暴走書家

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『問題の問題-6-』

 取り敢えず、佐原とは特に変わる事なく、上手く続いていると思います。
 時々、佐原が、何故この関係を続けてくれているのか、疑問に思う事もありますが。
 佐原が、俺と居る時を苦痛だと感じていない、そう言ってくれたけれど、それ以上に、佐原が、俺の事をどう思っているのかわかりません。

 佐原は、昔から友達が居ないと言ったけれど、佐原が言う、他人との距離の感覚、というのは、それなりに成長してきてからではないのでしょうか。
 その事を尋ねてみた事があります。

 佐原は、昔、カラダが弱かったらしく、小学校の入学式の日から含めて、1週間、高熱と喘息をこじらせて休んだのだそうです。
 そうすると、もう、大体、グループが出来ていて、そこに入り込む余地が無かったらしいです。
 人見知りもするので、佐原から誰かに話しかける事も出来ず、自然と、一人で居るようになったんだそうです。

 中学校に入っても、小学校からの持ち上がりのグループというのがあって、勿論、新に、グループ同士、仲良くなったり、何かの契機(きっかけ)で、仲良くなったりする人間も、周りに居たそうですが、佐原には、縁が無かったみたいです。
 多分、何となく、話し掛け辛い人間は居るでしょう。
 その原因が何なのかわかりませんが。

 その頃から、佐原は、周りに人間に対して、遠巻きに観察するようになったそうです。
 自分自身の事についても考えるようになったのも、その頃かららしいです。
 教室の中で繰り広げられる人間関係に何を感じていたのかはわかりません。
 その中に入ってしまうよりも、外から見たほうが、よくわかる事もあるみたいです。

 高校生になる頃には、ほぼ今の感覚が出来上がっていたみたいです。
 それでも、ずっと、何の人間関係を結ばずにいる訳にもいかないから、部活に入ったそうです。
 その時から、弓道を始めたみたいです。
 先輩後輩関係は、どうしても出来上がってしまうものだし、勿論、それを越えて仲良くなる場合もありますが、そうなる必要も特になく、あくまでも、そういう立場として、接していたみたいです。

 大学に入っても、部活を続けているのだから、友達という感覚の付き合いは出来ないけれど、団体行動が、全く駄目、という訳でもないのでしょう。
 得意ではなさそうですが。
 弓を射る時に、自分の精神が静寂になり、ただ、的だけを見つめて、その世界に入り込めるのが好きみたいです。
 団体戦もあるみたいですが、基本姿勢は、弓と矢と己と的、それが、一時を制するのです。

 それは、佐原の性質とよく合っていると思います。
 佐原が、友達が居ない、人間付き合いが上手くできない、出来るだけ自分のテリトリーを犯されたくない。
 けれど、それが、決して、人間関係に対して、投げやりな訳ではないのです。

 佐原は、声が掛け辛い。
 何となく、近寄りにくい。
 何を話したらいいのかわからない。
 そういう印象を他人に与えやすいみたいです。
 俺は、そういうのをあんまり感じないから、佐原がゲイだって知る前でも、声を掛けてたし、その後は、まあ、今に至るわけです。

 仕事上で、どうするか、それは何となく想像がつきます。
 けれど、それ以外で、誰かと話をしているのは想像がつきません。
 そして、そんな風に関係を続けながら、大学生活は2年を過ぎ、それぞれが、それぞれの学部へと移っていきました。
 元々、大学では話をしないから、学部が異なっても、変わらないのでしょうが。

 そんなある朝、まだ、授業が始まるには早い時間帯に、佐原の姿が弓道場から出てくるのを見かけたんです。
 学部が離れて、ちょっぴりご無沙汰だったので、話し掛けてみようかと思い、近付いていきました。
 話し掛けようと思って、止めたのは、佐原が一人ではなかったからです。

 相手は、学生ではない感じです。
 年齢も、結構上だと思うし、スーツを着ていたから。
 まあ、勿論、それだけで決め付ける訳ではありません。
 だって、大学っていう性質上、何歳の学生がいたって別におかしくは無いのだから。

 盗み聞きをするつもりはなかったのですが、相手が、佐原に対して、普通に話しかけているのが不思議で、また、佐原も、それに対して、特に違和感無く話しているのが不思議で、ついつい耳を傾けてしまいました。

「久し振りだね、佐原くん。朝早くから、と言うか、誰も来ないだろうから、居るのが君らしいけどね。」
「先生が、久し振りなんじゃないですか。俺は、たまに、来てますから。」
「まあ、そうなんだけどね。普通の時間に行ったりしたら、学生の邪魔をする事になるからね。空いてる時間を狙って来ないと。」
「本来は、学生の部活の為の道場ですからね。」
「でも、一応、許可は得てるし、それにこっそり来るから。滅多に人には会わないんだけどな。」

「でも、今日は、たまたま、俺が居た訳ですね。」
「これだけ朝早くて、あまり学生が来てない大学も良いよね。って、私はもう仕事だから良いけど、佐原くん、練習あがちゃって良かったの?」
「ええ、まあ、一人で時間をつぶすのは苦ではないですし。」

「そういえば、佐原くん、あそこ辞めちゃったんだって? 蛍が寂しがってたよ。」
「まあ、何となく、学部にも上がったし、勉強の方にもう少し力を入れようかと思って。蛍さんには、適当に言っておいてください。」
「蛍も、一応忙しいからね。気にする必要はないよ。蛍の方が、一方的に佐原くんに構ってたんだろうし。でも、辞めちゃって、大丈夫なの? お金の方。」
「奨学金受けられてますから。あそこで働いてたのも、将来の為の保険みたいなものですから。って言うか、ああいうバイトを続けるのを勧めるのって、どうかと思うんですけど。」

「だって、仕事は仕事でしょう? 例えバイトでも、どんな仕事でも、仕事に対するプロ意識は必要だと思うし、それさえあれば、問題はないんじゃない?」
「理屈はわかりますけど、理屈だけでは通らないでしょう。」
「それは、そうなんだけどね。どっちにしろ、佐原くんが、決めた事だから、私が口出しをする事じゃないし。」

「宮下先生も、蛍さんもそうだけど、たまにいますよね。俺が、自分のテリトリーを侵されるのを嫌っているのを知っていて、それでも、踏み込んでくる人って。」
「珍しいね、佐原くんが、そういう話するのって。佐原くんって、そういうところも、自分で処理しちゃうでしょう?」
「何となく……」
「まあ、良いけどね。蛍がどうかはわからないけど、佐原くんが言いたいのは、そのテリトリーの境界線の事でしょう? その面では、私は、佐原くんに対しては、あまり深く踏み込むつもりは無いよ。ある程度離れたところに線を引いているのはわかるでしょう?」
「ええ。まあ。」

「私は、結構、相手のギリギリのラインまで踏み込むからね。若しくは、自分にギリギリのラインを引いて、相手を踏み込ませるか。そういう、ある種、駆け引きは楽しいからね。」
「駆け引き、ですか。俺には出来ませんね。俺は、かなり遠くに相手をおくから。俺からは、そのラインは曖昧にしか見えない。」
「佐原くんのガードは固いからなぁ。相手のものはわからなくても、自分の中では、自分のラインがある。でも、もしかしたら、佐原くんは、今引いているラインを、一歩近付けようとしてるのかな? どういう相手に対してかはわからないけど。」
「……何で、そう思うんですか?」
「さあね。何ででしょう。この手の話を、いくら相手が私だからといって、他人にしている時点ででしょうかね。」

「だから、宮下先生は、怖いんですよ。」
「怖いって、ねぇ。ああ、そういえば、その後、部活の飲み会とか大丈夫? 弓道部は、結構女の子多いから、他の体育会系みたいに、お酒を強要しないけど、最近は、女の子でも結構飲む子いるからね。」
「大丈夫ですよ。ちゃんと、自分で気を付けてます。」
「なら、いいけど。佐原くんは、きっと、ずっとそうやって育ってきたんだろうから、自分で殆ど片付けちゃうんだろうけど、消化不良、起こさないようにね。私でよければ、話相手くらいにはなるし、時間が出来たら、また店にも飲みにおいで。ちゃんと、ノンアルコールのものも置いてるから。」
「ありがとうございます。」

 そんな風に誰かと会話をしている、佐原の姿を見るのは初めてだった。
 だって、本当に佐原って、俺以外、誰ともまともに会話したりしないから。
 そして、この相手と、話をする時の佐原は、俺と話をする時の佐原とは違う。
 俺は、きっと、このオトコの知らない佐原を知っているだろうけど、このオトコも、俺の知らない佐原を知っている。

 ボーっと突っ立っていた俺は、振り向いた佐原に見つかってしまった。

「……菅野……」

 ええっと、何となく気不味いです。
 だって、本当に、立ち聞きしてしまったんですから。
 不可抗力ですよ、これは。
 何で、俺は、この場に居合わせちゃったんでしょうか。

 相手のオトコも、俺の存在に気付いたようで。

「誰? 佐原くんの知り合い? 弓道部の学生じゃないよね。」

「あの……えっと……」
 答えに窮してしまった俺の代わりに、佐原が答えていました。

「前期でクラスが一緒だったんです。それで、一応、知り合いっていうか。」

「ふーん。珍しいね。部活以外で、佐原くんに知り合いがいるなんて。まあ、いいけど。あ、やばい。本当に仕事急がないと。じゃあね。」

 腕時計に目をやると、そのオトコは、そう言って、早足で去っていった。

「ゴメン、立ち聞きするつもりは無かったんだけど……」
「別に。どこからどこまで聞いていて、どう思ってるのか知らないけど、大した事じゃないから。」
「ちょっとびっくりした。佐原が、ああいう風に誰かと話をしてるなんて。」
「まあ……何ていうか、あの人は特別だから。」

 佐原にとって、特別な人間、それが、どういう意味かわかりません。
 それから、俺は、佐原にとって、特別な人間なんでしょうか。
 『特別』って難しいですね。

 そして、これが、俺達の一つの転機になるのでした。


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