暴走書家

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『星降る言葉-1-』

 俺は、自分の中で、どこかに限界を感じていた。
 両親の影響で入ったこの世界。
 それでも、『親の七光り』と言われるのは嫌で、それなりに頑張ってきたつもりだ。
 親譲りのその容姿。
 顔だけで売れていると言われたくなかった。
 俳優として、演技力も磨いてきた。

 演技をする事、それが嫌だった訳じゃない。
 ただ、その絵空事の空虚さが、俺を襲っていた。
 それに加えて、両親の名声と、俺の見た目の良さに集まってくる人達。
 その事が、余計に俺自身、俺の本質を見失い事に繋がっていた。

 オンナにも、オトコにもモテてたけれど、一体、俺の何を見ていたんだろうか。
 残念ながら、俺はゲイだったから、オンナに興味を示す事はなったが。
 それでも、ドラマの世界では、女性相手に愛のの台詞を囁く。
 男相手でも、白々しいと感じているその台詞たちは、女相手では、余計にその度合いを増す。

 中には、ドラマで共演した事が契機(きっかけ)で、付き合うようになって、結婚まで至るカップルもいたが、俺は、そこまで役に入りきる事が出来なかった。
 役作りは勿論するし、共演者との仲を悪くする気はない。
 それに、カメラが回り始めれば、演技に集中する事は出来た。

 ある役を演じれば、何となく、俺自身にもそのイメージが付いてしまう。
 そうすれば、次に求められる役柄も、似たようなものになってくる。
 皮肉な事に、俺に求められたのは、俺が最も苦手とするものだった。
 ゲイでも、オトコとの恋愛にさえ、冷めていた俺が、女相手の恋愛物を演じる。

 勿論、それ以外の役を演じる事もあったが、圧倒的にそれが多かった。
 俺自身は、どっちかというと、アクション系のものが好きだった。
 長期間に渡るような撮影はハードだったし、その為に、カラダを鍛えるのは嫌いじゃなかった。
 そうして、思い切りカラダを動かすアクションは、俺の中では、どんな演技よりも熱が篭っていたと思う。

 それでも付いて回る、両親の名声と、俺自身しっくりこ来ない、俺へのイメージ。
 限界を感じながらも、この世界から離れる事は、もっと考えられなかった。
 だから、二世タレントと呼ばれようが我慢した。
 きっと、俺自身の実力も足りないのだろうから。

 俺みたいに何のコネも持たない人間が、この世界で生き残っていくには、必死で努力しているだろう。
 どれだけに人間が、この世界に憧れ、実際デビューすることが出来、活躍出来るのだろうか。
 この世界に憧れ、目指しても、デビューする事のない人達。
 デビューできても、一瞬にして忘れ去られていく人達。

 俺は、この世界で、何とかまだ生き残っていられるけれど、それがいつまで続くかは、本当はわからない。
 世間の人間が、俳優としての俺を、どれだけ認知してくれているだろう。
 両親の名声と、若さとルックス、それだけに安住して、いつまでも、やっていられる訳もない。

 そして、この世界を去らなければならなくなった時、一時でも、そこにいられたのが、その為だとは思われたくはなかった。
 それを払拭するには、やはり、俺も努力をし続けなければならない。
 その為には何をしたら良いのか?
 今の俺は、それを掴めずにいた。

 そんな時、ある映画の出演を打診された。
 映画の概要を書いた紙を手渡され、マネージャーにこう言われた。
「もし嫌だったら、断ってもいいんだよ。」
 それは、暗にマネージャーや事務所自体、あまり乗り気の話ではない事を意味していた。

 監督は、そこそこ有名な映画監督だ。
 脚本家の名前は、目にした事がない名前だった。
 勿論、数多くいる脚本家の全てを俺が把握している訳ではないが、少なくともそんなに名の通った、人物ではない。

 一応恋愛物らしい。
 『箱庭の外側』題名は、そう名付けられていた。
 しかし、今まで俺が演じてきたのとは、全く違った役柄だった。
 人妻に恋焦がれ、その禁忌に葛藤しながらも、真摯に愛の言葉を投げかけ続ける。
 その若い情熱に一度は、(なび)きかけるが、人妻も、夫と、若者の間で揺らぎ、結果としては、若者を捨て、夫の元に戻る。
 捨てられた若者は、その精神的ショックから、現実に向き合う事が出来ず、心の病に陥り、病院での生活を余儀なくされる。
 けれど、戻ったはずの夫との関係にも、疑問を感じ始めた人妻は、夫とも決別し、一人の女性として、生きる決意をする。

 その若者の役が、俺。
 精神病院という『箱庭』での生を送る事になる、若者と、家庭と言う『箱庭』の外に出て、自立していく女性。
 恋愛を基にしながら、女性の自立をテーマにした映画だ。

「これ、一応、有名な監督の作品ですよね? 断っても良いんですか?」
「君に、この役を、と推してきたのは、脚本家の方なんだ。一応、新進気鋭の脚本家ではあるが、まだ、力を持っている訳じゃない。それに、君へのイメージもあるし……。」

 俺のイメージ。
 確かに、俺のイメージと、この若者のイメージは今までの俺のイメージとは違う。
 その脚本家は、何を見て、俺にこの役を推してきたのだろうか。

「俺はまだ若いし、未熟です。もし、何かに挑戦できる機会があるのなら、やってみたいです。」
「そう? でも……。」
「お願いします。例え、脚本家が有名ではなくとも、しっかりした監督が付いているのでしょう? これは、一つの好機(チャンス)ではないですか。」
「まあ、好機rp>(チャンス)に繋がれば良いけど。」

 しぶしぶといった感じではあったけれど、それ以上は反対されなかった。
 そう、これが好機(チャンス)に繋がれば……。

 後日、映画の件を承諾したという事で、監督に挨拶に出向いた。
 本人に会うのは初めてだけど、何作か観た事もあるし、その顔も、知ったものだった。
「君の父親の事は知っているが、君自身の事は殆ど知らない。世間的評判程度にしかね。そんな君を使うと言うこともあるし、脚本家もまだ名の知れてない人間を使うことになる。私にとっても、ある種の賭けになる作品だ。厳しくなるかもしれないが、よろしく頼むよ。」
「はい。よろしくお願いいたします。」

 監督自身が、賭けだというその作品に、俺は、どれだけ答える事が出来るだろうか。
 厳しさは、受け止めなければならない。
 それは、俺自身の為にもなるだろうから。

 それから、俺を推したという、脚本家にも会った。
 文章書きだというから、ひょろっこい人間を想像していたが、中々精悍なオトコだった。
 年は、俺より少し上くらいだろうか。
 俺とは違って、その能力のみで、この世界に入ってきたオトコ。
 そして、監督は実験的、とは言ったけれど、このオトコの可能性を、考えての機用だろう。

「初めまして。私は、成澤尚司(なるさわしょうじ)と申します。まだ駆け出しですが、よろしくお願いいたします。」
「あ、俺は……」
川島恭平(かわしまきょうへい)さんでいらっしゃいますね。作品、拝見させていただいております。ご承諾いただいてありがとうございます。」
「いえ、こちらこそ、ご指名いただいたようで。」

 俺以外の配役は、未決定なようで、これから監督と相談してだという。
 製作発表も、本格始動も、まだまだこれからだ。

 それまでに、心構えもしっかりしておかなければならない。

 そして、忙しくなるだろうから、それまでに遊んでおこう、と思い、出向いたゲイバーで、成澤尚司という脚本家と再会した。

 ゲイという人間が珍しい訳ではない。
 実際、俺自身そうなんだし。
 けれど、先日知り合ったばっかりの人間に偶然遭遇するとは。

 俺も驚いたし、向こうも、そういう表情をしていた。


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