暴走書家

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『星降る言葉-1-』

 俺は、自分の中で、どこかに限界を感じていた。
 両親の影響で入ったこの世界。
 それでも、『親の七光り』と言われるのは嫌で、それなりに頑張ってきたつもりだ。
 親譲りのその容姿。
 顔だけで売れていると言われたくなかった。
 俳優として、演技力も磨いてきた。

 演技をする事、それが嫌だった訳じゃない。
 ただ、その絵空事の空虚さが、俺を襲っていた。
 それに加えて、両親の名声と、俺の見た目の良さに集まってくる人達。
 その事が、余計に俺自身、俺の本質を見失い事に繋がっていた。

 オンナにも、オトコにもモテてたけれど、一体、俺の何を見ていたんだろうか。
 残念ながら、俺はゲイだったから、オンナに興味を示す事はなったが。
 それでも、ドラマの世界では、女性相手に愛のの台詞を囁く。
 男相手でも、白々しいと感じているその台詞たちは、女相手では、余計にその度合いを増す。

 中には、ドラマで共演した事が契機(きっかけ)で、付き合うようになって、結婚まで至るカップルもいたが、俺は、そこまで役に入りきる事が出来なかった。
 役作りは勿論するし、共演者との仲を悪くする気はない。
 それに、カメラが回り始めれば、演技に集中する事は出来た。

 ある役を演じれば、何となく、俺自身にもそのイメージが付いてしまう。
 そうすれば、次に求められる役柄も、似たようなものになってくる。
 皮肉な事に、俺に求められたのは、俺が最も苦手とするものだった。
 ゲイでも、オトコとの恋愛にさえ、冷めていた俺が、女相手の恋愛物を演じる。

 勿論、それ以外の役を演じる事もあったが、圧倒的にそれが多かった。
 俺自身は、どっちかというと、アクション系のものが好きだった。
 長期間に渡るような撮影はハードだったし、その為に、カラダを鍛えるのは嫌いじゃなかった。
 そうして、思い切りカラダを動かすアクションは、俺の中では、どんな演技よりも熱が篭っていたと思う。

 それでも付いて回る、両親の名声と、俺自身しっくりこ来ない、俺へのイメージ。
 限界を感じながらも、この世界から離れる事は、もっと考えられなかった。
 だから、二世タレントと呼ばれようが我慢した。
 きっと、俺自身の実力も足りないのだろうから。

 俺みたいに何のコネも持たない人間が、この世界で生き残っていくには、必死で努力しているだろう。
 どれだけに人間が、この世界に憧れ、実際デビューすることが出来、活躍出来るのだろうか。
 この世界に憧れ、目指しても、デビューする事のない人達。
 デビューできても、一瞬にして忘れ去られていく人達。

 俺は、この世界で、何とかまだ生き残っていられるけれど、それがいつまで続くかは、本当はわからない。
 世間の人間が、俳優としての俺を、どれだけ認知してくれているだろう。
 両親の名声と、若さとルックス、それだけに安住して、いつまでも、やっていられる訳もない。

 そして、この世界を去らなければならなくなった時、一時でも、そこにいられたのが、その為だとは思われたくはなかった。
 それを払拭するには、やはり、俺も努力をし続けなければならない。
 その為には何をしたら良いのか?
 今の俺は、それを掴めずにいた。

 そんな時、ある映画の出演を打診された。
 映画の概要を書いた紙を手渡され、マネージャーにこう言われた。
「もし嫌だったら、断ってもいいんだよ。」
 それは、暗にマネージャーや事務所自体、あまり乗り気の話ではない事を意味していた。

 監督は、そこそこ有名な映画監督だ。
 脚本家の名前は、目にした事がない名前だった。
 勿論、数多くいる脚本家の全てを俺が把握している訳ではないが、少なくともそんなに名の通った、人物ではない。

 一応恋愛物らしい。
 『箱庭の外側』題名は、そう名付けられていた。
 しかし、今まで俺が演じてきたのとは、全く違った役柄だった。
 人妻に恋焦がれ、その禁忌に葛藤しながらも、真摯に愛の言葉を投げかけ続ける。
 その若い情熱に一度は、(なび)きかけるが、人妻も、夫と、若者の間で揺らぎ、結果としては、若者を捨て、夫の元に戻る。
 捨てられた若者は、その精神的ショックから、現実に向き合う事が出来ず、心の病に陥り、病院での生活を余儀なくされる。
 けれど、戻ったはずの夫との関係にも、疑問を感じ始めた人妻は、夫とも決別し、一人の女性として、生きる決意をする。

 その若者の役が、俺。
 精神病院という『箱庭』での生を送る事になる、若者と、家庭と言う『箱庭』の外に出て、自立していく女性。
 恋愛を基にしながら、女性の自立をテーマにした映画だ。

「これ、一応、有名な監督の作品ですよね? 断っても良いんですか?」
「君に、この役を、と推してきたのは、脚本家の方なんだ。一応、新進気鋭の脚本家ではあるが、まだ、力を持っている訳じゃない。それに、君へのイメージもあるし……。」

 俺のイメージ。
 確かに、俺のイメージと、この若者のイメージは今までの俺のイメージとは違う。
 その脚本家は、何を見て、俺にこの役を推してきたのだろうか。

「俺はまだ若いし、未熟です。もし、何かに挑戦できる機会があるのなら、やってみたいです。」
「そう? でも……。」
「お願いします。例え、脚本家が有名ではなくとも、しっかりした監督が付いているのでしょう? これは、一つの好機(チャンス)ではないですか。」
「まあ、好機rp>(チャンス)に繋がれば良いけど。」

 しぶしぶといった感じではあったけれど、それ以上は反対されなかった。
 そう、これが好機(チャンス)に繋がれば……。

 後日、映画の件を承諾したという事で、監督に挨拶に出向いた。
 本人に会うのは初めてだけど、何作か観た事もあるし、その顔も、知ったものだった。
「君の父親の事は知っているが、君自身の事は殆ど知らない。世間的評判程度にしかね。そんな君を使うと言うこともあるし、脚本家もまだ名の知れてない人間を使うことになる。私にとっても、ある種の賭けになる作品だ。厳しくなるかもしれないが、よろしく頼むよ。」
「はい。よろしくお願いいたします。」

 監督自身が、賭けだというその作品に、俺は、どれだけ答える事が出来るだろうか。
 厳しさは、受け止めなければならない。
 それは、俺自身の為にもなるだろうから。

 それから、俺を推したという、脚本家にも会った。
 文章書きだというから、ひょろっこい人間を想像していたが、中々精悍なオトコだった。
 年は、俺より少し上くらいだろうか。
 俺とは違って、その能力のみで、この世界に入ってきたオトコ。
 そして、監督は実験的、とは言ったけれど、このオトコの可能性を、考えての機用だろう。

「初めまして。私は、成澤尚司(なるさわしょうじ)と申します。まだ駆け出しですが、よろしくお願いいたします。」
「あ、俺は……」
川島恭平(かわしまきょうへい)さんでいらっしゃいますね。作品、拝見させていただいております。ご承諾いただいてありがとうございます。」
「いえ、こちらこそ、ご指名いただいたようで。」

 俺以外の配役は、未決定なようで、これから監督と相談してだという。
 製作発表も、本格始動も、まだまだこれからだ。

 それまでに、心構えもしっかりしておかなければならない。

 そして、忙しくなるだろうから、それまでに遊んでおこう、と思い、出向いたゲイバーで、成澤尚司という脚本家と再会した。

 ゲイという人間が珍しい訳ではない。
 実際、俺自身そうなんだし。
 けれど、先日知り合ったばっかりの人間に偶然遭遇するとは。

 俺も驚いたし、向こうも、そういう表情をしていた。


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『問題の問題-8-(完)』

 佐原の話は途中だったんですけど、佐原も、俺との関係に、特別である事を感じてくれていたようで、いつもとは少し違った佐原の言葉が聞けて我慢出来なくなってしまって、そのまま、セックスに突入してしまった俺達でありました。

 で、結局、その日は、それ以上は話をせず、お別れしました。
 だって、その時はその時で、十分すぎる事が聞けたから、一気にそんなに話をしなくっても、いいかな、って思ったから。
 俺がそんなんだったから、佐原からも、それ以上、話をする事はありませんでした。
 でも、何となく、まだ佐原には、俺に言っておきたい事があったみたい。
 けど、また次会う機会で良いよね、だって少しずつじゃないと、俺の頭、本当に破裂(パンク)しちゃいそうだもん。

 そんでもって、次に会う機会だけど、俺の方が、ちょっと忙しくって、3週間くらい経ってしまった。
 佐原との事も勿論、大切だけど、友達の事も放ってはおけないからね。
 バイトとか、合コンとか、色々付き合いが入ってしまってたから。
 あ、後、大学の授業のレポートとかに追われてた訳で。

 そこら辺は、佐原も、わかってくれてると思う。
 佐原も、バイト忙しいだろうし、もし仮に、休みの時があったとしても、一人で退屈しないで過ごす術を知っているから。
 俺と居るのが、苦じゃないって言ってたけど、俺と居なくっても、別に苦じゃないんだろう。
 そういう佐原を、薄情だとは思わないし、佐原が佐原なりに自分の時を、大切に過ごせていたら良いと思う。

 それは、俺が、俺の時を楽しんで過ごしているのと同じだと思うから。
 だから、俺も、佐原に対して、薄情な訳じゃないよ。
 自分で言うのもなんだけど。
 バイトに関して言えば、佐原の方が圧倒的に忙しい訳で、だから、いつも、佐原に対して、次に会う機会について、メールでお伺いを立てる。

 今にして思えば、佐原は、どんな気分で、メールを待っていたんだろう。
 佐原の都合が良い時にメールをしてくれば良いんだと思うけど、それは絶対にない。
 まあ、元々、俺が誘った訳だから、俺から、誘うのが当たり前みたいな感じだけど、その当たり前さが俺達の規則(ルール)になってしまったのかもしれないし、佐原は、自分から、声を掛ける事が苦手なんだとも思う。

 佐原から、誘って欲しいな、とかも思うけど、苦手な事を強要してもしょうがないし、結局は、どっちから声を掛けようと、都合が合わなければ駄目な訳で、それなら、俺から誘った方が、良いんだろうな。
 だって、俺、佐原に関してだけじゃなくって、誰かに声を掛けるのとか、好きだから。
 だから、その方が、俺達にとって、自然な流れなのかな。

 んで、3週間ぶりに会う訳です。
 その時、別に佐原に何か変化があったわけじゃなくて、まあ、あったとしても、表情変わらないから、わからないんだけど、俺の家に行くまで、特に変わったこととはなく、いつも通り。
 そんでもって、俺から、話し掛けたほうが佐原も話しやすいんだろうな、と思って、俺から尋ねたのです。

「この前、佐原、途中まで何か言いかけてたみたいだったけど、俺が区切っちゃったから、話せなかっただろ? 何を言おうとしてたの?」
「ああ。セックスを楽しくてしてる訳じゃない。って言った事だよな。初めて会った頃。」
「そうだね、そんな事言ってたね。でも、俺、佐原とセックスしてて、佐原が、俺と、嫌々してる訳じゃないと思ってたけど。」
「菅野、お前との事じゃない。こういう事、態々、生し返して話す必要があるのかどうかわからない。でも、やっぱり、菅野にはちゃんと言っておきたいと思って。」

「何を?」
「一番初めからそうだったわけじゃないけど、俺は、金を介さずにセックスして来なかった。」
「え……じゃあ、それって……。」
「お前も、一応は知ってるだろ、そう言う仕事あるの。金がそれほど不足してたわけじゃないけど、出来るだけ、余裕持っておきたかったから、俺は、カテキョや塾講が終わった後に、そっちのバイトもやってた。つい最近まで。楽しくはないけど、仕事だと思えば、苦じゃなかった。最初に言っただろ? タチでもネコでもいいって。どっちも出来た方が、客層も広がるし。」

「最近までって……。でも、カテキョや塾講だけでも、大変だっただろ? その上、それ以外にまだバイトしてて、しかも、俺と会う時間作って、そしたらお前、本当に休む時間なんてないじゃないか。」
「何だよ、お前、そっちの心配する訳? 確かに、お前は『お試し』で付き合う、とか言ってたけど、俺は、それでも、他の男と、セックスしてたんだぜ?」
「う……それは……もちろん、嫌だけど……でも、元々、束縛しないって言ったの俺だし……」

「ああ、だから、俺も、勝手なのはわかってたけど、続けてた。お前とこんなに続くとは思ってもみなかったし。」
「でも、やっぱり、佐原が、無理してたのが心配。」
「本当に、この後に及んで、そっちの方の心配する訳? 俺は、別に無理してた訳じゃないよ。で、お前は、それを知って、俺と、付き合ってく気になれる訳?」
「え、でも、もう止めたんだろ? 何で止めたのかわからないし、佐原が、話さなければ話さなかったで、俺は、知る事はなかっただろうし、そうすると、俺は、佐原との関係を止めたいとかは全然思ってないし。」

「でも、実際、知った訳だろ。」
「それは、そうだけど……」
「だから、これを機に、菅野に切られても仕方ないと思ってる。」
「佐原は、切りたいの? だから、こんな話するの?」
「そういう訳じゃない。俺がやってる事は、全部矛盾してるのも身勝手なのも承知の上だ。」

 矛盾? 矛盾してるの?
 何がなんだろう。
 佐原って、そういうところしっかり考えてやってそうなのに。

「俺は、佐原が、話してくれた事の方が嬉しいよ? それって、佐原が、俺の事、少しでも、ちゃんと考えてくれてるって事でしょ? もしそうなら、俺は、佐原の事、諦めたくない。」
「……ウリを止めたのは、俺は、俺なりに、菅野と向かい合ってみたかったから。本当は、話す気はなかったけど。宮下先生に言われた。俺が、今まで、引いていた、テリトリーのラインを、菅野に対して、一歩近づけようとしてるって。でも、結局、話してしまった時点で、俺は、菅野に切られるかもしれないから、矛盾してるんだ。」

 それは、菅野が、俺に対して、ココロを少しでも広く開いてくれているって事でしょうか。
 他の誰にも、踏み込ませなかったラインを、俺ならば、少し踏み込んでも良いって事でしょうか。

「佐原が、俺の事、特別だと思ってくれてるって、受け取っても良いの?」
「そうだな。前に、宮下先生の事を特別だって言ったけど、それとは、全然違う。宮下先生とは、ゲイホストやってるときに事務所で、偶然顔を合わせたんだ。先生は別に、買いに来た訳じゃなくて、事務所のオーナーと知り合いで、事務所にお土産、とか言って、色々、物置いてっただけ。噂の事もあるし、ああいう場所に顔を出すのって、不味いんじゃないか、って聞いたことあるけど、ゲイなのは、事実だし、先生自身の事は、別にばれても問題ないって言ってた。ただ、やっぱり、噂の事は、寧ろ相手に対して気を使ってるみたい。俺の事も、踏み込んでくるわけじゃないけど、出来るだけ距離を置いてくれて、余計気に掛けてくれてる。俺が人間関係苦手だってわかってるから、必要な時にさり気に手を伸ばしてくれる。まあ、色んな意味で、先輩、って感じかな。」

 誰にも頼ることが出来なかった佐原にとって、初めて、身近に感じられるオトナなんだろうな。
 本来なら、家族とか友達とか、学校とかで学んでいく事なんだろうけど。
 佐原にはその機会がなかったから。

「佐原にさ、『お試し』って言ったけど、あれは、佐原に対してだけじゃなくって、俺にとってもそうだったんだと思う。だって、付き合ってみたって、本当に長く続くかは、俺もわかってなかったから。もしかしたら、普通に付き合っててもある程度は『お試し』みたいな部分はあるような気がする。でも、そろそろ、『お試し』って言うのを、少し進展させてみてもいいような気がするんだけど、そう思ってるのは、俺だけなのかな。」

 『取り敢えず』とか『何となく』とか『お試しで』とか、名付けなかったとしても、そうやって、始まっていくんじゃないかな。
 だって、例えば、ルックスが好みでも、気が合っても、付き合ってみて、何かしらの面で合わなかったりして別れたり、若しくは、合わない部分を、合わない部分で理解し合って、関係を続けたりするんだろうから。

「俺は、確かに、菅野に対して、特別な部分を色々感じて、他人では絶対許さない部分を受け入れられると思うけど、それでも、どうしても、犯して欲しくないテリトリーがあるんだ。」
「そういうのって、誰にでも、どんなに親しい相手に対してでもあるんじゃないの? 俺は、佐原が、今、俺に許してくれている部分があれば、それで良いよ。それに、多分、それを、犯してしまったら、佐原は佐原じゃなくなってしまうだろうし。俺とは全く違う、そういう佐原の部分って好きだし。」

「菅野の、そう言う許容量の広さには敵わないよ。」

「誰にでも、どこまでも許すわけじゃないよ。でも、そうだなぁ、一つお近づきになれた証拠に、下の名前で呼んでくれない? ねえ、雄治。」
「ああ、雅弘。」

 それから、自然と唇をどちらからともなく重ねあった。
 そして、触れ合うだけだった唇と唇が、それだけでは物足りなくて、次第に深くなっていく。
 舌で、口腔内を探りあい、絡み合った舌と唾液が、尾を引き、唇を離して、見つめあう。

「取り合えず、今日は、どうしたい?」
「そうだな。まずは、雄治のが欲しいな。」

 そう、取りあえずは取り合えず。
 だって、それだけじゃないから。

 佐原の愛撫に身を任せ、その感覚を肌で味わう。
 ちょっと、商売柄、こういうのを身に付けたかと思うと癪なんだけど、やっぱり、気持ちが良いのは良いからなぁ。

 片方の乳首を指で弄られて、勃ち上がった所を、更に、舌で舐められて転がされ、甘噛みされる。
そして、もう片方も同様に。

「…ん……ぁ……」

 ズボンの上からペニスを、揉んで擦り上げられ、硬く勃起していく。
 それから、ズボンと下着を脱がされて、直にペニスに触れられて、扱かれる。

「は……ぁ…あ……」

 俺も、お返しに、佐原のペニスを露にし、亀頭の感じる部分に舌を強く押し当てて、唇で強めに挟んで、深く口に含んでいく。
 唇を窄めてそこで、扱くようにその行為を繰り返す。

「…ふ……ぅ……ん……」

 完全に勃起したペニスから、唾液と、先走りを拭うかのように先端を舐めてから口を離す。
 佐原が、再び、俺のペニスを扱きながら、ローションを付けて指をアナルに挿入してくる。

 指で解されたアナルに、ゴムを着けたペニスが、押し当てられ、それを、受け入れていく。
 抽挿されながら、内壁を擦り上げられ、快感が込み上げてくる。

「ぁあ……は……んん……あっ……」

 その快感に、先走りが溢れ、突き上げられながら、そのペニスを扱かれると、もうたまらなくって。
 それを我慢する必要なんかないのもわかってる。

「……あ……はぁ……あぁ……!イ…く!」

 俺が、射精した中で、佐原も、達していた。

 重なり合うカラダの体温を感じながら、少し安らいで、再び、お互いのカラダを求めていく。
 俺が、それだけじゃ、満足しないのを、佐原は知っていて、それを受け止めてくれるから。

 佐原の肌を指先で、舌で味わって、愛撫していく。
 その刺激が、快感として、ペニスに繋がっていく。
 俺のペニスも、勃起していて、お互いのペニスをお互いの手で扱き合う。

 それから、佐原のアナルに挿入していって、その締め付けのきつさを味わいながら、抽挿を繰り返す。
 佐原も、それにちゃんと感じているようで。
 そして、再度、絶頂を迎えた。

 んで、その後なのですが、一応、『お試し』期間が一段落した訳で。
 そんでもって、新たな『お試し』期間に突入するのです。

 友達に、『恋人』が居るのか? と聞かれたら、イエスと答えるかもしれません。
 でも、実際のところ、ちょっとやっぱり違うような気がするのです。
 それでも、これからも、佐原が、俺の隣に居て、俺も、佐原の隣に居ると思います。

 隣って言っても、すぐ傍に寄り添って、って訳じゃないですよ。
 でも、何なんでしょうね、隣に居るような気がするのです。

 人生、問題は、山積みです。
 一つクリアしたと思っても、新たな問題に遭遇したりする訳です。
 それも、一つだけじゃなくって、その問題の中にも問題が潜んでいるんです。
 だけどね、それでいいんです。
 俺達は、その問題に頭を悩ませながら生きていくんだから。


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『問題の問題-7-』

 頭の中がぐるぐるしてしまって、聞いてみたい事は沢山あるんだけど、何をどう尋ねたらいいのかわからなかった。
 佐原が、あのオトコと会話していた内容だって、もう殆ど頭の中には残っていなかった。
 話をするにしても、ここは大学の構内で、今、この場では出来ない。
 そして、あのオトコは何者なんだろう。
 弓道場から出て来たんだから、そっちの関係者なのだろうか。

「あの……佐原、今の人って、大学の関係者なの?」
「ああ。弓道部のOBで、後は、菅野ももしかしたら、会ったことあるんじゃないのか。医学部の准教授だから。」
「え? あ、そうなの? 医学部っていっても、色々教室あるからなぁ。どこの教室の人なの?」
「法医学教室。宮下准教授。」
「教授ならともかく、准教授とかだと、あんまり知らないからなぁ。」

「そっか。菅野、今さっきの話を聞いてて、お前が、何をどう思ったかわからないけど、やっぱり、お前とは、きちんと話しておきたい事がある。お前も多分、聞きたい事があるだろうし。でも、ここで今出来る話じゃないし、生憎(あいにく)、ここ2日くらいは忙しいんだ。明後日くらいに時間取れるか?」
「明後日……えっと、大丈夫だと思う。」
「悪い。お前のスケジュール確認してから、またメールくれ。」
「わかった。」

 佐原が話したい事って何なんだろう。
 今までだって、色々話してきたよ。
 その中で、全てがわかった訳じゃないし、もし仮に、今度会って話をしても、全てがわかる訳じゃないと思う。
 それでも、話をする事によって、少しでも近付けるかか、若しくは、遠ざかってしまうか。

 自分のバイトのスケジュールを確認したけど、明後日は空いていた。
 今日、明日と佐原と会えない2日間。
 今までだって、毎日会っていた訳じゃないんだから、そう自分に言い聞かせても、この2日間は、今までの会えない時間とは違う。
 それが、早く来て欲しいような、早く来て欲しくないような微妙な気分だった。

 佐原と『お試し』と言う名目で付き合ってきた日々。
 長く付き合っている内に、別に、恋人なんて呼べなくっても良いんじゃないか、とかも思っていた。
 だって、佐原が嫌になれば、俺との関係を切れば良いんだし、実際そうしてこなかった佐原は、佐原なりに、俺の事を、見てくれているんだと思ってたから。
 佐原にとって、俺はなんなの? とか問い詰める気も別になかった。
 佐原にとって、何となく、俺は特別な位置にいるんだと思ってた。
 だから、『お試し』でも、これだけ付き合って来れてるんだって。

 その2日間は、色々気掛かりでしょうがなかったけれど、やっぱり授業には出なくちゃいけないし、部活にも行くし、バイトもこなしていた。
 宮下准教授の事も何となく気掛かりで、医学部の友達に聞いてみたりした。
 実際、授業を受けている先生や、何となく俺が目指そうとしている、方面の教室の事は、知っていたが、それ以外の事は、あまり興味がなかったから知らなかった。

 法医学って結構特殊だと思う。
 一応基礎として、全員学ぶ事だけれど、専門的に進む人数はそれ程居ないんじゃないだろうか。
 それでも、宮下准教授の存在を知っている友人はいた。
 そして、その准教授の噂も。
 いや、多分、そういう噂があるから、知っている友人も居るんだろう。
 どこからそういう噂が流れるのかはわからないが、彼が、ゲイだっていう噂が。
 友達は、それが本当なのかどうかは知らない、と言っていたが。

 そんな風に過ごしている内に、2日間は過ぎ、佐原と会う日がやって来た。
 取り敢えずは、今までと変わりないように、夕食を摂って、俺の家へやって来ました。

「佐原、あのさ、俺は知らなかったんだけど、医学部の友達で、宮下准教授の事知ってる人居たよ。その……噂も、聞いたし。」
「噂?」
「うん。准教授がゲイだって……。」
「ああ、それか。俺も、部活が弓道だから、たまに、顔を出しに来る、先生が、ゲイだって噂は、聞かされたことあるよ。」

「でも、そういう噂ってヤバくないの?」
「所詮、学生の間に流れる噂だろ? 事実を確かめられる訳でもない。そういう噂話を宮下先生自身に振ったとしても、先生は、上手く受け流せるから。先生自身、そういう噂があるの知ってるし。実際のところを知ってるのは、教室でも、学部内でも上の方くらいみたいだし。」
「実際のところ……って事実なのか? それ。」
「ああ。俺は、偶然知ったんだけど、事実を知っている人間の間では、暗黙の了解らしい。噂が噂として残るのは、先生自身が、その噂を面白がって、煽ったりするからだろ。」


「佐原がゲイだって事も、宮下准教授は知ってるんだよな?」
「ああ。でも、始めっから、って訳じゃない。初めて会ったのは、弓道部の新歓の飲み会の時かな。噂は聞いた事あったけど、ただの噂くらいにしか思ってなかったし。俺、アルコール本当に弱くって、でも、まだ、そんな事認識してなかったから、周りが、飲んで盛り上がってる中で、適当に相槌を打ちながら、酒を飲んでたんだ。でも、その内、気分が悪くなり始めて、それに最初に気付いてくれたのが、宮下先生だったんだ。アルコールを覚えたての人間って、加減がわからないから危ないだろ? 先生自身は、アルコールを口にしてないから、周りのそういう変化とか、気付きやすかったんだ。実際、他の事にも、よく気の回る人だし。」

「ああ、そう言えば、佐原が酒飲んでるのって見た事無いな。飲めなかったんだ。」
「うん。本当に駄目みたい。あれ以来、口にしてないし。俺の場合、酔って赤くなる訳じゃないから気付かれにくいんだって言われた。」
「それなのに、よく気付いてくれたな。」
「俺だけじゃなくて、他の人間の事も、ちゃんと見ていたんだと思うよ。あの時はまだ、お互いがゲイだって事知らなかった訳だけど、俺の酒の飲み方とか、周囲との接し方とか見て、俺が本格的に気分が悪くなって倒れる前に、対処してくれたし。俺が、周囲の人間と距離をおいてるのも、気付いていたみたい。それに対しては、何も言われなかったけど、その点でも、宮下先生は、俺の事を気遣ってくれてたんじゃないかな。」

「そう言えば、佐原は、親は気にしない、って言ってたけど、そういう事も全然気にしないのか?」
「俺の家さ、俺が小学校に上がる前から、母子家庭だったんだよ。父親は病死してる。母親は、結構、父親が全てだったみたいなところもあって、あんまり俺に関心を寄せる事はなかった。父親の保険金もあったし、母親も、それでも何とか働いてたから、一応生活は出来てる。母親は、元々俺に感心がない上に、仕事のが忙しかったり、休みの日は休みの日で、殆ど寝てばかりだったから、当然、顔を合わせることは殆ど無くって、まるっきり、別の生活をしてた。家事も、自分の事は、自分の事、それが当たり前だったから。母親の収入なんて知れたものだから、高校も、父親の保険金と、奨学金とバイト代で通ったし、大学も、似たようなもんかな。」

「奨学金は受けてても、いずれ返さなきゃいけないんだろ? だからか、かなりバイト入れてるの。」
「まあ、そうだね。」
「休日とかも、殆どバイト入れてるだろ? それなのに、結構、俺の為に時間割いてたんじゃないのか?」
「別に、無理してた訳じゃないよ。前にも言ったように、疲れる訳じゃないし、菅野の為って訳でもないから。」

 心配するのは無駄、と言うよりも、その必要はないと思っても聞いてしまう。
 佐原は、始めから、気を利かせたり、気遣いはしないと言っていた。
 実際そうして来たんだろう。
 佐原は、俺の為ではないと言った。
 それは、佐原自身の為なんだろうか。

「俺の為じゃないって、じゃあ、何で?」
「始めの内は……どうしてなのかよくわからない。俺自身が、どうしてそうしたのか。菅野は、どんな話をしてても、俺が不快に思う事は言わないし、決して、俺のテリトリーを侵してこない。それを、居心地が良いと感じてしまったんだ。菅野は、誰とでも、そういう関係を築けるんだろうけど、それなのに何で、俺と、ずっと関係を続けてるのか不思議だった。」
「え、だって、佐原を誘ったのは俺の方なんだよ。だから、俺は、佐原の方こそ、関係を切ってこないのが不思議だった。」
「だからかな、俺は、宮下先生相手とは違った意味で、菅野に甘えてたのかもしれない。菅野から、切って来る事は無いんじゃないかって。」

 佐原が、俺に甘えてた?
 佐原は、しっかり自分の足で立っているようで、それは、ずっと幼い頃から、そうする事が当たり前のようになっていて、そうして、しっかり佐原が自分自身で己を支えなければいけないと、そうして生きてきたんだろう。
 俺は、知らず知らずの内に大勢の人間に支えられて生きてきた。
 勿論、一方的に寄りかかる訳じゃないけど。

「佐原、それは違うよ。俺は、佐原だから、必要だったんだ。宮下准教授が佐原にとってどういう存在なのかわからないけど、もし仮に、佐原が、俺に甘えてた、と感じるんだとしても、一方的なものじゃないだろ。」

 そうだよ。
 佐原が、断って来ないのをいい事に、俺も佐原に甘えていた。
 それを、『甘え』と呼ぶのかどうかわからないけど。

 もし、それが、『甘え』であっても、お互いが、求めているんなら、問題ないんじゃないだろうか。

「菅野、俺は、別にセックスを楽しくってしてる訳じゃないって言っただろ。あれには、別の意味もあるんだ。」
「でも、今は、そんなの関係ないだろ?」

 だって、欲しいのは、お互い様なんだから。
 佐原が、もう少し話そうとするのを遮って、俺は、佐原に口付けた。
 佐原も、それを素直に受け入れる。

「菅野……シャワー……」
「ん……ああ、でも、そんなに待てない。」

 一度、口付けを離して、お互い、急いでシャワーを浴びる。
 そして、今度は、ベッドの上で重なり合って、口付けた。
 舌を絡め合い、吸い上げて深く口付けながら、佐原の肌に指を這わせていく。

「…ん……ふ……」

 乳首に触れ、次第に尖ってくるのを指の腹で転がして弄る。
 声としては上がらないものの、確かに感じているように、口付けている端から吐息が漏れる。

「ふ……ん……ん……」

 割と性急に求めているのに、もう、お互いのペニスは十分昂ぶっていて。
 そのペニスを、更に追い上げるかのように、指を這わせ、愛撫していく。

 それから、佐原のアナルに指を挿入する。
 ローションの滑りを借り、受け入れられるように解してから、ペニスを挿入していく。

「ぁ……ん……ふ……ちょっと…待って…菅野……」
 やはり、いつもより、性急だったからか、佐原にはちょっときつかったようだ。
 少し待ったけれど、あまり我慢できなくて、佐原が許可を出す前に抽挿始めた。

「…ん……く……ふぅ……」
 それに対して、何とか佐原は、カラダの力を抜いて、俺の動きに合わせようとする。
 俺も、佐原の負担だけにはなるまいと、ペニスを扱きながら、アナルの裡を擦りながら突き上げていく。

 多分、もう、お互いの絶頂は近くなっていて。
 そして、それを、我慢する必要なんかなくて、そこへと導いていく。

「あ……ん……く……あぁっ…!」

 やがて、射精を迎えた。。

 それでも尚、お互いを求めるのは止める事が出来なくて。
 一度は、放っているから、今度はそれ程、急ぐ事なく、求め合っていく。

 佐原に触れられる指に感じて、再びペニスは昂ぶり、俺も、佐原のペニスを口に含み、刺激していく。
 それを、俺も欲しているから。

「は……ん……あぁ……」

 指で解されたアナルに佐原のペニスを受け入れ、突き上げられて、満たされていく欲望。
 そして、満たされて、解き放たれる二人分の欲望の証。

 その後の、まどろみの中でも、満たされるものがある。
 それは、性欲とは違って。

 そういえば、佐原の話を途中で投げ出してしまった。
 そんなに焦る事はない。
 まだ時間はある。
 きっと。

 本当に先の事なんてわからない事だらけだけれど、それでも、わかる事から、少しずつわかっていけばいい。
 どれだけ、その後ろに問題が残っていようとも。
 だから、今は、もう少しこのまま……。


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『問題の問題-6-』

 取り敢えず、佐原とは特に変わる事なく、上手く続いていると思います。
 時々、佐原が、何故この関係を続けてくれているのか、疑問に思う事もありますが。
 佐原が、俺と居る時を苦痛だと感じていない、そう言ってくれたけれど、それ以上に、佐原が、俺の事をどう思っているのかわかりません。

 佐原は、昔から友達が居ないと言ったけれど、佐原が言う、他人との距離の感覚、というのは、それなりに成長してきてからではないのでしょうか。
 その事を尋ねてみた事があります。

 佐原は、昔、カラダが弱かったらしく、小学校の入学式の日から含めて、1週間、高熱と喘息をこじらせて休んだのだそうです。
 そうすると、もう、大体、グループが出来ていて、そこに入り込む余地が無かったらしいです。
 人見知りもするので、佐原から誰かに話しかける事も出来ず、自然と、一人で居るようになったんだそうです。

 中学校に入っても、小学校からの持ち上がりのグループというのがあって、勿論、新に、グループ同士、仲良くなったり、何かの契機(きっかけ)で、仲良くなったりする人間も、周りに居たそうですが、佐原には、縁が無かったみたいです。
 多分、何となく、話し掛け辛い人間は居るでしょう。
 その原因が何なのかわかりませんが。

 その頃から、佐原は、周りに人間に対して、遠巻きに観察するようになったそうです。
 自分自身の事についても考えるようになったのも、その頃かららしいです。
 教室の中で繰り広げられる人間関係に何を感じていたのかはわかりません。
 その中に入ってしまうよりも、外から見たほうが、よくわかる事もあるみたいです。

 高校生になる頃には、ほぼ今の感覚が出来上がっていたみたいです。
 それでも、ずっと、何の人間関係を結ばずにいる訳にもいかないから、部活に入ったそうです。
 その時から、弓道を始めたみたいです。
 先輩後輩関係は、どうしても出来上がってしまうものだし、勿論、それを越えて仲良くなる場合もありますが、そうなる必要も特になく、あくまでも、そういう立場として、接していたみたいです。

 大学に入っても、部活を続けているのだから、友達という感覚の付き合いは出来ないけれど、団体行動が、全く駄目、という訳でもないのでしょう。
 得意ではなさそうですが。
 弓を射る時に、自分の精神が静寂になり、ただ、的だけを見つめて、その世界に入り込めるのが好きみたいです。
 団体戦もあるみたいですが、基本姿勢は、弓と矢と己と的、それが、一時を制するのです。

 それは、佐原の性質とよく合っていると思います。
 佐原が、友達が居ない、人間付き合いが上手くできない、出来るだけ自分のテリトリーを犯されたくない。
 けれど、それが、決して、人間関係に対して、投げやりな訳ではないのです。

 佐原は、声が掛け辛い。
 何となく、近寄りにくい。
 何を話したらいいのかわからない。
 そういう印象を他人に与えやすいみたいです。
 俺は、そういうのをあんまり感じないから、佐原がゲイだって知る前でも、声を掛けてたし、その後は、まあ、今に至るわけです。

 仕事上で、どうするか、それは何となく想像がつきます。
 けれど、それ以外で、誰かと話をしているのは想像がつきません。
 そして、そんな風に関係を続けながら、大学生活は2年を過ぎ、それぞれが、それぞれの学部へと移っていきました。
 元々、大学では話をしないから、学部が異なっても、変わらないのでしょうが。

 そんなある朝、まだ、授業が始まるには早い時間帯に、佐原の姿が弓道場から出てくるのを見かけたんです。
 学部が離れて、ちょっぴりご無沙汰だったので、話し掛けてみようかと思い、近付いていきました。
 話し掛けようと思って、止めたのは、佐原が一人ではなかったからです。

 相手は、学生ではない感じです。
 年齢も、結構上だと思うし、スーツを着ていたから。
 まあ、勿論、それだけで決め付ける訳ではありません。
 だって、大学っていう性質上、何歳の学生がいたって別におかしくは無いのだから。

 盗み聞きをするつもりはなかったのですが、相手が、佐原に対して、普通に話しかけているのが不思議で、また、佐原も、それに対して、特に違和感無く話しているのが不思議で、ついつい耳を傾けてしまいました。

「久し振りだね、佐原くん。朝早くから、と言うか、誰も来ないだろうから、居るのが君らしいけどね。」
「先生が、久し振りなんじゃないですか。俺は、たまに、来てますから。」
「まあ、そうなんだけどね。普通の時間に行ったりしたら、学生の邪魔をする事になるからね。空いてる時間を狙って来ないと。」
「本来は、学生の部活の為の道場ですからね。」
「でも、一応、許可は得てるし、それにこっそり来るから。滅多に人には会わないんだけどな。」

「でも、今日は、たまたま、俺が居た訳ですね。」
「これだけ朝早くて、あまり学生が来てない大学も良いよね。って、私はもう仕事だから良いけど、佐原くん、練習あがちゃって良かったの?」
「ええ、まあ、一人で時間をつぶすのは苦ではないですし。」

「そういえば、佐原くん、あそこ辞めちゃったんだって? 蛍が寂しがってたよ。」
「まあ、何となく、学部にも上がったし、勉強の方にもう少し力を入れようかと思って。蛍さんには、適当に言っておいてください。」
「蛍も、一応忙しいからね。気にする必要はないよ。蛍の方が、一方的に佐原くんに構ってたんだろうし。でも、辞めちゃって、大丈夫なの? お金の方。」
「奨学金受けられてますから。あそこで働いてたのも、将来の為の保険みたいなものですから。って言うか、ああいうバイトを続けるのを勧めるのって、どうかと思うんですけど。」

「だって、仕事は仕事でしょう? 例えバイトでも、どんな仕事でも、仕事に対するプロ意識は必要だと思うし、それさえあれば、問題はないんじゃない?」
「理屈はわかりますけど、理屈だけでは通らないでしょう。」
「それは、そうなんだけどね。どっちにしろ、佐原くんが、決めた事だから、私が口出しをする事じゃないし。」

「宮下先生も、蛍さんもそうだけど、たまにいますよね。俺が、自分のテリトリーを侵されるのを嫌っているのを知っていて、それでも、踏み込んでくる人って。」
「珍しいね、佐原くんが、そういう話するのって。佐原くんって、そういうところも、自分で処理しちゃうでしょう?」
「何となく……」
「まあ、良いけどね。蛍がどうかはわからないけど、佐原くんが言いたいのは、そのテリトリーの境界線の事でしょう? その面では、私は、佐原くんに対しては、あまり深く踏み込むつもりは無いよ。ある程度離れたところに線を引いているのはわかるでしょう?」
「ええ。まあ。」

「私は、結構、相手のギリギリのラインまで踏み込むからね。若しくは、自分にギリギリのラインを引いて、相手を踏み込ませるか。そういう、ある種、駆け引きは楽しいからね。」
「駆け引き、ですか。俺には出来ませんね。俺は、かなり遠くに相手をおくから。俺からは、そのラインは曖昧にしか見えない。」
「佐原くんのガードは固いからなぁ。相手のものはわからなくても、自分の中では、自分のラインがある。でも、もしかしたら、佐原くんは、今引いているラインを、一歩近付けようとしてるのかな? どういう相手に対してかはわからないけど。」
「……何で、そう思うんですか?」
「さあね。何ででしょう。この手の話を、いくら相手が私だからといって、他人にしている時点ででしょうかね。」

「だから、宮下先生は、怖いんですよ。」
「怖いって、ねぇ。ああ、そういえば、その後、部活の飲み会とか大丈夫? 弓道部は、結構女の子多いから、他の体育会系みたいに、お酒を強要しないけど、最近は、女の子でも結構飲む子いるからね。」
「大丈夫ですよ。ちゃんと、自分で気を付けてます。」
「なら、いいけど。佐原くんは、きっと、ずっとそうやって育ってきたんだろうから、自分で殆ど片付けちゃうんだろうけど、消化不良、起こさないようにね。私でよければ、話相手くらいにはなるし、時間が出来たら、また店にも飲みにおいで。ちゃんと、ノンアルコールのものも置いてるから。」
「ありがとうございます。」

 そんな風に誰かと会話をしている、佐原の姿を見るのは初めてだった。
 だって、本当に佐原って、俺以外、誰ともまともに会話したりしないから。
 そして、この相手と、話をする時の佐原は、俺と話をする時の佐原とは違う。
 俺は、きっと、このオトコの知らない佐原を知っているだろうけど、このオトコも、俺の知らない佐原を知っている。

 ボーっと突っ立っていた俺は、振り向いた佐原に見つかってしまった。

「……菅野……」

 ええっと、何となく気不味いです。
 だって、本当に、立ち聞きしてしまったんですから。
 不可抗力ですよ、これは。
 何で、俺は、この場に居合わせちゃったんでしょうか。

 相手のオトコも、俺の存在に気付いたようで。

「誰? 佐原くんの知り合い? 弓道部の学生じゃないよね。」

「あの……えっと……」
 答えに窮してしまった俺の代わりに、佐原が答えていました。

「前期でクラスが一緒だったんです。それで、一応、知り合いっていうか。」

「ふーん。珍しいね。部活以外で、佐原くんに知り合いがいるなんて。まあ、いいけど。あ、やばい。本当に仕事急がないと。じゃあね。」

 腕時計に目をやると、そのオトコは、そう言って、早足で去っていった。

「ゴメン、立ち聞きするつもりは無かったんだけど……」
「別に。どこからどこまで聞いていて、どう思ってるのか知らないけど、大した事じゃないから。」
「ちょっとびっくりした。佐原が、ああいう風に誰かと話をしてるなんて。」
「まあ……何ていうか、あの人は特別だから。」

 佐原にとって、特別な人間、それが、どういう意味かわかりません。
 それから、俺は、佐原にとって、特別な人間なんでしょうか。
 『特別』って難しいですね。

 そして、これが、俺達の一つの転機になるのでした。


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『問題の問題-5-』

 取り敢えず、勢いで『お試し』期間に突入してしまった訳ですけれど、日常生活にそれ程大きな変化はありません。
 佐原は、相変わらず、大学で殆どクラスの人間と話をする事もないし、俺も大学で佐原に声を掛ける事はなくなりました。
 勿論、佐原から話し掛けてくる事もありません。

 俺が佐原に言われた事、友達関係について、ちょっと考えてみたけれど、考えるだけ無駄なような気がしてきました。
 まあ、でも、何となく、相手の事をよく見るようになりました。
 わかってなかった訳じゃないけど、やっぱり、それぞれ、皆、違う人間なんだな、と改めて感じました。

 その上で、親友ってなんだろう? とか考えてみました。
 色んな人と友達付き合いするけど、その中でも、特に仲が良い人間っていうのは、それ程多くはありません。
 大学の中でもそうだけど、小学校、中学校、高校と経てきて、今でも、連絡を取ったり懐かしい、と言いながら、遊びに行ったりするのも限られた人です。

 そういう長い付き合いがある人は、大体の事を知ってるつもりだし、向こうも、俺の事を大体わかってるんだと思います。
 大体、っていうのは、やっぱり、完全にわかる事は出来ないからです。
 俺は、やった事がありませんが、軽い悩み事とか、愚痴とか、打ち明けられるのも、俺の事を、信頼してるから、俺が、それを受け入れるのをわかっているか、若しくは、ただ聞いて欲しいだけなのでしょう。

 俺が、そういう事を口にしないのは、別に何も悩んでいないからではありません。
 そんなに、お気楽な人間じゃありませんよ。
 自己消化してるんだと思います。
 取り立てて、口にする程の事でもないな、と思う事もあります。
 んでもって、そういう付き合いのある相手にも、俺がゲイだって事は、ずっと言えずにいます。

 仲の良い友達でも、俺の事をある程度わかってくれている人でも、やっぱり、打ち明けた時の反応は怖いです。
 自分がゲイである事に、特に悩んだ事はないけれど、それを、友達が受け入れてくれるかどうかというのはわかりません。
 もし仮に、カミングアウトして、拒絶され、友達で無くなったら、それはそれで仕方がないのかもしれません。
 ただ、どういう機会に、どういった話の流れで打ち明けたらいいのか、それもまた問題なのです。

 それ以上に、親にカミングアウトするのは、もっと怖いです。
 こういう言い方をしたら失礼かもしれませんが、友達はいくらでも居るけど、親はそうではないのです。
 そして、友達と俺、親と俺の関係は、同じではなのです。

 ゲイの友人とそう言う話をしてみた事はあるけれど、人それぞれみたいです。
 佐原と『お試し』だけど、付き合うようになって、他の男とはセックスしなくなったけど、やっぱり、そう言う会話をするのは、そう言う人達が集まる場所にたまに行ったりします。
 そこにはそこの友達が居て、普通の友達とするような会話もすれば、お互いゲイだとわかっているから、出来る会話もします。

 でも、佐原はどうなんだろう。
 所謂(いわゆる)、普通の友達とするような会話はおいておいて、  自分がゲイである事、そういった事を、佐原はどう感じているんでしょうか。

 佐原は、メールはいつでも構わない、と言ったけれど、俺自身、元々、そんなに自分からメールをする方じゃありません。
 送られてきたメールには返信しますけど。
 それと、佐原にメールをするのは、イコール、セックスがしたい、みたいな感じになってしまうのが嫌なんです。
 そりゃ、勿論、セックスしたいのは事実です。

 けど、それだけじゃ、嫌なんです。
 でも、そうすると、それ以外に、何をするのか、と問われても、困ってしまう訳です。
 まあ、だからって、メールしない訳じゃないんですけどね。

 佐原からの返信を期待するな、と言われてたけど、俺が、それ程頻繁にメールをしない所為か、大体、どんな内容でも、返信されてきます。
 送信してすぐに返って来る訳ではないけれど。
 お断りのメールも、ちゃんと送ってくれます。

 週に1回か、少なくとも2週に1回は、会えてます。
 これって、割と、凄いんじゃないんでしょうか。
 だって、あの佐原が、これだけ、俺の為に時間を割いてくれてる訳ですよ。

 大体、晩飯を大学からは離れた所で食べて、俺の家に行って、何かしら会話をして、セックスをして、っていうパターンなんですけど。
 セックスは、勿論そうだけど、佐原と話すのは、割と楽しいんです。
 佐原から何かを話し出す事はないけど、俺が、話を振ると、それにちゃんと答えてくれるんです。
 気の利く様な事は話さない、そういうけど、逆に、気を使われるより、何倍も嬉しかったりします。

 そんな感じで、今日は、また佐原と会えたりするんです。
 外で食事を摂るっていっても、そんなにお金は掛けません。
 贅沢なんて言ってられないじゃないですか。
 安くて、ある程度量があればOKです。

 んで、俺の家に行って、おくつろぎタイムに入る訳です。

「佐原ってさ、大体どれ位、バイト入れてるの?」
「ほぼ毎日。」
「そんなに入れて、大丈夫なの?」
「今のところ何ともないよ。年取ったらどうなるかわからないけど、まだ若い内は、多少無理がきく。」
「でも、ほら、人と接する訳だろ? 気疲れとかしないの?」
「仕事だと思えば、割とコントロール出来るよ。」

「コントロールって、どうするの?」
「仕事相手、例えば、カテキョウ先の生徒とか、塾講先の生徒とかは、かなり遠いところにその存在をおくからね。菅野なら、自然と懐かれそうだけど。」
「懐かれてる……って言うのかな。実際、俺も、カテキョウやってるけど、全然関係ない話とかされるよ。勿論、勉強も教えるけどさ。」
「だろ? 相手からすれば、菅野は話し掛け易いんだよ。受験って、もちろん成績もそうだけど、それ以外にも悩む事ってあるだろ? そういう話とか、乗ってくれそうだもんな。」

 それは、確かにそうだ。
 実際、大学に行ってみてどうだとか、その先はどうしようだとか、まあ、色々。
 じゃあ、自分の時はどうだったんだろう、と考えてみると、大学進学の時は、あんまり悩まなかったよな。
 医学部に行く、っていうのはもう決めてたし、どこの大学を目指すかも、自分の成績を見て、いくつかピックアップして選んだからな。

「俺は、あんまり悩まなかったけど、例え悩んだとしても、誰かに相談してたと思う。でも、佐原は、そういう事しないんだろ?」
「そうだな。相談する、とかはなから、そういう考えないからな。勿論、相手もいないし。」
「親とかは?」
「あんまり話する環境じゃなかったからな。昔も、今も。」
「ふーん。俺も、別に相談した訳じゃないけど、大学受かった、って言ったら、親が、親戚中に報告してたよ。」
「はは。ありがちだな。」

 佐原の親は、そういう事って気にしないんだろうか。
 何となく、込み入ってそうだし、あんまり触れていい部分じゃないだろうな。

「佐原、バイト忙しいんだろ? 会えるのは嬉しいけど、本当に、無理してないよな?」
「俺は、ちゃんと、自分自身の管理は、気を付けてるよ。だから、無理な時は、ちゃんと断ってるだろ。それに、前も言ったと思うけど、菅野は、相手との距離の取り方をちゃんとわかってるから、苦にならない。」

 佐原が、きちんと自分の意見を持っているのはわかってる。
 多分、俺よりもずっと。
 その上で、俺と、こうして会ってくれているという事は、ちょっとは自惚(うぬぼ)れてもいいんだろうか。

 そんな感じで、おくつろぎタイムを終了して、ベッドタイムへと移行する。

 唇を重ねられて、口腔内で舌が触れ、絡み合う。
 互いの唾液が交じり合って、今、ここで繋がり合っているのだと、実感する。
 俺は、元々、キス自体好きだったけど、より心地良く感じるのは、相手が佐原だからなのだろうか。

 (うなじ)を撫でていく指先と、それを追いかけるように這っていく舌。
 何度か、カラダを重ねる内に、互いが感じる場所を知っていく。
 そして、その佐原の愛撫が俺の快感を呼び覚ましていく。

「…ぁ……ん……はぁ……ん……」

 乳首を指で刺激されて、舌先で舐められ、少しきつく吸われる。

「ん……ぁ……」

 その欲望の証として、勃起したペニスに触れ、体勢を入れ替えて、お互いのペニスを口に含んでいく。
 そのペニスを手と舌と、そして、口腔内全体で、味わい、扱き上げる。
 佐原の指が、俺のアナルに挿入され、ペニスを受け入れられるように準備が施される。

 そして、硬く勃起した、佐原のペニスが、俺のアナルに挿入される。
 抽挿を開始され、俺が、感じる場所に、感じられるように突き上げてくる。

「…ふ……ん……あ……あぁ……」

 アナルの裡に確かに存在する佐原の逞しいペニスを感じて、より昂ぶっていく俺のカラダ。

「く……ぅ……ん…あ……あっ…!」

 高まってくる射精感を、佐原も、感じ取ったのか、突き上げながら、ペニスを擦り、更に煽る。
 その刺激に、堪らずに射精していた。
 佐原も、達したようだった。

 インターバルをおいて、再び、カラダを重ねる。
 佐原のアナルに俺のペニスを挿入して、再び、絶頂を目指す。
 抽挿を繰り返し、佐原の裡を刺激する。
 そして、お互い、2度目の欲望を解き放った。

 佐原の普段のあまり表情を変えない顔も好きだが、セックスの最中の感じている顔もやはり好きだ。
 普段は、あまり人を寄せ付けない感じで、愛想笑いというのも殆どしない。
 それは、俺の前でも、殆どそうだ。
 まあ、そんな所もイイんだけど。

 で、実は、佐原には内緒で、弓道場に行ってみた事がある。
 弓道着姿の、佐原に2度目惚れしてしまった俺であった。

 佐原が、ある程度、俺に対して、自然体で接してくれているのはわかる。
 その上で、こういう関係にあるのも。
 けれど、やっぱり『お試し』である事には変わりなくて、それがいつか変わるのかどうかもわからなくて。
 もし、変わった時、どうなるのかも想像出来ない。
 どうにもならない問題を抱えながら、『お試し』関係は、続くのです。



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『問題の問題-4-』

 もしかして、少し佐原を怒らせてしまったのでしょうか。
 これといって、表情に変化は無いんですが。
 でも、話しかけてしまった以上、後に引く気はないのです。
 その先は成り行き任せです。

「どう言うつもりっていわれても……。いや、でも、何となく、佐原とお近づきになりたいなぁ、とか思ってて。えっと、ゴメン。黙っててゲイだって知った事。」
「いや、俺こそ、すまん。普通、大学で、そんな話しないからな。」

 取り敢えず、ほっとしました。
 怒らせたようではなかったみたいです。

「話、とかさせてもらってもいいかな? それとも、先約いたりする?」
「いや、それはいないが……。俺と話してどうする気なの?」
「迷惑だったりする? あんまり深く他人と関わりたくない、みたいな事言ってたし。」

 そうだよなぁ、佐原って、恋人とか、そういう人付き合い出来ないとか言ってたし。
 あれが本当なら、男相手でも、同じって事なんだろうな。

「迷惑つーか、それがわかってるのに、何で、俺に興味持ったりするの?」

 何でって言われても、やっぱり、今まで俺の周りにいなかったタイプの人間だからでしょうか。
 これは、俺の単なる好奇心なのでしょうか。
 そうすると、ただの好奇心で色々話を聞きだしたりするのは不味いんでしょうか。

「それは……よくわからないけど、でも、佐原は、他人にあんまり干渉されるの嫌なんだよね。」
「まあ、そうだな。俺も、他人に干渉する気ないし。」
「えっと、それでも、一応、俺の話相手してくれんの?」
「お前が、俺に対して、どういう興味を持ってるか知らないが、お前は、下手に他人に干渉したりしないだろ? 相手との距離のとり方をよくわかってる。だから、友達も多いんだろうし、他人とも上手く付き合っていける。俺には、真似できない芸当だよ。」

 相手との距離のとり方?
 そんな事、意識したことなかったんですけど。

「俺、そんな事考えたことないけど。」
「無意識の内に、使い分けてるんだろ。相手の、ここまでは踏み込んでもいい、でも、ここからは踏み込んじゃ駄目。友達だからって、いくら仲が良いからって、そういうテリトリーってあるんだよ。俺には、それが読めない。だから、必要以上に他人と離れる。だから、他人も、俺に近付いて来ようとはしない。」
「でも、それって、意識してやろうとすると、疲れるんじゃないの?」
「そりゃあ、疲れるだろうさ。だから、俺は、プライベートではそれをやらない。大体、誰にしたって、ある程度は無意識で、ある程度は、意識して、他人と付き合っているものさ。じゃなけりゃあ、人間同士上手くやっていけるはずがない。まあ、たまに、無遠慮に土足で乗り込もうとする奴もいるけどな。」

 俺自身は、そんなに相手に傷つけられたとか思ったこと無いけどな。
 それは、相手が俺の事を考えてたからなのかな。
 それとも俺が、鈍感なだけ?
 俺のテリトリーってなんなんだろう。

「俺、本当に、あんまり考えないで、佐原に話しかけてるけど、それって、土足で入り込んでるようなもんじゃないの?」
「だから、お前は、特に意識しなくっても、場の雰囲気とか、ちゃんと考慮出来てるんだよ。そんでもって、お前自身は、許容量が広い。そこら辺じゃねーの? お前が、他人と上手く付き合っていけるのは。ある種、才能だよな。」

 才能? 才能なのかな?
 そんでもって、俺は、佐原の気分を害することなく、話を出来ていると取って良いんだろうか。
 でも、話を続けてくれてるって事は、特に嫌って事ではないと受け取って良いよね。

「えっと、でも、こういう風に他人に興味持った事って、今まで無いし、佐原は才能、って言ってくれたかもしんないけど、上手くブレーキがかからなくなるかもしれないから、嫌になったら言ってね。」
「ああ。つかさ、お前、本当に、俺と話しててつまんなくないの? 俺、気を利かせたりとか出来ないよ。」
「え、それは、全然そんな事ないよ。」
「あ、そ。ならいいけど。」

 だって、気になる相手なら、どんな話でも、興味あるもんでしょ?
 どんな話するのとかさ。

「そう言えば、大学で授業被ってるけど、理二? 理三? 俺は、理三なんだけど。」
「理二。医学部に進む気無いから。」
「じゃあ、どこに進むつもりなの?」
「薬学部。まあ、同じく6年は通わなきゃいけないんだけど。その後進学するかは、その時次第かな。」

 系統的に似てるからか、選択教科が重なるのは。
 大学つったって、広いもんな。
 全く関係ない学部目指してたら、顔を知ってるなんて事ないからな。

「佐原は、元々、東京なの?」
「そうだよ。俺、自宅生だし。無駄に下宿して金使う必要もないし、薬学部進む時点で、私立に通えるような余裕ないし。」
「もしかして、高校も都立?」
「ああ。」

 金に余裕がないって言ったって、簡単に進めるような大学じゃないだろう。
 佐原が通っていたという都立高校も、進学校じゃないか。
 この様子じゃあ、塾とか、予備校とかも行ってなかったんだろうな。
 何となくちょっと、敗北感。

 自力だけで、勉強して、この大学まで受かれるって、よっぽどじゃない?

「あのさ、友達いないって事は、一人でいる時間が多いわけじゃん? そういう時って何やってるの?」
「今は、空いた時間とかは、殆どバイト入れてるからなぁ。完全に一人っきりって結構少ないんだよな。昔は……勉強したり、本読んだり、かな。一人で出来るし、一人の方が都合良いし。」
「そう言うのって、楽しい?」

「今の話? 楽しいとか言われても……金は必然的に要るからバイトしなきゃやってけないし、まあ、部活は好きだからやってるし、本は好きだから読むけど、それ以外は特に、これといって、楽しい事とか求めてないからなぁ。」
「それって、何となく、人生寂しくない?」
「好きな事が2つあれば十分じゃない? 人生、楽しいことばかりじゃないでしょ。」
「まあ、そうだけどさ。でも、やっぱり、楽しい方がいいな。」

 ええっと、別に刺激的な事を求めてる訳じゃありませんよ。
 ただ、やってる事を楽しみたいだけなんですけど。

「じゃあ、聞くけど、楽しい事って何?」
「え……。」
「楽しいか、楽しくないか、なんて、その人の感じ方次第だろ。」

 うっ、それはそうかもしれない。
 同じ事をやってたって、楽しいと感じる人も居れば、そうでない人も居る。
 そう考えると、俺って、結構、楽観的に生きてきてるよな。

「佐原はさ、恋人とか、そういう関係、面倒だって言ったじゃん?」
「そういえば、そんな事も言ったっけ。」
「じゃあ、佐原は、誰と、どんな事考えて、セックスするの? 楽しくないの?」
「はぁ? 別に俺は、楽しいとか、そういう風に思った事無いけど。」

 何となく予想はしてたけど、やっぱりそうなのか。
 佐原に、恋とか、愛とかそんな事求めても無駄だろうな。
 でも、俺は、例え遊びでも、欲望だけのセックスは嫌なの。

「俺は、楽しくセックスがしたいの。」
「それで?」
「遊びでもいいんだけどさぁ、一応、ちゃんと、俺、相手が欲しいの。佐原が、恋人とか面倒だっていうのはわかったけど、お試しでいいから、セックスして。」
「ちゃんと、相手が欲しいのに、俺相手にしてどうするの。」
「だから、1回してみて、良かったら、その後も、お試しで付き合って。」
「いや、あの、だから、付き合うって……。」

「別に、恋人にして、って言ってる訳じゃないから。束縛する気もないし。佐原だって、一応相手が居た方が、わざわざ相手探す面倒が省けるだろ? あ、それとも、1回寝た人間とは、もう2度と寝ないタイプ?」
「いや……そんなことは無いが、菅野、お前、自分の言ってることわかってるのか? 俺の、都合の良い相手になりたい、って言ってるようなもんだぞ。」
「取り敢えずはそれでいいの。俺が楽しければ。」

「お前が楽しくて、お試しでもいい、って言うんならそれでもいいが、一つだけ言わせてくれ。」
「何?」
「俺は、都合の良い相手が欲しい訳じゃないし、欲しいとも思わない。勿論、変に干渉されたくは無いが。」
「わかった。」

 かなり強引だったと思うけど、一応OKが貰えました。
 初めて見かけた時、好みのタイプだと思ってましたが、その後、ちょっと話をして、セックスしてみたいのかどうか、わからなくなってたけど、こうして、また口に出してみると、やっぱり、その気になってしまうものです。

「で、現実問題どうなの? お前、俺相手にどうしたいの?」
「え? どうって?」
「だから、タチか、ネコか。」
「佐原は、どっちなの?」
「俺は、どっちでもいいから、お前に聞いてるんだろ。」
「俺も、基本的に、あんまり気にしない……。」

「じゃあ、今は、どうしたいんだよ。」
「俺が決めていいの? えっとね、出来ればどっちも。」
「はぁ?」
「だから、どっちも。俺、どっちかだけ、って言うのは、満足できないの。だから、佐原がどっちもいけるんだったら、どっちもして。」
「……わかったよ。」

 えっと、これは、佐原が俺の勢いに根負けしたって事でしょうか。
 いやいや、でも、佐原は、そんな事で、自分の意思を曲げない人間だと思います。
 取り敢えず、この機会(チャンス)は逃しません。

「俺ん家でも良い? 大学の近くで、独り暮らしなんだけど。いつもはホテル使うけど、ホテル代もったいないし。」
「お前が、それでいいんならな。」

 そんな訳で、俺の家に到着しました。
 学生の一人住まいだから、ワンルームで広くはないけど、一応、部屋はいつも片付けてるんです。
 佐原に先にシャワーを貸して、その後、俺も、シャワーで綺麗に洗いました。

「先に、俺が、抱いても良い?」
「ああ。」

 ベッドに横たわった佐原の上に覆いかぶさり、唇を重ねていく。
 佐原の唇が、薄く開いて、俺の舌を迎え入れてくれる。
 その口腔内を舌で探り、佐原の舌に絡めていく。
 絡めた舌を吸い上げると、佐原の喉が鳴った。

「んん……」

 口付けを堪能すると、指で佐原の肌を撫でながら、舌を這わせていく。
 そうして、辿り着いた乳首を、指で弄り始める。
 次第に、赤く色付き、乳首が尖ってくる。

「……ん……ぁ……」

 佐原が、そこでちゃんと感じているので、更に口に含み、舌先で転がし、吸い上げて、軽く歯を立てる。

「……は……んん……」

 下に手を伸ばすと、佐原のペニスは勃ち上がりかけていた。
 手で扱きながら、亀頭から根元まで舌を這わせる。
 それを、何回か繰り返してから、硬度を増してきたペニスを喉の奥まで口に含んでいく。
 唇と舌で、そのペニスを味わいながら、刺激していく。

 片方の手はペニスを擦りながら、もう片方の手をアナルに這わせ、ローションを使って、指を挿入し、解す。

「はぁ……ぁ……ん……」

 そろそろいいか、と、指を抜いて、ペニスにゴムを被せ、ローションを追加して滑りを借り、アナルに挿入していく。
 根元まで挿入し終えると、一旦、佐原の呼吸が落ち着くのを待ち、抽挿を始める。
 前立腺を擦るように、腰を動かし、そこを念入りに、そして、徐々に大胆に突き上げる。

「……ふ……あ……あっ……!菅野!」

 佐原が、限界に近付いているのを感じ、ペニスに手をやり、射精へと導く。
 そして、俺も、突き上げながら、アナルに締め付けられ、達した。

「続けて、出来そう?」
「ああ。」

 使ったゴムを始末し、放たれた精液をティッシュで拭ってから、佐原が、俺のカラダを愛撫してくる。
 その指に、舌に感じながら、再び、お互いのペニスが昂ぶってくるのがわかった。

 口淫を受けて、その気持ちよさに喘ぐ。
 そして、アナルに佐原のペニスを受け入れて、抽挿を繰り返される。

「…ん……ぁ……っ……ああ……!」

 確かに感じる場所を、突き上げられて、射精感がつのってくる。

「ぁ……佐原……も……イきそ……」

 そのまま、促されて、達していた。
 佐原も俺のアナルの裡で。

 人付き合いが苦手で、実際殆ど人と付き合わない佐原だったけど、セックス自体は、全くそういったところが無く、結構、というか、かなりヨかった。
 どっちとも。

「俺としては、このまま暫らく、お試し願いたいんだけど、佐原はどう?」

「菅野がそれで構わないんだったら、それでいいよ。」

「んじゃ、携帯の連絡先教えて。学校で話すわけにもいかないだろ。」

「教えるが、電話の方は基本的に掛けてこないでくれ。メールも送ってくるのは構わないが、俺が、どれだけ返せるかは期待するな。」

「了解。」

 一応、もう一段階クリア。
 『お試し』なんだけど、俺は、これから、一体どうしたいんでしょうね。
 自分でいった言葉すら、わからずにいます。
 そして、『お試し』はいつまで続くんでしょうね。
 俺はまだ問題を解き続けなければいけないようです。



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『問題の問題-3-』

 中々機会(チャンス)を掴めずにいる俺ですが、行動しなければ、何にも始まらない。
 具体的に、何を始めようとか思ってる訳じゃないんだけど、取り敢えず、このまま落ち着かない状態でいるのは嫌だったのだ。
 相手に無理強いはするつもりはないんだけど、少し、強引に出てみないと駄目かな、なんて事も思ってる。

 で、沢山、友達がいる俺だけど、こういう時って相手になんて話し掛ければ良いんだろう。
 俺って、今まで、どうやって、友達作ってきたのかな。
 そういうのって意識した事ない。
 勿論、始めの契機(きっかけ)って、何かしらあったんだろうけど、『これ』と言えるものってないような気がする。
 それでも、何となく話をするようになって、一緒に飯食ったり、何かしらつるんだりするようになったから。

 どうやったら、不自然がられずに相手に話しかけられるんだろう。
 今まで、考えた事がなかった問題に、頭を悩ませながら、多少、不自然に思われても、話しかけた方が勝ちだよな、このまま、何もせずにいるのは、俺の性分には合わないから。
 そんでもって、同じクラスで授業を受けていて、今日の授業は、これで終了、っていう時に、思い切って声を掛けてみる事にした。
い つも、すぐに教室から去って行ってしまうのを知ってたから、すぐそ後を追いかけて、教室から、出たところで声を掛けた。

「えっと、あの、俺の事、覚えてる?」
「ああ。」

 おお、一応、覚えていてくれてるんじゃん。

「ちょっと、お話してみたいなー、何て思ってるんだけど、駄目かな?」
「何で? 何を話したいの?」
「特に深い理由はないんだけど、理由ないと駄目?」
「そうじゃないが……。」

 そうそう、そうだよね。
 何事にも理由付けが必要な訳じゃないもんね。
 そりゃさ、もちろん、理由が必要な事だってあるよ。
 でも、世の中には、沢山、本当は、理由なんて、大した事なかったり、曖昧だったり、確かな意味付けなんて、必要ないんだ。

「いつも、すぐ帰ってるみたいだけど、もしかして、忙しくて、時間ない?」
「忙しいのは、まあ、それなりに。これからだって、部活行くから、そんなに時間はない。」
「あ、俺も、これから部活だから、そんなに長い時間って訳じゃないんだ。」
「少しだけなら……まあ、いいが、俺と話しても、何も、面白くないと思うぞ。」
「面白い事とか、別に期待してるわけじゃないし、えっと、どこ行こうかな。食堂でもいい?」
「ああ。」

 何とか、第一段階はクリア成功。
 自販機で、缶コーヒーを買って、中央食堂のぽつんと空いてる、端っこの方に席を取った。

「で、何?」
「えっと、取り合えず、名前聞いてもいいかな。」
佐原雄治(さはらゆうじ)。」
「ああ、えっと、俺はね。」
「それは、この前聞いた。」

 え、俺、名前覚えられてたの?
 1回しか名乗った事ないのに。

「あ、そっか、そうだよね。佐原くんはさ……。」
「いちいち、『くん』付けなくっていい。同級生だろ。」
「えっと、じゃあ、佐原は、現役生?」
「ああ。」
「俺も、そうだから、同い年か。」
「そうらしいな。」

「本当に、友達いないの? 昔からそうなの?」
「そうだな。昔から友達出来たことないし、別に作ろうと思った事ともないし。」
「それって、寂しくないの?」
「別に。独りの方が気楽だし、変に気を使う必要もないし。」
「俺、佐原と違って、昔から、友達多いけど、そんなに気を使った事なんてないよ。」

「それは、お前が、そういう性格してるからだろ。俺には無理。その場限りで、友達ごっこしてる奴もいるけど、俺は、そんな事するつもりはないし。群れてなければ、何も出来ない奴は、嫌いなの。」
「え、俺は、そんなつもりで、他人と付き合ってるつもりないよ。」
「別に、俺は、お前の事指して、言ってる訳じゃない。お前は、別に一人でいるのが怖いから、他人とつるんでるわけじゃない。ただ、他人といた方が、楽しいから、そうしてるだけだろ。」

 ううーん、俺ってそうなのかな?
 そういう身になってみた事ないからわからないや。
 そういうところ、深く考えてみた事ないのかな、俺って。

「一人が怖いから、っていうのもしょうがないんじゃないの? 確かに、俺は、一人が怖いわけじゃないし、一人でいる時間も好きだけど、でも、ずっと、一人きりなのは、寂しいような気がするな。」
「友達がいないと駄目、沢山いた方がいい、大概、そうやって、子供頃は教えられるんだよ。だから、それからはみ出すのが怖い人間も出て来る。勿論、仕方ないさ。そういう人間は、お前みたいなタイプの人間を羨ましがる。けど、残念ながら、そういう奴は、羨ましがっても、そうはなれないし、運よく、お前みたいな人間に、声を掛けてもらえないと駄目。何とか勇気を振り絞って、声を掛けて、友達になってもらえれば、万々歳。でも、それを出来ない奴の中で、同じように友達のいない、俺みたいな人間に声をかけて、同類相憐れむ、みたいな付き合いをするのもいる。俺は、それに巻き込まれたくないの。」

 俺みたいなタイプの人間?
 それってどんなのなのかな。
 自分では、中々気付かないものなんだな。
 でも、佐原って、人付き合いとか、人と話するのが嫌い、みたいな感じだったけど、そうでもないのかも。

「佐原って、人付き合い出来ない、とか言ってても、部活にも入ってるんだろ?」
「必要最低限の、人と接する礼儀くらいはわかってるよ。俺の場合は、殆どの関係を、プライベートに持ち込まないし、必要以上に、相手の為に時間を割いたりしない。」
「ふーん。」
「お前には、よくわかんないかもしれないけど、携帯電話が普及して、登録されている友達の数が何人だとか自慢したり、常にメールしたりして、他人と繋がってないと怖い人間っているんだよ。」

「でも、携帯って便利だよ? 必要な時に連絡取ったりできるし。」
「だから、お前には、わからない、って言ったんだよ。依存症になったりもしないだろうし。」
「佐原は、携帯持ってないの? 必要ないから。」
「持ってない……と言いたいところだけど、バイトの連絡とか入るから、仕方なく持ってるよ。」
「持ちたくなさ気だね。」
「出来るなら持ちたくないさ。無かった時代だって、それなりにやっていけてたんだ。それなのに、今は、持ってて当たり前、それが無きゃ、仕事に支障をきたす事もあるんだから。」

 携帯……そういえば、無かった時代もあるんだよな。
 今は、結構、無ければ困るもんな。
 友達とも、メールやりとりしたりするし。
 緊急で連絡が付いた方が良い場合もあるし。

「っと。俺、もうそろそろ行くわ。こんな話してても、面白くないだろ?」
「え、結構、面白かったよ。」
「……変わってんな。お前。じゃあな。」
「あ、佐原って、部活、何してるの?」
「弓道。」
「俺は、野球部。硬式ね。んじゃね。」

 俺って変わってる?
 佐原の方が変わってるんじゃない?
 ところで、『変わってる』って、佐原は俺に対して、どういう印象を持ったのかな。
 褒め言葉……でもないし、別に、貶してる訳でもないし。
 俺は、佐原と少しお近づきになれたんでしょうか?

 その後、特に大学で変わった事は無いけど。
 俺は俺で、友達と一緒にいて、佐原は佐原で一人でいて。
 んでも、佐原と話した事って、今まで誰ともそんな話した事ないよな。
 俺にとっては、ちょこっと佐原が不可思議な世界にいるような気がした。
 その世界を、覗いてみたいって思ってしまったんです、俺は。

 いざ、次の機会(チャンス)を、って思ってたら、今度は、ゲイバーで遭遇してしまったんです。
 その時、俺には、そこで出来た友達と話してたんだけど、佐原が入ってくるのを目撃してしまって、その友達と離れて、佐原に声を掛けました。
 俺に、声を掛けられて、ちょこっと吃驚(びっくり)していたようです。

「……菅野……」
「あ、えっと、実は、何回か、佐原の事、この店で見かけてて、その……。」

 ああ、上手く言葉が見つかりません。

「お前、俺が、ゲイだって事、知ってたんだな。だからか? 大学で声掛けてきたの。」
「えっと、一番初めは知らなかったよ。その後は……知ってたから、っていうのもあるけど、それだけじゃないよ。」
「じゃあ、どういうつもりなんだ。今、声を掛けてきてるのだって。」

 俺自身よくわかりません。
 俺はどうしたいのでしょうか。
 佐原の事をもうちょっとよく知ってみたいと思っているのは事実です。
 じゃあ、俺は、佐原とセックスしたいと思っているんでしょうか?
 この問題は、俺が、解かなければならないんでしょうか。
 そして、答えはあるのでしょうか。

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『問題の問題-2-』

 色々と、高校以外のところで遊んでいるように思うかもしれないけれど、勉強はきちんとしてますよ。
 成績だって、トップクラスだし。
 スポーツにはそれ程力を入れていないけれど、一応、野球部があったんで、そこで、真面目に部活動をしてたりします。
 決して運動音痴な訳でもないんだけれど、やっぱり、レギュラー取りは無理でした。

 でも、それでもいいんです。
 練習はさせてくれるし、紅白試合ならかろうじて出させてもらえるし、何より、運動を部活を続けると事に意味があるんだから。
 普段の部活で、カラダを動かせていれさえすれば、試合に出られなくたって。
 試合は、ベンチから盛り立ててみせます。
 それが俺には合ってるんだから。

 進学校で、それなりに受験対策もしてくれるけれど、予備校にも通ってました。
 家で勉強するより、断然身が入るんです。
 勉強好きだけど、どうして、家だとここまで出来ないんだろう。
 予備校の授業だと、周りも皆、緊迫して勉強しに来てるんだろうし、そういう授業の雰囲気に飲まれちゃうんですね、きっと。
 んでも、授業が終われば、そこで出来た友達と、色々話したりもしてました。

 そんな感じで、高校生活にも終わりを告げ、大学へと進んでいく訳です。
 あれだけ勉強したあって、ちゃんとド本命に受かる事が出来ました。
 勿論、大学が最終地点でないのはわかってます。
 それでも、大きな山の一つだったんです。
 俺も、勿論嬉しかったけど、両親の方が、よっぽど嬉しかったみたいで、親戚に自慢の報告をしてました。
 正直それをされると、俺の方が恥ずかしかった。

 そして大学ライフが始まりを告げました。
 新たな出会いを求めて!……なんて無理なのはわかってます。
 大学は大学で、友達が出来れば、それでいいんです。
 それなりに友達と適合して生活してますよ。
 合コンに誘われれば行きます。

 だって、それは、大学の友達付き合いの一つだから。
 あ、別に、嫌々、って訳じゃありません。
 話すのは好きだし、飲み会っていう雰囲気も好きだし。
 女の子とも、普通には仲良く出来ます。

 そして、性懲りもなく、野球部に所属してたりします。
 うん、だって、やっぱり、野球好きだし、運動してるのっていいんだもん。
 他のスポーツもあるけど、チームプレイっていいですね。
 まあ、俺は、選手じゃないけど。

 大学ライフとは別に、やっぱり、オトコとの出会いを求めて、そういう店には通ってます。
 んで、そこで、見た事のある顔を見つけてしまいました。
 こういう店で、ではなくて、大学で。
 学科は違うけど、確か、幾つか、一般教養の科目がダブってるはず。
 思い当たる範囲では、初修外国語のドイツ語と、基礎物理・化学実験が同じだった気がする。
 そんで、一緒の教室の時で、俺が、合コンに誘われてた時に、声を掛けて素気無く断られた記憶が。

 声を掛けようかと思ったんだけど、生憎(あいにく)、男連れだったんで、あえなく撃沈。
 結構、好みだったんだけどなぁ。
 向こうは、俺に気付いてなかったみたい。
 でも、あいつも、ゲイだったんだ。
 連れのオトコは恋人なのかな。
 くそぉ、いいな。

 そんで、ちょこっと、そいつに興味を持った。
 意識して、大学の一般教養の授業で、探してみると、他にも、二つほど、クラスが重なってた。
 んでも、あいつが、大学で誰かと一緒にいるところを見た事がない。
 食事とかも、一人で摂ってるっぽい。
 そこは、俺の性分で、何となく、話し掛けずにはいられなかった。
 いや、本気(マジ)で下心とかなくて。

「ねえ、確か、ドイツ語とかで、一緒のクラスだったよな。飯、一人で寂しくない? 向こうで、俺らと、一緒に食べない?」
「一人で良いよ。大勢でいるのって、あんまり好きじゃないんだ。」
「友達とか居ないの?」
「居なかったら、何か、不味い事でもあるの?」

 えっと、俺には、それがどういう感覚なのかわかりませんでした。
 ただ、俺の『お友達にならない?』っていうお誘いは、断られたようで。

「ええっと、それでも、人間付き合いって、必要じゃないの?」
「別に友達である必要ないだろ。バイトではちゃんと、人間付き合いしてるよ。」
「それって、表面的にじゃないの?」
「それで、十分だろ。表面上、潤滑にしてれば、問題ない。」

 まあ、確かにそうだけど、やっぱりなんか、寂しくないのかな。
 俺だったら、寂しいんだけどな。
 でも、無理強いする事も出来ないからな。
 それでも、ちょっと興味あって聞いてみた。

「もしかして、恋人さえいれば良いとか思ってる?」
「は? 何で、そんな話になるんだ。それに、大体、恋人なんていない。そんな風に、人付き合い出来ない。」

 ええっと、これは、事実なんでしょうか。
 あの晩の、あの相手は、恋人ではないと受け取っていいんでしょか。
 そうすると、もしかしたら、俺にも機会(チャンス)があったりするんでしょうか。

「あのさ……」
「まだ他にも何か? それより俺に構ってていいのか? お前の友達、向こうで待ってるんじゃないのか?」
「あ、いっけねぇ。えっと、取りあえず、俺、菅野雅弘(すがのまさひろ)って言います。んじゃまた。」

 もっと、話してみたい事はあったけど、友達を待たせる事も出来なくて、名乗るだけ名乗って引き上げました。
 向こうの、名前、聞き忘れた。
 ま、また今度の機会で良いか。

 あ、別に恋人になる機会(チャンス)とか狙ってたわけではないけど、興味が湧いてきちゃったんです。
 だって、あんまり、俺の、誘い断ってくる人間って居なかったから。
 もちろん、友達、って事でね。

 そんな風にして、決まった相手を望みながら、あのオトコの事も気にしつつ、その場なりの関係をそれなりに楽しんでる俺であります。
 あ、でも、店に顔を出すと、何となく、あのオトコの事を探すようになりました。
 俺が行く時に、いつもいるはずもなく、たまに見かけたと思ったら、他のオトコに先を越されてたりするんです。

 何人か相手を見かけたけど、それぞれ違うようです。
 やっぱ、その場限りの、お遊びの関係なんでしょうか。
 別にそれをとやかく言うつもりはありません、だって、俺だって同じようなものだから。

 大学は大学で、捕まえようと思っても、授業が終わると、教室からすぐ去っていってしまうので、中々、話しかける機会がないのです。
 だからまだ、彼の名前を知らないんです。
 何とか、去る間際に少し強引にでもいいから、捕まえることが出来ないでしょうかね。
 今、そのタイミングを窺っているところです。

 えっと、俺が、同年代のオトコがいいな、と思うのは、感覚や話しが合いそうで、良いなと思ったからです。
 けれど、どうやら、彼とは、そういうのは無理そうな気がします。
 寧ろ、年が離れてても、他に出会った事のある男の中の方で、気は合いそうな相手がいました。
 年齢なんて、関係ないのかもしれないな、と思い始めたけど、それでも、彼の事が気になるのです。

 同じ大学にいて、幾つか、クラスが同じなのに、何故、こうも話をする機会が巡ってこないのでしょうね。
 興味を持ってみても、彼とは合わないって事なんでしょうか。
 例え、合わなかったとしても、話をしてみたいんです。
 問題が山積みでもいいんです。

 俺は、持久力と耐久力には自信がありますから。
 伊達(だて)に、何年も、野球部を続けてきているわけではありません。
 あの白球を追うように、なんて、ロマンティックな事を思っている訳でもありません。
 全然、ロマンティックじゃないって? まあ、それはそれで良いじゃないですか。

 兎に角、俺は、エンジョイ・ライフを求めているんです。
 友達関係をエンジョイしてます。
 野球もエンジョイしてます。
 あ、そういえば、大学に入って独り暮らしを始めて、それもエンジョイしてます。

 オトコは……取り敢えず、セックスだけエンジョイしてます。

 今は、そんなところでしょうか。

 そして、彼と話す機会を虎視眈々(こしたんたん)と狙ってたりします。

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『問題の問題-1-』

 俺は、昔から、人見知りをしなかったからか、男女問わず、友達は多かった。
 俺から気さくに相手に話し掛けてかけていったし、そんな俺に気軽に話し掛けてくる人間も多かった。
 馬鹿話をしたり、宿題を見せ合ったり、放課後になると、グラウンドが暗くなるまで遊びまくったりしていた。

 小学校から中学校に上がる時、もう既にお受験戦争に巻き込まれていて、親の勧めで進学塾にも通っていた。
 そこで、勉強するのも嫌いじゃなかったけど、その頃はまだ、遊ぶ方が楽しくって、そこそこの偏差値は取れていたものの、中学受験は失敗して、地元の公立の中学校へ進学した。

 公立の中学校に進んだのは、俺みたいに受験に失敗した人間か、元々、そんな事に興味のない人間かのどちらかだ。
 俺は受験には失敗してたけど、塾に通っていただけあって、結構進んでいて、その中学校では、5本の指から落ちた事はない。
 たまに、成績の良さを鼻にかける人間もいたけれど、俺は、そんな事なかったので、逆に、成績がいい事を知って吃驚(びっくり)する人間も多かった。

 部活も野球部に所属していて、学校が規定するギリギリの時間まで、白球を追い続けていた。
 野球も好きだったけれど、残念ながら、そっちの才能はなくって、試合では常にベンチウォーマーだったが。
 でも、その方が、俺には合っていた気がする。
 ベンチで大声を出して、皆の応援をするのも楽しかったし、ムードメーカーとしての才能の方が勝っていた。

 1年の頃は、一旦塾に通うのは止めていたが、高校受験は、少しは頑張ってみようかと、2年になってから再び通い始めた。
 一旦、通うのを止めていた所為で、始めは、あんまり塾での成績は良くなかったが、次第に勉強の感を取り戻し、成績もアップしていった。

 相変わらず、学校での休み時間は馬鹿な事ばっかりやっていたが。
 中学生にもなると、次第に、周りも色めき立ち始めて、何組の誰々と、何組の誰々が付き合っているだとか、何組の誰が可愛いだとか、そんな話も出てき始める。
 俺自身も、告白されて、隣の組の女の子と付き合っていた。

 付き合うっていっても、一緒に帰るだとか、本当にごくたまに、ご飯を食べて、遊園地や映画館に行ったりする程度だったが。
 だって、中学生が、そんなにお金なんて持っているはずないから。
 それに、俺には部活もあったし。

 だから、付き合うっていっても、本当に友達気分。
 俺が、その子と付き合っていると、友達に知られると、羨ましがられたり、キスはもうしたの、とか聞かれたけど、まあ、そこら辺は、適当に流すって感じで。
 俺って言うキャラが、それで憎まれないんだから、本当に得してると思うよ。

 まあ、俺自身は、誰が誰と付き合おうが、大して興味はなくって、そんなに、他人の恋愛事情に話題を馳せるのは不思議だったけれど。
 興味がないから、そういうネタには疎くって、情報を仕入れてくる人間は、どこから仕入れてくるんだろうと、そっちの方が興味があった。

 興味がないから、知らないのは当然で、そういう話を友達が、持ち掛けてくる度に、驚いてみせると、余計に、向こうは得意気になって話しかけてきた。
 こういうのって、芸能人の恋愛ネタがスクープになったりするのと同じなのかな、なんて考えてた。

 そんな俺は、本当は、野球部の先輩に淡い恋心を抱いていて、当然、普通に告白する事なんて出来ない事もわかってたし、ああ、俺って、結構健気だな、なんて思いつつも、性欲に目覚めつつあった 俺の、夜のオカズはそんな先輩だった。
 ああ、ごめんなさい、先輩、頭の中で何度も先輩の事を考えて、オナニーをしてました。

 そうです、俺はゲイなんです。
 もうずっと前から気付いてたんです。
 それでも、その女の子とは付き合ってたよ、一応。
 だって、本当に友達感覚だったし。
 だから、キスも何もしてないよ。

 3年に進級して、先輩も、卒業していって、高校進学も具体的にどこを目指すか決めなくちゃいけなくなって、偏差値や両親と話し合った結果、一応、都内では2番目に当たる進学校を受験することに決めた。
 まあ、受験す事を決めただけで、受かった訳じゃないけど。
 その学校に決めたのは、合格圏内だったから。
 でも、油断は禁物でしょ?
 だからちゃんと、勉強してました。

 そのおかげで、ちゃんと受かったし、塾での最後の方の模試の結果では、もう1つレベル高い所、狙ってみたら、とも言われてたんだけど、妥協とか、危険な橋は渡りたくないから、とか言うんではなくて、ええっと、ぶっちゃけて言ってしまうと、家から近かったから。
 はい、そんな、簡単な理由です。
 だって、遠くに通うって事は、朝早いって事でしょ? 辛いじゃない。

 そんで、その高校に通うようになりました。
 そこは、男子校で、おお!オトコの園!とか思ったんだけど、そんな甘いもんじゃないです。
 だって、すぐ近くには女子校があるし、学校から外に出れば女の子は沢山いるし、他の生徒にとっては、断然そっちの方が、良い訳で。
 後さ、いくらオトコばかりだからって、もう少し、教室とか綺麗に使おうよ。

 ゲイだってばれなければ、友達は、やっぱり沢山できて、それはそれで、楽しかった。
 うん、本当に、俺って、学校生活エンジョイしてる。
 いいの、いいの、友達で。
 俺だって、オトコだったら、皆が皆、そういう対象になる訳じゃないんだから。

 まあ、でも、それだけ、オトコがいれば、好みのタイプの1人や2人がいない訳でもなくって、 良いなあ、とか思いながら、不毛な事をやってるんですよ。
 けど、いつまでも、そんなんじゃ嫌だから、そういう場所に顔を出すようになりました。
 んー、俺は、基本的に同年代の方が好きだなぁ。

 そんなに、純情系でもないし、実際にセックスに興味あったし、多少年齢が離れてても、好みの範疇(はんちゅう)に入れば、セックスしてました。
 向こうが遊びでも、1回きりでも、セイフティーの楽しめればノープロブレムで。
 そうそう、相手が、タチでもネコでも、どっちでもよかったね。
 あ、でも、こんな風に言うと、俺が、かなりの範囲で、オトコがオールオーケーみたいな感じじゃん。

 まあ、でも、始めの内は何事も、経験してみる事だよね。
 フケ専とか、デブ専とか、外専とか、まあ、それぞれ人の好みだろうけどさ、俺が嫌だったのは、若い子が好き、って言うおっさん。
 特にタチの方。
 確かに、俺は、まだ若いかも知んないよ。
 だけど、いずれ、年食っていくんだよ。
 若い男喰い散らかしてんじゃねーよ。

 あ、でも、あのネコのおっさんは、ちょいMっ気あって楽しかったかも。
 若い子に犯されてる感じでするのがいいんだって。
 俺って、Sっ気あったのかな? とか思ったけど、それは違ったみたい。
 別に、他のオトコと、セックスする時に、そういう気持ちって、起きてこないから。

 で、やっぱオトコが好きだから、ちょっと、おねぇ系は苦手かなぁ、って思った。
 体格とか、そんなに気にしないけど、ばちっとオトコだ、って思える方が良い。
 そんでも、いつまでもダレ専っぽいのもなぁ、って。
 いや、ダレ専って言っても、本当に誰でも良い訳じゃなくて、好みのタイプはあるから。

 うーん、で、ある程度、経験してくると、やっぱり、ちゃんと欲しいなぁ、とか思い始めてきた。
 そうすると、どういう相手がいいか、って、値踏みを始めるんだけど、何となく、しっくり来る相手がいないなぁ。
 運命の相手、とか夢見てる訳じゃないんだけどさ。

 それで、少し年上のオトコと付き合ってみたけど、結局3ヶ月と持たずに駄目になりました。
 理由? 理由は何だったんでしょうね。
 よく言われる、セックスの不一致ってやつでしょうか?
 ちょっと違うような気もしますが、ネコが嫌なわけじゃなくて、でも、タチりたい、って言った時に、思いっきり、拒否されました。
 んで、気まずくなってエンド。
 やっぱ、セックスの不一致ですね。

 ええと、それから、やっぱり、ちょっと年上だったけど、今度は、ネコの相手と付き合ってみて、逆に、相手にタチってもらいたくなって、一応、やってみたんだけど、相手には、あんまりそれが合わなかったみたいで、やっぱり、駄目になりました。

 俺が、我侭なんですか?
 やっぱり、セックスの相性って難しい問題ですね。
 その上、気も合わなくっちゃいけないなんて。

 それで、また、気さくなセックスだけの相手に戻ってしまいました。
 まだましなのは、それでも、相手が見つかるって事でしょうかね。
 でも、ちゃんと相手が欲しいんです。

 あ、そうそう、高校の話がないがしろになってしまいましたね。
 進学校だから、ちゃんと勉強もしてます。
 友達も相変わらず沢山います。
 合コンにも参加させられました。
 女の子に告白されたけど、今度は、丁重にお断りしました。

 そしたら、友達に、『(しゃく)だけど、お前、頭良いし、顔も良いし、モテるんだから、あれだけ、可愛い子、振ったら、もったいないぞ』と言われました。
 俺には、オトコの友達に『格好いい』と言われた方が、何倍も嬉しかったんですけど。
 勿論、その友達にそのケがないのはわかってます。

 男前に産んでくれてありがとう、お父さん、お母さん。
 おかげで、オトコにも、オンナにもモテます。
 あ、オンナにも、はつけたしね。
 ただの友達としてのオンナだったらいいけど。

 ああ、それでも、何度も言うようですが、ちゃんと相手が欲しいんです。

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作品の簡易説明・設定

・あるバーのシリーズ(元設定編)
最初は、バーでのシーンから入って、(この時は、バーの名前はありませんでした)、バーの設立、オーナーである雫の過去、ですね。
この時点で、元々、キャラに名前を設定しない自分は、この話では、全く名前が出てきません。
バー設定当時の年齢
宮下雫:28歳
マスター:30歳
高部憲久:48歳
高部の恋人:38歳
(ちなみに、雫の元・同棲相手は雫より4つ年上)

・『共犯者』
メインは直哉。一番最初の予定では、直哉と雫をくっつけるつもりだったんですが、雫を書き続ける上で、やはり直哉では、上手くいかないな、と感じて作品終了時点では別れてないんですが、やっぱり別れさせました。
出会った時点での年齢
喜多嶋直哉:26歳
宮下雫:34歳

・『蛍』
蛍、こと古賀沼靖史の成長物語。
『恋愛感情』というものが、元々、なくってわからないけど、セックスはしちゃうよ、みたいな子です。
『恋愛感情』と『セックス』の関係の不思議、みたいな事を書いてましたね。
ちなみに、最終話は『越える必要のない壁』より後の設定です。
だから、雫は悟と『共犯者』関係を結んでから、蛍に手を出してるんですよね。はい。
蛍は、悟と同じ大学へ。

年齢設定
古賀沼靖史(蛍):16~22歳
桂木悟:32~38歳
宮下雫:30~36歳

・『寂しい魚』
それぞれ、寂しさを抱えていて、隠しながら生きていこうとする2人がそれを分かり合って、慰めあう関係とそこからの卒業。
晴彦は、指フェチで、黄身が半熟状態な目玉焼きが好きなんです。『いつか晴天を信じて』にて作家デビュー。
以後二人は、『偽装と真実の仮面』(晴彦)、『ココロの距離』(智也)へ。

年齢設定
藤崎智也:19~22歳
神崎晴彦:19~22歳

・『偽装と真実の仮面』
セクシャルマイノリティー、Aセクシャルとゲイを扱ったもの。
Aセクシャルとしての静香の感覚は、自分の近く、願望的な設定もこめてますね。
静香は大学での研究の傍ら、立川怜として、短編小説を書いてます。単行本として、『海の底の底』『瞑想の闇夜』、いずれも、直哉のカバーイラストです。
晴彦は、『いつか晴天を信じて』『果てない終焉』『いつか、ここで』『不如帰が鳴くとき』『巻かれた螺子』。
ここら辺の作品は、蛍、雫、悟、法規が読んでますね。
隆弘と静香は大学にて、細胞工学の研究者。

年齢設定

成瀬隆弘:30~31歳
成瀬静香:30~31歳
神崎晴彦:28歳(隆弘との出会いの時点で)

・『ココロの距離』
智也の相手として、蛍を選んで、書いたもの。
大学院に進んだ智也はそのまま大学で、心理学の研究に。(ちなみに、雫とは同じ大学)
蛍が半熟の目玉焼きが好き、な状態で出てきます。
最終話で、バーの10周年記念あり、晴彦たちと会ってます。

年齢設定
藤崎智也:29歳
古賀沼靖史(蛍):24歳
桂木悟:40歳
宮下雫:38歳
マスター:40歳

・『越える必要のない壁』
セックスフレンドとして、長く付き合ってきた悟が、雫の過去に足を踏み入れて、人生の共犯者パートナーに。
悟は、大学にて社会学の研究。
雫は、医学部の法医学教室にて研究、及び、バーのオーナー、サイドビジネスを。
二人の大学は違います。

年齢設定
桂木悟:38歳
宮下雫:36歳
マスター:38歳

・『問題の問題』
珍しく、若い大学生の話ですね。
文章の形態が、他の話とは大分違います。
雫と同じ大学で、佐原雄治が弓道部繋がり。
佐原のバイト、ゲイホスト関係で、蛍の名前がチラっと出てきます。

年齢設定
菅野雅弘:18~21歳
佐原雄治:18~21歳
宮下雫:39歳(立ち話をしている時点で)
古賀沼靖史(蛍):25歳

・『宿木の元』
基本的に、手を出す相手が被らない悟と雫なんですが、偶然にも同じ男に手を出す、といった話ですね。
それぞれの、帰る場所、というものを、書いてみたかったんでしょうか。

年齢設定
桂木悟:40歳
宮下雫:38歳
忠明:40歳

・『まやかしの共有』
共同幻想、マイノリティ、マジョリティの感覚、答えのない問いを発し続ける籐也を書いたもの。
自分は、これを、一人でやっちゃうんですが、籐也には『対話』する為、雫に登場してもらいました。
相手として、思いっきりマイペースで、世間の感覚とずれていてもそれを気にも止めない、想一を雫の過去の相手、として設定。しかし、生活のほぼ全てを仕事にあてている、想一の職業は設定できませんでした。
取り敢えず、バーの創設に関わって、その後、独立して、自宅兼仕事場としてます。
政司(『幹分かつ枝』)がはじめちょろっと名前出してますね。

年齢設定
根岸籐也:34歳
桐生想一:41歳
宮下雫:38歳
マスター:40歳
椚政司:27歳

・『幸せのカタチ』
どうしたら幸せになれるのかわからず、世間が見る『幸せ』の概念にとらわれて、その概念が満たされても、それを幸せだと感じられず、追い込まれてしまう人間。
雫がバーを開く少し前の話。
雫は、このことを悟にも高部にも打ち明けていません。

年齢設定
橘幸生:30歳
宮下雫:28歳

・『幹分かつ枝』
はじめは、双子のリバを書きたかっただけなのだが、一卵性双生児であっても、性格は異なる二人と、そのすれ違い、双子を含めた家族を書いたもの。
『まやかしの共有』で登場した、政司に再登場願いました。
そして、双子の兄、法規の相手として、『共犯者』での直哉に登場してもらいました。
血の繋がらない妹・千香が直哉のファンで『偽装と真実の仮面』の立川怜の『海の底の底』が出てきます。
蛍も法規の友人として登場。

年齢設定
椚政司:28歳
椚法規:28歳
喜多嶋直哉:31歳
上河疾颯:28歳
宮下雫:39歳
古賀沼靖史(蛍):25歳

・『名もなき詞』
雫と悟とのその後。題材がなく、連載停止中。

年齢設定
桂木悟:42歳
宮下雫:40歳

・『雨上がりの背中』
ノンケに片想いしていて、その結婚式に出席し、その日、バーで出会った男性との話。この時点で、名前なし。

・『舞う粉雪』
続・『雨上がりの背中』。
二人が上手くいきますように、と割と温かい話の方向へ。
裕和は過去に『まやかしの共有』の想一と付き合っていたことあり。

年齢設定
浜名裕和:35歳
有多憲次:30歳

*********************************************************************
それ以外の作品

・『この瞬間を永遠に』
忙しい中での、逢瀬、その瞬間、瞬間の大切さ、それをより大切だと思える事に。
苗字の設定なし。

年齢設定
琢磨:35歳
章吾:35歳

・『星降る言葉』
芸能界を舞台に、伸び悩んでいる二世俳優と、脚本家を主軸に、文章を書く事、物語を創造する事、に主眼を置きました。

年齢設定
川島恭平:25歳
成澤尚司:27歳

・『君が眠れるまで』
はじめは、ラブラブ系にしようと思ったんだけど、トラウマを背負って、重度の不眠症、その他の不安症状を抱え、最終的には出会いから最後まで書ききろうと思ったもの。
懐中時計は、自分の好きなアイテムです。

年齢設定(出会った当時)
葉崎和樹:26歳
笹原圭:29歳

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『舞う粉雪-3-(完)』

 一年の仕事納めを向かえ、無事一つの区切りを迎えた。
 学生時代は、殆どが、3月で一年を終え、4月に新しい年を迎える事になっていたから。
 そんな小中高と三学期制の学生時代を過ごしてきた。
 大学は、前期と後期。
 それでも、区切りは一緒で、夏休みを境に、後期に移っていた。
 今は、割と二学期制も導入されてきているんだよな。
 まあ、日本の中では、学年の切り替えはやはり4月だけれども。

 海外だと、9月が始めになったりするから、この新しい学年の始まりの時期のズレはどこからやってきたんだろう。
 日本だと、春になって、冬眠していた動物達が目を醒まし、植物も芽吹いてくる、ある種、生れ変わりの時期のような気がする。
 それに何となく、桜、のイメージもある。

 卒業が当然、3月だから、新入社員の受け入れ、というのも4月になり(まあ、例外はあるが)、その頃に、教える事が多くもなる。
 しかし、一旦、会社に入って、そこで勤め続けるようになってしまえば、学生時代とは少し感覚が違ってくる。
 生活の多様化によって、盆も年末年始も関係なく仕事をしている人間も勿論いるけれど。
 そういえば、学生時代に年末年始の休みがもったいないから、バイトを入れていたら、大晦日の日に『良いお年を』と挨拶して、仕事を終え、翌日の元旦に『明けましておめでとう』なんて、1日も空けずに顔を合わせて挨拶をしたっけ。

 まあ、そんなんで、一年を終えて、正月を裕和の家で迎えるため、名目上の大掃除をした。
 一応、一日中掛けてね。
 で、部屋の変わり映えがしたか、というとそうでもない。
 多少は、積んであった、雑誌や新聞、本の分類なんかはしたけれど、冬は寒くて、水も冷たいから、棚の拭き掃除なんかは夏の内にやった方がいい。
 掃除機は……普段より、丁寧に掛けたつもりだけど。
 本や雑誌を整理していると、ついつい、その中まで、見てしまい、気付いたら、それだけで、結構時間が経ってしまっている。

 それでも、何とか掃除を終え、翌日、裕和の家へ向かった。
 裕和の方も、『一応』大掃除はしたみたいで、やはり大して代わり映えはないんだけれども、そんなものだろう。
 それから、一緒に買い物に行って、晩御飯は、やはり鍋にしよう、という事で、鍋の具剤と、夜食用に年越しそばを小鉢くらいで食べようと2人で1人前分と大きな海老の天ぷらは乗せることが出来ないから、小さめの海老にして、翌日の雑煮の為に、餅などを買った。

 前回と同じように、鍋を味わい、大して観ていなかったけれど、気分的に大晦日特有の番組のテレビをつけていた。
 ちびりちびりと、熱燗を味わいながら、時たまテレビに目を向け、たわいもない話をする。
 そんな感じで、過ごしている間に、23時になりそうだったので、小さな海老の天ぷらを揚げ、蕎麦を茹でて、小鉢にそれらを盛って、一人前の半分だから軽い夜食としても調度良く、食べ終えた。

 俺は、ずっと、年越し蕎麦を大晦日に食べるものだと思っていたけれど、そうでもない地域もあるんだよな。
 会津地方では、元旦に蕎麦を食べる風習があるし、新潟県だと、1月14日(小正月の前日)に蕎麦を食べる「十四日(じゅうよっか)そば」や1月1日(元旦)に蕎麦を食べる風習もあるし、その中でも、新潟市北区では、大晦日の24:00に蕎麦を食するのが一般的だったりもする。
 香川県では蕎麦よりも讃岐うどんを食べる風習があったりするし。
 大きな宇宙の一つの惑星に過ぎない唯一人類が生息できる地球の更にその中でも狭い、日本の中でも、結構違いはあるものだ。

 日付が超えて、除夜の鐘が鳴り始めた頃、俺と裕和は、風呂に入ってから、ベッドへ向かった。
 裕和のカラダを求めて、唇を重ねていく。
 軽く触れるだけの口付けを何度か交わし、舌を絡め合う。

「ふ……ん……」

 口付けの合間に漏れる吐息が官能を高めていく。
 唇を裕和の肌に落とし、それと共に指で刺激する。
 乳首を摘み上げ、それに対して、反応してくる裕和。

「……ぁ……ん……憲次……」

 裕和の手が、勃起している俺のペニスに触れてきた。
 俺も、裕和のペニスに触れると、やはり同じように勃起していて。
 そのまま、お互いのペニスを扱いていく。

 それでも、まだ果ててしまわないように、勃起したペニスから手を離して、俺は、裕和のアナルに指をローションを垂らしてから挿入し、解していく。
 挿入する、指の本数を増やしながら、内壁を刺激する。

「……ん……もう……いいよ……憲次……」

 アナルから指を抜いて、ゴムを被せたペニスを挿入する。
 奥まで、挿入しきってから、一旦動きを止め、口付けを交わした。
 それから、ゆっくりと抽挿を開始する。

「裕和……」

「ん……ぁあ……」

 抽挿を繰り返しながら、徐々にその速さが増し内壁の裕和が感じられる場所を突き上げていく。
 感じながら、ペニスを締め付けてくるアナルの感覚がたまらなくて、俺も、より、裕和が感じられるように、大胆に突き上げる。

「……ん……ぁ……イく……っっ!」

「く……ん……っっ…!」

 お互い、限界はそこまで来ていて、射精していた。
 自らの腹の上に精液を放っていた裕和は、ベッド脇にすぐ置いてある、ティッシュで、それを拭い去り、俺も、裕和のアナルからペニスを抜いて、ゴムを始末した。
 一時の休息を経てから、俺は、裕和の愛撫に身を任せていく。

 体勢を入れ替えて、お互いの再び勃ち上がりかけたペニスを口に含んでいく。
 口淫を施しながら、裕和が、俺のアナルに指を挿入してくる。

「ん……」

 挿入を受ける瞬間、一旦、口を離してしまったけれど、裕和の指をアナルの裡に感じながら、再び、ペニスを咥えていく。
 そうして、十分勃起した裕和のペニスをアナルに受け入れる。

「…ぁ……ん……あぁ……裕和……」

 突き上げられながらその欲望の確かな存在を感じて、快感に喘ぐ。
 前立腺を擦られて、長く続く快感の中で、それでも、射精感は高まってきて、アナルを締め付けながら、達した。
 その中で、裕和も同じように達していた。

 シャワーを浴びて、セックスの名残を洗い流した後、整えたベッドに横になった。
「おやすみ、かな。明けましておめでとう、かな。」
「どっちだろうね。取り敢えず、おやすみ、かな。後は、起きてからでも。」
「そうだな。」
 眠りに入って、翌朝、目が醒めてから、改めて『明けましておめでとう』『今年もよろしく』と挨拶を交わした。

 朝食に雑煮を食べてから、混んでるかもしれないけれど、一応出掛けようか、という事で、初詣に出掛けた。
 願いは、『どんな事があっても、一年を乗り切れますように』と。
 これは、毎年同じ。
 寒い中、来た道を同じように歩いて裕和の家へ戻った。
 そして、夕食を食べた後、明日はお互い、実家へ行くからと、俺は、自分の家に戻って行った。

 正月だけでなく、たまに、顔を見せるけど、あまり変わりないように見えて、お互い、それぞれ、歳を取っていくのだな、と感じる。

 それから、同窓会もあって、そこで、友人と顔を合わせた。
 その友人も含めて、こんな時くらいしか顔を合わせない友人の内、数人は、結婚していて、子供もいたりするようだ。

 その友人の方は、奥さんが、今、妊娠3ヶ月だそうだ。
「お前は? 彼女出来た?」
「え?」
「だってさ、俺達、付き合い長いけど、お前の彼女の話とか、聞いた事なかったな、と思ってさ。」
「……そう、だね。まあ、でも、中々、上手くいかないから、話せなくってさ。」
「そうなのか? あんま、水臭い事言うなよ、親友だろ?」

 親友、か。
 知っても、それでも、親友でいてくれるだろうか。
 いや、でも、全ては話すまい。

「今、恋人は……いるよ。上手くは、いってると思う。」
「へえ、そうなんだ。よかったな。長いのか? 結婚を前提に、とか。」
「まだ、半年、くらいかな。結婚は……」
「ん? 何? 迷ってるの? 何だったら、相談に乗るぜ。」
「……俺、ゲイなんだ。だから、今付き合ってる、恋人も、同じオトコなんだ。」
「えっ……?」

 友人が、言葉を失ったのがわかる。
 やっぱり、嫌なものかな。

「そういうの、気持ち悪いと思う? 本当は、打ち明けるつもりはなかったんだけどね。まあ、でも、それが俺だからね。ああ、でも、安心していいよ。お前の事は、友人としては大切だと思うけど、そういう好みの対象じゃないから。」

 少し、自虐的な台詞だったかな。
 そう思ったけれど、不思議と、哀しみは湧いて来なかった。

「いや……ごめん。俺には、よくわからん。……他の奴とか、お前の親とかは知ってんのか? その事。」
「他の友人は、知らないよ。親は、知ってるけど。」
「そう……か。」

「ごめん。やっぱ、話したら、変に気を使うよね。嫌な思いさせたりとか。」
「今は、ちょっと混乱してる。……お前の、恋人、の事とか、深くは知ろうとは思わないけど、お前が、親友である事には変わりないよ。」
「……そう言ってもらえると、助かる。奥さん、今、3ヶ月なんだろ? 産まれたら、何かお祝いするよ。お前だったら、結構、親ばかになりそうだけどな。」
「それに関しては、何となく自信がある。」
「何だよ、その『自信』って?」
「悪いか?」
「いやいや、別に。」
「まあ、また、じゃあ、連絡するわ。」
「ああ、じゃあね。」

 そう言って別れた。
 家に帰って、一人で落ち着いてみても、涙は流れてこなかった。
 その後、また裕和と会って、その話をした。

「で、憲次はどうなの?」
「ん……やっぱり、まだ多少は好きなのかもしれない。でも、以前のように、辛いとは思わない。ゲイだって事、カミングアウトしても、あいつが『親友』だって言ってくれた事が嬉しかったし、今は、それ以上に、裕和の事が好きだから。」
「そう……か。俺も、憲次の事、好きだよ。だから、今、この想いを離したくはない。」
「俺も、裕和と会えて、こうしていられる事を大切にしたい。」
「まだ、先があるからな。」
「うん。……あ、雪が降ってる。」

 窓の外に目をやると、雪が舞い降りてきていた。
「そういえば、出会った日は、雨が降っていたな。」
「そうだね。傘、貸してもらったんだよね。」
「ははは。半分、押し付けたんだけどね。」
「うん、まあ、そうだけど、その結果、今こうしていられるから。感謝してるよ。」
「感謝、だけ?」
「いや、違うけどさ。……この雪、積もるかな?」
「どうだろうね。」

 そのまま、暫らく、二人で、窓の外を眺めていた。

 こんな、粉雪は、舞い降りても、すぐにではないけれど、融けて水に変わってしまうだろう。
 そんな風に、俺の友人への想いも、いつしか少しずつカタチを変えてきた。
 多分これからも。
 本当に、親友、と呼べるまで。
 そういえば、衣替えも、季節によって変わっていくけど、巡りながら、去年と同じ服を着たり、そうではなくて、新しいものに変えたりするんだな。

 もう少し、降り方が激しくなれば、柔らかく、積もっていくことだろう。
 これから先、裕和と共に、想いを、関係を、積み上げていければどんなにいいだろう。

 地球という、ほんの一つの小さな惑星。
 その中の、生物である人間という存在。
 更にその中で、小さな島国の、日本に住んでいる。
 そして、ゲイである人。
 それでもまだ、出会わぬ人々は沢山いる。

 限られた出会いの中で、けれど、出会えて、この想いを大切に出来るなら、大切にしていきたい。
 同じように、裕和も想ってくれているなら尚更の事。

 それから、友人の中でも『親友』だといってくれたあいつ。
 それは、それで、やはり大切な事だと。


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『舞う粉雪-2-』

 年末を迎えるに当たって、俺も裕和も、割と仕事が忙しくなっていた。
 先日は、久々にお互い少しは時間が取れるという事で、バーで会って会話を交わしたが、その後は、仕事に追われていた。
 週末に二人で鍋にしよう、という話は出ていたが、土曜日も、お互い抱えている仕事があって、それも、時間的に早く終わりそうもなかった。
 まあ、それでも、日曜日は休みが取る事が出来るし、多少遅くなっても、スーパーが空いているなら、そこで買い物をして、一緒に食事を摂れるのは嬉しかった。

 週末を迎える前に、冬の冷たい雨が降ったこともあって、ぐんと冷え込んできた。
 それで、俺は、コートを取り出してきて、それをスーツの上に着て出勤している。
 それでも、まだ、冬本番の寒さは、まだまだこれからなんだろう。
 俺は気付かなかったが、夜中に、少し雪が舞ったというのを職場の同僚から聞いた。
 ここ数年来、大雪に見舞われたこともないし、それ程、積もるような場所ではない。
 まあだからこそ、何年前になったか忘れてしまったが、かなりの雪が積もった時は、交通状態は、結構混乱したみたいだ。
 俺自身は、まだ子供だったから、とても珍しくって、楽しんでいたが。

 裕和の実家は、結構、雪が降る場所らしいから、毎年のようにやってくるこの時期は大変らしいが、わかっている事なので、こちら程慌てる事はないと言う。
 まあ、それでも、こちらでの生活にもう慣れてしまったから、殆ど戻る事はないけれど、あの感覚には、中々戻れないだろう、と言っていた。

 そうして、週末を迎え、俺は、仕事が上がれそうな時刻、待ち合わせ場所に着けそうな時刻を、裕和にメールで送った。
 裕和からは、裕和の方が、早めに終われそうだから、その時刻までに、出来るだけの準備をしておくから、直接、家まで来てくれれば良いと返事が返ってきた。
 一緒に、買い物に行こうかと、待ち合わせをする事にしていたのだが、それならそれでも良いか、と思う。
 仕事に、ある程度めどが立った時、裕和の家に着けそうな時刻をメールした。

 裕和の家に着いた時は、取り敢えず、材料は揃っている、と言う段階だった。
 一番初めの大方の調理は、キッチンのコンロで行って、出来上がったところで、テーブルの上に簡易式のガスコンロを設置して、そこに火をつけ、そこに土鍋を乗せた。
 そして、お疲れ様、とまずは、ビールをグラスに注いで、口にする。

 熱い鍋から、とんすいに具をとって、少しずつ冷ましながら、それでも冷めてしまわないうちに、食べる。

「やっぱりいいよね。こうやって、向かい合って、一つの鍋をつつくのも。」
「そうだね。普通の料理でも、それはそれで良いけど、冬場のこういったものもいいね。」
「他の料理よりも、結構手軽でいて、食べるのを楽しめるのがまたいいな。」
「温かいのを、ゆっくり、そのまま、ね。」
「そうそう。」

 そうやって、具剤をほぼ全て引き上げてから、ご飯を入れて、卵をかける。
 酒の方も、ビールを空けて切って燗をつけた。

「こういうの、五臓六腑に染み渡るって言うんだろうね。」
「本当に、カラダの隅々まで暖まってくるね。」

 これも、確かに日常の一部なのだけれども、その中でも、ゆったりと、トクベツ
な時間を過ごしている気がする。
 まあ、トクベツな時間は、それだけではないけれども。

 全ての食事を終え、一息ついた時には、もう結構時間が経っていた。
 風呂に入って、そろそろベッドに行こうかと、裕和がそう言ってきたので、明日、特に急ぐわけではな いけれども、一区切りいれようかと、それに応じた。

 そうして、先に風呂を上がらせてもらって、ベッドの上で、横たわって裕和が上がって来るのを待つ。
 俺は、夏場でも、シャワーよりも湯船に浸かるのが好きだ。
 だから、一人でも、長湯をする訳ではないのだが、そうする事が多い。
 例えば、オトコと外で、セックスをするのに、シャワーだけ浴びても、家に帰って、湯を張って入りなおしたりしていた。
 俺がそうするのを知っているから、裕和が俺の家に来る時は、勿論、俺が風呂を張るし、俺が、裕和の家に泊まりに来ても、必ず、湯船を使う。
 裕和自身は、夏場はシャワーだけの事が多いらしい。
 冬場は、湯船が恋しくなるみたいだが。

 裕和が上がってきて、ベッドの上で寛いでいた、俺に覆いかぶさってくる。
 俺もそれに答えて、口付けを交わし、より深い口付けを求めて、裕和の舌に俺の舌を絡ませる。
 何度も絡めながら、唇の触れる角度を変えていく。

「…ん……ふ……」

 呼吸まで奪い合うかのように、それでも、奪い去ってしまわないように、その口付けを堪能して。
 それから、裕和が、俺の肌に舌を指を這わせてくる。
 乳首を摘まれて、そのまま指で弄られてカラダが快感に敏感に反応する。

「あ……んん……裕和……」

「イイ?」

「ん、うん……ぁ……」

 両方の乳首を弄られて、片方に、唇が降りて来て、甘噛みされ吸い上げられる。
 そうやって、刺激される度に、堪らなくなって、ペニスも勃起している。
 昂ぶっているのは、裕和も同じで、そのペニスは、同じように勃起している。

 それを味わいたくて、体勢を一旦変え、俺は、裕和のペニスに舌を這わせ、口で咥えていった。
 ある程度、硬度を持っていたペニスが、口の中で、更に張り詰めてくるのがわかる。

「…ん……憲次……イイよ……でも、もう、それ以上は……」

 裕和のペニスから口を離し、再び、裕和の愛撫に身を任せる。
 俺の勃起したペニスに口淫を受けながら、裕和はローションの滑りを借りて、指をアナルに挿入してくる。
 アナルの入り口を解されて、内壁を刺激され、同時に口淫も受けているから、たまらなくて。

「……裕和……も……」

 裕和は、指を抜いて、ペニスにゴムを装着し、俺のアナルに挿入してくる。
 初めはゆっくりと、亀頭を飲み込ませ、そこから奥まで侵入させてくる。
 抽挿を開始されて、アナルでペニスを受け入れる感覚を味わう。

「……ぁ……はぁ……んん…あ……あぁ……っ…」

 裕和と付き合うようになって、抱かれる事にも、慣れた。
 そして、そこから、快感を得る事にも。

 徐々に抽挿のスピードが増して、前立腺を突き上げられて、射精感がつのってくる。

「裕和……もう……イきそ……」

「ん、俺も。もう……」

 一段と激しく、突き上げられながら、ペニスも扱かれて、アナルを締め付けながら、達していた。
 裕和も、その裡で達したようだった。
 そうしながら、唇を求めて重ね合わせた。

 一呼吸おいてから、今度は、俺が、裕和のカラダを求めていく。
 その肌を刺激し、快感を引き出して、再び勃起してくる、お互いのペニス。
 それを、お互いの手で扱き合って、硬度を増していく。

 裕和のアナルを指で解してから、俺は、ペニスを挿入していった。
 その締め付けによる快感を受けながら、抽挿を繰り返す。

「…ん……あぁ……イイよ……憲次……」

 突き上げながら、限界を感じて、裕和も射精へと導いていく。

「ん……憲次……っっ!」
「…く…ん……っっ!」

 そうして、絶頂を迎えていた。
 呼吸を整えながら、ベッドにみを沈めている。

「裕和、年末年始、一度は顔出すんでしょ? いつにするの?」
「え、ああ。2日に、ちょっとだけ顔出してくる。憲次は?」
「2日かあ。俺は、1泊するから、2日に出て、その日泊まって、翌日、夕方くらいに帰ってこようかな。」
「大晦日と元旦は、一緒にいられる、って事か。」
「ん、うん。そうだね。出来たらそうしたいな。それまでに、自分の家の掃除は済ませて。」
「俺は……本当に久し振りだな。そうやって、正月を迎えるのって。今は、結構、そういうの、関係なく仕事してる人間っているだろ? 一人で過ごすのも嫌いじゃないし、そういう時間も欲しいけど、憲次と付き合い始めてから、割と、今までより一緒にいる時間が多くなって、俺って、寂しい訳じゃないけど、一緒に過ごせる時間が好きなんだな、と思うよ。」
「俺も、結構そういう感覚あるからなぁ。」

「……何年か前かな。結構、というか、かなり好きな相手がいて、付き合ってたんだけどさ、向こうが、本人自ら『仕事人間』って言うし、それくらい忙しくって、殆ど、一緒にいる時間が取れなかった事があってさ。向こうは向こうで、それなりには、好きで付き合ってたと思うんだけどさ。仕事人間、って言っても、仕事がなければ駄目か、とか、そういう訳ではなくて、それでもその仕事が好きでやってるからさ、そういう風に仕事に向かえる面も憧れてた部分もあって。俺は、仕事は仕事で大切だけど、生活の糧であって、それ以外の時間も欲しいからさ。向こうが、仕事をそれだけ重要視してるのがわかってるから、そこを無理して会いたいとも言えなかったし、それでも、一緒にいられる時間が、殆どなくて、それはそれなりに慣れたつもりだったけど、好きでいても、そういう状態、っていうのは、きつかったね。」
「今でも、好きだったりする?」
「俺は、その時はその時で付き合ってる相手の事、好きだけど、別れてから、そういう風には、感じないよ。まあ、たまに、ふと思い出すことはあるけどね。今みたいに。」
「俺も、そうなれるかなぁ。裕和と会って、話して、付き合うようになって、一時よりは、そういう風に感じる事はなくなったけど、きっぱり振り切れたか、と言うと、自信ないからなぁ。」
「振り切れなくても、辛いと思わなくなっただけでも、少しは変わったんじゃないか? まあ、でも、実際、顔を合わせるんだろ? 今度。同窓会で。」
「少しは、変わった、かな。実際に、顔を合わせたら、どうなんだろう。まあ、だからって、あいつとの間が何か変わるわけじゃないけどね。」

 辛い思い出。
 辛かった思い出。
 今抱えている想い。
 ふと思い出すけれども、ただ、過去としての事象。
 今現在、裕和といて、その先は、どうなっているんだろう。

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『舞う粉雪-1-』

 もうかなり寒くなってきたな、と思う。
 そろそろ、冬のコートに変える時期だろうか。
 俺は、ダウンよりも、コートの方を愛用している。
 ダウンはダウンで温かいのだろう事はわかっているけれども、何故だろう、それを着る気になってみた事はない。

 日本の四季を通して、それぞれの季節に従って、衣替えをしていく。
 大きく分ければ、『春』『夏』『秋』『冬』、この四つに分けられて、だからこそ、四季というのだが、その気候は、それぞれ変化はあるものの、その境界線がはっきりしている訳ではない。
 学生時代の制服は、だいたい、日付は決められていたが、社会人になってしまうと、いつ衣替えを行おうか、というのは、まちまちになってくる。

 カレンダー上では、その季節、季節を表示する日がない訳ではない。
 けれども、『立冬』といわれても、その日を境に急にに寒くなるか、と言うとそういう訳でもない。
 四つなんて大きく分けられないから、七十二候という分類もあるし、二十四節気に分ける事もある。
 まあ、俺は、この詳細まで知っている訳ではない。

 それにそもそも、衣替えをする時にそこまで細かく服の種類を持っている訳でもないし、その年、その年の寒暖によって、何となく、決めている。
 それでもまあ、周囲を見渡して、まだこんな時期なのに、などと思われそうな程、季節はずれな格好はしたくはない。
 ある程度は、個々人の寒さ、暑さの感じ方が異なるから、皆が皆、揃って、『はい、今日この日から、冬用のコートを着ましょう』という事にはならない。
 俺自身の感覚、か。
 無視する訳ではないけれど、全てがそれに任せられるか、というとそうでもない。

 衣替え、か。
 俺のココロの中も、そうやって思い切って切り替える事が出来ればいいのに、そう思う事もある。
 感情というものも複雑で、中々上手く、生理整頓出来ないでいる。
 区切りをつけないといけない事はいけない。
 そうそう単純明快な人間もいないだろう。
 もしいたとして、では、その人が羨ましいか、と言われたら、羨ましい一面もあるが、そうではない部分もある。

 名目上は『友人』として、長く付き合ってきた彼。
 報われるはずもない、告げる事も出来ない、想いを抱えてきて、彼の、結婚-勿論女性との-を目の前にしたあの日。
 そして、ゲイバーで、ある一人のオトコに声を掛けられたあの日。
 そういえば、あの日は、雨が降っていたな、と思い出す。

 その日、傘を持ち合わせていなかった俺に、『口実になる』と言われて、傘を貸してもらった。
 返すか返さないか、それも、俺次第だと。
 俺は、結局、傘を返しに行き、我ながら、あの時は情けなかったと思うが、色々話をした。
 そのオトコに誘われて、迷ったけれど、付き合ってみる事にした。

 お互い、始めは、名前も知らずにセックスをした。
 それから、恋人として、付き合ってみようと思い、名前を告げた。
 そのオトコは、『浜名裕和(はまなひろかず)』と名乗った。
 そうして俺も、自分の名を『有多憲次(ありたけんじ)』と。
 そうやって、付き合い始めて、それなりに上手くいっていると思う。
 裕和が、あの時、優しく接してくれたおかげでもあるし、それならば、俺も、出会えた機会を逃したくはなかった。

 元々、行きずりで関係を持って、だからこそ、あの時、あれだけ話が出来たのだし、それでも、裕和が、『出会いを無駄にはにはしたくはない』そう言ってくれたから、裕和と真剣に付き合ってみようと思った。
 そう思って付き合いだしてみても、駄目になる時は駄目になるし、それはそれで仕方がない。
 けれど、その駄目になる時を恐れていては、誰とも付き合えないだろう。

 仮にココロに『原理』があるとしも、それは、やはり数式のようには答えは出て来ない。
 ある意味での答えは必要なのかもしれないけれど、『付き合う』といっても、すぐそこにココロが付いて来る訳でもないし、逆に、ココロに想いを秘めていても、『付き合う』事には至らない。

 駄目元、と言ってしまえば、少し失礼かもしれないが、やはり、自分のココロを見据えて、相手と向き合う事が出来るなら、その為に、出来るだけの努力を、していきたい。
 努力だけで、実が結ぶかといったら、それはそうではないのはわかっているけれど。
 広くて狭いこの世界の中で。

 裕和とは、それぞれ時間を作って、会う機会を作れている。
 お互い、ありがたい事に、日曜日に仕事が入る事はないので、その週によって、一緒にどこかへ出かけてみたり、どちらかの家で寛いでみたりしている。
 平日も、仕事上がりだから、多くの時間を過ごせる訳ではないのだけれど、二人ともアルコールが好きなので、アルコールを味わったりしている。

 そうして、恋人として、時間を共有出来る事は、嬉しい。
 片想いを続けてきた『友人』を、まだ完全には『友人』として見る事は出来ないけれど、今確かにいる、『恋人』としての裕和の事を、好きだと想っていられるから。
 だから、一緒にいられる時間が、嬉しいのだ。

 そして、今日も、バーで落ち合う約束をしている。
 初めに、裕和と会ったバーではない。
 裕和に紹介してもらったバーだ。
 今は、バーに行く時は、ほぼそこにしている。

 出会ったバーは、裕和は『よく行く』と言っていたが、それは、恋人がいない時らしい。
 誰かしら相手を求めて、それが、どんな出会いになって、それこそまあ、行きずりみたいな関係になってしまうかもしれないけれど、それなりの相手が欲しい時なのだと。
 初めて裕和に紹介されてそのバーに向かう時、『独りで飲むにも、良いところなんだけどね。そういう人も居るし。それでも、俺は、あまり独りでは行かないかな。恋人とゆっくりのみたい時は、落ち着くし、結構よく行くんだよね』そう言っていた。

 そうして、紹介されたのが、バー『Labyrinth 』。
 確かにゲイバーで、さり気なく客を見渡せば、ゲイカップルがいるのだけれども、それを凌駕(りょうが)するような雰囲気がそこにはあった。
 そこで、数時間共に過ごしてみて、裕和が『恋人とゆっくり落ち着いて語らいたい』そう言ったのもわ かる気がする。
 裕和自身が、そういったタイプのものを好む人間だという事も。

 仕事がそれなりに忙しく、急いた日常の中で、勿論、休日に、本当に時間としてゆっくり過ごすのも良いのだけれど、そのバーで、時間としてはそれ程長くなくとも、穏やかに流れる空間が、そこにあった。
 それはそれで、別々に、過ごしていて心地の良い時間なのだと。

 すっかり常連となった、そのバーの扉をくぐると、いつもと変わらない様に、マスターが出迎えてくれる。

「こんばんは。いらっしゃいませ。」
「こんばんは。」

 言葉を交わし、まだ、裕和が来ていないので、取り敢えず、カウンターに座って、アルコールを注文した。
 そのグラスを傾けながら、裕和がやってくるのを待つ。
 そうやって、待ている時間が苦にならない。
 これから、会う事が出来るのも勿論そうだし、アルコール自体もそう、そして、このバーの雰囲気も。

 程なくして、裕和がやって来た。
 同じようにマスターと挨拶を交わし、俺の隣に腰掛けて、お気に入りのカクテルを注文している。

「やあ、おまたせ。憲次。」
「こんばんは。裕和。お仕事、お疲れ様。」
「憲次も、お疲れ様。もうかなり冷えてきたね。」
「そうだね。そろそろ、本格的に、冬、って感じだね。」
「バーで、こうやって飲むのもいいけど、熱燗、とかも欲しくなってくるね。」
「鍋とかも恋しいな。」
「鍋かぁ。鍋もいいよね。友人や会社の同僚と、忘年会とかで鍋にするのもいいけどさ、憲次と二人で、っていうのもまた良さそうだな。」
「一人用の鍋セットも売ってるけど、鍋だと相手がいてくれる方が、嬉しいからね。」

「じゃあ、今度、鍋にする? あ、でも、やっぱり土鍋が欲しいな。そうなると。二人用の土鍋も売ってるし、他の料理にでも使えるから、買っておいても損はないかな。」
「やっぱり、土鍋が一番雰囲気出るよね。それに熱燗と来れば、本当に日本の冬、って感じだね。」
「今年は、温かい年が越せそうだな。憲次は、年末年始はどうしてるの? 仕事は休みなんでしょ? 実家、帰ったりするの?」
「うーん、今、ちょっと迷ってる。まあ、休みの内のどこかでは、実家に顔を出すけど。裕和はどうするの?」
「どうしようかな。毎年、一応、顔を出すことは出すんだけど、長居するのもちょっと気不味くってね。」

「気不味い?」
「ああ、俺さ、両親にゲイだって事、カミングアウトしてるから、それでね。微妙に受け入れてくれてるところがあるから、その微妙さ加減がね。親としても、何となく気不味いんだろうね。きっと。だから、まあ、『今、元気でやってます』って、それ位の顔見せの方が、楽なんだよね。」
「ああ……そうなんだ。俺は、何か、その話、完璧にスルーされちゃって、そこのところは、最早、お互い口に出さないし、無かった事、みたいな感じなんだよね。知ってしまった事は、無かった事には出来ないんだけど、もう、その話題には、一切触れない、みたいな。」

「そっか。で、迷ってるって言うのは?」
「今までは、あんまり無かったんだけど、今は、裕和がいるだろ? 裕和も、仕事休みだし、どうするのかな、と思ってて。」
「お互い休み、か。そうだよな。俺は、今まで、全くそういった事がないかって事はないけど、そうやって、一緒に過ごしてくれる相手、っているのは嬉しいし、憲次もそうやって想ってくれているんなら、やっぱり一緒にすごしたいな。ふふふ……でも、そういうところ、きちんと考えてくれるのが、やっぱり、憲次らしいな。」

「俺らしいって……?」
「ほら、始めに言ってたでしょ、憲次が。『中途半端な気持ちで付き合いたくない』って。それを、実行しようとしてくれているところとか、そういう真剣さってさ。今現在さ、どの位の比率かにしろ、俺が憲次のココロの中にいるんだなって。」
「……正直、まだ、友人の事は、完璧に、友人としてみられるか、っていうと、その自信はないけどね。ああ、この正月明けに、高校の同窓会があるから、顔を合わせるんだった。確か、成人の日、だったかな。」

「同窓会、か。調度、今年が、30になった年だから、区切りがいいんだな。」
「そうなんだよね。皆、どれ位、変わってるんだろうか、とか、俺はどれ位変わったんだろうか、とかね。」
「中身はどうか別として、見かけだけでも、変わる人は本当に変わるし、変わらない人はあんまり変わらないし、面影が残っている人とかもいるからね。」
「裕和の経験上?」
「そうそう。俺が、今、35だろ? 次は、40になった時、って事になるってから、今は俺は、中間地点、だな。」

「ふっ……何か、昔の事思い出しちゃったよ。調度、裕和と出会った時の事とか、思い返してたし。でも、考えてみれば、あの時、俺は、俺の事話したけど、裕和の昔の話とかは、する機会無かったよね。」
「俺の……? でも、元彼の話とか聞いても、嬉しいもんじゃないだろ?」
「でも、経験上、学ぶって事もあるんじゃない?」
「まあ、それはそうだけど、それでも、今と、昔とでは、相手に対する考え方とかも、求めるものとかも、変わってきてる部分もあるからな。」
「それも含めて、知っておきたい部分はあるな。」
「……そうだな。憲次のそうやって、想いを大切に出来るところは、やっぱり、好きだと思うし。でも、また別の機会にしようか。今日はそんなに時間ないし。」
「そうだね。そろそろ帰ろうか。」

 会計を終えて、外に出ると、やはり冷えを感じさせる。
 風が吹いていないのが幸いだ。
 そして、雨が降っていないのも。

 この週末は、裕和の家で、鍋になるんだろうな。

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『雨上がりの背中-3-(完)』

 二人のカラダの熱が冷めたころ、俺は、そのオトコに語りだしていた。
 あの日、始めてこのオトコに出会って、少し話した事。
 そして、また、このオトコと会っているという事。

 出会いは、偶然のようで、いつも必然なのだ。
 それが、どんな関係に発展するのか、それとも、そこで終わってしまうのかはわからないけど。
 そんな中で、俺は、再びこの男に会う事を決めた。
 それは、確かにこのオトコが誘導してくれたものかもしれないけれど、俺自身が望んだ事。

「俺は、いつか、その友人を、本当に普通の友人として見ることが出来るだろうか?」
「さあ、どうだろうね。でも、想いは大切だよ。例え叶わなくとも、人が、想うことを止めてしまったら、とても悲しいと思う。君が、これからも、その想いを隠して、その友人と、友人として付き合っていく、それが辛くても、そんなに簡単に想うことは止められないから。」

「貴方は、そういう経験ないんですか?」

「俺? 俺は……そうだね。まあ、確かに、ノンケに淡い思いを抱いた事はあるよ。そして、それは夢でしかいられないんだな、って、どこかで割り切ってた。思い出にすれば、それは美化されて、日常とは違うところに置いておける。自分が、ゲイだってことは、どうしようもない。例え、狭い世界でも、その中で、誰かと出会えたなら、その方が、良いから。勿論、相性って言うのはあるよ。同じゲイでも、やっぱり、合わない人は沢山いるし、でも、そんな中でも、ちゃんと、向き合っていける人と出会えたとしたら、それ程幸福な事はないって思ってる。君みたいな人も、羨ましいと思うよ。純粋に……そう、純粋に誰かを好きだって想えるんだから。その想いを否定する必要なんてないし、それを、大切にすれば良いと思う。本当にね、誰にも否定できないから。その人の想いは。」

「あいつを、好きだと思いながら、それでも、誰も、代わりになんてしないし、ならないってわかっている。あいつを好きだと想いながらも、別の面で、他の誰かに惹かれる事もある。それは、どちらに対しても、失礼な気がして、結局は、誰ともまともに向き合えない。」

「否定すれば、いや、否定したからこそ、そこで、見えなくなってしまうものもある。君が、その友人の事を、そういう対象として好きになってしまったのは、別に、君の所為でも、その友人の所為でもない。そして、人に対する想いというものは、それぞれ違って良いものだから、例え、同じように『肉欲』を感じたとしても、それは、それぞれに対して同義ではない。好きになる対象が、たった一人でなければならない、なんて、そんな決まりはない。勿論、誰かと、パートナーシップを結んでしまえば、そこで、何かしらの制約が生まれるかもしれない。その制約を、邪魔なものだと感じてしまうなら、きっと、その人とは上手くやっていけないだろう。でも、そうでないのなら、制約は、誰かと、対等に向き合っていくために必要なものだと思う。」

 そのオトコとの会話はとても緩やかで、俺が、認めて欲しいと思った事、否定しないで欲しいと思った事、それを、心得ているかのようだった。
 誰かに、嫌われたくないと思った時、そこで一歩引いてしまう事。
 その場その場で、場の空気というものがあって、臆病にも思えるその行為が、結果、争いを避ける事に繋がる事もある。
 勿論、時には、本気でぶつかり合う事も必要かもしれないけれど、それは、そういう事が出来る相手だから。
 それも、やはり、時と場合を選ぶ。

 俺は、友人を傷つけたくない。
 俺の気持ちを押し殺したとしても、友人としても失いたくない。
 贅沢な事かもしれないけど、それが、今の、俺の本心だから。

「俺は、好きだからこそ失いたくない。勿論、奪って、自分のものに出来たらどんなに良いだろうかと思う。けど、それが、今までのあいつを奪ってしまう事になってしまうのだとしたら、やっぱり出来ない。幸せにしたいと思う。一緒に幸せになれたらと思う。でも、あいつと俺との間には、やっぱり決定的な差があるんだ。」

「人は決してものにはなれないから。もし、なってしまったとしたら、それはもう人ではない。自分の想いを尊重することも、相手の想いを尊重することも、人間関係を保っていく中で、必要な事なんだ。それは、恋愛関係だけじゃない。全てにおいて言えることだと思う。もちろん、俺だって、これを全て理解してるかって言うとそうじゃない。頭ではわかっていても、どうにもならないこともある。言うのは簡単だよ。今の俺みたいにね。そう、わかっていても、どうにもならない事がある。そこで諦めてしまうのは簡単だけど、そうはしたくない。そうやって、足掻いて、もがいて生きていくしかない。」

「何も出来ない自分に苛立つけど、でも、そうして守らなければならないものが自分にはあって、そんな、俺自身を卑怯だと、どうしても感じてしまう。卑屈になってみても、何も変わりはしないのに。」

「誰かを、何かを、卑怯だといって罵るのは簡単なことだよ。現に、そうやって、他人を批判することで、自分自身を守ろうとする人もいる。その刃の矛先が、君みたいに己に向いてしまうのか、他人に向いてしまうのか、その違いだ。誰もを傷付けずに生きる事なんて出来ない。傷付かずに生きていけるほど強い人間もいない。でも、本当に無自覚に他人を傷つけて、そんな中で、やっぱり自分も傷ついて、自分だけ被害者面しようとする人もいる。そのくせ、自尊心だけ人一倍強くて、自分が認められないとわかると、より暴力的になる。こういう人間は怖いよ。実際、付き合っていくのは困難だ。でも、そうだね、最終的に結局自分を一番大切に出来るのは自分なんだと思う。『もっと、自分を大切にしなさい』とか、簡単にいう事は出来るよ。でも果たして、どうする事が、本人にとって、一番良い事なのか、それは、わからない。」

「俺が、俺にとって、一番良い事。それは、何なんだろうか。嫌な自分の面を見てしまうと、変わりたいと思う。変わる事が出来る、そう信じるのは、間違いなんだろうか。」

「変われる可能性は勿論あると思うよ。劇的にじゃなくても。嫌な面を見て、変わりたい、成長したい、そう思うのはごく自然な事だ。でも、根本的な面で、『自分』というものは捨てる事は出来ない。そして、その必要はないと思う。」

 俺が、ずっと引きずってきたものは、簡単に捨て去ることは出来ないと。
 そして、その必要もないのだと。
 もし、俺が、俺自身を見失わずにいられるのなら。

「目を逸らすよりも、一度、ちゃんと向き合った方が、素直に認められるのかな。そして、認める事で初めて、また一歩、踏み出す事が出来るんだろうか。」

「その結果、君の中で、どういう変化があるかはわからない。後悔しない人間はいない。でも、例え、後悔したとしても、それが、納得出来るものにする事は出来ると思う。」

「一人で悩んでいたら、どうしようもなかったのかもしれない。こうして、貴方と話しているから、少し、出口に近付いたような気がする。」

「それが、本物の出口かどうか、わからなけどね。俺が言ってるのは、あくまでも俺の意見であって、決して、正しいわけじゃない。でも、誰かと話す事によって、新しい視点を見つけることは可能だと思う。」

「うん。やっぱり、後は、自分の頭で考えなきゃね。」

「そう、考え方は、人の数だけあって、どうしても自分に認められない考え方だとしても、そういう人はいるって事。」

「貴方は、どうして、俺に声を掛けたの?」

「さあ、どうしてだろうね。そう……何となくね、君の背中が、寂しそうだったから。それでいて、それを必死で押し殺そうとしてたから。まあ、後は、それに対する、色々な好奇心。」

「それで、好奇心は満たされました?」

「そうだね。ある意味。でも、それよりももっと、君の事が知りたいと思ってる。」

「貴方と話をするのは好きですよ。こんなに話したのは生まれて初めてってくらい。」

「それは、光栄だね。お互い興味を持って、それで、その絆を深めていく事が出来ると思ってるから。」

「でも、俺は……。」

「君が、その友人の事を好きなのはわかってる。でも、俺は言ったよね、『好きになるカタチは一つじゃない。』って。だから、もし君が、俺に興味を持ってくれているのなら、それで良いと思う。」

「貴方は、俺の背中を押してくれた。だから、感謝してる。でも、だからこそ、中途半端な気持ちで付き合いたくはない。」

「俺も、君の安全牌(あんぜんぱい)になる気は決してないよ。君は、今の自分の気持ちを、中途半端だと思うの? ただ、揺らいでいるだけなら、それは、それで良いんじゃない? いつか、君のココロが、何かを選んだとして、その先に、俺がいなかったとしても、こうやって、出会えた事は大切なことだと思う。未来なんて、誰にもわからないから。でも、今を選ぶ事は出来る。こうやって、出来た契機(きっかけ)を、無駄にはしたくない。」

 出会いと、別れの必然性。
 それを知っている。
 俺のココロが少しでも晴れたのは、やはり、このオトコと話したから。
 何十億もいるこの地上で、出会えた必然的な奇跡を、もう少し、見守ってみよう。
 人の想いもココロも、簡単には定まらないもの。

 それでも、雨が上がって、俺の地面は、少し固まっていた。

 俺にも、そのオトコにもわからない未来を、これから生きていく。
 そうして、改めて、お互いの名前も何も知らないことに気付いて、自己紹介した。
 少しずつ、知り合っていけば良いと。

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『雨上がりの背中-2-』

 「また、会える?」
 そうオトコが尋ねてきたのを、俺はとっさには答えられなかった。
 今日は俺にとって、特別な日だった。
 普段では、絶対に曝け出さないような自分を見られてしまったから。
 だから、何となく、やはりこのオトコにまた会うのは、何となく気が引けた。

「複雑そうな顔をしてるね。弱みを、見られたと思ってる? だから嫌? でも……もし、君がまだココロにわだかまりを持っているなら、それを知ってる俺と会うのも得策じゃない? 誰にでも良い訳じゃないでしょ? 今日は、たまたま俺だっただけで。」

 全てが、吹っ切れたわけじゃない。
 本当は、独りで抱え込むはずだった。
 それを、このオトコに曝してしまった。
 他人に、これ以上甘える気はない。
 けれど、そうでなくても、もし、また、このオトコと話が出来るなら。

「多分、まだ、雨が降ってるよ。だから、傘貸してあげる。俺は、よくあのバーに行くから、気が向いたら返しに来て。」

「俺に傘を貸したら、貴方はどうするんですか。貴方が濡れるじゃないですか。」
「そこら辺の、コンビニで買うよ。」
「それなら俺が買います。元々、貴方の傘なんだし。」
「嫌だな。これは、また会うために口実なんだよ。だから、俺の傘を君が持ってなくっちゃ成り立たない。」

 そう、この男が言うのは事実。
 この口実に、つけこんで、また俺と会おうというのか?
 でも、そんな口実は、本当は、ちょっとした契機(きっかけ)になるかもしれないけれど、確かな約束ではない。

「俺は、傘を借りても、捨ててしまうかもしれないですよ?」
「それならそれで仕方がないよ。でも、もし、君が、また俺と会ってくれるなら、話しかけやすいだろ?」
「本当に返すだけかもしれないですけど。」
「それでも構わないよ。元々、俺が、君の弱みに付け込んだみたいだし。」
「そんなに……付け込まれるほど、弱ってたとは思いませんけど。」
「でも、そう思えたほうが、楽に忘れる事も出来るよ。」
「それは……何の事についてですか?」
「色々と。」

 好きだった、友人の事だろうか、それとも、このオトコの事だろうか。
 楽に忘れる……忘れたい事を、本当にすぐに忘れられたらどんなにいいだろうか。
 忘却とは、人が生きていくために生み出した、力。
 それが、良い事なのか、悪い事なのかわからない。

「傘、お借りします。」
「うん。答えを出すのに急がなくていいから。焦って、答えを出そうとして、見失ったら何もならないからね。まあ、時間をかけて考えたからって、その方が、良い答えが出るとは限らないけどね。」

 考えて行動した方が良い事もあるし、考えずにただ、行動に移した方が良い事もある。
 そう、今日のように。
 けれど、与えられた猶予期間があるのなら、俺なりに考えてみたいと思う。

 そして、期間をあけて、会いたいと思った時、もしかしたら、このオトコに、別のオトコがもういるかもしれない、そんな可能性だってある。
 しかし、その時はまた、その時の話だ。

 そうして、そのオトコと別れて、家に帰って、落ち込まずにいられたのは、やはり、あのオトコと色々話せたからだと思う。
 そして、不覚にも泣いてしまった所為だと。

 翌日は、きちんと目を冷やして寝たおかげか、泣いた後は見られなかった。
 昨日のような一日を終えた後でも、日常というものはいつものようにやってきて、仕事に専念していられるのは、幸いだった。
 そうして、しばらく、仕事に没頭する日々を送っていた。

 けれど、それでは、まだいけない、と思ったのは、やはり、どこか、自分から逃げている気がしたから。
 また、そのオトコに縋ろうと思った訳ではない。
 けれど、機会があるのなら、会ってみたいと、思ったから。

 そのオトコは、『よく行く』と言っていたけれど、どれくらいの頻度で行っているのかわからない。
 もし仮に、今日行ったとしても、会えるとは限らない。
 それでも良い。
 俺は、鞄に傘を入れて、会社に向かい、仕事が上がると、そのバーへ向かった。

 実際は、会うのも、会えないのも、どっちも怖かった。
 だから、結果がどっちに転んだとしても、それを受け止めよう。

 店を、見渡してみても、そのオトコの姿は見えなかった。
 もしかしたら、まだ、店に来る時間じゃないのかもしれない。
 もう少しだけ待ってみよう。
 そうして、入り口の見える場所に座り、この一杯だけ、と決めて、酒を注文する。

 グラス半分くらいになったところで、オトコが、店にやってきた。
 そうして、入り口に目をやっていた俺と、必然的に目が合った。
 オトコが、俺の元へやってくる。

「やあ、久し振り。もしかして、会いに来てくれた?」
「一杯だけ飲んで、それで、会えなかったら帰るつもりでした。」
「じゃあ、ラッキーだったね。間に合ったんだから。」
「あ、はい。これ、傘。」
「律儀にどうも。」

「貴方こそ良いんですか? 俺に構ってて。よく店に来るんなら、他にお相手を探せば良いのに。」
「そんなに、モテるもんじゃないよ。まあ、出会いは大切だけど、そればっかりが目的でもないからね。」
「モテそうに見えますけどね。」
「ありがたいお言葉をありがとう。でも、実際モテたとしても、気に入った相手じゃなければ、意味ないしねぇ。君だって、オトコなら、誰でも良い訳じゃないでしょ?」
「まあ、そうですけど。」

「もう、グラス、空きそうだね。どうする、まだ飲む?」
「貴方こそ飲まないんですか?」
「俺? 俺は別にどっちでもいいかなぁ。」
「じゃあ、折角だから、もう一杯、一緒に付き合ってください。」
「OK。」

 それから、単純にアルコールを味わって。
 他人の会話の端々がこぼれる中、店に流れる、音楽に耳を傾けていた。
 その間、俺たちの間で会話はなかったけれど、特に、気を使う必要もなく、ただ、流れる時を感じていた。
 空いたグラスに残った氷だけが、カランと音を立てた。

「出ようか。」
「ええ。」
 店を出て、見上げた空は晴れていたけれど、都会の空には星は見られなかった。
「良かった。今日は晴れてて。」
「星は、見えないですけどね。」
「星か。あれも、不思議な存在だよね。それ自身が輝く星もあれば、その光を受け取って、あたかも輝いているかのように見える星もある。でも、もし実際見えたとしても、現実に目にする星は、もう、ずっと前に放たれていた光なんだよね。」
「地球もまた、そんな星の中の一つなんですよね。」
「そうだね。」
「例え見えなくても、そこにある星は、確かにあるんだから。」
「見えたとしても、もう存在しない星もあるしね。」

 星も命をもっている。
 それが、人間のそれよりずっと長かったとしても。

「星は、滅びる時、何か、想うんだろうか?」
「さあね。確かに、星は、生まれ、滅びるけれど、生命を持っているかどうか謎だね。無機体の集合だから。いや、生命体だったとしても、そこにココロが宿っているとは限らないし。」

 ココロがあるから、人は、人を好きになれる。
 そしてその逆も。
 時にわずらわしく思っても、確かに何かを感じるココロはそこに『ある』んだ。

「ねえ、俺が、貴方を抱いても良い?」
「いいよ。君が望むように。」
「貴方、タチなんじゃないの?」
「俺? まあ、基本はそうだけどね。別に逆が嫌いなわけじゃないよ。」

 このオトコが、それを、俺に許すのは何でなんだろう。
 それを、望んだ俺が思うのもなんだが。
 まあ、それは、後で考えれば良いか。

 重ねていく唇にその温度を感じる。
 軽く唇を開かれて、誘われるように舌を差し入れて、そのオトコの口内を味わう。
 舌を絡めあって、それを、吸い上げて。

 そして、先日、俺を抱いた、その、カラダに指を這わせていく。
 摘み上げた乳首にピクリ、とカラダが反応したのがわかった。
「ん……」
 そうして、尖っていく乳首に舌での愛撫を加えていく。
 過敏になった神経が、その刺激を快感に変える。

 感じている証拠に、そのペニスは勃起していた。
 そして、同じように、俺のペニスも。
 オトコの指が、俺の勃起したペニスを撫で上げた。
 それから、口で咥えられて。

「ちょっ……あんまりされると、長く、もたないよ。」
「うん、そうだね。」

 口淫から逃れて、今度は、その男のアナルに指を這わせる。
 ローションを使って、そこを解してゆく。

「いい? もう、イれても。」
「ん。うん。」

 多分、まだちょっと、キツいな、とは思ったけれど、俺も、そろそろ限界な訳で。
「…く…んん……はぁ…ん……」
 だけど、ちゃんと、このオトコが、感じられるように、腰を動かす。
 締め付けられて、つのる射精感を我慢しながら、抽挿を繰り返し、感じられる場所を擦りあげる。

「あ……は…あ…ああ……」
 漏れる吐息と、その声が、また俺の官能を刺激する。
 そして、たまらず、俺は射精していた。

 それから、まだ勃起している、男のペニスに手を伸ばし、扱きあげ、射精へと導く。
 挿入したままだった、ペニスが、その締め付けに僅かに反応してしまったけれど、そこはそこで、自制心を働かしてというか、抜き去った。
 『別に、我慢しなくてもいいのに』と、そのオトコには言われたけれど。

 一度射精して尚、勃ちかけたペニスを、男の口内に再び取り込まれ、その口淫によって、再び射精した。
 『溜め込むのは毒だよ』と。

 そして、俺が、実際溜め込んでいるのは、それでだけではない事。
 きっと、このオトコには見抜かれている。
 それが、毒なのかどうかわからない。

 それでも、もし、吐き出せる相手がいるのなら。
 それを受け止めてくれる相手がいるのなら。
 こんな幸運な事はないだろうと思う。

 もたれかかった背中に、もう少し、もたれさせてもらっても、きっと、この男は許してくれると。
 そんな、感じがしていた。

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『雨上がりの背中-1-』

 元々叶うなんて思ってなかったけど、それでも、やはり胸につまっていた想いは、自覚していたよりずっと重くって、ショックだった。
 高校時代から仲が良くて、大学が離れても、遊んでたりした。
 向こうにとっては、俺は友人でしかない。
 俺が、そんな想いを寄せていたなんて気付きもしないだろう。
 そして、それを知られるのも怖かった。
 もし知られて、友人でさえいられなくなってしまったら。
 拒絶され、奇異な目で見られるのはたまらなかった。

 可愛い彼女がいて、そうしている彼の方が普通なんだって。

 俺が、彼をいくら、そういう対象として好きだったとしても、どうしようもない事。

 そんな、彼の結婚式に参列した。
 祝いの席で、悲しい表情をする事なんて出来なくって、でも、それでも辛かった。

 俺だって、ゲイだってわかってたから、それなりに、そういう人間との付き合いはあった。
 例え、彼が結婚しなくても、失恋、っていうのは当たり前で、でもやっぱり、その現場を見てしまうと決定的なような気がした。

 二次会が引けて、お開きになって、俺は、結局、いきつけのバーに向かっていた。
 そこでは、俺の性癖を隠す必要なんてない。
 そういう場所では、やはり、少し開放的になれた。

 独りでグラスを傾けていると、あるオトコに声をかけられた。
 こういう時でも、オトコだからって、誰でも良い訳じゃない。
 それなりにタイプだったから、隣の席を譲った。

「とても、悲しそうな、顔をしてるよ。」
「そう見えます? 実は今日、大切な友人の結婚式に行ってきたところなんですよ。」
「もしかして、その人の事、好きだったとか?」
「そうですね。自分で思っていたよりずっと。」
「ノンケの男を好きになっても仕方ないってわかっていてもね、ココロの方は追いついていかないからね。で、自棄酒(やけざけ)?」
「自暴自棄になれるほど、子供でもないですし、自棄酒にするなら、俺はザルだから、やりたくてもできませんよ。もし挑戦したとしても、きっと破産してしまう。」
「アルコールは、適度に酔えれば、それが一番良いんだろうけどね。」
「適当なところで止めておきますよ。」

「付き合ってくれるのは、お酒だけ?」
 そうやって、誘われるのも悪くない。
 けれど、なんて答えようか、逡巡していた。
「俺って、その彼に似てたりする?」
「全然似てませんよ。誰かを、友人に重ねてみた事なんてありません。」
「まあ、俺だって、その彼の代わりをしてあげる事なんて出来ないけどね。それでも、一時、夢見たいことはあるじゃない?」
「夢見ても、実現する事はないし、もし貴方が友人の代わりをしてくれる、と言っても、そういう風に扱うのは、失礼な事だと思いますから。」

 誰も、誰かの代わりになんてなれない。
 仮に、代用品として抱いたとしても、その後に残るのは虚しさだけだって知っている。
 何が、どうすれば、慰めになるのか。
 一時の慰めが必要な時もある。
 そうする事によって、立ち直る事が出来る事も。

「背中が寂しいって、語っている割に、しっかりしてるね。でも、嫌いじゃないな、そういう人は。本当は、君の弱みに付け込んでみようかと思ったんだけどね。」
「良いですよ、付け込んでみても。実際、それを望んでいるのかもしれない。」
「駄目だよ、そこで、そんな事言っちゃあ。ふふふ……でもそうだな、純粋に、人を好きになれるって、少し憧れるな。」
所詮(しょせん)は、実らぬ、片想いなんですけどね。」
「報われる事がないとわかっていても、好きになってしまう。そういう、ココロの原理に決まりなんてないからね。」
「ココロに原理なんてあるんですか?」
「さあね。人のココロは時として、単純明快で、でも、その実は、複雑に絡み合って、その奥は覗けないから。だから、自分のココロを否定してしまうのは悲しい事だと思うよ。」
「それが、どんな、想いでも?」
「時には、辛い事もあるだろうけどね。」

 辛くても、それから目を背けても、その現実からは逃れられなくて。
 そして、目を背けようとすればする程、その想いに縛られていく。
 呪縛から逃れようと、行動した結果、余計にその深みに嵌る事もある。

「辛くても、自分が、世界一不幸な人間だとか、そんな風には思いませんよ。そんな思いに浸ったって、仕方がないってわかっているから。」
「不幸自慢、ってあるよね。他人の話しを聞いて、より自分のほうが不幸だと思って、それで変な優越感を抱いてる。まあ、でも、それも、人のココロの不思議なところかな。」

 人が、他人と比べることしか出来ない生物だとしても、他人が基準になる訳ではなく、やはり、基準になってくるのは自分なのだ。
 結局は、自分を基準でしか、世界を見る事が出来ない。
 それが、どんなに歪んだ世界だとしても。
 勿論、正常な世界、なんて物も存在しないんだろうけど。
 例え、自分が『基準』となったとしても、それが『正常』である訳でもない。
 正しいとか、間違っているとか、それも、その人その人の価値観なのだ。
 自分と異なった価値観を受け入れろとは言わない。
 けれど、否定して欲しくない。
 それは、自分を否定されることと同じだから。

 一つは、ゲイとして、セクシャル・マイノリティとして、それを特化して欲しいわけじゃないけど、そういう人間も存在するのだと、知っていて欲しい。
 理解する事が不可能でも。

 世間一般的に、数多くの人が、異性愛者として存在しているのは知っている。
 当たり前の事なのかもしれない。
 でも、そうじゃない人もいるんだよと、知って欲しい。
 それは、ゲイだけじゃない、多くのマイノリティにも言える事なんだと思う。

 そのオトコに誘われて、バーを出ると、雨が降っていた。
 生憎(あいにく)俺は傘を持っていなかったが、そのオトコは折りたたみの傘を持っていた。
 オトコ、二人で、その傘に収まるのは、狭すぎたけど、ないよりはましだった。
 肩の部分が、少し濡れたけど、きっと、ホテルを出る頃には乾いているだろう。

「あの……俺、ソッチのほうは、あんまり慣れてないんですけど。」
「そう。でも、大丈夫だよ。自信がある訳じゃないけど、ちゃんとヨくしてあげるから。たまには、いいものだよ。他人に身を預けてみるのも。」

 シャワーを浴びた後、そのオトコに、ベッドに押し倒されて、そのオトコの愛撫に身を委ねた。
 それは、涙が出そうなほど優しくて、もしかしたら、実際、少し泣いていたのかもしれない。
 そんな、目尻を拭われて。
「駄目? 無理そう?」
「いや、そうじゃなくて。」
「そう、ならいいけど。」

 その指先に、反応していると思う。
 肌に落とされた唇に感じて。
「あ……は……ああ……」
 勃ち上がりかけたペニスを直接的に刺激される。

 そして、俺の、受け入れる事に慣れていないアナルをそのオトコは、十分に時間をかけて、ゆっくりと慣らしていった。
 実際に受け入れる事は慣れていなくても、そこに、感じる場所がある事は知っている。

 そのオトコのペニスを受け入れて、その感じられる場所を刺激されて、俺は、その快感に酔う。
 こんな時は、従順に快感に従っていればいい。
 確かに、その男が言ったように、こんな気分の時は、他人に身を任せてみるのもいいかもしれない。

「んん……あ…ああ!あっ」
「どう? イけそう?」
「ん……もう…少し……」

 そうして、その男の手が、俺のペニスに触れられて、扱かれていく。
 そうされたら、もう、本当にもたなくて。
「う……く…イ…く…!」
 オトコのペニスを受け入れながら、射精していた。

 そのオトコも、少し遅れて射精していたようだった。

「シャワーを浴びて、顔を水で洗っておいで。そんなには泣いてなかったけど、そのまま放っておいたら、明日、目が腫れてるよ。」
「俺、そんなに、涙、流してました?」
「少しだけだよ。でも、泣きたい時に泣けるのは良い事だよ。だから、まだ、泣き足りないと思ったら、シャワーを浴びながら、泣いてごらん。シャワーは、涙を流してくれるから。」
「俺は……泣きたかったのかな?」
「さあね。どうだろう。」

 シャワーに当たってみたけれど、涙は流れてこなかった。
 洗面所の鏡を見て、確かに少し泣いた跡があるようだったけど、冷水で、顔を洗って、顔もココロもさっぱりした。
 『顔で笑って、ココロで泣いて』なんてこともあるけど、実際、本当に泣いてしまったほうが、楽なんだろう。
 友人の前では、まさに、その通りだったんだろうな、と思う。
 それでも、俺は、泣く事が出来たから。

 今日、このオトコに会えて良かったと思う。

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『白香桜乱-9-(完)』

 始めてきた家で、彼女と二人っきりになった僕。
 僕は、本当に何もわからなくて、行為を終えて、服はもう身につけていたけれど、暫らく、ボーっとしていた。
 そうしていた時に、彼女に『お紅茶、お飲みになります?』と声を掛けられた。
 とっさに、僕は『え、ああ。じゃあ、僕が』そう言ったけれど、彼女が、『貴方、こちら、初めてでしょう? (わたくし)が、入れてまいりますわ』そう言って、ソファから立ち上がった。

 一旦、全てのティーカップをキッチンへと下げて、彼女は、彼女と僕の二人分だけ、紅茶を入れて戻ってきた。
 それから、彼女が、家から持ってきていた、バッグから、クッキーを取り出し、僕に向かって、どうぞ、と勧めてきた。
 彼女が焼いたものだろう。
 彼女自身が、それを手に取り、口にしていたので、僕も、同じようにする。
 それは、いつも、僕が家で口にしているものと同じだった。

 けれど、僕の知らない場所。
 僕が知らなかった彼女の会話。

 今目の前にしている彼女は、僕が普段知っている彼女だ。
 『何度か、ここには、来た事があるのですか?』
 『ええ、そうね。貴方と一緒になる前には、一年に数度は。貴方と一緒になってからは……今日を除けば、一度だけね』
 『あの男性と、ですか?』
 『彼と? そういった時もありますけれど、成人してからは、彼と一緒に来る事は、殆どありませんわ』
 『もう随分昔から、ここへ?』
 『詳しくは覚えておりませんけれど、中学の頃、くらいかしら』

 中学の頃、僕が、全く知らない頃。
 十年以上は前の話だ。
 『あの男性とは、その頃から、お知り合いなのですか?』
 『そうね。彼は、(わたくし)より、確か、7つ上ですから、その頃は大学生だったんじゃないかしら』

 『知り合い』だと言っている、彼女。
 確か、男性も、知り合ってからは結構経つと言っていた。
 ただでさえ、希薄だと感じられる彼女の人間関係なのに、何故、どうやって知り合って、今尚、その関係を続けているのだろうか。

 彼女は、中学時代から、中高一貫の女子校に進み、その系列のやはり女子大に通っていたと聞いている。
 その時代の友人の話など聞いたことが無いし、親しい友人はいなかったとは聞いている。

 彼女と二人になって、どれくらい時間がたっただろうか、男性達が、戻ってきた。
 まだ残っていたクッキーを見つけて、初めて会った方の男性が口にしていた。
 『あ、これ、もしかして手作り? 美味しいじゃん。君が作ったの?』と僕に尋ねてきた。
 『え、いえ。僕ではなく、彼女が』
 『お前が? 珍しいな』
 その知り合いの男性も、その事は知らなかったのだろう。

 『そんな、お話をされに来たのではないでしょう? (わたくし)達に、というより、(わたくし)の前で、彼に話をされたかったんではなくって?』
 『まあ、そうだな。お前が、実際、結婚した、と言う話を聞いた時は、正直、少し驚いたよ。お前の家が、お前をどうにかしたかったのはわかるが、お前が、あの家を出たくない訳ではないけれど、お前とやっていける相手はいないだろうし、あの家が許したかどうかはわからないが、その内お前が、一人で出て行くんではないかと思っていたから』
 『そう……でしょうね。でも、一人で、と言うのは許されなかったでしょうね。一度、出てしまった以上は、もう戻る気はありませんけれども』

 『君は、君自身はどう感じたんだろう。彼女の家に対して。どこまで知っているんだろう』
 『僕……ですか? 初め彼女に会った時、彼女より、彼女の育ての親のほうが、必死そうなのは、気付いてましたが。それが何なのかは』
 『彼女が産まれて、彼女と、彼女の母親の存在を否定してきた家だからな。あっちとしては、体裁さえ整えば、こういっては何だが彼女のやっかいものをどうにかしてくれる存在であれば、誰良かったんだろう。まあ、勿論、彼女の性質上それは難しかったが』

 『詳しくわかりませんが、僕は、彼女と会えて、こうやって一緒にいられる事を、望んだから、そうしたんですよ? 僕は、僕の意志を無視されたとは思ってません』
 『今、現在ここにこうしていても、そう思っていられる? 君は、普通に、女性が好きなんだろう?』
 『普通に……それはどうかわかりませんけれど、以前も言いましたけれども、彼女が好きな事には変わりありません。彼女以外の女性の事も、考えたりしません』
 『君のそういう真っ直ぐなところはいい。君の言葉も、心強いと思った。けれど、君が、どこまでそういられるかは、やはりわからない』
 『貴方は、いずれは、と仰りましたよね? その為に、今日、この場と時間を設けたのではないのですか?』
 『ああ、そうだ。だが、君と彼女との事を考えると、やはり少し迷う。どこから、どう話せばいいのか』

 僕と男性との会話を聞いていた、彼女が、口を挟んできた。

 『(わたくし)、気が急く方ではありませんけれど、(わたくし)に対して、そうやってあまり気を使っていただきたくありませんわ。勿論、彼の事を考えない訳ではありませんが、(わたくし)から、申し上げましょうか。お兄様。(わたくし)は彼に知らせるつもりはありませんでしたわ。でも、お兄様はご存知でいらっしゃって、(わたくし)の誘いに乗ってこられた。そして、それを、彼に知らせようとしているのでしょう』

 お兄様……兄? 彼女の?
 彼女に、兄弟がいる事など知らなかった。
 以前、男性が言った言葉『それ以前に問題がある』と。

 『え? お前と、彼女って、兄妹だったの? 親しいのは知ってたけど』
 『お前は、口を挟むな』

 『あの、兄妹って……僕、彼女に、そういった関係の人がいるのは、全然知りませんでした』
 『でも、貴方は、(わたくし)が婚外子なのはしっていらっしゃるでしょう? 母は、正式に奥様がいらっしゃるのを知っていて、(わたくし)を産みましたわ。でも、そのままの立場でいる事に耐えられなかったのでしょうね。認知、の話もありましたわ。でも、母があんな状態でしたし、家のほうも、それを隠そうとしましたから、実際は、受けていませんわ。(わたくし)は知りませんでしたが、実の父の方は、(わたくし)の事知っていましたから、(わたくし)がある程度大きくなってから、お会いしましたわ。それから、何故、興味を持ったのか知りませんけれども、お兄様とも』

 『親父に、愛人がいるのは知ってたからね。俺も、母も。まあ、母は、快く思ってないけどね。彼女の母親だけじゃないよ。他にも。父の子もね、他にも2人いる。こっちは、認知してるけどね。初めに会ったのは、興味本位だね。話しかけても、名乗るつもりもなかったんだけど、話の流れ上何となくそうなってしまって、彼女の家に事情とかも、知って、それ以来、だね。他の2人とはあまり話さないけど、彼女とは割りと。父の方の祖父が、結構、彼女の事気に入っててね、彼女が、株を始めたのも、祖父の影響だし、たまに会ってるんだろ?』

 『ええ。そうですわね。ここの別荘もお祖父(じい)様のものですし』

 『彼女の亡くなったお母さんと、貴方の父親との間の子供、母親違いの兄妹、なんですか』
 『亡くなった? いつ亡くなったんだ? そこまでは知らなかった』
 『あれを生きていると言うのなら、まだ生きていますわよ。母は、(わたくし)の事など、わかりませんけれど、この間、病院へ行ってきましたもの』
 『あれ? じゃあ、何で、君、亡くなったって、思ってるの?』
 『え……? 彼女の母親の弟って言う男性が、そんな事を言っていたような……』
 『お前、そんな事まで、彼に黙ってたのか?』
 『黙ってたって……まさか(わたくし)彼が、そんな風に思っているなんて知りませんでしたし、病院に行くのも、平日の昼間の数時間ですし、その上、状況に変化もありませんから、取り立てて、報告するような事もありませんでしたもの』

 『勘違いの原因は、どちらにしろ、家の方だろうな。精神病院に入院させて、家に存在しないものとしようとしたんだろう』
 『まあ、母の存在も、(わたくし)も実感出来ませんけれど。(わたくし)が産まれて、本当に間もなくでしたものね。入院したのが。病院に会いに行くのも、(わたくし)だけですし』

 『あ……じゃあ、今度、病院に』
 『お気持ちは嬉しいんですけれど、基本的には症状は、落ち着いているんですけれど、男性と接する事が出来なくて。やはり、父の事を思い起こさせてしまうんでしょうかね』
 『そう……ですか』

 『で、君は、どう思う訳? 俺達が、半分とは言え血の繋がった兄妹と知って、その人間と、関係を持ってきた事について』
 『どう……ですか。あまりよくわかりませんけれど、特に違和感は』
 『それでも、彼女が好きな事には変わりない、と?』
 『ええ』
 『……これから先も、彼女が、同じ事を望んでも?』
 『彼女が望むのなら、それが、僕の望みですから。それに、より、彼女を身近に感じられるなら……』

 そうして、再び、日常の中に組み込まれていく。
 僕と、彼女と、彼女の兄と。
 時折、彼女の兄の相手を交えて。

 僕は、より深く、彼女に犯される快感を知ってしまったから。

 それから、彼女の兄に言われた事、『彼女が、実際、白い服を着ていると、怖いと感じることがある。彼女は、母親のようになるつもりはないというけれど、まるで、死に装束としての経帷子(きょうかたびら)のように感じる。まるで、生きていないかのように。でも、君がいて、実際は白いけれども、そこに僅かでも生きて血が通った桜色に染まって見える』と。

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『白香桜乱-8-』

 その日を向かえるまで、一ヶ月とちょっとあったが、男性から手紙が届いて、僕と彼女がその場所に 一緒に行くということは決まったのだが、その事について、触れる事はなかった。
 その間、1度、男性が家にやって来たが、その時も何も話さなかった。
 ただ同じように行為があるだけ。

 彼女と二人の時も同じ、そこで行われる行為とそこから得られる悦楽は変わりはしない。
 変わるとしたら何が変わるのだろう。
 そして、僕は何を知る事になるのだろう。

 生活の中でも変わった事は無い。
 家で行う家事は勿論、仕事上の事においても、毎日、毎日、全く同じではないけれど、大幅に変わる事はない。
 彼女も、僕の見える範囲内ではそう。

 彼女と一緒に出かける、そういえば、それ自体初めてだ。
 新婚旅行にも行っていない。
 彼女が、どこかに出掛ける、という行為自体もあまり想像出来ない。
 出会ってから、結婚するまで、確かに、外で会っていたのだが、一緒に暮らすようになってしまうと、家に居る事の方は、より自然に見える。

 そうして、その日を向かえ、僕は、彼女を助手席に乗せて、車を走らせて、目的地へと向かった。
 都会を離れ、それなりのリゾートなのだろう、車が走れるように舗装はしっかりしているのだが、緑が多くなってくる。
 そんな中の一軒の家の前で止まり、車を降りた。
 先に、一台の車が止まっている。
 男性のものだろうか。
 そこの空いたスペースに、僕の車も止めるように彼女に言われて、そうする。

 玄関に辿り着いて、彼女は、一応、呼び鈴は鳴らしたものの、出迎えを待たずに、扉を開けて、その家の中に入っていこうとするので、僕も、そのまま彼女についてその家の中に入る。
 呼び鈴の音に気付いたのだろう、玄関から上がった先で、男性に迎えられたが。
 男性に促されて、一室に入る。
 敷かれた絨毯と、その上に、透明なガラスのテーブルが一つ。
 そして、少し大きめのソファが二つ。

 そこに、見知らぬ男性がいた。
 僕と彼女がやってきたのを見て、ひらひらと手を振り、『やあ、いらっしゃい。久し振りだね』と話しかけてきた。
 彼女は、だまったまま、軽く頭を下げると、その見知らぬ男性が座っていない、もう一つのソファに腰を下ろした。
 僕は、取り敢えず『こんにちは。始めまして』と挨拶した。
 『どうもどうも、始めまして。よろしくね』そうにこやかに、話しかけてくる。

 『どうしてこんな事になってるんだろうねぇ』
 『何がですの?』
 『俺は、君達二人を、ここに招待したつもりなんだが、なんで、こいつまで、ついてきてるんだ?』
 『まあまあ、いいじゃない。折角だしさ。あ、お茶入れてくるよ。紅茶でいいでしょ?』

 そう言って、その初めて会った男性は、一旦姿を消し、ソーサーの上にカップを乗せ、それを四つ運んできて、そこに紅茶を注いで、それぞれ四人の前に置く。

 『俺は、今日の事は、誰にも話してない。こいつがそれを知るはずが無いのだが』
 『話さなくとも、知れてしまう事だってあるでしょう?』
 『それはそうだが、今回はそうじゃないだろう』
 『どうして、そうお感じになりますの?』
 『思い当たる節があるからだ』
 『では、それで、よろしいじゃありませんの』
 『いい? 何がだ? 当の本人を目の前にしたら尚更、よくわかる』
 『おわかりになるのならそれで十分でしょう?』

 『やはり、お前なんだな。何故、こいつに知らせた?』
 『何故? 貴方だって、お一人ではお寂しいでしょうに。それに、実際、お連れになったのは、貴方でしょう?』
 『ああ、そうだ。だが……』
 『何か、ご不満でもあおりですの? この方だって、楽しそうにしていらっしゃるじゃありませんか』
 『楽しそう……そういう問題ではない。お前は、大体、こいつの事を、知っているだろう』
 『ある程度は、存じ上げているからですわ。それとも、何か、貴方がお困りになることがありますの?』
 『俺の問題ではないだろう……。お前が……』

 『(わたくし)が、そういう風に、気を使っていただく事、あまり好まない事、貴方だってご存知でしょう』
 『だがな、やはり……』
 『それに、この場を持とうとされたのは、貴方でしょう? 何をお話になりたいのかわかりませんけれど、(わたくし)、取り立てて困るような事はございませんのよ』

 男性と、彼女が、僕と、もう一人の男性をその会話から、おいてけぼりにして、話を進めている。
 僕には、会話らしい会話をしない彼女が、男性と、話をしているのが不思議だった。
 そこへ、もう一人の男性が、割って入る。

 『まあまあ、いいじゃない? 何の話があるのか知らないけどさ。取り敢えず、お楽しみはお楽しみでさ』
 『お前が楽しむような事は何もない』
 『こういう割と感覚的に普通で、純粋な子、ってのも、面白いよね、見てても。それでいて、彼女みたいな人間とやっていけてるんだから』
 『あの……僕、全く初対面だと思うんですが、貴方は?』
 『俺? うん。君とは初対面だよ。でも、こいつから、聞いてるんじゃないの? これ。魔除けのステディリング』

 そうして、その男性は、左手の薬指に嵌っている、指輪を俺に見せた。

 『あ、じゃあ、貴方が……』
 『うんうん。まあねえ。君に手を出すのも面白そうなんだけどね、こいつが知ってる現場で手を出そうとは思わないよね。俺もこいつに、君に手を出すな、って言われてて、それを敢て侵して嫌われたくないし、全然知らないところだったら、君も応じないだろうし、無理矢理するのは、俺のポリシーに反するからね』
 『はあ……』

 『でも、やっぱり興味あるね。君みたいな子が、こいつにどういう風にされてるのか。残念ながら、俺が、直接介入する機会(チャンス)はなさそうだけど、それでも、いつもと違った場所で、やってみるのも、楽しくない?』
 『お前の勝手な感覚で決めるな』
 『この子はどうかは別にして、お前だって、それなりに楽しめるだろう?』
 『だから、俺達の感覚で、話を進めるな』
 『君は、どう? その気に、ならない?』
 『僕は……彼女が、そういう気分にならなければ、無理です』

 『ふーん。彼女が、ね。どう? いつもと違う場所、っていうのも』
 男性が、彼女に尋ねている。
 『そうねえ。もう一杯、お紅茶、いただけるかしら?』
 『それで、交渉成立、かな』
 『ええ』

 『という訳で、彼女の了承は得られたし、いつもみたいに、してくれる?』
 彼女も、新しい紅茶を手にして『どうぞ、いつものように』と、男性と僕に行為を促した。
 少し逡巡していた僕に対して、もう一人の男性の方が『彼女の為、なんでしょ?』と言ってきた。
 そう、彼女の為、彼女の望み、そしてそれが、僕の望み。

 服を全て脱いでいき、いつもほどは、勃起していないけれど、それでも、その兆しを見せ始めている僕のペニス。
 『ああ、でも、いつものもの、今日は持ってきてないんじゃないの?』
 『あ……』
 そういえば、こんな事になるとは思っていなかったから、用意はしていない。
 『何?』
 コンドームとジェル』
 『ああ、そっか。俺が持ってるから、それ、使っていいよ』
 そうして、それらを手渡された。

 いつものように、男性のズボンのジッパーに歯を立て、下ろしていく。
 ペニスを口で咥えて、口淫を施していく。
 口腔内で男性のペニスが勃起してくるのを感じながら、ジェルを手にとって、アナルに指を這わせ挿入していく。
 ペニスを受け入れる事が出来るように、挿入する指の本数を増やして、アナルの入り口を解す。
 準備が整ってから、コンドームを男性のペニスに被せて体勢を変え、四つん這いの状態で、彼女の方を見る。

 もう一人の男性は、少し離れたところで、壁に寄りかかり、腕を組んでこちらを眺めている。
 それだけ見て、視線を彼女の方に戻す。
 男性のペニスが、僕のアナルに挿入されてくるのがわかる。
 抽挿を開始されて、犯される事に慣れた僕のアナルは、突き上げられて、感じている。
 そして、絡み合った、僕と彼女の視線。
 その彼女の笑みに煽られてより昂ぶっていく僕のペニス。
 彼女の瞳に僕が映し出され、その視線に全身が包まれるように犯されている。
 その感覚に僕は全てを支配され、射精をむかえた。

 彼女は、ティーカップを置き、立ち上がって、僕と男性の方へ近付いてくる。
 僕は、いつものように、彼女の爪先に唇を落した。
 彼女は、自分の唇を、軽く男性の唇と触れ合わせた。
 行為を終え、僕は、脱いでいた服を身に纏う。

 『んー。見てるのもいいけど、俺はやっぱりねぇ。実際に欲しくなるよね。というわけで、暫らく、時間頂戴ね』
 『ったく。話は後で、ゆっくりね』
 そう言って、男性達二人が、連れ立って、部屋を出て行った。

 彼女は、ここを知っているのだろうが、僕は、初めて来た部屋で、彼女と二人きりになった。
 僕は、更に、謎に満ちた空間に包まれている。
 その先に、何を見る事になるのだろうか。

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『白香桜乱-7-』

 仕事で何度か男性と顔を合わせたが、初日の声を掛けられ、少し話をしたけれど、それ以降は、全くそういった事は無かった。
 男性は、『いずれは』と言った。
 今はまだその時ではないのだろう。
 それを態々、僕から話を持ち出すような事もしなかった。

 仕事での企画の方も、順調に進んでいる。
 これが成功すれば、僕の会社にとってもそうだし、男性の会社にとってもかなりの利益に繋がるだろう。
 上手く両社が折り合いをつける必要もあったが、お互い、妥協せず、かなり厳しい意見交換もあった。

 僕と彼女の生活面において、これは特に変わった事はない。
 男性と会った事は話した。
 それを特に、気に留めていなかった彼女。
 何を話したか、それを話してはいないけれど、少し話をした事、それは知っている。
 それに対しても、彼女は、興味を示してくる事はなかった。

 男性は、彼女に対して、僕が彼女に持っているような感情ももっていないにせよ、彼女の事を大切に思っている。
 彼女にしても、僕に『知り合い』として、その行為の相手にと紹介し、その上、彼女が運用している株から得た資金を、男性が興したという会社に対して、資金面でバックアップしているという。
 彼女は、株で大きな儲けを得ていても、彼女自身、その金に対して執着はしないし、これと言った、株以外の買い物をしないし、僕は僕で、それなりに収入があって、彼女との生活において、困る事はないのだが、儲けの内のどれだけの割合かわからないが、その男性の会社に対して当てている。

 今回の仕事においての成功は、彼女にとっても、利益に繋がるのだろう。
 まあ、そこら辺は、あまり興味がなさそうだが。
 では、何に対して、彼女が興味を寄せるのか、これも不可思議な存在だ。
 食べる事に対しても、ほぼ興味が無い。
 食事は、僕と生活するようになって、僕が作らなければ食べる事はない。
 僕には、彼女がキッチンに立つ姿、というのも想像出来ないのだが。

 だが、全く立たないか、というとそうでもない。
 結婚前の事はわからないが(僕が思うには、それまではやってこなかったと感じる)、スコーンやクッキーは作る。
 始め、その事実を知った時驚いた。
 その彼女の手作りの、焼きたてのスコーンやクッキーをいつも通りの紅茶セットと共に、僕も味あわせてもらっている。

 紅茶自体は、僕も彼女も入れることが出来るが、二人でいる時は、ほぼ確実に僕が入れる。
 彼女の入れる紅茶が不味いからではなく、僕がそうしたいからだ。
 平日は、昼間、彼女は、圧倒的に一人で家にいるから、その時は、彼女は自分で入れている。

 彼女はそんな風に自分でお菓子なら作るのだ、と思っていたから、まさか、ケーキが苦手だとは思わなかった。

 あの特別な部屋で彼女が一人、過ごすとき、小さなテーブルの上には、彼女の焼いたクッキーが置かれている事は、よくあることだし、実際彼女は、それを口にしているのだろう。
 その事は、僕にとっても特別な部屋になる以前、ただ、掃除の為にその部屋に足を踏み入れていた時から知っていた事だ。

 僕と男性が仕事で出会ってから、それからも、特に変わった事はない。
 男性も、彼女に対して何も言わないし、彼女も、男性に対して、何も言わない。
 僕は僕で、彼女にも、男性にも、何も言わない。
 そこでは、ただ、その行為があるだけだ。
 行為による悦楽を得る為に、余計な言葉など必要ない。

 そして、僕と彼女、二人きりの時でも。
 休日の昼間から、僕は、その部屋で、彼女の視線に曝されて、ペニスを勃起させている。
 下半身の衣服を脱ぎ去り、僕は、床の上に、両足を広げて、座った。
 彼女から『どうぞ、お始めになって』という言葉を貰い、僕は、ペニスに触れる。
 少し、扱いただけで、僕の欲望は高まり、先走りの液が流れ始める。
 それでも、すぐに達してしまわないように、彼女との、この時間を少しでも長く共有出来るように、ペニスを扱きたてていく。
 けれど、扱く手を緩めたりはしない。
 ただ、射精へ導く為ではないけれど、少し痛いほど強く、扱きあげる。

 想像ではなく、実際に、白いワンピースを着た彼女が、ゆったりとロッキングチェアーに腰掛けているのが僕の目に入る。
 そうして、今の僕の姿を、微笑みながら見つめていてくれるのを、感じている。
 その視線に犯されて、僕は、もう限界が近付いていて、『もう……達きそうです……』と伝える。
 本当に射精感がそこまで来ているのだけれど、彼女の許可を得るまで、何とか堪えて、『ええ、どうぞ』とその言葉を聞いた瞬間、僕は射精していた。

 僕は、床に放った自らの精液を舌で舐めとり、脱いでいた、下着と服を身につけた。
 彼女は立ち上がって、僕の方に近付いてくる。
 手にしたクッキーを、僕の口元に運んできたので、僕は、そのクッキーを口に含んでいった。
 最後の一瞬、彼女の指先が、僕の唇に触れた。
 ただ、それだけで、僕のペニスは再び、熱を持ち始めていて。
 しかし、もう、その事に対して、興味を失った彼女を目の前にして、自慰を行ったとしても、僕には、それ程の快感を得られない。
 射精する為だけの、行為は、僕にとって意味がない。

 そんな僕が、どうして、彼女を手放せるというのだろう。
 日常も、行為も、僕自身が彼女の感覚に支配される事を望んでいるのに。

 彼女は、詩集を手に取り、再びロッキングチェアーに腰を掛け、独り言を呟くように、その詩を声に出して読んでいる。
 今は、僕の存在を気にしてはいないだろう。
 けれど、僕は、その彼女の澄んだ囁くような声に耳を傾けていた。
 感情を介さない彼女の淡々とした声で、奏でられる詩。
 僕にはそれが、だからこそ、儚く、より澄んで美しいと感じている。
 消えてしまいそうな程、澄明(ちょうめい)な声。

 時計が鳴って、彼女の声が止んだ。
 詩集を閉じて、彼女が、僕の方へ視線を向けた。
 『どうなさいましたの?』彼女にそう声を掛けられた。
 何故、彼女がそんな事、僕に問うたのか、始めわからなかったが、僕は、涙を流していたようだ。
 『いえ、べつに』どうして、涙が流れているのかわからず、そう答えた僕に対して、彼女は『本当に、おかしな人ね』そう言って、微笑んだ。

 夕食を作る前に、夕刊を取りにいったついでに、郵便ポストを覗くと、一通の手紙が入っていた。
 名前は、僕と彼女宛。
 そして、差出人は、その男性だった。
 僕は、取り敢えず、封は開けず、そのままにしておき、夕食が終わった後、彼女に手渡した。

 彼女を、封の上から一瞥し、その封を解いて、便箋に目をやっている。
 彼女の表情からは、何も読み取れなかった。
 それから、僕に、その便箋を手渡してきた。

 少し先だが、日付と住所が書かれている。
 ただそれだけ。
 知らない場所だった。
 ただ、わかるのは、少し離れた場所だという事だけ。

 彼女に、その場所を尋ねると、彼女は、知っていると答えた。

 『(わたくし)と貴方に、来て欲しいという事でしょう』
 彼女はそう言った。

 僕が、彼女に行くのかと尋ねると、僕が行くと言うのなら、と。
 僕は、彼女に、彼女が行っても良いのなら、と答えると、僅かだが、殆ど見た事のない、複雑な表情をして、『貴方がそれで良いと言うのなら、行きますわ』と言った。

 男性が、『いずれは』と言ってから、結構経っている。
 男性自ら、その時を作ろうとしているのだろうか。
 そして、その時が来たら、何か変化を迎えるのだろうか。

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『白香桜乱-6-』

 彼女と僕、二人で、その部屋にて僕が彼女の微笑んだ視線によって犯されながら、僕自身の勃起したペニスに手を這わせて扱きたて、射精を迎えるか、そうではなくて、彼女の知り合いの男性を交えて、僕が男性にアナルを犯されながら、同様に彼女の視線を受け、そこに快感を得て射精を迎えるか、それは、その時その時によって異なってくる。
 やはり、男性の都合もあるのだろう。

 そして、その日は、男性を交えて、行為が行われた。
 その部屋に入った時から、僕は、その先の行為を期待して、性的高揚を覚え、服を脱ぐ前から、どうしようもなくペニスを勃起させている。
 彼女の言葉によって促されて、僕は、全て衣服を脱いでいき、その欲望の証である勃起したペニスを彼女の前に(勿論、その男性にもだが)曝している。
男性のズボンのジッパーを歯で咥え、降ろしていき、そこから半ば勃起したペニスに舌を這わせる。
 それから、ペニスを口の中に含んでいき、口淫を施す。
 このペニスが、彼女の視線と共に、僕のアナルを犯してくれるのだと、そして、そんな僕を彼女は望んでくれているのだと、益々、期待に胸を膨らませて、と言うよりも、ペニスを、張り詰めさせていくのだが。

 口淫を施しながら、僕は、アナルにジェルを塗りこめて受け入れられるように慣らしていく。
 そのアナルは、今、調度、彼女の視線に晒されている事だろう。
 直接見る事が出来ないのが、残念だ。

 コンドームを男性のペニスに装着してから、身体の向きを変えて、今度は逆に、顔を彼女の方に向け、アナルを男性に曝す。
 そして、男性のペニスが僕のアナルに挿入されてくる。
抽挿され、僕の身体を、揺さぶるように突き上げてくるその感覚を受けながら、僕は、必死で、彼女と の視線を合わせようとする。

 男性にアナルを犯されながら、彼女の綺麗な笑みによって、僕の全身が、犯されている。
 彼女が、普段、綺麗だけれども、無表情だからこそ、その笑みは、より僕を興奮させるのだ。
 犯されながら、限界が近付いているのを彼女に訴え、その時は、直接は言葉はもらえないのだけれども、より穏やかになった笑みによって、直接的に得られるアナルを犯される快感と、彼女の視線から得られる間接的な、快感によって、僕は、射精した。

 射精を迎えて、彼女は、ロッキングチェアーから立ち上がり、僕と男性の方へ向かって歩み寄ってきて、それぞれが、それぞれの箇所に口付けた。
 僕は、床の上に放った、僕自身の精液を綺麗に舐めとる。

 一連の行為を終えると、いつものように、彼女と男性が挨拶を交わし、男性は、去っていく。
 再び、彼女と僕、二人に戻った家で、これから、夕食時になるので、彼女は、自室に戻り、僕は、キッチンへ向かい、食事の用意をする。

 僕は、彼女から、男性の事について、知る必要がないと言われているし、僕も取り立てて知りたいとも思わないので、そのまま、ずっと知らずにいくのだろうと思っていた。
 彼女の希薄な人間関係の中で、どうやったら知り合いが出来るのかわからなかったし、男性が、僕と彼女の家に来る以外で、出会う可能性は、無いだろうと、どこかで思っていた。

 だが僕は、仕事の関係上で男性と顔を合わせる事となった。
 人と人との出会いの偶然性と必然性の境界線がどこにあるのかわからない。
 始めと言うのは、いつも偶然なのかもしれない。
 その偶然の出会いの中で、それで終わってしまったり、出会った事さえ気に留めなかったりする事もあれば、そこから、何らかの関係を結ぶ事もある。
 まあ、僕と男性とが、初めて出会ったのは、彼女の紹介であり、偶然ではないのだろうけれども。

 仕事のある企画で、他社との提携を組む事となった。
 それ程、相手は、大きな会社ではないが、企画としては、ある程度の規模でもあり、僕が、責任者、という訳ではないが、今後の僕が社で責任を負っていく上で、必要な経験だろうという事で、僕にもある程度の事が任されていた。
 主たる業務は、僕の会社の方にあり、それに相手の会社が参画する、という形だ。
 その時、相手の会社からやってきたのが、社長であり、代表取締役の人間と、数人のそれに関わるのだろう人間だった。
 その社長、というのが、その男性だった。

 顔を合わせた時、僕も気付いたけれど、男性も気付いたのだろう。
 だが、まあ、仕事という事ともあり、別段、表情を変えるのではなく、冷静に、仕事の話をしていた。
僕も、それが、出来ていたと思う。
 企画に関する、話し合いの中でも、それぞれ、意見が出たが、両社、ある程度、納得のいったところで、一段落つき、その日は、それで終わりとなった。

 その話し合いが、お開きになってから、僕は、男性に声を掛けられた。
 その日、僕が抱えてた仕事も、その企画の事だけだったし、断る事も出来ただろうが、特に知りたいとは思っていなかったが、こういう風に会った事で、多少は興味が湧いたのだろう、会社の近くのカフェに行った。

 そして、それぞれ、飲み物を頼んだ。
 男性から、『君は、俺の事、彼女から、何て聞いてるの?』と尋ねられた。
 『知り合いだと。特に知る必要はないと』僕は、彼女に言われている事を、そのまま男性に返答した。
 『そう。それで、君自身も、俺の事、特に気にしない、と』
 『まあ、そうですね』
 『ふーん。まあ、いいけどね』

 そう言った、男性の手元が見えた。
 左手の薬指に、指輪をしている。

 『あの……ご結婚されてるんですか?』

 年齢的に見ても、僕よりも、上なのはわかるし、まあ、一概に年齢だけで、結婚の有無を言えるわけではないのだが、特におかしくはないだろう。

 『何? 何で?』
 『いえ、指輪、されているので』

 男性は、その指輪を見て、僕に答えてきた。
 『これ? この指輪は、まあ、一種の魔除け、かな。一応は、ペアなんだけどね。結婚してる訳じゃないよ。君、始め、彼女が言った事、覚えてない? 俺が、ゲイだって』
 『え……ああ、そう言えば。でも、魔除け、って、何でですか?』
 『変に、女性が寄って来ないように、とか、あまり、結婚に関して触れられないように、とかね。』
 『はあ。あ、でも、ペアリング、なんですよね?』
 『一応、ね。まあ、だから、同じのを、持っている相手はいるんだけどね。勿論、男だよ。俺にしても、相手にしても、お互い、ある程度の付き合いはあるにしても、セックスフレンド的な付き合いだからね。相手にとっても、魔除け、だね。俺が、君に手を出しても、どうこう言う相手でもないし、相手にとっても、そう。それでも、別に、お互い、あちこち手を出してるわけじゃないから、病気に関して心配する事はないよ。彼女も、そこら辺の事情、わかってるからね。だからでしょ、俺に話し持ちかけたのだって』

 『僕よりも、彼女との付き合い、長いですよね。僕は、貴方が、彼女の事、好きなんだと思ってました』
 『付き合い……は、まあ、ともかくとして、知り合ってからは長いよ。彼女の事、好きか、嫌いか、と問われれば、好きなんだろうけどね。言ったように、俺は、ゲイだし、まあ、それ以前にも、問題はあるんだけど、彼女がそういう対象にはなったりしないよ。君に対してもそう。君が好きなのは、彼女なんだし、君自体を俺が、どうこうしようとする気はないよ』
 『まあ、そうですね。貴方が介入してきても、僕が好きなのは、彼女に変わりありませんし』

 『君が、どこまで彼女の事をそう思っていられるかは、謎だけどね。彼女にとっては、絶対に君が必要かって言うとそうではないと思うけど、かなり大きな位置にいると思うね』
 『彼女にとって、僕が? 僕にとって、彼女が今はもう、手放せないくらい大切な存在だと思ってましたけど』
 『……そういう君の存在は心強いよ。彼女と君とは、全く違うけど、俺には、何となく、運命的に感じるね。誕生日、一緒なんだろう? ある種、桜ん坊、みたいだね』
 『そう、ですか。でも、僕にはよくわからないですけれど、貴方にも、ペアリングを持つ相手がいらっしゃるんでしょう?』
 『それはねえ。俺が、君に手を出してる事、知らないけど、もし知ったら、きっと、面白がって、君に手を出しそうな奴だからね。まあ、そんな事はさせないけどね。それは、彼女が望む範囲じゃないから』

 『彼女が……ですか。貴方にとっても、どういう意味かわからないけれど、彼女は、大切なんですね』
 『まあ、色々な面でね。俺の会社にしても、彼女の資金も結構しめてるしね』
 『あ、そうなんですか』
 『君も、彼女の大方の事を知っているんだろうけど、それでも、君が知らなくて、俺が知ってる事もあると思うけど、まあ、これに関しては、彼女の承諾なくして話したくはないしね。いずれは……という気はするんだけど、今はその時じゃないと思うし』
 『いずれは、ですか』
 『何となくそんな気がね。まあ、取り敢えずは、仕事の方、よろしく』
 『あ、こちらこそおよろしくお願いします』

 そうして、男性と別れた。
 家で、仕事の話などしないけれど、彼女に、男性と顔を合わせたことを話した。
 彼女は、ただ『あら、そう』とだけ言っていたが。

 男性は、僕がどこまで彼女の事を思い続けられるか、謎だと言った。
 それが、僕にとっては謎だった。

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『白香桜乱-5-』

 彼女に、自慰行為を見つけられて、彼女の目の前で、自らのペニスを扱きたてて、そうして、精神的に、より興奮し、単なる自慰行為ではなく、得られる快感を知った。
 そして、彼女から、これからは、僕一人で勝手にしないように、と言われた。
 性的興奮を覚え、ペニスが勃起しても、物理的に、自慰行為を禁止されているわけではないから、彼女のいないところで、自慰行為を行う事も可能だったけれど、それでは、僕は多分満たされないから、そうしなかった。
 また、彼女の許可を得ずに、それを、彼女に見つけてもらえるように自慰行為を行って、誓約を守らなかった、罰として、彼女から、何らかのいさめを受けるのも、僕の心をくすぐらないでもなかったが、そうはしなかった。

 やはり、実際に、彼女が僕の目の前にいて、その視線にさらされて行うのが、良いから。
 だから、その時の為に、どうしようもなくペニスが勃起しても、我慢して、待ちわびた。
 彼女が、その事に対して、関心のない時に、行っても意味がない。
 それが、どういう時なのかわからないけれど、僕がいて、僕のそういった性的欲望に対して、興味を示し、それを微笑んで見続けてくれる時でなければ。

 初めての時は、見つかったのが、寝室だった事もあり、そこで、そのまま行ったが、その後は、ある洋室の一室で、ほぼ行われている。
 大した物はないのだけれど、彼女は、昼間など、自室にいるとき以外は、結構その部屋にいることが多いらしい。
 小さな書棚と、ソファ、ちょっとした物が置ける、丸いテーブル、それから、ロッキングチェアー。
 ソファかロッキングチェアーに腰掛けて、ただ、何もしないでいることもあれば、彼女が好きだという、ボードレールの詩集を読んでいる事もある。
 家自体がプライベートな空間だが、その部屋は、彼女にとって、その中でも、特別なときを過ごしている。

 僕は、そういう時以外、僕一人で、その部屋に入ることは殆どないのだが、いや、だから、僕にとっても、ある意味特別な部屋になった。
 僕が行為を行う時は、彼女は、ほぼロッキングチェアーに腰掛けている。
 僕のほうはと言うと、その時によって、直にフローリングの床だったり、ソファの上だったりする。
 今日は、ソファの上で、行うように言われた。
 僕は、下着の中で、既に半ばペニスを勃起させており、下肢に纏っている衣服を脱いでいく。
 全て脱ぎ終えて、ソファに背を預け、膝を立てて両足を開き、その頃には、ペニスは完全に勃起していた。

 そのまま少し間をおいて、彼女が、その先の行為を促すのを待ってから、ペニスに手を伸ばしていく。
 彼女の視線を意識しながら、ペニスを扱く。
 射精へと導くように、それでも、その瞬間が、すぐに訪れてしまわないように、かといって、動かす手の速さを緩める事はない。
 やがて、限界が近付いてきて、彼女に、その事を訴え、彼女の許可を得て、射精した。

 解放の余韻に浸りながら、僕は、床に飛び散った自らの精液を舌で舐め取った。
 そうして、彼女を見上げると、彼女は微笑んでくれている。
 再び、股間が熱を持ちそうになるのを、抑えながら、僕は、脱いだ、衣服を身に着けた。
 机の上においてある、ティーカップが空になっているのを見て、僕は、彼女に、まだ飲むかどうか尋ねると、折角だから、と、僕にもう一つカップとソーサーを言い、僕は、隣に置かれている、ティーポットを持って、台所に向かった。
 新しく、紅茶を入れ、再び、部屋に向かう。
 彼女のティーカップに注いでから、僕の方にも同じように注ぎ、それを口にした。
 純白色のセラミック製のセットで、僕達の結婚祝いに貰った品だ。

 そういえば、と思い出した。
 彼女は、興味なさそうだが、来月は、彼女の誕生日を迎える。
 何かを贈っても(例えば、アクセサリーや花束、ケーキ)、彼女は喜ばないだろうし、下手をすると、どちらかというと、不快にさせてしまうような気がした。
 それに、恐らく、今まで彼女に誕生日に良い思い出はないだろう。
 それが、一つの『記念日』という事さえなかったかもしれない。
 このまま無いものとして、過ごしていくか、結婚して1年目からそうしてしまえば、そのまま通り過ぎていくだろう。
 けれど、やはり、そうしたくなかった。

 ほぼ全てを望まない彼女に、僕が、なにか出来る事はあるのだろうか。
 取り敢えず、その話題を彼女にしてみた。
 彼女は、案の定、と言うか、誕生日の事など、全く気にしていなかった。
 それでも彼女は『嬉しいわ。気にしてくださって』と言ってくれた。
 ほんの些細な事でもいい、僕が彼女に何か出来る事はないだろうか、と尋ねてみた。
 彼女は、暫らく考えて(考えてくれた事も嬉しかった)、『そうすると、貴方の誕生日もすぐなのね』と言った。
 そういえばそうだ。
 彼女の誕生日、イコール僕の誕生日なのだ。
 彼女の事に気をとられていて、僕自身の事を失念していた。

 『そうね。些細……かどうかわかりませんし、当日、と言うのも難しいかもしれませんけれど、貴方もお気に召してくださると嬉しいわ』と彼女は言った。
 それが、どういうものなのかわからなくて、尋ねてみたけれど、彼女は詳しくは答えてくれなくて、彼女自身が支度をするから、と言われた。
 その事が、彼女の望みで、僕に出来る事なのか、と尋ねると、『そうですわね』と答えが返ってきた。

 それから、僕には何か無いのか、と尋ねられて、彼女があまり好まない事はいやだし、僕自身にしても、今年は欲しいものも思いつかなかった。
 彼女と一緒の時間を過ごせればいいし、定番だけれど、一緒にケーキを食べられれば、とそう言ったのだけれど、彼女から『ごめんなさい。わたくし、ケーキ、苦手なの。他のものに出来ないかしら』と、そう言われて、再び考え直し、ケーキのようなもののどこからどこまでが駄目なのかわからなかったが、これは、たまに、彼女が食べているから大丈夫であろう、スコーンを、という事になった。

 当日は、そうして、紅茶をいれ、スコーンを一緒に食べた。
 それから、その週の日曜日、初めて、彼女の知り合いだという男性と、会う事とになる。
 彼女からは、ただ、その日に、知人がやってくるから、という事だけを伝えられていた。
 彼女は、男性を家の中に迎入れた。
 僕も、彼女と共に、その見知らぬ男性を迎える。
 男性は、小さな、紙製の箱を手にしていた。
 それを、彼女に『誕生日だったんでしょう? 美味しいって評判のケーキだから』と言って、手渡していた。
 彼女は、それを受け取りながら『これは、わたくしへの嫌がらせですの?』と言っていたが。
 男性は、その彼女の問いには答えず、僕に、ケーキは苦手ではないか、尋ねてきた。
 僕は、好きな方なので、その旨を伝えると、2個しか入っていないし、僕が2つとも食べていいよ、と言ってきた。
 彼女も、『そうしてくださると嬉しいわ』と。
 もし僕が、苦手だったら、どうするのだろう。
 その事を聞くと、そうしたら、その男性が、自分で持って帰って食べる、と言っていた。

 ケーキの入った紙箱を冷蔵庫にしまい、例の部屋へ、おもむいた。
 彼女が、先に部屋に入り、ロッキングチェアーに腰を掛ける。
 入り口にいる、僕と男性に向かって『お入りになって』と声を掛けた。
 僕と男性は、促されて部屋の中に入る。
 男性は、彼女に向かって『大丈夫なのか?』と尋ねていた。
 それに対して、彼女は、『ええ。私では、出来ませんもの』と答えた。
 何が、なのだろうか。
 男性は、それを知っていて、彼女に尋ねたのだろう。
 そして、彼女の望みであり、僕に出来る事なのだ。

 僕に向かって彼女は、『今日は、全て、お脱ぎになって』と伝えた。
 男性は『俺は?』と彼女に尋ねていたけれど、彼女は『貴方は結構ですわ。』と答えた。
 それから、彼女は、僕に、後は男性の言葉に従うようにと。

 僕は、取り敢えず彼女の言葉に従って、身につけている衣服を、下着を、全て脱いでいく。
 何が始まるのかわからなかったけれど、僕のペニスは、勃起し始めていた。
 男性が、僕の後ろから、そのペニスに手を触れ、『うん。全然駄目、っていうわけではなさそうだね』と言っていた。
 そうして、数回、男性の手によって、ペニスが扱かれた。
 彼女の方に目をやると、彼女は、微笑みながら見つめていた。
 男性からの刺激か、やはり彼女の笑みからだろうか、ペニスは硬くなっていく。

 男性が、僕が今まで特に気にして触れた事のない、乳首に手を這わせ、その小さな突起を摘んだり、してくる。
 『どう? 感じる?』そう男性に尋ねられて、僕はありのままに『…ん……よくわかりませんけど、なんだか変な感じです』と伝えた。
 『んー。感度は悪くなさそうだね。ここも、きちんと感じられるようになるよ。』そう言われた。
 そのまま、暫らく、両方の乳首をいじられた。
 僕は、ペニスに触れたくなって、手を伸ばしたが、彼女に『駄目よ。今日は、まだ、触っては』と止められた。

 男性は、乳首から手を離すと、ソファに座り、僕をそちらに向かせた。
 そして、ジッパーを外し、その男性のペニスを咥えるように、僕に言ってきた。
 『抵抗あるかもしれないけどね、彼女の望みだと思ってやってごらん。どこら辺が感じるかは、わかるでしょう?』
 そう、彼女の望み。
 男性のジッパーに手をかけ、それを下ろしていき、半ば勃起している、ペニスを口で咥えた。
 男性に促されて、舌と唇で、ペニスを刺激していく。
 口の中で、ペニスが硬くなっていくのがわかる。
 『ふふふ。これでね、君のアナルを犯してあげるの。』

 そう言った、男性の言葉の内容が理解できなかったわけじゃない。
 実体験したことはないけれど、肛門性交を知らないわけではないから。
 けれど、それが、僕に……?
 男性が、彼女に尋ねていた。
 『どういう体位が良い?』と。
 『さあ。彼が、私の方を見られるようにしてくだされば』彼女はそう答えた。
 『んんー。後背位が良いのかな。では、彼女の方を向いて、四つん這いになって』
 僕は、言われた通りに、彼女の方に頭を向けて、四つん這いの体勢をとった。
 『ああ、それからこれ。今日は、俺がやってあげるけど、これ、君にあげるから、今度からは、君が自分でやってね。』
 ジェルを取り出し、男性は、それを指に付けて、僕のアナルに挿入してきた。
 潤滑剤によって、違和感はあるものの、スムースに入ってくる。
 挿入された指が、アナルの入り口を解し、内壁を探ってくる。
 内壁のある箇所を刺激された時、快感が走ったのがわかった。
 『……ん……』思わず、声が漏れる。
 それは男性にもわかったようで、そこを刺激しながら、更に指を挿入してくる。
 そのまま、ゆっくりと慣らされてから『もうそろそろ大丈夫かな』と男性が言って、指が抜かれていく。

 男性が自分のペニスにコンドームを装着し、再びジェルを塗りこめて、僕のアナルに挿入してくる。
 『入っていくの、わかるよね。ああ、息を詰めちゃ駄目だよ。苦しいだけだから。』
 僕は、彼女の方を伺って、その姿を、表情を見ながら、大きく息を吐く。
 その瞬間、男性のペニスが、より深く挿入されたのがわかった。
 『うん。いい子だね。ペニスも萎えてないみたいだし』
 そうして、男性は確かめるように僕のペニスに触れてきた。
 触れるだけでなく、扱いて欲しかったが、そのまま手が離れていく。
 男性は、ペニスを抽挿し始めた。
 その引きずり出されるような感覚と、飲み込まされる感覚。
 その不思議な感覚の中で、僕は、確かに快感を得ていた。
 アナルを犯されて、感じている、僕。

 未知の快感に戸惑いながら、僕は、彼女に視線を合わせようとする。
 彼女の綺麗な微笑と、僕の視線が絡み合った。
 彼女は、視線を外さないし、僕も、それを捕らえ続けようとする。
 こんな風にされながら、快感を得ている、僕を彼女が見つめている。
 そして、そこに、より興奮を覚える僕。

 達しそうで達しそうでたまらない。
 でも、中々、そこまで辿り着かない。
 『達けそうかな?』そう男性に尋ねられた。
 『ん……わかりま……せん……』
 『んー。まだ無理そうかな? どうする?』男性は、彼女にそう問いかけ、彼女は『仕方がないですわ。触れても構いませんわよ』と僕に言った。
 僕は、自分のペニスに触れ、扱いていく。
 彼女は男性に『でも、貴方が先に達してはいけませんわよ。彼に、犯されながら達する感覚を味わっていただきたいもの。』そう言っていた。
 男性は、抽挿を続け、僕は、彼女に見つめられながら、ペニスを扱き、その複雑に入り混じった快感の中で、射精していた。

 男性も、僕が射精したのがわかって、自らも精を放った。
 そんな僕と男性を見届けて、彼女が、立ち上がり、近付いてくる。
 そうして、彼女は、僕の顎に指をかけ、上を向かせる。
 『いかかでした? 少しはお気に召していただけたかしら。』そう、僕に感想を求めた。
 犯されて、感じて、射精して、それをずっと見られていて、嘘をつく事など出来ない。
 『はい。とても。』
 『良かったですわ。わたくしも、楽しませていただきましたわ。』
 その言葉も、やはりとても嬉しかった。

 僕は、感謝の印として、誓約の時と同じように、彼女の爪先に口付けた。
 『俺に、謝礼は?』
 『謝礼? 何に対して? 貴方も、楽しんでいただけたでしょう?』
 『それとは別に。』
 『何をお望みですの?』
 『君の口付けを。』
 『わたくしの? おかしな人ね。ご自身で、ゲイだと仰られているのに』
 それでも、彼女は、男性の望みどおり、軽く唇を触れ合わせた。

 『では。失礼して』
 『ええ』

 男性が、去っていき、彼女と二人きりになる。
 そして、日常の時間が再び回り始めた。

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『白香桜乱-4-』

 新しい家で新生活を僕と彼女は向かえる。
 それなりの必需品、家具などは、彼女の実家から、見てわかるのだが、値の張るものが用意されていた。
 衣服や、日用雑貨に関しては、それぞれが持ち込んだが。

 一応は、新婚初夜、な訳だが、その時、彼女からはっきりと言われた。
 僕の事は好きだけれど、子供を作る気はないし、その為でも、その為でなくても、性的交渉を持つ気は無いと。
 それが不満なら、他の女性を探せばいいし、そっちの方が良ければ、今からでも、そっちを選べばいいと。

 子供に関しては、僕自身、それ程積極的に欲しいとは思わなかったし、彼女が望まないのに、彼女との間に、性的交渉を、そう、直接的な性的交渉を強いる気はなかった。
 それでも、彼女が好きだし、彼女は、僕が、誰か他の女性と、性的交渉を持つ事になっても、気にしないのだろう。
 しかし、僕は、それだけの為に、他の女性を探す気にはならなかったし、おおよそは、わかっていて、僕は彼女を選んだのだ。

 僕が、彼女に対して、性的欲求を起こさなかったか、と言うとそうではない。
 彼女を、実際に抱く日は来ないのだろうけれど、僕にとっては、彼女は、それでも十分魅力的だったし、性的衝動として、ペニスが勃起するのを抑える事は出来なかった。

 初めて会ってから、生活を始めても、彼女はやはり殆ど無表情だったし、それでも、ほんの時折向けられる微笑が、僕を魅了していた。
 彼女の裸体を知らないわけではないが、僕は、彼女のショーケースに入っている、白いワンピース姿の方が、好きだったし、その姿を、脳裏のうりに浮かべながら、自慰行為にふけっていた。

 一緒に生活していて、もし彼女が、こんな僕の姿を見たらどう思うだろう。
 絶対的とは言えないけれど、ほぼかなりの確率で、見つからないように行為を行うのは可能だったが、僕はそうしなかった。
 彼女に見つけられる日を、どこかで望んでいたのだろう。
 彼女は、浅ましいとののしるだろうか、不潔だとののしるだろうか、さげすむような目で僕を見るだろうか。
 それはそれでいいような気がしたが、彼女は、そうしないだろうと僕は思っていた。

 そして、実際、彼女に見つかった。
 夜に寝室で、僕と彼女のベッドは、少し間を置いて、個別におかれているのだが、彼女が入浴している最中に、僕は、自慰行為に及ぼうとしていた。
 その途中で、彼女が、部屋へやってきた。もう、寝る、と言うこともあって、彼女は、白いレースのネグリジェを身にまとっていた。

 彼女は、いつもと別段表情を変える事なく、自らのベッドに腰を下ろし、僕のほうを見ている。
 僕の、射精は、いつになく、早かった気がする。
 そして、一度射精して再び、ペニスが勃起してくるのがわかった。
 彼女に……見られている。
 そんな僕を見て、彼女は『ふふふ。面白いものね。男性の性器というのも。見ていて差し上げるから、そのまま続けてくださらない?』そう言って、微笑み、僕は、彼女の言葉に促されるまま、ペニスに手を這わせた。

 一度、射精しているけれども、彼女の視線にさらされて、僕は、さっきよりも興奮していると感じていた。
 『ねえ、もう少し、足を広げてくださらない? その方が、よく見えるでしょう』そういった彼女に対して、僕は、彼女の方を向いて、両足を広げ、下肢を露にして、ペニスを扱きたてていく。
 『……ん…達く……』
 『あら、駄目よ。もう終わりなの? つまらないわ。もう少し、楽しみたいでしょう?』
 僕は、達してしまいそうになりながら、射精を必死でこらえ、手を動かし続ける。
 ペニスの先端から、先走りが溢れ、その液体が僕が、ペニスを扱く手を潤滑じゅんかつにしていく。
 彼女は、ただ、見守っているだけだし、粘液が絡まり扱く時の僅かな音と、僕の、早まった呼吸の音が、その静寂の中を支配していた。

 放ってしまわないように我慢しながら、それでも、射精を追い立てるように手を動かし続け、やがて、込み上げている射精感に堪える事が出来ず、それまでの自慰行為の内で感じた事の無い、快感の中で吐精していた。

 『今まで、一人でしてたのね。でも、これからは、私の前でなさい。勝手に、一人でしては、駄目よ。』
 本来なら、一人で性的欲求を収める為に、行う行為だが、その時から、僕にとって、そうではなくなった。
 例え、彼女と交わる事がなくても、彼女の目の前で行う事によって、得られる快楽を知ってしまったから。

 そして……。

 『口付けてもいいですか?』
 そう伺った僕に対して、彼女は、僕の目を見て『ええ。』と返答した。
 僕は、彼女に歩み寄って、長い黒髪の毛先に唇を押し当て、入浴時に、洗ったのであろう、リンスの香りを嗅いだ。
 それから、彼女の足元にひざまずき、爪先に口付けた。
 それが、僕と彼女の、一つの関係の始まり。
 その為の、誓約せいやく
 僕が、彼女の唇に触れなかったのは、その方が、相応ふさわしいと思ったから。

 日常的に、大きく変わったことはない。
 結婚して、実家を出たけれど、仕事自体が変わるわけではない。
 籍としては、彼女が、僕の籍に入った事になっている。
 家事は……基本的に、それまで、僕も彼女もしてこなかった。
 けれど、彼女の為に、料理をする事を覚えた。
 朝食と夕食はそう。
 僕がいない、昼間、彼女はどうしているか。
 きっと何も食べていないと思う。
 僕が、どうしても仕事で遅くなって、食事を作れない時も。

 洗濯機は、割と好きみたいだ。
 クリーニングに出すものが多いのだが、家で洗えるもの、下着や、僕の普段着、タオル。
 全自動式の洗濯機だから、洗いや濯ぎは全部やってくれるのだが、それ以外は、彼女がやっている。
 それらは、いつも、綺麗に折り畳まれて、箪笥たんすの中にしまわれている。

 彼女は、『退屈しのぎ』にやっている、と言った株だが、かなり本格的にやっているみたいだ。
 元手が、実家から与えられた資金だからなのだろう。
 そう言ってのけるのは。
 僕と結婚してから、僕の会社の株式を購入しているし、その他、もう一つ、割と安定している、僕も知っている会社の株式も持っているようだが、その他の物は、僕には詳しくはわからないが、所謂いわゆる、ハイリスク・ハイリターンなものだ。
 具体的にどれくらいかは知らないが、それで、かなり収益を上げているから、その才能があったのだろう。
 それでも、彼女は、大きな損をしても、対して気にも留めないのだろうと思う。

 僕は、結婚するに当たって、彼女の大方の事は知っている。
 それが、彼女を形作っているのだし、僕は、そんな彼女に同情したのではなく、会っている内に、知っていく内に、ああ、だからそうなのだ、と何となく納得いく部分があった。
 奥深くまで彼女の心情はわからないが、それでも、彼女が興味を持ったのは、他の誰でもなく、僕なのであり、その彼女の持てる興味や、好意の範囲内で、僕は、彼女の傍にいられたら良いと思っている。

 彼女の、人間関係の希薄さもそうなのだろう。
 どれくらいの人間が、彼女とどんな関係にしろ親しくしているのだろう。
 恐らく、片手の指で足りてしまうのではないだろうか。


 そんな彼女に、惹かれて、僕は深みに嵌っていくのだが。
 だが僕は、この事に関して、後悔はしない。
 それは、僕自身も望んでいる事だから。

 今はまだ知らない。
 ただ、彼女の微笑みに包まれて、自らのペニスに手を這わせる。
 果たしてこれを、単なる自慰行為、と呼ぶのだろうか。

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『白香桜乱-3-』

 僕が、彼女に出会ったのは、ほぼ、仕組まれたお見合いだった。

 僕の家は、祖父の代に会社を立ち上げ、父が更に手を広げて、大きくした、今は、世間では、そこそこ名の知れたグループ企業である。
 ゆくゆくは兄が、跡を継ぐのだろう。
 次男である僕にも、それなりの責務は与えられており、同期として入社した人間よりも、その名前もある所為か、上司から、同じように扱っているのだろうけれど、どこか違う部分があった。
 跡を継がない、僕でさえそうなのだから、兄の時はもっと違ったのだろうと思う。

 兄の結婚は早かった。
 大学を出てすぐ、大学時代から付き合っていた彼女と結婚して、間もなく、子供が生まれた。
 両親が、賛成するも、反対するもなかった。
 その頃には、もう既に、兄の子が、彼女のお腹の中にいたのだから。

 彼女の家は、古くからの伝統のある、茶道の名家で、彼女自身の両親は、いないのだが、親代わりとして、育ててきた、彼女の実母の弟であり、現在の家元でもある。
 僕の父と、彼女の育ての父親がどうやって知り合ったかは知らないが、兄が勝手に結婚を早々と決めてしまったからか、『家柄』が欲しかったのか、彼女の方の家としても、彼女をどうにかしたかったからか、とあるパーティーで紹介された。

 今は、ワンピースを好んで着る彼女だが、その時は、着物を着ていた。
 その姿はその姿で、とても似合っていたと思う。
 紹介された時、挨拶が遅れて、見惚れるくらい、綺麗だったが、彼女は、僅かにも、表情を崩さず、僕があわてて挨拶をした時も、ただ無言で、興味なさげにしていた。
 何も言わない、彼女の代わりに、彼女の父親代わりの男性が、何かを話していたが、僕の耳には、あまり届いていなかったし、彼女も、その事を、気にとめる事は全くなかった。

 僕も僕で、あまり気の利いた事は話せていなかったと思う。
 彼女に何かを話し掛けても、何一つ返事は返って来なかったし、親代わりの男性が、何か話すようにうながしても、『いいえ。何も』と、ただ一言だけ発しただけだった。
 男性の方が、必死だったのではないだろうか。
 僕の事をさして『彼は、中々、優秀な人物でね』と色々、彼女に対して、僕が気恥ずかしくなるぐらいの事を説明していた。
 僕は、もしそんな事を僕自身の親の口から発せられていたら、確実に、途中で止めさせていただろう。
 会って、間もない男性だったから、それをどうやったら、角が立たないように止められるかどうかわからなかったし、そんな話をしても、彼女の方は、全くやはり、僕の方に興味を寄せる事はなかった。

 その男性に対して、やはり、他人から聞いても大げさに取れるのではないかと思われる説明も、きれる事もなく、本当にずっと無表情でいた。
 僕は、彼女に興味を持っても、仕方がないんだろうな、と思いつつも、本当に何一つ表情を変えない彼女にも、興味を持った。

 その後半ば無理矢理、それぞれの親に連れられて、そのホテルにある、レストランに行く事になったが、彼女は、それも別に気に止める事もなく、付いて来た。
 『そういえば、私はあまり詳しくないが、お前は、株をやっているんだろう? 彼の会社は、この不景気でも、中々好調らしいじゃないか』そう言った男性に対して、彼女は『ただの退屈しのぎですわ』と遮断した。
 男性も、彼女のその態度に慣れているのだろうし、それ以上は、男性が、彼女に何を言っても無駄だろう、親達は去り、僕と彼女、二人が、その場に残された。

 二人っきりになってしまえば、彼女は、依然、自ら何も話そうとしないし、僕も僕で、今まで付き合ってきた相手としたような話を彼女にしても、無駄だろうな、と思って、そのまま沈黙が流れた。
 どれくらいそうしていただろう。
 食事のための食器は全て既に下げられており、お茶の入った湯飲みだけが、テーブルの上にある。
 それを、時折、口にするだけ。

 『あの……こうしていても、つまらないでしょう? もう出ませんか?』そう提案した僕に対して、彼女は『私は別に構いませんわ。お先に、帰っていただいて、結構ですわよ』そう返答してきた。
 『はあ、でも、女性を一人残して帰るのは……。』やはり気が引けるのではないだろうか。
 『そのような事、気にしてくださらなくっても、構いませんのよ。ここから、家に帰るくらい、私、一人でも出来ますもの』
 『いえ、そうではなくて、ここにこのままいても、退屈ではないのかと。』
 『何故?』
 『何故……と言われても……』僕の方も困ってしまって、それでも、席を立つ事が出来なくって、再び、無言の時が過ぎる。

 うーん、こういうのって、気不味きまずくないんだろうか。
 初対面で、二人きりにさせられて、まるっきり無関心で、『かたわららに人なきがごとし』なのだろうか。
 僕が、ここにいてもいなくても、同じなのかもしれない。
 きっとそうなんだろうな。
 それなのに、ここにまだいる僕って何なんだろう。
 高飛車たかびしゃにものを言っているわけではないんだけど、相手を突き放しているような感じがする。
 そうすると、普通、相手は去っていくだろうな。

 彼女にとって、こういう事態は、初めてではないのではないだろうか。
 『失礼ですが、こういう風に男性と会わせられるのって、何度か、経験があるのですか?』
 『そうですわね。はっきりとは覚えていないけれど、3回くらいあったんじゃないかしら。』
 『いつもこんな感じなんですか?』
 『その時の相手によるけれども、私が何も話さないから、大概は、先に帰っていきますわ』
 『まあ、何となくわかります』
 『おわかりになるのに、お帰りにならないの?』
 『僕も、急いで帰る必要はないですから。』
 『あら、そう。』

 彼女は、どうもいい相手と、どうでもいい時間を、こうやって過ごしていて、何を感じているんだろうか。
 そんな彼女に対して、僕は何を感じているんだろうか。

 その時、僕は彼女に対して、何を言ったのか、忘れてしまったのだけれど、ふと、疑問に思ったことを口にしていた。
 そうしたら、彼女は、それまで、ずっと表情を変えなかったのに、ふっと微笑んだ。
 『面白い事仰られるのね』
 僕にとって、それはとても印象的だった。
 その一瞬の笑みが、頭に焼きついた。

 『あら……もう、こんな時間ね。そろそろお帰りになりませんこと?』
 『あ……そうですね。あの、またお会いできますか?』
 『わたくしと? 貴方あなたがお構いになりませんのでしたら。』

 そうして、彼女とその日は別れて帰った。
 家に帰って、一応親に、彼女と、再び会う旨を伝えたら、少し驚いていた。

 それから何度か会って、大して何か話をする訳ではないのだけれど、漠然とだけれども付き合っていき、彼女との生活をスタートさせる事になる。
 そして、色々、僕が知らなかった、新たな世界を知る事になるのだけれど。
 時折向けられる、彼女の微笑と共に。
 その微笑の誘惑に、僕はあらがう事が出来なかった。

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『白香桜乱-2-』

 僕と彼女が暮らす家。
 そろそろ、本当に寒くなってきたと、暖房が入り始めた。
 彼女が元々寒さに強いので、暖房を入れる時期も遅いし、普通に服を着ている僕の前で、彼女は、やはり、厚手でないワンピースに薄いストッキングを履くか、素足のまま過ごしている。

 彼女の足を汚すわけにもいかないので、僕は、いつもフローリングの床を、綺麗にしている。
 そう、本当にちり一つさえ落ちていないように、僕の舌で舐め取るくらい綺麗に。
 実際は、掃除用具を使うのだけれども、その綺麗な床を、彼女が歩いて行ったその足跡の軌跡きせきを舌でなぞりたい気分だ。

 そして、これからの事は、僕達にとって、ある意味、恒例化した事だった。
 始めは、少し抵抗があった。
 けれども、やはり、彼女が望む事だからと、僕もそれに慣れていった。

 彼女の、知り合いの男性なのだと紹介された。
 名前までは知らない。
 それは知る必要がない事だといわれている。
 僕も、特に知りたいとは思わない。

 ただ、彼女が、僕以外で、『知り合い』として、親しくしている男性。
 それだけで十分だった。

 彼女と、その男性にうながされて、僕は、着ている服を全部脱いでいく。
 下着も全部。
 彼女と、その男性は、服を着たままだ。
 僕だけが、全裸ぜんら
 それだけで、僕のペニスは、反応のきざしを見せていた。
 『いけない子だね』そう男性に言われて、そのペニスを強く握られた。
 そこには、痛みしかないはずなのに、僕のペニスは、えるどころか、さらに硬度を増していった。

 彼女は、いつも通り、ロッキングチェアーに腰掛けて、そんな僕とその男性の事を、眺めている。
 それも、いつも変わらぬ、綺麗で柔らかな微笑み。
 彼女の視線が、僕に向けられている。

 その男性から、『ほら、いつものようにしてごらん』とその行為を促されて、男性のズボンのジッパーに口を寄せると、チャックに歯を立て、引き降ろしていった。
 そうして、その男性のペニスを下着の中から出し、口に含んでいく。
 同じ男性のペニスを咥える事など、考えた事もなかったし、初めの内は、若干の抵抗感と、そして実際慣れていないことから、上手く出来なかったが、その男性に教えられて、今は、かなり上達したと思う。

 それでも、彼女の親しい知り合いでなければ、同じ男性のペニスを咥える事など、僕には出来ないだろう。
 僕の口淫こういんを受けて、その男性のペニスも勃起してくる。
 それから、男性として、本来、その為の器官でない、僕のアナルは、幾ら興奮しても、濡れる事はない。

 男性に、口での奉仕を続けながら、僕は、自らのアナルに、初めてあった時に、その男性に渡されたジェルを用いて、指を挿入させ、ほぐしていった。
 その男性のペニスを受け入れられるように。
 準備が整うと、僕は、コンドームに手をかけ、それを、唇で覆うように男性のペニスに装着していく。

 僕には、大きな範囲で、手を使うことは、許されていない。
 勿論もちろん、始めから、それが出来たわけではないから、徐々に、手の両手にしたら10本の指の代わりに、唇で、舌で、歯で、行えるように仕込まれていった。

 全裸で、四つん這いのまま、彼女の方を向く。
 その男性は、後ろから、僕のアナルにペニスを挿入してくる。
 アナルがその男性のペニスによって、犯されている。
 そして、前からは、彼女のその視線によって犯されている。

 彼女に会うまでは、知らなかったその悦楽。
 性具として、ペニスを持たない、彼女が、代わりに用いられるものがあることは、彼女は知っているが、その道具を使う事は、彼女は好まない。
 やはり、生身の体温を持った実物を好むのだ。

 しかし、実際に感じるのは、彼女自身の体温ではなく、その男性の、コンドーム越しのペニスの熱のみ。
 その感触を、ただ、僕は、アナルを犯される事によって、感じている。
 その男性が、アナルを犯すことに慣れている事もあるのだろうし、何よりも、彼女の視線が向けられている事に、僕は、より興奮し、ペニスを勃起させている。

 男性が、ペニスを抽挿するスピードが増すのがわかる。
 僕の勃起して張り詰めたペニスも、先走りの液を垂らし始めている。
 手を使うことを許されていない今、僕は、そのペニスを自ら慰める事は出来ない。
 けれど、限界の瞬間ときは近付いている。

 彼女のその笑みに、より温かさが増したのと同時に、男性に、より深くアナルの奥を突かれて、僕は、射精していた。
 その男性も、コンドームの内側に精液を吐き出したようだった。
その体勢のまま  すなわち、僕のアナルが、その男性のペニスによって貫かれた状態  彼女が、こちらに向かって、歩を進めてくる。

 彼女が、僅かに付けている、香水が鼻腔びこうをくすぐる。
 彼女の、甘い、匂い。
 彼女は、僕を犯している、その男性に、口付けた。
 僕は、彼女の素足の親指の爪先つまさきに唇を落した。

 男性のペニスが、アナルから抜かれていく。
 コンドームを始末すると、『綺麗にするように』と、再び、ペニスを僕に咥えさせた。
 僕は、舌で舐めあげて、男性が望むようにしていく。
 そうして、男性は、再び、僕の口腔内で、精液を放った。
 僕は、教えられた通りに、その精液を、飲み下した。

 その一連の行為を終えると、男性は、『ではまた』そう言って、去っていった。
 彼女が、『ええ』とそれに対して答えている。

 僕と彼女、二人だけになった。
 僕のペニスは、彼女の香水を嗅いで再び、勃起し始めている。
 それを見て、彼女は、『仕方のない子ね。でも、特別に、許してあげるわ』そう言った。
 僕は、彼女の許しを得て、僕のペニスに指を這わせていく。
 自慰にふけりながら、彼女の視線を感じる。
 彼女に……全て見られている。
 そうして、程なくして、僕は、射精した。

 それを見届けて、彼女は、部屋から出て行った。
 『床を綺麗にしておくように』と言い残して。
 それと残ったのは、精液の匂いと、彼女の香水の匂い。

 直接は、ほぼ触れる事のない、彼女の身体からだ
 だからそれは、未知の世界だ。
 その想像と、彼女の残した香りの中で、僕の欲望は、より掻き立てられ、満たされている。

 そういえば、と。
 僕のペニスに布越しに触れた、彼女の足の感触を、思い出していた。


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『白香桜乱-1-』

 冷たくなってきた風。
 開け放たれた窓に掛かるレースのカーテンがひらひらと揺れている。

 その窓から若干離れたところに、彼女が、僕に背中を向けて立っている。
 腰まで届くほどの長い漆黒のストレートヘアー。
 量が多くないから、その重たさを感じさせない。
 そして、彼女は、白いワンピースを着ている。
 長袖の彼女の腰のラインまでぴったりと浮き出させていて、そこから、膝下くらいまでの丈のワンピースが伸びている。
 彼女の細い体のラインがよくわかる。

 肌の色も透き通るように白く、僕は彼女に自然と吸い寄せられていった。
 背中を覆っている髪の毛も、風に吹かれて揺れる。
 その髪を、真ん中でかき上げるようにして、髪の毛を僕の見えない、胸の方へと持っていく。
 白いうなじが見える。

 僕は、そのうなじに、そっと手を触れた。
 そしてそれから、両手にすっぽりと収まる首に手を回し、首を、少し強く締め上げた。
 それに合わせて、彼女が呼吸を止めたのがわかる。
 けれど、僕は、そのまま、締め付け続けずに手を離した。
 白い肌に、うっすらと赤く手の跡が付いている。

 その首筋に、唇を寄せて、軽い口付けを落していく。
 そして、その白いワンピースの後ろのホックを手で外し、チャックに歯を立てると背筋に沿うように、  そのまま口を使って、降ろしていく。

 下着が、ワンピースから透けないようにと、白地のキャミソールが露になる。
 右腕の方から、袖を抜いていった。
 左腕の袖も抜くと、すとんと彼女の足元にワンピースが落ちた。

 キャミソールも脱がせ、ブラジャーのホックも外す。
 履いているストッキングを、降ろして、一緒に同じように白いハイヒールの靴を脱がせる。
 それらを、床から拾う時、ワンピースも一緒に拾い上げ、横の椅子の背にふんわりと掛けた。

 首筋から、足元へと落していった口付けを、今度は、足元から、徐々に上へと這い上がらせる。

 彼女の、表情は見えない。
 それでも、僕の一連の行為を、受け入れている。
 白い肌に纏った、白いワンピースを全て脱ぎ捨て、素肌をさらした彼女。
 その木目きめの細かい白い肌に吸い寄せられるように、口付けを続けて、うなじまで達した。

 それから、手で彼女に触れようとした。

 その時、一瞬、窓から、強めの風が吹き込んで、レースのカーテンが、舞い上がった。

 刹那せつな、彼女は歩を進め、『寒いわ』そう言って、その姿のまま、窓のところまで向かい、開いている窓の扉を閉めた。
 揺れていた、レースのカーテンの波が止まる。

 きびすを返し、こちらを向いた彼女。
 そのまま、彼女のワンピースを掛けた、椅子へと向かい、そこに腰をおろして、足を組んだ。

 そうして、『さあ』と手が差し伸べられ、声を掛けられる。
 促されるまま、僕は、彼女の足元に跪き、その爪先つまさきに唇を落した。
 その口付けが、膝まで達したところで、彼女は立ち上がった。

 僕の股間は、硬く張り詰めている。
 彼女は、張り詰めた場所に素足を強く押し付けた。
 その刺激に、僕は精を放っていた。

 それを見ただけで十分だったのか、彼女は、僕によって脱がされた下着と、ワンピースを手に取ると、一糸纏いっしまとわぬ姿のまま、部屋を出て行った。

 僕は、そんな彼女の後姿を見つめ、床に膝を付いたまま、僕自身の濡れた下着も気にせずに、再び、熱を帯びてくるのがわかった。

 部屋を出て行く時に、彼女の黒髪が、揺れているのが見えた。
 唇に残った、彼女の肌の感触を確かめるように、僕は、僕の指を、唇にそっと触れてみた。
 けれどそこには、彼女の肌の、柔らかさは残ってはいなかった。


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