暴走書家

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『幹分かつ枝-5-』

 ココロの中の整理とは、中々上手くいかないものだ。
 いい加減、政司への恋愛対象としての想いを断ち切らなければいけない。
 今付き合っている、直哉の事は好きだ。
 直哉は、俺が、叶わぬ想いを抱えて、それでも、現実問題として、それをずっと引きずっている訳にもいかず、直哉と俺の出来る範囲で、ちゃんと向き合っていきたいと思っている俺を、受け入れて、付き合ってくれている。

 直哉の優しさに包まれて、直哉が特にそれを咎める事はないから、それに甘えている訳にもいかない事にも、気付き始めてきていた。
 それでも、政司が、オトコを性欲の対象として見ることの出来る人間だ、という事が、俺のココロを少し揺るがせていた。

 今までは、俺のココロの中に、政司の存在があったから、その事に感づかれて、相手の方から、別れを切り出されてきた。
 けれども、直哉は俺が、他のオトコに想いを抱いているのを承知で、俺が、俺なりに直哉の事を好きだから、そして、俺も、直哉と真面目に付き合っていたいから、関係を続けている。
 政司への想いを、今のところどうする事も出来なくて、そんな俺自身が不甲斐なくて、直哉に対して、多少、申し訳ない気持ちもある。

 もし、俺の片想いの相手が、双子の弟である政司でなかったら、何らかの方法で、断ち切る事が出来たのかもしれない。
 世の中には、仲の良くない、若しくは、縁の薄い兄弟はいるだろうが、兄弟としては、かなりの程度まで気の許せる相手だからこそ、想いを吹っ切る事が出来ない。
 俺が、政司をただの仲の良い、双子の兄弟だ、それだけの目で見ることが出来たらそれにこした事はないのに。

 もう何年、この想いを秘めてきたのだろう。
 誰にも打ち明ける事のできない苦しさ。
 それが、やはり、この想いを俺の中で、より強固にしていったのだろう。
 冗談交じりでも、誰かに打ち明ける事が出来たなら、少しは楽になれただろうか。
 だがそれは、俺の性格上、出来る事ではなかった。

 直哉は企業勤めとかではないから、所謂、日祝祭日などというものは関係なく、仕事をしている。
 俺が、翌日休みで、泊まりに行った時でも、仕事が空けられない時は、夜は一緒に過ごすけれど、その休日を直哉は仕事に当てている。
 仕事がない時は、ごくたまに、一緒に出かけたりもするが、基本的にインドア派な俺と直哉は、それよりも、家の中で、ゴロゴロする事が多い。

 風景画や植物をモチーフにしたものが殆どなのだが、出掛ける事は、滅多になく、資料らしき写真集が何冊も置いてある。
 連休を目の前にしていたが、自分達には、あまり関係がない、そう思っていたところ、思いもかけず、直哉から「今度の連休、もし良かったら、一緒に、温泉に行かないか? 知り合いから、温泉旅館の宿泊券を貰ったんだけど」とお誘いの連絡が来た。

 誘って来たからには、直哉は仕事は大丈夫なのだろう。
 宿の名前を聞いて、調べてみたけれど、都会から離れた、自然の中にある場所だった。
 俺の方の都合は、問題なかったので、OKの返事をして、当日の予定など、約束をした。
 しかし、この連休に、これだけの値段の宿泊券をくれる相手って……不思議だ。
 露天風呂を始めとして、5種類の大浴場と、貸切の露天風呂が3つ。
 いずれも、自然を臨む事が出来るか、自然素材を使ったものだった。


 で、当日、電車で揺られる事数時間、そして、送迎バスに乗って、旅館に着いた。
 本当に、自然に囲まれたところだった。
 しかし、大の大人のオトコが二人きりで、泊まるのは、少々不自然なのではないのだろうか?
 旅館の従業員は、客の事情など聞いてくることはないだろうが。
 直哉は直哉で、「たまには、実際に、こうして、自然に囲まれて見るのもいいね。明日、ちょっと、散歩してみようか。」とその風景を気に入っているようだった。

 因みに、直哉はスケッチブック持参。
 折角、来れたんだから、存分に楽しまなければ、と旅館について、取り敢えず、幾つかの風呂に入った。
 出て来た夕食も、流石に値の張った温泉旅館だけの事はある、地元で採れた、厳選された旬の食材が用いられていた。
 量は決して多くはないのだけれど、不満足にさせない。
 逆に、全て、食べきる事が出来て、嬉しいくらいだ。

 部屋から、外を眺めて暗闇の中の、自然を楽しむ。
 胃袋が、夕食を消化できた頃に、再び、先程入らなかった、風呂に浸かった。
 露天風呂から見える夜空も綺麗だ。
 恋人とこういうところに来られるっていいよなぁ。
 直哉も終始ご機嫌な様子。

 部屋風呂で、再度カラダを綺麗に洗って、畳の上に敷かれた布団の上で抱き合った。
 唇を重ねて、舌を絡ませ合い、吸い上げる。

「…ん……」

 深く口付け合って、一旦、唇を離し、再度、口付けを求める。
 そのまま、直哉の肌に指を這わせて、宿の浴衣を脱がせていく。
 露になった肌に唇を落とし、肌を強く吸い上げる。
 首筋に、胸元に、そして、乳首を摘み上げて、刺激していく。

「…ぁ……法規……」

 刺激され、尖った乳首を更に弄って、快感を高めていく。
 敏感になった、乳首に軽く歯を立てるとより一層、感じているみたいで。

「…ふ……ぁ…ん……」

 まだ、直にペニスに触れず、内股に舌を這わせて、そこを吸い上げる。
 それを徐々に上に移動していって、勃起した直哉のペニスを口に含んだ。
 舌と唇で扱きながら、奥まで飲み込んだり、吸い上げたり。
 その刺激に硬く張り詰める直哉のペニス。

 用意しておいた、ローションを手にとって、指をアナルに挿入していく。
 丹念に解して、受け入れられやすいよう施す。

「…法規……も……いいから……」

 指を抜いて、ペニスをあてがい、挿入していく。
 締め付けのキツさを味わいながら、奥まで埋め込んで、一旦、動きを止める。

 そうして、求められてきた唇を、軽く重ね合って、離した。
 幾分慣れたアナルに抽挿を開始する。
 突き上げて、直哉が感じる部分を擦り上げる度に、直哉の口から声が漏れる。

「あ……あぁ……ん…ぁ……っ…」

 快感を得て、締め付けてくる直哉のアナルの感覚に煽られて、俺は、律動を速めていく。

「ん……法規……イイよ……ぁ…っ…も……イきそう……」

「直哉さん……俺も……もう……」

 直哉の射精を促すようにペニスに触れて、扱いていき、達したその裡で直哉のアナルに締め付けられて、俺もまた、射精していた。
 暫らく、布団の上で休んで、再度、口付けを求めてきた、直哉に応じる。
 そして、そのまま、直哉の愛撫に身を任せていった。

 俺の感じる場所を刺激されて、欲望が再び高まってくる。

「…ぁ…ん……直哉さん……」

 いつもとは、違った場所で求め合っている所為か、時間も、緩やかに流れていくようで、その感覚を長く受け止めている。

 直哉のペニスをアナルに受け入れて、直哉が求めてくる熱を感じる。

「あ……はぁ……っ……あ……んん…」

 突き上げられて、快感が漏れ出るような感覚がたまらなくいい。

「っ…!……あぁ……も……イ…く…っ…!」

「ん……く…っ……ん」

 再び訪れた絶頂の余韻に浸り、布団の上に転がって、軽く唇を重ねた。
 そして、お互い、満足気に微笑んだ。

「法規、少しは元気でた?」
「え?」
「んー、だってさ、法規、1人で色々考えちゃうだろ? 勿論、自分の頭で考える事も大切だけど、俺は、大して何もしてやれないと思うけど、話を聴くだけなら出来るよ?」
「うん。ありがとう……あ、でもその前に、聞きたい事があったんだけど。」

「何?」
「直哉さんのイラストのカレンダーってあるの?」
「え? あ、うん。去年、話があって、出したんだけど、来年の分も、また出すと思う。イラストの方は、仕上がってるし。」
「あ、そうなんだ。いつ頃出そうかわかる?」
「問い合わせてみれば、多分。なんで?」
「実は……千香が…家の妹が、直哉さんの絵、好きみたいで、誕生日プレゼントに頼まれちゃって。」
「へぇ。そうなんだ。何か、嬉しいな。身近にそういう話聞くと。妹さんと仲良いんだね。俺、兄弟いないからわからないや。」
「まあ、うん。仲、良いかな。あ、でも、俺も直哉さんの絵好きだよ。」

「うんうん。わかってる。ありがとう。でも、その妹さんが、法規が俺のオリジナル一点物を持ってるって知ったら、羨ましがるだろうね。」
「あれは……俺の、大切なものだから、大事に仕舞ってとってあるけど。直哉さんの、オリジナル一点物って、他にもあったりするの?」
「一応。1つは、まあ、法規が持ってる『ほうき星』、でもう1つは、法規も観た事があるかもしれないけど、バーに飾ってある『迷宮』。本当は、もう1つ『月の涙』って言うのがあったんだけど、それは、もう、公にしようと思って。」
「へえ、そうなんだ。『迷宮』って、あの『Labyrinth』の?」
「そうそう。そのまんま、名前を日本語にして描いただけの。」
「ちゃんと見たことないや。今度、観てみる。」

「で、法規が、悩んでる事って、何? 片想いのオトコの事とか?」
「えっと、でも、やっぱり、そういう話って、嫌じゃない?」
「別に。どんな相手で、どんな事情があるのか知らないけど。」
「俺の問題だし……、そこまで、直哉さんに甘える訳には……」
「無理に話せとは言わないけどさ、甘えるんじゃなくって、恋人なら、知っておいてあげたい、っていうのもあるんだけど。」

 俺は、直哉に打ち明けてもいいのだろうか?
 恋人の事を知りたい、それはわかる。
 俺も、直哉の事を知りたいし。
 誰かに話したい、それを、直哉に?
 直哉は無理強いはしないと言ったけれど、打ち明ける事は、かなり自分勝手な事になるんじゃないだろうか。
 直哉がどう受け止めるかはわからない。
 それでも、何かの契機(きっかけ)になれば。

「取り敢えず、寝ようか。まだ明日があるんだし。」
「うん。おやすみ。」
「おやすみ。」

 意識が、闇の中に落ちていく。
 まだ明日がある。
 急ぐ必要はない。
 それでも、いつまでも引き伸ばす訳にもいかない。


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『幹分かつ枝-4-』

 俺にとって、家族として、法規が千香が大切なのは変わりない。
 そして、それでも、それ以上に、法規の存在を意識してしまう。
 無理矢理にでも法規のカラダを求めたなら、変わる事が出来るだろうか?
 でも、そうしてしまったら、家族である事、兄弟である事、その関係も終わってしまうのだろうか。
 名前としては変わらない。
 双子の兄弟である事、家族である事。

 想いの対象として、性欲の対象として、その面で話す事ができなくても、単なる兄弟としての普通の会話も、嫌ではない。
 結構、あけすけで話す千香がいるからか、いや、それでなくとも、それなりにお互いの存在を認め、会話を交わす事は出来る。

 法規に恋人がいるらしい事に気がついていても、その話に触れる事は、怖くて出来ない。
 恋人がいても、家族として、双子の兄弟として、法規にとって、俺はそれ以上の存在になれないかもしれないけれど、大切な存在だと言う事はわかる。
 ある程度の次元までは、分かり合っている、そう思う。

 その次元を超えて、わかり合う事は出来るのだろうか?
 もし、仮に、わかり合おうと努力した時、俺の、法規に対する想いを打ち明ける事になるのだろう。
 俺に、その勇気があるのだろうか?
 もうずっと、そうして来なかったのに。

 兄弟以上の特別な想いを隠して接してきた。
 ゲイである事も同じ。

 千香は、俺と法規が、対等に自分の事を見てくると、そう言った。
 そして、実の父親を殆ど覚えていないだろう千香は、俺達の父や俺達に対して、ある種の思慕の念を持っている。
 多少強気でねだってみても、それが、甘えになる事はない。
 そして、千香も甘やかされる事を望んではいない。
 千香が遠慮をせずに、はっきりと口に出すから、こっちも、それに対して、遠慮する事はない。

 それは、兄弟として、会話をする時の、法規に対しても同じ事だし、父に対しても、母に対してもそうだ。
 父は母の仕事に対する姿勢や、強さに惹かれたのだろうし、母も、父となら、もう一度、共に人生を歩んでいけると、そう感じたのだろう。
 外に出て、仕事は仕事で、熱心に取り組んで、そして、家に帰ってきたら、背中を預けあって、生きていけるから。

 禁断の愛、ある種、甘美的に使われるその言葉。
 古く言えば、身分違いの恋、それから、同性愛、近親相姦、不倫。
 禁じられるからこそ、熱く燃え上がるその想い。
 それをテーマにした作品も数多く見受けられ、人気がある事も確かだ。
 禁忌が薄らいでいく中で、より強い禁忌に憧れを馳せる人間。

 しかし、実際にその中に身を置いてしまえばどうだ?
 全く甘美なものなど実感しない。
 叶う事のない、甘美な幻想に少しでも浸れれば、どんなに良かったか。
 想像の中で、法規とのセックスを夢見ても、やり場のない現実感だけが残る。
 秘めた想い、なんて、現実には、かっこよくも何ともない。

 俺は、誰かとセックスする中で、法規への想いを忘れさせてくれるオトコを待っているのだろうか?
 そんな、一方的な、都合のいい夢を見られるはずもない。
 遊び心でしかないセックスは、それ以上の意味を持つことなどない。
 そこに、快楽があるから、ただ、それだけ。
 別に快楽に流されている訳でもない。

 セックスの一時に、溺れるようにその快楽に相手に、身を任せても、逆に、相手のカラダを貪って快楽を得ても、それは、それ以上でも、それ以下でもない。
 誰かを、愛する事は重要かもしれない。
 でも、千香も言っていたけれど、愛だけで生きていける訳でもない。
 恋愛としてではなく、広義の意味で、俺は、家族の事を愛してる。
 千香の事も、父の事も、母の事も、勿論、法規の事も。
 法規に対しては、恋愛感情がプラスされてはいるが。

 終末、仕事を終えて、やはり、ゲイバーに来ている。
 遊ぶのは、遊ぶのでそれなりに楽しい。
 けれど、いつまで俺は、遊び人をやっているんだろうかとも思う。
 法規への想いが叶わないから、と言って、自棄な訳じゃない。
 自棄になったら、楽しむ物も楽しめなくなってしまう。

 だから、楽しめそうな相手、結局はそうなってしまう。
 何となく、見た目が好みで、よさそうな相手を、物色している。
 そして、目ぼしいオトコが一人でいるところに声を掛けに行く。

「ねえ、1人? 良かったら、俺と遊ばない?」
「遊び?」
「そう。遊びでセックスする気にはなれない?」
「……別に、そうでもないが。」
「それとも、俺、あんまり、好みのタイプじゃない?」
「いーや。いいよ、俺も、それで。」

「じゃあ、決まりね。で、タチ・ネコどっち? どっちもいけそうな感じがするけど。」
「まあ、そうだな。そっちが、誘ってきたんだろ? どっちが、望みな訳?」
「んー、そうだな。俺も、どっちもいけるけど、今日は、抱いて欲しい気分かな。」
「わかった。」

 そのまま、連れ立って、ホテルに入った。
 お互いシャワーを浴び終えて、ベッドの上で縺れ合う。
 そのオトコが覆いかぶさってきて、重ねて来る唇に俺の唇を重ね合わせる。
 唇の隙間を割って入ってきた舌に舌を絡ませて、その舌を吸い上げられて、軽く喉が鳴る。

「ん……ふ……」

 耳朶を甘噛みされて、首筋を舌が這ってくる。
 鎖骨に辿り着いた、唇が、そこに歯を立てられる。
 指で、乳首を弄られて、次第にジーンとした快感が湧き上がって来る。
 その感じている乳首を、摘み上げられて、カラダが敏感になってくる。

「…ん……ぁ……」

 快感を感じている時に、冷静に考える必要なんてない。
 ただ、今は、その感覚を受け止めていればいい。

 勃起しかけたペニスが、同じようにその兆しを見せている相手のペニスと擦れ合って、欲情しているのが、自分だけでない事がわかる。
 その相手のペニスを咥えて、唇を窄めて扱いていき、時に強く吸い上げる。
 硬度を増してくるペニスを、味わって、完全に勃起したところで唇をを離した。

「…ふ……イれて……」

 唾液で濡れて、勃ち上がっているペニス。
 唇を離した時に、飲み込めなかった自分の唾液を、腕で拭い去った。
 そして、相手が、俺のアナルに指を挿入してきて、そのペニスを受け入れられるように慣らしてくる。
 ローションの滑りを借りたその指が、アナルの入り口を解していく。

 それから、指が抜かれて、ゴムを被せ、ローションを垂らしたペニスを挿入してくる。

「ん……ん……ぁ……は……」

 そのペニスの質量を受け入れて、カラダが馴染むように、息を吐く。
 そうすると、ズルリと奥までペニスが入ってきた。

 ペニスを抽挿され、内壁を擦られて、突き上げられる快感に飲み込まれていく。

「……あぁ……っ!……んん……イイ……は……ん…!」

 相手は、俺が感じている場所を確実に捉えて突き上げてくる。
 その逞しいペニスの感覚はたまらない。
 そして、俺も、相手が、感じられるように、アナルを締め付ける。

「んん……ふ……ぁ…っ…! ……も……イきそ……っ…」

 射精感が高まってきて、限界が近づいている事を伝える。
 そのペニスが相手の手に触れられ、扱かれて、射精を促されたら、もう一刻の猶予もなくって、アナルを締め付けながら達していた。
 その締め付けの中で、相手も射精したようだった。

 先にシャワーを浴び終えて、普段は口にする事はないけれど、ベッドの横のソファで煙草を吸っていた。
 後から出てきた相手が、それを見て、少し眉を顰めた。

「煙草、吸うんだ。そういう匂い、しなかったのに。」
「滅多に吸わないよ。ただ、セックスした後は何となくね。」

 普段から吸っている人間は、カラダにもその匂いが染み付いて離れていかない。

「悪いけど、俺、煙草の匂い駄目だから、止めてくれない?」
「んー、ああ、悪かったよ。何も尋ねずに吸って。今時は、知らない相手には、断ってから吸うべきだったな。」

 咥えていたタバコを灰皿で揉み消した。

「……よく来てるよね、あのバーに。何度か見かけた事がある。」
「まあ、そうだね。時間があって、気が向いた時はね。」
「それで、いつも、ああやって、遊び相手探してるんだ。」
「否定する気はないよ。」

「で、一度寝た相手とは、もう寝なかったりするんだ?」
「そうでもないよ。まあ、でも、何度寝たって、遊びは遊びで変わらないし、情が移る訳でもない。」
「あっそ。取り敢えず、相手には不自由しないって、事か。」
「そ。今のところ、取り敢えず、はね。」

 そう、取り敢えず、はだ。
 不自由していないか、その投げ掛けには多少、疑問が残るが。
 このまま過ごすか、それとも、関係を崩す事になっても、思い切って打ち明けるべきか。

 ノンケのオトコなら、ゲイでしかも、自分がその性的対象として診られていると知ったら、気持ち悪がるだろうな。

 打ち明ければ、玉砕しても、俺は、少し楽にはなれる。
 が、法規の気分を害する事になる。

 このまま過ごせば、ただ、俺が、1人で、想い悩んでいればいいだけ。
 その自虐性に酔う事も出来ない。

 打ち明けて、拒絶された時、兄弟としての絆も、やはり変わってしまうのだろうか。
 どういう方向に?
 それでも、変わったとしても、絶縁する程、弱い絆ではないと思っている俺は、認識が甘いのだろうか。


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『幹分かつ枝-3-』

 世間一般的な家庭というのはどういうものだろうか。
 勿論、それぞれ、家庭によって事情は異なるだろうし、同性間の兄弟でも、異性間の兄妹でも、話をしたり、しなかったりは様々だろう。
 俺と政司は、同性で、しかも双子で、かなり近い間柄になるだろう。
 それでも俺が、政司に対して話さずにいる事があるのも確かだから、他の家族でもそうなのだろう。

 血縁による関係が何よりも強いとは思わない。
 同じDNA配列を持った俺と政司でも、やはり、ある程度の距離はある。
 そして、妹である千香とは、血の繋がりはない。
 俺達の母親は、俺達が中学に上がる前、つまり小学校の時に病気で亡くなった。
 その後、父と、俺達3人とで、今の家に移り住んだ。

 中学2年の時、俺達の父親と、千香の母親が再婚した。
 千香の父親は、まだ、千香が幼い頃、小学校に上がった直後に、交通事故に巻き込まれて亡くなったらしい。
 だから、千香には、実の父親の記憶は殆どないと言う。
 千香の母親は、女性調香師、いわゆる『parfumeuse』(ちなみに、男性の調香師は『parfumeur』と言う)で、『働く女性』を取材していた時に、父親と知り合ったそうだ。
 千香の名前もそれ自体それ程珍しいものではないが、中国の漢詩などで用いられる『千』とは、『数えられないくらい多く』と言う意味で、それに『香』の文字を付けたのだという。

 そんな千香は、アロマオイルを用いたリラクゼーションマッサージのサロンにエステティシャンとして働いている。
 マッサージとして使うアロマオイルも、香りとして楽しむアロマオイルもどちらも好きらしく、我が家の風呂にアロマオイルが垂らされている事もしばしばだ。

 今の両親が、再婚した年頃は、俺達にしても、千香にしても、多感になっている時だから、初めて全員で会って食事をした時、千香が「普通なら、年下の兄弟が出来る事はあっても、年上の兄弟が出来る事はないから、嬉しい」と、喜んでいたのを見て、俺も気分が、少し和らいだ気がする。

 それぞれが就職して、両親もまだ現役で働いていて、全員が全員で食卓を囲む事は少なくなったが、それでも、それぞれが都合がつく時は、全員でなくても、誰かしらと食事をする事が多い。
 千香の誕生日まで、後、3週間に迫った時、久々に、全員で食卓を囲んだ。

 我が家の誕生日では、その人間の意見を取り入れて、プレゼントをするなり、祝うなりする。
 本人の意向に沿うのが一番だ、という千香の言い分だ。
 だから、当人に何が欲しいのか、尋ねる事になる。
 ちなみに、千香は俺の事を『のり兄』、政司の事を『まさ兄』と呼ぶ。

「千香、もうすぐ誕生日だろ? 今年は何が欲しい?」
 そう尋ねた俺に、政司がすかさず口を挟む。
「どうせ、現金がいい、とか言うんだろ?」
「まさ兄、率直的過ぎる。まあ、率直に尋ねられた方がいいけど。でも、これも、毎年言うようだけど、本当は、現金がいいけど、プレゼントとして、あんまりだから、図書カードにして。」

 そう言う千香は、結構な読書家だ。

「去年は、デパートの商品券だっただろ? どっちにしろ、換金性のいいものじゃないか。」
「いいのよ、それで私が好きなものを買うから。好きな時に、好きな物が選べて最高じゃない。」
「それでもって、自分で稼いだ金を節約できるから、だろ?」
「当たり前よ。生きてたら、いつ何時、お金が必要になるかわからないんだから。貯められる時は、しっかり貯めておかないと。」

「もうちょっと、夢とか見られない訳?」
「夢、って言うか、叶えたい事とかはあるわよ。でも、結局、お金が無いと、叶わない事って多いんだから。」
「千香って、恋人選ぶ時も、そういう感覚なのか?」
「お金に変に意地汚いオトコも嫌だけど、ルーズなオトコはもっと嫌よね。現実を見ないで夢ばっかり追ってるオトコも。ちゃんと現実を見て、向上心を持った人じゃないとね。それと、適度なお金。『愛してるから他に何も要らない』なんて言われたら、速攻冷めるわ。人間、そんな『愛』なんて、霞食べて生きていける訳ないんだから。まあ、そこら辺で言うと、ちゃんと仕事意識も持ってて、ある程度お金持ってて、対等に向き合えるまさ兄とか、のり兄とか、いいんだけどなぁ。」

「対等に、ねぇ。」
「女だからって、下に見られるのも嫌だし、逆に、変に持ち上げられるのも嫌。レディーファースト、とかも、あんまりなぁ。まあ、映画館なんかの、レディースデーとかは、安くなるから喜んで行くけど。」
「結局金が絡むのね。でも、プレゼントって、普段、自分が買わないようなものとか、欲しくないのか?」
「まさ兄に、それ期待してないから。それと、多少は、実用的な方がねぇ。」

「実用的、って、千香、お前、確か、去年は、法規に人体模型とか買わせてただろ。」
「実用的じゃない。大体、人体の構造とか知らなくっちゃ、マッサージなんて出来ないんだから。」
「でも、模型は模型だろ? 実物には敵わないじゃないか。」
「まあ、そうなんだけど、何となく欲しかったから……。のり兄の生理学の本もいいけど、模型は模型でまた楽しい。本当に高いから、自分じゃ買えないのよね。『人体の不思議展』って、本当に楽しかったわ。のり兄が一緒に行ってくれたから、色々話も聞けて。」

「はいはい。俺は、どうせ、千香の役には立てませんよ。」
「やだなぁ。まさ兄。拗ねないでよ。まさ兄はまさ兄で、頼りにしてるから。」

 政司と千香の話が一段落したようなので、そこへ、俺が、プレゼントの話に戻す為、千香に話し掛ける。

「盛り上がってるところ悪いんだけど、千香は、今年は何が欲しいの? また何か別の人体模型でも欲しい訳?」
「あ、えっと、そうね。欲しいと言えば欲しいんだけど、ソッチの趣味とは、ちょっと離れたものにしようかな、と思って。あのさ、のり兄って、仕事で仕事の本読むようになってから、疲れるからって、それ以外の本って、読まなくなったでしょ? でも、いつだったかな、珍しく、普通の本読んでたじゃない?」
「普通の本?」
「覚えてない? 『海の底の底』って本。」
「ああ、あれか。それがどうしたんだ?」
「私もね、持ってるのよ、あの本。まあ、いつもの如く、本屋の中をうろついてて、あの表紙が目に付いて、手に取ってみて、面白そうだから、買ったの。実際、面白かったし。それで、色々調べてて、あの表紙のイラストレーターさん、去年辺りからかな、カレンダー出してるのよ。ネット通販してるし、それにしてもらおうかなぁ、って。」

「カレンダー?」
「うん。私、あんまりカレンダー見ないんだけど、カレンダーとしても使えるし、それが終わっても、絵として楽しめるから。」
「へえ、千香って、ああいう絵が好きなんだ。」
「元々、絵自体は、それ程知ってるわけじゃないし、有名な画家でも、シュルレアルズムの『サルバドール・ダリ』とか『ルネ・マグリッド』とか、それ以外では、『マウリッツ・コルネリス・エッシャー』みたいのが好きなんだけどね、それとは全然違うんだけど、なんか好きなんだなぁ。」

「で、ネット通販ってHPとかあるの?」
「HPはないわ。ブログがあって、そこで、お仕事情報とか載ってるから。通販も、委託してるしその情報も、載ってるはず。あ、でも、そんなに部数刷る訳じゃないみたいだし、私が去年知った時は、もう売り切れてたから、早めに気付いて頼まないと駄目だと思う。」
「それを、俺にしろと?」
「いや、私も、一応チェックしとくけど、のり兄もお願い。」
「わかったよ。」

 ああいう職業って、こういう風にファンがいてくれるからやっていけるんだろうな。
 千香が言ったように、夢を見ているだけじゃ駄目だけど、自分の作品が売れるか売れないか、ある種賭けのような人生もあるからな。
 絶対的に安定した職業がないのも、わかっているだろうし。

 まあ、それは、人間関係でも同じか。
 『安定』する事を求めても、それは、『安定』する事が、あるんだろうか。
 一見、安定しているように見える我が家でも、崩れるかもしれないし、変わって行くかもしれない。

「誕生日当日は、千香、どうするんだ?」
「仕事は抜けられないからなぁ。彼氏もそこら辺、仕事忙しいって言ってたから、まあ、一応、会って、夕食食べて、プレゼント貰って、終わり、かな。」
「……因みに聞くけど、彼氏に、何貰う訳?」
「んー。今、興味があるアロマオイルを何点かピックアップして、買う店も指定して、リストで渡してある。」
「わかってたけど、本当に、千香の実用的なものだな。」
 政司が、半ば厭きれたように言い放つが、千香は一向に気にしていない。

 千香のこう言う強い部分は見習いたいところもあるが。
 決して、負けているつもりはないが、俺も、政司も、千香に勝てるとは思わないし、まあ、勝負しようとも思わないが。

 双子の政司とも、血は繋がっていない千香とも、家族だと思う。
 それに付加された、政司への想いは、どうなっていくのだろう。



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『幹分かつ枝-2-』

 俺自身がゲイだって事、その事で特に悩んだ事はなく、まあ、普通に俺は、自分のそういった性癖を受け入れてた。
 しかし、周りの人間は、それをどう受け取るかはわからなかったから、打ち明けた事はなかったし、少し距離を置く事が多かった。
 そして、ゲイであって、オトコが好きで、その上、最初にその感情を抱いた相手は、俺の双子の弟である、(くぬぎ)政司(まさし)だった。

 生まれた時から、同じ家に住んでいて、小学校を卒業するまでは、親の一戸建ての持ち家ではなく、父親の転勤先の社宅だったから、そんなに広いわけでもなく、部屋数も少なくて、カラダもまだそれ程大きくなかったので、同じ部屋に勉強机があり、同じ部屋で眠っていた。
 まあ、流石に高学年になってくると、カラダも成長して大きくなり、多少、狭さを感じなくもなかったが。

 中学に上がるのと同時に、持ち家に引っ越して、別々の部屋が与えられた。
 今まで、一緒に空間を共有していたから、少し寂しくはあったが、性欲の対象であった、政司と部屋がわかれて、安堵する部分もあった。
 自慰とともにセックスにも、興味が出てきて、実際にしたい相手が傍にいるのに、出来ないのは辛い。

 双子であっても、完全に理解出来る訳ではないが、性格が異なっても、基本的に気が合うので、色んな話をしているが、性的な面に関しては、俺は、一切触れなかったし、政司も、全く触れて来なかった。

 俺と政司では、学校のクラスも異なるので、友人の範囲も異なってくる。
 俺よりも、友人づきあいが大きい政司の友人が、家に押しかけてきて、そこに居合わせた俺も巻き込まれて、「これ、無修正モノなんだぜ」と男女のアダルト・ビデオの放映会が開かれたが、ゲイの俺に、女性のそういう部分は興味がなかったし、どちらかというと、男優の方に眼が行ってしまう。
 そして、それを見て、性的に興奮している政司が、一番の興味の対象だった。

 いつだっただろうか、政司が自分の部屋に誰かを連れ込んでセックスをしているのに、遭遇したのは。
 と言っても、目にした訳ではないが、相手はオトコだった。
 政司がゲイなのか、バイなのかわからないが、政司はオトコ相手にセックスが出来るのか、俺は、それを知ったけれど、それでも、自分がゲイである事も、政司が好きな事も、話す事はなかった。

 政司は、俺が、政司がオトコ相手にセックスをしているのに気付いている事を知らないし、俺がゲイだという事も知らない。
 政司への想いを引きずりながらも、このままではいられない、と、何人かのオトコと付き合った。
 それでも、俺のココロの中に、政司の存在が深く根付いている事に気付いたのか、俺としては、その時の相手と、真面目に向き合おうとしていたのだが、あまり、長続きをする事はなかった。

 俺が付き合った内の一人のオトコに、「俺はあんまり行かないんだけどね」と、あるゲイバーを紹介された。
 高質にあつらえてある、ある種、亜空間のようなそのバーはそれでいて、気どっているわけでなく、客の服装も、ラフな格好から、カジュアルなもの、そして、シックなものと様々だった。
 独特な雰囲気がとても穏やかで、落ち着いていた。
 そのオトコとは一度しか行かなくて、その時はその時で、関係が上手くいっている時だったから、ゆっくり話せたのを覚えている。

 そして、独り客も多く、俺は、たまに独りでそこに飲みに行くようになった。
 基本的に静かなのだが、たまに高めのテンションの客もいないでもない。
 それなのに、バーのその場の雰囲気を壊す訳ではないが少し不思議だ。

 常連客なのだろう、そういう意味で誘われたわけではないが、蛍と名乗る、オトコに声を掛けられて、割と親しい、友人になった。

 それから、喜多嶋直哉というオトコ。
 俺よりも3、4歳上、と言った感じだろうか。
 始めは、割と気さくな感じで声を掛けられた。
 それでも、その時、即ホテルに、というのではなく、その後、何度か、一緒に食事に行ったり、同じバーで会って話をしたりして、やがて、カラダを重ねるようになった。

 そうやって、付き合い始めて、気付いたら、今までの誰よりも長く、付き合っている。
 1年が過ぎ、2年目を迎えようとしていた。
 詳細を話した事はないが、直哉は、俺のココロの中に、他に好きな相手がいる事を知っている。
 そして、それを、「でも、法規は、俺とちゃんと付き合おう、って思ってるんだから、別に問題ないでしょ」と言っていた。

 政司への想いはやはり特別だけれども、直哉の事は、直哉の事でちゃんと好きだと思っている。
 そうでなければ、これだけ付き合ったりはしていない。

 直哉は、イラストレーターで、独り暮らしの自宅で仕事をしている。
 イラストの手法について、詳しくは知らないが、直哉は水彩色鉛筆を愛用している。
 そこそこは売れているらしく、単行本や文庫のイラストも手がけていて、数人の小説家とも繋がりがあるらしい。
 俺は、昔は、小説を読んでいたが、今は、殆どが、仕事の実用書になってしまっていて、小説からは大分、遠ざかっていた。

 何冊か見せてもらって、それぞれ印象に残っているが、その中でも、一番気に入っているのは、立川怜という作家の『海の底の底』だ。
 深海を表す深い青に所々、紫や緑がかっている。
 その中に、数箇所、小さくぼやけたような光が輝いている。

 俺が、そのイラストを好きだと言ったら、直哉に「俺は、その小説の方も好きだよ。短いから、読んでても疲れないし、良かったらあげるよ」と言われたので、ありがたく頂戴した。
 そして、その後、同じような深い青を使った物で、俺の名前からイメージして、と夜空に尾を引くように光っている『ほうき星』、正式名称は『彗星』のイラストを描いてくれた。
 ちなみに、『ほうき星』と『流れ星』は勘違いしている人が多いらしいが、違う物だという事を、俺も始めて知った。

 まあ、俺の『ほうき』は『法規』で全く違うのだが、確かに、子供の頃は、名前で掃除の時にからかわれた記憶もある。
 名前でいうと、弟の政司は『政治を司る』と書く。
 法律、政治、経済、それに関わる人間のコラムを書く父親ならではの命名だろう。
 もし、三つ子だったなら、どんな名前だったかはわからないが、『経済』にちなんでいたのではないだろうか。

 俺は、明日、仕事が休みなので、直哉の家に泊まりに来ている。
 直哉は、決まった休みはないが、マイペースに仕事をしている、というので、会ったりするペースを、俺に合わせてくれている。

 で、直哉の家で食事をするのだが、直哉は基本的にコンビニや出来合いの物を買って食べるので、1人で自炊はしない。
 そして、俺は、親元で、母親が作ってくれるから、料理などした事はなかった。
 外食ばかりしている訳にもいかず、2人の時は、慣れないながらも、レシピを見ながら、一緒に料理を作る。

 見栄えは多少我慢して、レシピ通りに作れば、味はそんなに変な物は出来上がらない。
 まあ、始めの内は、本当は、味も何となくイマイチだったが、今は割りと上達したのではないかと思う。
 それでも、まだ直哉が少し不満気なのは、直哉の、前の彼氏がかなり料理が上手だったからみたいだ。

 食事をして、一休憩して、シャワーを浴びて、ベッドに行く。
 そして、そこで、抱き合った。

 重ねられてくる直哉の唇に、自分から口付けていく。
 薄く開いた唇から舌を進入させて、お互いの舌を絡めとる。

「…ぅ……ふ……」

 長い口付けを堪能した後、直哉の指と舌が、俺の肌をなぞっていく。
 首筋を撫でられ、感じたそこを吸い上げられた。

「…ぁ……は……」

 そこから、徐々に下に降りて来て、乳首を摘まれた。
 摘み上げられて、弄られて、勃ち上がってくる小さな突起を更に、弄られて、そこにある神経が、快感を感じ取っていく。
 両方の乳首を弄られるとたまらなく感じている。

「んん……ぁ……直哉…さ……ん」

 更に、下に伸ばされた手が、勃起したペニスに触れられる。
 直哉のペニスに手を伸ばすと、やはり同じように勃起していて、それを、重ね合わせるようにして、お 互いのペニスを一緒に扱いていく。
 そうすると、硬度が増していくのがわかる。

「法規、イれるよ。」

「ん……」

 アナルにローションの滑りを借りて、指が挿入されてくる。
 入り口を解すように指で慣らされて、その間、ペニスは直哉に咥えられて、その口淫を受けている。

「直哉さん、……も……」

 口が離され、指が抜かれて、代わりにアナルに直哉のペニスが当てられて、ゆっくりと挿入されてくる。
 それを奥まで受け入れて、やがて抽挿が開始される。

「ぁ……はぁ……んん……あ…んん……」

 ペニスが前立腺を擦るように突き上げられて、快感が煽れられ、ソコを更に攻め立てられる。

「…は……ぁ……ん……直哉さん……ソコ……イイ……!」

 言葉で伝えなくても、感じていることは、カラダの反応を見れば、確かなんだろうけど、それでも、伝えたくて。
 激しく突き上げられて、感じて、俺のペニスの先端からは、先走りが溢れている。
 射精感が、もうそこまで込上げて来ていた。

「直哉さん……も……イ…きそ……」

「俺も……もう……法規……」

 直哉の手がペニスに添えられて、射精を促すように扱かれて、俺も快感に酔いながら、アナルを締め付けて、お互い、達していた。

「…っっっ!」

「…ん……く…っ…!」

 達した後、暫らく、裸のまま抱き合っていて、それでも、いつまでもそうしているわけにいかなくて、溜めていた湯船に浸かった。
 本来、直哉が一人で寝るためのシングルサイズのベッドは二人だと狭いのだが、別々に離れて寝るのは何となく寂しい。

 それでも、政司への想いをまだ断つ事の出来ない俺。
 いつか、ただの普通に仲の良い、双子の兄弟という感覚だけになれるのだろうか。
 もし、直哉に詳細を打ち明けた時、もしくは、政司に打ち明けた時、何か、変わるだろうか。

 そう言えば、4つ年下の妹の誕生日が近かったな、とふと思い出した。


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『幹分かつ枝-1-』

 遊んでいればそれなりに楽しい。
 ゲイの友達と会話をしたり、その時の快楽を求めてセックスをするのも。
 一度もセックスをした事はないが、政司が気に入っていた想一がまた顔を見せなくなってしまった。
 元々、忙しくてそんなに顔を出すほうじゃなかったし、相手がいる時は、絶対にこの店には顔を出さない。
 他の店に顔を出しているらしいが、その店を政司は知らないし、知ったからといって、追いかけていく程ではない。

 いくら『遊んで』とセックスを想一にねだったところで、そういう感じでセックスをする政司を想一は軽くあしらってきたし、政司にしても、もし、政司の言葉が叶って、カラダを重ねたとしても、それ以上にはならない事がわかっていた。

 本気になって、失恋するのが怖い、だから、遊び以上で特定の相手を作らない、そう言う訳ではない。
 どうしても、今のままだと、誰とも本気で向き合う事が出来ないから。
 政司のココロに住み着いているオトコがいるから。
 打ち明けた事はない。
 その想いを。
 とても近い距離にいるけれど、やっぱり、遠いところにいる。

 誰か別のオトコと寝たら、少しは変わるのではないかと思っていた事もある。
 そんな風にして、誰かとセックスをしてみても、その相手に対して、気持ちが移る事はなかった。
 手当たり次第、という程ではないが、それでも、何人ものオトコとセックスをした。
 そして、それが、いつしか遊び心へと変わっていった。

 とても身近過ぎるから、自分がゲイだという事も、好きだという事も、返って話す事は出来ない。
 性欲に目覚める前から一緒にいた相手。
 そして、目覚めてから、真っ先にその対象となった相手。
 それから、もう何年経つだろう。

 誰かを抱いた後、彼を抱きたくなった。
 誰かに抱かれた後、彼に抱かれたくなった。
 彼を忘れようとして、他のオトコとセックスをした後も、一時の快楽と遊びでセックスをした後も、やはり、彼の存在は大きかった。

 忘れたくても忘れられない。
 どうしても顔を合わせてしまうから。
 彼の存在を身近に感じて、そのカラダを想像して、自慰にふける。
 彼のカラダも、顔も、匂いも、服も、下着も、手の届くところにある。
 それなのに、やはり、想いは告げられない。

 純粋な遊び相手を、そして、セックスの相手を探す時に彼の面影を捜すことはしない。
 全く、別の存在だから。
 だから、誰かを彼の身代わりとしてセックスをする事はない。
 ただ、楽しめればいい、それだけ。
 それを、虚しいとは思わない。
 楽しみは、楽しみで取っておけばいいじゃないか。

 仕事は仕事、プライベートはプライベート、そう割り切るかのようにすればいい。
 笑顔は大事。
 そして相手の気分を害する事なく話をするのもどちらかというと得意。
 交渉とかは、それ程得意ではないけど、結構強気。
 仕事のに関する事は、それはそれで勉強している。
 一流企業、とまではいかなくても、そこそこのメーカーで営業マンとして、それなりの成績もおさめられている。

 そして、夜、時間が空いて、その気になれば、ゲイバーに出向いて、遊び相手を探している。
 見つからなくっても、そこの友達と、会話を交わす。
 そんでもって、相手が見つかればホテルへしけこむ。
 で、今日、そんな政司に、声を掛けてきた相手。
 本当に、軽いノリで。
 まあ、政司も他人の事は言えないのだが、いかにも遊び人だよな、と思う。
 そこら辺に関しては、深く考えないので、楽しめればそれでいいかと、そのオトコに付いて行く。

 特に、お互い名乗らずに、それでもセックスは出来る。
 仮に名乗っても、本当の名前を明かす必要もない。
 シャワーを浴びて、ベッドで重なり合って、そのオトコを組み敷く。

 口付けて、舌でオトコの口腔内を探って、舌を絡めとり、吸い上げる。

「…ん……」

 乳首を弄ると、その快感に喘いで、口を離し、声が漏れてくる。

「は……ぁ……ん…イイ……」

 オトコが感じるまま、そこを弄り続けて、もう片方の乳首に唇を寄せ、小さな突起を口に含んで吸い上げて、尖った乳首を甘噛みする。

「んん……ふ…ぅ……あ…あぁ……」

 下肢に手を伸ばし、ペニスに触れると、そこはほぼ勃起している。
 オトコも政司のペニスに触れて、そこを扱きながら、カラダを起こして、口に含んでくる。
 政司の硬く勃ち上がってくるペニスを味わうように、舌を這わせ、舐め上げては咥えて唇で扱く。
 十分な硬さをもったペニスから口を離すと政司にそれをねだってくる。

「イれて。」

 ローションを手に取り、アナルに指を差込み、解してから、ペニスにゴムを被せて、挿入していく。

「…は……ぁ……ん……あ……」

 オトコが苦痛を感じていないので、そのまま抽挿を開始する。
 オトコもその抽挿に合わせて、腰を揺すり、快感を得ようとしている。

「…ぁ……んん……ソコ…っ!……イイっ…!」

 感じると告げられたその箇所を狙って、ペニスで突き上げていく。
 それがたまらないのか、オトコは上がる声を押さえようとしない。

「はぁ…ん……イイよ……もっと……突いて……!」

 オトコが望むままにそれを与える。
 感じることを楽しむのなら、それを制御する必要なんてない。

「も……ぁ……イきそ……ん……っっっ!」

 そのまま、オトコは放っていた。
 そして、政司も、アナルの締め付けの中で達した。

 セックスを終えて、ホテルを出て、大した会話も交わさず、そのオトコと別れた。
 政司は、そのまま家路に着く。
 カラダの欲望は満たされたはずなのに、やはり、いつも通り、彼が欲しくなった。
 まあ、叶わないけど。

 家に帰れば、顔を合わす事になる。
 その彼と。
 政司の双子の兄、(くぬぎ)法規(ほうき)

 どんな相手なのかは知らないが、法規に恋人がいるらしい事は何となくわかる。
 いつ付き合い始めたか、いつ別れたか、厳密にはわからなくても、今は確かに相手がいるようだ。
 法規は法規で、夜遅くに帰って来る政司の事をどう思っているのだろう。
 政司にも、そういう相手がいると思っているのだろうか。

 生まれたときから、ずっと一緒の家に住んでいる。
 お互い、社会人となった今も、まだ両親の元にいる。
 幼稚園、小学校、中学校と同じ学校に通ってきた。
 高校は流石に離れてみようかと、別々のところに行った。
 それでも、何故か、大学は、目指す学部は違っても、同じ大学に通った。
 まあ、広い大学内だから、同じ大学といっても、大学内で顔を合わす事は殆どなかったが。

 特定の相手を作った事がない、と言ったが、実は、両親が共働きで家を留守にするのが多いのをいい事に、本当に一瞬だけ付き合った相手を、家に連れ込んだ事はある。
 2、3回位だっただろうか。
 まあ、お互い、半分遊びの延長みたいなものだったから、別れてしまったが。

 政司と違って、どちらかというと、法規はおとなしい性格をしている。
 仕事の種類も全然違う。
 医学の道に進んだ法規だが、実際の医療の現場に立つのではなく、翻訳会社に就職して、主に、医薬系の翻訳を担当しているはずだ。
 語学系の物は勿論、専門用語を扱うだけにその系統の日本の専門書も置いてある。

 一卵性双生児で、容姿はよく似ているが、性格までは似なかった。
 芸能人で、よく気の合う双子が出てくるが、政司と法規はそうではないようだ。
 双生児のDNA的理論は法規の方が詳しいのだろうけれど。

 いつか、法規は恋人を連れて、家にやって来たりするんだろうか。
 そうしたら、俺も吹っ切る事が出来るんだろうか。
 今はまだ、政司の中での法規の存在は、色々な意味で大きい。



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『幸せのカタチ-3-(完)』

「頭で考えるのもいいけど、考えても、どうしようもない事ってあるよ。……でも、幸生は考えてしまうんだね、どうしても。」
 雫は、少し悲しそうに微笑みながら、俺にそう話した。

「考えても仕方がないのかな、やはり。」
「仕方がないのとは、少し違う。でも……」

 その先を、雫は何も話さなかった。
 俺も、その続きの言葉を尋ねなかった。

 俺は、自分の生い立ちを雫に話していた。
 同情が欲しかった訳ではない。
 ただ、何となく知っておいて欲しかった。
 雫は、そんな俺の話を、静かに聞いていた。
 話を終えた後も、何も話さなかったし、俺も、雫がどう感じたのか尋ねなかった。
 尋ねても、やはり答えは返って来なかったと思う。

 代わりに別の事を尋ねた。
「雫、『幸せ』って、何だろう。」
「……それは、人それぞれが、感じる事だから、明確な定義なんて、ないと思う。」

 それは、俺も、何となくわかっていた事。
 それでも、どうしても発してしまう問い。
 俺が、逃れる事の出来ない、その『幸せ』を求める『カタチ』。
 『カタチ』なんて、きっとどこにもない。
 けれども、それを欲してしまう。

 求めても、求めても、手に入れることの出来ない『カタチ』。
 だから、より一層、それを求めてしまう。
 叶わないなら、叶うものを、叶う『カタチ』で。

 そうして、雫のカラダを求める。
 雫が、応じてくれるから。
 そこに感じる、快感だけではない、雫の優しさ。

 雫の口付けを、雫の愛撫を受けて、快感に喘ぐ。
 よりもっと、もっと、深く、抱いていて欲しい。
 今は、そう、今は。

 雫のペニスをアナルに受け入れて、よりリアルにその存在を感じる。
 抽挿されて、突き上げられて、抑えられない、抑える必要もない、溢れ出てくる様な快感を。
 それが、雫によって、もたらされているものなのだと。

「…あ……あぁ……ん……雫……イイよ……もっと……」

「幸生……」

 溢れ出てきても尚、満たす事の出来ない飢え。
 渇望して、求められるだけ求める。

 それでも、少し充足しているのは、雫がいるからだろう。
 『飢えを満たす事が出来ない』
 雫にもしそう言ったのなら、雫は、きっと、笑って、こう答えるだろう。
 「満たされてしまったら、それ以上、求める事が出来ない。」と。
 だから、本当は、少し飢えていた方がいいんだ。

「あ……はぁ……んん……ぁ……雫……イく……」
「イイよ……幸生……もう……私も……」

 突き上げられながら、ペニスを扱かれて、放った。
 そして、雫も、俺が締め付けたアナルの中で、射精を迎えた。

「雫……もう少し、このまま、抱いていて。」
「うん。」

 射精して、萎えても、ある程度の存在感は感じる事が出来る。
 重なった鼓動が、次第にゆっくりと規則的にリズムを刻んでいく。
 まるで、時計の針のように、時が流れていくように。
 実際に、時は経過していっているんだけれども。

 暫らくして。
「ありがとう。もう、これ以上していたら、また、欲しくなっちゃう。」

 雫は、ペニスを抜いていったけれど、こう言った。

「でも、まだ足りないのは、本当でしょ? 幸生、来て。」

 雫の求めに応じて、俺も雫を抱いていく。

「…あ……あぁ……ん……幸生……」

 俺は、どこへ行くのだろう。
 雫、俺は……。
 きっと、雫の元へたどり着く事は出来ない。
 こうして抱いていても。

 雫は、決して、俺の肌に跡を残さない。
 俺は、雫の肌に、キスマークを一つ残した。
 雫の白い肌なら、それは、よく映えるだろう。
 まあ、目に付くところには付けなかったが。
 やがて、消えるきえるだけど、1つの『カタチ』として、それが欲しかった。

 そして、『恋人』としての、『カタチ』をさらに『カタチ』としたかった。
 俺に指輪を、雫にはタイピンを。
 シンプルなシルバーなものに、刻印をのせて。
 その刻印を、選んだのは雫。

 『S&S&L』

 それが、何の意味なのか、俺にはわからなかった。
 雫に尋ねると、半分冗談めかして『Sweet Sex Life』と答えが返ってきた。
 多分、他に、何か意味があるのだろうが、雫は教えてくれなかった。

 その頃には、俺が、ゲイで恋人がいる事は、ほぼ、公になっていた。
 あからさまにではないが。
 それが、好奇な目だとしても、『恋人とはどうなのか』と問われれば、『上手くいっています』そう答えられるようになっていた。
 ただ、相手が、雫である事は、明かさなかったが。
 『恋人』としての『カタチ』が世間に公になった。

 モデルとしても、ほぼトップクラスとして活躍しており、その後の転身についても、暗い影はなかった。
 業界での『名声』と言う『カタチ』もしっかりと充実していた。

 活躍して、稼ぐ事が出来れば『金』と言う『カタチ』も、文句の付けようがなかった。

 世間からして、羨まわるだろうその『カタチ』。
 『幸せ』になる為に求めたその『カタチ』が十分過ぎる程満たされている。
 それなら、もう、いいのではないかと思った。
 これ以上もう。
 そして、今なら……いや、今しか。

 世間に認められても、その『カタチ』がしっかりしていても、俺は、それを『幸せ』だと感じる事が出来なかった。
 逆に、追い詰められた。
 もう、いいのではないかと。
 『幸せ』に『生きる』『カタチ』が見つからない。

 だから、俺は……。

 ああ、でも、雫と共に過ごした日々は、やはり『幸せ』だったと思う。
 俺が、『愛した』雫。
 その雫に『愛された』俺。

 その、『幸せ』にも『愛』にも『カタチ』はなかった。

 『カタチ』として、持った筈の指輪にも、タイピンにも、もう、何の意味もなかった。

 『生きる』『カタチ』をもう選べないから。
 『死ぬ』『カタチ』しか。
 いや、そこに、『カタチ』はあるのだろうか。

 『別れ』の『カタチ』も。

 付き合ってから、3ヶ月しか経っていないけど、それまでの30年間よりずっと、俺にとって、濃密に『生きて』来れた気がする。

 ごめんなんて、謝れないし、謝らないよ。
 それが、相応しくないと感じるから。
 雫は、きっと微笑んで見送ってくれる。
 俺は、雫に色々話したけれど、雫の事は、殆ど知らない。

 それでも、誰よりも、愛してた。

 俺が、マンションを買っても、殆ど何も置かなかったのは、『死ぬ』為の準備をしていたから。
 『死ぬ』時が欲しかった。

 俺は、雫へ、手紙を送った。
 最初で、最期の手紙。

 『雫へ

    ありがとう
   
          幸生』

 たったそれだけの言葉。


 そうして、俺は、首を吊った。


************************************************


 世間から見て、順風満帆だった筈の、彼、橘幸生の自殺を、誰もが、不思議がった。
 『自殺』する『理由』がどこにも見当たらないから。
 騒ぎ立てても、いずれは、忘れ去られていくだろう。
 彼が求めた『存在』も『カタチ』も、もう今はない。
 雫が手紙を見て、彼の元へ向かった時は、既に、絶命した後だった。
 今回は、たったの3ヶ月だけれど、雫が目の前にした2度目の『恋人』の『自殺』だった。
 この事実は、雫以外、誰も知らない。
 誰にも話す気はない。

 そして、あの指輪もタイピンも、彼の死と共に、始末した。

 『S&S&L』

 それは『Secret Sweet Lie-秘密の甘い嘘-』
     『Soon Spell Liberate-早い呪縛の解放-』

 そして並び替えて『Selective Last Sleep-選択した永眠』



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『幸せのカタチ-2-』

 俺は、いわば捨て子だった。
 産まれて間もなく捨てられていた。
 幸運にも発見されたのが早かったので、置き去りにされたまま死ぬ事はなかった。
 何も、身元を示すようなものが残っていなかったので、捜索しても、手懸りはなかったし、名乗り出てくる親もいなかった。

 戸籍もなかったので、俺が発見された市長の職権によって、戸籍及び、住民票が作成された。
 姓は首長の姓を拝借する事もあるようだが、俺の場合、俺の捨てられた場所、その木の根元から『橘』という姓がつけられた。
 そして、そんな状況でも、少しでも幸せに生きることが出来るように『幸生』と名付けられた。

 乳児院で3歳まで育った後、児童養護施設へと移管された。
 養子縁組などで、里親の元へ引き取られて行く場合もあるが、俺の場合は、そうはならなかった。
 そこには、色んな事情を抱えた子供たちがいた。
 やむをえない理由で、育てられなくなった子供や、虐待されている子供もいた。
 いずれにせよ、普通の家族と言う『カタチ』の元で育つ事の出来ない子供達だった。

 児童養護院にいても、場合によっては、そこで、虐待や児童間でのいじめが起こったりすることもあるようだが、俺の場合は、それはなかった。
 義務教育を終え、特別育成費の支給によって公立高校へと進学した。
 少しでも、俺の存在を認めて欲しい。
 だから、頑張って勉強したし、成績もかなり良かった。

 けれど、やはり金銭面から、大学進学は出来なかったし、特に、大学に進んでやりたい事とかそういうものもなかった。
 より、自分の存在を世間に認めてもらいたいというのもあったのだろう、全くその存在は知らないけれど、その面では感謝しよう。
 恵まれた体躯とルックスで、モデルへの道を歩み始めた。

 始めから、そんなに仕事が与えられるわけではない。
 けれども、少しずつだけれど着実にモデルとしての俺を認めて貰える様になっていった。
 『名声』という『カタチ』。
 それが、手に入るようになった。

 それから、『金』という『カタチ』。

 世間的に見たら、俺の生まれは『不幸』なのかもしれない。
 けれど、俺は、それを『不幸』だと感じてこなかった。
 ただ、『幸せ』というものもわからなかったが。

 だから、俺は、世間が描く『幸せ』に拘った。
 『幸せ』に『生きる』事。
 どうやったら、俺は、『幸せ』になれるのだろうか。

 もし、俺がゲイでなかったら、そうやって育ってこなかった『家族』という『カタチ』を求めていたかもしれない。
 ゲイである事、オトコしか愛せない事、それがわかっていた。
 それなのに、無理して、結婚して、子供を作ろうとは思わなかった。
 俺は、当然、オンナを愛せないし、恐らく、子供も愛する事が出来ないだろう。

 いや、本当は、『愛する』という事自体が微妙だったのかもしれない。
 だから、ずっと、望みながらも『恋人』という『カタチ』を持てなかったのだろう。
 望む、と言っても、俺自身、その感覚がよくわからないから、世間が羨むもの、その『カタチ』を追っていた。

 その『カタチ』を得る事が出来たら、俺は『幸せ』になれるかもしれないと思った。
 トップ・モデルとして、名を馳せる事が出来た俺。
 幸運にも『名声』と『金』を得る事が出来た。
 特に、拘りがなかったけれども、『金』を元手に、俺が住む場所、それを、俺の物として、マンションを購入した。
 そうやって、『住処』としての『カタチ』を手にする事が出来た。

 そして、『恋人』としての、雫。
 忙しい中での、お互いの逢瀬に、特に不満はなかった。
 そんな雫に抱かれる事、抱く事。
 『恋人』と『セックスをする』という『カタチ』。
 それは、今まで、他のオトコと『セックスをする』という事と、同じではないと思った。

 『セックスをする』という『カタチ』自体、変わった事ではない。
 『セックス』によって、同じように『快感』を得ても、どこか違っていた。
 『カラダ』の『相性』とか、そういう問題ではないと思う。
 いや、勿論、『相性』も良かったのかもしれないが。
 多分、相手が、雫だったから。
 他のオトコでは駄目だったと思う。
 例え、『恋人』にと望まれても。

 別に、雫との『セックス』に溺れていた訳ではない。
 それは、『金』にしても『名声』にしても同じ事。

 雫に求められて、俺も、雫を求める。

 雫の唇が、俺の唇と触れ合って、その感触を確かめるようにしっとりと重ねられ、雫の首に、腕を回し、より近くに引き寄せる。
 重ねられるだけだった、口付けが、深くなっていく。
 開いた唇から、舌を差し入れ、絡み合った舌が、その触覚を、味覚を味わっていく。

 雫の指先が綺麗だと思うのは、惚れた欲目なのだろうか。
 別にそれでも構わないのだが、業界で、いろいろな人と会ってきたけれど、それだけではないと思う。
 その指先が、優しく器用に、俺の肌に触れてくる。

「…ぁ……は……んん……あ……」

 刺激され、敏感になった乳首を摘み上げられる。
 そこに通っている神経の存在を、快感として受け止める。

「は……ぁ……イイよ……雫……」

 まだ、触れられていないペニスも、勃ち上がってきている。
 俺の欲望は、忠実に雫を求めている。
 そして、そのペニスを直に触れられて、その手で扱かれてくる。

 俺も、雫のペニスに手伸ばし、同じように雫も求めてくれているのだと言う事がわかる。
 お互いの手の中で、お互いの手によって、ペニスの硬度が増してくる。

 雫が空いた方の手で、俺のアナルに触れてくる。
 ローションを使って、指よりも確実な物を受け入れられるように解されていく。
 けれども、その指の存在も、やはり、気持ちがいい。

「んん……ぁ……雫……あ……」

 ペニスを受け入れて、アナルで快感を得られる事を俺のカラダは知っている。
 知っている。
 どこでだろう。
 頭で、それとも、カラダで?
 ああ、でも、それは、今はどうでもいい。
 どちらでも、変わりはしないのだから。

「雫……もう……イれて……」

 雫が、ペニスにゴムを装着して、俺のアナルと、雫のペニスにローションを垂らして、潤滑にペニスを挿入してくる。
 挿入される事で、その先にある快感に期待して、感じてアナルを締め付ける。

「幸生……」

 名前を呼ばれて、抽挿が開始される。
 アナルの内壁の感じる場所を目掛けて、的確にそこを突き上げてくる、雫のペニス。

「…ぁあ……イイ……あ……もっと……っ…!」

 望めば、雫が与えてくれると、そう知っているから。
 そして、きちんと、その求めに実際に応じてくれる雫。

「あ……んん……ぁ……雫……雫……」

「……幸生……」

 お互い、射精の時が近付いているのがわかる。
 その時を迎えようと、行為が激しくなっていく。
 それから、やがて、快感の中で吐精した。

 オトコ同士で、どうして性欲が芽生えるのかわからない。
 実際に、性欲があり、セックスをしても、そこに意味があるのだろうか。
 わからなくても、欲してしまうのは、何故だろう。

 雫に、求められて、雫を抱いていく。
 俺の愛撫で、快感を得ている雫。

 この快感は、一体どこからやってくるのだろう。

 けれど、やはり、欲望は芽生え、勃起したペニスを雫のアナルに挿入していく。
 抽挿して、締め付けられて、確かに快感を得ているのだけれども。
 雫も、同じように、俺のペニスを受け入れて、感じているのだけれども。

「ああ……イイよ……幸生……」

 雫は何を見ている?
 この行為の中に。

 ああ……でも。
 そういえば、オトコとオンナでも、生殖とは離れた所で、セックスをしている。
 人間は、他の動物とは違う。
 季節を問わず、セックスを行うのは、人間だけなのだ。
 その欲望が芽生えるのも。
 俺が、ゲイである事はわかっているし、認めている。


 そして、その行為が、生殖に結びついたとしても、俺のように捨てられる子供はいる。
 そんな、俺の存在の『カタチ』は、何なのだろう。

 もし、雫にそれを問うたら何と答えるだろう。
 それから、『幸せ』に『生きる』とは。
 そこに、どんな『カタチ』が存在するのだろう。



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『幸せのカタチ-1-』

 『幸せ』か。
 ふと、雫は、昔の事を思い出していた。
 あれは、まだ、バーを開く前の事だ。
 一体、幾つまで若いのかと問われても、疑問に思うのだが、やはり、あの時は、少なくとも今よりは若かった。
 そう、全てにおいて。
 今は、もう何も残っていない。
 彼から、そう、橘幸生から送られてきた手紙も、燃やしてしまったから。

***************************


 俺が、彼に初めて会ったのは、仕事がほぼ順調に進んできた頃だった。
 主に、国内の有名ブランドのファッションモデルとして、コレクションのショーやファッション雑誌に身を飾っていた。
 彼を見たとき、彼自身も、モデルなのだろうと思ったのだが、実際は違っていた。
 俺が所属していたモデル事務所の社長と知り合いなのだと言う。

 俺自身が、そういった業界に身を置いているから、外見として、それぞれ個性はあるものの、整っている人間には慣れていた。
 それでも、彼に惹かれた理由、それは、彼が、ゲイである事を、オープンにしていたからだろう。
 俺自身が、ゲイである事、それは、暗黙裡にあったが、彼程ではない。

 当時、というか、それまでに於いて、ほぼ特定の相手と付き合う事はなかった。
 恋人が欲しくない訳じゃない。
 寧ろ、逆だった。
 本当は欲しかった。
 ただでさえ、業界に身を置くと、その恋愛は、マスコミの格好の題材となる。
 しかも、ゲイである事は、それ以上に興味本位の対象にしかならないだろう。
 しかし、それでも、『恋人がいる』と言う、『幸せのカタチ』が欲しかった。

 調度、事務所に用事があった時に彼がいて、社長に紹介された。

「こんにちは。始めまして。私、宮下雫と言います。橘幸生さん、ですよね。お会い出来て光栄です。」
「こちらこそ、はじめまして。」

 社長は、ゲイである事をオープンにしている、雫の事も知っていたし、暗黙裡にだが、俺がゲイである事を知っていた。
 お互いが、ゲイである事を知った後、積極的だったのは、雫の方だった。

「お付き合いしてる人とかいるんですか?」
「いえ。残念ながら。」
「もし、良かったら、付き合ってもらえませんか?」

 俺に、断る理由もなかったし、実際、雫に惹かれていたのでその場で、OKした。

「宮下さんは……」
「雫、で構わないです。私も、幸生って呼んでもいいですか?」
「あ、ええ。」

 どうしてそこまで、ゲイだっていう事をオープンに出来るのか、不思議だった。
 でも、雫は、自分がゲイである事を公言しているので、そうではない相手に対して、その関係が露見しないように、気を付けてくれていた。
 ゲイである事を気にせずに付き合ってくれる友人もいるけれど、そうでない人間もいる。
 その事をきちんとわかっている。
 いつからなのか、と尋ねてみたら、大学に入学した時から、と言っていた。

 俺と、出会い、付き合い始めた時、雫は、28歳だった。
 俺自身は、雫より2歳年上の30歳。

 雫は、色々な面で、付き合いが広いようだし、その年齢層も、幅広いから、知識や教養といったものは、かなり豊富だった。
 そして、その考え方も、かなり柔軟だった。
 雫の方が、2歳とはいえ年下なのだが、内面としては、上なのだと思う。
 何故そこまで、広い付き合いがあるのかというと、雫の以前から親しくしている知り合いが、かなり年上で、社会的地位が高いから、その知り合いのつてで、という事だった。

 俺のマンションも広いが、雫の住んでいるマンションも劣らぬくらい広かった。
 本業よりも、サイドビジネスからの収入が大きいという。
 1つ言えるのは、雫は必要以上のものを置かない、趣味は趣味で、それにかなり拘りがあるようだが、俺の部屋は、本当に必要最低限のものしかない。

 俺は、仕事上、食事にはかなり気を使っていた。
 雫は、そこのところもよくわかっていたようだ。
 その上で、雫は、俺と共に食事をする。
 雫の作る料理は、バランス面においても、味付けにおいても、文句の付けようがなかった。
 元々、色々工夫して、料理をするのが好きなのだという。

 雫と付き合うようになって、雫の家で過ごす事が多くなった。
 そして、カラダを重ねる機会も。

 ベッドの上で、触れ合っていた唇が、濃密に絡み合っていく。
 急いている訳ではなく、丁寧に深く口付けられる。

「…ふ……ん……」

 舌を吸い上げられて、思わず喉が鳴った。
 口腔内を堪能した後、それでも尚、名残惜しげに、離れていく唇が、指と共に肌に降りてくる。
 首筋をなぞり、指が、舌が、肌の熱を高めていく。
 乳首を摘み上げられて、その刺激に敏感に反応する。

「……ん……ぁ……」

 その快感の反応を引き出すように、更に触れてくる、唇と指。
 摘まれて、吸い上げられて、軽く歯を立てられて。

「は……んん……ぁ……ん……」

 下肢に伸びた手が俺のペニスに触れてくる。
 そこはもう、勃ち上がりかけていて、手で扱かれる度に硬度を増していく。
 唇もペニスに達して、咥えられる。
 勃起したペニスをその口淫によって、更に昂ぶらされる。

 俺のアナルに触れた指が、ローションの滑りを借りて、挿入されてくる。
 そして、アナルの裡を探るように入り口を解される。
 裡を探っていた指が前立腺に触れ、快感が漏れそうになる。

「あ……は……ぁ……んん……」

「幸生……イれるよ。」

「ん……」

 雫のペニスが俺のアナルに挿入されてくる。
 一旦、奥まで挿入すると、少し、カラダが慣れるまで、そのまま下肢は繋がったまま口付けを交わした。
 それから、抽挿が開始される。

「…ぁ……んん……あ……は……雫……」

 徐々に突き上げるスピードを増しながら、俺の感じる場所を擦り上げてくる。

「雫……あ……ん……イイ……っ……!」

 ペニスの先端から、先走りが溢れ始め、限界が近付いている。
 雫は、それを促すように、ペニスに触れてくる。
 俺も、雫の射精を受け止めようと、アナルを締め付ける。

「…は……ぁ……雫……イく…っっっ!」

「ん……幸生…っ…!」

 絶頂を迎えて、一時の休息に入る。
 呼吸を整えながら、落ち着いてくると、再び唇が重ねられてくる。

「幸生も、抱いてくれるでしょ?」

 雫が求めてくれるなら、俺も、それに答えない訳がない。
 今は、それに答えられるから。

 そうして、雫のカラダを愛撫していく。
 昂ぶってくるお互いのペニスを扱き上げ、その快感に身を任せる。

 そして、雫のアナルに、俺のペニスを挿入して、感じられるその場所を、お互いに刺激する。

「…あ……は……あぁ……幸生……」

 雫に、俺のその名前を呼ばれる。
 そうやって求められて、精を放った。

 雫。
 雫はね、何となく、他の誰も見ない俺の事を見てくれていると思うんだ。
 多分ね、それは、気の所為じゃないと思う。
 何が雫をそうさせているのかはわからない。
 でも、問わない。
 俺からは決して。
 だから、きっと、雫も、それを話さない。


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『星降る言葉-7-(完)』

 映画の製作発表を終えて、もうすぐいよいよ始まるのだという実感が湧いて来た。
 主要な3人の役者の中で、俺が一番若い。
 年齢をとってもそうだし、役者経験としてもそうだ。
 一役、一役をこなしていく事は、役者を続ける上で、勉強になるのは当たり前の事だし、これが、最初だとも言わないし、最後だとも言わないけれど、俺にとって、1つの大きな山になることは間違いないだろう。
 少なくとも、俺は、そう思っている。

 相手の女優とも、その夫役の俳優とも少し、話を交わした。

 女優は、これだけ若くて、カッコイイ男に、気を狂わせるほど惚れ込ませられるなんて、女冥利に尽きるわね、と言っていた。

 夫役の俳優の方は、実際結婚していて、子供もいる。
 俳優として立派に仕事をこなしている人だとは思うけれど、家に帰ると、奥さんに頭が上がらないらしい。
「人間として、一皮向けた女性は強い。男なんて、太刀打ちできないよ。よく言われるのは、出産時の痛み。あれを乗り越えられる男はいないだろう。そんな機能自体ないけどな。お互い、捨てられる者同士だけれど、頑張ろう。実際に、私は、本当に妻に捨てられないように気を付けないとな。」
 そう語っていた。
 俺にも気をつけるように、と助言してくれた。

 これから、一緒に仕事をしていく仲間。
 第一印象として、悪くはなかったようだった。

 監督やプロデューサーとも再び挨拶を交わした。
 そして、成澤とも。

 その場がお開きになって、それぞれ、別れていったけれど、その後、もう何度目になるだろう、成澤の家に行った。

「いよいよですね。」
「ええ。現場に立ったらもっと違うでしょうけれど、あれだけの関係者と顔を合わせれば、やはり、そういう気分になりますね。」

「ねえ、成澤さん。もし、もしですよ。青年の願いが叶って、それ程恋焦がれた女性と結ばれたとしたら、その関係は、続くと思いますか?」
「さあ……どうなんでしょうね。その熱い想いが、続くかもしれませんし、穏やかな愛情に変わっていくかもしれませんね。もしかしたら、もっと、違う絆で結ばれるかもしれませんし。続いていくとしたら。」
「恋は一瞬の幻想に過ぎないのではないかと、感じてしまうんです。」

「一瞬の幻想。確かにそういう部分もありますね。生きている事自体が幻想のようなもの。その中での人の、想い。そう、例えば、恋。感情は、永遠ではあるとは言えないけれど、移り変わる中で、何か別の想いを抱いているのではないでしょうか。」
「恋じゃなくなっても、何かしらの感情が、ココロに残り続ける、と。」
「ある二人の関係性において、『恋』が『愛』に変わる瞬間。そして、その『愛』がまた何か違うカタチに変わる瞬間。その瞬間瞬間を捉えることができなくとも、自然と、二人の間で時が流れていくかもしれません。」

「『恋』でも、『愛』でもない別のもの……」
「そのそも、『愛情』と言うものも、とても、色んなカタチを持っていますよね。恋愛関係における『愛情』も、親子の間にある『愛情』も。そして、人間ではなく、何か、物に対する『愛情』も。」
「物に対する『愛情』。『愛情』を込めて花を育てる、とか言いますよね。ペットに『愛情』を注ぐ人もいますし。そんな花が、きれいに咲いてくれたら嬉れしいでしょうし、ペットが懐いてくれたら嬉しいでしょうし。」

「もちろん、見返りがあったら嬉しいでしょう。そういう場面を想像して、『愛情』を与える。まあ、見返り、と言っても、その人それぞれでしょうがね。ただ、単純に『愛情』を注ぎ続けること、それが出来ることも、また嬉しかったりします。」
「成澤さんは、そういうのがあるんですか?」
「そうですね。言葉に……でしょうか。小説を書かれる方は、特に、かもしれません。その人達が、紡ぎあげる、言葉の1つ、1つに、それぞれ、想いを込めます。何気ない単語でも、そこに書き込んだからには、作者にはそれなりの想いがこもっていると思います。読む側が、自然と受け流してしまう単語でも、作者にとっては、その作品にとって、欠けてはならないものなのです。深い意味なんて、ないかもしれないです。けれども、必要なのです。」

「脚本を書かれる時だってそうでしょう?」
「もちろんそうですよ。ある人物が話す言葉、1つ1つをとっても、それを大切にしたいです。長い台詞でも、たった一言でも。どれだけの単語が、この世にあるでしょう。日本語だけに限ったとしても。同じ1つのものを指す場合でも、複数の単語があります。少しずつ、それはそれで微妙にニュアンスが異なりますが。それを使い分ける時、どう表現したら、一番しっくりくるか。言葉の数を例えるなら、砂漠の砂のように、夜空に瞬く星のように。」
「数え切れないほど沢山ありますね。無限なわけではないけれども。」

「ええ。そして、私が選んだ言葉を、実際に川島さん達、役者さんが、もっと幅広いものに変えてくださる。」
「演じて、表現することによってですか?」
「その声のトーン、言葉と言葉、会話と会話の間合い、その時の表情、その全てが、観る人達に、降りそそいでいくのです。」

 その大切に書き出された台詞を、丁寧に読めばいいわけじゃない。
言葉に合わせて、その時の、演じている人物が、何を思っているか、何を感じているか、それを解釈し、口から発する。
 そしてまた、役者にとっては、台詞を話しているときだけが全てではない。
動くにしても、じっとしているにしても、カメラが回っている間は、演じ続ける。
そうする事とによって、より、その世界は広まっていく。

「成澤さんは、言葉を大切にされていらっしゃいますけれど、言葉を用いなくても、繋がっていける関係は、あると思いますか。」
「そういう場合もあるでしょうね。言葉なんて、必要ない時も。でも、やはり、言葉がなければ、伝わらないこともあると思います。もちろん、言葉にしたからって、完全に伝わるわけではありませんが。」

「成澤さん、俺は、ずっと怖かった。もし、言葉にして、拒否されたらどうしよう、と。でも、それでも、言葉にしなければ、始まらないんだろうなって思いました。……俺は、成澤さんが、好きです。」
「川島さん……」
「この映画の話を持ちかけられたとき、成澤さんが、俺を起用したいと望んでいると知って、貴方に興味を持ちました。本来なら、それだけで終わっていたかもしれません。でも、実際、お話をさせていただいて、貴方に惹かれていくのがわかりました。カラダも重ねて、その後も、色々、お話をさせていただいて、どんどん、惹かれていって、やはり、貴方の事が好きなんです。ドラマで、色んな愛の台詞を囁いてきたけれども、今の俺には、こう表現する事しか出来なくって、精一杯の、気持ちなんです。」

「私にとって、川島さんは、ずっと、別世界の人で、憧れの存在でした。実際映画を一緒にお仕事させていただくとしても、それは、大して変わらないだろう、と。川島さんが、ゲイだとわかって、私に興味を持ってくださって、色々お話をさせていただいても、それ以上の、関係を望むまいと思っていました。……私も、川島さんの事が、好きです。本当にシンプルな言葉だとは思いますけれど、それが……一番嬉しいです。」

『好きだよ』『愛してるよ』その使い古されたシンプルな台詞でも、こんなにも、ココロに響くものなのだ。
星の数ほどある言葉の中で、選ばれた言葉。
シンプルだからこそ、余計な装飾を持たずに、すっと、ココロに入り込んでくるのだと。

もちろん、それでも、人々は、様々な愛の台詞を考えるだろうが。
それもまた、言葉という文化を生み出した人間の(さが)なのだろう。

「成澤さん。この気持ちが、恋なのか、愛なのか、どんなカタチを今しているのかわかりません。それでも、受け入れてくださいますか?」
「私は、どれだけ短い時間でも、川島さんと、同じ時を過ごせるのなら、その時を、大切にしたいです。」
「恋人として、一人に人間として、貴方と共に生きていきたいです。」
「川島さんに、そう言って頂けるなんて、夢みたいです。」
「そんな、俺こそ、夢を観ているようで。」

 それでも、夢なんかじゃない。
 こうして二人、今目の前にいる。
 人生自体が、夢、幻だとしても、それを、共有できるなら。

「夢じゃない証拠を、確かめてみますか?」

 そうして、また、カラダを重ねる。
 お互いの気持ちを、その存在を、より深く刻む為に。

 求め合う口付けも、絡みあう舌も、今、その為にあるのだと。
 息継ぎをする間も惜しいほど、激しく口付けあって、それでも、足りないくらいで。
 けれど、それだけで、満足できるわけもなくて。

 更なる刺激を求めて、成澤の指が、俺の肌に触れてくる。
 愛撫を受けて、それに反応していく。
 感じる乳首を、弄られて、声が漏れる。

「…ん……ぁ……」

 それを、隠す必要もない。
 逆に、確かに感じている事を、伝えたくて。
 でも、今は、言葉にしなくても、感じている事は、確かに伝わっている。

 お互いの昂ぶったペニス。
 俺は、成澤のペニスを深く咥え込んで、より、快感を引き出していく。
 そして、また、今度は、成澤も同様に、俺のペニスを咥えてきて。
 指を挿入されたアナルも、その先にある行為を期待している。

 待ち望んだアナルに成澤のペニスが、挿入されて、その存在をより実感する。
 もちろん、それだけではなくて、抽挿され、刺激されて、与えられる快感を追う。

「あ……あぁ……は……ぁ……」

 感じているのは、成澤も同じで。
 お互いの目の前にいるのが、お互いである事が嬉しい。

「ん……ふ……ぁ……ぁあ……」

 突き上げられながら、ペニスを擦られて、射精していた。
 それから、成澤も、俺の裡で達した。

 俺も、また、成澤も望むように再び行為を始める。
 俺の手で、成澤の快感を煽って、そのアナルに俺のペニスを挿入する。
 俺のペニスでちゃんと快感を得ている、成澤。
 勃起し続けるペニスが、その先端から滲み出る先走りが、それを示していた。
 俺自身も、限界が近くて、より抽挿を激しくして、成澤のペニスを刺激して、欲望を放った。

「成澤さん、もう少しこうしていてもいい?」
「ええ。」

 射精して、ペニスは萎えたけれど、もう少しその裡の感覚を味わっていたかった。
 いつまでも、そうしている訳にはいかないから、抜いたけれども。

 映画の撮影が始まれば、二人きりでこうして会える機会も少なくなる。
 実際にクランクインして、忙しくなった。
 もし、映画が終わって、としても、仕事を続けていくのなら、頻繁に会えなくても仕方がない。

 そんな中で、時折重ねる逢瀬。
 カラダを重ね、言葉を交わすうちに、少しずつ変わっていくこともある。

 二人で会うときだけ、『尚司』『恭平』とお互いの事を呼ぶようになったし、話し方も、変わってきた。

 肝腎の映画も、成功して、世間から、それなりの評価も受けた。
 その後の俺の演じる役柄も、少し幅が広くなった。

 俺も、成澤も認められればそれだけ、忙しくなるのだけれど、それで、会う機会が減ることに不満はない。
 会っている間が、充実しているから。
 結婚する事はもちろん出来ない。

 ただ、『好き』だから。
 それだけだったら、この関係は成り立たないだろうし、続かないだろう。
 もちろん『好き』であることには変わりないけれど、そこに、何か別の感情が交じり合っているから。

 これだけある言葉の中で、その感情をなんと呼ぼう。
 色々な言葉が生み出されていくけれど、名付けなくてもいいのではないだろうか。
 俺たちが、人生の一部分を共有していけるのならば。



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