暴走書家

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『この瞬間を永遠に-4-(完)』

 それからも、何とか二人の時間が作れてたまに会ったりしてたけど、特に変わった事はなかった。
 もちろん、琢磨は忙しいし、時間が取れても、疲れている時もあっただろうけど、少しもそんな素振りは見せない。
 それは、医者として、仕事をしている時でも、患者に不安を与えないように平然としているのが努めなんだって。

 例え暫らく連絡がなくとも、もう何年も付き合っていれば、いつもの事になってしまっていて、仕方がない、と諦めるしかなかった。
 会えないからといってくよくよするのはゴメンだ。
 空いた時間は、一人でもそれなりに楽しめる方法もある。

 そういえばまた暫らく会ってなかったな、と思ったある日、琢磨から連絡があった。

 病院に暫らく入院している、という事だった。
 暫らくって、どれくらい? と聞いても、答えは返って来なかった。
 琢磨が勤めている病院。
 それまで一度も足を運んだ事はなかった。

 病室は個室で、とてもクリーンな感じだった。
 久し振りに顔を見たけど、別段変わった様子はなかった。
 入院しているのが不思議なくらいだった。

 自宅へ帰る途中に倒れたらしい。
 それを、琢磨は、倒れたのが仕事中じゃなくって良かったと笑って言っていた。
 まして、手術中なら大事だからね、と。
 確かに、手術中に倒れれば、患者の危機に繋がるだろう。
 やはり、琢磨にとってはこんな時まで、患者優先なんだな、と思った。

「入院してたら、仕事出来ないね。どう、久し振りにゆっくりしてる気分って。そういえば、ご両親は? お見舞いに来たの?」
「ああ。昨日ね。でも、入院してるのって退屈だね。でも、急に休んじゃったから、同僚に迷惑をかけてしまって、あっちは、忙しいだろうな。」
「それで? いつまで?」
「もう、大体の事は分かったから、もうすぐ退院するよ。それで……今の仕事、引継ぎをして、仕事、辞める事になる。」
「え? 辞めるって……どうして?」

そこで、琢磨は一旦、言葉を区切った。
微妙な沈黙が俺たちの間を流れる。

「俺は……もう、仕事場に立つ事が出来ないから。立っても、患者にも迷惑が掛かるだけだから、もう立たない。」
「辞めて? 辞めて、どうするの?」
「章吾……俺はもう長くはない。暫らくずっと、体調が悪くて、でも疲れの所為だと思って、何とか、その症状を抑えようと薬を飲んでた。そうすれば、何とか耐えて仕事が出来たし。実際、自分が、重い症状だなんて思ってもみなかった。でも、だんだん、薬も効かなくなってきて、気がついたら、意識を失って、病院に運ばれてた。それで、色々検査をして……。脳腫瘍だった。今から考えてみれば、思い当たる前兆はあったんだな。俺の専門範囲じゃないけど、実際検査結果を見せてもらって、もう、手のつけられる状態じゃない事は明らかにわかった。手術は出来ない。化学療法もあるけど、気休めに過ぎない。それなりに命は長らぐけど、俺はその選択を選ぼうとは思わない。治療をしても1年。しなくても、半年。そんなに変わるものじゃない。まあ、人によって選択はそれぞれだけどな。例え、命が短いほうを選んでも、それが充実しているなら、それで良いと思ってる。」
「琢磨が、それで納得してるんなら、俺には何も言えない。医者として、患者として、両方の立場からそう判断したんだから。」
「自覚症状としては、落ち着いてるんだ。薬が効いてるしな。例え、病原を取り除けなくとも、モルヒネって言えばわかるだろ? 嘗ては、良いい使い方がされて来なかったし、今現在だって悪用する人間はいる。でも、医療の中では、本当に、最後の砦として役立つんだ。」

「こんな事聞いて良いのかわからないけど……琢磨は、怖くないの? 死ぬの。」
「どうだろうね。死んだ事がないから。でも、俺は、色んな命を見て来て、死んで、辛い思いをするのは、残された者達なんだと思う。確かに、遺体を前にするのは辛いけど、その遺体を前にした遺族を前にする方が、もっと辛い。だから、俺は……両親や、章吾にすまないと思ってる。」
「やめてよ、琢磨、そんな事言うの。俺は……俺なら怖いよ。自分が死ぬの。勿論いつか死ぬってわかってる。でも何でだろ、まだそんなに年じゃないからかな? そういう風に思わないの。本当はさ、いつ死ぬかわからないんだよね。もしかしたら、明日事故で死ぬかもしれない。だけど、生きている事が当たり前のような気がして。」
「結局俺は、章吾に迷惑を掛けて、辛い思いをさせる事しか出来なかった。」
「そんな、過去形で言わないで。まだ、生きてるんだよ? 琢磨は。」
「ああ。わかってるよ。悪い。余計な心配させて。」

 琢磨は多分わかってる。
 病気になって弱気になるのは、病人も、看守る人も同じだって事。
 それぞれに、辛い思いをしてるって事。
 そして、お互いが、気遣ってしまう事も。

「退院したら、今のマンションに戻るの?」
「ああ。そのつもりだ。実家に……っていう話もあったけど、断った。今まで、仕事が忙しかったから、殆ど何も出来なかったけど、きっと出来る事って、何かあるだろうな。一足早く、老後が来たとでも思えばいい。」
「老後だなんて、それには、まだ若すぎるよ。うん。でも、そうだな、何か、しようと思えば出来るだろうな。今まで、働いて、貯金するばかりで、結構貯まってるんだろ?」
「まあな。でも、きっと章吾が思ってる程じゃないと思うぞ。」

「俺も、有給沢山あるんだ。ねえ、琢磨、せっかく時間が出来たんだし、のんびり温泉にでも行かない? 一度、琢磨とそうやって過ごしてみたかったんだ。こんなカタチで叶うことになるとは思わなかったけど……。」
「温泉か、いいな。でも、俺に、あんまり気を使うなよ。そうすれば……きっと、章吾が辛くなる。」
「例え辛くっても良い。思い残す事があるよりも、今、限られた時があるなら、その時を一緒に過ごしていたい。」
「本当は、何も言わずに、章吾と別れようと思ってた。特に理由なんて無くっても、俺と別れて、そのまま、忘れてくれれば良いと。」
「俺は、本当の事、言ってくれて良かったと思ってるよ。どうすれば、その時、相手にとってベストな選択になるかなんて、わからないからね。」
「ああ。そうだ。だから、迷ったけど、結局、打ち明けようと思ったんだ。」

 そうして、数日間もない内に琢磨は退院して、自宅に帰った。
 本当は、末期の癌患者が単身で生活するのは困難だ。
 だから、本当の末期の末期になれば、病院に戻って行くだろう。
 でもそれまでの間、少しでも、一緒にいたいと思った。

 そうして、念願の山奥にある、温泉旅館を訪ねた。
 自然がいっぱいで、露天風呂も中々のものだ。
 木々の中、散歩をするのも。

 琢磨と付き合うようになって、こんな風に時間を過ごせるなんて夢みたいだ。
 でも現実。
 どんなに儚くても。

 そのカラダに刻み付けるなんて無理な事だとわかっていても、それでも、俺は琢磨のカラダを求めた。
 本当は、いつ終わってもおかしくないこの瞬間を、大事にしたかった。

 唇を貪れるだけ貪って、その欲情を煽っていく。
 俺の指が愛撫する、その感覚に琢磨が反応するのは、今生きて、感じている証拠だから。

「ああ……あ……ぁ…は……」

 この温かい体温も、勃起するペニスも、締め付けてくるアナルも。
 琢磨の体内をペニスで感じて、そうして、琢磨も、また、俺の存在を感じている。
 果てしなく続くように思える快感も、いつかは終わりを迎えるのを知っている。
 けれど今、快感を追っている時は、それを忘れよう。

「んん……あ…ソコ……イイ……」

 突き上げるスピードが速まっていく。
 俺も、琢磨も、限界が近かった。
 終わりがあるからこそ、その過程が楽しいのだ。

 射精し、果てた欲望の先に、何も見えなくても良い。
 充実した時は、充実した時で、それで、十分だから。
 永遠が、もしあるのなら、先に旅立っていく、琢磨の中で、俺は永遠の存在になれるだろう。

 俺も、生きている限り、琢磨を忘れない。
 琢磨と過ごした、僅かな時を。
 そういう相手を、運命だというのなら、そうなのだろう。
 それが、どんな残酷な結果を迎えようとも。

 やがて、刻々と病状は悪化し、やはり、一人では生活出来なくなった。
 意識障害、食欲の低下。
 再度入院し、ベッドの上で過ごす琢磨。
 見舞った時、意識がはっきりしていて、色々話せた時は嬉しかった。
 本当にたわいもない事。
 それもやっぱり現実で。

 頻繁に訪れる俺を、『親友なんです』と紹介していた。
 それを不満だとは思わない。
 ゲイなんだって、恋人なんだって、公にできなくっても。
 そこで、琢磨の両親にも会った。
「こんな風に、お見舞いに来てくださる友達がいて幸せね。」
 そういって、少し涙ぐんでいたようだった。
「そうだね、俺が診てきたた患者にも、誰にも看取られることもなく死んでいった人はいるから。」
 こんな時でも、琢磨は、自分が幸せだと言えるんだね。
 俺が、いるから?
 そう思っても良いのかな。

 そうして、俺が買ったのは、今更かもしれないけど、おそろいのクロスチャーム。
「章吾……嬉しいけど……、こんなもの買ったら、お前のほうが辛くなるだろ?」
「良いんだ。俺が欲しいと思ったから。本当に繋げるものなんてないけど、それでも証が欲しくなる時もある。俺たちを繋ぐ絆が。誰かに認めてもらいたいわけじゃない。琢磨のご両親にも言うつもりはないし。」
「ありがとう……でも、辛くなったら、捨てろよ?」
「ああ。」

 本当に食事を受け付けなくなって、点滴だけの生活になって、意識がある時間も少なくなって、やがて、琢磨は亡くなった。
 身内だけで行われた葬儀にも、『親友』として、参加させてもらった。
 棺に入れられた琢磨の遺体。
 それが、焼かれて、骨だけになって。

 それまで、葬式を経験した事がない訳じゃなかったけど、改めて、人は、物体として、こんなちっぽけになるんだと思った。
 それは……俺も例外じゃないんだ。
 生きている人間誰でも。

 1周忌にはどうしても明けられない仕事が出来てしまって、後日、実家にある仏壇を拝みに行った。
 そして、その遺影に、最初で最後に贈ったクロスチャームが掛けられていたのが嬉しかった。
 俺の胸元にも、今、それがあるから。

 琢磨と過ごした、あの瞬間、瞬間が、まだ、俺の中で生き続けている。
 それは、俺のココロの中に永遠に。
 俺が、死ぬ時まで。

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『この瞬間を永遠に-3-』

 起き上がると、ちょうど昼前で、昼食を食べに出かけて、ついでにレンタル屋に行った。
 結構人気シリーズだったので、もしや、もう、貸し出されてないか心配だったけど、何とか、シリーズもののⅠとⅡを借りる事が出来た。
 その先もあるんだけど、あんまり沢山観るとやっぱり目が疲れるからね。
 昔、深夜に3本連続で観た時は、面白かったんだけど、眼精疲労からかずきずきと目の奥、というか、頭が痛かった。
 時間配分的にも、2本くらいが妥当だろう。

 この作品は、テレビでもコマーシャルをしてて、その時から目をつけていた。
 けど、実際、一人で映画館に行くのも何となくもったいないし、レンタルだと格安で済むから、どうしても、レンタル落ちをしてくれた方が嬉しい。
 こういう系統の映画を恋人と観るのはどうかと思うけど、琢磨は本人が言ってる通り、恋愛系の物だと絶対寝る。
 俺自身も特別好きな訳じゃないしね。
 じゃあ、琢磨が、ホラー物が好きかというとそうではない。
 嫌いでもないらしいけど、ホラーの中でも、サイコ系とスプラッタ系は何とかいけるらしい。
 俺は、ホラーは全般的に観るんだけどね。
 だから、付き合い始めて、いろんな映画を観たけど、琢磨に受け入れてもらえたのは、その種類だけ。
 付き合い始めた当初、恋人なら、絶対恋愛系でしょ!と思ってた、俺達は馬鹿でした。
 そもそも、男女の恋愛になんて興味ないし、女を男に置き換えてみても、なんか違うんだよね。

 映画類を全般的に全く観ない琢磨を何とかその2種類だけでも、洗脳出来たのは俺の勝ち。
 でも、映画って、過剰に宣伝されると、その分期待してしまうから、もしかしたら、何も知らずに観たら面白かったのかもしれないけど、そうじゃなかったら、ちょっと落胆させられる気分になる事もある。
 でも、この映画は面白かった。

 あれ……?
 ちょっと琢磨、様子がおかしい?
 こういう系統の映画は普通に観るのにな。

「琢磨……? 何か、大丈夫?」
「え? あ。2本も続けて観たからかな? 疲れたのかも。ちょっと、吐き気と頭痛が。薬飲んでくるよ。」
「ああ。うん。ごめん。疲れてるところ、無理させちゃって。」
「いや、大丈夫だって。結構面白かったよ。続きあるんだろう? 観てみたいな。」
「良かった。面白いって言ってもらえて。そんな、薬なんて常備してるの?」
「疲れから、神経に来ることもあるからね。一応、ある程度は、処方してもらって、常備してるの。えっと……確か、ロキソニンとナウゼリンがあったはず。」

 薬を服用して30分くらい経過すると、効いてきたらしく、何とか落ち着いてるみたい。
 本当に、さっきのちょっとした違和感が嘘なくらい普通にしている。

「そろそろ晩飯の時間か。ホルモン焼き、食いに行くだろ?」
 やっぱそうきたか。
「琢磨も、いい趣味してるよね。」
「章吾だって嫌いじゃないだろ?」
「だけど、大丈夫のなの? 吐き気あったんだろ? そんなこってりしたもの食べて。」
「大丈夫だって。どうせ、疲れからきてるんだから、しっかり栄養つけないと。低カロリーで、高たんぱく。野菜もちゃんと出てくるし、健康的だろ? また、明日からハードだしね。」

 まあ、実際、俺も、琢磨もいい神経してる。
 ああいう映画を観ておいて、こういうものを平気で食べてるんだから。
 琢磨にすれば、内蔵なんて、見慣れてる訳で、そんな事言ってたら、焼肉にだって行けない。

 そうして、夕食を堪能して、琢磨の家に戻った。
「章吾、もう帰る?」
「え? まだ、時間いいだろ? 琢磨も、寝るにしたら早いんじゃない?」
「そうだけど。」
「何? 何か、しなきゃいけない事あった?」
「いや、特には。ちゃんと、洗濯も済ませたしな。」
「じゃあ、いいだろ? 折角、一緒にいられるんだしさ……。」

 そうして、琢磨をベッドに誘った。
 琢磨も、俺にちゃんと答えてきてくれている。
 その愛撫を受けながら、今度、いつ会えるだろう、という期待と不安。
 それでも、今、こうしている事に胸を躍らせて。

「ん……ぅん……あ……」
 その指が、俺の期待を刺激していく。
 その期待が叶えられる事を俺は知っているから。

 アナルに挿入されたペニスを感じながらその充足感を味わっていた。
 抽挿されて、前立腺を擦り上げられて、イきたくて、イきたくて、その快感は止まらなくって、でも、もったいないからまだ、イきたくなくて。
 
 エアコンは十分に効いている筈なのに、二人のカラダは火照っている。
 そうして、にじみ出る汗は不快ではない。
 寧ろ、それさえ心地良いいと感じている。

 際限なく求め合うわけにもいかなくて。
 お互い、精を解き放つ。
「あ!あ…はぁ!ッッッ!」

 動きが止まると、カラダにへばりついた汗に、エアコンの風が当たって冷やされていく。
「このままいたら、風邪引くぞ。シャワー行こう。」
「うん。そうだね。」
「……ッ。悪い、先行っててくれ。」
「? どうかした?」
「いや、なんでもない。俺も、すぐ行くから。」
「うん。風呂も溜めとくよ。」
「ああ。ありがとう。」

 こうして、なんでもないような、些細な幸せを感じていられるのが、嬉しい。
 シャワーで汗を流して、湯船にはられた湯に浸かる。
 程なくして、琢磨もやって来て、一緒に風呂に浸かっている。

「こうやって、しっかり湯船に浸かって、癒されてると、日本人で良かったって思うよね。」
「そうだな。外国にはあまりそういう習慣はないからな。」
「……琢磨、ちょっと具合悪くない?」
「疲れてるだけだって。ちゃんと寝て、休養とるから。」
「うん。ならいいんだけど、あんまり無理し過ぎないでよ。」
「ああ。どっちにしろ、出来る範囲の事しか出来ないからな。」

 それはわかってる。
 でも、それでも、ギリギリまで頑張ってしまうところがあるから心配なんだ。
 そして、それくらいの職業意識がないと、ちゃんとやっていけない事。
 そういうしっかりしたところがやっぱり好きなんだなぁ。
 
「無理はしなくっていいからさ、空いてる時は連絡頂戴。会えても、会えなくってもいいし。一緒に食事するだけでもいいし。」
「ああ、出来るだけそうする。」

 本当は、無理をしてでも会って欲しいと思ってしまう。
 でも、やっぱりそれは出来ないから。
 お互いの社会での立場があって、おおっぴらにゲイだという事は出来なくとも、二人の間では嘘はない。
 恋人として、男女の間なら、当たり前に出来ることが出来なくってもどかしくても、それはそれで仕方がない。
 それは、自分がゲイである事を偽るよりも辛い事だから。

 電話ででも良いから、ほんの少しでも声を聞きたい。
 その声の向こうに、存在を確かめたいから。
 始終じゃなくて良い、会えない時間が多くても、その声を確かめたい。
 こう言う時、電話って便利だね。

「じゃあ、俺、帰るから。」
「ああ、またな。」

 再会を約束した挨拶。
 今度、また会えるから。

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『この瞬間を永遠に-2-』

「疲れた?」
「いや、大丈夫だよ。今日は、それ程ハードじゃなかったし、体力ないと仕事やってけないからね。」
「良かった。それに、今夜は、遅くなっても、明日休みだから、ゆっくり寝てられるもんね。」
「そうだな。本当に久し振りだし。」

 そう言って、俺は琢磨に再び口付けをした。
 こういう機会は重宝しないと損だし。
 たまに焦らすように浅く、それでは物足りなくて深く唇を重ねて、十分に味わっていく。

 琢磨は、今度は俺に主導権を明け渡し、その口付けに応じてくる。
 口付けてる合間に、俺は琢磨の肌に指を這わせていく。
 本当に疑うような食生活をしている琢磨だけれど、自分で『体力がないとやっていけない』と言うだけ あって、肌にはしっかりはりがあって、適度に筋肉がついている。

 その胸にある、乳首に触れ、摘み上げるように刺激していく。
「ん……」
 僅かにあがった快感を示す声に気をよくして、愛撫を強くする。
 琢磨のペニスも感じて勃ち上がってきているし、俺も、琢磨を求めて硬くなっている。

 先ほど、琢磨が俺に使ったローションを今度は俺が手に取り、琢磨のアナルに指を挿入していく。
「ふ…あ…章吾……」
 今日みたいに、時間がある時は、十分たっぷりと慣らしてあげないとね。
 琢磨が焦れて俺を欲しがってくれるくらい。

 可愛い、とかいう言葉は似合わないけど、それでも、俺を抱いている時とは違う。
 琢磨が、俺を欲して抱いてくれるのと同じように、その逆でも、やっぱり、俺のことを欲して欲しいと思ってしまうんだ。
 その事が贅沢なのかどうなのかわからない。

 でも、中々会えない分、持てる時間は有効に使った方が得だから。
「章吾……もう……いいから……イれて……。」
 焦らしてみたって、欲しいと思っているのは俺も同じだから。

 ゴムを被せ、自分のペニスを琢磨のアナルに挿入していく。
 やっぱり久し振りだからかな。
 十分慣らしたつもりだったけど、やっぱりキツい。

 亀頭をゆっくり挿入して、それから、全部、飲み込ませた。
 キツいのは琢磨も同じらしく、それでも、力を抜こうとしている。
「大丈夫そう? もう動いても?」
「ああ、大丈夫。」
 本当に大丈夫か、というとちょっと疑問なんだけど、まあ、琢磨は駄目な時は駄目ってしっかり言うから、それを信じるしかない。

 その締め付けに耐えながら、抽挿を開始していく。
 今夜はもう3度目だから、そんなに早く、射精してしまわないだろうが、それでも、きつく締め付けてくるアナルはたまらない。
 勿論、俺だけ、感じている訳にはいかないから、ちゃんと、琢磨のイイところを擦るように突き上げる。

「んん…あ……はぁ……あ……あ……も、ちょっと…ゆっくり…」
「ああ。」
 少しでも長く感じあっていたいのは同じだから。
 ゆっくりと引き抜いて、そして突き上げて。

 でも、その終わりの時は着実に近付いている。
 最終的に欲しているのはそれで、でも、その間の快感も欲しくって。
「琢磨、そろそろ、イけそう?」
「ん。いいよ。」
 俺はもう限界になっていて、琢磨の中で果てた。
 それから、もう既にイきそうだった、琢磨のペニスを扱いて、射精させた。

「久し振りに、気持ち良くだるい。」
「ジムは? 行ってるの?」
「結構行ってるよ。琢磨こそ行く暇ないんじゃないの?」
「筋力が落ちない程度には行ってるよ。」

「やっぱ、メタボとか怖いもんね。」
「会社で健康診断あるんだろ?」
「取り敢えず、今のところ異常値なしだよ。」
「俺も。まあ、でも、今は割りといい薬出てるから、上手く付き合っていこうと思えば、結構何とかなるよ。」
「早期発見、だろ? やっぱり。」
「ああ。程度が軽い内に治療しておいた方がいいし、本当に軽ければ、薬飲まなくて、生活習慣改善するだけで良いしね。」

「でも、その生活習慣改善って難しくない? 食生活とか、運動とか見直さなきゃならないだろ? 大体、琢磨に食生活どうにかしようって気ないだろ?」
「だから、一応、頑張って、運動してるじゃないか。外食だって、一応メニュー気をつけてるよ。」
「まあ、無理して自炊しろとは言わないけどさ。」
「今は、『無病息災』っていうより『一病息災』って言葉もあるくらいだよ? 少しどこか悪いところがある方が、気を使ったりするんだよ。」

「どんな病気かにもよるだろ?」
「まあ、そうだけどね。でも、『健康病』っていうのもあるんだよ。」
「気にし過ぎってヤツ?」
「俺は外科だから、あんまりそういう系統の薬は扱わないんだけど、内科医だと、患者が、自分で信じてる健康法とかで、ほら、実際、健康食品とかいっぱいあるから、そっちのほうが効くとか思っている患者がいて、困るみたいだよ。」
「しかし、そういう健康病も、金があるからだろ? 変なもんだよな。ちょっと昔は、金が出来たら、食いまくって、その所為で健康損ねて、今度は、その金で健康を買おうって言うんだから。」
「健康番組も増えたからね。ほら、○○が健康にいい、って放送すると、次の日はスーパーとかでそれが売り切れちゃうの。でも、そう言うのって、結局、長続きしないっていうか、次から次にこれ何に効く、あれは何に効くっていうから、移り変わっていくんだよね。」

「医学の進歩も敵わない?」
「進歩してるよ。もちろん、昔はなかった病気の概念とかも発表されたりするし、手術も色々進歩してるよ。手術器具もそうだけど。だから、何年経っても色々勉強していかなきゃいけないし。」
「だよね。昔は不治の病、っていわれてても、今ではそうでもなかったりするもんね。」
「まあ、今でも、どうしても踏み込めない領域ってあるけどね。どうしても、やっぱり寿命ってあるからさ、まあ、老化についても、色々研究されてるけど、決定的には逆らえないだろうな。」
「アンチエイジングとか、流行ってるよね。」
「実際、肌年齢もそうだし、内臓年齢とか、骨年齢とか、色々あるからね。精神年齢は別として。」
「歳をとる事を否定しないけどさ、若くいたい、っていうのはわかるなぁ。」
「そうだね。」

 確かに、生きている間は若くいたい。
 でも、かつて、歴史上の権力者が求めたように不老不死を求めようとは思わない。
 それは、いつか、絶対的な『死』があるからこそ、生きている、という事が重要なんだと思う。

「明日の休み、なんか予定あるの?」
「いいや。特に。ジムには行こうと思ってたけど。」
「久々にさ、映画でも行こうよ。」
「俺、絶対、恋愛映画とかは寝るけど。」
「あ、そういえば、見逃してて、観たかった映画があるんだよね。スプラッタ系のホラーなんだけど。確か、DVDになってるはず。駄目かな?」
「レンタルしてくるの? まあ、良いけど。本当に、好きだね。そういうの。」
「琢磨は見慣れてるかもしんないけど、実物を観たことない俺は面白いよ。」
「実物は実物。映画は映画だよ。」

「いーんだよ。俺は夢見てるだけだから。」
「夢ねぇ。」
「そそ。俺、実際、実物見たら、気分悪くなると思う。映像だから許せるの。」
「でも、内臓とかなんて、章吾自身の体の中にだってあるんだぜ?」
「わかってるけどさ。想像出来ない。したくない。」
「矛盾だねぇ。」
「いいのさ。矛盾を抱えて生きていくのが人間なんだから。」
「まあ、そうだね。さて、そろそろ寝ようか。」
「あ、そうだね。もうこんな時間だ。きっと、明日起きたら、昼だろうなぁ。」
「んじゃ、おやすみ。」
「おやすみ。」

 こうやって、一緒のベッドで眠るのは、本当に久し振りだ。
 何とか時間を作って、ご飯を食べて、セックスをして、でも、やっぱりお互い次の日があるから、泊まる事なく、帰っていく。
 それが、仕方のない事だと、二人にとって、当たり前の事だと思っているけど、こうやって一緒にいられるのはやっぱり嬉しい。

 その時は気付かなくても、その瞬間、瞬間が大切なんだって。
 絶対に待ってはくれないものだから。
 たとえ後になって気付いたとしても、それはそれで仕方がないし、気付けた事実も、やっぱり大切なんだって。

 琢磨とのこの関係がいつまで続くかわからないけど、今、一緒にいられる時はそれはそれで大切に思えるから。

 そして、明日、DVDを見た後、琢磨はイジワルだから、ホルモン焼きでも食べに行こう、なんて言い出すんじゃないかと思ってる。
 まあ、俺も、それは平気だけどね。

 さっさと寝入ってしまった琢磨を、やっぱり疲れていたんじゃないか、と思う。
 疲労感っていうのはある程度は大切で、充実して過ごせるなら、それはそれで良いと思ってる。
 何もかもが満たされるなんて事はありえないけど、もし満たす事が可能なものがあるなら、出来るだけ満たしていきたい。

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『この瞬間を永遠に-1-』

 何で、こいつと付き合ってるんだろう、とたまに思う。
 勿論、始終思っていたら、絶対付き合ってる訳ないんだけど。

 こいつと付き合う前に何人か付き合った事があったけど、理由なんてよくわからないまま別れる破目になってしまった。
 誰でも良かった訳じゃない。
 付き合ってた時は、それなりに好きだったし、別れた時はやっぱり辛かった。

 こいつとの付き合いが長いのだって、別に妥協して付き合ってる訳じゃないよ?
 そう、思い返してみれば、今まで付き合った誰よりも長く付き合っている。
 長く付き合っているからかどうかよくわからないが、喧嘩もする。

 喧嘩をするっていうより、俺が一方的に怒っている事の方が多いんだけど。
 別にこいつが悪い訳じゃない。
 それはわかっている。
 でも、俺だって悪い訳じゃない。
 そんでもって、俺が、いくら怒ってもこいつは俺に謝ったりしない。
 まあ、特に悪い事をしている訳じゃないんだから、当たり前っていえば当たり前なんだけど、それが気に食わなくって、何度別れようと思った事か。

 俺だって子供じゃないし、よくよく考えてみれば、俺が腹を立てている理由も、仕方がないといえば仕方がない。
 そんでもって、やっぱり怒ってたけど、そのまま、その事実をなしにする事もできないから、俺の方が、『腹を立ててすまなかった』と詫びを入れる。
 結局は、俺の一人相撲なんだよな。

 だってそれくらい仕事人間なんだぜ、こいつ。
 たまには、恋人として、ゆっくり、どこか、旅行に行きたいと思うじゃん。
 でも、そんな、長期休暇は取れないって一蹴される。

 でも、そんなこいつが、久し振りに早めに上がれて、ゆっくりオフの日を作れる、っていってくれるとやっぱり嬉しくって。
 別にお互い出世に興味があるんじゃないけど、仕事柄こいつは忙しいだけ。
 俺は、中堅会社のサラリーマンで、少なくともこいつよりは忙しくない。
 とういうか、元々、就職する時にそういうところ、選んで就職したんだけどね。

 きっぱり定時に上がれるか、といわれれば、そうでもないんだけど、結構甘い俺の会社は、上がろううと思えば、18:00くらいに上がる事だって出来る。
 もちろんノルマはあるから、あんまり早く上がってばっかりだと、仕事が溜まってくるけど、そこら辺は上手くやってるつもりだ。

 そんな訳で、今日は、いそいそと、帰り支度を始めて、会社を出る。
 独身のオトコが早く帰る理由なんて聞くほうが野暮よ?
 つー訳で、俺は、晩御飯の材料を買い込み、こいつの家に向かう。
 始め、こいつん家で料理をしようと思った時、愕然とした。

 調理器具はまともなのがないし、食器だってない。
 仕方がないから、それから買い揃えましたよ。
 俺が。
 でも、こいつに請求書は送ってやったけどね。

 そんな訳で、今は一応、まともな料理が出来るくらいの器具が揃ってる。
 うーん、今時のスーパーって単身者にも優しいのね。
 材料も、小分けして売ってくれるもの。
 俺が使い切らなきゃ、こいつは、絶対に料理なんかしない。
 泣く泣く、材料をゴミ箱息にさせるなんてもったいないでしょ?
 だから、一辺に使いきれるくらいしか買わない。

 野菜とかまともに食ってないだろうな、と思って、緑黄色野菜たっぷりの炒め物。
 調味料は、すぐに腐ったりしないから、塩とか醤油とか湖沼とかそんな単純なものだけど、食える味付けにはなるよ。
 そんでもって、コンソメ味でたまねぎのスープを作って、っと。

 なのに、お・そ・い!

 今日は早く帰れるって言ったじゃないか!
 料理冷めちゃうよ。
 レンジで温めればいいんだけどさ、作り立てとはやっぱり美味しさが違うんだから。

 待つこと2時間。
 やっと帰ってきた。

「帰り際に、急に担当の患者の容態が変化しちゃって、目が離せなかったんだ。」
「連絡出来ないのはわかってるけどさ。で、大丈夫だったの? その患者さん。」
「ああ。落ち着いたよ。だから帰って来れたんだけど。」
「すぐ温めるからさ。お腹減ってるでしょ?」
「ありがとう。」
「本当に、俺が来ない時何食べてるの?」
「ちゃんと、そこら辺で適当に買って食べてるよ。食べないと体力持たないからね。」
「でも、絶対、栄養偏ってるでしょ。そういうの、医者の不養生、って言うんじゃないの?」
「大丈夫だって。俺の病院の職員食って、結構しっかりしてるんだよ。」

「疲れてない? 大丈夫?」
「大丈夫。栄養ドリンクも飲んできたし。」
「それって、気休めって言ってなかった?」
「気休めでも良いんだよ。折角、製薬会社さんがただでくれるんだから。一応、ビタミン類もしっかり入ってるんだよ。」
「まさか、それに頼ってない?」
「そんなこ事ないって。それよりお前こそ大丈夫なのか? 俺に合わせて、平日に休み取ったりして。」
「有給余ってるからね。いいんだよ。うちの会社甘いし。つーか、そうでもしないと、琢磨たくまと一緒にいられないじゃん。」
「俺が気にするだろ、章吾しょうごにばっかり気を使わせて。」
「珍しく愁傷じゃん。」
「茶化すな。」
「大丈夫だって、俺だって、俺の都合を潰してるわけじゃないんだから。」

 もし、どちらかが、何かを犠牲にして付き合っていたなら、上手くはいかないと思う。
 少なくとも俺にとってはそうだ。
 何だかんだ言っても、琢磨に仕事をないがしろにして欲しくなかったし、俺だって、俺の都合を犠牲に払ってまで付き合ってやれる程お人好しじゃない。

 琢磨は患者の事を第一に考えているし、俺は、そういう琢磨の職業意識は嫌いではない。
 私生活がどうであろうと、琢磨の医者としての態度は、立派だと思う。
 人の命を背負っているという、そういうしっかりとした責任感をきちんと持てる琢磨は、やっぱり医者として向いているんだろう。

「今夜は、ゆっくりできるんだろう?」
「ああ。」

 そうして抱き合ったのは久し振りだった。
 深く、口付け合うのもやっぱり久し振りで。
 そして、これからの事を考えると、それがやっぱりいつの事になるか分からないから、求められる時に求めておく。

「ん…ふぅ…」

 息苦しくなるほど、舌を吸い上げられて、それから、絡め合って。

 普段は、メスを握っている指で肌を愛撫される。
 その少しひんやりとした指は、火照ってきたカラダには気持ち良かった。
 そして、触れてくる舌先はやはり温かくって、その温度差がなんとも言えない。

 久し振りだからか、俺のペニスが昂ぶってくるのが早いような気がする。
 そして、それは、琢磨も同じことだった。

 お互いの昂ぶったペニスを擦り合わせ、その手で握って、一度目の射精を向かえる。
 それだけで、足りない程、飢えていたのは、俺も琢磨も一緒。

 琢磨は俺のアナルを解しながら、お互いの口淫でペニスを昂ぶらせていく。
 そうして、十分に硬さを持ったペニスを俺のアナルに挿入してきた。
 一度、始めに放っている分、それ程、その行為は性急ではなくて。

 でも、だからって、余裕があった訳ではない。
 求める時は、求める時で、それを隠す必要なんてないから。
 琢磨が俺を求めるように、俺も琢磨を求めていて、それを実感できる時は、嬉しいんだって。

「ああ……ぁん…んん…あ!」

 感じるまま、自然と漏れてしまう声を押し殺す気なんて全くない。

「章吾……」

「琢磨…あ……イイよ……もっと……欲しい……」

 それでも、その瞬間をずっと、感じている事が出来ないのはわかっている。
 突き上げられて漏れ出てくる快感はたまらなく良くって、それを、琢磨に伝えたくって。

「章吾…もう…もたない……。」

「うん。俺も……あ……イ…く…!」

 付き合っている年月を数えてみても、そんなに頻繁に会えたわけじゃない。
 出来るだけ融通の利く俺が、忙しい琢磨に合わせられたら。

 ちょっとぶっきら棒だけど、決して傲慢な人間じゃないって、わかっているから。
 俺が、一人で怒って、不満を打ち明けて、それに対して、何にも言わないのは、言葉で繕ったって、 結局はどうする事も出来ないから。
 そんな俺が、多分、琢磨を困らせているっていうのはわかってる。
 だから、俺から、謝ってしまうんだって。

 言葉が足りなかったら、何で補ったらいいかなんて、わからない。
 セックスで補えるほど単純事じゃない。
 本当に、必要な何かがわかる時が来るんだろうか。

 こうして、何もなく抱き合っている瞬間もやっぱり大切で。
 その温もりは、確かにあるんだって感じられるから。
 もし、俺達が、このまま、これから先も付き合っていくんだとしたら、どうなっていくんだろう。

 俺達が知らない明日を、誰が知っているんだろう。
 誰にもわかりはしない。
 そして、それはそれでいいんだ。

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『ココロの距離-8-(完)』

 バーの10周年記念が近付いてきて、どうにか、その日に都合がつけられるように仕事に没頭していた。
 まだ俺は、あのバーに通うようになって、それ程経っている訳でもなく、人見知りをする、というほどではないけれど、社交的ではない俺は、おそらく初めて会うだろう人達に、不安と、期待を織り交ぜていた。

 記念といっても、そんなに形式ばったものじゃないから、服装とかも、気にしなくて良い、と、靖史から聞いている。
 元々、普段バーに行くとき、スーツの時や、私服の時、色々あるけど、どっちかというと、スーツじゃない方が良い、とも言われた。
 ラフな格好で良いんだと。

 思い起こしてみると、靖史と会う時は、靖史は仕事帰りでも、必ず、私服でやってきていた。
 一社会人として、仕事着としてのスーツ。
 また、フォーマルとしてのスーツ。
 俺自身は、そんなに拘る方じゃないけれど、拘りのある人間は、その専門の職業があるくらい、拘るようだ。
 そしてそこに、男の魅力を見る事もある。

 もちろん、私服も私服なりに拘りはあるだろう。
 カジュアルなブランドも幾つも存在する。

 結局、俺は、スーツでもなく、カジュアルでもなく、無難な格好を選んで、赴く事にした。
 珍しく靖史とバー以外の場所で待ち合わせをして。
 靖史の方は、本当にいつもと変わりない服装をしている。

 店の性質上、ゲイの人間が多いけれど、経営的な面でサポートしてくれている人間は、ゲイバーであること、ゲイという性質を持つ人間の存在を理解していても、ゲイではない人間も、おそらく今日は来るらしい。

 闇に飲まれ始め、薄明かりがついたバーの扉をくぐり、店内に入る。
 いつもの店内の配置とは、若干異なって、バイキング形式の料理が並べられている。

「こんばんは。いらっしゃいませ。蛍さん、智也さん。」
「こんばんは。マスター。ちょっと早かった? 来るの。」
「いえ、もうすぐ、皆さん、いらっしゃると思います。お食事、始めていただいても構いませんよ。」
「ありがとう。じゃあ、いただきます。」

 適当に、見繕って、皿に料理を取り、脇に授けられたテーブルについて、食べ始める。
 出来たてではなくても、これだけの味がしっかり味わえるのは、かなり、質のいい料理人なんだろう。
 靖史に尋ねても、知らない、と言うので、マスターに尋ねてみると、某レストランのシェフだそうだ。
 ゲイ仲間、というのではないけれど、オーナーの知り合いで、今日、頼んで、準備してもらったらしい。
 もし、興味があるなら、と、その店の案内を貰った。
 フレンチ・レストラン『La fenêtre』、その店の名前が、フランス語で『窓際』と言う意味なのだと教えてもらった。

 そして、料理に合わせて、そのシェフからの贈り物だという、フランス・ワインをワイングラスに注いでもらった。

「ああ、それから、これは、オーナーから。フレンチとは趣向が違いますけれど。デザートにどうぞ。オーナー自身は、もうすぐいらっしゃると思いますが。」
 小さな皿に乗せられた、一口サイズの、抹茶ようかん。
「これ、もしかして、手作りですか?」
「ええ。」

 『手作り』と言うものは、時に重くなってしまうものだが、あの招待状にしろ、このようかんにしろ、さりげなく、心地よい、気配りを見せてくれる。

 次第に増え始めた客と、適度に挨拶を交わし、靖史が親しくしている人間とは、俺も含めて、少し会話を交わす。
 さして、共通点もないけれど、このバーという場所を基点にして、出会った人間。
 それぞれの人間が、それぞれのテリトリーを持ち、この店に馴染んでいる。

「蛍くん、久し振り。」
 靖史に、一人のオトコが、声を掛けてきた。
「あ、悟さん。久し振りです。」
「1年振りくらいじゃない? どう? 仕事、上手くいってる? 相変わらず、ここの店、よく来てるの?」
「特に、問題はないですよ。そうですね。結構、よく来ますよ。悟さんは、久し振り?」
「いや、そうでもないけど、中々、会わないもんだね。」

「そうですね。あ、智也、こちら、桂木悟さん。僕にこの店を紹介してくれた人。」
「はじめまして。藤崎智也と言います。」
「こちらこそ、はじめまして。蛍くんの知り合いなんだ。」
「知り合いっていうより、この店で知り合ったの。で、一応、今の僕の『トクベツ』な人。」
「へえ、そうなんだ。上手くいくと良いね。」
「うん。悟さんは? 独りなの?」
「ん? うーん。完璧に独り、っていう訳じゃないけどね。それなりに、上手くやってるよ。」
「ふーん。そうなんだ。悟さんのお相手にも、会ってみたいけど。」
「相手、って言っても、微妙だからねぇ。」
「でも、上手くいってるんでしょ?」
「付き合い自体は長いしね。あ、おい、雫、こっち。」

そうして呼ばれて来た男は、決して、派手、という訳ではないけれど、人目を惹かずにはいられないオトコだった。
黒い服を身にまとい、それでいて、人を寄せ付けないのではなく、穏やかな表情をしている。

「悟に蛍くん。ええっと、こちらは?」
「蛍くんの『トクベツ』なんだってさ。智也くん。」
 紹介されて、ぺこりと頭を下げる。
「蛍くんは、もう仕事、慣れた?」
「ええ。」
「そう。それは良かった。紹介した手前、一応責任があるからね。」
「そんな、責任だなんて。最終的に決めたのは僕自身なんですから。紹介していただいて、ありがたかったです。」
「ふふふ。私で、力になれる事があったら、いつでも歓迎するよ。」

 靖史が、改めて俺のほうへ向き直って、紹介する。
「こちら、悟さんの知り合いで、宮下雫さん。僕が、今の事務所に入る時に紹介してもらったんだ。んでもって、この店のオーナー。」
「実質は、殆ど、マスターや他人に任せきりなんですけどね、一応、オーナーなんです。」
「ああ、では、あの招待状や、ようかんも。」
「お気に召してくだされば幸いです。」

「雫、今日も車なのか?」
「ええ。」
「全く、バー開いておきながら、自分は、酒飲まないんだもんな。」
「最初の内は、飲んでたよ。でも、飲まなくなっても、それなりに楽しめるから。まあ、そうなると、行く店限られてくるけどね。」
「そりゃそうだろう。」
「蛍くん、智也くん、これからも、この店をよろしくお願いします。では、私は、他の人にも挨拶に行きますから。また後で、悟。」

 そう言って、雫というオトコは、他の客や、多分、店に関係するだろう人間のところへ、出向いて行った。

「ご自身では、お酒をたしなまれないのに、バーを開いていらっしゃるんですね。」
「ええ。まあ、このバーの雰囲気を楽しみに来るんでしょう? 他の店も、経営者繋がりで、親しい店もありますし。」
「色々、顔が広いんですね。」
「人脈は結構あります。ゲイ、ノンケ問わずね。雫は、昔から、結構、自分がゲイだってこと、おおっぴらにしいますからね。それでも、普通に友人続けていられる人間は残りますし。時代の流れでもあるのでしょうか、割と、受け入れてくれる人も多いです。それでいて、別に雫自身は、他の人にカミングアウトすることを強制しません。やっぱり受け入れられない人間はいますから。そんな中でも、知り合いのゲイが、生きやすいように取り計らってくれます。例えば、ここのマスターは恋人と同棲してますけど、その時、その為に、力を貸してあげたみたいです。」
「そういう知り合いがいると心強いですね。」
「そうですね。では、蛍くん、智也くん、私もこの辺で。また、お会い出来たら、その時はよろしく。」
「こちらこそ。よろしくお願いします。」

 食事も終え、靖史と二人、引き続き、その席で、今度は、マスターが出してくれた酒を飲んでいる。
 このバーに、集う人間の気持ちが、また少しわかったような気がした。
 そして、俺は、より一層、このバーに惹かれた。

「このバーに出会えてよかったよ。」
「智也に、そう言って貰えて良かった。」

 そして、靖史に『トクベツ』だと言ってもらえた事。
 俺と、靖史は、これからも、こうした距離感で付き合っていく事だろう。
 それが俺たちのココロの距離と上手く適合していくだろうから。

 それが、靖史が俺を『トクベツ』な相手として、認めてくれている。
 俺も、靖史を、『トクベツ』な相手として、認識している。

 二人が二人、それぞれ、一人の人間として、互いに認め合い、生きていく。
 恋愛感情を持たないと言った靖史と、愛する事が、苦手な俺。
 それでも、それなりに、上手くやっていける。
 そういう相手と、巡り合えた事、本当に感謝しなければ。

 晴彦は、今、どうしているだろうか。
 俺は、やっと、自分の道を、自分の相手を見つけられた。

 それから、本当に何年振りかに、晴彦と連絡を取った。
 晴彦は、晴彦で、上手くやっているらしい。

 靖史は、晴彦の事をどう思うだろうか?
 多分、実際知ったら吃驚びっくりするだろうな。

 晴彦の相手が、俺達を、招待してくれて、実際会った。
 そうして、色々、俺も吃驚びっくりしたのには言うまでもない。

 それぞれの人間が生きる『カタチ』。
 その多様さに。
 だから、俺達も、俺達なりの関係で良いんだ。

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『ココロの距離-7-』

 約束はあくまでも約束であって、必ずしも遂行される訳ではない。
 それなりに、予定を組んで仕事をしているが、どうしても、はずせない場合も出てくる。
 無責任にもその仕事を放り出す訳けにはいかないし、仕方なく、蛍との約束をキャンセルする。

「思いがけず、仕事が立て込んで今回は会えそうにない。」
 そう伝えると、蛍からは、『仕事が片付いたら、また連絡して。もしかしたら、僕の方が、その時忙しくて会えないかもしれないけれど』そう返事が返ってきた。

 しかし、いきなり、と言うのも無理だろう、ある程度落ち着いた段階で、再び、蛍に連絡を入れて、お互い都合をつけて、会う約束をした。

 それまで、暫らく、間があったので、仕事と家の行き帰りだけ、というのも味気なくて、独りで、ふらりとバーに顔を出す。
 世間から隔絶された、雰囲気を持つ、その場所は、日常を忘れさせてくれる。
 そして、そこで出てくる酒はまた格別だった。

 勿論、味自体もそうだし、程よい酔いをもたらしてくれるのは、アルコールだけじゃない。
 現実から逃れたい訳ではなく、ただ、一時の安らぎの為に、訪れるのは悪くない。

 安らぎは、また、日常への活力となってくれるから。
 現実社会において、多少のストレスは仕方がない。
 それをどう上手く発散できるか。
 それによってまた精神状態も違ってくる。

 元々、それほど、ストレスを溜め込む性質たちではないけれど、俺にとって、このバーはとても居心地がいい。
 独りで飲んでいても、蛍と飲んでいても、それはそれで、また別の楽しみがある。

 マスターも、こちらが話しかければ、それに答えてくれるが、必要以上には絡んでこない。

 わいわいと、騒ぎたい人間にとっては、この店は不向きだろう。
 他人が楽しそうに騒ぐのをみて、また、それに楽しみを覚える事もある。
 俺自身もその感覚がわからない訳ではない。
 もし、それが欲しくなった時は、他の店をあたればいいだけの話だ。

「そういえば。」
 そう言った、マスターから、ダークブラウンの葉書を二つ折りにしたような紙を手を渡された。
 『有限の時の中で、記念の一夜を貴方と共に』
 そんな文句と、日時、バーの名前が白いペンで達筆に書かれている。
 おそらく、これは、手書きの物だろう。

「これは?」
「今度、ささやかながら、10周年記念をしようと思いまして。もしお時間が合えば、智也さんもいらっしゃってください。」
「いいんですか? 俺なんか、まだ、この店にそう何回も来ている訳ではないのに。」
「回数は問題ではありませんし、こちらとしても、別に参加を強制しているわけではありませんから。蛍さんにはもう話してありますし、蛍さんから智也さんにお誘いがあるかもしれませんし。まあ、大した規模の店ではありませんから、記念、と言っても、そんなに期待されるような事はいたしませんが。」
「いえ。嬉しいです。お誘いいただいて。あの、これ、お手製ですよね。マスターが?」
「いえいえ。私は、こういうのは得意な方ではありません。もし私が作るんなら、本当にありきたりなものを、印刷会社に頼んでしまいますよ。そういう商売もありますからね。ただ、この店のオーナーが、こういうのが、好きな人でして、それ程お暇な人ではないんですが、まめにやってくださるんです。」

「経営は、そのオーナーが?」
「実質的には、私が殆ど任されています。経理関係で、色々な諸手続きは、オーナーのつてで、オーナーの知り合いにやってもらっています。」
「そうなんですか。でも、本当に手が込んでますね。だって、これだって、一枚一枚、手書きで書かなければならないでしょう? どれだけの数を書かれているか知りませんが。」
「それだけ、大切にされているんです。嬉しい事です。」

 マスターも、オーナーもこの店を愛している。
 そして、この店に集う客もまた、こう言う店を愛している。
 それが、温もりとなって、ココロに染み渡ってくる。

「まだもうちょっと先ですね。是非、何とか都合をつけたいと思います。」
「ありがとうございます。開始時刻に間に合うように来ていただければ、ある程度の食べ物も、用意させていただきますから。」

 実際、どれくらいの人間が集まるんだろうか。
 他の客の事は殆ど知らない。
 それでも、この店に来る人だから、やっぱり、この店に惹かれているんだろうな、と思う。

 夜が遅くならない内に、マスターにお礼を言い、温もりを抱きしめて帰った。

 それから数日後、今度は、蛍と約束をしていたので、再びバーへ向かった。
「久し振り、智也。」
「この間は、ゴメン。」
「いいよ。だって仕事でしょ? 仕方ないじゃん。僕だって、もしかしたら、何か別の事を優先させる事だってあるだろうしさ。」

 蛍が、決して冷めている訳ではない。
 ただ、物事の優先順位において、何を、優先させるべきか、自分の中ではっきりさせている。
 何が大切なのか、何を一番にもってくるのか、それは人それぞれで、また、時によって異なる。
 蛍は、多分、それをよく知っている。

「あ、そういえばさ、今度、このバーで10周年記念やるんだけど、ええっと、この日。空けられそう?」
「ああ、その話なら、私から、智也さんにしましたよ。招待状も渡しましたし。」
「ええ? そうだったの? まあ、いいや。それなら話が早い。どう? 智也?」
「何とか、時間作るよ。」
「そっか。よかった。」

「蛍は、この店、好きなんだね。」
「え、ああ。うん。もちろん。智也も、そうでしょ? ここにいて、全然違和感感じないもん。」
「ああ、そうだね。この店に会えて、本当に良かったと思ってるよ。」
「だってさ。よかったね。マスター。」
「ええ。」

 店に入る時も、いる時も、出た後も、その時その時が、それぞれの味わいがある。

 店を出て、俺の家に向かいながら考える。
 蛍が今まで歩んできた道。
 そして、俺が、今まで歩んできた道。
 その中で出会ってきた人々。

 誰かの人生を背負い込める程、人は大きな存在じゃない。
 その人の、全てを受け入れなければ、真に付き合っていけないのか。
 それも、やはり違うんではないかと思う。

 一緒にいる時間とか、会った回数とか、そんなことも関係なく、それで、お互いの存在を認め合えるのなら、一部を共有しながら、生きていけるのではないかと。
 求め合う関係に、ずれが生じても、それが、決定的な別れには繋がる訳ではない。
 俺は蛍と、蛍は俺と、そこに、ずれがあるのを知りながら、付き合い始めた。

 もし仮に、誰かに、『恋人か?』と聞かれたら、蛍はどう答えるだろうか。
 そして俺は。
 『恋人』である事に、何か意味はあるのか?
 贅沢を、望むなら、『友達』でもなく、『恋人』でもなく、そんな枠組みに囚われない、それ以上の存在を。
 それが、決して崇高なわけじゃない。
 だけど、俺達は、本当に『友達』とも『恋人』とも違うから。

 より密な関係を望んでいる訳じゃない。
 上手く、距離をとりながら、時には一緒に、時には独りになって、そのどちらの存在も尊重したい。

「蛍は、浮気されたらどうする?」
「何? 智也、浮気したいの?」
「いや、そうじゃなくてさ。」
「んー、ゴメン。そもそも、僕に、浮気っていう定義がわからない。どこまで、どうしたら、浮気なのか。」
「じゃあ、もし俺が、他のオトコとセックスしたら。」
「んー、んー。ゴメン、本当にやっぱりわかんないや。あ、でも、きっと、何とも思わないと思う。智也の事を、どうでも良いと思っている訳じゃないけど、それだけが物差しじゃないからなぁ。」

「蛍のそういう感覚。ちょっと、蛍の方が心配だよ。」
「僕? まぁ、前科者だから、何とも言えないけど、今は、世間一般の貞操観念に基づいて、行動してるつもりだけど?」
「貞操観念……」
「あ、僕が言っても、説得力ない?」
「いや、そういう訳じゃないけど。」

「浮気。浮気、ねぇ。それに拘られる事自体あんまり好きじゃないなぁ。」
「あー、蛍に聞いた俺の方が馬鹿なような気がしてきた。」
「でも、智也も、あんまりそういう事って気にしないほうじゃない? 相手の時間は相手の時間。自分の時間は自分の時間。そこで何してようが自由。放任主義、とは、ちょっと違うんだろうけどさ。それが、智也なりの、相手への尊重の示し方なんじゃないの?」

 相手の事を愛している。
 だから、その人間の事を尊重したいし、信頼したい。
 実際そのつもりだった。
 けれど、人によっては、それでは、不満なんだろう。

「あ、そういえば、これあげる。」
「何?」
 手渡されたのは、名刺だった。
「これ、僕の、名刺。『蛍』は『蛍』で良いって言ってくれたでしょ? でも、やっぱり一応、知らせておくべきなんじゃないかと思って。二人でいる時は、どっちで呼んでもらっても構わないよ。ああいう店に行く時は、『蛍』で通して欲しいけど。」
「ああ、ありがとう。靖史っていうんだね。」

「これから、付き合っていても、多分、知らない事って、沢山あると思う。そして、その全てがわかる訳じゃない。でも、もし、僕の何かを知りたいと思って、僕が答えられる範囲だったら、答えるよ。」

「それは、俺も、同じってことだな。」

「そうだね。だから、今夜は……。」

 そうして、ベッドの波に溺れていく。
 何度か、重ねた肌を、蛍は、更に探るかのように触れてくる。

 蛍が触れる指先から、蛍の舌が這う所から、俺の官能を引きずり出して。

 突き上げられるアナルの裡のもっと、もっと奥まで。
 蛍のペニスを飲み込んで。

「あ……ああ…ん……あ……靖史……」
 それは、まだ呼びなれない名前。
 けれど、ずっと知っていた存在。

 抽挿され、前立腺を刺激されると、快感が、漏れ出るように湧き出てくる。

「ん……はぁ……あ……ああ!」
「智也……」

 求めても、求めても、求めきれない物がある。
 それが、カラダを重ねることで埋められる訳じゃない。
 けれど、それを、欲してしまうから。

 長く続く、絶頂の中で、蛍の、靖史の存在を、感じていた。

そうやって、蛍が俺を欲して抱く事も、俺が、蛍を欲して抱く事も、俺達ちには、自然なカタチなんだ。

 知らないから知りたい。
 知りたいけど知りたくない。
 そんな矛盾した感情に人は、支配されているけど、それは、それで良いんだと。
 それが、どんな、些細なことでも。
 もしかしたらそれは、二人にとって、大切な事かもしれないから。

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『ココロの距離-6-』

 俺は、基本的に目覚まし時計をかけるが、これは、予防的なものだ。
 大概は、目覚まし時計が鳴る、5分から10分前に起きる事が多い。
 目を覚ますと、時計に手を伸ばし、時刻を確認する。
 大体いつもと同じ通りだ。
 それを確認して、スイッチを切る。
 だから、俺は、目覚ましの鳴る音を殆ど聴いた事がない。
 ごく稀に、目覚ましのベルを鳴らせてしまうと、目覚めが不愉快になってしまう。

 昨夜、約束した通りに、ベッドの隣で眠っている、蛍に声を掛ける。
「蛍、朝だぞ。」
「ん……」
 蛍の睡眠も目覚めのタイミングに入っていたのか、ゆっくりと瞼が開けられれ、俺の方に目を向けてくる。

「おはよう。蛍。」
「え、あ、ああ。おはよう。智也。」
「なんだよ、驚いたような顔して。蛍が、起こせっていったんだろ。」
「あ、うん。そうだけど。ああ、そうそう。僕も、朝食、作るの手伝うよ。っていっても、大した事出来ないけど。」
「俺だって、大したもの作ってる訳じゃないし、気を使わなくっても良いよ。」

 二人で、キッチンに向かって、俺が、味噌汁を作っている間、蛍に、サラダ用の野菜を切ってもらう事にした。
 冷蔵庫から、野菜を取り出して、まな板と包丁、そして、盛り付けるための、器を渡す。

 蛍も、蛍で、それなりには出来るのだろう、それ程見栄えの悪くないものが出来上がった。
 俺の方も、お椀によそってテーブルの上に置く。
 それから、タイマーを仕掛けてあった、炊飯器からご飯をよそう。

「ねぇねぇ、あれ作って、卵の半熟。自分でやってみてもさぁ、中々、上手くいかないんだよね。」
「あれ、好きなのか?」
「うん。」

 材料は、確かあったはずだ。
 ベーコンと卵を持ってきて、フライパンで調理しているところを、蛍は一生懸命に見ていた。
 そして、その出来上がりを見て、喜んでいた。

「おー、やっぱ、完璧。卵も、新鮮だよね。この黄身がやっぱり美味しいよ。」
「それはどうも。」

 食べ終えると、やはり、蛍に手伝ってもらって、食器を洗い終えた。

「部屋ってさ、人がいなくっても埃ってたまるものでしょ? この家、どれだけ使ってない部屋あるの? 掃除、大変じゃない?」
「一応、週に一度は、全部、掃除機を掛けてるよ。元々、3人家族だったから、それ程、広いって訳でもないし。見てみる?」
「え? うん。いいの?」
「別に隠すものも何もないからね。」

 殆ど使っていない応接室。
 以前は、色々なものを置いていたけれど、今はもう処分してしまっていて、がらんとしている。
 ガラス戸から射し込む陽の所為か、一部分だけ、絨毯がの色がすすけている。
 使う気もないから、そのまま放置して何年になるだろうか。
 それでも、絨毯の部屋だから、ダニがわかないように年に一度はきちんと駆虫はしているが。

 本当に、使っていないのは、その部屋と両親の寝室くらい。
 その寝室にあったベッドも、もう、とうの昔に処分してしまった。

「家、処分して、引っ越そうとか思わないの?」
「それもまた、手続きとか要るからね。別に、この家に思い入れがある訳じゃないよ。ただ単に、面倒くさくって。」
「本当に、これだけ広くて、独りで住んでて、寂しくないんだ。」
「もう慣れたしね。だいたい、蛍だって、独り暮らししてるんだろ?」
「僕のマンションなんかじゃ、比べものにならないよ。必要なだけの部屋しかないんだから。」
「それでも、独りで暮らしている事には変わりない。」
「まあね。僕にとっては、独り、って言うのは、結構快適だからね。それに、あんまり、他人に踏み入って欲しくないしね。」
「自分だけのテリトリー?」
「まあ、そうかな。自分が、自分の自由でいたいところ。踏み込まれて嫌な訳じゃないんだけど、出来るなら、そっとして置いて欲しいかな。」
「誰でも、そういうところって、あるんじゃない? ある程度距離を保ちながら、どこか肝腎な所は、踏み込んで欲しい、とか。そういうのって、難しいよ。本当に。他人との距離感覚って。」

「僕は、結構、離れた関係を保つね。僕にとって、それが楽だからね。そういう関係で、満足できる人が多いかな。」
「俺も、どっちかって言うと、遠くから見るタイプだね。蛍は、自分のココロに立ち入らせない、っていうより、うーん、なんだろうな、立ち入られても、別に構わないけど、放っておいて、って感じかな。それを、自分の中で線引きをしてる。だから、蛍は自分の事を『蛍』って名乗るんだろ?」

「ああ、うん。もう、それで通ちゃってるからね。智也は、気にする? 僕の本名。」
「気にならない、って言ったら嘘だけど、どんな、名前でも、蛍は蛍だろ。別に、俺の前で、何かを演じてるようには見えないけど。」
「偽っているつもりはないからね。ある意味、『蛍』の方が、僕の本性に近いかも。もちろん、本名で仕事してるし、その時が、仕事モードって感じで。」
「俺は、あんまり、他の名前、って考えたことないけど、独りでいるときって、自分をどういう風に認識してるんだろうね。」
「僕は……どうなんだろうね。考えた事ないや。」
「ほら、ラジオネームとかさ、ペンネームとか、ハンドルネームとかさ、色々つけるじゃん? 今みたいに、ネットが普及してくると余計ね。ただの『匿名希望』じゃなくて、何かつけてさ。その人たちは、その名前に、どんな思いを込めているんだろうかって。」
「心理学的な興味?」
「半分はね。」

 そんな風に会話しながら、俺の仕事場兼本棚に囲まれた部屋に案内する。
 立ち並べられた本棚と、隅にあるパソコンを置いた仕事用のデスク。

「本って、殆ど専門書? それ以外に何か読んだりするの?」
「そうだね。大概は、専門書か、心理学関係の本だね。後は、たまに短編集とか、小説とか。蛍は? 本、よく読むの?」
「んー、色々読むよ。お気に入りの作家とか、その作家のお気に入りの作品とか。精神分析の入門書みたいなのも読んだ事あるし、社会学とかも読むし、あ、もちろん、法律の本もね。サスペンスとか、ホラーとか、純文学とか。」
「結構幅広いんだね。」
「そうだね。本屋でふらふらしたりよくするよ。短編は殆ど読んだ事ないな。面白い?」
「気が向いたのしか買わないけどね。これも、作者のセンスと、読者のセンスの問題かな。」
「まあ、そうだよね。面白い、面白い、って言われてても、自分には合わないのってあるからね。で、智也は、どれがお気に入り?」

「んんー、最近たまたま手にとってみて知って、短いから、本当に軽く短時間で読めるんだけど、何となく、考えさせられるような内容なんだけどね。あ、この人。1冊しか出してないんだけど、『立川怜』って言う人。『海の底の底』。よかったら、貸すよ。それなら、懐が痛まないだろ? 短編だから、少し読んで、合わないと思ったら、すぐ止めたらいいし。」

「んじゃあ、ありがたく、お借りしていきます。他人の本棚を覗くのも楽しいね。」
「そう? やっぱり本が好きだから?」
「そうだね。本屋はさ、何でも置いてなきゃ駄目じゃん? でも、個人の本棚は、その人の趣味が表れてるからさ。あ、こういう小説読むんだ。智也って。」

「ん? どれ?」
「これこれ。神崎晴彦の本。全部揃ってるんじゃないの? お気に入り?」
「え? ああ。蛍こそ知ってるの?」
「うん。僕も好きだよ。この人の本。あんまり、賞とか興味ないけどさ、この間、ノミネートされたでしょ。残念ながら、賞は取れなかったけど。」
「ああ、そうだったんだ。そこまでチェックはしてないや。」
「やっぱり、あんまり賞とか気にしないんだ。」
「そうだね。俺が気に入れば、それで全てだし。まあ、ただ、気に入っている人には、ある程度売れてもらわないと、きっと次が出版されないから、困るけどね。」
「そうなんだよね。」
「……この作家は、俺にとって、思い出深い作家だから。」

 何となく、少し昔を思い出してしまった。
 懐かしい、あの日々を。

「この人、確か、これ、本名だよね。」
「うん。」
「本名、か。……僕は、もう少ししたら、多分、智也に、本名を告げられるかもしれない。智也なら、多分……僕の全部を見せられるような気がする。智也が、僕に置いてくれる距離は、僕にとって、心地いい。智也が、それを、どう感じているかわからないけど。」
「俺は、好きだよ、蛍のそういうところ。例え、本名を知ったところで、その距離が、とても縮まるとは思わない。近付きすぎても駄目、遠すぎても駄目。蛍は、そういう意味で、俺にとって、いい場所にいるよ。蛍が、どういう感情を、俺に持っているかわからないけど。」

「それでも、智也は、いいんでしょ?」
「ああ、そうだね。」
「ありがとう。」
「何も、お礼を言われる事なんてしてないよ。」
「じゃあ、これから、して。」
「え?」

 蛍の腕が、俺の首に絡み付いてきて、唇を重ねられた。
「ベッド、行こう?」
 そのまま、寝室のベッドに倒れこんで、カラダを重ねる。
 纏っていた服を、キスをしながら、脱がされていく。
 そうして、俺もまた、蛍の服を。

「ん……ふ……ぅん……」
 お互いのカラダを弄り合って、ペニスに手を伸ばす。
 勃ち上がりかけたペニスを握り締め、扱きたてていく。

「あ……智也……イれて……」

 乞われたように、ローションの滑りを借りて、指を挿入する。
 指で、裡を刺激しながら入り口を解していく。
 昨夜の今日で、そんなに急いている訳ではない。
 だから、時間をかけて、ゆっくりと。

 それから、ゴムを装着したペニスを蛍のアナルに挿入していく。
「あ……は……ん……智也……」

 ゆっくりと、腰を動かし、ペニスを抽挿する。
「イイよ……智也……ソコ……もっと……!」
 蛍が求める場所を、擦るように突き上げる。

 蛍が求めているのは何なのだろうか。
 そして、俺は、それを、与えられるのだろうか。
 逆に、俺は、蛍に何を求めている?
 蛍はそれを、満たしてくれるのだろうか。

 けれど、今は、ただ、お互いのカラダを感じるだけ。
 求めるだけ、求め合って、その先にあるものは、決してカラダだけではないと信じたい。

「ん……はぁ……あ、あ……もう……イ…く……!」
「ん…くぅ……」

 どちらが、先に達したのだろうか。
 そんなことは、関係ない。
 そこに残る、快感の余韻に浸っていた。

「晩飯、どうするの?」
「さあ、何にしようか。」
「まあ、とりあえず、買出しに行く?」
「そうだな。適当なものがあるといいけど。」

 近くのスーパーまで、並んで歩いて、買い物に行って、結局、安売りをしていた、野菜と、肉を買って、シチューになった。
 お手軽だけれど、それでも、二人で、キッチンに立って、味付けにあれこれ言いながら、納得いくものを作り上げて、食する。
 きちんと、後片付けまでしてから、次に会う約束をして、蛍は帰っていった。

 蛍は、独りでいる時間を大切にしている。
 俺もまた、独り過ごす時間が、決して嫌いではないんだろう。
 そんな中でも、共に過ごせる時間は、それなりに楽しめる。
 自然体でいられる事。
 それは、とても、贅沢な事だと思う。
 けれど、大切な事だと。
 それを、忘れないでいたい。

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『ココロの距離-5-』

 約束の時刻は特に決めていない。
 それでも、相手が来るまでの時間を、一人で退屈せずにあの店では飲める。
 今回は、俺の方が早く着いたようだった。

 マスターにお勧めのものを聞くと、初めてここを訪れたとき頼んだ酒みたいなものが好みなのかと尋ねられ、『それでしたら、こちらなんか如何でしょうか』と、目の前にアルコールの入ったグラスが置かれる。

 勧められるがまま、そのグラスの中の液体を口に含む。
 これは……初めて頼んだ時のものと系統的には良く似ているが、少し違う。
 こちらの方が、より好みかもしれない。

「如何ですか?」
「ええ、とても俺に合っているようです。」
「そうですか。よかったです。」

 飲み干す、というよりも、一口、一口味わうように飲んでいく。
 そうすると、口の中に広がる味と、そこからあがる香りが十分堪能できる。
 ゆっくりと、グラスの中のアルコールを飲み干した時に、調度、蛍がやってきた。

「いらっしゃいませ。」
「こんばんは。」
「何になさいますか?」
「取り敢えず、ビール頂戴。マスター。」
「はい。かしこまりました。」

「ゴメン、智也、遅くなって。」
「いや、構わないよ。仕事?」
「うん。そう。」

「はいどうぞ、蛍さん。仕事上がりのビールは格別ですよね。」
「そうそう。取り敢えずすかーっとね。その後は、ゆっくり、マスターのお酒を味わいたいけどね。マスターって、基本的にお酒飲まないんだったよね? それでも、ビール飲みたくなる時ってあるの?」
「夏場は、風呂上りにグラス一杯くらいはね。」
「あ、その瞬間もわかる。」

 ビールは、確かに最初の一杯が一番美味しいかもしれない。
 こういう風に味わうのとは別で、その喉越しを求めて、ぐびぐびと飲んでしまう。

「お忙しかったんですか?」
「トラブルがあったわけじゃないんだけど、妙に雑用が多くって。僕はまだ、下っ端だし、コネ採用だからね。」
「コネ採用って、確かに、紹介はあったんでしょうけど、それだけで採用するほど、あの人達は、甘い人ではありませんよ。」
「一応はわかってるけどね。でも、やっぱり、覚えられる事は覚えたいから。」

 蛍は、ビールを飲み干して、今度は、お気に入りのものを、追加注文している。

「蛍って、仕事何してるの? って聞いてもいいかな?」
「あ、うん。一応、弁護士。知り合いの、知り合いの、知り合いに事務所持ってる人がいるから、その人のところで働かせてもらってるんだ。」
「へえ。そういう家系とか?」
「いや、全然。家の父は、一応、一流企業のサラリーマンだよ。」
「何で、弁護士になろうと思ったの?」
「んんー、何でかな? 法律に興味があったからかな。だから、法学部行って、折角だから、司法試験の勉強して、通ったから、今に至る、みたいな。」
「何となく、勉強して、で通れる試験じゃないだろ。」
「そりゃあ、受けるからには、受かるつもりで、勉強したよ。一応、真面目だからさ。」

 一応、ね。
 前置きが付くんだ。
 取り敢えず、遊びで付き合う、っていう感じでもないし。
 恋愛出来ない、っていうのも、きっと蛍なりに色々経験した結果なのだろう。

「智也は? 智也は、何やってるの?」
「俺? 俺は、大学で、心理学の研究。どうも、臨床には向かないからね。大学に残らせてもらって、助教としてやってる。」
「へえ、もしかして、相手を見るとき、そういう目で見たりする?」
「意識しては見ないけど、恋人と別れた後に、どうしてこうなったんだろう、とか考えることはあるね。」
「で、答えは出るの?」
「いいや。闇の中だね。相手のココロは、本当に、推測するだけだし、自分のココロも、完全にはわからないから。」

「そういうところも、研究するのは面白いのかな?」
「そうだね。実際、恋愛の悩み、っていうのは尽きないし、後は、今よく言われる、職場でのストレス、とかかな。」
「結局、どっちにしても、人間関係なんだよね。」
「うん。そう。お互いが、ココロを持っているからね。特に恋愛の場合。仕事の面になると、ノルマの重圧とか、個人が抱える、悩みの方が多くなったりするけどね。」

「智也も、智也自身、悩みを抱えてる?」
「悩み、って程じゃないけどね。自分の考え方とか、感じ方とか、人との付き合いの中で、色々発見する事はあるよ。」
「完璧そうに見えても、そういう人って、いないんだよね、きっと。」
「だろうね。それでも、そんな中で、自分のココロと折り合いを上手くつけて、やっていくしかないんだろうな。」

「智也の事を、優しい、って感じるのは、相手のココロの事も、考えてあげられるからなんだろうな。」
「俺は、別に、優しくなんてないよ。」
「ううん。僕にはそう感じられる。相手を尊重するけど、決して甘えさせるだけじゃない。だから、一緒にいても、話していても、心地良いって感じるんだと思う。」
「そう言ってもらえると、嬉しいな。」
「独りでいるも嫌いじゃないし、実際、独りでいても、寂しいとか思わないし、平気なんだけど、誰かと、時間を共有するのもいいな、って。もちろん、それが、友達でも全然良いんだけど。」
「でも、友達、ではないだろ? 俺達。」
「そうだね。智也が、僕に求めているものと、僕が、智也に求めているものは、きっと違うんだろうけど、そこに、すれ違いを感じてないのは、僕だけかな?」
「それは、俺も考えたよ。蛍は俺を、恋愛対象としては見ない、俺は、俺なりに、蛍をそういう風に見てる。求めるものが違うっていうより、求める過程が違うような気がする。」

「求める過程、か。その場合、同じところに行き着くのかな?」
「いや、どうかわからないけどね。この先、道は違っても、一緒に歩いていけたらいいな、と思う。」
「道は違うのに、一緒に並んで歩けるの?」
「蛍は、どう思う?」
「そうだねえ。そう出来たらいいね。」

 一通り、アルコールとそのバーの雰囲気を堪能して、再び、俺の家に向かう。
 途中、コンビニに寄り、蛍は何か買い込んでいるようだった。
 俺の家に着くと、冷蔵庫を借りていいか、と尋ねてきて、許可を与えると、コンビニで買い込んできたものを、冷凍庫と冷蔵庫に仕舞っていた。

 それから、ベッドへ向かい、今度は、蛍が求めるまま、俺は蛍を抱いた。

 蛍の腕が、俺の頭を引き寄せ、唇を重ね合わせる。
 そうして、求め合うように舌を絡ませあう。
 お互いの舌が、お互いの口腔内を刺激する。

「ん…ふ……」

 呼吸するのを忘れるように貪りながら、時折、思い出したかのように、鼻で息をする。
 一瞬の息苦しさに、喉を鳴らせる。

 それから、蛍は、俺のペニスに唇を寄せ、口腔内に取り込んでいく。
 喉の奥まで含んだかと思うと、今度は、先端を刺激し、幹を手で擦りあげる。
「ん…蛍……」
 その心地よさに、自分の手を、蛍の頭に添え、これ以上は、ヤバい、というところで、蛍の、顎に手をかけ、その行為を止めさせた。
「もう…いいよ…蛍……」

 顔を上げた蛍の唇に、一瞬、俺の唇を重ね合わせ、今度は、俺が、蛍のカラダをなぞっていく。
 首筋をたどり、乳首を摘み上げる。
「あ…は……」
 片方の乳首を、指で弄りながら、反対の乳首に唇を寄せていく。
 尖った乳首を吸い上げ、軽く歯を立てると、蛍の口から、と息が漏れる。

「ああ…イイよ……智也……」

 十分そこを愛撫してから、更に、下へ、手を伸ばし、勃ち上がったペニスに触れる。
 そのペニスに口淫を咥えながら、ローションを手に取り、指を、アナルに挿入していく。
 蛍が、感じられる場所を刺激しながら、アナルを解きほぐす。

「智也……そんなに、したら…も……イれて……」

 俺も、そんなには、我慢できそうになかったから、その求めに応じて、すぐにペニスにゴムを装着して、蛍のアナルに挿入していった。
 それから、ゆっくり、そして、徐々にスピードを上げて抽挿を繰り返す。

「んん……あ…ああ…はぁ……」

 俺の背中に回された、蛍の手が、俺の律動を促す。

「あ…イイ…!ん……も……イきそ……」
 限界を伝えてくる蛍のペニスに手を添え、その解放を促す。

「あ!ああ!…も…イ…く…!」
 射精を迎えた蛍の裡で、俺も間もなく達していた。

 解放された気だるさにしばらく、ベッドの上で、まどろんでいて、落ち着いてきた頃、蛍が、話しかけてきた。
「智也、グラス借りていい? 喉渇いた。」
「ああ、いいよ。多分、キッチンの棚にあるはずだから、出すよ。」
「ありがとう。」

 軽くシャツを羽織っただけの格好で、キッチンへ向かう。
「智也も、飲む?」
「ん? ああ」
「じゃあ、2つお願い。」

 普段、それ程使うものではないので、棚から、グラスを2つ取り出し、水で一洗いしてから手渡す。
すると、蛍は、冷凍庫から、氷を取り出して、グラスに入れ、そこへ、ミネラルウォーターを注いでいく。
 そして、その上から、レモンの形をした、プラスチック容器から、液滴を数滴垂らした。
 その1つを俺に手渡してくる。

「蛍が、コンビニで買ってたのって、これ?」
「うん。そう。ちょっと飲んでみて。」

 そういわれて、口に含む。
 その水は、ひんやりとしていて、僅かにレモンの酸味があって、さっぱりとしている。

「へえ、すっきりするな、これって。」
「そう? 気に入ってもらえてよかった。レモンが少し入るだけで大分違うでしょ?」
「ああ。」
「結構、お気に入りなんだよね。暑い夏とかにも最適。僕もこれ、人に教わったんだけど。レモンじゃなくて、レモンにも含まれている、クエン酸自体を入れる人もいるらしいけど。」
「どっちにしても、原理は同じだね。」
「まあね。」

 喉越しの爽やかなそれを、飲み干した。
「さてと、そろそろ寝るか。」
「お風呂は? どうするの?」
「俺は、もう、シャワーだけでいいけど、蛍はどうする?」
「僕も、シャワーだけで良いかな。」
「んじゃ、お先どうぞ。」
「ありがと。」

 二人とも、シャワーを浴び終えて、ベッドに横になる。
「何か、色々話したけど、まだ、2回目なんだよね。泊まるの。」
「ああ。」
「もうちょっと長く、一緒にいるような気がする。」
「そう?」
「うん。本当に、落ち着いていられるから。」
「そうか。良かった。」
「じゃあ、おやすみ。明日は、ちゃんと起こしてよ。直哉が、朝食作るところ、ちゃんと見てたいから。」
「わかった。おやすみ。」

 少しずつ、わかってきたような気がするけど、まだまだ、きっと、知らないことは沢山ある。
 それは、蛍も、俺も。
 そしてそれは、必ずしも全てを知らなければいけない訳ではない。
 例え、親子であっても、恋人であっても、友達であっても、境界線がある。
 その境界線を、それが隔てる二人の距離を、上手くとっていく為に必要な事。

 お互いが、それぞれ、手探りで進んでいかなければならないのだ。
 共に、歩んでいくのなら。

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