暴走書家

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『共犯者-11-(完)』

 人が成長する為に、一人で考えなければいけないこともあるし、他人から与えられるちょっとした契機(きっかけ)で動く事もある。

 先輩に会った事を悔やんではいない。
 先輩との関係をもう恨んではいない。
 そして、先輩が選んだそのコの事も。

 どちらも俺の中では大切な存在だから。
 俺と先輩、先輩とそのコ、そして、そのコと俺。
 それぞれの中にそれぞれの関係がある。

 恋人として、付き合っていこうとする二人を、俺は見守っていくつもりだ。
 それがどんなカタチになるのかはわからない。
 先輩の浮気癖が直るかどうかなんてわからないし、その事にやきもきしてそのコが落ち着ける事はないかもしれない。
 俺は2人の味方だから。
 もしかしたら、何かの契機(きっかけ)で別れる事になるかもしれないけれど、その時までしっかり見守るつもりだ。

 そのコがまた不安になって、俺を訪ねてきたら、力になってあげるよ。

 そのコと俺の間で交わした密約は、生きているから。

 何となく遠のいていた、オトコの元へ久々に俺は訪ねていった。
 仕事が開けられなかったのもあるし、そのコに関わっていたのもあるし、自分のベッドで眠る事が出来るようになったからでもある。
 思えば、最初の時を除いて、オトコのところに行くのは常に俺の方だった。
 オトコから俺に連絡がくる事はなかった。

 俺とそのオトコを繋ぐものは何なのだろうか。
 最初に付き合おう、といってきたのはオトコの方だったのに。
 それなのに、あんな話までしてきて。
 結局乗ってしまった俺も俺だけど、それに対して何も言わないなんて。

 電話の声は、久し振りに聞いてもいつもと変わりなくて、実際会っても、会わないでいた間を全然感じさせなかった。
 オトコは俺の変化に気付いていたようだけど。
 やっぱり、気持ちに一区切りついたのがわかるんだろうか。

「雫さんは、俺とどうしたいんですか? 俺は、先輩を好きだった。それを認める事が出来た。そして、その束縛から逃れることが出来た。でも俺は、雫さんを恋愛の相手としては見ていないと思う。」

「……うん。そうだろうね。それで? 直哉くんはどうしたいの?」

「え……? どうしたいって?」

「今まで会って、セックスしてきたのだって、恋愛してた訳じゃないでしょ? 多分、これから先の事はわからないけどね。確かに、僕は直哉くんの事が気に入っているし、大切だけど、別に僕のほうも、恋愛していた訳じゃないからね。」

「それがわかっていても、俺と付き合っていたんですか。」

「そして、そう、直哉くんの中で、僕との関係を見直したいと思ったとき、直哉くんがどう考えるか。それは、直哉くん次第だよ。狡い人間なんだろうけど、僕は、大概、相手に選択させるから。」

「もし、俺が、もう付き合わない、と言ったら、そうするつもりなんですか。」

「そうだよ。言ったでしょ、相手次第だって。誰かとの関係において、その感情はとても複雑だよね。だから、それが、お互いの中で上手くいかなくなったと思ったとき、それは終わってしまうんじゃないかな。」

「雫さんから、別れる、とは言わないって事?」

「本当に、僕は狡い人間だからね。だから過剰に他人に求めようとはしない。多分それが誰であっても変わらないと思う。どんな関係にある人間であっても。相手の方がね、気付いてしまうんだ。僕では物足りないってね。だから、いつも振られるのは僕。そういう覚悟って、いつの間にか出来ちゃうんだ。求めてばかりじゃ駄目だけど、求められない事はきついからね。その加減ってとても難しいんだ。だから僕はどうしても相手に任せてしまう。楽だからね。それが。結局別れる事になったとしても。」

「俺が雫さんをトクベツ好きじゃないって言っても、でも別れないって言ったら、別れないの?」

「そのさ、『トクベツ』とか『好き』にも色々種類があるからさ。直哉くんが、僕の事をどう見ているかはわからないけど、僕はそんなにいいオトナじゃないよ?」

「雫さんはどうして、ちゃんと恋人とか作らないんですか? いた事ないんですか?」

「恋人……ねえ。いた事もあるけど、中々、無理だと思う。結構、滅茶苦茶だったけど、同棲してた事もあるけど。もう随分昔の話だけどね。」

「同棲までしてたのに?」

「そうだね、それでも、お互いを恋人だって思った事はなかったよ。お互い求めていたものは違ったけど、それなりに『トクベツ』だったからね。」

「恋人、じゃないのに『トクベツ』でいられるものなんですか。」

「あれはね、僕がまだ高校卒業間際の事だったよ。僕は、まあ、色々あって、家を出たの。そのときふらふら通っていたゲイクラブでその人にナンパされてね、向こうも金銭的に余裕がないみたいで、何となく一緒に住む事になったんだ。」

「そんなにいきなり……不安じゃないですか?」

「まあね。でも、狭い部屋だったけど、ちゃんとした寝床が確保できたからね。本当に不思議だったね、その人が僕と一緒に住もうなんて思った事自体が。有名だったからね、気が多くって、いろんなオトコと寝る人間だって。最初、僕がナンパされた時も、周りの人間に注意されたし。僕に実害が全くなかった訳でもないけど、その人との共同生活は何となくやっていけたよ。今はあんまり思わないんだけど、その頃は、僕を捨てた両親を見返してやりたくて、必死で大学に行ったし。勿論、見捨てられてるから、金は自分で稼がなきゃならない。やっぱり、実入りのいい収入が欲しかったしね。ホストとか、他のバイトも掛け持ちでね。向こうはフリーターで稼いだ金を趣味と共同生活費にあてていて、僕は、大学と共同生活費に当てていた。一緒に住んでいてもさ、時間は殆どすれ違いだったよ。ただ、一つの部屋を共有しているだけ。でも、一緒に住んでいれば周りから、特にゲイ仲間からは『恋人』だってみられてたよ。その人の場合は、一応、まあ、色々、手当たり次第だけど、気に入った相手とセックスするからね。だから、『好き』になっちゃう事もある訳けだ。だけどさ、自分の方が、その人の事好きなんだから、僕は相手に相応(ふさわ)しくないから、別れろ、とか言ってくる人間もいてさ。確かにそういう時は参ったよ。」

「それで、別れたんですか?」

「僕に言う前に、その人に言うように伝えたよ。直接話せってさ。でも、実際そうして、駄目だったみたい。まあ、駄目だったから、相手の僕に言ってきたんだろうけどさ。何度かあったよ、そういう事が。でも、繰り返している内にさ、誰と浮気をしても、結局帰ってくる場所は僕のところなんだって思ってた。」

「よくそんな自信なんて持てましたね。」

「始めから自信があった訳じゃないよ。でもなんでだろうね。そんな風に感じてたのは。本当に不器用な人だったけどね。その人だって、その人なりに僕の事愛してくれていたと思ってたし、僕も、その人を愛してたと思う。勿論、セックスで愛を知ろうなんてことは信じていなかったしね。それでもまあ、なんだろうな。僕達の間が気不味くなる事はなかったよ。その時も薄々気付いていて、今は結構はっきりしてるけど、元々僕は誰かと普通に恋愛できる人間じゃないんだ。でも、その人と抱きあっている時は、確かに恋愛じゃないけど、別のものを感じたよ。その人も僕に愛してもらう事を求めなかったからね。だから、上手くいってたと思ってた。実際にそうだったし。」

「それなのに、何で別れたんですか?」

「……その人はね、死んだんだ。自殺したの。その人が、おかしかったのは何となく気付いてたんだ。本当は病院に行く事を勧めれば良かったと思ってる。そうしたら、死ななくても済んだんじゃないかって。でも、その一方で、死にたがっているその人をそのまま死なせてあげるのも良かったんじゃないかって。だから、その人が死んでる姿を見つけ時、どこかで、ああ、やっぱりな、と思ったんだ。でも、一番近くにいたはずの僕にはやっぱりその人を死なす事しか出来なくて、その人が求めていたのは死ねる場所だったんだって。そして、僕は気付いたんだ。その人に求めていたものを。だけどそうなれなかった事を。死に別れ、って結構きついんだよね。本人にとってもだけどさ、その後付き合う人にとっても。嫌いになって別れた訳じゃないんだから。」

「今でも、好きなんですか? その人の事?」

「好き?……好きか嫌いかって問われれば『好き』だって答えるよ。だけど言ったでしょ、元々、恋愛感情じゃなかったって。もちろん『トクベツ』ではあるよ。それは一生変わらないと思う。だから、恋愛も出来ない上、そういう存在をもっている僕と上手く付き合っていける人間はあまりいないよ。友人としてなら、何人もいるけどね。僕自身が、その人の事を忘れないようにしているから余計にかな。僕が、黒い服を好んできるのを知ってるでしょ? まあ、好きなのもあるんだけど、その人を見殺しにしてしまった僕への戒めでもあるんだよね。それに、このピアスも、その人のものだったんだ。その人への想いは、もう断ち切ってるつもりだよ。でもね、大概の相手はそうは見てくれない。それがわかってるから、付き合っても、いいお友達、で終ってしまうんだ。まあ、それはそれで良いんだけどね。その後も友達として付き合っていけるから。」

「辛くないですか? 付き合っていたのに、友達になるのって。」

「死なれるよりはよっぽど良いよ。それに、恋愛感情から付き合っていたわけじゃないから、その方が自然なのかもしれない。」

「雫さんが相手に求めるものって何なんですか?」

「上手く言葉には出来ないけどね。強いて言うなら『共犯者』かな。」

「『共犯者』ですか……。」

 俺には、何となくその感覚がわかる気がした。

 先輩を好きになるまで、誰かを好きになったことがなくって。
 先輩の恋人でいられなくて、好きな気持ちを封じ込めて。
 でもやっと、そこから解放されて。
 そのために、そのコと秘密を共有した時の喜び。

「もし、俺が、それでも、雫さんの傍にいたいと願ったのなら、雫さんは叶えてくれますか?」

「僕は、言ったでしょ? 相手が拒まない限り、その手を離さないと。もし、直哉くんがそれを望むなら、僕は、できる限りの努力をするよ。」

「僕には、雫さんが確信犯だったように思える。初めてあの日、声をかけられた時から。」
 そう、ずっと試されていたような気がする。
 そして、それを俺も望んでいた。

 もしかしたら、いつか、俺にまた好きな人が出来るかもしれない。
 でも、その時は、雫さんは優しく見送ってくれるに違いない。
 ただ、恋愛だけが全ての関係じゃない、と告げてくれた。

 先輩とそのコの間で秘密を持って、甘美な罪を犯した俺。
 俺もまた罪人となることを望んでいた。

 恋をすることに臆病になったわけではない。

 昔こんなフレーズがあったな『もう恋なんてしないなんて、言わないよ絶対』

 確かに、恋する事は良い事なのかもしれない。

 でも、俺の中では、恋よりももっと魅力的なものを見つけたから。
 俺は、今は雫さんの共犯者でいたい。

 それが、このオトコと俺が望んだ二人のカタチ。

 そうして俺達は、新たなる関係の始まりに口付けを交わした。
 それが、いつまで続くかわからないけれど。


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『共犯者-10-』

 いくら背伸びをしてみても、経験は経験の差でしか埋まらない事はわかっていて、だから、いつまでたっても追いつけないものは追いつけない。
 それでも、それを諦めてしまうのには早いんだ。
 同じ道を歩く必要なんてない。
 自分には自分の道がそこにあるはずだから。
 例え遠回りしたように見えても、いつも後ろを追いかけるのではなくて、隣に並んで歩く事も出来るんだって。
 独りで足掻いても、それは中々難しい。
 相手が少し振り返ってくれたら、そして手を差し伸べてくれたら、また一歩先に踏み込める気がする。

 その後またそのコを誘ってみたりしている。
 別に先輩とそのコを別れさせたい訳じゃない。
 辛かったけれど、先輩は俺に人を『好き』になるっていう事を教えてくれた人だから。
 そんな先輩が本気で一途に好きになった相手だから。
 何となく近くで見守っていきたいんだ。
 それでも起きてしまうイタズラゴコロ。
 恋愛に障害や秘密はつきものでしょ?
 その方が、もっと楽しいものじゃない?

 誘惑されたココロはそれなりに楽しめるって。

 俺一人では無理だったかもしれない。
 独りで強がっても、どうしようもなくて、いつか時がたてば忘れさせてくれるかもしれないとずっと思っていたけど、中々そんな時はやってこなかった。
 でももしかしたら、あのままでも、再び立ち上がれたかもしれないけれど、そんな事はわからない。

 そのコに関わることで、先輩との事をどうしようと思った訳でもない。
 少しは思っていたのかもしれないけれど、後で考えてみるとやっぱり違うという事に気付いたのだ。

 その日は、そのコはバイトが入っていないという事で一緒にご飯を食べる事にした。
 先輩はここ数日忙しいらしく、会えないそうだ。
 別に、そのコのことを脅して、誘った訳じゃないよ。
 俺自身、あんまりしゃべる方じゃないし、そのコの方もおとなしい。
 会話が弾む訳じゃないけど、一緒にいて心地悪いと感じない。

 寂しさに任せて、カラダを重ねた事はあったけど、このコとはそんなんじゃない。
 なんていうか、とても好奇心をそそられるのだ。
 このコが俺に向けている感情は何なのだろうか。
 それもとても不思議で。
 先輩のように遊びで色々な人間と寝るタイプの人間ではない。
 だけど、実際俺の誘いには乗って来て。

「時間大丈夫なんでしょ? また俺の家行こう?」
 どうやって断ろうか、悩んでいるのだろうか?
 でも拒否はして来ない。
 そして、そのまま俺の家へと向かった。

「直哉さんは何で俺なんか誘うんですか?」
「昭人くんこそなんで俺の誘いに乗ってくるの?」

「……」
「……」
 お互い答えない。
「その後どう? 先輩とは上手くいってるの?」
「……何とか。」
「でも不安はあるんだ。」
「不安じゃなくなる日って来るんですかね?」
「さあ、どうだろうね。俺は別に先輩と付き合っていた訳じゃないから。」

「ごめんなさい。」
「良いって。今はもう気にしてないから。それとも昭人くんの方が気になるのかな? 俺の事が。」
「うん……なんとなく……」
「やだなー、そんな可愛い事、言われちゃったら。」
「!!!だから、可愛いいって、そんな!」
「んー、俺のどこが気になるの?」
「やっぱり、亮一さんには直哉さんは『トクベツ』だから……。」
「でも、今、先輩の『一番』『トクベツ』なのは昭人くんだよ? それに、俺も昭人くんの『トクベツ』でしょ?」
「『トクベツ』ですか……」
「気になるんでしょ?俺の事。もっと気にしていいよ……」

 その答えを待たずに、俺はそのコに口付けた。
「んふ……」
 いきなり唇をふさがれたそのコの鼻から息が漏れる。
 顎を持ち上げて、舌を滑り込ませ深く口付けた。
「もしかして、俺と先輩の事比べてる?」
「え……そんなことは……」
「別に良いよ、どっちでも。」

 俺は愛撫を再開し、跡が残らない程度に鎖骨を甘噛みした。
 それから手をゆっくり下へおろしていく。

 勃ち上がりかけたペニスに手をやり、指を絡ませ扱いていくと次第に硬度を増していく。
「ちゃんと、感じてるよね。」
「…ん……。」
「ねえ、興味ない? 先輩が抱いた、俺のカラダに。」
「…え……?」
「良いよ。昭人くんは、俺に任せておいてくれれば。」

 俺は、硬くなったそのコのペニスにゴムを被せた。
 それから、ローションを手に取り、俺自身のアナルを自分の指で解していく。
「あ、あの、直哉さん?」
「……ん? 何?」
「えーっと、その。」
「大丈夫だって。言ったでしょ? 俺に任せて、って。」

 そのコの上に乗っかり、勃ち上がっているペニスにめがけて、ゆっくりと腰を下ろしていく。
「ちょっ……直哉さん。んん……」
「駄目だよ、すぐイっちゃあ。そのまま、突き上げて……。」
 腰を動かし、上下させる。
 中にそのコのペニスを感じながら、自分の手で、自分のペニスを擦り上げる。
「…ん…く…ん……あ……はぁ……」

「直哉…さ…ん…あ……んん……も…ダ…メ…イ…きそう……」
「も…少し……」
 腰の動きを早くし、自ら絶頂へ導こうとする。

「駄目……直哉さん…も…イく……」
「ん……俺も……」

 先にそのコが俺の中で射精して、俺もその後、精を放った。
 そのコの腹の上に出してしまった精液をティッシュで綺麗に拭き取っていく。

「直哉さんって……何か信じられない。」
「え? 何が?」
「だって……。」
「ヨくなかった?」
「いや、そうじゃないけど。う……恥ずかしい。」
「そんなに恥ずかしがる事ないじゃん。」
でも……とまだぶつぶつ言っている。

「また一つ、先輩に秘密が出来たね。」
「そんなに面白がらないでください。」
「昭人くんは、楽しくないの?」
「~~~楽しかったら良いんですか?」
「でも、楽しくないと嫌じゃない?」

 だからさ、そんな反応しちゃダメだよ。
 もっとちょっかい出したくなっちゃうよ。
 あんまり深入りしすぎると、やっぱり火傷しちゃうからね。
 火遊びはこれくらいにしておこうかな。
 今後の事なんてわからないけどね。

「今度さ、三人で食事にでも行こうよ。」
「ええ!?」
「純粋に食事だって。」
「う……はい。」

 いつだって、人の感情を置き去りにして、時は過ぎ去っていく。
 その無慈悲さに戸惑い、不安になり、傷付く事もある。
 傷付くのは怖いけれど、そこで留まっていたら何も出来ない。
 例えもっと傷つく事になったとしても、前に進みたいと思った。

 そのコといたって、もう感じるのは先輩の影じゃない。
 俺たちが、何を求めてセックスをしたのかはわからないけれど。
 でもそんな理由なんでもいいじゃん?
 『好き』にもいっぱい種類があって、それがどんな『好き』かなんて、明確な線引きなんてない。
 ただ一言、『好き』っていうのにも色々あるんだって。
 『愛』だとか『恋』だとか、それとも別のものなのか。
 ただ、俺が感じるままに生きるしかないんだって。
 『タイセツ』だと思えたものを大事にしながら。

 どんなに頑張っても、『俺』は『俺』でしかいられないという事。
 それがどんな『俺』だって、『俺』自身が付き合っていかなくっちゃいけないんだ。



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オリジナルBL小説・目次

作品の簡易説明・設定

■連載物
・あるバーのシリーズ(元になる設定話)
軽重//自然/受身/異質/高校////歯車////魅力/(完結)

・『共犯者(きょうはんしゃ)』(雫&直哉)
/////////10/11/(完結)

・『(さび)しい(さかな)』(智也&晴彦)
////(完結)

・『(ほたる)』(悟&靖史)
////////(完結)

・『偽装(ぎそう)真実(しんじつ)仮面(かめん)』(隆弘&晴彦)
/////////(完結)

・『ココロの距離(きょり)』(智也&靖史)
////////(完結)

・『まやかしの共有(きょうゆう)』(想一&籐也)
/////////(完結)

・『()える必要(ひつよう)のない(かべ)』(雫&悟)
///////(完結)

・『問題(もんだい)問題(もんだい)』(雅弘&雄治)
////////(完結)

・『(あめ)()がりの背中(せなか)』(名前なし)
///(完結)

・『()粉雪(こなゆき)』(憲次&裕和)~続『雨上がりの背中』
///(完結)

・『(しあわ)せのカタチ』(雫&幸生)
///(完結)

・『(みき)()かつ(えだ)』(法規&直哉、政司&疾颯)
////////(連載中)

・『運命(▲さだ)めの(かな)でる調(しら)べ』(浩志&?)
/(連載中)



・『この瞬間(とき)永遠(とわ)に』(琢磨&章吾)(シリーズ外)
////(完結)

・『(ほし)()言葉(ことば)』(恭平&尚司)
///////(完結)

■短編
灰色
誓い

■BL以外
・『白香桜乱(びゃっこうおうらん)
/////////(完結)

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『共犯者-9-』

 まだ何か不安があるのか、俺を頼ってきたそのコを自宅へと誘った。
 普段なら、誰かを自宅に自らの意思で上げる事はないのに。
 始めから下心があった訳ではない。
 雫さんにそそのかされたからだとか、そんな言い訳は出来なかった。

 俺は、そのコに何を見ていたのだろうか。
 先輩が抱いているそこコに先輩を重ねていたのだろうか。
 始めはそんな気分だった。
 だから、俺が先輩に抱かれていたベッドに誘って、その上でそのコを抱いた。
 でも実際俺が抱いたのは、先輩ではなく、まぎれもなくそのコ以外の何物でもなかった。
 そのコは何を考えて俺に抱かれているのだろうか。

 誘ったのは俺、そしてその誘いに乗って来たのはそのコ。
亮一(りょういち)先輩に振り回されてばっかりじゃ嫌でしょ? 振り回される先輩の顔も見てみたくない? 先輩の知らないところでさ、秘密を作っちゃおうよ。俺と昭人(あきと)くん、二人でさ。」
 そうして、カラダを重ねた。

 そのコの事を知った時は憎いと思った。
 だからイジワルする気でいっぱいだったし、そう思ってたから、そのコが先輩の傍にいるのに耐えられた。
 だけど、今は違うと思う。
 確かに先輩という契機(きっかけ)があったからだけど、そのコ自身に興味があった。

 関わっていく内に、俺の先輩への想いも少しずつ変わっていた。

 もし先輩が、この事を知ったらどう思うだろうか?
 秘密だと言ったけれど、口に出してしまいたくなる。
 本当は見てみたいのかもしれない。
 先輩があわてる顔を、怒った顔を。
 もしそうだとしたら、そんな顔をさせているのは俺なのだろうか? そのコなのだろうか?

 先輩を好きだと気付いて、でも、好きになっても仕方のない人だと思っていたから。
 それが、辛くて仕方がなかった。
 そんな先輩を変えたこのコ。
 それが今、俺の腕の中にいる……。

「嫌だった?」
 そんなに無理矢理ヤったつもりはないけどな。
 複雑そうな顔をしている。
「……やっぱり、亮一さんの事まだ好きなんですか?」
「どうだろうね。今は、それよりも君に興味がある。君こそどうしたの? 先輩と何かあったの?」
「別にそうじゃないんですけど、亮一さんはああいう人だけど、何となく、直哉さんはトクベツだって気がするんですよ。それでやっぱり気になって……。」
「『トクベツ』、ねえ。まあ、『友人』とかいって君に紹介しちゃうくらいだから。でも、もう、今更、先輩と俺が、どうこうなるって事はないから。」

「はあ……。じゃあ、なんで、こんな事したんですか?」
「だから、言ったじゃん、君の事の方が気になるって。君こそなんで、俺とシたの?」
「う……それは……」
「もしかして、俺の事気に入ってくれてる?」
「ええ……あ…気になるのは気になりますけど、その……」
 うーん。何か危なっかしいなぁ。このコも先輩の事心配なんだろうけど、こういうところって、先輩は心配なんじゃないのかな。
 想いが通じ合っているはずなのに、中々上手くいかないっていうのもあるんだな。

「俺の事、気にしてくれるのは嬉しいな。今回みたいな相談でもいつでも歓迎するよ。」

「え……あ、あの……」

「2人で、秘密な楽しい事しようよ。」
「バレたらどうするんですか……。」
「どうなるだろうね。俺は、先輩に怒られるかもしれないけど、先輩は、君の事捨てたりしないと思うよ。」
「直哉さんは怒られても平気なんですか?」
「怒られたい訳じゃないけど、ちょっと見てみたいね。先輩のあわてたところ。」
「それは……ちょっと見てみたいかも。」
「ね? ね? そうでしょ? だからこれからもっと仲良くしようね。」
 ちゅっと唇にキスをした。
 あー、何か可愛らしい。

「俺にサれてどうだった? 先輩とはやっぱり違った?」
「~~~なんて事聞くんですか!」
「んー、そういうとこも可愛いな。」
「オトコに可愛いなんて言わないでください。」
「見た目じゃなくてさ、反応が可愛らしいの。」
「だから、それ、止めてください。」

「そんな事言われたら、もっとシたくなっちゃったよ。」
「え? え? ちょっと……直哉さん。」
「ダメ、ダメもう聞かない。1回シちゃったんだから、2回も3回も同じ。」
「……違いますって!」
「でも、昭人くんもその気になってるよ?」
 布越しにペニスをかたどっていく。
「んん……ダ……メ……」
「ダメ、じゃないでしょ?」
 ホックをはずし、ジッパーをおろして、硬くなりかけているペニスを取り出し、舐めあげていく。

「あ……は……はぁ……。」
 脈打ち、硬度を増していくペニスを愛撫する。
「そんなにしたら……も……。」
「ちょっと待ってね。」
 ズボンを引きおろし、完全に下半身を露にする。
「大丈夫でしょ? ココ。」
 指先でアナルの入り口に触れた。
「んん……」
「大丈夫だよ。酷くするつもりなんてないから。やっぱり秘密は甘い蜜の味の方がいいでしょ?」
「直哉さん……。」
 ローションを十分垂らしたアナルに指を挿入する。
 指で十分に解しておいてから、ペニスをアナルにあてがった。
「昭人くん、力抜いて……痛いのは嫌でしょ?」
「う…ん…はぁ……」

 頃合を見計らって挿入していく。
「く…んん……あ…ああ……」
「ん……イイよ……昭人くんのココ……。」
 ゆっくりと揺すりあげていく。
 甘い誘惑と、そのコの声が俺の脳内を犯す。

「あ…ダ…メ…そんなにしたら…も……イきそう……」
「うん。イイよ、昭人くん。俺も……もう……。」
 そうして、手でそのコのペニスを追い立てて。
 その熱を解放させたのと同時に俺も放っていた。

「大丈夫? 昭人くん?」
「う……直哉さん2回もスるんだもん。」
「でも、ヨかったでしょ?」
「うう……イジワルだ……。」

「もうちょっと、ゆっくりしていきなね。」
「うん……。」
「ねえ、昭人くん、このベッドね、亮一先輩も使ってたんだよ。」
「え……。」

「あ、想像した? 俺と先輩の事?」
「いや、あの……。」
「もうこんな時刻だしさ、泊まっていきなよ。」
「でも、明日朝から大学だし……。」
「起こしてあげるから大丈夫。それに今日は、もう何もシないし。」
「『今日は』ですか?」
「うん。『今日は』」
「……。」
「残念?」
「!!!!そんな訳っ!」
「そんな、一生懸命否定しなくっても。」
「直哉さんの事、好きだけど、そういう意味で好きな訳じゃないですよ?」
「うん? わかってるよ。昭人くんが好きなのは亮一先輩でしょ?」
「う……直哉さんはどうなんですか?」
「俺? 俺は……どうなんだろうね。」

 本当にどうなんだろうね、俺は。
 俺が、このコとセックスしたのも、雫さんとセックスしたのも全然よくわからない。同じセックスをするんでも、スタンスが全然違うし。
 どうでもいい人間とするセックスともまた違う。
 不思議なものだ。

 普段は、行かない日は、雫さんに連絡は取らないんだけど、何となく電話を掛けた。
「雫さん、例のコが来てるから、今日は行かない。」
「あ、そうなんだ。修羅場にならないように頑張ってね。」
 何だかなー、雫さんはきっと俺がヤってる事に気付いてるんだろうな。

 そのコが寝っ転がっているベッドへ狭いながらも身を寄せて滑り込んだ。
 今まで、怖くて独りで眠ることが出来なかったベッド。
 確かに今も独りじゃなくて、でも、隣にいるのは先輩ではなくて、そのコで、なのに俺は安心して眠ることが出来た。
 もしかしたら、もう、独りでも平気なのかもしれない。

 朝、そのコが出て行く間際に声をかけた。
「また、俺のところに遊びにおいでよ。」
 そのコは答えなかった。
 でもまた、近い内に連絡しよう。

 その毒はとても甘美なものだから。
 死なない程度に味わってみたいじゃない?


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『共犯者-8-』

 気付けばオトコと付き合っている期間も長くなってきていて、ずるずるとそのオトコの優しさに飲み込まれていた。
 オトコに家に頻繁に出入りするようになって、それまでにない程、健康的な生活をしていると思う。
 夜行けば、どれだけ遅くなろうとも食事を作ってくれるし、もちろん泊まるから、朝食もついてくるし。
 1人分作るのも、2人分作るのも手間は同じらしい。
 逆に、1人分のみ作るのは材料が半端に余って難しいのだそうだ。
 俺が『行っても良い?』と尋ねて断られた事は一度もない。
 ただ、たまに、『今日は帰れない』という事があるようだ。
 帰れない理由が何なのかは聞かない。
 部屋の本来あるべき(あるじ)の居ない場所にいる事も特に苦痛ではなかった。

 オトコを抱いて、それもまた違和感がなくって、その理由が何なのだろうと考えてみても無駄な事だった。

 やっぱり、オトコに抱かれる事の方が多かったけど、その時の気分なのだろうか、抱いてみたくなる事もあって、でも、そのオトコが好きかと問われれば、嫌いじゃないけれど、先輩に持っていた感情とはまた違っていた。

「ねえ、雫さん、今日は、俺がシてもいい?」

「うん。」
 その問いかけが拒否されない事を知っている。
 そのオトコを抱いていても、何となく包まれている感じがする。

 どちらからともなく口付けて、唇を開いて、舌を絡めあう。
 口腔内を蹂躙する舌が気持ちイイ。
 溢れた唾液が、口端を伝って、流れ落ちるのを、舌先で舐めとる。

 裸で抱き合う体温も、口から伝わってくる熱も、とても暖かい。
 それは抱いていても、抱かれていても感じる事で。

「ん……そこ…イイよ……。」
 感じていることを伝えてくれる事が嬉しくって夢中になる。
 それが、お互い感じる事を知っているから。

 俺に快感をもたらしてくれるオトコのペニスが、確かに感じて、硬く勃起している。
 その熱を感じたくて、俺はそれを咥える。
 アナルの熱とはまた違うけれど、口の中もやっぱり暖かくて気持ちがいいから。

「もう…いいよ……直哉くん……。」
 口を離して見上げると、今度は、俺のペニスを咥えてきた。
 やっぱりペニスは、もう十分硬くなっていて。
 舐められて、扱かれて、追い詰められそうになる。
 でも、決して、それでイかそうとしている訳ではない。
 快感を煽る為に、なされている行為だ。

 だって、本気になったら、口だけでイかされちゃう事もあるから。
 それはそれで気持ちイイんだけど。
「雫さん、それ以上は、もう……。」
「うん。」
 ペニスから唇を離すと、再び唇に唇を重ねてきた。

 お互いペニスを咥えた後なのに、全然、そんなこと気にならなかった。
 オトコのアナルが俺のペニス受け入れられるようにローションを手に取り解していく。
「いいよ、直哉くん。もう、イれて……。」
 用意してあったゴムを装着し、そこにもローションを垂らして、イれやすいようにする。
「く…ん……んん……。」
 締め付けられるキツさに込み上げる射精感を何とかやり過ごして、最後まで挿入し終える。
 オトコが、おおきく息をついて、カラダの力を抜いたのを見計らって抽挿を開始した。

「あ…は…ぁ……んん…」
 オトコは中で感じながら、自らペニスを扱きあげている。
 そしてアナルは俺のペニスに射精を促すように締め上げてきて。
「雫さん……も……イきそ……」
「うん。イイよ、僕も……。」
 堪えられなくなって射精して、同時にオトコも放っていた。

 脱力して、そのままでいると、射精して萎えたはずのペニスにまた圧力が加わってきて、再び力を持ちそうになる。
 そんな状態で口付けられるともうたまらなくって。

「ふふ。またシたくなっちゃった?」
 そんなの、わかりきった状態なのに。

「今度は、シてあげる。」
 逆らう余地もなくて、ゆっくり覆いかぶさられた。
 そうされたら、このオトコに敵うはずなんてなかった。
 優しく抱いてくれるこのオトコに身を委ね、二度目の絶頂を迎えた。

「たまに、直哉くんからシてくれるのもいいね。」
 俺は答えにつまる。
「そういえば、直哉くんの先輩と、そのコってどうなってるの?」
「え? どうなんだろう……。」
「最近は会ってないの?」
「いや、そんな事はないけど。先輩が、必死そうなのはわかるんだけど、そのコの方が……。」
「気になるの?」
「なんていうか、不安なのはわかるような気がするし、俺の事も気にしてるみたいだし。」

「結構気に入ってるんだ、そのコの事。」
「そうだね。そうみたい。」
「ふふふ……。そのコと共有してみたら? 秘密を。」
「え?」
「だからさ、先輩に言えないような事をさ、二人で。」
「それって……。」
「そのコも直哉くんの事気にかけてくれてるんでしょ?」
「それは……。」
「良いんじゃない、そういうのも。」

「……雫さん、楽しんでます?」
「うん。」
「他人事だと思って。」
「だって、他人事だから楽しいんじゃん。」
「……」
「興味あるでしょ? そのコにも。思い切ってシてみたら?」
 何を考えているんだか、このオトコは。
「雫さんって、結構イイ趣味してますね。」
「どうもありがとう。」
「褒めてないですけど……。」
「うんうん。わかってる。」

 う……また、あの笑みだ。

「雫さんって、浮気した事あります?」
「僕? うーん。微妙。何? 僕の事気になるの?」

 って、雫さんの方が興味津々じゃないか。

 このオトコの事も気になるけれども、このオトコが発した、天使のようで悪魔の囁きに耳を貸してしまった。
 多分俺も、興味があったからかもしれない。
 その囁きが、どう俺の未来を変えていくだろうか。


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『共犯者-7-』

 オトコの家の合鍵を貰ってもすぐに使う事は出来なかった。
 ただ単に差し迫った仕事があったから、という訳じゃない。
 やっぱり、踏み出すのには勇気が要った。

 それでも、やはり自分の家で夜を過ごすのが怖かったから、店に向かって、他のオトコと寝たりしていた。
 やっぱり、これは、あのオトコに対する裏切りになるのだろうか。
 そういえば、この間別れた時、次の約束をしていなかった。

 先輩とそのコの間はまだ完全に上手くいった訳ではないようだ。
 ただ、何となく、俺の中で、先輩に対する態度も、そのコに対する態度も少し変わったような気がした。
 なんというか、そのコに対して、同情というか、よくわからない感情を持ち始めていた。

 一週間経っても、そのオトコから連絡はなくて。
 仕方なしに、俺の方から出向いて行った。
 日中は、電話しても良いって言ってたよな。
 そう思って、16時ごろ、携帯を手にとって、電話を掛けた。
 数コールして、オトコが出た。

「もしもし。直哉くん?」
「あの……今日行っても良いですか?」
「ああ、うん。僕は、21時30分位になると思うから、良かったら先に家に来ててくれて良いよ。」

 オトコは、自分を待っていてくれたのかな?
 先輩とは全然違うタイプだけど、よくわからない人間だ。
 この気持ちは、先輩に対する『好き』という気持ちと違うものだと思う。
 でもなんだか、安心できる。
 それは、相手が俺よりオトナだからだろうか。

 一度足を踏み出してしまえば、次からのハードルは低くなった。

 何となく、人恋しくなれば、オトコの家に向かって、そこで過ごした。
 夜、オトコの家に向かって、泊まって、朝、自宅に帰って仕事に打ち込んで。
 
 泊まれば、たまにはやはりカラダを重ねる。

「んん……あぁ……は……イイ……」
 器用に俺のカラダの快感を煽っていく指がたまらなくって。
 男のペニスに穿たれるまま揺さぶられて、追い詰められて、射精して。
「イイ……イく……!」

 快感の余韻に浸って、ベッドで横になっていると、男が、水の入った、グラスを持ってやってきた。
「飲む?」
「ん……。」
 受け取って、氷が入ってよく冷えた水を口に含む。
「ん? これって、普通の水?」
「ミネラルウォーターにレモンを数滴垂らしたの。さっぱりしてるでしょ?」
「うん。」
 喉が潤わされ、スッキリする。

 このオトコの家によく通うようになって、煙草の本数も、アルコールの量も減った。
 このオトコの家は禁煙だったから、仕事中に自宅で、吸うくらいだったし、店に行く回数も少なくなれば自然とお酒も飲まなくなっていた。
 このオトコの家にはアルコールがないし。

「直哉くんってさ、ネコしかしないの?」
「え?」
「セックス。」
「あんまり考えた事なかった。」
「抱きたい、とか思わない? それとも、僕じゃあ、そんな気にならない?」
「えっと……その……。」
「試してみる?」
 確かに、そのオトコは綺麗でカッコよくて、艶っぽくて。
 指で顎を捕らえられ、唇を重ねられる。
 確かにその行為には欲情をそそられるけれども。

「直哉くん、来て……。」
 誘われて。
「あの、俺、オトコ抱いた事ないんだけど。」
「でもわかるでしょ? どうしたらいいか。」
 俺が今まで抱かれてきたように、このオトコを抱く。
 それは、どんな感じがするのだろうか。

 再び重ねられてきた唇を貪った。
 そうして、オトコがしてくれたように、俺はそのカラダに触れていく。
「ん……」
 たまに漏れる声がたまらなくって。
 俺の手で、感じてくれている、このオトコが。

 ローションを手に取り、オトコのアナルに指を挿入する。
 一瞬、眉をひそめたように見えたけど、男は、俺の指を受け入れてくれて。
 きゅっと窄まるその感覚が俺の欲情をそそるのだろうか。
「ゴム、その引き出しに入っているから。」
 ベッドの横にある引き出しから、俺はゴムを取り出し、自分のペニスに被せた。
「いいの? イれて……」
「んん。イイよ……。でもゴメン、ネコするの久し振りだから、ちょっとキツいかも。」
 挿入して、締め付けられる感覚は初めて味わうものだった。
 オンナを抱いた事はあるけど、女性のソコとは違う器官。

 オトコに促されるように抽挿して、どれくらいが基準なのかはわからないけど、オトコが言った通り、アナルはキツかったけど、気持ち良かった。

「あ……はぁ……ん…ソコ…。」

 言われるまま突き上げて、イってしまいそうなのを我慢して、俺を抱いている時とはまた違ったそのオトコの顔がまたヨくって。
「ゴメ……雫さん……もう、イ…く…。」

 俺はオトコの中で射精していた。
 まだ男のペニスは昂ぶったままで。
「直哉くん、手でシてくれる……?」
「うん……。」

 勃起した男のペニスに指を絡め、扱きあげていく。
「ああ……。イイよ……直哉くん……」
 次第に手の動きを早くし、男の解放を促す。
「……んん……くぅ…!」
 やがて、オトコが、射精する。

 ベッドサイドで、カランと先ほどの氷が音を立てた。
 男は、そのグラスを手に取り、水を嚥下する。

 じっとりと汗ばんだカラダが、触れ合う。
 その感触が嫌じゃない。

「雫さんてさ……。」
「ん?」
「抱かれるの好きなの?」
「んー。基本、タチだけど、両方とも好き。」
「はぁ。」
「直哉くんは? どうだった?」
「え? 俺は……わからない。」
「ヨくなかった?」
「いや、ヨかったけど。」
「じゃあ、良いじゃん。」
「はぁ。」
 そういうもんなんですか。
 やっぱり不思議な人だと思う。

 先輩や他のオトコの時は抱かれるばっかりだったからなぁ。

「オトコのカラダ見て欲情するかしないかは別としてさ、直哉くんはネコしてて感じられてるからわかると思うんだけど、イれられて感じられる場所がある訳よ。まあ、個人差があるから、全員がイイ訳じゃないんだけどさ。気持ちじゃなくて、カラダの構造的な問題でね。まあ、ペニスに対する刺激、っていうのは大体皆感じるんだけど。直哉くんは女性とシた事あるでしょ? イれる方としてはさ、確かにアナルのほうが締まるんだけどさ、女性相手でも、アナルセックスが出来ないわけじゃないけど、女性の場合、前立腺がないから、構造的には感じない訳。感じてるとしたら、気持ちの面でかな?」

「雫さんは、女の人駄目なの?」
「んー。嫌いな訳じゃないよ? 友達もいるしさ。でも、セックスは経験がない訳じゃないけど、そういう対象にならない。」

「雫さんは、俺がゲイじゃないって言いましたよね。」
「うん。」
「でも、実際好きになったのはオトコの先輩で、本当に好きになったのはそれが初めてなんです。多分、オンナが好きな訳でも嫌いな訳でもないし、オトコが好きな訳でも嫌いな訳でもないと思う。」
「微妙だねぇ。まあ、でも、曖昧でもいいんじゃない? 先輩って言うのは直哉くんにとって特別なんでしょ、きっと。」
「雫さんはいいんですか? 俺が、先輩の事好きでいても。」
「うーん。僕はね、ゲイだけど、まあ、ちょっと『恋愛感情』とはずれてるのよ。でも、直哉くんの事は気に入ってるし、直哉くんが、僕の感覚についていけなくなって、別れたい、って思わない限り、付き合いたいんだよね。」
「はぁ……。」

 今はまだ、このオトコの事が見えなくって、この先どうなるかなんてわからないけど、取り敢えず、この関係を続けてもいいかな、と思っている。
 俺が、このオトコに対して持っているのは『恋愛感情』じゃないと思う。
 その名前をなんと呼ぶのかは知らない。
 そんな関係があってもいいのではないかと思う。


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『共犯者-6-』

 夜中に目が覚めた。
 オトコが横で眠っている。
 一応、ダブルサイズのベッド。
 いつもは、ここで、この人は一人で眠っているんだろうか。
 何か不思議感じだ。
 一度、トイレに立ったが、またベッドに滑り込みそのオトコの横で眼を閉じた。

 次に目覚めた時は、オトコはもう横にはいなかった。
 起き上がるのが面倒くさくって、ベッドの上しばらくゴロゴロしていた。
 何をしているんだろう、俺は。
 あー、腹が減ってきたな。
 そんな事を考えていると、オトコが寝室に戻ってきた。

「ああ。起きたんだ。おはよう。」
 もうすっかり着替えてしまっている。
 しかし、このオトコ、やっぱり黒い服を着ているんだな。

「朝食の用意が出来たんだ。お腹減ってない?」
「雫さんが作ったの?」
「うん。直哉くんのお口に合うかどうかはわからないけど。」
「いただきます。」

 それは、結構ちゃんとした朝食で。
 見た目も匂いも美味しそうだった。
「いっつも自炊してるんですか?」
「中々面白いよ、料理って。直哉くんはしないの?」
「外で軽く食うとか、コンビニ弁当とか。」
「まあ、今はお手軽に惣菜とか手に入るからね。しなくても、確かにやっていけるよね。」
 こんなにちゃんとした朝食をとったのはどれくらいぶりだろう。
 高校時代に実家にいた頃でも、両親が共働きだったから、手料理なんてちゃんと食べた記憶がない。

「ご馳走様でした。今日どうするんですか?」
「え? 特に考えてなかったけど、何かしたい事とかある?」
「俺は、別に何もないですけど。」
「僕も特にないね。」
「いつも休みの日って何やってるんですか?」
「うーん。本を読んだり、仕事をしたり。あとはぼーっとTVを眺めたり。アウトドア派じゃないんだよね。」
 何だよ、1人で出来る事ばかりじゃないか。
 つーか、俺と一緒にいて本当に何するつもりなんだ?

「お茶飲む? 緑茶嫌いじゃない?」
「あ、はい。」
 お湯を沸かして、急須にお茶っ葉よお湯を注ぎ込んで、湯飲みにお茶を注いでで手渡してきた。
「まだちょっと熱いけど。」
「あ、どうも。」

「直哉くんって幾つ?」
「あ、26です。雫さんは?」
「僕? 34歳。」
 まー、確かに年は上だと思ったけど、34歳って『オジサン』なのか?
 基準はわからないが。

「直哉くんの好きなオトコってどんな人? 元々は別にゲイってわけじゃないんでしょ?」
「気になるんですか?」
「興味はある。」
 
 この人は俺と先輩とのことを知らない。
 知ったらどうするだろうか。

「……大学のサークルの先輩だったんです。何でかわからないけど、誘われて、その時は、好きかどうかなんてわからなかったけど、流されて、セックスして有耶無耶なまま付き合って、でも、結局、先輩の相手って俺だけじゃなかったんですよ。それが嫌で、もしかしたら、俺は先輩の事が好きなんだ、って気付いたんだけど、先輩は、俺だけを見てくれている訳じゃないから、もう『好きだ』とも言えなくって。報われる事がないのはもうわかっているんですけど。」
「まだ付き合いあるの? その『先輩』と。」
「今はもう昔とは違うけど。先輩には、何か、本気で好きなオトコが出来たみたいで。って本人から直接紹介されたんだけど。『友達』だって。」
「その相手は知ってるの、直哉くんが、ただの『おトモダチ』じゃないって。」
「知られてます。俺が、先輩の事まだ好きだって事も。」
「ふーん。複雑だねぇ。ま、でも気持ちの切り替えなんてすぐに出来る訳じゃないからね。」

「それで、俺がまだ先輩が好きだって言っても、雫さんは、俺と付き合おう、って言えるんですか?」
「そりゃあ、君の事が気に入ってるし。」
「まだ2度しか会ってないのに?」
「回数なんて関係ないんじゃない?」
「俺は、雫さんの事好きにならないかもしれないよ?」
「先の事なんてわからないよ。でも、好きじゃなくても、嫌じゃないんでしょ? 僕といるの。」
「そりゃあ、そうだけど。でも俺、雫さん以外のオトコと寝るかもしれないよ? それでもいいの?」
「んー、どうだろう。僕、あんまりそういうのどうこうしようとか思わないんだよね。それとも、直哉くんは止めて欲しいの?」
「わからない……。」

 本当にわからない。
 誰かに止めて欲しいのだろうか。
 今俺自身がやっている事を。

「あのさ、オトコの僕が誘っておいてなんだけどさ、『オトコ』を好きなのはその先輩が特別なんじゃないの? なんで、女の子と遊ぼうとか思わないの?」
「わからない。もしかしたら、どっちもそんなに好きじゃないのかもしれない。」

 わからない、ばっかりだな、俺って。

「……実は怖いんですよ。自分の家のベッドで眠るのが。」
「うん?」
「先輩の事思い出してしまいそうで。だから、外で、オトコとホテルに行くことが多くって。」
「家にいる時はどうしてるの?」
「寝るのはソファ。ベッド捨てるのも出来ないし……。」

 このオトコにこんな事話してどうするんだろう俺。

「気が向いたら、僕のところ寝に来てもいいよ。遅くても良いんなら、夕食、作ってあげるし。」
 期待してた訳じゃない、だけど、嬉しくって。
「たまに、来ても良いですか?」
「良いよ。でも、一応前もって連絡はしてね。」
 年上の、このオトコの言葉に甘えさせてもらっても良いのかな。
 そんなこと話している間に時間は随分経っていたみたいで。

「もう昼近くか。昼御飯、何か食べたい物ある?」
「いや別に。」
「じゃあ、何か食べられないものは?」
「……グリンピース。」
「了解。んじゃ、ちょっと、買い出し行ってくるね。適当にくつろいでくれいていていいから。」

 オトコはそういうと、出て行った。
 適当と言ってもなぁ。
 俺は何となく、オトコの仕事部屋に行ってみた。
 本当にすごい量の本だ。
 色々種類もあるみたいだし。

 あ、この本。 『海の底の底』
 俺が装丁のイラストを描いた本だ。
 そういえば、ちゃんと中身読んだ事なかったなぁ。
 その小説をぱらぱらめくって読んでみる。

 そうしている間にオトコが帰ってきた。
「何? 本読んでたの?」
「うん。この本、俺がイラスト描いてんだ。」
「へぇ。あ、ホントだ、『喜多嶋直哉』って書いてある。」
「こういう話、好きなんだ。」
「そうだね。割と好きかも。待っててね、今からご飯作るから。」
「うん。」

 そうして、また俺はその小説の続きを読み始めた。
 短編集だから読みやすい。
 それから、ご飯を食べて、特に何をするでもなく二人で過ごして。
 結局、夕食も一緒に食べて、そのまままた泊まって。
 セックスはしなかったんだけどね。

 また朝が来て、朝食を摂って、さすがにこれ以上は、このままここにいる訳にもいかないし、このオトコにも仕事がある。
 朝、オトコが仕事に行くついでに車で家まで送ってもらった。
 仕事に行く時はスーツなんだ。
「スーツ姿って初めて見た。」
「仕事中はさすがにラフな格好は出来ないからね。」
 そうして別れ際に鍵を手渡された。
「僕、仕事遅くなること多いから、適当に家来てても良いよ。んじゃね。」

 そうして去っていく車を見送っていた。
 たまには、遊びに行っても良いかな。
 そう思う。
 大切に鍵を握り締めた。


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『共犯者-5-』

 特に変わりのないまま日々は過ぎた。
 店にもちょくちょく顔を出していたけど、あのオトコと会う事はなかった。
 連絡を取ろうと思えば、携帯の連絡先を知っているから出来るんだけど、何となくそれをしたくはなかった。

 セックスをして、付き合おう、という話になったけど、別にあのオトコの事が好きになった訳ではない。
 勿論、嫌だ、という訳でもなかったが。

 連絡をする、と言って別れた。
 けれど、半信半疑だった。
 もしかしたら、連絡は来ないかもしれない……。
 でも別にそれはそれで良かった。

 そういえば、今週の木曜くらいって言ってたな。
 しかし、本当にその気があるのなら、もうちょっと向こうから連絡してきたらどうなんだ? と思う。
 まあ、特に連絡し合う事なんてないんだけど。

 オトコは宣言していた通り、前日の水曜の昼になってやっとメールをよこして来た。
『僕は、明日休めそうだけど、直哉くんはどう? 今晩から空いてる?』
『大丈夫』
 とだけ、簡潔に返した。
 その後、『夜、22時位はどこにいる?』
 どこで待ち合わせ、って事だろうか。
 どこら辺がいいかなんてわからない。
『この前の店』
 そこら辺が無難だろう。
『了解』
 以上終了。

 取り敢えず、また会う気はあるみたいだ。
 俺はまた、通い慣れたあの店へ、向かっていった。
 あのオトコが来るまでにはまだ時間があって、独りで飲んでいると、別のオトコに声を掛けられた。
 それが、今日でなければ誘いに乗っていたと思う。
 『すみません。約束があるので』そう言うと、『残念』と言って、オトコは去っていった。
 しつこくなくて、ラッキーだった。
 その気になれなくて、断る時でも、諦めの悪い奴はいる。
 そういう時は本当にうんざりするよな。

 22時を少しすぎたころ、オトコがやって来た。
「ごめん、遅くなって。」
 初めて会った時きと同じような全身、黒いいでたち。
 この男、黒が好きなのかな。
 黒でバリエーションを揃えるって難しいだろうな。
 普段もこうなのだろうか。

「出る?」
「雫さん、来たばっかりでしょ?」
「そうだけど、僕、お酒飲まないし。」
「俺、もう一杯くらいいきたいし、もう少しここで。」

「了解。直哉くん、飲み過ぎてない?」
「この間ほど酔ってないよ。」
「この間は、酔っていたって自覚あるんだ。」
「まあ、酔う為に来ているようなものだから。」
「ふーん。あ、マスター、いつものお願い。」
 『かしこまりました』といってマスターが飲み物を作りにいく。
 いつもの……この前と同じ飲み物か。

「雫さんは、よくこの店に来るんですか?」
 初めて会ってから、今日になるまで、見かけた事なんてない。
「二月に一度、来るか来ないか、くらいだよ。」
「それなのに、いつものって言うだけでマスターに通じちゃうんですね。」
「ああ、個人的に友人だから。はは、役に立たない友人だよね。殆ど来なくって、その上売り上げにも貢献してないんだから。」

 本当に、のん気そうだな、このオトコは。
「この後どうするんですか?」
「うーん? どうしよっか。どうしたい?」
「どうしたい……って、何も考えてなかったんですか。」
「僕の家来る? あ、禁煙だし、お酒ないけど。」
「え……。」
 いいのか? そんなに、簡単に自宅にオトコを入れて。
「あ、それとも直哉くんの家行こうか。」
 いやいや、だから、そんないきなり殆ど知らない人間に自分のテリトリーに入って欲しくない。

「俺の家は……嫌です。」
「じゃあ、僕の家来る?」
「雫さんが構わないのなら。」
「僕? 僕は全然良いけど?」
 警戒心、というものが、このオトコにはないのだろうか。
 俺は良い、自分のベッドで寝なくて済むのなら。
 どうせ、どこに行ったって、ヤる事は同じなんだから。

「じゃあ、行こうか。」
 そう言って店を出る。
「もう少し言った所の駐車場に車止めてるから。」
「車なんですか。」
「通勤もプライベートも大概、車。だから、お酒飲まないの。」
「はあ……。」
「直哉くんは車、運転しないの?」
「俺はペーパードライバーですから。」
「まあ、これだけ、公共交通機関が発達してれば、そっち使った方が良いんだろうけどね。」

 車を走らせること30分程度。
 そのオトコのマンションに着いた。
 独りで暮らすには結構贅沢な造りだ。

「賃貸ですか?」
「いや、僕の。」
「金あるんですね。」
「ないよー。でも自分家が欲しかったからローン組んで馬車馬のように働いてるの。」
 冗談めいてオトコが言った。 
 綺麗に片付いた部屋。
 というより、あまり物がないのか。

「ベッドは?」
「寝室はそっち。それで、こっちが仕事部屋、あ、あと、ここがトイレに風呂。」
 寝室にはシンプルにクローゼットととベッド。仕事部屋にはパソコンとまるで小さな図書室にいる気にさせるような本棚と本。
「なんか、すごい量の本ですね。」
「ああ、どうしても、この趣味だけは辞められなくってね。おかげで余計に金が掛かって。」
 苦笑するオトコ。

「……シャワー借りますね。」
「ああ、うん。泊まってくでしょ? パジャマ置いておくよ。そんなに体格変わらないから、僕ので大丈夫でしょ。」
「ありがとう。」
 取り敢えず、お礼を言って、シャワーに向かった。

 俺が出て行くと、オトコが交代でシャワーに向かう。
 やっぱりどこに行ったってヤる事は同じなのね。
 禁煙、って言ってたし、あー、煙草吸えないのが辛い。
 煙草って暇つぶしになるのにな。

 仕方無しにベッドにごろんと寝っ転がり天井を見上げて、ぼーっと過ごしていた。
 程なくしてオトコがやってくる。
「眠い? このまま寝る?」
「は? ヤらないの?」
「嫌、なんか、そのまま寝入りそうな感じがしてたから。」
「煙草吸えないからつまらなかったの。」
「ああ、ごめんね。僕、吸わないから灰皿なんてないし、部屋に煙草の臭いが染み付くの好きじゃないから。」
「……おかげで、欲求不満なんだけど。」
「ごめん。」
 くすり、と笑って俺に覆いかぶさってくる。

 重ねられる唇が気持ちいい。
 舌を絡められて、吸われる。
 そうして、何度も、何度も角度を変えて、重ねられる唇。

 前回のセックスで、覚えているのか、俺の感じる部分を男の手が器用に撫でていく。
 俺のペニスが、確かに高ぶってくるのがわかる。
 そしてオトコのペニスも。

 そのまま口淫を施されて。
 すっごく気持ち良くって。
 舐められながら手で扱かれると、もうたまらなくて。

「あ…ダメ…も…イっちゃいそう…。」

「我慢できない? 良いよ。イっても。」

「え……あ……ちょっと……あ……んん!」
 結局、堪えきれず、俺は放ってしまった。
 そんなに溜まってたか? 俺って。
 そんなはずはないんだけどな。

 俺が放ったものをベッドサイドにおいてあるティッシュでぬぐわれた。
「ちょっとは落ち着けた?」
「え?」
「緊張してたんじゃない? いきなり他人の家に来て。」
 え? そうなのか? そうだったのか?
「ちょっと脱力……」
「そう。良かった。」

「雫さんは……シないの?」
「まだ、直哉君、キツいでしょ。イったばっかりなんだから。」
「あー、煙草吸いたい。」
「ごめんね。コレで我慢して。」
 そうして、また唇を重ねられた。
「これ、煙草の代わりになるの?」
「口寂しくはないでしょ。」

「雫さんは、煙草嫌いなんですか?」
「自分で吸おうとは思わないね。昔は、吸ってた事はあるけど、20歳で止めた。」
「よく止められましたね。」
「元々ニコチン中毒になるほど吸ってなかったしね。まあ、後は、税金をぼったくられてるような気がしてね。その分、本にお金がつぎ込めるようになったし。何かしらに依存はしてるよ。」
「そういうもんなんですか。」
「まあ、人それぞれだよ。結構、何かに依存してる人って多いんじゃない?」
「セックスとか?」
「あはは。そういう人もいるよね。」
「不健全ですかね。」
「さあね。何とも言えないな。」

「依存してるな。俺も。いろんなものに。昔は、もっと無関心だった気がするのに。」
「無関心ねぇ。どっちがいいとかは言えないね。どっちも、自己防衛本能みたいなものだから。」
「自己防衛本能……ですか。」
「人間の感情なんて、単純なようで難しいのよ。」
「悩むだけ無駄ですかね?」
「いやいや、大いに悩んで成長しなきゃね。」
「いつになったら悩まなくってすむんですかね。」
「生きてる限り、無理じゃない?」

 悩んでも、悩んでも、答えなんか出なくて。
 傷つくのが怖くて、見えてるはずのものを見えないようにしてきた。
 そこには、永遠に続くトンネルがあるような気がしたから。
 そこに射し込む僅かな光を、俺は見逃そうとしていたのかもしれない。
 それでも今は……。

「雫さん……」
「ん?」
「シよう。」

 今は、このオトコが、抱いてくれるから。

 再び加えられる愛撫に反応していく。
 オトコの触れる指先から、熱が上がっていくのがわかる。

「あ……ぁ……んん……」
「直哉くん……。」
 指で解されたアナルにオトコのペニスの先端が触れ、ゆっくりと挿入されていく。
「あぁ……!」

 内壁を擦られる感覚に堪らず腰が揺れる。
「直哉くん、そんなに締め付けたら駄目だよ。もう、僕ももたない。」
 そんな事、言われたってどうしようも出来なくて。
 突き上げられて、それでも離れてしまわないようにこのオトコにしがみついて。

 俺のペニスも、オトコの手で扱かれて。
「く……ん……」
 オトコが射精したのと前後して、俺もオトコの手の中に放っていた。

「直哉くん、湯船浸かる?」
「どっちでも。」
「じゃあ、お湯、溜めてくるね。」

「湯船で溺れないでね。」
「はい……。」
 かけ湯で汗を流して、湯船に浸る。
 疲れが溶け出ていくようだ。
 温かいお湯に身体が包まれている。
 落ち着けたけど、それ以上入っているとそこで寝てしまいそうだったから、惜しみながらも出た。

「雫さん、お先、ありがとうございました。」
「先に寝ててもいいよ。明日は急がないんでしょ?」
「はい。」

 そうだ。
 明日は完全にオフなのだ。
 どうするつもりなんだろう。
 そういえば、俺って、普段、家で仕事してる所為か、オン・オフの切り替えがあんまりないよなぁ。
出歩く方じゃないし。

 うとうとしかけていた頃、オトコが風呂から上がってベッドに入ってきた。
「直哉くん、もう寝た?」
「ん……」
 生返事をした俺に、『あ、ごめん、そのまま寝てていいよ。おやすみ』と言ってこめかみにキスされた。
 このオトコ結構、キスするの好きなんだなぁ。
 それが別に嫌じゃなかったりする。
 これって、このオトコを受け入れ始めている証拠なんだろうか。
 まあ、今考えても仕方がないか。

 『おやすみ』、口に出ない言葉を心の中で呟いた。


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『共犯者-4-』

 朝7時、ホテルのモーニングコールが鳴る。
 その音に、俺は目が覚めた。

 ベッドの横には、オトコはいない。
 だが、かすかに声が聞こえる。
 それは直接的な声ではない。
 ブラウン管からの……。

 そのオトコは既に着替えを済ませ、TVのニュースを見ていた。
 俺が目覚めたのに気付き、『おはよう』とにっこり笑いかけてきた。

「いつから、起きてたんですか。早いですね。」

「んー。1時間くらい前かな。」
「そんなに早く起きてたんなら、別に俺の事なんか待ってないで、帰ったら良いじゃないですか。」
「だってまだ答え聞いてないし。昨日僕が言った事、覚えてない訳じゃないでしょ?」

 そうだった。
 昨夜、俺は、このオトコから、『付き合って欲しい』、と言われたのだった。
 その答えを有耶無耶にし、そのまま寝入ってしまった。

「僕が先に起きてなきゃ、絶対、君、何も言わずに、帰ってたでしょう? だから待ってたの。」
「だからって、俺がOKするとは限らないでしょう。」
「まあ、そうだけどさ。無理強いはしたくないけどさ、取り敢えず、何回か会ってみても良いんじゃない? それとも、二度と会いたくない?」

 どうしよう。
 どうしよう。
 どうしよう。

 この人が差し伸べてくれた手を、俺は取るべきなのだろうか。
 俺は……。

「悩んでる? 絶対嫌、って訳じゃないんだね。ねえ、携帯持ってる?」
「あ、はい。」
「連絡先教えて。あと、名前と。」
 そう言って、手帳から紙を一枚破り、ボールペンと一緒に俺に渡してくる。

 嫌、ではないと思う。
 だからといって、良い、という訳でもない。
 そもそも、そんな気持ちでまた会ってしまっていいんだろうか。
 このオトコは知っている。
 俺に、好きなオトコがいる事を。
 このオトコは、それでいいんだろうか。

「あんたこそいいんですか? 俺に好きなオトコがいるって、わかってるんでしょ。」
「でも、恋人じゃないんでしょ? 何かしら(いわ)くはありそうだけど。言ったでしょ? 僕は君が気に入ったって。」

 なんだか、このオトコには、何を言っても無駄な気がする。
 観念して、俺は、紙に携帯の番号と、名前を書き込んだ。
「あ、良かったら、メールアドレスも、ここに書いておいて。」

 言われるまま、俺は書き込んだ。
 嘘の番号を書き込んでも良かったのだが、俺は本当の事を書いた。

「……もしかしたら、デタラメ書いてるかもしれないですよ。」
「まー、そういう時は、そういう時で諦めますよ。言ったでしょ? 無理強いはしないって。」
 そういいながら、オトコは紙を見ながら、自分の携帯に入力していっている。
「えーっと、喜多嶋直哉(きたじまなおや)くんね。んじゃあ……」
 俺の携帯が鳴った。
 新着メール1件。
 このオトコが送ったのか。
「あ、デタラメじゃなかったね、名前も本名?」
「はい……。 えーと、宮下雫(みやしたしずく)さん?」
「そうそう。登録しておいてね。あ、直哉くんて呼んでいい? 僕の事は雫でいいから。」
「はあ……」
「連絡しちゃ不味い時間帯とか、曜日とかある? ほら、仕事とかで。」
「あ、俺、不定期で、自宅で仕事してるから、寝てる時間以外なら大体、大丈夫です。」
「そうなんだ。じゃあ、とりあえず、メール送るから、電話OKだったら、メール返して。ちなみに僕も、昼間は、大概携帯出られるから、いつでもOKだから。」
「はあ。」
「不定期って、もしかして、今日もこれから仕事?」
「はい。」
「そうかぁ。残念。ゆっくり出来ないんだね。ゆっくり休み取れる時とかないの?」
「自分で調節すれば何とか。」

 うーん、と唸って、オトコは、自分のスケジュール帳をめくる。
「来週……は無理か。えーっと、再来週の木曜あたり空けられる?」

 随分、先の話だな。
「そんな先の事わからないけど……、多分。」
「前日に連絡入れるよ。あ、それまででも、別に用があったら、掛けてきてくれて良いから。」

 そうして、その日は別れた。
 電話掛ける……つったって、特に用はないからな。
 『付き合おう』とか言って、いきなり、そんなに期間をあけられるってどうよ?
 とりあえず、約束はしたみたいだけど……どうなる事やら。
 一応仕事の方は調整付けておくか。

 でもさ、それでもまだ、何か駄目だな。
 仕事が上がるとついつい店に足が向いてしまう。
 これって、あの人に失礼なのかな?
 でもまだ一回会ったばっかりだし……。

 それとは別に例のコとも会ってたりする。
 何かしたい訳じゃないけど、なんだかなぁ。
 そこコも俺も、まだ先輩に振り回されっぱなしだ。
 俺と先輩の関係もバレたみたいだし。
 そして、認めたくなかった俺の先輩への気持ちも。
 うーん、これもどこへ転がっていくのやら。


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『共犯者-3-』

 土曜の夜、もう随分時間が経ってしまった。
 仕事を終えてしまって、自分の部屋にいるのが嫌で、いつものように店に来ていた。
 基本的に誰かとつるみたい訳じゃない俺は声を掛けられない時は独りで飲んでいた。
 例え独りでも店に来る方が何倍もましだった。

 今日はもう駄目かな、そう思いかけていた時、一人のオトコから声を掛けられた。

「君、一人?」

「ええ……」
 誘いの常套句だ。
「良かったら、あっちで一緒に飲まない?」
 ふーん、すぐホテルに行く訳じゃないんだ。
 まあ、良いか。面倒臭いけど、結局は同じ事なんだろう。

 俺はそのオトコとカウンターへ向かった。
「マスター、いつもの、お願い。君は? 何か飲む? もう随分飲んでるみたいだけど。」
「じゃあ……」
 と俺は、さっき飲んでいたものと同じものを頼んだ。
 『いつもの』で通じるんだ。
 常連さんなのかな?
 他の客の事なんか気にした事はなかったからわからない。
 ただ、わかるのはまだ俺が寝た事のない人間だっていう事くらいだ。

「ねぇ、良かったらオジサンと付き合わない?」
 にっこり笑ってそう言われた。
 はあ? 付き合う? これは本格的に面倒かも。
「俺、誰かと付き合うなんて思ってないですから。」
「ふーん。」
 そういってじっと見つめられる。
 なんだか嫌だな、こういう風に見つめられるの。

「好きな人がいるから? それとも誰か1人に縛られたくないから?」
「だったらどうだって言うんですか。」
「いや、別に?」
「どっち? それとも両方?」
「あんたに関係ないじゃないですか。」
「まあね。でも、僕、君の事何となく気に入ったから。」
「何となくって、だって会ったばっかりじゃないですか。」
「それが何かいけない?」
「いけなくはないですけど……。」

 ヤバイ、俺、もしかして押されてる?
「ねえ、どっち?」
「……両方です。」
「ふーん。やっぱり。好きな人って、オトコだよね。でもさぁ、君ってゲイに見えないんだけど。」
「何で、そう思うんですか。」
「ただの感だけど。」

 相変わらず、その人はにこにこ笑っている。
 この人、意外に鋭いのかな。
 そう思って、さり気にその人を観察してみる。
 自分で自分のことを『オジサン』と言うけれど、それほど、『オジサン』には見えない。
 まあ、俺よりは年上だろうけど。
 そのくせ、自分の事を『僕』って言うんだ。

 耳にかかるかかからないくらいの漆黒の髪。
 眼鏡の奥で優しく微笑む、漆黒の瞳。
 柔和な、そして綺麗に整った顔立ち。
 黒いタートルネックのニットに黒いズボン。
 全身黒い中で右耳に光るブルーのピアス。

「俺に好きなオトコがいるってわかってても、俺と付き合おうと思うんですか?」
「別に気にしないけど。大体、好きだって言っても、付き合ってないんでしょ? こういう場所であんな表情してるんだから。」
「あんな表情って……。」
「うーん。上手く説明できないけどね。誘っているっていうかさぁ、でも何か拒んでいるっていうか。」

 そういうのってわかるものなのだろうか?
 無意識でも、俺はそんな感じなのだろうか。
「そんなに俺ってわかりやすいですか?」
「どうだろうね。僕がそう感じただけだから。他人が君の事をどう見てるかなんて僕にはわからないし。」

 この人、怖いかもしれない。
 でも、なんだか……。
 壊して欲しい、どこかで、そう願っているのかもしれない。

「ヨかったら、考えてもいいよ。でも、その前に、もう一杯。」
「あ、もう駄目だよ。飲みすぎでしょ? 酔っ払い抱いてもつまらないんだけど。それに、酔っ払ってたらイイかどうかもわからないでしょ。」
「じゃあ、あんたの、残っているのだけ頂戴。」
 そう言ってそのオトコの半分くらい液体の残っているグラスを勝手にとり飲み干した。
「………何これ? 酒じゃないじゃん。」
「ん? 柚子茶。僕、お酒飲まないから。ちょっと甘かった?」

 ガキかこの人は。
 訳のわからない人間だ。

「じゃあ、ホテル行く?」
「んー。っていうかさ、君が好きな人は確かにオトコなんだろうけど、ゲイじゃないんでしょ? それなのに、僕とホテル行こうとか思う訳?」
「誘ってきたのはあんたじゃん。」
「確かにそうだけどさ……。」
「別にあんたが誘わなくっても、他のオトコと寝てたよ。」
「まあ、君が承諾したんなら良いんだけどね。」

 そうして店を出てホテルへ直行した。
「この時間からだと、オールになるけど、良い?」
「はい。」
 別に明日早い訳でもない。

 強引ではなく、けれど、力強く口付けられた。
 歯列を割って入ってくる舌を絡めとられる。
 口腔内を舌で愛撫されて確かに感じた。

 細くて長い指が器用に俺のカラダを這い回り快感を煽っていく。
 確かに感じた所を更に舌で舐められて背筋がゾクゾクとした。

「あぁ……はぁ……」
 勝手に声が上がる。

 もう勃ち上がりかけているペニスに触れられ、ゆるゆると扱かれる。
 そうするともうたまらなく快感で。
 硬度を増していくペニスの先端に舌が触れ、口で咥えられて、舐め上げられた。

「んん……はぁ……あ…っ…もう……」

「イきそう?」

「あ……でも…まだ…」
 
 オトコはローションを手に取り、俺のアナルを解していく。
 受け入れる事を知っている俺のアナルは従順に反応していく。

 オトコは勃起した自身のペニスにゴムを被せ、ゆっくりと俺のアナルに挿入していった。
「いけそう? 大丈夫?」
「ん。動いて。大丈夫。」

 俺の了解を得て、オトコは抽挿を始める。
 前立腺を擦られて、快感に喘いだ。

「ああ!あん……はぁ……ん」

 ソコを突かれるたび、イきそうになる。
 何も考えられない。
 考える必要なんてない。
 今はただ快感を追っていれば。

「は…あ…も……イ……く……!!」

 言うやいなや、俺は射精していた。

「んん……くぅ」

 俺がアナルを締め付けて、オトコも達した。
 オトコは萎えたペニスを俺の中から抜き去る。

 しばらく動けないでいる俺からオトコは離れ、浴室に消えていった。
 そこから、お湯で濡らしたタオルを持って戻ってくる。
 自分の腹の上に射精してしまった俺の精液を、丁寧に拭き取ってくれた。

 その指先は、さっきまで俺を感じさせていた動きとは異なっていて、それでも優しい動きだった。

 素直にヨかった、そう思う。
 だけど、それでこのオトコと付き合うのか、というのはやっぱり別の話で。

 なのに、俺は何となく、またこのオトコと会っても良いような気になっていて。
 ただ、セックスが良かっただけだろ?
 それなら今までだって、別にそんな奴いたじゃないか。

 どうしよう。
 このオトコの手を、取ってみようか。
 迷いはある。

 やっぱり、先輩を忘れられない俺。
 だけど、好きなオトコがいても良いと言ってくれたこのオトコ。
 このオトコの笑顔は、ただ優しいだけじゃなくて、いや、優しそうだから怖いのかもしれない。

「どう? 動ける?シャワーいけそう?」
「ん……大丈夫。」
 のろのろとベッドから抜け出てシャワーへ向かう。

 まだ、酔っているのかな、俺は。
 酔っている? 何に?
 シャワーから出て、ベッドに横になると、睡魔に襲われてしまった。
 まあ、いっか、考えるのは明日の朝で。

「君、明日、何時に起きる?」
「んんー、7時くらい。」
「了解。」

 それだけ会話をして、もう、その後の俺の意識は薄らいでいった。


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『共犯者-2-』

 目が覚めたら全然知らないオトコとベッドの中にいて、何ていうのは初めてじゃない。
 大抵、昨夜どうこうして、っていうのは覚えていなかった。
 バーに行って、結構ハイピッチで飲んでしまう。
 そうなると、途中から記憶がなくなっていて。
 声を掛けられたオトコにそのまま抱かれてしまう事が殆どだった。
 
 変に覚えている方が嫌だった。
 多分、快楽を覚えただろうそのカラダは、翌朝残ったアルコールとその腰の気だるさがその証拠だった。
 そんなだるさを引きずったまま家に帰り、シャワーを浴びて仕事に取り掛かる。
 会社に行くなんて作業をしなくてもいいのがこんな気ままな生活を支えられる一つの要因でもあった。
 絵を描くのが好きだった俺は美大を卒業後、何とかちまちまとイラストレーターなんぞをやっている。
 儲かっている訳ではないが、それなりには食べていける。
 仕事をもらえるだけでもありがたいものだ。

 仕事の締め切りはあるけれど、時間的に拘束される訳ではない。
 俺が俺のペースで仕事をすれば良い。

 先輩はまだたまに俺のマンションに押しかけてくる。
 大概昼間の内に連絡が入るのだ。
 そうすると、俺は俺でその日は外に遊びに出ず、その夜を結局先輩と過ごす事になる。

 先輩と過ごした俺のベッド、そこで一人で眠るのはとても寂しかった。
 だから、先輩の来ない夜は、オールでホテルいることも多々あったし、相手のオトコの都合上それが無理でも、家に帰ってきてベッドを使わずにソファで眠る事が殆どだった。

 先輩も俺も他のオトコとセックスしてるわけで、それでも俺達はセックスをして、ちゃんとした会話なんかもなくなって、ただ気が向いたときだけにヤるだけの存在なのだ。

 こんな生活をいつまで続けるつもりなんだろう。俺は。

 ただ先輩の態度が少し変わって、好きなコができたと言われて、そんな事を言われる俺って、先輩にとって何だったんだろうって。
 そうして、好きなコに『友人』だって紹介されてる俺って……。

 セックスしているくせに『友人』って紹介できる先輩の神経もわからなくって。
 そのコもそのコでどんな感じがしたんだろう。
 俺が先輩とセックスする間柄だって知っているのだろうか。
 知ったらそのコはどうするだろう。

 先輩はその頃にはもう他のオトコと遊ばなくなっていた。
 紹介された時、健気なコなんだな、という印象を持った。
 先輩が一応、遊び人だった事を知っていて、でも『友人』だって紹介されたのは俺だけみたいで、やっぱり、先輩が『元』遊び人だって事を知っていて、何となく戸惑っているところを見るとちょっと面白かった。
 それと同時に、先輩の中では、俺は恋人ではなかったけど、一応、他のオトコとは違ってちょっとは特別な存在なのだと知った。

 先輩は先輩でそのコに真剣に付き合ってもらおうとして必死だった。
 そのコもそんな遊び人がそのコに本当に本気で好きだと言っててくれているのが不安みたいだった。
 俺から見てもそのコが可愛らしくて、不安で俺なんかにもすがってくるところがやっぱり健気でついつい構ってやってしまいたくなる所があった。
 俺が先輩と、そういう関係だっていうのもわかっていたみたいだった。
 そこら辺は、馬鹿な人間じゃないんだな、と思う。
 何となく、そのコに先輩が惹かれたのがわかった気がした。

 そのコを可愛らしいと思う半面、俺は結局、先輩の恋人にはなれないとわかってそのコが憎くもあった。

 俺ってイジワルなのかな?
 そういうコをいじめてみたくなるなんて。

 そんな俺なのに、先輩の事が心配で、俺に関わってくるそのコって……。
 必死なんだろうなぁ、と思う。
 勿論(もちろん)、誰にも相談きるはずもなくって、そこに『俺』、っていう存在があって。

 俺もまだやっぱり先輩の事好きなんだなぁ、と感じる。
 そのコと関わる事で、また一つ先輩の違った一面が見えてきて。

 『溺れるものは藁をも掴む』って言うけど、やっぱりそんな先輩に魅せられたそのコにとって俺は『藁』なんだろうな、と思う。
 そんなもの掴んだって、しょうがないじゃん? と思っても掴む事しか出来なくって。

 先輩も先輩で必死みたいで。
 だって、過去は消せないじゃん?
 両想いなんだろうけど、中々上手くいかなくって、なんで、まだ俺に手を出してくるのよ?
 そういうところが、そのコにはやっぱり不安なんじゃないの?

 モテるくせに、色んなオトコとセックスをして来たくせに、この先輩はそういうところに鈍感(ニブ)いんだな。
 だから結局、先輩は色んな人の気持ちに気付かずに傷付けてきた。

 でも、俺も、今現在いろんなオトコと寝て、その相手を傷付けたりしてるんだろうか。
 俺は基本的に、一夜限りで、誰か特定の相手に絞る事は出来ずにいた。
 だって、まだ先輩の事が好きだから。

 それに大体、俺って、オトコとセックスするけど、オトコの事が好きなのか? というと、そうじゃないと思うから。
 ただなんとなく、オンナとは付き合わなくなったけど。

 いやいや、『付き合う』っていう行為自体誰ともしてない。
 ただ、オトコに抱かれるだけ。

 ただ、誰かに、誰でもいいから、抱かれ続けて先輩の影を消したかったから。

 俺は絶対に言わないけど、そのコと先輩は上手くいくんじゃないかな? と思う。
 そのコの純粋な先輩への想いはわかるし、先輩のそのコへの態度もわかるし。
 だって、俺も、そのコと同じように先輩の事が好きだから。
 好きだから、先輩の事を見てきたから。

 勿論、俺はその架け橋になる気なんてないよ?
 それくらいイジワルさせてくれたっていいじゃん。
 俺だって、先輩に振り回されてきたんだから。

 俺にもまたいつか、好きな人が出来たりするんだろうか。
 先輩の本当の『友人』になれる日が来るんだろうか。

 先輩は多分、俺に『好き』だっていう気持ちを教えてくれた人。
 そして、それが必ずしも叶うものじゃないっていう事も教えてくれた人。

 何となく俺は、昔付き合った彼女たちが、俺に別れを告げていった理由がわかるような気がした。

 まだいろんなものに溺れている俺の『藁』になってくれるものはあるんだろうか?
 そして、俺は『藁』を求めているんだろうか?
 今まだ底なしの沼の中でそれはわからずにいた。


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『共犯者-1-』

 俺はゲイではなかったはずだと思う。
 それまでオトコに対してそんな感情もった事なんてなかったし、実際付き合っていたのもオンナばかりだった。
 実際付き合っていたオンナの事が好きだったし、それなりに上手く付き合っていたと思うんだけど、長くて一年、短くて三ヶ月くらいで別れてしまった。
 『嫌いになった訳じゃないんだけど』そう言われて振られる。

 決定的に何かダメージになる事があったんだろうか。
 その言葉が真実かどうかわからない。
 普通、どう言われれば傷付かずに別れられるんだろう。
 そんな風に優しく断ったほうが波風が立たないんだろうか。
 それはわからないけど、俺は取り立ててそれ以上別れていく彼女たちに問い詰める事はなかった。
 俺って優しくなかった?
 望めば大概の事はやったよ。
 それなのに駄目なの?
 別れ際に追いすがるなんてみっともないと思って、しなかった。
 でも、振られて別れて不思議と傷付いていない俺自身がいた。

 高校の時も、大学の時もそんな感じだった。
 大学二年の時、ちょうど彼女がいなかったとき、サークルのオトコの先輩に告白された。
 そういうタイプの人種がいるって事、知ってたけど、まさか身に降りかかってくるなんて思わなかった。
 流石に最初は丁重に断っていたんだけど、とにかく強引なところがあって、しぶしぶ折れてしまった感じだった。
 無理矢理、っていう訳じゃないんだけど、押しが強いっていうか、まあ、押されてしまった俺も俺なんだけど。

 俺のマンションに押しかけられて、そのまま抱かれた。
 強引なくせに変に優しくて、もしかしたら普通の人間だったら、こういうのは気持ち悪いって思うんじゃないかな? とか考えたけど、実際俺は嫌だとか思わなかった。
 他人の手によってもたらされる快感は不思議な感じがした。

 最初の内は異物感でしかなかったアナルも、次第に慣らされていく内に気持ち良くなっていった。

 大学のサークルで会う時は全然そんな素振りを見せないんだけど、抱かれるようになって、改めてその先輩を見直してみると、カッコイイかも、とか思ってしまった。
 実際、後輩にもよく慕われているようだ。
 でも、そんな中で、なんで俺だったんだろう? っていう疑問は残ったままだった。
 俺は聞かなかったし、先輩も俺に言わなかった。

 先輩に連れられて、何度かゲイクラブに行った。
 そこでは大学とはまた違った先輩の顔を見る事が出来てなんだか嬉しかった。
 そして、その場に何となく馴染んでいる俺がいた。

 俺の先輩に対する感情がどういうものかよくわかっていなかった。
 曖昧な感情のまま抱かれ、それを曖昧にしておく俺に対して、先輩は何も言って来なかった。

 どうしようもなく先輩に惹かれている事は確かだったと思う。
 けれど、それを認めたくない俺もいた。
 それなのに、俺は先輩に抱かれ続けた。
 先輩が俺を求めてくれるのが嬉しかった。

 セックスだけが全てだとは思わない。
 だけど……。
 先輩が抱くのは俺だけじゃないって知った。

 好きだと先輩にいった訳じゃない。
 言わないまま数年カラダを重ね続けて……。
 言うのが怖かったからかもしれない。
 言ってしまったら、認めた事になるから。

 先輩にとって俺が『唯一』の存在じゃないって知った時、初めて認識する事が出来た。
 もう、今更好きだなんて言えなかった。
 好きだって言って、相手にされなくなるのが怖かった。

 この数年、先輩にとって俺は何だったんだろう。
 俺にとって先輩は何だったんだろう。
 俺は、先輩の恋人になりたかったのだろうか。
 そうかもしれない、と気付いた時はもう遅くって。

 最初から認めていれば恋人になれただろうか?
 そんな事、今更考えたって始まらない。
 わかるのは、俺達はもう決して恋人にはなれないって事。

 俺は、先輩との関係を続けながら、他のオトコにも抱かれた。
 そういう店に行けば、俺を誘ってくる奴はいた。
 先輩の事を忘れたかったから、他のオトコに抱かれたのに、それでも染み付いた先輩への想いは消えてくれなかった。

 先輩に他のオトコとの事がばれても、先輩の俺に対する態度は変わらなかった。
 それが余計に嫌で、何か他の事に溺れたくて、以前よりずっと酒の量も煙草の量も増えた。
 忘れようと思えば思うほど頭に染み付いてきて離れなかった。

 俺は初めて人を好きになって、傷付いたんだ……。
 初めて自ら欲したものは手に入らないものだった。
 欲した事自体に気付かなかったんだ、ずっと。
 求められる関係に慣れすぎて、そこに安住してしまったから。

 先輩から離れたかった。
 先輩の傍にいたかった。

 そんな先輩に本気で好きなコ(勿論、オトコ)が出来たんだって。
 そして、そのコもまんざらじゃないんだって。

 そのコを見て、俺はそのコを傷つけたくなかった。
 俺はそのコにはなれないのに。

 結局、俺は、酒と煙草とオトコに溺れている。
 誰かに救いの手を差し伸べて欲しくって。
 その手をとる勇気なんてないくせに。
 待ってるだけじゃ駄目だってわかってるくせに。

 ああ……でも、溺れているのも気持ち良いなって。
 本当に、何やってるんだろう、俺って。
 どうしたいんだろう。
 このまま俺は溺れ死ぬのかな。

 そうしたら先輩は悲しんでくれるだろうか。
 悲しませたくないくせに、そう思う。

 先輩に会って世界の色が変わった。

 また今度、その色が変わって行く事があるんだろうか。


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『灰色』(短編)

 全てが灰色に見えた。
 しとしとと雨を降らせる空も、その雨に濡れるコンクリートも。
 昨晩からひっきりなしに雨は降り続いている。
 梅雨に入るのにはまだ早い。
 空気は湿っていてまるでそのオトコの心の中のようだった、
 
 外は雨が降っているとはいえ昼間だ。
 カーテンの引かれない部屋は決して明るくはなかったが何も見えないという程ではなかった。

 雑音らしき雑音がない。
 そんな静寂の中だからこそ、オトコの荒い息遣いと、ぬちゃぬちゃとした湿り気のある粘質の音が際立っていた。
 本当の静寂とは、全く音のしない事ではない。
 僅かな音を響かせる事が出来るからこそ静寂なのだ。

 ベッドの上で全裸で力なく横たえられた肢体。
 自らの意思で動くことのないその身体。
 そのオトコのアナルにもう一人のオトコのペニスが穿たれていた。

 挿入のために使われたローションと、ペニスを穿つオトコの放出した精液でアナルは濡れていた。
 オトコは何度精を放ったのかもう覚えていなかった。
 アナルに抽挿することにより物理的に刺激されているペニスは萎える事はなかった。
 オトコは酷く興奮していた。
 そして同時に酷く冷めていた。
 この二つの感情が同居するものだろうか。

 オトコが今行っている行為はセックスだといえるだろうか。
 ペニスは勃起し、射精するものの快感とは程遠いところにいた。
 それでもオトコは行為を止めようとはせず、ひたすらアナルを犯し続ける。
 なぜこんなことを続けているのか。
 それはそうしている男自身にもわからなかった。

 同じ行為でも数日前までは確かに欲望と快感があったのに。

 アナルを犯されているオトコに反応はない。
 ペニスが勃ちあがることもない。
 そのペニスは数日前までオトコを喜ばせていたというのに。

 悪いのは俺じゃない、俺じゃない、俺じゃない。
 オトコは犯しながら心の中で叫んでいた。

 そうだよ、こいつだって俺が悪いとは一言も言わなかったじゃないか。

 なのに、なのに、俺と離れようとするから。
 別れようなんていうから。

 俺にはこいつしかいなかった。
 それをこいつは……!!

 優しく俺に愛を囁いたその口で別れるだなんて。
 嘘だと言って欲しかった。
 冗談だと。
 けれどそうじゃなかった。

 俺一人をおいて部屋を出て行こうとするから。
 そんな事は許せない。
 この部屋から一歩たりとも出させてやらない。
 もう二度と。
 だから俺は、首を絞めて殺したんだ。

 首を絞められて苦しそうに俺の腕に血が流れるほど爪を食い込ませて抵抗したけど、俺はそんな事気にしなかった。
 次第に抵抗する力が弱まって息が止まった時、俺にもこんな力があるんだと不思議に思えた。
 
 それから俺はこいつの死体をベッドに寝転がせ、服を脱がせた。
 いつもこいつが俺にしてくれたようにきつく窄まったアナルにローションをたらし肉壁をほぐして自分のペニスを挿入したんだ。
 その時なんで俺のペニスが勃起していたのかわからない。

 俺は疲れ果てるまで犯し続け、もうこれ以上動けなくなってようやく萎えたペニスをアナルから引き抜いた。
 それと同時にそれまで俺がそそぎ続けた精液がどろりと零れ落ちた。
 カラダがだるかった。

 乱れた息が整ってくると、不意に笑いがこみ上げてきた。
 何がおかしいのだろう。
 それもわからなかった。
 オトコは笑いながら同時に涙も流していた。

 笑っていることにも、涙を流していることにもオトコは自覚がなかった。
 目の前に横たわっている恋人の無残な姿にも心が動かされる事はなかった。

 もう疲れた。

 麻痺した感覚の中で疲労感だけが泥のように覆っていた。

 今は、眠りたい。
 今度起きたら、どうなるだろうか。

 灰色に染まった心は、二度と色を持つ事はなかった。
 空腹感も襲ってこない。

 恋人の亡き骸を横に、ベッドに佇み天井を見上げている。
 俺も、もう死体みたいだな。

 男に生きる気力はもう残っていなかった。
 何も口にせず、時に眠るだけ。
 穏やかな死がオトコを迎えに来るまで。

 雨はとっくに上がり陽が射しているというのに、オトコのところまでは届かなかった。


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あるバーのシリーズ(魅力)完

 他人は俺に何を求め抱かれているのだろう。
 色々な人間と、誘い誘われて関係を持ってきたけれど、それが俺にはわからない。
 俺の見た目の良さは重々承知している。
 とびっきり目立つというのではなく、清楚な凛とした美しさ。
 それがある種の人には眼を引く結果となっているのだろう。

 そいつとの関係で、人を抱く行為にも慣れた。
 優しく抱いてくれる、と言ったそいつ。
 俺のセックスのスタンスはそれから変わってはいない。
 そいつが死んでまもなくの間は、忙しさに紛れ、誰とも交わらなかったけど、そんな風に一人で飲んでいる俺に声を掛けてくる人間もいた。

 一夜限りの相手にするつもりはなかった。
 だから、セックスをしても、その後の会話を大切にした。
 けれど何でだろう、恋人という感じにはなれなかった。
 気が合うし、セックスの相性も悪くない。
 『好きだ』とも思う。

 恋愛感情に発展するか、といったらそうではなかった。
 セックスはするけど、フランクに付き合えるところが良い、俺と寝た後必ずそう言う。
 しまいには、『恋人作る気ないの?』とまで聞いてくるのだ。
 でもそれはお互い様だ。
 『そっちこそ、恋人作らないの?』と。

 恋人を作る気がない訳じゃない。
 ただ、そういう人に巡りり合っていないだけだ。
 普通の友達とは一歩超えたところにいる。
 それは、セックスをしたから、というものでもないようだ。

 もちろんセックスをすれば、裸を晒すことになる。
 それでも、踏み込めない何か、が俺の中にはある。
 ガードが固い、そういって、信頼してくれる人間もいる。
 年齢を重ねるにつれ、一歩踏み込んだ友人として、俺に相談してくる人間も増えた。
 俺はそれが嫌いじゃなかった。
 そうやって人に構う事、人と関係を持つ事が心地良かった。

 他人を信頼する事、その事を覚えていった。
 俺が、関係を持つ人間は、他人と一緒にいるのが嫌いではないけれど、一人で色々考えるのが好きな人間が結構いた。
 一人で考えていて、思い浮かんだ事、それを誰かに知ってもらいたくって、俺に話してくる人間もいた。
 そんな関係を、なんと呼んだらいいのだろう。
 恋人では決してない。
 愛人でもない。
 セックスフレンドとも何となく違う。

 ありふれた言葉で言い表すのなら、やはり、友人になってしまうのだろうか。
 他人がどう見ようともかまわない。
 俺と、その人達との関係は何となく複雑なのだ。
 もちろん、恋人ではないから、俺にも、相手にも、他にセックスをする相手がいるのは承知していたし、それで構わないと思っていた。
 別の相手を引き連れながら、店に来て、他の人間と会う。
 それでも気不味(きまず)くなる事はなかった。
 そこはやはり友達なのだろうか。
 その人の友達と、また友達になる事もあった。

 その場合は、セックスが必ずしも介在するケースはない。
 そうやって、俺の交友関係は広まっていった。
 バーを開く際も、そういった友人達にその件は伝えてあった。
 だから、店の売り上げに貢献してくれている人もいる。
 俺が、たまに店に出かけると、そこで、友人に出会う場合もあった。
 店のマスターもその内の一人なのだが、店に通ってきてくれて、店のことを褒めてもらうと嬉しかった。
 マスターも、店に通ってくる客と打ち解けていた。
 俺と言う一人の人間を通して、様々な人間が集まってくる。
 友人の中にはやっぱり本気で恋人を作ろうとしている人もいて、そういう話なんかも、色々聞かされた。
 そうして、恋人が出来てしまうと、何故か、俺に紹介に来るのだ。

 それまでセックスまでしていた相手に紹介なんて普通出来るのか疑問だったが、何故か、そういう事は意に介さないらしかった。
 そしてまた、その人の恋人になった人とも今度は本当に純粋なる友人として話をする事もあった。
 社会で生きていれば、何かしら悩みはつきものだ。
 それを一人で抱え込む人もいるし、打ち明けられる人がいるのなら、相談する場合もある。
 恋人として付き合っていても、恋人だからこそ打ち明けられない悩みだって出てくる。
 人はそれぞれ魅力を持っていると思うし、その魅力を見つけてあげることによって、その人がさらに輝く事が出来る。

 どんな些細な魅力でもいい。
 それは、自分自身では中々気付く事が出来なくって、他人と接して初めて他人によって発掘される事もままある。
 俺が多分、色々な人と交われているのも、それまで出会った人たちが、俺を輝かせてくれているからだろう。
 だって、自分には何故、そんなに、自分のところに人が集まってくるか、全然わからないもの。

 俺は、嘗て、人の嫌な部分だけを見て忌み嫌っていた。
 今だって、全ての人に、好意的に接しられるかというとそうではない。
 そんな負の感情にまみれて、自分が嫌になる事もある。
 けれど俺を受け入れてくれる場所があって、そういう人達がいて、それならば、俺も、その人達の魅力を見つけてあげたいし、その魅力を好きになってあげたい。
 己では蔑んでしまう部分だって、魅力に変わるんだって事。
 その事に気付かせてあげたい。
 それを全部ひっくるめて、その人自身なんだって事。

 俺は、そいつに出会って、ああいう別れ方をして、生きるという事を学んだ。
 実際、今の職業では、死体を相手にする事が多いので、そこでまた、生きる事の重要性を学んだ。
 そうしなかったら、俺は、多分、そいつのようになっていたかもしれない。
 嘗て、誰にも愛される事のなかった俺。
 そんな生に執着する事なんか考えられなかった。

 だけど、今は違う。
 沢山の死に触れて、だからこそ生きているんだと思える。

 宝石商の友人が、『なんで、そんなイミテーションのピアスをしてるの? 貴方なら、本物だって手に入れられるのに』と尋ねられたけど、やっぱり、このピアスは俺にとって重要なのだ。
 確かに、イミテーションかもしれないけれど、俺には本物の宝石より価値があるものなんだ。
「ぱっと見には、貴方がしていると、イミテーションには見えないよね。」

 それを、本物以上に輝かせて見せる。
 沢山の魅力溢れた人間に囲まれて、俺は生きている。
 そうして輝いていると信じている。

 それはいつまでも色あせる事のない宝石。
 どれだけ歳をとっても、人は魅力的に生きられるのだ。


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あるバーのシリーズ(終)

『別』とは対になってます。
********************************

 ごめんとしか言えない。
 それ以上の言葉が思い浮かばない。
 何度も何度も謝りたくってそれも出来なくって。
 お前は俺に沢山のものを与えてくれたと思う。
 俺が知らなかったもの。

 最初に声を掛けた時は本当に気軽に声を掛けたつもりだったけれど、抱いてもらって、その優しさに涙が出そうになった。
 俺の連絡先を教えたけれど、連絡がなかったらなかったでそれはそれで良かったと思ってたんだ。
 けれどお前は俺に連絡をくれた。
 それで一緒に住むようになった。
 付き合っていても、それに落ち着けなくって浮気を繰り返す俺。
 今までの奴は、そんな俺に怒って離れていった。

 だけどお前は違ったね。
 違ったのはわかったんだ。
 でも、俺は浮気を止める事が出来なかった。
 お前はそれを知っていて咎める事もなかった。
 俺とお前は親に捨てられた子供。
 親に愛される事がなかった子供。
 愛を知らずに育った子供。

 生きる事すら苦痛で、食事をするのもどうでもよくって、バイトをするのもどうでもよくって。
 ただ何となく、金がないと生きていけないから、バイトをして生活していた。
 腹が減っても食べ物がないんならないでしょうがないって思って、何も食べずにいた。
 だけど、お前と会って変わった。

 お前はきちんと料理を作ってくれたね。
 食事なんて興味なかった俺だけど、美味しいと思ったよ。
 口に出しては言えなかったけれど。
 何で、お前はそんなに料理出来るの?

 不思議だった。

 俺達は二人とも生きる事なんかに興味ないんだと思っていた。
 それはそれで間違いだったとは思わないよ。
 それでも、お前は生活しようとしていた。
 俺と一緒に。
 お前に抱かれていると、すっごい幸せな気分になれたよ。
 愛されてると初めて思えたし、俺もそんなお前を愛しているんだと思った。

 そんな風にお前を愛したけど、やっぱり怖くなっちゃうんだ。
 お前の愛を疑っていた訳ではない。
 それでも、確かめずにはいられない。
 俺は不安で不安で仕方なかったんだ。
 俺が生きている事が。

 だからお前以外オトコのカラダを求めた。
 誰かを抱いていても抱かれていても、その飢えが癒される事はなかった。
 すればするほど、余計に飢えを感じさせられて、ひたすら求める事しか出来なくなっていた。
 俺が、そんな風に他人とセックスをして、トラブルを起こしても、お前は冷静に対処していたよね。

 俺から離れても行かなかったし、俺の帰りを待っていてくれた。
 俺の帰れる場所がそこにはあったんだ。
 飢えて、飢えてそれでも満たされず、お前のところへ帰って抱かれて、癒される。
 俺を抱きしめてくれるカラダが温かかった。
 その分、その温もりを失うのが怖かった。

 俺には何も出来ないから。
 何をしたらいいのかわからないから。
 四六時中、一緒にいられる訳がない。
 それは俺もわかっていたし、俺もそれを望んでいなかった。
 それを望まれたら息が出来なくなって窒息してしまうそうで逃げていただろう。
 だから、そうやって、俺の事を縛らないお前が好きだった。
 俺だって、お前の事を縛る事なんか出来ないし、生活していく為にはしかたがなかったんだ。

 お前には大学があり、その友人があり、バイトがある。
 俺にも、バンドがあり、その仲間があり、バイトがあった。

 決定的に違ったのはお前は未来を見ていたという事。
 俺には刹那的な今しか見えなくってそれだけに足掻いていた事。
 俺は、いつもいつも先の事が見えなかった。

 『今を生きる事が大切なんだよ。』とお前は言うかもしれないけれど、その『今』でさえ、どんどん危うくなっていった。

 不安。
 不安。
 不安。

 そして、

 恐怖。
 恐怖。
 恐怖。

 どん底で生きて、這い上がる事なんか出来なくて。
 愛されれば愛される程、愛すれば愛する程、俺は崖っぷちに立たされているような気になった。
 何で?
 その時は確かに幸せなのに。
 お前がいてくれてこんなにも愛おしいと思うのに。

 それを壊そうとしているのは俺。
 いつか壊れてしまうものなら、いっそ自らの手で壊してしまおうと。
 そうする事で何とか恐怖から逃れようとして。

 お前が悪かった訳じゃない。
 悪かったのは俺。
 お前は、そんな俺を許してしまうだろうけど、俺自身が許せなくなった。

 そんな俺はついに歌を歌えなくなった。
 バンドのメンバーに別れを言った。
 随分、あっさりと別れてくれたものだ。

 俺はやっぱり必要じゃなかったの?
 俺じゃなくても別に良かったんだよね。
 そんな事を確認出来てすっきりした。

 お前にとって俺はどうなの?

 怖くて聞けるはずもない。
 俺にとって、お前は唯一の存在なのに。
 生きてきた中で唯一、愛し、家族だと思えた。
 一緒に生活して、これが、家族なんだって。

 お前が、どうでもいい奴と数年に渡って一緒に生活出来る奴だとは思わないよ。
 お前も俺を愛してくれたんだって思うよ。

 けれど、俺はもうそろそろ限界なんだ。
 卑怯な奴だよね、俺って。
 わかってるんだ、それは。

 お前なら、俺を看取ってくれるのではないかと思っているから。
 どうせなら、別れて一人で勝手に死ね、と思うだろ?
 死ぬ時は誰だって一人だ。
 俺も甘いよな、考え方が。
 でも、甘えたくなってしまうんだ。

 許してくれとは言えない。
 言えるはずもない。

 なあ、お前なら、こんな終わりをなんとなく想像してたんじゃないか?
 始まった時から既に終わりは見えていたんだ。
 そんな恋愛だってあるさ。
 俺が愛した唯一の人。
 最初の最後で愛を知れて良かったよ。
 お前と会わなければ愛さえ知らずに死んでいっただろう。

 けれどもう終わらせる。
 俺の全てを。
 さよならは言わないよ。
 遺書なんか書く気もない。
 何を書いたらいいかわからない。

 お前を残して、俺は死ぬんだ。
 残酷な奴だと罵ってくれ。

 ああ、でも、お前が、そんな事出来ない奴だとわかっているんだ。
 全ては俺の甘さ故だ。

 俺は、風呂桶に湯を張り、そこで思いっきり強く剃刀で手首を切った。
 お前が帰って来るまで、まだ時間はある。
 それまで誰も見つける事はないだろう。

 思い出が巡る。

 俺は間もなく完全な闇に包まれるだろう。


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あるバーのシリーズ(嘘)

 無事、バーを開店させることができた。
 とりあえずは、マスターの恋人が開店祝いに駆けつけてくれると言うので、そこは野暮(やぼ)ったい事はせずに開店時刻より結構遅れて、でもその日中に何とか、店に駆けつける事が出来た。
 まあ、その日は俺も仕事が立て込んでいて中々駆けつける時間を作れなかったのは事実だ。
 前もって約束しておいた通り、共同出資者となった、その人と、その人の恋人を連れて店へ出向いた。

 店へ入ると、数人客がいた。
 大々的に広告はしていなかったものの、俺が、今日店を開く事は、何人にか告げていた。
 だから、その人達や、その人から聞いた人達が店にやって来てくれているのだろう。
 ありがたい事だった。

「マスター、こんばんわ。」
「あ、こんばんわ。いらしてくださったんですね。なんかまだ、マスターって言われると気恥ずかしいです。」
「そのうちしっくりくるようになりますよ。こちら、僕の古い友人で、この店の共同出資者になってくれている方と、その恋人です。」

 お互い、はじめましてと、挨拶を交わす。

「中々、落ち着いた雰囲気の店ですね。」
「それは、やっぱり、お客さんに落ち着いてゆっくりお酒を堪能してもらいたいから。普段忙しい人でも、ここに来て落ち着いてもらえると嬉しいです。」

 俺自身忙しい。
 だから、店を立ち上げても、そんなに頻繁には通う事が出来ないだろう。
 けれど、ふっとした時、安らげる場所が欲しかった。

 俺は大学で働きながら、その人の仕事に興味があって、法律の勉強も始めていた。
 元々進もうと思っていた道だ。
 参考書を片手にほとんど独学だけれども、勉強していて楽しかった。

 店の経営の方も少し勉強したけれど、所詮素人なので、税金関係は、知り合いの税理士に頼んで やってもらう事にしていた。

 俺たち三人はカウンターに陣取って、それぞれ酒を頼み、マスターに話しかけたりしている。
 その人の恋人は、『恋人』と紹介してもらって嬉しそうだった。
 社会生活をしていて、中々紹介なんて出来るものでもないからな。

「こんなことあんまり話せることじゃないんだけど、僕はゲイだって認められなくって、両親に勧められるまま、まあ、この人だったらやっていけないでもないか、っていう人と結婚したんです。子供もいたんですよ。男の子です。子供自体は嫌いじゃないんです。だから可愛がりましたね。それでもなんででしょう、妻は自分が愛されていないことに気づいていたんでしょうね。好きな人がいるから別れよう、と言われて。僕は、しょうがないな、って感じで別れて。子供は妻が引き取りました。今は、再婚して、その人と上手くやっているから、それで良いなって思えるんです。離婚して、すっと肩の荷が下りたんでしょうね。僕もゲイだって事隠せなくって。この人と付き合うようになって、自分自身は幸せなんだけれど、誰にも、言う事が出来ないでいるんです。純粋に、この人を愛してるって思えるんですけれど、おおっぴらには公表できない。する必要が無い、って言われれば、それまでなんですけど、こうやって、誰かに紹介してもらえるって嬉しいんです。両親には、申し訳ないけれど、それを話さずに隠していることが出来なかったんです。」
「社会的にどう思われていようと、それは関係ないでしょう、貴方は貴方たなんだから。」
「ゲイだってわかってても、私みたいに恋人がいない人はいないですよ。それは、ゲイだからとか、ノンケだから関係ないです。」
「この辺の店にも殆ど来た事ないんです。オトコの人好きになっても、ノンケだったら報われないってわかっているんですけど、ただ、セックスをするだけじゃ嫌でやっぱり精神的な愛を求めるんです。」
「それでも、今の恋人のこと愛しているんでしょう?」
「そうですね。だから、この辺の店に来ても今は、やっぱり正解だったな、と思います。じゃないと付き合えなかったから。」

 本当に純粋に恋愛してセックスしたい人なんだな、と思う。
 その人も、この恋人と付き合うようになって、俺とセックスすることも無くなったし、多分、恋人以外の誰ともしていないんじゃないかな。
 契機(きっかけ)は、どうしても、こういう界隈じゃないと、まず、性癖を受け入れられない。
 俺がいうのもなんだけど、ただ、同じ性癖を持った友達でも、出来るんだけどな、こういう界隈に来ると。
 セックスを介在させる友達、介在させない友達、両方ともいる。

「良いもんですよ、こういうところも。仮面を被って偽らないで過ごせる場所。独りっきりになったり、恋人といたりしてもいいかもしれないですけれど、バーの雰囲気を楽しみたかったら、またこの店にいらしてください。私でよかったら相手になりますよ。」
「ありがとうございます。でも僕、あんまりお酒強くなくって。」
「少量でも気分がよくなれれば、それで良いですよ。ノンアルコールのものもお出し出来ますし。」
「そうですか。ほろ酔い加減でいるのが一番気持ち良いです。若い頃はわからなくって、飲み過ぎる事もありましたが、今は適量がわかりますからね。」

「酒場には酒場特有の雰囲気があります。日常の雑務とは切り離されたところですね。そんな空間を提供出来れば良いと思っています。」
「例え、一人で飲みに来ても、家で一人で飲むのとはまた違った雰囲気になれますよ。たった一人で飲むと閉鎖的ですけど、誰かにお酒を作ってもらう分少し解放されます。」
「一人だけど、独りじゃない、ですか。」
「そうそう、この店が目指すのはそんなところです。」
「だから、私は店を持とうと思った。私は、声を掛けられるのは嫌いじゃないけど、ただ、純粋にお酒を楽しめる場所が欲しかったですからね。この店は、恋人と来たり、待ち合わせしたりしてもいいけど、ナンパは禁止ですから。」
「ナンパ禁止なんですか。」
「ええ。それでも私はニーズがあると思ってますよ。今はそれぞれ、店の特色を持ったところがありますからね。この店のコンセプトをわかってくれて、それを必要としている人が。この店はゲイの人間が多く集まるでしょうけれど、普通のところでも、こういう店はあります。」

「息継ぎが出来る空間が増えた、という事でしょうかね。」
「人間どこか一箇所にいると、息苦しくなってしまう事がありますからね。恋人といて安らげる、って思うかもしれないけれど、この店の出資者としては、飲みたくなったら、一人でも、恋人と一緒でも良いから、またこの店に来てもらえるとありがたいですね。」
「何か僕、恋人と出会えて、貴方達と出会えて、世界が広がった気がします。」
「貴方はさっき、ご両親には申し訳ない、と仰ったけれど、それはそれで良いと思いますよ。貴方も両親の幸せを願っていて、ご両親も貴方の幸せを願ってくれているのなら。」

「隠してきた事は決して間違いではないという事ですか。」
「例え、間違いだって修正出来る場合もあります。」
「修正出来る道があるからこそ、世の中回っていけるんですよ。貴方の元の奥さんだって、修正できたから、今家庭を持っていらっしゃるのでしょう。」
「人は間違いを犯す生き物です。でも、それでも人は生き続ける。」
「後から気付くことが多いですね。ああ、あの時自分は間違っていたんだって。まあ、たまに間違いだと思っても突き進む人はいますが。」

「あれ、それってひょっとして、私の事言ってます?」
「いえいえ、決してそんな事は。」
「まあ、良いけどね。私は今こういう風にしか生きれない。たくさん嘘はつくけど、正直に嘘をついてるから。」
「正直な嘘ってあるんですか。」
「例えをあげるのは難しいけどね、私が私自身、嘘を付こうと思って言っているからね。その点で私は私自身に正直なんですよ。」
「貴方、人を騙すのが上手いですからね。」
「騙す、っていうと、何か人聞きが悪いですね。表現の問題ですよ。甘美な嘘と言ってください。それに、失楽はさせないつもりですよ。」

「貴方には、今も良い夢見させてもらってますよ。この店を持たせてもらって。」
「それは夢じゃない。現実です。これから、良い事ばかりじゃないけど、何とか乗り切っていかなくては。正念場はまだまだ先にありますよ。」
「それは覚悟しているつもりです。私なりにね。」
「恋人といたって、良い時もあれば悪い時もある。悪いからって、じゃあ、別れれば良いかってそれだけの問題じゃない。二人で乗り越えていかなければならない試練もある。」
「まだそれを、実感した事は無いですけど。」
「貴方の気持ちと相手の気持ちを大切にする事ですね。見失ってしまわないように大切にしてください。」

 お互いの気持ちがあっても上手くいかない時もある。
 それは別に今言わなくても良い。
 知らなくて済むことは知らないままでもいいんだ。
 その時の事を恐れていたら何も出来なくなってしまう。
 どうしようもない事実に向き合わされて無力だと感じ、絶望する時が来るかもしれない。

 絶対的な別れ、それは、死。

 いつかはわからないけれど、必ずやって来るもの。
 どんなに愛し合っていたとしても。
 相手の死に絶望して、自ら死を選ぶ人もいるだろう。
 けれど、それを乗り越えて生きる人もまた多くいる。
 出会い、そして別れ。

 出会った時は別れなんか想像しなくとも、人はそれといつも隣り合わせにいる。
 別れを恐れ、自らの殻の中に閉じこもってしまうか。
 その生き方もまた否定は出来ないだろう。
 俺は、恐れているのだろうか、誰かと出会い、そして別れてしまう事を。
 だから、恋愛に深入りしないのだろうか。
 わからない。

 甘美な嘘、それはアルコールに似ている。
 人を一時酔わせ、夢を見せてくれる。

 俺はまだ酔っているのだろう。
 そんな嘘に。
 俺自身が作った嘘の世界に。


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あるバーのシリーズ(輪)

 その人に恋人が出来たと聞いた。
 その人より10歳年下で可愛らしい人だった。
 素直で真っ直ぐな瞳。
 俺もその人もどこか曲がっているところがあるから、そういう人に惹かれたのがわからないでもなかった。
 その人もその人だ。
 俺になんか紹介するんだから。

 その恋人は、紹介されて嬉しそうだった。
 昔からの友人だと紹介された俺。
 きっとその人は上手く隠し通すんだろうな、俺との関係を。
 俺も、上手く隠し通せる自信はある。
 その人も嬉しそうだったな。
 俺と過ごした時とはまた違う笑みを浮かべていた。
 幸せそうな二人を見ていると、こっちまで幸せになれる気がした。

 それはそれでおいておいて、俺には俺の本筋の話しがあった。
 資金面での援助。
 俺がバーを開こうと思っている事、その事を話した。
 その人は快く承諾してくれた。
 正直そのあてがあったから、その人に頼んだのだけれど。

 バーが出来たら寄らせてもらうよ、とも言ってくれた。
 勿論、その人からの資金が全額じゃない。
 俺が張本人だから、それまで稼いでいた金をかなりつぎ込む事になる。
 他に使う当てもないから別に良いのだが。

 俺が第一出資者にならないと意味がない。
 その人はかなり余裕があるから、補填の意味で心強かった。
 後は、人と土地。
 俺はバーを開きたいけれど、自分自身がその職に携わるつもりはなかった。
 あくまでも裏方。

 資金面でのバックアップをして、俺が通える店にするのが理想だった。
 その為に人を探した。
 その界隈の色々な店に行って、バーテンを物色した。
 やはりそれなりに信頼の置ける人物でないと駄目だ。
 バーテンといろいろ話をした。
 世辞に長けている人。
 やはり、社会経験をつんでいる方がいい。

 そんなときに以前からのセックス込みの友人がバイトでバーテンをしている店に出くわした。
 確か普通のサラリーマンだったはずなのに。
 俺が気軽に話しかけたが、バイトの身、そうフランクに客と話せるものではない。
 あくまでも客の一人として俺を扱った。
 元々、良い声をしているな、とは思ったけれど、結構様になっている。

「長いんですか? この店に来て。」
「いえそうでもないです。まだ3ヶ月です。」
「前の会社はどうしたんですか?」
「今、付き合っている彼がいるんですけど、その人と付き合い初めて、会社が嫌になった訳ではないんですけど、この世界の方に興味を持ったので。」
「へえ。彼氏出来たんだ。どれくらいになるのその人付き合って。」

 最後に寝たのはいつだろうか。
 まあ、元々そう頻繁に寝る方でもなかったしな。
 お互い忙しかったし。

「そうですね。大体1年弱になります。」
 1年弱、というと、俺が日本を離れて暫らくしてという事だろう。

「どう? この仕事始めて?」
「僕は元々お酒にあんまり興味なかったんですけど、今の彼が好きで、色々勉強しましたね。それが役に立って仕事を出来ているのが嬉しいです。」
「そういえば、あんまりお酒強くなかったっけ。でも、興味を持ったら楽しくなった?」
「楽しいですね。今は。彼だけじゃなく、客が楽しんでお酒を飲まれているのも嬉しいと思いますし。」

 酒に携わっても、酒に溺れることはない、か。
 客に楽しんでもらう為に酒を作るのは良い態度だ。

「結構勉強してるんだ?」
「そう……ですね。本を読んだり、実際に作って味見をしてみたり。味見程度なら僕にも出来ますし。実験台になってくれているのは、彼です。」
「彼氏、実験台にしちゃってるんだ。」
「あはは。そうですね。でも、彼も嫌じゃないみたいなので。」
「彼氏に褒めてもらうと、余計勉強し甲斐がある?」
「あ、彼だけでなく、客に褒めてもらっても遣り甲斐はありますよ。」
「客、はつけたし?」
「そんな事ないですよ。意地悪ですね。貴方。」
「そう。知らなかった?」
「いや、イイ性格しているのは知ってましたけど。」

「ねえ、自分で店持ちたいとかは思わない?」
「え……それは、理想ですけど、そんなお金もないですし。」
「僕は店を出そうと思っているんだけど、人材を探しているんだ。それで、貴方なら良いんじゃないかな、と思って。」
「僕が……ですか。」
「うん。貴方なら、信頼出来そうだし、お酒も、よく勉強しているみたいだしね。」
「僕なんかまだかけだしですよ。」
「今すぐじゃないよ。色々準備をしなくちゃならないし。物件も今から探さなくちゃいけないしね。考えておいてくれる? また一週間後来るよ。」

 絶対イエスと言わせる自信はある。
 彼だって、まんざらじゃあないだろう。
 人生、いつ機会(チャンス)があるかわからない。
 舞い降りてきた機会(チャンス)を逃す手はない。
 今回を逃したらどうなるか。

 それは俺も同じだ。
 彼を見つけたのだから。
 彼と知り合いで良かったと思いたい。

 俺は忙しい中休日一日を割いて不動産を当たった。
 この界隈で、そう広くはなく、そう目立つでもなく、店の開けるところ。
 実際足を運んでみて、ここなら良いな、という場所をピックアップした。
 それを片手に再び彼の働く店へと出向いた。
 そして、店のコンセプトを話した。
 静かに一人でも飲める店。
 純粋にお酒を楽しめる場所。

「どう? 貴方の腕を試される事になるけど、やってみる価値はあると思うけど。」
「期待されてます? 僕。」
「期待に答えようとは思えるでしょう? だから、勉強もしている。」
「イエスと言うしかなさそうですね。貴方には敵わない。」
「物件はもう見つけてあるんだ。後はどう改築するか。貴方の意見も取り入れるよ。」
「さすが、手が早いですね。」
「褒め言葉として受け取っておくよ。どう? 今度の日曜あたり時間取れない?」
「昼間は大抵空いてますよ。」
「じゃあ、決まり。具体的に話して改築工事に入ろう。デザインは知り合いに頼むつもりだから。」
「なんか、どんどん話が進みそうですね。」
「実際進めるんだよ。デザイナーも忙しい奴だけど、何とか時間作らせるから。だから、貴方も色々考えておいて。」

 話が進む時は一気に進むな。
 勢いに乗るのは悪くはないだろう。

「貴方には色々知り合いがいるんですね。」
「人徳と言ってくれ。」

 そのデザイナーはゲイではない。
 その人を通じて知り合った人だ。
 俺も、その人もゲイだという事は知っている。
 だから、ゲイに対しても寛容な態度だ。

 そうやって人の輪は広がっていく。
 知り合いを通じてまた知り合いに。
 俺は本当に他人と知り合えて良かったと思えている。

 生きているから知り合えるんだよね。
 でもね、死んでしまったそいつの事も思い出すよ。
 不器用で、生きる事すら出来なかった。
 他人を求めても、求める意味がわからなかった。
 それで必死に足掻いていたそいつ。
 右耳に手を当てる。

 ピアスが、揺れた。

 俺は、生きているよ。
 まだ、生きているよ。
 あの日々は確かにあった。
 そいつは、その日々を生きていたんだよ。
 人の輪を知らなかったそいつ。

 俺は、生きてする事が出来た。
 また、墓に報告に行こう。


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