暴走書家

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『星降る言葉-6-』

 取り敢えず、今入っている連続ドラマの収録が佳境を向かえ、忙しい日々を過ごしている。
 その為、成澤と会う事は出来なかったが、仕事は充実していた。
 今回のドラマの中で、出会いと、すれ違い等の様々な波乱、そして、一時の決別を経て、最終的には、2人の男女は結ばれた。

 降りしきる雨の中で、傘を投げ出して、お互いのカラダを抱きしめあう。
 雨に濡れるのにもかまわず、お互い涙を流しながら口付けを交わし、ふっと微笑み、見つめあう。
 それで、エンド。

 このドラマは終了したけれど、この後、二人の未来には何が待ち受けているのだろうか。
 ドラマの内容自体にも、波乱はあるが、それは、この物語上、構成されたもの。
 逆に波乱も何にもないドラマは、ドラマとして面白くはない。

 人間が、生きていく上で、恋愛していく上で、多かれ少なかれ波乱はつきものだ。
 だから、ドラマで最終的に結ばれた2人だけれど、これから先が順風満帆、という訳もないだろう。
 それでも、2人はそれなりに過ごしていくかもしれない。
 もしかしたら、また些細な事からすれ違い、別れてしまうかもしれない。

 2人の努力次第で、どうにかなる事もあれば、どうにもならない事もある。
 それは、恋愛だけではなくて、他の事にもいえる事。
 ただ、恋愛は、2人の思いが通じ合わなければ叶わないけれども。

 そういえば、少し昔、母親に尋ねた事がある。
 もし、父親が、浮気をしたらどうするか、と。
 「そうねえ」と少し考え、「もしかしたら刺し殺しちゃうかも」と冗談めいて言っていた。
 その場合、父親をか、浮気相手をか尋ねたら、「浮気相手を」と答えた。
 何故か、と問うと、そっちの方が、父親のダメージが大きいだろうから、そう言った。
 その後、「やあね、全部冗談よ」と笑われたが。
 別れるとか、そういう考えはないのか、と尋ねると、「別に、別れるような理由でもないし」と、今度は真面目に答えてきた。
 では、別れるような理由っていうのは何か、と問うと、今のところ特に思いつく事はないし、別れようと思った事もない、と言われた。

 別の機会に、同じように父親に、母親が浮気をしたらどうするか、と尋ねた。
 父親は、母親が、そんな事をする筈がないだろう、と言ってきた。
 どうしてそんなことが言えるのか、と問うと、そんな事をする暇があるなら、もっと別の事をしているだろう、という答えが返ってきた。

 この母親にして、この父親。
 この2人は、それで、馬があっているのだろう。
 何となく、社会通念的な感覚から逸脱していると思う。
 そんな親だから、今はまだ話してはいないけれど、俺が、ゲイだと打ち明けても、受け入れてくれそうな気はしている。

 ドラマの打ち上げも終わり、次の映画の出演も控えているから、少しだけ、暇が出来た。
 その空いた時間を利用して、久々に成澤の家へ向かった。
 昼間から出向こうと思っていたが、昼間は、今は家を空けているから、と結局夕方過ぎになった。

 夕食をどうするのかと尋ねたら、出前をとる、と言ってきた。
 自炊をしないのかと聞いたが、一応はするけれど、他人に出せるようなものは、作れない、と言われた。
 別にそれでも構わないのだけれど、成澤がそう言うのだから仕方がない。

 俺は、両親の家に暮らしているけれど、一人で食事をする事の方が多い。
 朝も、起きる時間が、それぞれまちまちなので、トーストするように一応パンと、即席で出来るスープの準備は揃っているが、席を共にする機会は少なく、例え、一緒になったとしても、自分の分は、自分で用意をする。
 昼と夜は、大概外で摂ることが多い。

「成澤さんは、今は、もう、今回の映画の脚本は終わられているのでしょう? 何か、他に、書いていらっしゃる事でもあるんですか?」
「いえ、思いついたことをメモに取る事くらいはありますが、映画の脚本に集中していますよ。一応仕上がったとはいえ、読み返したりしています。」
「家にいらっしゃる事が多いんですか?」
「書く時は、家にこもりますが、気晴らしに喫茶店に行ってみたりします。それ以外は、本当にカラダを使わないので、今日みたいに、ジムに通ったりしてますね。」
「ジム、よく行かれるんですか?」
「そうですね。何とか時間を作って、週に4回くらいは。でないと、本当にカラダが鈍ってしまいますので。」

「ああ……それで。脚本家だっていうから、何となく、細そうな方をイメージしていたんですが、初めてお会いした時、結構、がっちりした方だったんで、少し驚きました。学生時代は、スポーツとかされていたんですか?」
「小学校の時、学校で、少年野球のチームがありましたからね。決して、上手くはないんですが、高校までずっと続けてましたね。」
「その合間に本とか読まれてたんですか?」
「ええ。中学も、高校も、それ程、部活が遅くなりませんでしたから、家に帰ってからは、部屋に篭って、本を読んだり、何か書いたりしていましたね。でも、川島さんも、ご自身でアクションシーンをされるくらいですから、スポーツ経験は、おありなのでしょう?」

「俺は、学校の運動系の部活には入ってませんでしたが、体育教室へ。部活は、演劇をしていました。」
「もう、その頃からずっと、演劇を?」
「そうですね。でも、中学の時は、遊び半分だった気がします。高校に進んでからは、本格的にスクールの方に通うようになってしまいましたし。成澤さんは、小説を読んでいらっしゃって、書くのも好きで、小説の方の道に進もうとは、思われなかったのですか?」
「取り敢えず、想像して書くのが好きで、あまり、意識はしてなかったのですよ。書く事で、飯を食べていこうとは。」

「小説だと、微妙な情景描写とか、登場人物の外観とか、どれだけ書いても、最終的には、読者のイメージに任せることになるんですよ。読む人全てが、それに拘る訳ではないと思いますが。そういう意味でフィールドは広いと思います。」
「読者が勝手に描く、イメージの世界、ですか。」
「この登場人物が、こういう人だったら良いのに、とか、こういう風に話してくれたら良いのに、とか、それを想像するのは、それで楽しいんです。でも、それを、実際に、表現する事が出来るのなら、そういうものを創ってみるのもまた面白いだろうと。」

「どっちが難しいのでしょう。小説を書くのと、脚本を書くのと。」
「一概には、言えませんね。その人それぞれでしょう。同じように物語を創り上げるのでも、違いますからね。受け取る側も、楽しみ方が、それぞれ違うのではないでしょうか。」

「売れている小説が、映像化されるものもありますよね。」
「あれもまあ、賛否両論ですね。純粋に小説が好きで、自分のイメージを創り上げる人は、それが、具現化されて、そのイメージを壊されてしまう場合もあります。でも、小説を読まない人の中では、売れている作品なら、面白いのではないかと、それを観て、実際に面白かったから、じゃあ、原作を読んでみようか、という人もいますからね。」
「イメージを壊すのは、演者が悪いんでしょうかね。」
「そうとも言えないでしょう。人にはそれぞれ好みというものがありますから。例え、どんなに演技が上手くって、有名な俳優を使ったところで、それが当てはまるとは限りません。」

「私自身なら、好きな小説だったら、観ないでしょうね。逆のパターンだったら、好きな映画やドラマが小説化されたなら、読んでみたいとは思いますが。」
「その場合だったら、もう、イメージは出来上がっている訳ですよね。」
「そう、もう実際、具現化されたものを、どう文章で表現しているか、そこには興味はありますね。」
「俺は、あんまり、本とか読んできた経験がないんで。映画やドラマなら観てきましたが。」
「でも、もし、川島さんが、本を読まれるのなら、私とは、全く違う視点で読まれるでしょうね。あなた自身だったら、こう演じるだろう、とか。」
「そういうものでしょうかね。」
「さあ。本当のところはわかりませんが。」

 俺が、どういう役を、どう演じるか。
 そして、俺は、どういう俳優になっていきたいのか。
 俳優として生き残る為に。
 例え両親の名前があったとしても、俺が、俺自身として、認められるようになるのには。
 そして同時に、両親の名を汚すような俳優で終わりたくない。

「俺は、覚悟を決めた筈なのに、やはり、まだ、迷っています。」
「迷う? 何にですか?」
「何にでしょう。どうやって、これから生きていくのか、とか。」
「それは、仕方がないのではありませんか? 迷い、悩みながらそうやって、少しでも成長しようとしているのでしょうから。苦しい事かもしれません。それでも、それを糧として、生きるしかないでしょう。生きる限り、それが尽きる事はありません。絶対的な自信なんて、ないと思います。それでも、私は、今回の映画に、賭けています。」
「賭ける……ですか。それは、監督も仰ってました。俺も、この話を頂いた時、俳優として、演じてみたいと思いました。俺に、それだけの力量があるかわかりませんけれど。」
「それでももし、失敗しても、諦める気はないでしょう? これからの人生を。勿論、成功する事を願っていますが。」

「成澤さんは、不安にはならないんですか?」
「勿論なりますよ。根が小心者ですから。不安で不安で仕方がない。常に最悪の結果を考えてしまいます。」
「そうは見えませんけれど。」
「それを見破られたくなくって、必死ですから。」
「そうですよね。弱音を簡単に吐く事なんて出来ませんから。」
「どこかで、吐き出す場所も、あったほうがいいんですけどね。それに押しつぶされないように。強がって生きている人間ほど。」

 弱音を吐き出せる場所。
 それを、曝け出せる場所。
 それでいて、必要なプライドを崩さずに済む場所。

 今ここで、成澤に色々話せるのは、成澤が、俺に何となくそれを許してくれているからのように思う。

「そういえば、俺、昨日で、ドラマの打ち上げが終わったんですよ。」
「ああ、あのドラマですか。お疲れ様です。」
「だから、久し振りに少し余裕を持って成澤さんの家に来られたんです。」
「ですから、昼間、と仰ってたんですね。すみません、そこまで気が回らなくって。」
「いえ。俺の勝手な都合で、成澤さんのご迷惑になりたくなかったですから。」
「そんな、迷惑だなんて。」
「でも、ジムに行かれるのは、日課みたいなものなのでしょう。ですから、成澤さんも、成澤さんのご都合を優先してくださった方が、嬉しいです。俺ばっかり、都合を押し付けてしまってるようでは嫌ですから。」
「私は、本当に何かを犠牲にしている訳でもありませんし、迷惑だなんて思った事はありませんよ。」
「成澤さんが優しいから、ついつい、甘えさせていただいちゃって。」
「川島さんにそんな風に仰っていただけるなんて。」

「では、ついでに、もう少し甘えさせていただいてもよろしいですか?」
「え、ええ。なんでしょう。」
「ドラマも終わったし、ゆっくり出来るんです。それに、久し振りですし……」
「川島さん……」
「先に、シャワーお借りしますね。」
「ええ。はい。」

 久し振りに味わう口付けは、以前とは変わりがなくて、成澤のその感触を覚えている。
 絡み合った舌も、唾液の味も。
 舌を甘噛みして、吸い上げた時に漏れる吐息も。

「ん……ふ……」

 それから、その肌の感触も。
 しっかりと鍛えられているその張り詰めた筋肉。
そ して、その敏感な場所。

 肌に舌を這わせ、時折、強く吸い上げる。
 乳首を摘み上げ、立ち上がった突起を指で、舌で、歯で味わう。

「……ぁ……ん……」

 お互いの勃ち上がり始めたペニスを擦り合わせ、手を伸ばすと、そこに成澤が手を重ねてきた。
 そして、一緒に、ペニスに刺激を与える。
 その手の中で、次第に、硬さを持ち始めているのがわかる。
 ペニスが十分勃起してから、成澤のアナルにローションの滑りを借り指を挿入させていく。
 十分に解してから、俺は、ゴムを装着し、ペニスを埋めていく。

「…ふ……く……はぁ……」

 奥まで挿入しきって、成澤のカラダのこわばりが取れるのを待ち、抽挿を開始する。
 始めはゆっくりと、次第に大胆に。
 最奥まで穿ちながら、お互いにその快感を享受している。

「あぁ……ん……ふ……ん……」

 前立腺を擦りあげながら、抽挿を繰り返し、ペニスにも刺激を与えて、射精へと導く。

 そして、二人とも、絶頂を向かえた。

 それからまた、ついばむように繰り返される口付け。
 夜はまだまだこれからだ。

 再び、表れる欲望の兆し。
 そして、今度は、成澤のペニスを、アナルに受け入れて。

 先程とは違った場所で、でも、やはり感じられる場所で、二度目の絶頂を求めて、与え合った。

 成澤が、もし、俺のくつろげる場所を作ってくれるなら、俺も、成澤に同じようにそういう存在でありたい。
 まだ、始まっていないけれど、俺達の映画が、成功しますように。
 そして、次の機会へと、繋がっていきますように。



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『星降る言葉-5-』

 映画『箱庭の外』の水面下の進行は何とか順調なようで、俺以外の役者も決まったという。
 主役となる、人妻を演じるのは、俺より、10歳位先輩に当たるだろう、女優で、そこそこ知名度のある女性だった。
 脚本もほぼ出来上がっているらしい。
 という事は、成澤の今回の映画に関する仕事は、ほぼ一段落付いたのだろう。

 成澤の頭の中には、どんな世界が広がっているのだろう。
 登場人物達は、それぞれ、その物語の中で、やはり一つの人生を生きる。
 その架空の人生のシナリオ。
 それを創造する。
 役者は、それを、自分なりに解釈し、架空の人生劇の一部を、演じる。

 確かに、一つの作品を作り上げる、それは同じでも、こなす役割は異なる。
 作品を提供する立場にあるけれど、その世界にも様々な人が生きている。
 役者ばかりでも映画は出来ないし、脚本家ばかりでも、監督ばかりでも、映画は出来上がらない。
 それぞれが、それぞれとして、重要なのだ。
 そのパーツとして、何が欠けても駄目。

 そしてやはり、作品を作り上げれば、それを観てくれる観客も必要なのだ。
 俺達は、作品を通して、どれだけの観客に、どんな印象を与える事が出来るのだろうか。
 映画館に足を運んでくれる人、DVDを買ってくれる人、借りてくれる人。

 舞台とは違って、直に観客を目の前にして演じるわけではない。
 その観客の、人生の一部に、何かしら影響を与える。
 物語を描く人は、何を思ってそれを創り上げているのだろう。
 勿論、人それぞれ違うだろう、けれど、成澤はどうなのだろうか。

 仕事上がりに、会おうと思って、連絡を入れておいたけれど、思っていたより、時間が押してしまって、再度、成澤に連絡を入れた。
 成澤は、今は脚本も仕上がったし、余裕があるらしく、自分の方は、心配ないと言ってくれた。
 だが、俺が、仕事で疲れているのではないか、休める時は休んだ方がいいのではないか、と、気を使わせる結果になってしまった。
 明日はオフだから、その間に、休むから大丈夫だ、そう言うと、成澤は、それ以上は、反対する言葉を発してこなかった。

 少々無理をしても、本当は会いたい。
 けれど、無理をした結果、自分の体調を崩してしまっては何にもならない。
 仕事をする上で、カラダは資本だ。
 その自己管理が出来ないようでは、駄目なのだ。
 勿論、それでも、風邪をひいて、熱が出て、カラダがだるくなる場合もある。
 その日やその後の仕事内容によるが、大きく影響が出ないように、取り計らう。
 無理を押して、体調が悪いのを隠して、仕事をする場合もあるし、休んだ方が、迷惑をかける程度が少ないのなら、そうする。

 成澤の家に着いたら着いたで、やはりまた、心配されてしまった。
「本当に大丈夫だったんですか? 疲れていらっしゃるんでしょう?」
「いえ、確かに、仕事時間としては長かったですけれど、拘束されている時間が長かっただけで、肉体的にそんなに疲れているわけでもありません。待ち時間の方がながくって。脚本を読み返したり、他の人の演技を観ている時間の方が長かった気がします。」
「待ち時間は、待ち時間で、それはそれで、疲れるでしょうに。」
「本当に大丈夫ですよ。自己管理も仕事の内ですから。」
「ご自身でわかっていらっしゃるのなら、こちらが、いくら心配しても仕方がないですね。」
「仕方がない、なんて、そんな。こちらこそ、気を使わせてしまったようで、申し訳ないです。元は、俺が言い出した事なのに。」
「ああ、いえ、そんなつもりで言ったのでは。すみません。」

 お互いに気を使った結果、余計に相手に気を使わせる事になってしまった。
 相手の立場や調子を尊重しようとするのは、悪い事ではない。
 しかし、やはり、その度合いというのは難しい。

「あ、あの、成澤さんは、物語がないところから、物語を創り出すのですよね? どうやったら、そういう世界が生まれてくるのですか?」
「脚本の土台となる構成を練る時、ですか。」
「ええ。」
「全く『無』の状態から創り上げるわけではないですよ。例えば、偶然耳にした会話から、何かヒントを得る場合もありますし、社会問題ですとか、何かを観てふと湧いた自分の感情から、それを、ワンシーンと捕らえて、そこから、どう世界を広げていくか、ですね。出来上がるのは架空の世界ですが、現実から、何かしら影響を受けていますね。」
「でも、それにはやっぱり、想像力が必要でしょう?」

「元々、そうですね、例えば、何かの物語を読んで、この先、この登場人物たちは、どうなっていくのだろう? とか考えるのが好きでしたからね。頭の中で、世界が広がっていくのが面白いんです。」
「世界を、広げる、ですか。」
「そうすると、何となく、自分の中で、現実に世界が広がったような感じがして。もちろん、錯覚に過ぎないんですけれど。」
「それでも、それを、文字にして表現するのは、また違いますよね。」

「ええ。それは勿論。でも、脚本の場合は、それは最終形態ではありません。演じてくださる役者さんがいてくださって、その役者さんの、個性や感覚もありますから、それで、更に世界が広がってくれるのは嬉しいですね。」
「貴方の描いた世界を、具現化して、それでまた、あなたの世界が広まるんですね。」
「そう、様々な感覚に触れることによって、私自身がより触発されます。私の脳内で遊んでいるだけでも良いのですけれど、実際に、カタチにしてみる事で、それを、また別の側面から見て取る事も出来ますし。」

「成澤さんは、何かを見ても、きっと、他の人と違う世界を捉えているんでしょうね。」
「それは、私だけに限ったことではありませんよ。反応をする対象も人それぞれでしょうし、それに対する、感じ方も人それぞれです。共有する部分があるのも確かでしょうが。」
「感覚は、人それぞれだから? 俺自身も、やっぱり、そうなんでしょうか。」
「ええ、実際に、脚本をもらって、貴方なりに、貴方にしか出来ない演技をされるのですから。」
「俺にしか出来ない……それは、考えた事がありませんでした。」
「貴方が演じてきた作品の中で、もしかしたら、別の役者が、その役を演じていたかもしれません。でも、そうしたら、その作品は、また、別のものになっていたでしょう。」
「役者が違えば、出来上がる作品もまた別の世界のものになっているんですね。」

「ある種、固定観念を植え付けますよね。容姿にしてもそうだし、その声、その仕草、台詞回し、間合いの取り方。その役者、役者によって、違いますから。」

 それが、俺の個性というものなのだろうか。
 俺じゃなければ、出来ない役ではなくても、俺が演じる事で、1つの世界を創造できる。
 勿論、俺だけの力ではないけれども、俺の力も必要なのだと。
 個性派俳優と呼ばれる人もいる。
 その強烈な個性を持った人間。
 俺は、それとは、違うと思う。
 俺の、両親を見ても、それとは違う気がする。

「個性、ってなんなんでしょうか。」
「そうですね……『個性』『個性』と言われながら、表に表れる部分は少ないのではないのでしょうか。まあ、こういう風に表現をする世界の人間は、個性的な人間が多いと思います。目立つのも『個性』でしょうし、目立たないのも『個性』でしょう。」
「目立つばかりが、『個性』ではないと?」
「それはそうでしょう。嘗て、『個性』を求め始めた時代。そして、『平等である事、他人と同じである事』を求め始めた時代。『出る杭は打たれる』と言われます。元々、日本人はそうでした。でも、世界との競争の中で、それでは、日本は生き残っていけないと。」

「『個性』と『没個性』は共存しうるのでしょうか。とても、矛盾した事のように思えます。」
「共存……はしているでしょうね。でも、その矛盾は取り払えません。そんな矛盾した世界の中で、人間は生きているんです。」
「不条理な生き物ですね。」
「矛盾、不条理、そして様々な問題を抱えて、それで尚、社会を形成して、生きています。それに目を背ける人もいますが、その事に悩む人もいます。そして、どちらもまた人間なのです。そして、そんな様々な人間像を描く事。それもまた、創造する事に繋がります。」

「人間が、人間の現実を元にして、架空の世界で、人間というものを描いていく。そして、その人間像に触れて、何かを感じ取る。」
「ええ、それを創造する人間も、そして観客も。観ている人に、世界を広げてもらえたら、創る側としては、嬉しいですね。」

「自分という人生のドラマの中で、違う世界に触れて、その中に何かを感じ取って、自分のドラマの中に取り込んでいく、と。」
「見知らぬ他人の人生の中に、架空の作品とはいえ、存在する事が出来たら。直接その人と、関わり合う事はないでしょうが。」

「でも、もしかしたら、何かの契機(きっかけ)で、関わり合う事もあるでしょう?」
契機(きっかけ)は、どうやって降って来るかわからないですからね。」
「振って来るばかりでもないでしょう。」
「俺にとっては、始めは降って来たようなものでした。貴方が、俺を観て、俺を起用しようとしてくださらなかったら、俺は、貴方の事を知る事はありませんでした。」
「私は、まさか、ここまでは、望んでいませんでした。初めてお会いした後、偶然また会って、そして、貴方が、声をかけてくださらなかったら……。」
「確かに、あそこでの再会は、降って来た契機(きっかけ)かもしれませんね。」

 だって、そうしなければ、こんな関係に発展するはずはなかった。
 俺は、成澤に望まれていると、思ってもいいのだろうか。
 俺が、成澤を望んでいるように。

「成澤さん……」
「仕事で、疲れていらっしゃったのではないのですか?」
「言ったでしょう? 肉体的には、今日は、そんなに疲れてはいないと。だから、もう少し、疲れた方が……」

 口付けを求めて、カラダを引き寄せる。
 そうして、縺れるようにベッドになだれ込んだ。

 もどかしいようにお互いの衣服を脱がせあって、再び、肌を重ねる。
 何度も口付けて、より深い口付けをねだって、そうして、それが、与えられて。
 絡ませ合った舌と舌が、求め合うことを止めない。

 それでも、名残惜しげに離れた唇が、今度は、俺の肌に触れてくる。
 その舌で、指で、俺の肌の熱を上げていく。
 乳首に触れられて、指で弄られて、舌で触れられて、尖り始めたところに歯が優しく立てられた。

「ん……あ……」

 そこで、感じている快感は、ペニスにも熱を持たせていく。
 その昂ぶってきたペニスを口に含まれた。
 始めは、手と舌で、刺激を与えられ、より深く、咥え込まれたと思ったら、指は、アナルの方を刺激してくる。

 ローションの滑りを借りている指は、すんなりと、アナルの裡に挿入されてくる。
 入り口を広げられながら、アナルの裡の感じる場所を刺激される。

「…ぁ……成澤さん……もう、大丈夫ですから。」
「はい。」

 抜かれた指の代わりに、ペニスをあてがわれて、ゆっくりと挿入される。
 そして、抽挿され、奥まで突き上げられて、その感覚を受け入れている。

「あ……は……ん……はぁ……」

 繰り返される抽挿による刺激に、俺は、確かに感じて、その熱をより昂ぶらせていく。
 動きが、より激しくなり、成澤の手が、俺のペニスに触れられ、扱かれることによって、射精感が高まってくる。
 成澤も、多分同じなのだろう。

「んん……あ……あぁ……」

 それから、まもなく、射精した。
 成澤もまた、俺の裡で。

「成澤さんは……」
「何でしょう?」
 言いかけて、問われたけれど、結局言葉が見当たらなかった。

「俺も、成澤さんが、欲しい。」
「私も、あなたが……」
 本当に、一番欲しているものは、何なんだろうか。
 ただわかるのは、今、互いのカラダを求め合っているという事。

 俺は、成澤のアナルにペニスを挿入していった。
 そうすることで、何かがわかるわけではないけれども、今は、それが、欲しかったから。

 そして、その行為の果てに達して。

「このまま、眠ってしまいたい。」
「川島さん、さすがにこのままというのは……せめて、シャワーだけでも浴びてください。」
「ああ、そうですね。すみません。お借りします。」

 かいた汗は、心地良かったけれど、やはり、洗い流した方がいいだろう。

「川島さん、明日オフなんですよね? 広くないですけれど、ゆっくりしていらっしゃって構いませんから。」
「ありがとうございます。」

 まだまだ、色々話したい事、知りたい事が沢山あって、それにはまだ、時間が足りないんだ。
 多分、時間の他にも、何かが。

 そういえば、映画の製作発表が、もうすぐだったな、そんなことを考えながら、眠りについた。


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『星降る言葉-4-』

 俺は、成澤と出会って、まだほんの少しだけど話をするようになって、少しずつ変わってきたような気がする。
 実際は、あまり変わっていないのかもしれないが、心持ち、というのだろうか。
 仕事に向き合おうとする姿勢だとか、人と話をする姿勢だとか。
 急に態度がコロッと変わったとかいう訳ではない。

 感じ始めていた限界を、俺一人ではきっと破る事の出来なかった殻を、成澤の手を借りて、破れそうな気がしてきていた。
 その先に、何が待ち受けているのかはわからない。
 けれど、もっと色々、成澤と話をしてみたかったし、成澤の事も知りたかった。
 そして、どんな俺だったとしても、成澤に知ってもらいたかった。

 俺は、仕事の合間をぬって、時間が取れそうになると、成澤に連絡を入れた。
 成澤の承諾を得て、夜遅く、成澤の家へ訪れた。
 成澤は、迎え入れてくれたものの、今日は、まだ少し仕事が残っているようで、俺に、そこら辺で待っているようにと、告げた。

 成澤の邪魔にならないように、パソコンに向かって、カタカタとキーボードを鳴らす、背中を眺めていた。
 その事が、決して、退屈ではなかった。
 真剣に仕事に取り組んでいる姿というものは、良いものだと改めて思った。

 仕事に区切りが付いたのか、キーボードを打つ手が止まり、パソコンのスイッチが切られる。
 それから、俺の方を向いて、すまなさそうに、詫びてきた。

「すみません。折角来ていただいているのに、お茶もださずに、何のお相手も出来なくて。」
「いいえ。俺こそすみません。仕事をされているのに、押しかけてしまって。」
「いえいえ。それは良いんですよ。でも、退屈だったでしょう?」
「そんなことありません。もう、映画の脚本の方は、進んでいらっしゃるんですか?」
「ええ。今日は、どうしても、進めてしまいたい部分があって、やはり、思いついた時に、メモにとって、それを、具体的に書いてしまいたかったもので。」

「でも、大体、話は決まっていらっしゃるんでしょう?」
「それはそうですけれど、やはり、細かい部分は、気をつけないといけないですからね。」
「細かい部分、ですか。」
「どういう時に、どういうタイミングで、どういう台詞を当てはめたら良いか、とか、そうした場合の、相手の反応は、どうだろうか、とか。どうしたら、自然な流れに見えるか、どうしたら、観客の印象に残るだろうか、とか。」
「難しそうですね。」

「でも、川島さんだって、演じる時に、動作の1つ1つ、台詞の言い回し、タイミングには気を使うでしょう? 与えられた台詞を、そのまま、読めば良いだけじゃないですから。」
「でも、それは、俺だけの力ではありませんから。それを、演出してくださる方がいらっしゃるから。」
「確かに、演出してくださる方の力も必要でしょう。でも、その方にだって、川島さんの力がなければ、表す事は出来ないんですよ。演出家は、演出をするだけで、実際に演技をする訳ではありません。」
「俺の、力、ですか。」

「ええ、そうです。私にしたって、私が、頭の中で、どんな物語を作ろうと、それを表現してくださる方がいらっしゃってくださらなければ、どうにもならない。川島さんの方が、良くご存知でいらっしゃると思いますけれど、1つのドラマを、1つの映画を作り上げるのには、大勢の人間が関わっているのです。それは、どんな目立たない仕事だったとしても、それが、欠けてしまえば、完成させることは出来ません。」
「そうですよね。裏で働いてくださる方がいらっしゃらなかったら、確かに、1つの作品として仕上げる事は出来ないんですよね。俺は、どっちかというと、表の人間ばかり見て育ってきてしまいましたが。実際、仕事場に入ってみると、そうじゃないんだって事に気がつきました。」

「何らかの作品にしろ、観客は、そこに、何かを求めてやってきます。どんな、作品かにもよりますけれど、それが、笑いだったり、感動だったり、自分自身を重ねてみたり、夢を見たり……その他、様々です。」
「俳優目当てにする人もいますよね。自分の好きな俳優が出ている作品だから。カッコイイ人が出てるから、カワイイ人が、キレイな人が出てるから、とか。」
「例えそうでも、その作品の中から、何かを感じ取ってくれると嬉しいですね。」

「見る人は、虚構の作品の中に、何を見ているんでしょうか。」
「それは、やはり、人それぞれでしょう。人生自体、その人にとって、一つのドラマです。どんなに平凡だと感じようと、それは、その人オリジナルのドラマなんですよ。人間は、そんな物語なくして、生きてはいけませんからね。」
「脚本家は、その人、本人ですか。」
「もしかしたらそうかもしれないし、そこに、シナリオなんて存在ないのかもしれない。少なくとも始めからは。創造するする作品と違って、シナリオの方が、後からその人の歩んでいる人生に沿って、書き足されていくのかもしれません。」

 俺も、俺自身の人生を生きている。
 生まれ出た瞬間から、きっと、その物語は始まっているんだろう。

「人生には、分岐点があって、選択を迫られる時がある。俺は、俳優と言う道を選んだし、あなたは、脚本家と言う道を選んだ。俺は、あまり、ほかの選択肢の事を考えたことはなかったけれど。」
「仮に、幾つかの選択肢があったとしても、その時点は1度きりで、一つの選択肢を選ぶことしかできません。ゲームなんかだと、一つの選択肢を選んで、一つのルートを進んで、一つの物語を終えてから、また、戻って、別の選択肢を選んで、別のルートを楽しんだりします。幾つもの選択肢を、経験してみたい、それはそれで、人の夢なのかもしれません。」

「もし、あの時、別の道を進んでいたら……ですか。」
「ええ。それが、実際に選んだ道より、良い道か、悪い道かは誰にもわかりません。その時点での選択肢は、もう既に選んでしまったのですから。ただ、これは、ゲームも同様ですが、分岐点に突き当たるのは、1回きりではありません。人間は、気が付かない内に、幾つの分岐点を通り過ぎている事も多いです。」
「無意識で、選択している、という事ですか?」

「そうですね。意識している部分も、多いでしょうが。例えば、高校を選ぶ時、大学を選ぶ時、就職先を選ぶ時、恋人と付き合うとき、結婚をする時、子供を作る時、全てが、自分の思い通りになるとは限りませんが、確かに選択肢は、存在するのです。」
「でも、生まれる時と、死ぬ時は、選択出来ませんよね。」
「生む方はそうではなくても、生まれる方はそうでしょう。死ぬ時は……微妙ですね。自ら選択してしまう人もいますから。」
「ああ……自殺、ですか。」
「ええ。それが、必ずしも成功するとは限りませんが、どんな事情にしろ、自らの死の時を選択する人もいますから。」

「それを、ある種、ロマンチックにしてしまうのは、心中、でしょうかね。」
「日本人は、そういう傾向が強いですよね。昔から、その手の作品は、沢山ありますし。愛する人と、一緒に死ねたら、と。」
「そうすれば、愛は永遠にのこるのでしょうか?」
「そういう物語を求める人は、そう思う人が多いでしょうね。二人とも死んでしまった時点で、物語は完結します。でも、残酷にも、死んでしまっても、世界は動き続けます。もし、覚えてくれている人いたとしても、その人もやがて亡くなります。死んだ二人にとっては、永遠だったとしても、世界にとっては違うんです。」

「でも、それは、どんな人の物語にもいえる事ですよね。」
「それはそうですよ。もし、その人が、偉大な人で、後世に語り継がれようとも、その人も、死んでしまった時点で、その人の中で、その人の物語は終わります。後世の事など、わかる訳ないですからね。」

 どんな物語にも、始まりと終わりがある。
 人は、生きゆく中で、それをどう感じているのだろう。
 日本人が、今まで、死を美化してきたのも、それと関係があるのだろうか。
 誇りを保つ為の自決。
 名誉の戦死。
 その美しく悲しい物語の終結に、人は涙する。
 勿論、死という現実の悲惨さを物語ったものもあるけれど、それはそれで、やはり、人のココロを動かす。

「成澤さんは、今回の、ココロを病んだ青年は、自殺させるつもりですか?」
「さあ……どうでしょうね。でも、現実には、精神を病んだ人の中に自殺を試みる人は多いようです。だから、入院患者には、その手段となるようなものは、与えないんですけどね。それでも、それでも、定規で手首を、傷つけたり、タオルで首を吊ってしまう人もいるようです。ネタを明かしてしまいますとね、作中では自殺はさせないつもりです。それを、匂わせるように書いても。ドラマや映画などの虚構の物語の良いところは、絶対的な終末としてではなく、物語を終わらせる事が出来る事です。そして、そうする事によって、その作品を観た人は、この先はどうなるのか? 思い巡らせる事が出来るのです。」

「でも、続編が求められる事もありますよね。」
「ええ。シリーズもの何かは特に。それでも、最終的には、絶対的な結末はありません。例え、主人公が死んだとしても、虚構の世界は、虚構の世界で回り続けます。作品の結末に納得するしないも、人それぞれですし、納得の仕方も、また人それぞれです。私は、出来るなら、今回の作品で、その終結にある先を、観た人たちに想像して欲しいです。そして、その人たちは、どんな未来を、見出すか。私の力量にそれだけの能力があるかわかりませんが。私だけでは無理でしょうから、それを演出する人、演じる人の力を借りて。」

「俺は、成澤さんの期待に応えるだけの自信は残念ながらありません。」
「私が1人じゃないように、貴方もまた、1人ではありません。川島さんは、決して、演技力がない訳ではないと思います。川島さんが、演じてくださった結果、私が、最初、イメージした通りに出来上がるかもしれませんし、良い意味で、違うものが出来上がるかもしれません。」

「良い意味で、なら良いんですが。」
「すいません。言い方が悪かったかもしれません。ただ、私は、川島さんの作品を観させていただいて、今回、この役で川島さんが作り上げる世界を観てみたいのです。」
「何だか、そういう風に期待されると、照れくさいですね。でも、やはり、期待されるのは、嫌ではありませんね。やり甲斐があると思います。そして、貴方の期待に応えてみたいと。」

 期待してくれるという事は、俺の、可能性を信じてくれているという事なのだ。
 今まで、俺に、出演を願った人達もまた、俺に何かを期待してくれていたのだろうか。
 そして、そんな俺を観てくれている人達は。
 もし、そうだとしたら、俺は、どれだけ、それに応えられていたのだろう。

 今まで、そんな事、考えもしなかった。
 ただ、重苦しいだけだと。
 けれど、成澤が気付かせてくれた。
 そして、俺も、成澤に何かを与える事が出来れば……。

「成澤さん……」
「ん?」

問いかけてきた、成澤の唇を俺の唇でふさいだ。
カラダを抱き寄せ、角度を変えて、何度も口付ける。

「貴方が、欲しい。」
「ええ。私も……ベッドに行きましょう。」

 カラダを寄せ合ったまま、隣室のベッドに倒れこんだ。
 そして、再び、唇を求め合う。
 触れるだけだったキスが、だんだん深くなり、お互いの口腔を舌でまさぐり合う。

 それだけでも、昂ぶり始めていたけれども、もっと、もっと、欲しくて。
 口付けを交わしながら、成澤の肌に指を這わせていく。
 乳首を捕らえ、そこを、指先で転がしたり、引っ張ったりして、刺激を加える。

「ふ……ぅん……」

 重ねられている唇の間から、成澤の吐息が漏れてくる。
 そこを、丹念に愛撫し終えると、今度は、ペニスに手を這わせ、包み込んで刺激していく。
 成澤も、同様に、俺のペニスを掴み、擦り上げる。

 その刺激の中で、互いにどんどん昂ぶっていく。
 その硬度を確かめてから、俺は、成澤のアナルに指を這わせ、ローションを垂らして、挿入していく。
 俺の、ペニスを受け入れる、その場所を。

「…あ……はぁ……あ……」

 挿入した指の本数が増え、それに馴染んでくると、指を抜いて、代わりに、ゴムを被せた、ペニスを挿入していく。

「ん……ぁ……はぁ…あ……」

 奥まで埋め込んだペニスを、ゆっくりと動かし始める。
 その存在に耐えられるように、そして、感じられるように。

「あ……あぁ……ふ……ぁ……」
 俺のペニスで感じてくれているのが嬉しい。
 前立腺を擦りあげながら、深く抽挿を繰り返す。

 その刺激の中で、2人とも達した。

「成澤さん、抜くね。」
「あ、ああ。」

 射精して、それで尚、完全には萎えてないペニスをゆっくりと抜いた。
「ん……」

「成澤さん、まだ、大丈夫ですか?」
「え、はい。」
「じゃあ……」

 俺は、皆まで言わず、成澤のペニスを口に含んでいく。
 喉の奥まで深く咥え、口腔内全てで、そのペニスを味わう。
 その口淫で、成澤のペニスも硬く勃起してきた。
 そして、更にその行為を続ける。

「……っ……川島さ…ん……」

「成澤さんも、俺に……」
 口を離し、そう言った。
 体勢を入れ替え、成澤のペニスを俺のアナルに受け入れる。
 俺のアナルの裡でその存在感を示す、ペニスに充足感を覚える。

 そして、成澤の抽挿に感じて、ペニスも同時に扱かれて、射精した。
 ゴム越しだけれども、成澤が達したのがわかった。

 これも、俺の人生というドラマの一つの出来事。
 そして、成澤にとっても。
 それを、共有している事が、何より嬉しかった。



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『星降る言葉-3-』

 実際に会いたいと思っても、そんなに頻繁に会える訳ではない。
 俺自身も仕事があったし、成澤も、脚本を仕上げなければいけないだろう。
 けれど成澤は、俺のスケジュールの方が、もし、影響が出れば、他者にも迷惑がかかってしまうから、自分は、多少は、融通する、と言ってくれた。
 例え真夜中でも、成澤自身、昼夜という感覚をあまりもたずに仕事をしているから、構わないと。

 詰め込まれたスケジュールの中で、時間が出来そうな時を見つけて、成澤に連絡を入れて、判断を請う。
 成澤は、快く、それを受け入れてくれた。
 俺は、間違いなく、成澤に惹かれている。
 成澤はどうなのだろうか。

 今まで、俺は、相手に拒まれる、という事は殆どなかった。
 別に当たり前だと思っていた訳じゃなく、拒まれても、別に、どうって事はない、他に相手を探せばいいだけだ。
 成澤は、確かに、俺の誘いを断らない。
 だが、それが、ただ単に俺の立場上の事を考えてなのかもしれない、という不安はよぎる。
 そして、もしかしたら、拒まれるのではないか、という不安。

 俺自身が、成澤にとって、魅力的な人間でいられるだろうか。
 今の俺に、どれだけの自信がある?
 そんなものはありはしない。
 大体、仕事にさえ、自信を失いかけてきているのだ。

 しかし、今は、成澤にまだ拒まれていない、それだけが助けだった。
 どこに、俺を拒めない理由があったとしてもそれは、構わない。
 拒否されない事が、受け入れられている事に繋がらなくとも。

 恋愛なんて信じられなくて、今まで、誰とも、まともに恋愛などしなくて、それでも、俺自身の欲求として、また、相手が、俺を求めたから、抱いてきた。
 相手が、俺に求めているのは、幻想に過ぎないと、やがて冷めてしまうものだと、割り切っていた。
 俺が、今、成澤に惹かれている、これもまた、幻想なのだろうか。

 一時の恋愛に身を焦がしても、それが、永遠に続くことはありうるのだろうか?
 恋愛体質の人間はいる。
 短い期間でも、恋愛を、楽しみ、その熱が冷めてしまうと、別れていく、カップル。
 そして、それを繰り返す人間。

 それとは別に、それが、穏やかな恋愛なのか、それともまた別に絆なのか、長く付き合い続ける人間もいる。
 長く付き合い続ける、ゲイパートナーもいるし、男女の間にしたってそうだ。
 他の家庭の事情など知る由もないが、俺の両親を見たってそうだ。
 俺と同じく、俳優である父親と、女優である母親。

 共演したのが契機(きっかけ)で、と言っても、恋人同士の役ではなく、殺人犯役であった父親と、その殺人犯に恋人を殺され、憎み、復讐を誓った役の母親だったそうだが。

 俺の出産時に一時期、母親は、休業したが、芸能界を引退して、主婦に収まる事はなかった。
 父親もまた、母親に、引退を望んだ事はないと言う。
 お互い忙しい仕事の中で、生活にかなりすれ違いはあったけれど、一緒に家にいる時に、不仲であるようには感じられなかったし、寧ろ、僅かな時間でも、一緒にいるのはごく自然な感じがしていた。

 俺自身も、両親に構ってもらった覚えは殆どないが、確かに、不満に思った時期は、あったにせよ、接してくれる時に、親としての愛情を受け取っていた。
 そして、また、両親が、外に出れば、ブラウン管の中から、俳優として、また、女優としての両親の顔を眺めていた。

 そんな両親を尊敬していたからこそ、俺自身も、そこを目指してみたいと思ったし、現に芸能界に身を置いている。
 勿論、実力派の両親の影が付きまとっても、ある程度我慢できるのは、やはり、俺自身も、両親を認めているから。

 そして、俺は、あまり、恋愛体質ではないような気がする。
 が、それでも、今、成澤に惹かれている事実を認めない訳にはいかない。

 成澤の家にたどり着き、インターホンを鳴らすと、カチャリと鍵が開けられる音がして、成澤が、玄関の戸を開けてくれた。
 促されて、靴を脱ぎ、「お邪魔します」と声をかけて、部屋へ上がっていく。

「仕事、されてたんですか?」
「え、ああ。そうですけど、川島さんがいらっしゃるとおっしゃってましたから、きりはつけてあります。」
「あの、お仕事場、見せていただいてもよろしいですか?」
「構いませんが……散らかってますよ。」

 確かに整頓されている、とは言い難いが、それでも、山積みになった本は、部屋中に散らばっているわけではない。

「こういう仕事場って、あまり他人に踏み込まれたくないものじゃないんですか?」
「どうなんでしょう。今まで、他人に見せたことありませんが、こういう整っていない場所って、相手の方が、嫌じゃないかと思うんですけど。」
「俺は、興味ありますよ。でも、やはり、個人の仕事場として、テリトリーという拘りがないのかと。」
「拘り……ですか。この件に関しては、あまり気にした事はありませんね。川島さんに、興味を持っていただけるとは、恐縮です。」

「ここに重ねられている本は、資料ですか? これだけあって、大体把握していらっしゃるんですか?」
「ええ、そうですね。書く為の資料です。何がどこにあるかは……一応、自分でわかりやすいように並べているつもりなんですが、たまに、見失ってしまって、山の中を漁ったりしてますよ。」
「この山の中を漁るのは、大変そうですね。」
「本当は、本棚にわかりやすいように並べるのが一番良いんでしょうが、多分、もし一旦そうしても、手に取りやすいところに、と無精してしまって、結局こうなってしまうでしょうね。」

「それが、成澤さんなりのスタイルなんでしょうね。」
「いやいや、お恥ずかしい。そんな、スタイルなんて代物じゃありませんよ。」
「でも、俺からみると、きちんと、成澤さんご自身がこだわりをもって、仕事に望まれている感じがします。俺は……成澤さんがご指摘されたように、今の俺自身の仕事に悩んでいます。変に、こだわりをもったりして、俺自身の、プライドって何なのだろうと。」

 そう、拘り。
 ああはしたくない、こうはしたくない、それじゃあ、どうしたらいいのか、という事もわからない。
 それでいながら、世間が、俺を束縛するのと同様に、俺も、俺自身を束縛している気がする。

「悩んでいらっしゃてそれを認めていらっしゃるのは、川島さんが、成長されようとしているからではないのですか? 私自身、確かに、川島さんよりは、少し、年上かもしれないけれど、実際、悩んだり迷いますし、川島さんを諭せるような熟練した大人ではありません。」
「成澤さんでも、迷ったりされるんですか?」
「当然ですよ。人間なんですから。例え、どんなくだらないことだとしても、迷ったり、悩んだりしている時点では、本人にとっては、重要なことなんです。……って、偉そうにすみません。」

 言われてみれば当たり前の事かもしれない。
 悩まない人間なんかいない。
 成澤もまた人間なのだから。
 でも、成澤がいった事に、気付けるか、気付けないか、また、その考え方次第でも、生き方は違ってくる。
 迷っても、悩んでも、その中に希望の兆しを求めて努力し、生きている。

「いえ。そういう風に言ってくださらなかったら、俺は、道を見失いかけていたかもしれません。」
「他人と、話してみて、初めて気付く事ってあるんですよね。その相手が、誰でもいいという訳ではありませんが。」
「確かに、誰でもいい訳でもありませんが、俺は、それでも、本当に誰とも、話す機会が今までありませんでした。出生を恨む気は全くありませんが、周囲は、大概、俺の両親の事を気にしてしまいます。」
「川島さんのお立場も、大変でしょうね。恐らく、人並み以上に出来なければ、認めてもらえないのでしょうから。」

 人並み以上、確かにそう。
 どれくらいを、人並み、と言うのかはわからないが、それでも、その名前を覚えてもらうには、成澤だって、人並みでは駄目なのだ。
 ある程度出来れば、生き残っていくことは可能かもしれない。
 そして、どちらを選んでも、その人の人生として、非難されるべきものではない。

「話をするのが、誰でも良いという訳じゃない。それは、俺にとっては、成澤さんだから、話したいと思いました。ご迷惑ではありませんでしたか?」
「そんな、迷惑だなんて。川島さんとお話が出来て、私の方が嬉しいですよ。」
「そう言っていただけると、俺も、嬉しいです。」

「川島さんは、変な拘り、と仰いましたけれど、拘りを持つ事は、決して悪い事とではありませんし、必要な場合もあります。勿論、捨てた方が良かったり、特に意識する必要もない事もありますが。」
「それが、どっちなのか、今の俺には、まだわかりません。ある程度はどこかで、使い分けているのかもしれませんが。」
「そうですね。気付かない内にやってしまっている事もありますね。」

 どうでもいい事に拘って、馬鹿をみる事もある。
 その拘りが、必要なのかどうか、見極めるのは難しい。

「俺は、成澤さんが、他の誰も気に留めてくれなった、俺の一面を見つけてくれたから、もっとよく、俺の事を知って欲しいと思いました。だから、俺は、普段、タチしかやってこなかったけど、成澤さんに抱かれたいと思ったんです。」
「私が、川島さんに見たのもほんの一面に過ぎません。そして、どうように、川島さんも、それを通して、私の一面を見たに過ぎません。川島さんが、普段の自分とは、違う一面を知って欲しかったのと同様に、私も、それを、川島さんに願うのは、贅沢でしょうか?」
「あの……それは……」

「セックスが全てだとは思いません。そして、その役割も。けれど、また、違った立場に立って、相手の事を、感じたいと思ってしまいます。実際そうしたところで、何かが見えるとは限りませんが。」
「それでも、その可能性があるなら、と?」
「ええ。拘り、と言ったら変ですが、タチしかしないのも、ネコしかしないのも、その人の性質上、仕方がない事です。私が、基本的に、そう言った相手に合わせるのは苦痛じゃありませんが、『相手に合わせる』と言った時点で、自分自身がないのか? と言われてしまえば、それまでです。それでも、私は私なりに拘りがあります。」

 成澤が言った、役割や立場は、セックスに限った事ではないだろう。
 相手の視点に立つことはできないけれど、自分の視点を、少し変化させることは可能だ。
 違った側面から見る事によって、完全に相手を理解する事は出来なくても、距離を縮めることは可能だろう。
 俺は、あの時、ほぼ完全にタチだったからこそ、抱かれる事に拘った。

 しかし、成澤が俺を求めてくれるなら、そして、そんな成澤のようなオトコを相手にするなら、そのこだわりは、不要なのではないだろうか?
 拘り、と言った、成澤のセックスに関するスタンスは、柔軟性と曖昧性を秘めている。
 そして、それもまた、感じる相手次第だろう。

「成澤さん、俺は、俺の事も知って欲しいと思いますし、あなたの事も知りたいと思います。」
「川島さんにそう言っていただけて光栄です。ただ……私も、タチとして見られる事の方が多いので、それ程、ネコの経験の方は、あまりないのです。でも、川島さんなら、タチの経験、多いから、抱く方は、慣れていらっしゃるでしょう?」
「あまり、期待されても、困りますが……。」

 けれど、成澤にそういう風に求められて、成澤を抱く気にならない訳がなかった。

 シャワーを浴びて、ベッドに移行して、成澤のカラダに覆い被さる。
 交わされる口付けは、その濃密さを増していく。
 絡まりあう舌が、唾液が、口腔内で、交じり合う。
 その舌の味覚で触覚で、お互いを感じあって。

 指を、舌を成澤の肌に這わせて、刺激し、その感触を味わう。
 同時に、成澤も、俺の、指と舌先の動きを、その肌に感じ取っているだろう。

「は……あ……ぁ……」

 俺の愛撫に感じて、反応するのを、逃さず捕らえていく。
 官能の欲求を煽るように刺激して、その成澤が感じている様に、俺の欲望も高まっていく。

 勃ち上がったペニスに交互に口淫を施し、更にお互いの欲望を高める。
 それから、成澤にローションを借りて、アナルに指を埋めていった。
 解しながら、成澤の感じる場所を探っていく。

「ん……あ……はぁ……」

 探り当てた箇所を刺激すると、成澤の声が、堪らずに漏れる。

「そろそろ、大丈夫ですか?」
「あ、ええ。」

 指を抜いて、ペニスにゴムを被せ、更にローションをたして、挿入していく。
「ん……く……はぁ……ゆっくり……お願い……」

 きつい締め付けの中、成澤の負担が、少しでも、軽くなるようにと徐々に奥へと埋め込んでいく。
 挿入しきった段階で、一旦動きを止め、成澤の様子をうかがう。
「ありがと……も……いいよ……動いても……」

 ゆっくりと抽挿を開始して、始めは浅く、そして、徐々に深く、攻めていく。
 勿論、成澤がアナルの裡で感じられる場所を擦りあげながら。

「あ……はぁ……ん…ああ……ん……」

 俺自身、限界が近付いてきて、律動のスピードが速まっていく。
 そして、成澤も、達せられるようにペニスに指を絡ませ、扱いていく。

「く……ん…イきそ……」
「ん……私も……も……」

 そうして、射精して果てた欲望の後に、再び、唇を重ねあった。

 初めて会ったとき、お互いに持っていたイメージ。
 そして、今持っているお互いのイメージ。
 叶うなら、これから、知り合う中で、感じ取っていくイメージ。

 どこからどこまでが一緒で、どこから変化していくのか。
 それを、見つめていければ良いと願っていた。


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『星降る言葉-2-』

 会ったのが、他の場所だったら、何の迷いもなく挨拶を交わしているだろう。
 業界人として、顔見知りとして、当然の礼儀だ。
 その場合は、俺から挨拶に行くべきなのだろうか? それとも向こうから?
 年齢はともかくとして、業界人としては、俺の方が先輩になる。
 局内等の廊下ですれ違うなら、向こうから挨拶をしてくるものだろう。
 ただ単に、見つけてしまったら、見つけた方から、挨拶するべきなのだろうが。

 けれど、このゲイバーと言う特殊な場所で、果たして挨拶を交わすべきなのだろうか。
 気付いてしまったとしても、お互い、見知らぬ振りをしても失礼には当たらないだろう。
 お互いが、ゲイだと言うことを、暗黙のルールの上において、見知らぬ振りをすればいい。

 立場を理解しているからこそ、向こうは俺に話しかけてきたりしないだろう。
 しかし、俺は、成澤と言う男と話をしてみたかった。
 ここに来たのは、遊ぶ為だったけれど、それは、どうでもよくなっていた。
 もちろん、話をするのに、この場である必要性などない。
 仕事に関するの話をする上でなら。

 それでも、もしかしたら、話を続けていく上で、この場ではないと出来ない話になってしまったら?
 何をどう話すか、話の展開上どうなるのか、そんな先の事、まるで考えていなかった。
 成澤は、俺の作品を観てると言った。
 そして、その上で、俺にあの役を推してきた。
 まだ名の売れていない成澤に配役権など与えられていないだろう。

 成澤自身もその事は、わかっているはずだ。
 それなのに、わざわざ、俺を、と指名してきた。
 そして、その意見が通った。
 そこには、様々な関門があったはずだ。
 もちろん、俺自身が断る可能性も含めて。

 メリットとデメリット。
 ある程度、人は、それを考えて行動しているだろう。
 そして、それは、ある一つの物事に対して、どちらか一方のみ備わっているという訳ではない。
 メリットとデメリットの配分を見分けるのが難しいのだ。
 よく考えた結果行動したとしても、デメリットの方が大きくなってしまう場合もある。
 メリットのみの上手い話など転がっているはずもない。
 しかし、それならば、デメリットしか見えない事でも、その中に、メリットを見出せることが出来るのではないだろうか。
 それが上手くいく保障もないが。

 そう、全てが保障されている訳ではない。
 人生において何も。
 それならば、思った時に、行動してみるのも一つの手ではないだろうか。
 頭の中で考えているだけでは、何も解決しないこともある。
 もちろん、自分自身の中で解決しなければならない問題もあるだろう。
 しかし、その場合においても、外部から、何らかの影響を全く受けない事もないだろう。

 俺は、成澤に歩み寄り、話しかけた。
「こんばんは。よろしいですか? 隣、座らせてもらっても。」
「え、ああ。私は構わないけれど。」
「じゃあ、お言葉に甘えて失礼いたします。」
「まさか、話し掛けて来られるとは、思わなかったですよ。」
「迷惑でしたか?」
「いや、そうではなくて、その、川島さんの方こそ、迷惑ではないかと。」

「俺が、嫌なら、話し掛けたりしません。」
「まあ、そうですが、私の方は、大して名前も知られていませんし、どちらにしろ、公に顔を晒す立場の職業ではないですが、川島さんは、有名でいらっしゃいますし、顔も知られているでしょうから。」
「一応、そこら辺は、気を付けているつもりです。それほど色んな店に顔を出すわけでもありませんし、相手も、選んでいるつもりですから。」

「それでも、世間に知れ渡ってしまう可能性だってあるでしょう。マスコミがどこに潜んでいるかなんてわかったものじゃありませんよ。」
「確かにそうですけど、だからといって、家に閉じ篭ってばかりいるわけにもいかないでしょう。」
「まあ、それはそうですが。その……ご両親や事務所の方は知っていらっしゃるんですか? 貴方が、ゲイだって事を。」
「いえ、知らないはずだと思います。言った事もありませんし。もし、マスコミにばれたらどうなるでしょうね。」
「さあ、どうなんでしょうね。実のところは。」

 ニューハーフが取り扱われる番組もある。
 だが、あくまでも、ニューハーフはニューハーフで、娯楽の対象でしかない。
 テレビに出演するニューハーフ達は、それを、覚悟の上で、出演しているのだろう。
 彼らは(彼女らは、と言った方が正しいのか)、それでも、それなりに真剣なのだ。
 けれど、その真剣さを、受け取ってもらえる事はない。

「あの、こういう場所で悪いんですが、仕事の話をさせてもらっても良いですか?」
「ええ、はい。」
「成澤さんは、俺の作品を観てくださったと仰いましたが、俺は、申し訳ないですが、成澤さんの作品の事を知らないのです。」
「私は、そんなに沢山書いている訳ではないですし、それ程有名なものではありませんから。」

 そういって、挙げられた数品の作品の中には、知っているものもあれば、知らないものもあった。
 知っているものでも、今回の映画の作風とは異なったもののように思える。

「失礼ですけど、今、お幾つでいらっしゃいますか?」
「つい最近、27になったばかりです。始めは会社勤めをしながら、劇団の脚本を書かせてもらってたんですが、その中で、ちまちまと、シナリオコンクールに応募していまして、賞をいただいて、実際この業界に入りました。」

 俺が、今、25だから、2歳年上、という事になるのか。

「元々、目指していらっしゃったんですか?」
「脚本ではなくても、何か想像したり、書くのは好きでした。実際、本格的に始めたのは、大学生の頃ですね。影響を受けたものは、色々ありますが、殆ど独学です。一応、プロを目指してはいましたが、実際になれるか、そして、通用するかわかりませんでしたけれど。もし、今プロになれてなかったとしても、書き続けていたとは思いますけど。」

 独学で、果たしてどこまでやれるものなのだろうか。
 もちろん、認められたからこそ、今現にこの業界にいる。
 詳しくはないが、シナリオスクールに通った方が、現場へのパイプ、関係者のコネは得やすいはずだ。
 まあ、実際通ったからといって、必ずしも、認められ、コネが得られる訳ではないが。

「映画は初めてで?」
「ええ。制作会社に売り込みをかけて、プロデューサーに認めていただいたので、今回の企画が通ったのです。」
「でも、それが認められたとしても、配役権が与えられるわけじゃないでしょう。」
「それは、駄目で元々、でしたが、何もしないでいるよりましでしょう。多少強引に迫ったとしても。」

 確かにそうだ。
 何もしないままでは、意見も何もない。
 自ら売り込むだけの実行力と強引さがなければ、例え実力があったって、埋もれたまま開花する事はない。
 そしてまた、芽が出たとしても、それを評価してくれる人間がいなければ、どうにもならない。

「でも、それだったら、何で、俺だったんですか? 俺の作品を観られたならわかると思いますが、今まで、俺が演じてきた役柄とは、まるで違うはずです。」
「単に、好みだったから……とは言いません。それ程、演技に詳しい訳ではありませんが、演技力は、あるとは思います。違ってたらすみませんけれど、どこかで、葛藤しているような……川島さん自身が、違和感を感じているような……ああ、言葉を扱ってるくせに、上手く表現できませんが、今回、私が、描いた青年を演じてみて欲しい、と思ったのです。」

 成澤が指摘したことは、当たっている。
 他の誰もが、俺に重ねなかったイメージを、このオトコは持っている。
 それを、見抜いてくれたのは嬉しい。
 しかし、同時に、怖くもある。
 俺が……俺自身が見透かされている。

「成澤さんが、仰っられた事は、当たっていると思います。俺は……俺は……。」
「すみません、ご気分を害されましたか?」
「いえ、そうではないです。」

 成澤は、俺にどんなイメージを抱き、あの青年像を、俺に求めてきているのだろうか。
 そして、俺は、俳優として、その青年を演じきる事が出来るだろうか。
 ただ、何にせよ、世間が押し付けてきている、俺へのイメージを、壊そうとしていることは確かだ。
 それを、何となく俺は願っている。
 その契機(きっかけ)を、与えようとしてくれている、成澤というオトコ。

「貴方が、俺の事、好みだって、言ってくれたのは、本当ですか?」
「え?」

 俺は、全く経験がないわけじゃないし、実際、不可能ではないだろう。
 それでも、基本的にタチしかしない俺だけど、この成澤に抱かれてみたいと思う。

「抱いて欲しい……って言ったら、迷惑ですか?」
「いや、あの、それは、えっと……。」
「それとも、俺相手じゃ、その気になりませんか?」
「川島さんこそ、私で良いんですか?」
「良くなければ、誘ったりしません。」

 両親も、業界での立場も、そして、俳優としての俺も、全て脱ぎ去って、俺の事を見て欲しい。
 その結果、俺に幻滅するような事になったとしても。

「川島さんは、確か、ご両親とご一緒でしたよね。」
「ええ。この年で恥ずかしいんですが。」
「では、もしよろしければ、私の家へ。あんまり片付いてはいませんが。」
「はい。それで構いません。」

 駅前まで歩いて出て、タクシーを拾って、成澤の家へ向かった。
 成澤の住むマンションは、簡素な物だった。
 まあ、でも、オトコ独りで暮らすには、この程度でちょうど良いのだろう。
 部屋は、決して乱雑ではないけれど、寝室に行くまでに通った、部屋には、パソコンと沢山の本が本棚から溢れ重ねられていた。

 シャワーを借りて、寝室のベッドに腰掛け、成澤がやってくるのを待つ。
 寝室には、テレビと、大量のDVDが並べられていた。
 そのDVDの中には、俺が出た物や、成澤が脚本を書いたものも混じっていた。
 DVDを漁っていると、成澤が、シャワーを浴び終えて、やって来た。

 一人用では、ゆったりと眠れるだろう、セミダブルのベッド。
 体躯のいい、成澤には、これくらいでちょうどいいだろう。
 だが、オトコ二人の重さを受けて、僅かにベッドが軋んだ音がした。

 重ねられた唇と唇。
 成澤の舌を受け入れるのと同様に、成澤の口腔に舌を差し伸べて、絡ませ合う。
 唾液を含んだその水音が、静寂の部屋に静かに響く。
 差し入れた舌を吸い上げられて、甘噛みされた。

「……ふ……ん……」

 乳首を、摘み上げられ、快感が走る。
 その上、唇で、歯で、弄られて。

 お互いの昂ぶったペニスを、重ね合わせ、擦り上げていく。
 そして、成澤のペニスを深く口に含み、その硬さを味わう。
 ペニスから、口を離すと、成澤がローションを手に取り、俺のアナルに指を這わせてくる。

「あの……成澤さん……ソッチ、あんまり、慣れてないんで……」
「え? そうだったんですか? 私は、どっちでもいいですけど、変わりましょうか?」
「いえ、無理ではないんで、そのまま……」
「わかりました。でも、無理そうだでしたら、言ってください。」
「はい。」

 それから、ゆっくりと、指が挿入されてくる。
 多分、俺が、慣れてないと言ったから、かなり気を使ってくれているんだと思う。
 時間をかけて、十分解されて、指が抜き去られていった。
 そして、代わりに、ゴムを付けた、ペニスが、あてがわれる。

「く……う……ん……」
 指で解されたとはいえ、その重量の違いは、やはり、少し、きつかった。
「川島さん、大丈夫?」
「え、あ、はい。そのまま……」
 先端を飲み込み、奥まで挿入されてしまうと、幾分、楽だった。

 俺の、カラダのこわばりが解けるのを待って、成澤は抽挿を開始した。
「う……ぅん……ん…は……」
 抽挿のリズムに合わせようと、大きく息を吐き、力を抜こうとする。
 成澤も成澤で、俺がちゃんと感じられるように、突き上げてくれる。

「あ……ああ……は……あぁ……」

 ペニスにも手を添えられて、擦り上げられていく。
「どう? イけそうですか?」
「ん、はい。もうちょっと……」

 そのまま、更に両方から刺激されて、達した。
 俺が、達するのを待って、後から、成澤も。
 成澤のペニスが、抜き去られた後も、多少違和感があったけれど、充足感の方が溢れていた。

「どうされます? 帰れそうですか? 家は、泊まってっても、構わないですけれど。」
「すみません。お言葉に甘えさせていただいて、良いですか。」
「多少、ベッドが狭くても構わないなら。」
「大丈夫です。俺、寝相良いから。」

 もう一度、シャワーを借りて、戻ってみると、きちんと、シーツを張り替えられた、ベッドに横になった。
「明日は? 仕事、大丈夫なんですか?」
「6時に、目覚まし合わせてくれると嬉しいです。」
「わかりました。」

「あの……また、お邪魔させてもらってもいいですか?」
「私は、構わないけど……」
「けど、なんですか?」
「いや、嬉しいんですけどね。川島さんの方が……」
「マスコミには、気取られるようにしませんから。」

 でも、実際、マスコミにばれた時、どうなるだろうか。
 成澤は、俺を巻き込みたくないと思っているだろう。
 俺も、成澤を巻き込むような真似だけはしたくない。

 クランクインまで、まだ間がある。
 俺は、俺を知らなければ。
 成澤が、何らかの契機(きっかけ)を与えてくれるような気がした。
 そして、映画が成功すれば、成澤にとっても好機(チャンス)だ。
 それを潰したくはない。



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