暴走書家

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あるバーのシリーズ(別)

 本当にそいつ愛していたと思う。
 愛っていってしまうと大げさになるかもしれないけど、好きだって思えて、大切だって思えたんだ。
 その人とは違う次元で。

 そいつも、そいつなりに愛してくれたんじゃないかと思う。
 とてもお互い不器用だったけど。
 だから、あれだけの時間一緒にいられたんだ。

 そいつが酷い奴だって言った人。
 それもわかる。
 多分他の人から見たら酷い奴なのかもしれない。

 俺と付き合っても他のオトコと平気で寝るし、それを隠そうともしない。
 そんな奴だから、誰かと付き合ってもすぐ別れてしまうんだ。
 俺だってその人と寝てたのがあるからかもしれないけど、そいつが他のオトコと寝ようと構わなかった。
 どんなに他人と寝ようとも帰って来るのは俺と住む家だったから。
 独占欲って普通の人はあるのかな。
 そういうところが俺にはない感覚だったんだ。
 そいつにもなかったと思う。

 俺はその人とセックス以外は他の人間とはセックスしなかったし、その人とセックスした時だってそいつにはわからないようにしてた。
 お互いの生活の基盤があるんだから、それぞれ一緒にいない時に何をしていようと勝手だと思っていた。
 そいつは止めて欲しかったのかな? 他のオトコと寝るのを。

 けれどそれをしたら、確実に二人の関係は終わっていたと思う。
 実際、今までそいつは他のオトコと一緒に住んでも長続きしなかったんだし。
 そいつを止めようとしなかったのは、俺の愛が薄い所為か?
 でも、俺にはそういう愛し方しか出来なかった。

 そいつが浮気するのを止められなかったのは、俺の愛が薄い所為なのか?
 そいつも、俺への愛が薄いから、そんな事をしていたのか?
 答えなんてお互い持っていなかったんだ。
 そいつは生きる存在として誰かに求め続けていた。
 そしてその方法を、そいつはセックスでしか求める事が出来なかった。

 そこに愛なんかなくっても、セックスをして、快感を追っていられる事で何とか生きようとしていた。
 自分が生きる存在が欲しかったんだ。
 だけどね、俺との生活があっただろう?
 それはそれで不満じゃなかっただろう?

 外では精一杯強がって、生きている。
 だから俺は、そんなそいつに安心できる空間を造ってやりたかったんだ。
 お前はこの場所で生きていて良いんだよと。
 俺とそいつとの間にはただ快感を追うだけじゃないセックスがあったはずだ。

 口数少なかったけど会話も交わしただろう?
 刹那的な快感を追おうとするそいつに精一杯愛情をこめて抱いたはずだった。
 そいつには何が足りなかった?

 そんなそいつでも、浮気をして惹かれる人間がいて、俺に別れろと言ってきたオトコもいた。
 俺は『誰を選ぶのかなんてそいつが決めることで僕達が決められる事ではない』と突っぱねてきた。
 そうして結局戻って来るのは、俺のところだっただろう?
 そいつと寝て、俺に興味を持って、俺を口説いてきたオトコもいたけど、俺は、そんな気になれないから、と断ってきた。
 それを、そいつは知っていたはずだ。

 どうしてこうなってしまった?
 疑問符はいっぱい湧いてくる。

 それと同時に、やっぱりな、と納得してしまうところがある。
 そいつは結局行き詰って自殺をした。

 俺といても、そこに決定的な居場所を見出せなかったんだ。
 家で自殺している姿を見つけたのは他でもない俺。
 学校から帰ってきて風呂場で見つけたのは冷たくなったそいつの死体だった。

 俺は医者の卵だ。
 そいつが手首を剃刀で切って湯船に腕を浸している姿を見て脈を診た。
 既に止まって冷たくなりきっていた。

 そういう時って、結構動転しないものなんだな。
 脈を診て、死んでいるとわかって警察に電話をした。
 俺が泣く事はなかった。

 一旦引き取られて棺桶に入って帰ってきたそいつ。
 俺は、そいつの耳にしてあったピアスをはずした。
 俺は、それまで開けてなかったけれど、そいつと同じ場所にピアスホールを開けそいつのしていたピアスを身に着けた。

 そいつの死体を引き取る身内なんていなかった。
 確か母親がいた筈だけど、お互い音信不通だった。
 だから、俺がやるしかなかった。
 葬式なんてしても、誰も来る人がいなかったから、必要最低限の手続きをしただけだ。
 そいつは望まなかったかもしれないが、小さいながらも墓を立てた。

 バンド仲間がいたはずだが、俺はその連絡先を知らなかったし、死んで何日経っても家に連絡が来る事はなかった。
 俺はというと、自殺した家に一人何日もいるなんて、普通の神経じゃないと言われるかもしれないけれど、四十九日が過ぎるまで、その家にいた。
 もちろん、俺は感傷に浸っていた訳ではなく、その間も学校に通ったし、バイトも続けていた。
 今まで、二人で分けていた家賃を俺一人で払った。
 それだけの金銭的余裕はあった。

 俺と出会わなかったら、そいつはまだ生きていただろうか。
 誰か別の人間の元で死んでいただろうか。
 それとも、一人寂しく死んでいっただろうか。
 そんな仮定の話をしてみたところで何も変わらない。

 そいつは、俺と出会って、俺と一緒に住んで、それで死んでいった。
 その事実があるだけだった。

 そいつは、俺に何を望んでいたのだろうか。
 常に死を見据えて生きていた。
 それは、そいつも俺も同じだった。
 だから惹かれたんだし、これだけ長くやって来れたんだ。
 そいつは生き急ぎ過ぎた。
 どうしようもなく埋められない空白がそいつの中にあったんだ。
 それを何となく知りながら、やはりどうにも出来なかった俺。
 死んで、解放されただろうか、そいつは。

 自分が死んだ後のことなんて何も考えていないんだろうな。
 そこに広がるのは無だけだ。
 四十九日の余裕を貰って、俺は少しずつそいつのものを処分していった。

 俺は、その人と、大学の友人三人にはそいつが自殺したことを告げていた。
 その人は、これからの俺の為に、自分が持っているマンションの一室を紹介してくれた。
 その部屋も、一人で住むには広すぎるけれど、折角紹介してくれた物件だったのでありがたく貰った。
 俺の貯蓄もかなりの額になっていたけれど、その人が、マンションごと俺にくれた。

 そいつと、一緒のに暮らしていた時に使っていたものを一切持っていく気はなかった。
 服も電化製品も家具も全部始末した。
 そうして、新しい部屋には新しい家具をそろえていった。
 俺の元に残ったのはそいつ残していったピアスのみ。
 それだけで十分だった。

 そいつの分まで生きれるとは思わない。
 俺は俺の人生だけで精一杯だから。
 下手するとそれすらも危ういから。

 けれど、そいつは俺の初めての恋人。
 そいつが死んでしまった事は、俺の胸の内に刻んでおこうと思った。
 だからピアスを貰った。

 俺は、医者として行き先を選ぶ頃になっていた。
 そいつの事があったからか、元々生きている人間に興味がなかったからか、法医学を専攻した。
 友人達も、それぞれの望む道を選考していた。
 オトコの友人は外科に、オンナの友人は、精神科と内科に、それぞれ別れていった。
 いつまでも、一緒にいる訳にもいかない。
 俺も俺の選んだ道を生きる。
 取り敢えず生きている間は。

 そいつは、涙を流さなかった俺を薄情だと言うだろうか。
 それともやっぱりな、と言ってくれるだろうか。

 多分後者だろうな、と思う。
 知っていたんだ。
 俺もそいつも。
 結果がこうなる事を。

 その過程を楽しんだじゃないか。
 それで十分だ。
 俺は一つの区切りを終えた。
 そうして成長したと思う。

 さよなら、俺の愛した人。
 元々、愛なんか知らずに育った俺達だけど、俺はそいつを愛していたと言えるよ。
 もう過去形なんだ。

 ごめんな。
 俺はまだ生きるから。
 命日にはちゃんと墓参りに行くから。

 その時、誰と付き合っていても。


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