを拾って、成澤の家へ向かった。
 成澤の住むマンションは、簡素な物だった。
 まあ、でも、オトコ独りで暮らすには、この程度でちょうど良いのだろう。
 部屋は、決して乱雑ではないけれど、寝室に行くまでに通った、部屋には、パソコンと沢山の本が本棚から溢れ重ねられていた。

 シャワーを借りて、寝室のベッドに腰掛け、成澤がやってくるのを待つ。
 寝室には、テレビと、大量のDVDが並べられていた。
 そのDVDの中には、俺が出た物や、成澤が脚本を書いたものも混じっていた。
 DVDを漁っていると、成澤が、シャワーを浴び終えて、やって来た。

 一人用では、ゆったりと眠れるだろう、セミダブルのベッド。
 体躯のいい、成澤には、これくらいでちょうどいいだろう。
 だが、オトコ二人の重さを受けて、僅かにベッドが軋んだ音がした。

 重ねられた唇と唇。
 成澤の舌を受け入れるのと同様に、成澤の口腔に舌を差し伸べて、絡ませ合う。
 唾液を含んだその水音が、静寂の部屋に静かに響く。
 差し入れた舌を吸い上げられて、甘噛みされた。

「……ふ……ん……」

 乳首を、摘み上げられ、快感が走る。
 その上、唇で、歯で、弄られて。

 お互いの昂ぶったペニスを、重ね合わせ、擦り上げていく。
 そして、成澤のペニスを深く口に含み、その硬さを味わう。
 ペニスから、口を離すと、成澤がローションを手に取り、俺のアナルに指を這わせてくる。

「あの……成澤さん……ソッチ、あんまり、慣れてないんで……」
「え? そうだったんですか? 私は、どっちでもいいですけど、変わりましょうか?」
「いえ、無理ではないんで、そのまま……」
「わかりました。でも、無理そうだでしたら、言ってください。」
「はい。」

 それから、ゆっくりと、指が挿入されてくる。
 多分、俺が、慣れてないと言ったから、かなり気を使ってくれているんだと思う。
 時間をかけて、十分解されて、指が抜き去られていった。
 そして、代わりに、ゴムを付けた、ペニスが、あてがわれる。

「く……う……ん……」
 指で解されたとはいえ、その重量の違いは、やはり、少し、きつかった。
「川島さん、大丈夫?」
「え、あ、はい。そのまま……」
 先端を飲み込み、奥まで挿入されてしまうと、幾分、楽だった。

 俺の、カラダのこわばりが解けるのを待って、成澤は抽挿を開始した。
「う……ぅん……ん…は……」
 抽挿のリズムに合わせようと、大きく息を吐き、力を抜こうとする。
 成澤も成澤で、俺がちゃんと感じられるように、突き上げてくれる。

「あ……ああ……は……あぁ……」

 ペニスにも手を添えられて、擦り上げられていく。
「どう? イけそうですか?」
「ん、はい。もうちょっと……」

 そのまま、更に両方から刺激されて、達した。
 俺が、達するのを待って、後から、成澤も。
 成澤のペニスが、抜き去られた後も、多少違和感があったけれど、充足感の方が溢れていた。

「どうされます? 帰れそうですか? 家は、泊まってっても、構わないですけれど。」
「すみません。お言葉に甘えさせていただいて、良いですか。」
「多少、ベッドが狭くても構わないなら。」
「大丈夫です。俺、寝相良いから。」

 もう一度、シャワーを借りて、戻ってみると、きちんと、シーツを張り替えられた、ベッドに横になった。
「明日は? 仕事、大丈夫なんですか?」
「6時に、目覚まし合わせてくれると嬉しいです。」
「わかりました。」

「あの……また、お邪魔させてもらってもいいですか?」
「私は、構わないけど……」
「けど、なんですか?」
「いや、嬉しいんですけどね。川島さんの方が……」
「マスコミには、気取られるようにしませんから。」

 でも、実際、マスコミにばれた時、どうなるだろうか。
 成澤は、俺を巻き込みたくないと思っているだろう。
 俺も、成澤を巻き込むような真似だけはしたくない。

 クランクインまで、まだ間がある。
 俺は、俺を知らなければ。
 成澤が、何らかの契機(きっかけ)を与えてくれるような気がした。
 そして、映画が成功すれば、成澤にとっても好機(チャンス)だ。
 それを潰したくはない。



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